東京電力は7月17日、福島第一原子力発電所の事故収束に向けた工程表の第1段階(ステップ1)を終了した。同月の上旬には、それに向けて複数のロボットを原子炉建屋内に投入し、上層階の環境計測や作業環境の改善に向けた清掃作業など、これまで以上に複雑な用途で利用した。ところが、ミッションが異なるため単純に比較できないとはいえ、ミッション遂行時に国内製ロボットには不具合が生じた。当初より運用実績、すなわち信頼性を重視して投入するロボットが選択されてきたが、今後の開発課題として表層化した。
不具合が生じた事実をどう受け止める
東京電力は7月8日、千葉工業大学と東北大学、国際レスキューシステム研究機構(IRS)が開発した災害対応ロボット「Quince(クインス)」を用いて2号機原子炉建屋内の線量計測およびダスト採取を実施した。線量計測は1~3階にかけて計7個所で実施。1階の非常用扉から北東階段を経由して2階に上昇し、さらに、北西階段を踏破して3階にアクセスして行った。Quinceの移動経路および各地点での線量率は図1の通りである。
またダスト採取は、前方および後方カメラを搭載する支柱部にダストサンプラーをテープで固定し、タイマー設定により2階の補機冷却系の熱交換器まわりと3階の北西階段前の2個所で行った。
図1 7月8日に実施した2号機原子炉建屋内の線量率の測定結果とQuinceが捉えた建屋内の画像(東京電力提供)
予定では、さらに上層階にアクセスするはずだったが、ミッション遂行時に不具合が発生したため3階に上ったところで引き返した。東電側の発表によると、おもに4つの不具合が発生したとしており、1つは階段上での相次ぐスリップと、それに伴う階段上での落下(東電は転倒と表現)。2つ目は片側のクローラのみに発生した動作不良(メインクローラかサブクローラかは不明)。3つ目はツイストペアケーブルによる有線通信の不通。4つ目は同ケーブルの巻き取り機構の動作不良である。
先月紹介したように(記事はこちら)、原子炉建屋地下の汚染水の調査に向け追加装備がなされており、重心位置が著しく高くなっている。ゆえに、走行時に十分な摩擦力が得られず、クローラがスリップするのは当然といえるし、そもそも現在のQuinceのシステム構成とミッションがミスマッチである。そのほかの不具合に関しては原因不明なところが多く、例えばクローラの動作不良は内部温度の上昇が考えられたが、16日に公開した動画からは確認されなかった。
もともとQuinceは熱対策設計に課題を残しており、IRS会長を務める東北大学の田所諭教授自身、これがシステム全体の信頼性を下げる要因の1つになる可能性を認めている(5月26~28日開催の「ロボティクス・メカトロニクス講演会2011(ROBOMEC 2011)」で会場の質問に答えるかたちでコメント)。過負荷時のモータドライバの損傷を回避できるようユーザーインターフェース(UI)に電圧と内部温度を表示する機能を備えており、常時モニタリングできるようにしている。例えば、過負荷がかかりやすい上層階へのアクセス時に、これらが異常上昇しているのをオペレータが見逃したのではとも考えられたが、こうした様子は動画上のUIからは認められなかった。通信の不通についてはノイズが流入したのかもしれないが、これもわからない(現時点では多くの内容がコンフィデンシャル扱いとされており、調査不可能なところが多い)。
東電は千葉工大などと協議しつつ、すでにパッチ(修正プログラム)を当てるといった対策を検討しているとしながらも、7月の半ば時点では、当面はQuinceの運用を見合わせるとしている。
動画1 7月16日に公開された、Quinceによる2号機原子炉建屋内での線量計測の様子(東京電力提供)
現場の即興的な使い方に対応
3号機原子炉格納容器への窒素封入作業に先立ち、1日には米iRobot社の軍用ロボット「Warrior(ウォーリアー)」を用いて建屋内の清掃作業を行っている。床面に堆積した、汚染された埃や砂の除去を目的した作業で、ロボットアームに集塵ノズルをテープで固定し、真空掃除機と接続した約40mのホースを引き回して行った。Warriorと真空掃除機のとの間にはスチールドラム缶を備える大粒子サイクロンと小粒子サイクロンがあり、これらで集塵した埃を回収している(図2)。
翌日、同社の軍用ロボット「PackBot(パックボット)」で線量計測を行ったところ、計測した16個所のうち9個所で線量の低下を確認。中には147mSv/hから100mSv/hへと、6月24日の計測値から47mSv/h低下した個所があった。一定程度の線量の低下が認められたことから、床面への遮蔽板の敷設による作業環境の改善および窒素封入作業につなげている。
図2 7月1日に実施した3号機原子炉建屋1階の清掃作業の概要(東京電力提供)
動画2 7月1日に実施した3号機原子炉建屋1階の清掃作業の様子。後方から進入したPackBotで撮影(東京電力提供)
信頼性の向上につながる技術規格づくりを
今回のQuinceのミッション(*1)については気の毒なところがある。上述の通り建屋地下の汚染水の調査に備え、水位計センサや汚染水の回収ボトルを投下する機構を追加し、同時に、傾斜角の大きい階段を降下できるよう、前方のサブクローラをカウンタウェイト付きプーリに変更したり、後方をロングタイプに刷新したりした。にもかかわらず、上層階での線量計測やダスト採取で利用されたのだから。せめて、ミッションに不要な追加装置を可能な限り取り外すといった対応がなされていれば重心位置を下げることができ、階段上でのスリップを回避できただろう。とはいえ、熱対策設計に課題を抱えることからわかるように研究レベルのシステムであるため、十分な信頼性を備えるためには、もうしばらくの開発期間を要したといえる。
