国民の理解と選択を支えに災害対応ロボットは強くなる

※本特集は、過去に掲載した「ロボナブル コラム」をもとにまとめています。一連の災害対応ロボットをめぐる話題に対する小サイトの考えを提示していることを踏まえて参照して下さい。

 東日本大震災ならびに、それに伴う福島原発災害の発生以来、原発災害対応を含め災害対応ロボットへの関心が高まっている。ところが、特に原発災害対応に関しては、運用実績を重視してシステムが選択・投入された結果、戦地などでの活動実績を有する海外製ロボットの活躍が目立ち(目立つ印象が与えられ、写真1)、わが国のロボット業界ならびにロボット研究者への風当たりが強い。これには多くの国民が抱いている『日本はロボット大国』という意識が深く関係しているが、もともとはロボット市場の大半を占める産業用ロボット分野における競争力の高さを形容した表現であり、すべての応用分野で高い競争力(*1)を備えることを意味していない。実際には、事業化までを見据えた災害対応ロボットの開発では、過去10年以上にわたって欧米に後塵を拝しており、こうした選択・投入がなされるのは当然の結果である(*2)

*1:実装する要素技術が共通していても、応用分野ごとにユーザーや使用環境などが異なるため、必然的に構築すべきノウハウも違ってくる。ここにモノづくりの難しさがある。わが国の製造業が各分野で高い競争力を備えるのは、それぞれの課題を克服し、ノウハウを蓄積してきたからであり、災害対応ロボットの実用化に向けても同様の取り組みが求められている。

*2:国際レスキューシステム研究機構の会長を務める東北大学の田所諭教授は、8月4日開催のIEEEによる報道陣向けセミナーにて、そもそもわが国は原発災害に対応できる組織がないばかりか、それに向けたロボットを配備していないため国内製ロボットが利用されるのはおかしいという主旨のコメントをしている。筆者は正しい見方と考えている。

fig.1-1packpod.jpg

fig.1-1bWarrior.jpg

写真1 福島原発災害で活躍した海外製ロボットの一例。米iRobot社の軍用ロボット「PackBot(パックボット)」は原発建屋内の線量計測に活用(上)。同じくiRobot社の「Warrior(ウォーリーアー)」はアーム部に集塵ノズルを付加して高レベルの放射性物質の清掃作業に利用された(下)。後方に映っているのは集塵システムを搭載したトラック

 今後、わが国があらゆる天災・人災に強い、安心できる社会をつくり上げるためには、1つの方策として、制度設計を含め、この分野のテコ入れを図るという選択肢があるだろう。ただし、国民の理解と選択にもとづくものでなければ社会システムとして根付かない。なぜなら、様々な開発プロジェクトが取り組まれたにもかかわらず、刹那的な取り組み(つくって終わり)に終止してしまった原因は、ロボットを活用した防災・減災システムへの理解と選択がなく、危機管理(リスク管理の意が強い)の観点から計画的に開発されてこなかったからと考えるからである。また、そもそも国民が基本的な安全リテラシーを備えていれば、おのずと危機管理の観点から、こうしたシステムへの支持が得られたとも考えている。

 「3.11」以来、約5カ月間にわたり様々なロボットの取り上げ方がなされてきたが、筆者としては違和感をおぼえることがある。「ロボット大国」という安易に言葉が使われているし、原発災害対応ロボットを開発・配備できなかった原因を「原発安全神話(*3)」ばかりに求めるきらいにある。
 筆者の知るファクトにもとづくと、「ロボット大国」は上述の通りである。そもそもロボットの応用分野は多岐にわたり、国情を背景に各国で得手不得手の分野がある。また、原発災害対応ロボットについては、例えば文部科学省が「防災モニタリングロボット」に対し2010年度も予算計上をしていたばかりか、防災訓練で積極的に活用し広報している。文科省のみは「原発安全神話の立場をとっていなかったから・・・」と説明すれば済む話ではないだろうし、やはり、そればかりに原因を求めるのには無理がある。
 さらに「3.11」以来、災害対応ロボットの配備を推進する実用化シナリオの不備が取り上げられるが、10年前から公知されていたことであり、果たしてマスコミ報道は機能していたのかとの疑問が持たれる。

