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2014.05.06
いまこそセーフティ・システム・インテグレーションの啓蒙普及を
―安全柵設置条件の見直し、これに伴う課題を考える

  本記事は、「平成25年度 ロボット産業・技術の振興に関する調査研究報告書」(日本機械工業連合会まとめ)に寄稿した記事をもとに、ロボナブル編集部を加えてまとめました。なお、ロボナブル編集部は、10月15~17日開催の「Japan Robot Week 2014」にて、「セーフティ・システム・インテグレーション」をテーマに、技術セミナーの開催を予定しています。
 
労働安全衛生規則の改定(「80W規制」の見直し)と課題
  2013年12月24日、『産業用ロボットに係る労働安全衛生規則第150条の4の施行通達の一部改正』の通知がなされた。同年6月14日に閣議決定された規制改革実施計画ならびに近年の安全性確保にかかる技術レベルの実情を踏まえたものである。日本国内では労働安全衛生規則が適用(優先)されるがゆえ、産業用ロボットを安全柵などを用いて人(作業者)と分離して使用する必要があり、作業者との共存・協調作業が認められなかった(ただし定格出力80W以下は除外(*1))。
 かたや、産業用ロボットの国際規格ISO 10218-1:2011およびISO 10218-2:2011では、①ロボットの停止監視、②ハンドガイドによる操作(図1)、③人とロボット間の相対距離・速度監視、④ロボットの力制限の条件下では、人とロボットの共存・協調作業を認めており、今回の改正は国際規格に整合する。同時に、長らく問題視されてきた労働安全衛生規則と国際規格との差異の解消にもつながるといえよう。
 
*1:労働安全衛生法 第36条 第31号では「但し定格出力(駆動用原動機を二以上有する者にあっては、それぞれの定格出力のうち最大のもの)が80ワット以下の駆動用原動機を有する機械は除く」と規定されている。
 
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図1 ハンドガイド装置によるロボットの操作の一例。自動車のインパネの組付け作業の支援に向け、IHIが開発しているシステム。ロボットによる自動作業と作業者との協調作業に切り換えて作業することが可能。ハンドガイド装置にはイネーブルスイッチと力覚センサを用いた操作卓を搭載しており、イネーブルスイッチを押しながら操作卓に力を加えることでロボットを操作する。協調作業時は速度制限内でロボットを動作させる。
 
 ただ、今回の改正で懸念されるのは、産業用ロボットメーカー(システムインテグレータを含む)およびロボットユーザーがリスクアセスメントにもとづく適切な安全対策を講じることや、国際安全規格に準じた安全対策(ISO 12100:2010にもとづく3ステップメソッドなど、図2)を講じることを求めている(*2)にもかかわらず、中小システムインテグレータならびに(自動車および電機メーカー以外の)中小ユーザー企業の知識レベルが低いままであることである。
 
*2:改正・労働安全衛生規則第150条の4では、リスクアセスメントにもとづく3ステップメソッドの実施を強く求めていることが伺える。具体的には、保護方策および付加保護による対策(2ステップ)として、「さく又は囲いを設ける等」の「等」として、「産業用ロボットの稼働範囲に労働者が接近したことを検知し、検知後直ちに産業用ロボットの作動を停止させ、かつ、再起動の操作をしなければ当該産業用ロボットが作動しない機能を有する光線式安全装置、超音波センサー等を利用した安全装置、安全マット(マットスイッチ)等を備えること。」を明記。また、使用上の情報による対策(3ステップ)として「産業用ロボットの可動範囲の外側にロープ、鎖等を張り、見やすい位置に「運転中立入禁止」の表示を行い、かつ、労働者にその趣旨の徹底を図ること。」「マイク等で警告を発すること等により産業用ロボットの可動範囲に労働者を立ち入らせないようにすること。」を3ステップ(使用上の情報による対策)として明記している。
 
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図2 リスクアセスメントと3ステップメソッド(左)と、3ステップメソッドの概要(右)
 
 これに関連する資料として、『設備の安全確保におけるシステムインテグレータの役割に関する調査』(三菱総合研究所、2011年)を参照すると、「一般的な中小企業では安全基準を有していないことに加え、こうした企業からは安全に関する要求仕様が出てくることはないこと」。また、「中小システムインテグレータはユーザーの仕様を満足するので精一杯で、安全性に関する国際規格を確認していない。要求仕様を満たすのみ」といったことが明らかにされている。結果、(中小)ユーザー企業の要求からシステムインテグレータが設備の安全性確保に妥協を強いられたり(本来は妥協することはあってはならない)、システムインテグレータが未然防止策として安全防護装置をセットアップしていたとしても、中小ユーザー企業がそれを無効化したりする製造現場が数多く見られる。
 
 一方、自動車メーカーは産業用ロボットの運用ノウハウに加え、社内の安全基準にもとづいてリスクアセスメントやVerification(検証)&Validation(妥当性確認)を実施しており、また、大手産業用ロボットメーカーでは、ユーザー企業への安全教育を通じて、残留リスクの引き継ぎを適切に行っている。
 このように、産業用ロボットを含む設備機器の安全に対する取り組みは、企業規模や経営者の考え方に大きく依存しているのが実情である。
 
