生活支援ロボット安全検証センター始動!設立の背景と課題を探る

 産業技術総合研究所日本自動車研究所(JARI)、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は2010年12月27日、茨城県つくば市に新設した「生活支援ロボット安全検証センター」を公開した。2009年度よりスタートした「生活支援ロボット実用化プロジェクト」の安全検証拠点として設立した施設で、参加企業が開発する4タイプの生活支援ロボットを対象に、機械・電気安全および機能安全に関する各種試験を実施し、模擬認証を行う。2013年度末までに各種試験技術の構築や安全認証に必要なデータの蓄積などに取り組み、2015年頃には検証から認証までグローバルに、かつワンストップサービスで行える機関となることを目指している。

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生活支援ロボット安全検証センターの体制図。このような複合的な機能を備える背景には、わが国の認証ビジネスの強化に向けた仮説を検証する役割も担うからでもある。詳細は「PART 2」を参照してほしい。

 プロジェクトでは、参加する開発企業に2015年までに生活支援ロボットの実用化を達成してもらい、2020年までに広く普及してもらうことを計画している。
 厚生労働省 職業安定局の推計(2002年7月)と国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口」(2002年1月)によると、2005年の労働力人口(15~64歳)が6,770万人、高齢者人口(65歳以上)が2,539万人だったのに対し、2025年には前者は6,300万人、後者は3,472万人になると推計されており、1,403万人(前者が-470万人、後者が+933万人)の構造変化が起きると見込まれている(各数値は比留川プロジェクトリーダーの講演資料より引用)(*)。外国人労働者の受け入れなど、いくつか選択肢がある中で「生活支援ロボットの活用をソリューション(解決策)として認めてもらうためには、(社会に定着する時間を見越して)少なくとも5年前の2020年には普及していなければならない」(比留川博久プロジェクトリーダー、産総研 知能システム研究部門長)。

*:「平成22年版高齢社会白書(2009年)」では2005年に対し2025年には高齢者人口が約1,070万人増加すると報告がなされている。

 このように「生活支援ロボットの実用化には締め切りがある」(同)という危機感から計画されたものであり、それを支援できるよう2015年にはパーソナルケアロボットの国際安全規格「ISO 13482」の改訂作業への反映、同センターの事業化、正式認証を目標に掲げている。しかしながら、比留川プロジェクトリーダーが指摘するように、各企業の事業拡大に加え、ISO 13482の改訂作業にかかる人的支援や同センターの運営資金の確保、海外認証機関との相互認証体制の構築といった難題を抱えている。

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12月27日のオープニングシンポジウムで比留川プロジェクトリーダーがあげた課題。

 これらの詳細は「PART 2」で触れるが、こうした考えを踏まえると生活支援ロボットの実用化は、まさに待ったなしの状況を迎えている。そこで、本特集ではプロジェクトの要となる同センター設立の背景と課題について、業界をあげて共有し、生活支援ロボット市場の立ち上げにつなげるべく、これらに言及する。「PART 1」では同センターの試験設備を通じて検証能力を、「PART 2」では設立の背景を、それぞれ紹介する。

 本特集であげる課題に直接取り組むのはプロジェクトに参画する企業や機関であるが、ロボットを普及するためのインフラづくりを目指すことを踏まえると、ロボット産業に関わる者すべてが当事者意識をもって問題提起をしたり意見を述べたりすべきである。本特集が、業界をあげた議論の活性化につながれば幸いである。

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特集コンテンツ一覧

●プロローグ
  :2020年までに普及しないと生活支援ロボは解決策にならない?
PART1:各種試験機は国際優位を確保するための要
  ― 生活支援ロボに特化した試験機を多数設置