*3:確かに、原発災害対応ロボットの配備を妨げた要因の1つであると認識している。しかし、こうした論調は政府と電力会社(東京電力)ばかりに責任を押し付けるきらいにあり、実用化シナリオの欠如など国家プロジェクトの問題にもきちんと目を向けるべく取り上げた。筆者は、プロジェクトのあり方にこそ問題があると捉えている。

  本稿では、まず「ロボット大国」「原発安全神話」の2つのキーワードについて、これらの正体と災害対応ロボット開発との関わりを考察したい。次に、「ロボットとマスコミ」との関係性を整理し、特に東海村JCO臨界事故後(2000年前後)のロボットをめぐる報道が、災害対応ロボットの配備を促すことがなかったことを紹介する。これらの考察を踏まえ、その実用化に向け危機管理の観点から長期的な取り組みとすべく、ロボット研究者(開発者)と国民との対話の必要性を提案したい。
 そして最後は、災害対応ロボットの発展に向け、神奈川県などがまとめた「世界の救助センター構想」を紹介する。そのシステムおよび周辺研究の知識資源をもとに、災害救助を中心に安心・安全な生活を提供するサービス産業および産業創出を目指すというものである。2004年に取りまとめられたものだが、現在でもこの分野の産業化に向け重要な示唆を与えている。

  最後に、今回の一連の原発災害をめぐる報道で感じたことを述べておくと、もっとも強く感じたのは、わが国はリスクを開示したり議論したりするなど基本的な安全リテラシーに欠けることである。いまだに原発は「安全か」「危険か」というファンダメンタリズム的な議論が展開されており、科学的根拠にもとづいた議論がなされず、リスク評価・コントロールの発想がまったくみられない。
  今後、生活支援ロボットをはじめ様々なテクノロジーが家庭内に入り込むと予想されるが、これらを正しく使いこなすためには、同様に、それに伴うリスクを正しく理解し、適切にコントロールしていくことが求められる。様々なテクノロジーとうまく付き合い、持続的な社会の発展につなげていくためには、科学的および技術的根拠にもとづく「文明論」の観点から議論できる国へと変革しなければならないと考える。

                                      >> next

特集コンテンツ一覧

●プロローグ
:ロボット活用の防災・減災システムへの理解を得よう
PART 1  ロボット大国と原発安全神話の真偽
―災害対応ロボの開発では遅れをとっている/原発安全神話が開発や配備を阻んだといい切れる?/原発災害対応ロボの必要性を報じてきたか?

PART 2  ロボット研究者・技術者は国民との対話を
―災害対応ロボットの継続的な研究開発に向け

●PART 3  災害対応ロボの実用化に向け
―世界の救助センター構想より(8月末掲載予定) 

NPO安全工学研究所 理事 加部隆史

  2001年発行の『平成12年度 21世紀におけるロボット社会創造のための技術戦略調査報告書』(日本ロボット工業会、日本機械工業連合会編)にて、原発対応ロボットならびに災害対応ロボットが、米国と欧州に比して「競争力がない(*1)」と自己分析がなされていた。ところが、数多くの原発を稼働させながら、また、地震をはじめ各種災害発生のハザードに伴うリスクを抱える国でありながら、これらの分野への投資が疎かにされた結果、今回の東日本大震災ならびに福島原発災害に対し適切に対応できなかった。10年前から、これらの分野が欧米に比して競争力がないというファクトは変わっておらず、両地域から技術協力を得ないと対応がままならない状況にある。

*1:ここで述べられている国際競争力は、製品開発力に加え、市場をプロモートする力や他国に輸出する力、国内で他国を越える製品市場を持つ力を加味して評価がなされている。

