東日本大震災ならびに福島原発災害の発生以来、災害対応ロボットの開発および配備の必要性が指摘されている。しかしながら、国家財政が逼迫する中で、被災地の復興・復旧や震災被災者および災害被害者への補償が求められており、災害対応ロボットに対し十分な投資がなされるとは考えにくい。今回、経験した復旧活動をもとに災害対応ロボットを含む災害復旧システムおよびソリューションを構築し、海外展開を図ることで経済復興の一助とするぐらいの意気込みで臨まなければならない。
ただ、ここで気になるのが次世代ロボットの輸出の可否である。特に遠隔操作型の災害対応ロボットは軍事転用しやすく、海外展開に当たり何らかのリスクを伴うことが予見される。これにかかる法的な課題について、花水木法律事務所の小林正啓弁護士に聞いた。ロボットに限らず、わが国の法体系が及ぼす国際競争力にも言及してもらっている。
※本稿で使用する次世代ロボットは、すでに海外展開されている「産業用ロボット」以外という広義の意味で使用している。
輸出の可否が不明なことに問題がある
「わが国は輸出規制が厳しいので次世代ロボットを輸出できない―」。
こう考えている方が非常に多い。決して間違いではないが、本質的な問題は、このような先端製品は規制対象として明文化されていないため、輸出できるか否かがわからないこと。結果、多くの企業がこうした状況をリスクと捉え、先端技術を駆使した製品開発および海外展開を躊躇していると想像される。特に、次世代ロボットおよび関連要素技術は軍事転用しやすいことから、そうした状況は開発の障壁になっているだろう。このように、わが国は輸出立国でありながら、法体系が輸出の障害になっていることに大きな問題を感じている。
わが国の輸出規制に関する法令として「外国為替及び外国貿易法」(外為法)がよく知られていると思う。「日本国憲法」では明文化されていないものの輸出の自由が保障されており、外為法でも“原則自由”というスタンスをとっている。そして、具体的な規制対象は「輸出貿易管理令」や「外国為替令」など政省令(政令・省令)に委ねている。
ところが、外為法と政省令との関係性が厄介で、非常に簡単にいうと、政省令ではすべての工業製品をいったん輸出禁止とし、例外許可条件を定めることで輸出可能としている。つまり、外為法では“原則自由・例外許可”、それを受ける政省令は“原則禁止・例外許可”というスタンスをそれぞれとっており、さらに、例外許可条件を政省令・通達で多重に規定されるという非常にわかりにくい構造になっている。
法解釈上の技術力が要求されるのだが、つまるところ、政省令・通達を行う官僚に膨大な認可権限が留保されており、経産官僚のさじ加減ひとつで輸出できるか否かが決まっている。これがわが国の輸出規制の実態である。
では、経産官僚が頭ごなしに認可しないかというと、決してそうではなく、多くの場合、開発・製造した製品に対して輸出許可を与えている。例えば、販売先が国際テロ組織「アルカイダ」のように、よほどのことがない限りは。しかし、製造前の企画・設計段階にある次世代ロボットについて、輸出が許可されるか否かを問い合わせても、明確な回答はないだろう。結果、冒頭のような誤解につながっていると思われる。
|
|
例えば、テムザックは2008年に韓国・知識経済部と韓国進出時に優遇措置を受ける覚書を交わした際、ある省庁から同社の遠隔操作技術の取り扱いおよび海外展開についてクギを刺されたと明かす。写真左は2008年4月にMOUを交わしたときのもの、写真右は、遠隔操作も可能な災害対応ロボット「T-53 援竜」
このような法規制は、憲法違反であるとの指摘も十分ありうるところだ。わが国は平和主義と同時に自由貿易体制をとる国家であり、先に述べたように、経済活動の自由の一環として輸出の自由が憲法上保障されているからである。しかしながら、戦後65年以上にもわたり、このような法制度の下で経済活動を展開しており、いまさら「憲法違反!」などと訴えても致し方ないのである。
遠隔操作式の災害対応ロボは輸出可能か
ここからは、具体的なロボットを例に、外為法の輸出規制の対象になるか、また、何らかの規制対象に盛り込まれることに法解釈上問題がないかを考察してみる。東日本大震災および福島原発災害の発生以来、何かと話題となっている遠隔操作式の(クローラ型)災害対応ロボットを例に検討する。これを取り上げた理由は、レスキュー隊員に代わって危険地所を先行探査したり、建物や瓦礫の中から被災者を見つけ出したりするための技術は、偵察ロボットの技術と類似しており、その気になれば容易に軍事転用できるからである。
