※本記事は、1月5日と10日に掲載したニュース記事をもとにまとめました。
福島原発事故の発生以来、遠隔地にいながら複雑な作業が行えるロボットシステムの開発に関心が集まっている。これを可能にするコア技術の1つとして「バイラテラル制御」が知られるが、最近になり、新たな制御方式が提案されている。本稿では、大出力用途と手術用途という対極にある2方式を紹介する。
大出力用途に適した力順送型
バイラテラル制御とは、遠隔地にいるロボット(スレーブ)が受けた力を操作者(マスタ)に力提示したり、操作者がマスタに入力した力と同様の力で、スレーブが環境側に力を及ぼしたりできる、双方向で力覚を伝える制御である。「対称型」「力逆送型」「力帰還型」の3方式のバイラテラル制御があるが、いずれも高い操作性を備え、かつ大出力を発揮する用途には適さない。これに向け、マンマシンシナジーエフェクタズの代表取締役を務める立命館大学の金岡克弥チェアプロフェッサーは「力順送型バイラテラル制御」という新たな方式を提案している。
各方式の特徴から簡単に説明しておくと、「対称型」ではマスタとスレーブ双方の変位誤差から、これを修正する方向に駆動力を発揮するように制御を行う。スレーブ側が受けた力(反力)を伝えるための力センサが不要で、かつ比較的安定した系を構成することができる。ただし、システムの慣性力や摩擦力の影響を受けるため操作感が重い(図1-1)。
「力逆送型」はスレーブを位置サーボで構成し、スレーブに配置した力センサで計測した反力をマスタに伝える。スレーブ側の反力がマスタによく伝達されるが、マスタの機構の影響を受けるため、この方式も操作感が重い(図1-2)。そして、「力帰還型」は力逆送型の欠点を補うべく考案された方式で、マスタとスレーブそれぞれに力センサを配置し、マスタにも力サーボ系を構成する(図1-3)。スレーブ側の反力がマスタによく伝達されるうえマスタの操作感が軽い。良好な特性を備えるが、損傷しやすい力センサを配置するため、スレーブのハードウエア構成をロバストにすることができない。
これらに対し、金岡チェアプロフェッサーが提案する「力順送型」では、マスタに力センサを配置し、その入力情報をスレーブ側に投射する構成とする。スレーブには力センサを配置せず、マスタをスレーブとの変位誤差を修正するように駆動する(いわゆる「変位誤差サーボ」)ことでスレーブ側のダイナミクスを伝える(図1-4)。力逆送型と逆の構成となることから力順送型と名付けた。
過酷条件にさらされるスレーブに力センサを配置しないため、スレーブのハードウエア構成をロバストにすることができる。ゆえに、後述する「MMSE(Man-Machine Synergy Effecter、人間機械相乗効果器)」のような大出力アクチュエータの搭載に耐える構成にできる。また、マスタ側のハードウエアの影響を可能な限り消しつつスレーブのダイナミクスを感じられる構成となっているため、高い操作性が得られる(詳細は本節末尾の動画を参照してほしい)。
金岡チェアプロフェッサーは、自身が開発した教育・研究向けロボットキットの応用例として、同制御を実装した試作機を開発している(写真1)。2011年12月の福井大学での集中講義に向け開発したもので、マスタには同大学の川井研究室が開発したミニロボを、スレーブには3つのロボットキット(「MMSEUnits」という)を使用。それぞれ3軸構成となっており、横方向の入力でスレーブの第1軸を、前後方向の入力で第2軸を、手先部の入力で第3軸を操作することができる。また、第1軸と第3軸を500倍に、第2軸を1,000倍にパワー増幅して駆動している。
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写真1 力順送型バイラテラル制御を実装したマスタ・スレーブシステム(写真左)。スレーブは、金岡チェアプロフェッサーが開発したロボットキット「MMSEUnits」3体を用いて製作。マスタには福井大学の川井研究室のミニロボを使用(写真右)
試作機ではマスタには力センサを配置していないため、厳密な意味での力順送型バイラテラル制御のシステム構成となっていない。力センサの代わりに、トルク制御しているモータの制御力を擬似的に入力情報として使用することで、バイラテラル制御を可能にしている。また、マスタのハードウエアのバックラッシなどの影響により高ゲインにできていないため、繊細な感覚を伝えるのは難しい。