 電力事業者の想定の甘さなど様々な問題が指摘されているが、本質的な問題は、どのような製品やシステムにも便利さ(ベネフィット)の裏返しとしてリスクを抱えているにもかかわらず、それを開示したり議論したりする文化がないこと。つまり、リスクを理解し、コントロールする意識がないことがあげられる。「原発安全神話」の形成はその典型例であり、原発行政を推進するあまり、「安全」という名の下にリスクを語ることをタブー視してしまい、万一の備えに対し電力事業者も国も国民も思考停止となっていた。結果の1つとして、原発対応ロボットに対し必要な投資を行うという選択ができなかった。

 生活支援ロボットをはじめ今後、様々なテクノロジーが家庭内に入り込むと予想されるが、これらを正しく使いこなすためには、それに伴うリスクを理解し、適切にコントロールしていく(低減のための方策を行う)ことが必要である。持続的な社会の発展を望むのであれば、こうした意識への変革が産学官、マスコミならびにわれわれ国民には求められている。
 そこで本稿では、NPO安全工学研究所の加部隆史理事に、このような持続的な社会の発展に向け、国際安全規格における安全およびリスクの捉え方を踏まえたうえでリスクマジメント社会の構築に向けた考えを述べてもらう。  (ロボナブル編集部)

国際安全規格における安全とリスクの捉え方

 ロボットをはじめ機械類の安全については、その用語と概念を定めたIEC/ISO Guide 51があり、そこで<安全>とは、受け入れられないリスクからの解放と定めている。また<リスク>とは、図1に示した通り、リスクアセスメントの基本概念を定めたISO 14121によれば、それは損害の発生確率と被害の大きさの積となる。

 絶対安全というものは存在せず、たとえリスクアセスメントにより使用する機械の制限危険源の同定リスクの見積リスクの評価を実施し、必要に応じてリスク低減措置を講じたとしても、リスクはゼロにはならない。残留リスクが存在する。リスクアセスメントおよびリスク低減措置は機械設計者の役割であり、同時に、残留リスクに関する情報を取扱説明書あるいは機械への表示などにより、機械使用者へ適切に伝えることが求められる。

 そして、リスクの評価は確率論でよいが、その低減措置は確定論(決定論)で処理されなければならない。例えば、いまもなお終息に向けた努力が続けられている福島原発災害では、炉心溶融の確率は大変少なく見積もられていたが、実際には炉心溶融により放射性物質が大気へ放出されたために、事故後に多大な処理ならびに賠償への対応が必要とされている。このように、いったん事故が起きてしまえば、その発生確率が非常に少なく「考慮するに値しない」としても、それは単に言い訳にしかならない。したがって、一般機械などにおいても、発生確率と被害の大きさの相関関係を十分に評価したうえでの設計対応が求められる。

kabe_fig11.PNG

図1 リスクアセスメントの手法

製品安全に対する国際比較

 機械類による危害とは、危険源と人が同一場所同一時刻に同居することにより発生する危険事象による。これを放置すれば危害につながるが、危険源を事前に、かつ適切に処理することで危害を回避することができる。

 欧州の場合は、図2に示したように1990年代半ばに定められた欧州機械指令により安全な製品のみ市場に流通可能であるとする、機械製造者の自己宣言によるCEマーキング制度が導入された。これは法的強制力を伴う。そして、これを実践するために必要な規格をA-B-Cの三階層で体系化している(図3)。これらの規格は、たえず科学技術の進歩および事故の教訓を反映しつつ定期的に見直しがなされている。
  他地域および他国での対応については、中国では規範とCCC(China Compulsory Certification)制度を強制法規で規定しており、韓国では韓国はS-Mark制度を任意に定めている。米国では、このような強制法規は存在しないが、万一事故を起こした場合は、事後に機械製造者は製造物責任法の対象となり、多額な制裁を科せられるため事前にその危険源を対処する風潮にある。

