大学院博士課程のキツイ日々……

大学院博士課程の日々は、本当に辛かった。終日研究に明け暮れるが、言うまでもなく給与はない。むしろ学費を納める立場だ。奨学金を借りているので負債も積み重なっていく。しかも卒業研究とは違い「ヘルプ役」という責任の薄いポジションでもない。在籍する研究室次第ではあるが、企業と提携研究を行っているケースでは、実際に企業と一緒に研究をするのだ。吸収できるノウハウの質も量もすさまじいが、ノルマがすごい。
まだ「学生」ではあるものの、のしかかる責任が凄まじく、気楽さは全くない。
ロボットを作成し、実験し、PCを使って解析する。これを毎日やる。動作しないロボットを睨んで

私「何がダメなんだよ!」

と心の中で叫ぶ日々だった。
だって、本当に目の前のロボットが動いてくれないとどうにもならないのだ。
まあ、動いたら動いたで「なぜ動いたのか」も分析する必要があるが。

大学院博士課程は、ロボット作り→実験・解析→教授にこってり絞られる→ロボット作りの毎日であり、まあ本当に心の休まる暇が全然なかった。

私は大学受験で一浪したので、ストレートで進んでも博士課程完了が28歳、修士課程完了が25歳になる。28歳までずっと「学生」という立場なのである。しかも博士号を取得できることも就職できることも約束されていない。考えれば考えるほど気が重かった。先ほども言ったが「三十路・職歴なし」になってしまうと本当にマズいと思っていた。

話は突然変わるが博士課程のとき同級会があった。まあ正直全然異性を関わる機会がなかったので、忙しかったが下心を全開にして出席した。結論から言えば、行かないほうが良かった……。大人しくロボットとにらめっこしていればよかったのである。

元クラスメイト(女)「まだ学生なの?」
元クラスメイト(女)「早く自立しなよ」
元クラスメイト(女)「モラトリアムってやつ?」

博士課程の頃には、奨学金を使いつつ生活費も学費も100パーセント自分でなんとかしていたので、こいつらの言うことは完全に間違っている。というか世間一般的に見てもここまで失礼な奴らはなかなかいないとは思うが。

ただまあ、世間的には「学生」とはこのようなものなのだろう。

モラトリアムとかそういう問題ではない。スムーズに進んでも卒業が28歳で、そこから就職するのもかなり難しいのだ。正直「自立」うんぬんを考えている暇もない。同級会では、「なんか変なヤツ」という扱いを受けた。というかここまで酷い扱いを受けるとは思ってもみなかった。

ただ、大学院の仲間とはそういうキツさを共有することになるので、親友とも言うべき関係性になる場合が大半だ。私のケースでは一緒の研究室に在籍していたO君がそうだった。
O君に話を聞いたところ「僕も同窓会になんて絶対に参加しないよ」とのことである。同窓会に出席するべきかどうかO君と相談しておけばよかったのかもしれない……。

話はさかのぼり、卒業研究がスタートした大学4年のときにO君が私に告げた。

O「僕は大学の教授になりたい」
私「え、俺も一緒だよ!」

ここからすぐ仲良くなった。一緒の研究室で7年も時を過ごすことになるのだが、そのときはそんなことは全く予想できなかった。だが、一緒の大学院に入って、研究室も一緒になった。博士課程のロボット作りは実に辛かったが、それでも二人で将来のことを話していると少しは気持ちが明るくなった。

私「この毎日はいつ終わるのかね……」
O「いやあ、でもね。もし女子大の教授になれたら、めっちゃモテるらしいよ」

などなど。
昔も今もこの分野に携わっている女性はあまりいない。大学院博士課程の段階までくれば、本当に女性は貴重な存在になる。終日研究をして神経をすり減らしていると、清掃員の60歳くらいのおばあ様にキュンとくる場合さえあった。キュンときたところで当然何もしないので問題ないが、人間ではないロボットにキュンときたときは本当に自分自身がおかしくなったような気がした……。まあ私は、冷静に考えれば「同窓会はヤバい!」と分かるはずなのに欲望だけで飛び込むような人格なのだから仕方がない。

O「なんかロボットに乗り込んで街に繰り出さない?そういうの女の子にモテるかもよ?」

もはや意味が分からないが、実際に行動するわけではないから問題はない。

私「というか、ロボット作りのノウハウを活かして、人間の女の子と見分けがつかないくらいのロボットとか作れないのかね?」

今考えると本当にどうしようもないが、極限状態で研究し続けて異性とほとんど関わらないとなると、人間はここまでおかしくなるのだ。まあ、私とO君の定番の妄想は

「将来は女子大で働こう!」

であり、二人でこれを唱えるとなんとか元気になれたのだ。

あと、毎日毎日ロボットを相手にしていると、それ以外の時間はロボットを視界に入れるのもイヤになってくる。あれだけガンプラやスパロボマニアだった私も、帰宅するとできるだけロボットを見なくて済むように工夫していたくらいである。
クタクタになって帰宅して、TVの電源をつけてロボ系のアニメや研究番組なんかが流れていると、

「やめて……」

と呟いてチャンネルを回していた。
たまに気が向いてガンプラ制作をしていても、

「あ、なんか研究のことを思い出してきた……キツイ……」ということで、すぐに投げだしていた。
まあ、本当に私だけではないと思うが博士課程の毎日というのは、神経をすり減らしやすいし分かりやすい「結果」もあまり見えてこないので、非常に辛いのである。