PART2:わが国認証ビジネスのモデルケースを担う
  ― 資金および人材確保で支援が必要

  生活支援ロボット安全検証センターは、大きくは「(1)走行試験関連エリア」「(2)対人試験関連エリア」「(3)強度試験関連エリア」「(4)EMC試験関連エリア」の4エリアから構成され(*1)、2010年12月末時点で計17台の試験機(*2)が設置されている。
 各試験機の詳細は後述するが、「生活支援ロボット実用化プロジェクト」の知見を、2015年頃に予定されるパーソナルケアロボットの国際安全規格ISO 13482の改訂作業に盛り込むことを計画しており、「開発した試験機でなければ検証できない数値を盛り込み、国際的な優位性を確保する」(産総研 知能システム研究部門 ディペンダブルシステム研究グループ 大場光太郎グループ長)ことを企図している。そのために独自性の高い試験機を多く揃える。また、生活支援ロボットは速度やサイズ、事故モード(事故事象の様式分類)など他の機器と異なり、かつ違った環境での利用が想定され、十分な安全性を担保するためでもある(*3)

  「PART 1」では公開された試験機を中心に、その概要および検証できる内容を紹介する。公開された設備以外は、12月27日開催のオープニングシンポジウムで配布された冊子をもとにまとめたもので、広く知ってもらう意図から積極的に引用した。また、文末にはトヨタ自動車 パートナーロボット部の高木宗谷理事とパナソニック 生産革新本部 ロボット事業推進センターの本田幸夫所長より「同センターへの期待」と題しコメントされた内容をスライドで紹介しておく。
  試験機については、いくつか開発中のものもあるうえ、追加されるべき機器も存在すると想定される。プロジェクトに対し課題を提示したり要求をしたりする際の参考にしてほしい。

*1:同センターで検証するデータは秘匿性が高く、また、検証時点ではロボット自体も外部公開できないため、ロボットメーカー同士が試験や検証時に鉢合わせにならないよう4エリアに区分している。

*2:各試験および試験器に関しては、試験が必要とされるが、利用できる試験方法や評価基準が既存規格に規定されていない場合と、試験が必要とされ、利用できる試験方法や評価基準が既存規格に規定されているものの改良が必要な場合に絞り込んだうえで検討、開発している。

*3:裏を返せば、海外の認証機関が行える試験機だと同センターの競争力確保につながらない、既存の試験機のみで安全性を担保できるかどうかが不明といった理由によるが、こうした特徴を持つために汎用性に欠け、貸し出しなどにより運営資金を確保しづらいという課題を抱える。詳細は「PART 2」を参照してほしい。

(1)機能安全など検証する走行試験関連エリア

  (1)では、ロボットが人や障害物に衝突する前に停止したり回避したりするかを、すなわち機能による安全性の確保(機能安全)を、試験と記録を通じて検証する。試験の再現性を担う計測装置と、試験するロボットを動作させる場所や環境を整備している。

  (1)で公開された「3次元動作解析装置」と「障害物接近再現装置」は、移動ロボットが周辺の人や物、障害物などと接近した際に適切な検知と対応が行えるかを検証する(動画)。
 前者は、赤外線LED照明一体型高速カメラによりロボットとダミーに付加したマーカを捉え、3次元で動作解析を行う。10m(幅)×10m(奥行き)×2m(高さ)のエリアではcm単位の分解能で、4m×4m×2mのエリアの場合はmm単位の分解能で計測可能。また、同時計測点は70以上で、12km/hの移動体を捕捉することができる。後者は、ダミーの動作を模擬的に再現する装置で、その接近動作に対して移動ロボットが安全に対応できるか否かを、前者のシステムと連携して試験する。

富士重工業のオフィス専用部向け清掃ロボット(移動速度50cm/sec)と綜合警備保障の警備ロボット(30cm/sec)が歩いている人(ダミー、移動速度は30cm/sec、接近時は30度で交差)に接近し、安全な減速と停止、ダミーが通り過ぎた後の安全な移動の再開が行えるかを検証している。

 そのほか「多目的走行性試験路」「傾斜走行性試験路」「環境認識性能試験装置」「ロボット走行状態模擬装置」を備えており、多目的走行性試験路では、各種施設やオフィス空間で多用されるフローリング床とPタイル床、タイルカーペット床の3種類の床面上でのロボットが安全に走行できるかを検証する。想定環境に応じて床面を変更したり、散水装置により滑りやすい環境を創出したりすることもできる。