 情報通信産業において顕著なように、グローバル社会において標準化が産業競争力に直結している。機械類の安全についても、ISOやIECの国際標準化はあくまで民間の任意規格ではあるが、世界中の人々が知識と経験を人類共通の財産として形式知化し、国際規格としてつくり上げている。これらは設計の基礎となっており、事故が起きた際は、とりわけ規格にもとづいていない製品は説明と、その根拠となる妥当性の証明が大変困難なものとなるため、これらは無視できるものではない。
 妥当性検証については、欧米では第三者認証機関が歴史的に発展し、1つの産業となっている。一方、日本では自前主義の傾向が強く、国際的に通用する第三者機関は現在もなお輩出するに至っていない。

kabe_fig2.PNG

図2 欧州のCEマーキング制度

kabe_fig3.PNG

図3 国際安全規格の体系

リスクマネジメント社会とは

 科学技術は人々に利便性をもたらす半面、リスクを伴い、それにより事故が発生する。この利便性と事故後の損害を天秤にかけ(リスクとベネフィットのトレードオフの関係を見極め)、必要に応じて事前にリスク低減措置行うことが望ましい。リスクマネジメントの概念は図4に示した通りだが、これは事前に行うものである。事故発生後に行う行為はクライシスマネジメント危機管理)に関連しており、別の概念となる。また、福島原発災害で顕在化したようにリスクコミュニケーションも非常に大切である。

 リスクマネジメントの対象は人と社会全体であり、技術に加え金融や財政、経済などを包含するが、これを機械類の安全に限定すると、設計者による事前のリスクアセスメントおよびリスク低減によるリスクベースド・アプローチ(RBA)となる。
 RBAでは、事前に機械設計者が、その時代の科学技術の知見にもとづいてリスク低減に向け最善の努力を払う。しかしながら、IEC/ISO Guide 51で規定されている通り、絶対安全は存在しないゆえ、リスク低減後の残留リスクに関する情報を、取扱説明書あるいは機械本体への表示などにより機械使用者に明示することが求められている。万一事故が起きたとしても、リスクアセスメントを適切に実施し、残留リスクを明示して説明責任を果たしていれば、一方的に過失を負うことがない可能性は高い。

リスクマネジメント社会の創出に向け

 日本は恥の文化であり、危険源や危険を伴う事象の開示はマイナスのイメージを与えるため、公に語られることがない。原発行政を推進していく中で形成された原発安全神話はその一例といえる。これに対し、欧米諸国は(基本的に)リスクベース社会であり、事前に危険およびその影響度についてリスクの見積もりや評価、これにもとづく事前の方策を実施してリスクを最小限に抑えようとする。

 例えば、福島原発災害の発生以降、よく話題にあがった原発対応ロボットに触れると、わが国ではJCO臨界事故の後に複数システムが開発されたものの、過酷事故は発生しないという認識から、その後の必要なメンテナンスや継続的な研究・開発がなされることがなかった(*2)。産業化(製品化)に至らず、システムの信頼性を確保できていないとの判断から、福島第一原発原子炉建屋の調査には米国製の軍用ロボットが先行して利用された。リスクマネジメントの概念が浸透しなかったがためにリスクが過小評価され、産業の育成が妨げられたといえる。

*2:最近まで予算計上がなされていたのは、原子力安全技術センターが開発した「防災モニタリングロボット」のみで、1999年の第二次補正予算の「原子力防災支援システム開発補助事業」で開発されたシステムの多くは廃棄となり、日本原子力研究開発機構(2000年頃の開発当時は日本原子力研究所)が開発した「RESQ」「RaBOT」などは、2004年度以降は維持管理の予算がなく、放置状態だった。詳細はこちらを参照してほしい。

kabe_pic.png

写真 原子力防災支援システム補助事業の開発成果の一部。左は、小型軽作業ロボット「SWAN」(日立)、左は、作業ロボット「MERS-A」(左)と重重量物運搬用ロボット「MARS-T」(右)(三菱重工)

  かたや、世界の警察の役割を担う米国は、過去数十年にわたり宇宙技術および軍事技術の開発を積極的に推進してきた。これは同時に、最先端の科学技術の研究・開発および実用化を意味する。そして、世界各国に軍隊を派遣しており、常に有事にあるとの想定のもと兵士の生命の確保(リスク低減)に向け、彼らの代替となる軍用ロボットの開発を推進している。わかりやすいリスクマネジメントの適用例の1つといえる。特にイラクへの派兵以降、戦地での兵士の死亡に対し国全体がナーバスとなっており、また、遺族への補償が過多となっていることから、無人戦闘機をはじめロボット技術がますます磨かれている(動画は、Predator(プレデター)Bタイプの紹介)。

