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2011.06.14
ときには引き返すという慎重な判断力を求めたい
― クインスの原発建屋地下への投入に向け

※本記事は、6月8日と9日掲載のニュースを大幅に加筆したうえでまとめています。

 千葉工業大学 未来ロボット技術研究センター(fuRo)と東北大学、国際レスキューシステム研究機構は6月8日、福島第一原子力発電所原子炉建屋への投入に向け準備を進めてきた災害対応ロボット「Quince(クインス)」を公開。1~3号機原子炉建屋の地下に貯まった高濃度汚染水の調査に向けたシステム構成とミッションを紹介した。すでに東京電力の「技術導入促進チーム」による評価試験を済ませており、最終調整および確認をした後、16日もしくは17日には福島原発に向けて移送される。

 東京電力側から要求仕様が提示されたのは5月20日で、十分な準備ができたとは言い難い。が、小柳英次 fuRo副所長をはじめとする研究スタッフの努力によりミッションに向けた対応がなされており、あとは東京電力の作業員に慎重に使いこなしてもらい、Quinceの能力を引き出してもらうのみだ(後述するが、遠隔操作式の災害対応ロボットは操縦者と一体となることで機能を発揮するよう設計されており、それがこうした遠隔操作式ロボットの本質である)。

動画1 6月6日にfuRo内で実施した水位計センサの設置訓練。図4に示した、原子炉建屋地下の階段および踊り場とほぼ同様の環境(サイズ)を構築して訓練を行っている

ミッションは水位計センサの投下と汚染水の採取

 現在、福島原発に復旧作業に向け高濃度汚染水の処理が最大の課題となっている。浄化処理システムを効果的に運用するためには、その貯水量と汚染濃度の把握が必須であり、Quinceには建屋地下への水位計センサの投下汚染水の採取というミッションを通じて、これに寄与することが求められている。ミッションの達成に向け、5月9日に公開したシステム構成(3回目の改造)にさらなる改造を行った。

 具体的には、500mのツイストペアケーブルを収納できるケーブルドラムと無線中継器を搭載する「支援Quince(1号機)」に、水位計センサを投下するためのケーブル送り機構や投下を確認するための先端カメラ(魚眼カメラの一種)、採取した汚染水を回収するための容器などを搭載。また、大幅な重量増に伴い重心位置が高くなったことから、サブクローラを刷新した。前方サブクローラの先端プーリに1.2kgのカウンターウエイトを設置し、後方に当たるサブクローラをロングタイプに変更している。(図1)。
 改造したQuinceの重量は、もともとの重量(26.4kg)の2倍に相当する50kg以上になるため、このような変更でも重心位置が高いことに変わりないが、カウンターウエイトの作用で重心位置を前方に移行しつつ、ロングタイプクローラの効果により本体中央で荷重を受けられるようになった。このような重装備ながらも、傾斜角が42度ある建屋地下の階段の昇降を可能にした。またロングタイプのサブクローラは、こちらを前方にして階段を降下した際に効果的に荷重を受けるため、前のめりでの階段からの落下を防止している。これらの効果は、fuRo内に設置した模擬階段による検証で確認を済ませている。

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図1 改造したQuince(1号機、支援Quince)のシステム構成

 また、運用方法についても変更を行った。建屋内用無線機(子機)と建屋外用無線機(親機)とはエアロック(二重扉の内扉)を挟んで無線LAN通信でやり取りをし、親機と操作卓とはツイストペアケーブルで通信を行う。親機は原子炉建屋外に設置し、操作卓は線量が低い敷地内のサービス建屋に設置して、ここから有線による遠隔操作でQuince1号機を操作する(図2)。

 これまでは、ひと足早く投入された米iRobot社の軍用ロボット「PackBot(パックボット)」と同様、互いにモニタリングできるよう2台のQuinceが連携しての運用方法を考えていた。1台のみでミッションを遂行できるという東京電力側の判断によるもので、2台のレーザレンジファインダー(LRF)で3次元計測を行いつつ、放射線量を組み合わせた線量マップを作成する「先行Quince(6号機)」は、当面は待機状態となる。建屋外では無人化施工建機が複数台稼働しており、無線通信のためのリソースの確保が困難という事情もある。
  ただ、Quinceと子機とのツイストペアケーブルは500m、親機と操作卓とのケーブルは200mあり、最大で700m離れたところから操作することができる。タービン建屋内の狭所から操縦を行っていたPackBotよりも安全な個所から操縦が行える。

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図2 原発建屋地下でのミッションに向けたQuinceの運用方法

