東京電力は4月17日、福島第一原子力発電所3号機原子炉建屋にロボットを投入し、建屋内の調査を実施した。利用したのは米iRobot社の軍用ロボット「510 PackBot(パックボット)」(動画)。約800m離れた場所からの遠隔操作が可能で、搭載した8自由度アームによりドアの開閉が行える。二重扉になっている内扉を開閉して、建屋内の放射線量や温度を測定したり格納容器の損傷具合や汚染水の溜まり具合などを調査したりした(*1)。翌18日には2号機にも投入し、同様の調査活動に当たった(2号機では蒸気の影響で搭載カメラが曇り、途中で引き返している(*2))。
福島原発へのロボットの投入を巡っては、統合連絡本部内の「リモートコントロール化チーム」で東京大学の淺間一教授らがロボット研究者側と東京電力側とのマッチングを行ってきた。淺間教授は原発建屋内での内部調査には狭隘部での作業に適している国内のロボットを、建屋外の作業には海外のロボットや建機による無人化施工をそれぞれ利用する方向で検討しつつあるとの考えが示されていた。しかし、東京電力は戦地での爆弾処理や偵察用途での実績や、ドアの開閉作業を行えることを確認したことなどを踏まえ、まずはPackBotの投入を決定した。政治的配慮など様々な憶測が飛び交うが、妥当な判断を下したといえる。
東京電力が20日に公開した福島第一原発3号機原子炉建屋内でのPackBotによる調査活動の様子
*1:4月17日の3号機原子炉建屋内での調査では、11時30分~14時と16時~17時30分の2回にわたって実施。翌18日の2号機原子炉建屋内調査は、13時42分~14時33分にかけて実施した。放射線量や温度、酸素濃度などを測定している。
*2:東京大学の淺間教授でも、PackBotの耐放射線レベルは把握できていないという。また、蒸気の影響により搭載カメラが曇ったことで引き返したことについても、事前にそう決定していたかがどうかはわからないという。2号機原子炉建屋内の温度および湿度がかなり高いことを事前に把握していたことは間違いないと思われるが、湿度が98~99%に及ぶことまでは把握できておらず、結果、カメラが曇ってしまったと想像される。
原発への投入に向けた課題
本稿を掲載した4月21日時点では、国内の対災害ロボットは投入に至っていないが、後述するQuinceのさらなる改造が進められていること(*3)や、すでに運用試験がなされていることなどを踏まえると、“状況に応じて”という前提条件がつくものの近く投入される可能性が高い。ただし、ほとんどの国内の対災害ロボットは原発内での作業を想定した仕様になっていないばかりか、運用モデルすら存在しない。クリアしなければならない課題が多い。
*3:Quinceの耐放射線レベルは、4月6日に原発への投入に向け追加装備を発表した時点で20Sv程度を確保したとしている。リモートコントロール化チーム内では、現状のシステム構成でどの程度の被爆に耐えられるのかを理論的・実験的に検証したうえで、故障しないと思われる範囲で運用しようとしている。淺間教授によると、これまでの検討作業を通じて、それなりの長時間動作できることがわかってきたという。
おもなものを挙げると、1つは対災害ロボットの機能とタスクとのマッチングならびに適用環境の把握である。対災害ロボットの多くは情報収集を目的に開発されているが、搭載するセンサ類が異なるため、必然的に収集できる情報が異なる。場合によっては追加装備をして原発建屋内での調査活動(タスク)に耐えるシステム構成に変更しなければならない。また、そのためには原発建屋内での作業空間や瓦礫などの障害物の位置、照明条件などを同時に把握しておかなければならない。
2つ目は、耐放射線対策。放射線の影響で故障すれば復旧作業の障害になる可能性がある。どの程度の被爆により機能不全に陥るかを事前に評価し、アルミ板や鉛板で電子基板を遮蔽すると同時に、放射線量が低い領域からアクセスしたり作業時間を短縮したりするといった運用面での工夫も求められる。
3つ目は、建屋内での通信距離の確保ならびにリソースの競合の回避。原発建屋は放射能漏れがないよう分厚いコンクリート壁でつくられており、本来2km届くはずの無線機を搭載していても建屋内では10mも動かない場合がある。しかも、日本の電波管理規制では10mWという極小な出力でないと電波を発信することができない。無線と有線を組み合わせたハイブリッド通信も検討する必要がある。また、無線通信ではリソースが干渉しないよう周波数を時間によって計画的に割り振ることも考えておかなければならない。
