※本記事は、日刊工業新聞に掲載した抄録記事をもとにまとめました。
ロボットビジネス推進協議会とモノづくり日本会議は、「2011国際ロボット展(iREX2011)」の併催事業として「サービスロボットビジネスフォーラム2011(日本ロボット工業会、日刊工業新聞社共催)を開催した。テーマは「サービスロボットが担う未来」。ロボットビジネス推進協議会の会長を務めるパナソニックの桂靖雄が『東日本大震災からの復興 ~医療・福祉現場の再建を支えるサービスロボット~』と題し、基調講演をしたほか、東日本大震災からの復興とロボットテクノロジーの役割について2部構成のパネルディスカッションを実施した。ここでは、それぞれの内容を紹介する。
超高齢者化社会はビジネスチャンスと捉える (パナソニック 桂靖雄氏)
東日本大震災はわが国に大きな損失を与えた。被災者はいまも大変な苦労を重ねている。われわれは震災への対応からいくつかの教訓を学んだ。特に「備える」ことの大切さを痛感させられた。わが国が得意とするロボット技術を生かして、将来への備えをしっかりと見直していかなければならない。
今回の災害で、わが国のロボット開発における課題も明確になった。災害現場で使うロボットは実績のあるものが望まれた。一部のロボット関係者は保有するロボットの活用を早い段階から(各機関に採用を)働きかけた。しかし残念なことに、わが国のロボットは研究開発段階のものがほとんどであり、現場に投入するためには多くの課題をクリアすることが求められ、スムーズに導入できなかった。
福島原発事故(原子炉建屋内の調査では)に対しては、米国製ロボットが真っ先に使われた。日本は1999年の東海村JCO臨界事故を契機に原発点検用のロボット開発が始まったが、原発の安全神話ができるにつれ開発も沙汰やみになり、実用配備に至らなかった。国産ロボットがすぐに活躍できなかった現状を真摯に受け止めなければならない。現在開発中のロボットを迅速に適切に実用化していくことがロボットビジネス推進協議会の責務でもある。
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図 商品化・実用化に着地させることの重要性を説明
若年労働者の避難により人手が少なくなった東北は深刻な問題を抱えている。被災地に限らないが、高齢者や被災者の健康をサポートする病院や介護施設は人手に頼っているのが現状だ。しかし、私は超高齢化社会問題を負の側面よりも大きなビジネスチャンスと捉えたい。超高齢化社会を迎えるわが国は、今回の東日本大震災で未曽有の被害と原発事故を経験した。この逆境の中で災害に強く高齢者が安心して暮らせる街が何より望まれている。この課題に対する解決策の1つがサービスロボットだ。
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図 サービスロボットを活用した復興支援への提案
サービスロボットの実用化を加速するためには、実社会での実証実験が不可欠だと考えている。パナソニックではベッドから車椅子へと変形して移動する「ロボティックベッド」や注射薬払出ロボットシステム、薬剤の自律搬送ロボット「HOSPI(ホスピ)」などを実用化している。当社はグループに松下記念病院があるので実証実験ができた。しかし多くの場合は、複数の部署や機関の合意を形成するだけでも大変なことだ。
政府は復興特区の議論も進めている。働く場所や暮らしのインフラが消えてしまい、被災者は大変不便な避難所生活を送っている。特に高齢者にとっては厳しい環境であり、暮らしの安心や健康が何より重視される。まず、復旧プロセスにおいて被災者の役に立つ医療や福祉、介護分野でロボット技術を組み入れた特区構想を考えるべきだ。ロボット技術を使えば少ないスタッフで施設を運営できる。
将来を先取りしたロボット化モデル病院は地域医療のみならず、地域産業の復興にもつながっていく。超高齢化社会でもあらゆる人が元気で生き生きとした暮らしを営める社会づくりに貢献していきたい。
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図 パナソニックによるロボット特区に向けた提案例
ユーザーと一体となった開発プロの立ち上げを
《パネルディスカッション1:東日本大震災を教訓とした災害対応ロボットのあり方)
《パネリスト》