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 傾斜走行試験路は、ロボットが傾いた床面を安全に走行できるかを検証する設備で、3m(幅)×15m(長さ)の坂道試験路と7m×7mの傾斜試験路から成る。それぞれ個別に最大10度まで傾斜角度を設定することができ、実際にロボットが使用される場所の傾斜が再現できる。また、ロボットの最高速度で傾斜を降りながら急旋回を行うといった試験も実施できる。

 環境認識性能試験装置は、様々な外乱光の下でのセンサ性能を計測することで、確実に環境認識が行えるかを検証するシステム(*4)。外乱光を試験片に照射した状態で、センサによる計測が可能か否かを検証する。外乱光源には人工太陽光として18,000Wのメタルハライドランプ(6万lux(ルクス)以上)を、白熱電球として1,000Wハロゲンランプ(2万lm(ルーメン))を、蛍光灯として40W直管型インバータランプ(3,340lm)を、ストロボ光としてキセノンフラッシュ(100W、周波数0~500Hz)をそれぞれ備える。

*4:外界センサが認識すべき対象のクラスの分類、例えば人および人の部位、静止物体、人以外の移動物体、壁や床面といった検出対象などの分類を行い、それらをセンサの種類に応じて定量化し、かつセンサ単体の性能試験方法および評価指標を策定したうえで試験機を開発している。

 ロボット走行状態模擬装置は、(高速)移動ロボットをシャーシダイナモ台に固定した状態で、走行状態を計測し、かつ傾斜などの走行負荷を模擬できる。設置ピットサイズは2.5m(幅)×2.5m(奥行き)×1m(高さ)。15km/hの速度まで対応し、制動トルクは最大15N・m、加減速度は最大4m/sec。上述の障害物再現装置と組み合わせることで、人や障害物の接近に対する走行動作が安全であるかを試験することもできる。

(2)人への危害を計測する対人試験関連エリア

 衝突後に人に対しどれだけの危害を及ぼすかを計測するために衝突試験や転倒試験を実施するエリア。「衝突安全性試験機」「静的安定性試験装置」「人体ダミーとダミー校正装置」を備える。
 衝突安全性試験機は、ロボットの衝突形態を模擬的に再現するシステムで、例えば、人に模した人体ダミーにロボット衝突させたり、ロボットと壁との間に人体ダミーを挟まれる試験を実施したりして、身体に印加される力や衝撃力を計測する。ロボットやダミー人形の姿勢保持機構を備える牽引台車と牽引装置、荷重計付き衝突用バリアから構成され、衝突用バリアは面全体を34分割することで衝撃力の分布が計測可能。壁に挟まれた際に人体各部が受ける衝撃力(障害値)を推定することができる(動画)。搭乗型ロボットの安全性を検証する場合は、人体ダミーをロボットに乗せた状態で壁に衝突させて試験を行う。

移動作業型ロボットが壁際に立つ子供に衝突したことを想定した試験。6歳児相当の人体ダミーに、6km/hの速度で衝突させている。

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 自動車の衝突基準ではHead Injury Criterion(HIC)値が用いられるが、高速で衝突した場合を想定した値であるため、これに代わるロボット用の評価基準を検討している。ISO 13482の2015年の改訂時には、おそらく盛り込まれる基準および数値になると想定される。

 また、人体ダミーは頭部と頸部、胸部、脚部に衝撃力を検知するセンサを内蔵しており、ダミー校正装置(写真奥)を用いて、部位ごとに衝撃を印可したときの応答特性を検定している。

 静的安定性試験装置は、ロボットを乗せた台を傾斜させることで静的安定性および転倒限界性能を評価する装置。最大積載重量は250kgで、最大傾斜角度は30度。ロボットを転倒させて人体ダミーに与える影響を評価する試験にも利用する。

(3)危害に至る劣化故障を計測する強度試験関連エリア

 機械強度試験などの実施を通じてロボットの機械的な劣化故障を検証し、人への危害につながるか否かを検証するエリア。
 移動作業型および搭乗型ロボットについては電動車椅子の試験方法を参考に、また、装着型ロボットについては、機構的に類似性の高い義足の規格を参考に、それぞれ各種試験機や試験方法を開発している。ゆえに、このエリアで設置された試験機のうち、汎用性が高い「複合環境振動試験機」「衝撃耐久性試験機」「耐荷重試験機「装着型生活支援ロボット強度試験機」を除き、「ベルト型走行耐久試験機」「ドラム型走行耐久性能試験機」「重心移動制御装置」は前者への対応を、「装着型生活支援ロボット耐久試験機」は後者のタイプへの対応を意識したシステムになっている。