|
|
写真は、クローラ型の災害対応ロボットの代表例として掲載した。本文で議論しているような輸出を検討しているわけではない。写真左はQuince(クインス)、写真右はUMRS2009
外為法では「貨物の輸出」(48条)および「技術の提供(役務)」(25条)を規制対象としており、規制の種類として「リスト規制」と、後述する「キャッチオール規制」がある。ロボットに関連する規制対象として明文化されているのは、リスト規制の貨物に当たる原子炉関係のロボット〔輸出貿易管理令別表第1の2の(15)、第1の6の(7)〕ぐらいで、冒頭で述べたように、規制対象として具体的なロボットは明文化されていない。そこで、災害対応ロボットの機能に着目して参照すると、階段など自律的に昇降する機能を有することから、輸出貿易管理令別表第1の1の(7)で規定された「軍用車両」に該当する可能性が否定できない。
ただし、そもそも災害対応ロボットは「車両」に該当するのかと疑問が持たれるが、外為法では「車両」を定義するための規定が存在しない。例えば、道路交通法2条では「車両」の定義規約が設けられており、ここでは人が搭乗することを前提としている。通常、人が搭乗しない災害対応ロボットは、たとえ移動手段にクローラや車輪を利用していたとしても「車両」に該当しないと解釈される余地がある。
また、災害対応ロボットを「ロボット」と解釈する正当性も問題になる。経済産業省では輸出貿易管理令別表1の2(15)の「ロボット」について、ロボットの定義を次のように規定している。
「マニピュレーション機構であって、CP制御又はPTP制御のいずれかによるもののうち(センサーを有するものを含む)、次の全てに該当するものをいう。イ 多機能である。ロ 三次元空間を自由に動くことにより、材料、部品、工具又は特別装置の位置決め又は方位決めが可能である。ハ 閉ループ又は開ループのサーボ装置(ステッピングモーターを組み込んだものを含む)を3以上有する。ニ 教示若しくはプレイバック方法により、又はプログラム可能なロジックコントローラとして用いる電子計算機により、メカニカルな介在なしで、利用者によるプログラム書換えを可能とする機能を有する」
この定義によると、「階段などを自律的に昇降できるロボット」は2次元空間を平面的に移動するだけであり、経産省の解釈上では「ロボット」に該当しない可能性がある。
さらに、上述のような法解釈によりロボットを、規制対象となる「軍用車両」に含めることの正当性についても検討しておく。経産省の解釈によれば、軍用車両とは「装輪又は装軌式の軍用ロボットを含む。但し対人地雷除去機を除く」とされている。法文の厳格解釈を要求する罪刑法定主義の立場からすれば、他の条項では法律上「ロボット」を規制対象としていることからすると単に「軍用車両」と規定している以上、そこにロボットを含まないと解釈する方が正当と考える余地がある。先に述べたように、ロボットの定義が曖昧であればこそなおさらである。
このように、災害対応ロボットは、軍用車両に該当する可能性は低く、かつ軍用車両に含めないと解釈するのが正当と考えられる。実際、国際レスキューシステム研究機構(IRS)が開発した災害対応ロボットなどが米国に自由に持ち込んで、実証実験を行っていることを踏まえても、よほどのことがない限りは、輸出規制の対象になる可能性は高くないと考えられる(軍事レベルにまでつくり込まれていないという理由があると考えられるが)。
ただ、災害対応ロボットをはじめ次世代ロボットを輸出規制の対象にするのであれば本来、立法的に解決を行うとともに明確な定義規定を設けるのが筋であり、経産官僚しか意味が通じないような、法解釈上の技術力が要求される現状は好ましい姿とはいい難い。
なお、先にあげたキャッチオール規制とは、「リスト規制」の対象となっている貨物・技術以外でも、ユーザーや用途から大量破壊兵器の開発などに使われるおそれの有無を見定めることを目的に、貨物や技術の輸出および提供を規制する規定である。貨物については輸出貿易管理令第4条3項が、技術提供については外国為替令17条及び別表の16が定めている。経産省の省令(輸出貨物が核兵器等の開発等のために用いられるおそれがある場合を定める省令)で規定されるものが規制対象となり、また、省令に規定がなくても「その貨物が核兵器等の開発等のために用いられるおそれがあるものとして経済産業大臣から許可の申請をすべき旨の通知を受けたとき」(輸出貿易管理令4条3項ロ)には、輸出に経済産業大臣の許可が求められる。