・東京大学大学院工学系研究科 教授 淺間一氏
・東北大学大学院情報工学研究科 教授(国際レスキューシステム研究機構会長)田所諭氏
・千葉工業大学 未来ロボット技術研究センター 副所長 小柳栄次氏
・原子力研究開発機構 福島支援本部 技術主席兼遠隔操作技術室長 川妻伸二氏
・東京消防庁 町田消防署警防課長(前第八消防方面本部ハイパーレスキュー隊総括隊長)高山幸夫氏
・菊池製作所ものづくりメカトロ研究所長 一柳健氏
《コーディネータ》
・ロボットビジネス推進協議会 幹事 石黒周氏 ※以下、敬称略にて表記
石黒 地震が非常に多く、原発が54基もある日本において、東日本大震災の発災は、日頃は安全で自分だけは災害や事故に巻き込まれないと思っていた考え方を根底から覆した。この事態は国民全員に突きつけられた大きな危機であるが、これを次の日本をつくっていくための機会に変えていかなければならない。そして、ロボットなどの新しい技術を導入した新しい街づくりを進め、技術がきちんと社会実装されていくことによって次の産業を離陸させる機会にしなければならない。
パネルディスカッションでは震災発災直後からロボットがどう関わってきたかを整理し、また、それによって見えてきた課題について議論したい。
淺間 原発災害対応では冷却系の安定化や瓦礫除去、建屋内のマッピング、原発以外では被災者の探索や救出、重作業のパワーアシスト、被災者のメンタルケアなど多岐にわたる部分でロボット技術の活用が求められた。しかし振り返って見ると、わが国のロボット技術がスムーズに導入されたとは言いにくい。ユーザーと一体となった実用機の開発プロジェクトが必要であり、技術開発とそれを維持して災害時に緊急的にシステムを導入できる組織や運用体制が必要だ。
田所 私は1995年の阪神・淡路大震災でひどい目にあった。それをきっかけにロボットで何かできないかと考え、2002年に国際レスキューシステム研究機構(IRS)を発足した。今回は、南三陸や陸前高田などの地域で水中探査ロボットなどを投入した。
原発の収束に向けては、ロボット技術がなければミッションをこなせない。福島は必ず収束し、世界一の原子力の安全技術を持つことになる。これを将来の産業競争力の原動力にしていかなければならない(図)。
小柳 震災後すぐに、NEDOプロで開発した災害対応ロボット「Quince(クインス)」を、福島原発災害に対応できるよう準備を進めてきた。開発課題となったのは無線通信と耐放射線対策であり、3月下旬には無線通信の実験を済ませ、4月中旬には搭載したハードウエア(電子基板やセンサ類)の耐放射線試験を実施し、6月に福島原発に投入した。原発建屋内の映像撮影なども行っているが、いま直面する問題は現場があまりにも情報不足であり、何が必要なのかという声がこちらにまったく伝わってこないことだ。
川妻 今回の震災で保有していたロボットが動かなかった。ご迷惑をおかけし大変申し訳なかった。いざとなったときに誰がロボットを動かすかなどの運用ルールや取り決めがなく、訓練もされていなかった。これまでにプラント遠隔補修ロボットなどを開発し、メンテナンスを繰り返すことで17年間も動いているロボットも有しているのに、その経験が原発災害タイプロボットには反映されていなかった。ロボットの迅速な投入に向け、継続した維持・運用体制を確保しなければならない。
高山 原発事故では、第8方面ハイパーレスキュー隊として3号機原子建屋の使用済み核燃料プールに放水するミッションに成功した。しかし、まだ収束してはいない。被爆してでも頑張っている現場の人がいまでもいることを忘れてはならない。東京消防歌の中に『水と機械と人による三位の粋』という歌詞がある。人と機械が一体となることで仕事ができる。この機械の部分で、公務員と民間がコラボレーションしていいものをつくる機会がなかなかなかった。
一柳 菊池製作所の主力工場は福島県飯舘村にある。ここが原発事故の影響を大きく受けている。現在は一部移転したが、300人がいまでも飯舘村で働き、夜間は避難地域に帰っていく。今後もモノづくりを福島で続け、雇用を創出していくつもりだ。
当社はウオータージェットのカッティングロボットの開発のほか、レスキューロボット「ロボQ」を東京消防庁に納品するなどロボットに深い関わりがある。この技術を活用し、今後は福島でロボットのメンテナンスや運用を手がけていきたい。