 ベルト型走行耐久性能試験機(写真左)は、全方向移動用オムニホイールや、2足や多足歩行型などドラム型走行耐久性能試験機が利用できないロボットの走行耐久性を検証する。ステージサイズは2.5m×1.5m。走行試験速度は最高15km/h。被評価ロボット重量は最大250kg。ドラム型走行耐久試験機(写真右)は車輪移動が可能なロボットを対象にした装置で、走行抵抗に相当負荷をかけられるようになっている。ドラムサイズはφ250×1,200mm。最高回転速度は15km//h。被評価ロボット重量は最大250kg。

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 重心移動制御装置は、トヨタの「Winglet(ウィングレット)」をはじめ倒立2輪機構を採用する移動ロボットを対象にしたシステムで、重心位置が前後左右に移動することで走行性能や制動性能などを客観的に評価する。重心位置を変更する錘の稼働範囲は、前後200mm×左右100mm。

  装着型生活支援ロボット耐久試験機は、人の下肢を模した装置により、長時間一定動作を通じて耐久性を検証するシステムで、ベルト型走行耐久試験機と組み合わせて使用する。試験時は、リンク機構の支持装置に固定することで前後左右への動きを抑制しつつ、装着型ロボットに一定程度の荷重を印可している(動画)。
 装着型生活支援ロボット強度試験機は、構成部材に圧縮などの応力を印可して強度試験を行う装置で、エー・アンド・デイの引張・圧縮試験機「TENNSILION(テンシロン)RTG」を利用している。

 装着型ロボットについては、接触安全性を検証するシステムの開発も進めている。人の運動に伴い膝関節や足首関節の回転中心が移動すると、回転中心が一定のままの装着型ロボットの動きとの間にずれが生じ、接触安全性に影響を及ぼすと想定されるからで、安全規範となる運動条件や筋力耐性を抽出し、それらを評価できるシステムの実現を目指している。

ベルト型走行耐久性能試験機と装着型生活支援ロボット耐久試験機による検証。サイバーダインのロボットスーツ「HAL福祉用」を例に、個人差の影響を受けずに長時間一定動作が行える様子を披露した。

(4)汎用的に活用できるEMC試験関連エリア

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 10m法電波暗室にて、外部からの妨害波(電磁波や静電気放電)によるロボットの耐性(安全性)を計測する放射イミュニティ試験とロボット自身から放射される妨害波の大きさを測る放射エミッション試験を行うエリア。電波暗室のサイズは、25m(横)×15.2(縦)×9.9m(高さ)。電磁界遮断率は110dB以上、電界安定性は0~5dB以内の仕様となっている。ロボットのEMC試験を想定して大型のターンテーブルを備える以外は、汎用的に利用できる試験装置となっている。

 また、人の筋電(生体電位信号)を入力信号とするHALの試験を想定して、無人状態で運転しながら砲車イミュニティ試験が実施できる疑似筋電信号発生装置の開発も進めている。労働安全衛生総合研究所にて、すでに試作機を開発しているという。

生活支援ロボット安全研究センターへの期待

●トヨタ自動車 パートナーロボット部 高木宗谷理事

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●パナソニック 生産革新本部 ロボット事業推進センター 本田幸夫所長

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【参考文献】
[1]産総研など:生活支援ロボット安全検証センター 2010年12月27日オープニングシンポジウム冊子,生活支援ロボット実用化プロジェクト,2010.
[2]藤川,松本,山田,池田:“生活支援ロボットの安全性検証試験方法の開発”,第28回 日本ロボット学会学術講演会予稿集,2010.

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プロローグ
  :2020年までに普及しないと生活支援ロボは解決策にならない?