  参考となるが、厚生労働省 産業基準局が2012年7月に実施した『産業用ロボットの労働災害等に関する実態調査』によると、調査した190事業所において、労働災害に至らなかったものの、労働者が産業用ロボットのマニピュレータに接触しそうになった例が計37件把握されている。そして、産業用ロボットは機体の外部空間を自動的に作動しながらも、その作動方向および順序などが判断できないという特徴が、こうしたヒヤリ・ハットにつながっていると指摘しており、安全対策が必須であることが伺える。
 
セーフティ・システム・インテグレーションの啓蒙
  このような課題解決に向け注目されるのは、日本機械工業連合会が提唱している「セーフティ・システム・インテグレーション」である。システム全体に対してリスクアセスメントを実施することをこう定義しており、さらに説明すると、リスクベースの考え方にもとづき、制御ゾーンと制御ゾーン間のインターフェースで生じる問題を解決し、安全な作業現場を構築することとの説明がなされている。具体的には、システム(全体)リスクアセスメントの実施に加え、リスク低減策(保護方策)の実施、Validation(機能安全における「Vモデル」の実践など)、ドキュメントの整備(技術ファイルや適合性宣言書など)を担う。改正・労働安全衛生規則では、技術仕様書や取扱説明書などの技術ファイルに加え、安全規格の関連規定を満たしたことを宣言する適合宣言書の作成および提示を求めており、実質的にこれらの実施を求められたことになる。
 
 一部システムインテグレータなどでは、セーフティ・システム・インテグレーションを先取りして、社内に「セーフティアセッサ」の資格を持つエンジニアを抱える事業所があるが、このような専門人材は依然として少ない。とりわけ、中小システムインテグレータや中小ユーザー企業では、こうした専門人材の育成および確保は非常に困難であり、場合によっては、これらの代行サービスを担う企業の育成が求められるだろう。少なくとも、今回の改定は、セーフティ・システム・インテグレーションの啓蒙普及ならびに、それによる専門人材の育成を喫緊の課題にしたといえ、関連団体には教育の機会創出に努めてもらいたい(図3)。
 
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図3 北九州市が北九州学術研究都市で開講した「ロボット道場」。地場企業のロボット導入支援を目的に2013年10月に開所したが、今後は、こうした地方機関を活用して中小システムインテグレータならびに中小ユーザー企業に安全技術を指導していくことが求められる。
 
 また人材育成と併せて、安全性確保にかかる妥当な目標設定のための責任区分の明確化および合意にかかる問題を議論し、その仕組みを指導していくことも求められる。
 労働安全衛生規則では、その性格上、ユーザー企業のシステム採用責任者に最終的な安全性確保の責任があるとされるが、上述の通り、中小ユーザー企業におけるこうした人たちは専門知識が不足している。そのために、システム承認が名目的なものとなり、事故防止の責任所在があいまいになりがちである。事故が発生した場合は、システムインテグレータ側のシステム承認者にも責任があることから、双方に責任があるとして、結果、誰も責任をとらないことがまかり通っているのは、その典型である。
 
 ゆえに、中小ユーザー企業においては、安全技術の評価能力を持つ人が安全管理者に助言してシステム承認をさせる、または、上記の通り、助言を担う外部の専門家の支援を受けることで承認の裏付けを担保するといった仕組みの構築と指導が必要であろう。さらにいえば、安易な安全への妥協を防ぐために、ユーザー企業とシステムインテグレータによるValidationにかかるプロセスを、組織的に分けるよう規定(義務化)し、指導することも求められる。
 
 このようなシステム承認にかかる責任区分の明確化と合意にかかる啓発および事例提供は業界団体が担うべきであり、日本ロボット工業会が主体的に取り組まれることを期待する。なお、セーフティ・システム・インテグレーションを提唱する日本機械工業連合会では現在、2014年度内に「同宣言」の提示に向け準備を進めていることを付記しておく。
 
80W規制の正しい捉え方を
  今回の改正において、もう1つ懸念されるのは、一部でロボットの導入促進のための「規制緩和」のごとく吹聴されていることである。
 
 確かに、今回の改正により人とロボットの協調作業が可能となり、従来設備を利用しつつ設置スペースをとらずにロボットを導入できるようになる。中小製造業に加え、産業用ロボットがあまり利用されていない3品業界(食品・医薬品・化粧品)へのロボットの導入につながる可能性が広がるかもしれない。
 しかし、産業用ロボットメーカーによってのビジネスチャンスは、このような導入台数の拡大ではなく、協調作業の実現のために、自社製品(ロボット)に各種セーフティコンポーネントを取り込むことで、安全性確保にかかるソリューションの選択肢の拡大につながることにある(ただし、大前提として人とロボットが協調作業することに価値があるかを精査しなければならない)。これまで軽視されるきらいにあった「セーフティ」を切り口に、ビジネスを拡大できるうえ、わが国が欧米に対し後発にある安全技術を高めていく機会を得たことに大きな意義がある。
 
 また、従来法によるロボットの適用範囲の制限がロボット適用ラインの海外展開を加速しており、今回の改正が製造業の国内回帰につながるとの声も一部であるが、海外展開の判断は投資効果にあり、労働安全衛生法とは直接的には関係ない。正しい見方にもとづいて議論がなされるべきである。
 
 今回の改正を通じてなお、産業用ロボットメーカーならびにシステムインテグレータがユーザー企業に安全なシステムを提供するという本質はなんら変わりない。また、“安全を規制緩和”することはあり得ないことを、産業界全体として十分理解されることを望む。
 
(ロボナブル編集部 今堀崇弘)



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