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図 東北大学の田所教授は産業競争力懇談会(COCN)にて「災害対応ロボットと運用システムのあり方」の検討に参加しており、そこでの検討内容をいくつか示した。詳細は産業競争力懇談会の「中間報告」を参照してほしい
石黒 今回の経験を糧に、次の一歩を踏み出すのにどうした取り組みが求められるか。
田所 命をかけて現場に作業に当たる人に対し、われわれがつくった機材がいざ現場で動きませんでしたでは済まされない。もう少し途中段階でのユーザーをまず見つけ、少しずつでも使ってもらい、改良していかなければならない。災害対応ロボットも、最初はトライアル&エラーが許される市場で鍛えてもらう必要がある。
高山 極限の現場では隊員の信頼が何より求められる。ロボットに不安を少しでも感じた時点で、現場では使いたくないのが本音だ。使えるものをつくるには現場の意見とつくる側のコラボレーションが何より必要だ。現場の泥臭い意見を参考にしてもらいたい。
淺間 基本的には福島で使えるモノの技術開発を進めていくことになるが、福島でしか使えないモノではなくて、次に発災するかもしれない災害や事故にも活用できることを考えながら開発することが必要だ。そして、技術を維持し運用する組織体制がなければならない。
小柳 実用化技術は100回に1回失敗しても役に立たないと言われる。だから、なかなか大学はモノをつくれない。われわれのロボットは7月26日に3号機原子炉建屋に入り、配管類を動画で記録したり線量マップを作成したりした。それで新たな冷却方法(炉心スプレイ(CS)系による冷却)を実施することができ、9月になってやっと圧力容器の温度が100℃を切った。いまは切実なことを一歩一歩やっていくしかない(詳細はこちら)。
川妻 プラント遠隔補修ロボットは17年間動いているが、開発には当初からプラント関係者が関わってきた。エンドユーザーがイニシアチブを取ったからうまくいったと思っている。使う人が考えた道具が一番役に立つはずだ。
一柳 ロボットは特殊なものではない。様々な機能をうまくまとめたものがロボットであり、形はすぐできる。しかし、役に立つものにするには相当時間がかかる。現場で使ってもらうには、極限状況では最後は人間なんだという考えのもと、ロボットの開発を進めていくことが大事だ。
ロボットで社会を変革する決断を!
(パネルディスカッション2:復興支援でのRT活用に向けた取り組み)
《パネリスト》
・福島県南相馬市 副市長 村田崇氏
・東京大学大学院情報理工学系研究科 教授 佐藤知正氏
・産業技術総合研究所 知能システム研究部門 主任研究員 柴田崇徳氏
・パナソニック ロボット事業推進センター 所長 本田幸夫氏
・本田技術研究所 基礎技術研究センター 主任研究員 伊藤寿弘氏
・セコム 執行役員 IS研究所所長 小松崎常夫氏
《コーディネータ》
・ロボットビジネス推進協議会 幹事 石黒周氏
村田 南相馬市は福島県の浜通りに位置し、市役所は福島原発から約25.5kmの位置にある。津波で沿岸部が被害を受け、原発事故によって避難した人も多く、地域の人口が減少しコミュニティ崩壊の危機にある。人口約7万2,000人のうち現在は、全国各地に3万人が避難している。現在、復興計画をまとめているが、逆境を飛躍に変え、地元産業を再生し新たな活力を創造する経済復興を目指す。市有地をロボット産業のために確保し、災害対応に使う部品などの前線供給基地としても活用する。機械金属製造・加工業は地域の強みの産業であり、地域企業も協力できる。(詳細はこちら)
佐藤 福島県飯舘村に「ふるさとモニタリングシステム」を設置した。飯舘村も計画的避難区域になり、多くの人が避難している。避難が長期にわたる場合は、防犯や精神的な不安、若者が村に戻ってこないという懸念が広がる。操作可能なWebカメラを設置し、町のインフラとしてWebカメラで村を見守ったり見張ったりする。現在5台を設置しているが、もっと増やしてほしいとの要望を受けている。(詳細はこちら)
柴田 震災と被災地における心のケアに向け、セラピーロボット「PARO(パロ)」を活用した。避難所では集団生活や環境の変化などでストレスが非常に大きな問題になっている。高齢者は特にふさぎ込みがちになりやすい。今回も多くの人に喜んでもらえたが、PAROは誰にでもすぐに使えるものではない。自治体への許可の取り方や運用方法をきちんと考えておくことが重要だ。(詳細はこちら)