●PART1:各種試験機は国際優位を確保するための要
  ― 生活支援ロボに特化した試験機を多数設置
PART2:わが国認証ビジネスのモデルケースを担う
  ― 資金および人材確保で支援が必要

 生活支援ロボット安全検証センターの存在は、それによる第三者認証により製造物責任法(PL法)による裁判となった際に、製造業者が免責され得る(裁判で有利に働く)ことの証明となる可能性があり、万一の事故による企業ブランドへのダメージが軽減されると期待される。「生活支援ロボット実用化プロジェクト」に参画する企業の中には、こうした機関や国際規格が存在しないために社内稟議を通せないところがあり、事業化に向けた道が拓かれたことになる。
 直接的には、こうした効果が見込まれるが、検証から認証までワンストップサービスで行える同センターは、わが国の認証ビジネスの強化に向けた仮説検証する重要な役割も担っている。しかしながら、プロローグで触れた通り、資金面などで課題を抱えている。本稿では、ロボット業界全体として共有し、課題解決に向けた具体的な検討につながるよう、それらに言及する。

わが国認証ビジネスのモデルケース

  欧米の認証機関は、規格が未整備な分野でも性能や安全性に踏み込んだ認証活動(「性能・安全性評価」)を展開している。特にEUにおけるCEマーキング制度は性能規定がなされており、その具体的な達成手段に関して認証機関に裁量判断が委ねられているという背景があるからだが、こうした活動は認証機関としてのブランド力や信頼性の構築につながり、さらには、新規分野の認証が行える(任せられる)といった先行者利益にもつながっている。
 これに対し、わが国の認証機関は法令の技術基準やJISなどで規定された要求事項を満たしているか否かを、客観的事実にもとづいて実証する「適合性評価」にとどまっており、結果、認証機関としてのブランド力や情報収集力、規格開発力に相対的に欠けると指摘されている。

 このような状況下で、わが国の認証機関が欧米の認証機関と互していくためには、未開拓の領域で評価技術や試験方法などを国際標準化し、認証スキームとして発信していくことが1つの方策になり得る。国内企業のグローバルな市場展開が可能になるばかりか、認証機関にとって先行者利益の確保につながり、欧米の認証機関との差別化にもつながると考えられるからである。また、どの国や地域で標準が策定されるかにより、認証ビジネスへの影響が生じるというファクトも存在するからでもある。
 未開拓領域の代表格といえる生活支援ロボット(パーソナルケアロボット)に対し、安全性の検証から認証までを担う同センターの設立は、こうした考え(仮説)を実証する役割を背負っており、わが国の認証ビジネスを変革するうえで重要な意味を持つ(*1)。それゆえに、生活支援ロボットの安全性を検証する試験研究機関に加え、安全性認証や標準化提案を行うという複合的な役割を担っている。

 豊富なリソース(人的および資金的)と高いブランド力を備えることで知られる独TUV SUDTUV Rheinland、米Underwriters Laboratories(UL)は、生活支援ロボット(サービスロボット)に高い関心を持ち始めており、例えばTUV SUD(テュフゾードジャパン)は2010年に、国際レスキューシステム研究機構(IRS)と安全工学研究所が主催する「サービスロボット初級安全技術者認定講座」に数名のスタッフを送り込み、この分野の理解に力を入れている。TUV Rheinlandが機能安全認証に力を入れ始めたことで、新分野を開拓する必要性に迫られたことが主因ではあるが、こうした動向を踏まえると、2010年内の設立・公開は意義深いといえる。

*1:また、技術データの漏洩を防ぐという意味もあり、それへの期待も高い。上述のような適合性認証の発展に伴い、評価および認証をグローバルにワンストップサービスとして展開する認証機関が存在し、わが国でもサービスを展開している。認証を受ける過程で提供された技術データなどの機密情報は秘匿されるものの、「認証審査官が記憶していることを踏まえると競合他社に流れている可能性を完全には否定できない」(産総研 ディペンダブルシステム研究グループ 大場光太郎グループ長)。このようなかたちでの国際競争力の低下につながることが懸念されており、それを払拭する観点からも意義深い。