リスト規制では対象地域の限定がないのに対し、キャッチオール規制では米国や韓国、EU各国ほか計26カ国が対象地域外となっている。
高い輸出障壁を課して国際競争力を弱める国
遠隔操作式の災害対応ロボットが輸出規制の対象になる可能性は低いといえるだろうが、このようなシステムの海外展開はリスクを伴う可能性を否定できない。すでに指摘した通り、国内市場で採算が取れる商品開発であれば、輸出できなくてもリスクは少ないが、海外展開しなければ採算が取れない商品の場合、輸出が可能であることや、輸出許可に要する様々なコストが事前に予測できなければ、企業は、その不確実性をリスクと捉え、商品開発を躊躇せざるを得ないからである。
この問題はロボットや遠隔操作式のシステムに限った話ではない。先に述べた例外許可条件のように、行政府が幾重にも法体系をつくり上げており、それにがんじがらめにされている結果、先端技術を駆使した製品開発や海外展開をしようにもできない状況に追い込まれている。例えるなら、相次ぐ増改築により、ベテランの仲居さんでないとどこに何があるのかがわからない老舗旅館のような状態で、ベテランの仲居さんである担当官僚の協力を仰ぎつつ、立法府が法体系を改革しない限りは、わが国の工業製品の国際競争力を低下させるばかりだ。
また、これは単純に「官対民」という話ではなく、規制を生かして業界内での地位の確保につなげているケースもある。
例えば、わが国の工作機械は軍事転用が可能であることから、そのリスクを低減するために「移設検知装置」を搭載している。移設に伴う機械の振動を検知すると使用できなくする装置で、再稼働するためには、工作機械メーカーの担当者が据え付け先を確認し、問題がなければ解除用パスワードの発行・再入力を行うことが求められる。2000年以降、大手工作機械メーカーが相次いで導入しており、その設置が輸出許可の条件となっている場合がある。
この場合、中小工作機械メーカーは移設検知装置自体のコストに加え、担当者の海外派遣にかかるコストに耐えられないことから、導入することができず、大手工作機械メーカーとの輸出競争に敗れている可能性が否定できない。せっかく高性能な工作機械を開発しても、機械そのものの性能ではないところで競争に敗れてしまい、業界内での序列が決まっている。このようなかたちでの業界内でのランキングの固定は、長期的にはわが国の技術力の低下につながると懸念される。
このように、わが国は「輸出立国」でありながら、高い輸出障壁を自らに課して国際競争力を下げている。次世代ロボットもその1つで、その輸出にはリスクを伴うため、開発はおろか商品企画の立案すらままならない。冒頭で述べたように、ここに大きな問題を感じている。だからこそ、抜本的な法改革がいま求められているのである。
なお、既述の「軍用車両」の定義でなされている「対人地雷除去機」のように、次世代ロボットも個別突破で適用除外にする方法があるのではと指摘される方がいるかもしれないが、ただでさえ複雑な法体系を余計に複雑にするだけであり、有効な方法とは考えられない。 (談)
【参考文献】
1)小林正啓,次世代ロボットと武器輸出規制について(1),花水木法律事務所ブログ,2007.
2)小林正啓,次世代ロボットと武器輸出規制について(2),花水木法律事務所ブログ,2007.
3)小林正啓,次世代ロボットと武器輸出規制について(3),花水木法律事務所ブログ,2007.
4)小林正啓,次世代ロボットと武器輸出規制について(4),花水木法律事務所ブログ,2007.
5)小林正啓,次世代ロボットと武器輸出規制について(5),花水木法律事務所ブログ,2007.
6)小林正啓,移設検知装置について,花水木法律事務所ブログ,2010.
【関連記事】
《トレンドウォッチ》
►「韓国市場への期待は大きい。ただ、国内でのビジネスを第一と考えており複雑な心境でもある・・・」-テムザック 高本陽一社長、韓国知識経済部とのMOUを語る-

ビジネスライン