 今回、福島原発災害を経験して、フランスやドイツがこうしたリスクマネジメントの考えのもと、原発対応ロボットおよび専門の運用組織を配備していることに加え、結果として、損害を最小に抑制できることを理解された方が多いだろう。また、米国が同様の考えのもとで即投入可能なロボット多数を有していることもわかったであろう。

 わが国は、欧米諸国と並び工業先進国の一員であり、もはやグローバル社会において事前のRBAの概念を導入しないままに安全やリスクを語れない。ゆえに、リスクアセスメントを活用したRBAと組織によるリスクマネジメントの双方の実践により事故を事前に予見し、回避に向けた方策を講じることが必須であり、これに向けた社会制度の改善が求められている。災害対応という社会的な課題に対しても、製品安全という企業における課題に対しも、これなしでは適切に対応できないのである。

SSEの概念と方法論

  わが国おいて、このような啓蒙活動がなされていないかというと、決してそうではなく、2000年以降、機械類の安全について周知されている。ただし、強制法規が存在しないために設計者の自主活動にとどまっている。今回の福島原発災害においては、過酷事故は工学的に起こり得ないという思い込みから、事前のRBAも組織によるリスクマネジメントも適切に実践されず、大惨事につながった。多くの事故は不可逆性を伴うため、発生してからではもはや手遅れであり、自主活動にとどまらないための社会制度の改善が求められる。

  ただ、福島原発がそうであったように、わが国では安全対策は多大なコストがかかるという盲信があり、機械設計者や事業者は積極的に取り組まないきらいにある。そこで、筆者らは2010年4月に、日本機械学会 産業・化学機械と安全部門で「Safety Service Engineering(SSE)研究会」を提案し、設置した。SSE研究会では、機械の全ライフサイクルを通して、モノづくりの競争力の確保も視野に入れながら、安全対策を行いつつ生産性を高め、利益を得るためのモデルケースの検証を行っている。同時に、サービス工学という新たな学問を取り入れつつ研究を進めている。

  おもな知見をあげると、以下の通りにまとめられる。
●工業先進国のサービス産業はいまや6~7割を占め、約3割弱の製造業を大きく上回る。ゆえに、従来の供給者論理から受給者・消費者論理へとシフトし、製品開発することが重要(Service Engineering)
●単品の機械でなくシステム思考にもとづき、システムとしての機能および安全性、経済性が重要(Systems Thinking)
●機械の全ライフサイクルにわたる最適化が必要
●安全は、単独で見れば安全追加方策によりコスト高となるが、危害や損害の発生時のコストと手間を考えると、設計のフロントローディングにより安全性の高い、かつ手離れのよいシステムができる
●この流れを安全・品質・環境と同時に推進することで生産性が向上し、経済的メリットが得られる
●設計・開発で得た知見は重要であり、個々の暗黙知を形式知化し、知識ベースCADなどに埋め込むことで有益な情報が供用され、開発活動の高効率化が図られる

 わが国のモノづくりは、過去の数十年にわたり品質向上とともに低コスト化に熱心に取り組まれてきた。こうした背景から、安全性の確保に伴うコストアップを嫌う傾向にあり、積極的に取り組まないように思われる。特に最近は、中国をはじめとする新興国の急成長によりわが国の製品が価格競争力を失いつつある中、過度なまでの円高により、ますます喪失しつつある。こうした中でRBA概念の浸透が求められているわけだが、SSE研究会における取り組みを推進することにより、それを果たし、リスクマネジメント社会の創出につなげたいと考える。なお、SSE研究会の知見の公開については今後、研究の進捗を踏まえつつ別の機会で行いたい。
 