年間1億円程度の赤字を試算

 このような意味も込められての設立だが、運営上いくつかの課題を抱えている。まずは(試験機関としての)資金面での課題である。
 生活支援ロボット実用化プロジェクト(2009~2013年度)の終了後は、試験設備は日本自動車研究所(JARI)が試験設備を所有(購入)し、認証は日本品質保証機構(JQA)が行う予定となっている。三菱総合研究所が取りまとめた「戦略的な認証ビジネスの国際化戦略に関する調査」(2010年3月まとめ)では、同センターの運営コストの概算が示されており、初期投資として試験設備機器に約11億円、施設の建設に約6億円(同プロジェクトより捻出)、運営コストとして年間3億円と見積もっている(内訳は、設備更新のための資金:50%、メンテナンス費用:5%、固定資産税:10%、人件費や光熱費、管理費など:35%)。生活支援ロボット市場が拡大していない中で(*2)、また国際戦略上(国際規格にわが国の試験機を用いないと検証不可能な数値を意図的に盛り込むなど)一部を除き、生活支援ロボットに特化した試験機が多い中で採算性を確保するのは難しい。同調査では試験受託による収益は、数年間は年間2億円程度と見積もっており、資金調達方法を検討することの必要性を指摘している(*3)

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 産総研などは現在、経産省と事業化検討委員会を立ち上げており、自治体および参加企業から支援金を提供してもらい、コンソーシアム形式で運営するといった方策を検討している。「(2010年12月27日の)オープニングセレモニーに茨城県副知事やつくば市長に出席を要請したのは、こうした意図があってのこと」(産総研担当者)としており、前者はサイバーダインの「HAL福祉用」の普及に、後者はモビリティロボットの普及に、それぞれ力を入れており、理解を得られるとの見込みを立てている。これら以外にも、東京・青梅市や千葉県・習志野市など近隣の自治体には生活支援ロボットの産業化に関心の高い地域がある(*4)

  また、10m法電波暗室EMC試験機(写真、再掲)など汎用性が高い試験については、広く試験を受託することで収益の確保につなげることも検討している。

*2:「次世代ロボット実用化(万博)プロジェクト」(2004~05年度)や「サービスロボット市場創出支援事業」(2006~07年度)、「人間支援型ロボット実用化プロジェクト」(2005~07年度)にて各種ロボットの安全性の検証(安全鑑定)に関わった安全工学研究所が、本質安全設計にもとづいて検証したのは、次世代ロボット(サービスロボット)市場が小さく量産効果が期待されない中で、機能安全による安全性の確保は経営リスクを伴うと判断したからである。同プロジェクトでは2015年に実用化し、その後100億円の事業規模にできると思われる開発企業のみが参画している。量産化が見込まれないロボットが安全認証を受けるメリットは乏しい。

*3:同調査では、認証プロセスの実用化を支援する別プロジェクトを立ち上げ、委託事業から資金供給などを検討すべきとの意見も提示されており、こうした形での補助も検討されている。わが国認証ビジネスのモデルケースという役割を担うため、一定程度の支援がなされてしかるべきと考える。また、数年前より同センターの設立を懇願した(安全を理由に上市できないと説明していた企業)ロボット業界も一定程度の負担をしなければならないだろう。

*4:次世代ロボット産業の立ち上げによる地域経済の活性化を企図している地域は多いが、ほとんどが勉強会や研究レベルにとどまる。実用化を前提とした安全検証および認証が依頼されるのはかなり先の話になると予想される。試作機の検証およびコンサルも引き受けるような幅広い運営体制が要求されると思われる。


  次は、認証サービスを展開するうえでの課題である。それには認証審査官の確保および育成は必須であり、2015年までに5名を輩出することを計画している。上述の通り、認証はJQAが担当する計画になっており、プロジェクトではOJTにより人材育成がなされている。JQAは品質マネジメントシステムISO 9000シリーズの普及に先導的な役割を果たしており、同プロジェクトがターゲットにする機能安全規格IEC 61508はプロセス認証が問われることを踏まえると「JQAが得意とする領域と親和性が高い」(産総研担当者)。
 もちろん、OJTは継続的に取り組んで欲しいが、併行して、企業および研究機関出身者などスキルの高い開発経験者などが同センターに流動(移籍)するような仕組みを検討することが求められる(*5)。生活支援ロボットでは、PL(Performance Level)やSIL(System Integrity Level)でのリスク評価や安全性評価を行う力量が要求され、必然的に、このような人材の必要性が増すからである。産官学をあげての検討が求められ、例えば移籍する際に何らかのインセンティブを与えるといったことも必要だろう。