本田 松下記念病院では365日ロボットが稼働している。人とロボットのバリアフリーを考えたレイアウトやデザインを採用し、人とロボットが共存できるようにした。例えば、南相馬市にロボット技術を使った最先端の病院や介護施設ができれば世界中から人が集まってくる。人の流れができればそこに産業が興る。「家まるごと」「施設まるごと」「町まるごと」のロボット化により豊かな社会の構築に貢献したい。
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図 病院まるごとロボット化による効果と提案例
伊藤 被災地や避難所で高齢者は、いままでの生活様式が変わり、歩かなくなることで脚力が弱くなるなど廃用症候群が問題になっている。そこで「リズム歩行アシスト」システムを高齢者に使ってもらうことを考えている。研究は将来の高齢化社会を見すえ10年前から始めていた。身体的なメリットだけでなく、コミュニケーションの促進などの効果も大きい。
小松崎 警備会社として、まさに本業で今回の大震災に向き合った。緊急時用の専用ヘリコプターで医薬品や食料、飲料を往復して運んだほか、医療チームが現場に入り避難所を回ったりボランティア診療を行ったりした。ロボットに限らずサービスを展開するうえで、「なるほど!」と思ってもらえることを大事にしている。このような「なるほど価値」を高めていくには、利用する人とサービス事業者、先端技術を有する大学や研究機関、企業の三者が連携していくことが大切だ。
石黒 復興とともに次の日本の新しいコミュニティをつくることを考えていかなければならない。今後、東北地域と連携しどうやって復興を進めていけるだろうか。
佐藤 原発対応や人命救助に関わるロボットは、研究開発や指揮系統、運営などを含めた一体的な組織をつくらなければならない。南相馬市は現在たいへん不幸な状況にあるが、これをテコにして原発対応分野における中心地にしていくこともできるはずだ。
柴田 今回、PAROをもっと貸してほしいという声があった。しかしながら、資金面でも運用面でも問題がある。人材育成も含めロボットを使いこなすシステムを現場とコラボレーションしながらつくり、社会としてもコストベネフィット(費用と便益の比較)を考えていかなければならない。
本田 復興に向けて、選択と覚悟のときが来たと考える。日本はロボット技術を使って復興し、世界からリスペクトされる社会をつくる覚悟をしなければならない。ロボットでいまの社会を変えていくという決断をすれば、必ずロボットは広がっていく。日本には世界で勝負できるロボットが揃っている。いまこそ“オールジャパン”で決断しなければならない。
伊藤 わが国には優れたロボット技術があるが、これからはアプリケーションも重要だ。アプリケーションは、みなが正解を求めてしまうと、これまでのロボットと同じように使われないという事態になる。正解よりむしろ「納得解」をどうやってつくっていくかが重要だ。東北でロボットを活用する際も現地の人とともに、みなで納得解をつくっていく場がなければならない。
小松崎 サービスに携わる中で「なるほど価値」は非常に重いと感じている。理解や共感が得られ、「なるほど」と言ってもらえれば、その技術や商品を使ってくれる。「すごい」だけではだめなんだ。アカデミーの世界も、モノづくりもサービスの世界も同じステージに立ち、「なるほど!」と思えるものをつくっていけるよう力を携えていくことが大事だ。
村田 市民からいままでの生活を取り戻したいという声があるが、実際に人に戻って来てもらうには何かを変えなければならない。南相馬市がこれだけ変わるんだという夢を描いて見せていかなければ避難者は戻ってこない。地域の人にみせてあげられる夢は、ロボット技術しかないと感じている。南相馬市をこれからの社会でロボットはどうあるべきかを考えるモデル都市にしたい。(詳細はこちら)
石黒 東日本大震災は日本が生まれ変わるためのきっかけになる。日本は一体となってこの機会を活かし、ロボット技術が新しい社会をつくるためのベースになると位置づけなければならない。ロボットを普及させていく市場はほかにはなく、この問題に特化して進めなければならない。
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