【関連記事】
連載「4肢選択で理解するサービスロボット安全技術講座」
第1回 サービスロボット安全概論 【設問編】
第2回 サービスロボット安全設計基礎 【設問編】
第3回 機械安全規格概論 【設問編】
第4回 リスクアセスメント規格 本質的安全設計とその他の保護方策【設問編】
第5回 サービスロボット安全技術概論【設問編】
第6回 安全性確保のためのメカトロ技術【設問編】
※各回の解答はそれぞれの「設問編」よりアクセスして下さい。

災害対応ロボの開発では遅れをとっている

 わが国では、過去にロボットの応用分野や要素技術ごとに米国と欧州との比較による国際競争力が何度か分析されている。代表的な資料を参照すると、2001年発行の『平成12年度 21世紀におけるロボット社会創造のための技術戦略調査報告書』〔日本ロボット工業会(JARA)、日本機械工業連合会編〕では、製造業の分野で競争力が高いことを背景に、「総じて競争力が高い」としながらも非製造業分野(非産業用ロボット)は「必ずしも高くない」と評価している。

 本特集がテーマとする災害対応および原発災害対応ロボットに言及すると、前者は米国と欧州が「平均レベル」なのに対し、わが国は「競争力が弱い」。後者は(「報告書では「原子力ロボット」と表現)は、米国と欧州の「競争力あり」に対し、わが国は「平均レベル」と分析している(表1)。関連する要素技術についても分析しており、「移動技術(クローラ)」は欧州が「競争力あり」に対し、日本と米国は「平均レベル」、「遠隔操作機構・制御」は米国と欧州が「競争力あり」に対し、日本は「平均レベル」としている(表2)。
 ここでの国際競争力とは、製品開発力に加え、市場をプロモートする力や他国に輸出する力、国内で他国を越える製品市場を持つ力を加味した評価(*1)である。

*1:本来であれば、同報告書の評価基準を紹介したいところだが当時、取りまとめを担当されたのは、2007年6月に逝去された首都大学東京の谷江和雄教授(元産業技術総合研究所 知能システム研究部門長)であり、また、検討に参加された当時の先生方も所属変更などされている事情から、コンタクトをとるのが難しいとJARAより報告を受けている。

t2-1.PNG

表1 ロボット分野の国際競争力比較(応用技術)[1](「平成12年度 21世紀におけるロボット社会創造のための技術戦略調査報告書」より引用・転載)

t2-2.PNG

表2 ロボット分野の国際競争力比較(要素技術)[1](災害対応に深く関連する要素技術のみを抜粋、「平成12年度 21世紀におけるロボット社会創造のための技術戦略調査報告書」より引用・転載)

  また、2007年発行の『平成18年度の特許出願技術動向調査の結果について -Part.1 ものづくり・情報通信-「ロボット」「ズームレンズ系」「半導体洗浄技術」』(経済産業省発行)では、各国特庁への出願件数の上位を日本勢が占めるとしながらも、軍事、宇宙、災害対応、水中・海洋、原子力などの「特殊環境用ロボット」で必須となる(複数ロボットの)制御技術や遠隔操作技術については、米国勢が優位としている。1994~2004年の間に出願された特殊環境用ロボットに関連する特許のうち、米国は43%となる776件を、日本は32%となる563件を出願(欧州を加えた総数は1,782件)。出願の伸び率については、制御技術は米国の2.23に対し日本は1.89、遠隔操作技術は米国の2.55に対し、日本は1.10にとどまっている。

  これらの報告書および調査結果をそのまま踏まえると、わが国は災害対応および原発災害対応ロボットと関連技術で競争力を備えているとは言い難く、欧米に比して、国全体の取り組みとして開発に熱心とも言い難い。したがって、すべての応用分野に対し「ロボット大国」と表現するのは正しくないし、特に原発災害対応ロボットを含む災害対応ロボットについては、前述の報告書で加味されている市場をプロモートする能力や製品市場を持つ力に欠けており、今回の災害で“使えるロボット”を即提供できなかったことに納得させられる。