  ミッションとなる水位計センサの投下と汚染水の採取については、それぞれ分けて実施することになっており、次のような手順で進める。
 水位計センサの投下は、まず2人の作業者がQuinceを二重扉まで運搬し、有線接続による通信状況を確認(図3の【1】)。確認をした後、建屋内の1階の階段付近まで有線による遠隔操作で移動する(図3の【2】)。Quinceの姿勢を前傾させて、前方カメラで階段の踊り場に水がないことを確認した後、ロングタイプのクローラを前方にして階段を降下。汚染水がたまっている手前の踊り場までアクセスする(図3の【3】)。カメラで汚染水の水面を確認することで、降下した段数から水位を推定する。また、踊り場にさしかかるたびに放射線量を計測して線量マップを作成する。

 次に、水位計センサの投下作業へと移行し、踊り場でQuinceの位置を微調整して階段横のスリットすき間から投下準備に入る(図3の【4】と図4)。ケーブルの目印をカメラで確認しながら送り機構により推定した水位まで投下し、水位に対して十分な長さのケーブルを送り出したら、ツイストペアケーブルを巻き取りながらバックの状態で階段を上昇する。1階まで上昇した後、作業員がQuinceから水位計センサおよびケーブルを取り外し、水位計本体に接続して水位および貯水量を確認。二重扉付近までQuinceを移動して撤収すればミッション終了となる。
 原子炉建屋地下は4区画に仕切られていることから、1号機~3号機の建屋内で、すでに投下されている1区画を除いて同様の作業を計11回行う。

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図3 水位計センサの投下手順のイメージ、その1

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図4 水位計センサの投下手順のイメージ、その2。Quinceが昇降する階段および踊り場は非常に狭く、ツイストペアケーブルや水位計センサのケーブルを手すりなどに絡めてしまうばかりか、本体さえも階段に引っかけてしまう危険性が容易に想像される。慎重な操作が要求される 

  汚染水の採取については、同様の方法で階段を降下し、階段の踊り場から汚染水を採取するためのボトルを投下し、採取した後、回収容器に入れて1階まで戻る。作業員が回収容器に封をしてQuinceから取り外し、別機関による分析作業へと回す。ボトルは50ccの汚染水を回収することが可能。底部に鉛を付加することで容器全体の比重(水に対し)を1.05にしており、汚染水の中に沈んで回収できるようにしている。
 なお、fuRo内での試験では、水位計センサの投下ミッションを20分未満で行えたとしている。

ヤバイときは引き返すという判断を

 Quinceをはじめ遠隔操作式の災害対応ロボットは、操縦者と一体となることで100%の機能を発揮する。つまり、操縦者はマスタ、ロボットはスレーブというマスタ・スレーブシステムのような構成となっており、操縦者の操作技量と判断力を伴ってこそ本来の性能を発揮する。

 東京電力の技術導入促進チームは4月下旬からfuRoに出入りし始めたとされるが、今回の改造に向けた要求仕様の提示は5月20日であり、本記事を掲載した6月14日の段階でも、上述のシステム構成での操作訓練は1週間~10日程度と推定される。ただ、ここでの訓練は要求仕様を満足しているか否かを確認・調整しているといえ、実質的な操作訓練は、福島原発に移送した後、5号機建屋で行う数日間のみと推測される。同チームの作業員が必死に操作の習得に努めているのだろうが、これだけでの操作訓練ではQuinceの機能を十分に引き出せるとは考えにくい。しかも、上述のようにPackBot以上の複雑かつ高度なミッションが課せられているうえ、有線による遠隔操作で操作しなければならないなど運用条件も著しく異なる。

 したがって、5号機建屋での操作訓練ではリスク因子の抽出に努めるべきと考える。簡単な例をあげれば、階段上で前のめりでの転倒を引き起こす姿勢状態の把握や、コーナーに引っかけずに旋回運動するための踊り場への進入角(ヨー)などであり、操作訓練を通じて、Quinceの内界センサと外界センサから、このときの定量的なデータが得られる。これをもとに階段上での転倒やスタックなどに至るリスク因子を分析・評価し、実際のミッションの遂行時に、その回避が難しいと判断された場合は、引き返してミッションをやり直したり、次の機会に改めるという行動につなげるべきである。

 このような行動をとった場合、事故収束に向けた工程表に影響が生じるため、文句(この場合、論理的な指摘ではないため「批判」という言葉は使わなかった)をいわれるかもしれないが、Quinceを失うことの方が、われわれ国民の受ける損失ははるかに大きい。同チームには、限られた時間の中で、このような正しい判断を行うための操作訓練に努めてほしいし、われわれ国民はこうした判断に対し「正しい」といえるよう、Quinceのミッションを冷静に見守るようにしておきたい。


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