加えて、東京電力の作業員が模擬環境での訓練を通じて、ロボットの遠隔操作に慣れてもらうことも求められる。
福島原発への投入に向け、3月中旬から改造に着手していた国際レスキューシステム研究機構(IRS)と東北大学、千葉工業大学の「Quince(クインス)」では、複数台のQuince(以下ロボット)を使い分け、かつ追加装備をすることで通信距離の増大と電源の確保を図っている。
光ファイバーケーブルと電源供給のためのケーブルリールを追加装備(IRS提供)
具体的には、原発建屋の入り口で中継するロボットには無線機や光メディアコンバータなどを搭載。原発建屋内を探査するロボットには、1台には光ファイバーケーブルリールを、もう1台には電源供給のためのPoE(Power over Ethernet)ケーブルリールを設置。中継ロボットは、八木アンテナにより約2km離れた地点によるオペレータの指令を無線通信で伝送し、探査ロボットはそれぞれのケーブルを敷設しながら原発建屋内を調査する(図1)。通信距離は約200m、PoEケーブルは最大100mを確保した。また、PoEケーブルを搭載するロボットは大容量バッテリーと無線機を搭載する可搬型の中継パレットと接続しており、長時間の稼働を可能にしている(図2)。各ロボットにはPTZカメラのほか、建屋内を探査するロボットは放射線測定プローブと放射線測定器も搭載しており、原発建屋内の放射能レベルなどを計測することができる。
IRSでは、このような追加装備により原発建屋内外の環境計測ならびに、それに位置情報を組み合わせたデータベースを構築することができ、復旧作業の検討に寄与するとしている。なお、耐放射線対策については、JAXAの助言を参考にしつつ、民生機器を鉛板で覆ったレベルに相当する20Sv程度を確保している。
図1 無線通信と光ファイバーケーブルの組み合わせで建屋内での通信を確保(IRS提供)
図2 PoEケーブルによる電源供給で遠隔探査を可能に(IRS提供)
運用実績はいまからつくることを理解しておくべき
原発建屋内の調査作業に先駆け、4月6日から無人化施工による建屋外の瓦礫の除去作業が始まっている。大成建設を中心に清水建設や鹿島などが作業に当たっている。
建機による無人化施工は、長崎県雲仙普賢岳の噴火による被災地の復興支援で稼働するなど、20年以上にもわたる運用実績を積んでいる。また、瓦礫の把持や積載、運搬などの一連の作業はこれまでの作業内容とほぼ同様で、既存システムおよび作業スタッフをほぼそのまま適用することができる。これらがいち早く投入された理由となっている。
これに対し、投入が予定される国内の対災害ロボットは高レベルの放射線量がある中での作業を想定した設計になっていないばかりか、研究レベルのものがほとんど。また、Quinceのようにタスクや適用環境に応じて追加装備や改造、複数ロボットの連携作業の検討、運用試験がなされたものの急遽対応したものであり、いくら入念に検討がなされているとはいえ、製品レベルのような高い信頼性を求めるのは酷である。無人化施工とは運用実績やシステムの信頼性は著しく異なるばかりか、PackBotのような実戦経験もない。これらを押さえたうえで、つまり“いまから運用実績をつくり上げる”という思いのもとに国内の対災害ロボットが投入される事実を、われわれ国民は理解したうえで活動を見守らなければならない。
そして、IRSが目標に掲げる『2050年までに大規模災害の被災現場から被災者を救い出すことができるロボットシステムを完成させる』につながればと思う。
【関連記事】
►【第6報】東電、原発建屋内の調査に米国製ロボを投入、運用実績を重視 (2011/04/17)
►【第5報】原発建家内の作業に向け国内ロボットを近く投入へ (2011/04/15)
►【第4報】福島原発にロボ投入向け検討が本格化、プロジェクトチームが初会合 (2011/04/08)
►【第3報】原発へのロボ投入に向け、統合連絡本部内チームで本日初会合 (2011/04/07)
►IRSなど、原発内での探査活動に向け探査ロボに追加機能を搭載 (2011/04/06)
►【第2報】原発の調査・放射能の計測に探査ロボ活用へ、近く試験を実施 (2011/03/30)
►放射性物質のモニタリングに探査ロボを活用へ、検討が具体化 (2011/03/29)

ビジネスライン