これに対し、清掃作業で活躍したWarriorは、ロボットアームに集塵ノズルをテープで固定して清掃を行うという、なんとも強引な使われ方だったが、“普通に”ミッションをこなした。なんと「頑丈で」「適当で」「おおらかな」ことか(この表現は小林正啓弁護士の表現を拝借した)。
*1:「戦略的先端ロボット要素技術開発プロジェクト」では、QuinceはCBRNE災害時に、消防隊員に代わって現場に進入して状況調査を行うシステムとして開発されており、各種作業機器を搭載して救助支援を行う「UMRS2009」と連携して運用されることが想定されている。日本原子力研究開発機構の川妻伸二氏は、原発災害対応における初期観察活動では、小型・低重心・無線操作の観察型ロボットが、高放射線下での活動では、耐放射線性を有した有線通信ロボットがそれぞれ有効との考えを示しているが、Quinceは明らかに初期観察活動に適したシステム構成であり、川妻氏の考えに従うと、そもそも一連のミッションに対し、明らかにミスマッチな使い方をしていると判断される。
もちろんQuinceとWarriorの開発目的が異なり、仕様も著しく違う。Quinceの本体重量26.4kgに対し、Warriorは約250kgもあり、これだけの重量とパワーを備えるのだから、集塵ノズルを引き回すことぐらい容易(たやす)い(その大きさゆえに、7月6日に実施した窒素封入口の確認作業では作業用の足場などに引っ掛かり、ミッション達成には至らなかった。詳細はこちら)。ゆえに、両者の単純な比較をするつもりはないが、それでもロボットアームに集塵ノズルを固定して使うという、現場作業者の即興的な使い方に耐えられる「頑丈さ」「適当さ」「おおらかさ」、その支えとなっている1つひとつの要素技術の信頼性の高さは学びたい。災害現場は二度として同じ環境はなく、何が発生するのかが不明で、どのような使い方がされるのかもわからないからこそ(*2)、高い信頼性を備えておく方が「使えるロボット」として認められるだろうから。
*2:私見となるが、災害対応ロボットのようなシステムは、これらを扱う現場作業者(レスキュー隊員)が現場や状況に応じて自由自在に扱える、つまり即興的な扱いに耐える頑強なシステム構成の方が、“結果的に”機能すると思われる。わが国の場合、優秀な現場スタッフが多いことを踏まえると、余計にそう思われる。
本稿で取り上げたQuinceは「世界一の踏破性」と国内外から評価を受けている。また、IRS内のレスキューチーム「インターナショナル・レスキュー・システム・ ユニット(IRS-U)」の隊長を務める小田原消防署の真壁賢一氏は「大都市大震災軽減化特別プロジェクト(通称「大大特」)」(2002~2006年度)までは、開発された災害対応ロボットに使えるイメージがあまり持たれなかったが、研究に携わる先生方の努力により、最近の開発成果には、現場で使えるイメージを持てるようになった」と評価する。1つひとつの機能は一定程度のレベルに達していると捉えられる。実用化に向け、研究機関ごとにつくり込みをするフェーズは過ぎたといえるだろうし、また、先に紹介したミッションの内容を踏まえると、今後は信頼性の確保に向けた活動へと進むべきである(*3)。
欧米では軍事(宇宙)などの技術規格が存在し、耐環境性において要素技術ごとに厳しい開発目標や調達基準が提示されている。結果、WarriorとPackBotの信頼性を支える要因の1つになっている。例えば、こうした技術規格づくりに本腰を入れるべきだろう(実は10年以上前から指摘されていたが、一向になされていない)。大大特や2010年度まで取り組まれた「戦略的先端ロボット要素技術開発プロジェクト」の延長線上として、今回、得た知見を生かすというのであれば。
また本来、こうした危機管理に対してこそ国プロが組まれるべきであることを加味すると、余計にそうあるべきであり、これに予算配分がなされてしかるべきである(*4)。
*3:こうした検討を進める前に1つ確認をしておきたいのが、仮に災害対応ロボットが、訓練されたオペレータとともに東日本大震災の被災地に投入したり、福島原発に配備したりすることができたとしても、人命救助のほか、メルトダウンや水素爆発、汚染水の流出などの重大事象の回避に、どの程度寄与できたのか? である。結果は「寄与度はゼロ!」と答えざるを得ないし、本質的な安全性の確保に向けては他のシステムや制度の見直しが担うはずである。実際に災害対応ロボットが寄与したのは遺体の探索や作業員の被曝量の低減などで、これらに重要な価値があるのは確かだが、災害対応ロボットがあれば、あたかも安全性の確保に寄与したかのような論調は避けなければならない。
*4:原発災害対応を含む災害対応ロボット分野は、わが国では欧米のように国策市場として軍事分野が存在せず、市場原理が働かないというロボット研究者の声を受け、「海外製ロボットを導入するという選択肢もあるのでは?」と、ロボット業界以外の方から奨める声が聞かれる。国家財政が逼迫する中で、こうした選択肢が現実味を帯びないよう、ロボット研究者も関連メーカーも施策担当者も奮起しなければならない。
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