しかし急遽、開発した試作機でありながらも、ある程度の感覚でスレーブ側のダイナミクスを伝えることに成功しており、建設現場や危険地所などでの利用が期待されるパワー増幅ロボットシステムへの応用が見込まれる。
金岡チェアプロフェッサーは、「人間のみ、あるいは機械(ロボット)のみでは実現できない機能を、人間とロボットの相乗効果によって実現する効果器」の実現を目指しており、これを「MMSE」と表現している。パワー増幅ロボットシステムを実現する概念であり、フィロソフィーでもある。併せて、人の操作力を増幅する脚部の「パワー増幅制御」と、足関節トルクを操作して自律的にバランスをとる「オートバランス制御」を組み合わせた歩行技術も提案している。昨年2月に、自由民主党の若手議員がTwitter(ツイッター)上で「搭乗型2足歩行ロボット」の開発をつぶやいたことが話題になったが、彼らが注目している技術がこれである。
MMSEでは操作者の身体スキルをパワー増幅したうえでパワー増幅ロボットシステムのダイナミクスに投射することを要求しており、ここで紹介した力順送型バイラテラル制御は、それに合致する制御方法として新たに考案し提案した。
動画 金岡チェアプロフェッサーによる力順送型バイラテラル制御の説明
臓器に触れた感覚を敏感に伝えるABC
慶応大学の大西公平教授は、前述の力順送型とはまったく異なる用途に向け、「Acceleration-based Bilateral Control」型バイラテラル制御を提案している。名前から想像されるように、マスタとスレーブの加速度の差で位置制御を、加速度の和で力制御を行うことにより双方向で、かつ力覚や触覚を伝える(図5)。また、位置情報から得られる加速度とシステムの状態を推定するオブザーバを使用しており、力センサレスで力覚および触覚の伝達を可能にしている。
図5 大西教授が提案しているABC型バイラテラル制御の概要
大西教授らは2010年8月に、同制御を実装することで力覚および触覚を伝達できる内視鏡手術支援ロボット(写真2)を発表し、また、2012年1月には臓器に触れた感覚を伝えるφ2.3mmの小型鉗子システム(写真3)を公開している。臓器のような超柔軟物に直接触れたような感覚を伝えるためには、マスタおよびスレーブのダイナミクスを感じさせないよう機構の「透明性」が要求される。これを重視した結果、ABCを考案し実装した
ABC型では、「再現性」「操作性」「安定性」それぞれを設計できる特徴を備えており、例えば、再現性はスレーブ側で捉える環境のインピーダンスをマスタ側で再現する程度であり、触覚を敏感に伝えることが可能。操作性については、スレーブ側で捉えた反力をそのままマスタ側で感じられる程度であり、システムそのものの硬さを感じない軽い操作感が得られる。従来のバイラテラル制御方式では、外乱の影響を考慮して安定性を確保しようとするとゲインを小さく設定する必要があり、操作感が悪くなるが、こうした問題がない。
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写真2(左):手術支援ロボットの試作機(スレーブの全景)、写真3(右):小型鉗子システム
公開した小型鉗子システムでは再現性を最大で約16倍に増幅しており、例えば肝臓は表面の膜が薄いため慎重な操作が求められるが、膜を貫通した瞬間の触覚を判別することを可能にしている。また、スレーブは長さ1.5mのワイヤで構成されており、体内で柔軟に動かすことができる。身体を傷付けずに手術する経管腔的内視鏡手術(Natural Orifice Translumenal Endoscopic Surgery:NOTES、口や肛門、臍(へそ)などを利用して身体の表面を切らずに手術する手法)の実用化を後押しすると期待される。
なお、NTTでは音声、映像に次ぐコミュニケーション手段として力覚・触覚に注目しており、2009年開催のワイヤレスジャパンでABCを実装した簡易なマスタ・スレーブシステムを出展していた。現在も大西教授らと共同開発を続けており、携帯端末などへの実装により、新たな移動通信サービスにつなげることを目指している。
【参考文献】
[1]金岡克弥,“パワー増幅マスタスレーブシステムのための力順送型バイラテラル制御”,第27回 日本ロボット学会学術講演会,2009.

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