*5:IRSや安全工学研究所が主催する「サービスロボット初級(中級)安全技術者認定講座」や、長岡技術科学大学の専門職大学院「システム安全専攻など既存教育プログラムを活用した仕組みを検討してもよいだろう。

 また、上述の人材確保および育成に密接に関連するが、認証機関としての競争力の確保も求められる。それがなければロボットメーカーからは認証が依頼されないわけで、「CEマークと同等の価値を持つような信頼性を構築してほしい」(トヨタの高木宗谷理事)といった声があがっている。上述の通り、これを狙って同プロジェクトを立ち上げたが、ゼロベースで実績を積み上げていくことになるため、プロジェクト期間内に実施する模擬認証の段階からかなりの信頼性が要求されるだろう。
  産総研などでは、国際認証体制の構築に向け、独TUVや米ULなど海外認証機関との業務提携および相互認証を検討することの必要性をあげているが(WTO/TBT協定では、国際ガイドに従って認定を受けた相手国の認証機関について、技術力が十分であると認められたときは、各国間で相互に相手の実施した適合性評価の結果を認め合う「相互承認」の推進を奨励している)、競争力があってこそ可能になることを踏まえると、なおさらである。

 そのほか認証ビジネスを推進していくうえで、認証を受けることのメリットおよびそのための広報活動にも取り組む必要もある。

当事者意識を持つことが必要

  PART 2では、検証から認証までを行う同センターを設立した背景と課題をあげた。管理・運営する産総研などはすでに理解しており、具体的な検討を始めている。
 「プロローグ」と重複するが、これらの課題に直接取り組むのは同プロジェクトに参画する企業や機関であるが、ロボットを普及するためのインフラづくりを目的とすることを踏まえると、最低限として、ロボット産業に関わる者すべてが当事者意識を持って問題提起をしたり意見を述べたりすべきである。過去の国プロを振り返ると、参画企業や機関に任せきりで、こうした意識が希薄だったように思われる。来年度からは新規参加企業を迎え、新たなステージに移行するからこそ、より有意なプロジェクトへとブラッシュアップできる時間(残り約3年)があるからこそ、業界をあげた議論を活発にしてほしい。

捕 捉

 来年度からは、厚生労働省にて「福祉用具・介護ロボット実用化支援事業」(概算要求額1.7億円)が始まる。介護現場のニーズとのマッチングを図ることを目的としたもので、「試作段階にある高齢者の自立や介護者の負担軽減に資する機器」20件を対象に、理学療法士やエンジニアからなる評価チームにより、高齢者が使用した場合の安全性や適応における問題を検証し、一定の安全性が確保された機器については、介護保険施設などで入所者によるモニター調査を実施する。
 9月には同プロジェクトの検討委員会が開催され、介護福祉関連協会の代表から介護福祉ロボット(パナソニックの「ロボティックベッド」)に対し意見がなされた。介護福祉業界のコンセプトモデルへの理解に欠けるといった要因もあり、かなり厳しい見方が示されたが、人とロボット協調による新たな介護サービス(システム)を検討するうえで参考になるので、参照してほしい(議事録はこちら)。安全性確保を議論する以上に、重要な課題と考える。

【参考文献】
[1]三菱総合研究所:“戦略的な認証ビジネスの国際化戦略に関する調査 調査研究報告書”,平成21年度工業標準化推進事業委託費,社会環境整備・産業競争力強化型規格開発事業(個別産業技術分野に関する標準化),2010.

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プロローグ
  :2020年までに普及しないと生活支援ロボは解決策にならない?

PART1:各種試験機は国際優位を確保するための要
  ― 生活支援ロボに特化した試験機を多数設置

●PART2:わが国認証ビジネスのモデルケースを担う
  ― 資金および人材確保で支援が必要




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