 最近の状況にも触れておくと、科学技術振興機構(JST)研究開発戦略センターが取りまとめた『科学技術・研究開発の国際比較 2011年版(電子情報通信分野)』では、災害対応ロボットを含む「フィールドロボット」を、日本の「研究水準」は「○」、「技術開発水準」は「◎」、産業技術力は「○」と評価したのに対し、米国はそれぞれ「◎」「◎」「○」、欧州はそれぞれ「◎」「○」「○」としている。IRSなどの「Quince(クインス)」の不整地走行や環境情報の取得技術、「はやぶさプロジェクト」による小惑星のサンプリング技術などを高く評価し、総合的な日本の技術開発水準を米国と同等の「◎」にしている(表3)。

t2-3.PNG

表3 フィールドロボットにおける日本と米国、欧州の比較(表の構成にはアレンジを加えている)[3]

 しかし、産業技術力の「トレンド」については、日本のみを減退傾向を示す「↓」としており、技術開発が継続的になされていないことを問題視している。また、研究水準についても研究費が不足し、何らかの公的なプロジェクトに依存せざるを得ない状況も課題にあげている。
 一方、米国については「小型軽量の不整地移動ロボットの軍事用での有用性が見いだされ、『現場で使えるロボット』が複数の企業で量産されている。(中略)使えるロボットとしては、他国の追随を許さない」と高く評価している。技術開発の水準が高度化した以外は、上述の報告書および調査結果を踏襲したかのような分析内容となっている。

 これがわが国の災害対応ロボットの実態(正体)であり、このまま何もしないままでいると、上述の報告書(2001年)が言及していた10年後である現在(2011年)のように、さらに10年後も災害現場で“使えるロボット”を用意できず、国際競争力を持ち得ないままでいる可能性を否定できない。

安全神話が開発や配備を阻んだといい切れる?

  「原発事故は起きない!」「活用場面はないから不要!」
  原発災害対応ロボットが配備されなかった主因を原発安全神話に求める記事では、こうした言葉が電力会社側から発せられたと、ロボット研究者のコメントとしてよく引用している。そして、東京電力の“想定の甘さ(=絶対安全)”を断じる論旨が展開されている。確かに、一連の福島原発災害をめぐる東京電力の「事前」および「事後」の対応(特に津波被害による非常用発電装置やポンプなど冷却機能の喪失など)を見ると、原発安全神話から来る想定の甘さに起因する事象が数多くあったが、同様に、原発災害対応ロボットが配備されていなかったことの主因にするのには無理がある。

 各マスメディアで報道されているように、電力会社が原発安全神話を盾に不要論を展開していたのかというとニュアンスが異なる。1999年9月の東海村JCO臨界事故の後、同年度の二次補正予算で実施された「原子力防災支援システム開発補助事業」で、取りまとめを担当した当時、製造科学技術センター(MSTC)ロボット技術開発室の濱田彰一室長(現・日本ロボット工業会 技術部長)によると、「すぐには要らない」が電力会社側からのコメントであり、「さすがに、今回のような(レベル7に相当する)大事故は想定外と信じていたが、原発が(絶対)安全と信じきっていたわけではない」と振り返る。

 また、電力会社への直接的な規制はできないものの、原発の安全性確保に向け審議・決定を行う原子力安全委員会(*2)では、原発へのロボットの配備ついて好意的な見解を示している。長岡技術科学大学の木村哲也准教授によると、例えば2004年7月に「原子力重点安全研究計画に関する意見について」でのパブリックコメントに対し、次のようなやり取りがなされたことが明らかにされている。
《意 見》
 「(略)JCO事故後の事故対応ロボットの継続発展の考慮をされたい」
《回 答》
 「(略)今回の計画が主として安全規制の面から策定したものであるため、それを具体的な項目として記載していませんが、原子力安全委員会としても防災対応のための遠隔操作ロボット等の開発の重要性は認識しており、こうした技術が確立し、原子力防災において利用可能になることは非常に望ましいと考えています」(全文はこちら

  配備に至らなかったという結果は変わらないだろうし、同委員会が立場上、好意的なコメントするのは当然といえよう。が、少なくとも原発安全神話を盾に配備しなかったと結論づけるのには違和感がある。

*2:同事業では、円滑な推進と重要事項の審議を行うために「原子力防災支援システム開発推進委員会」が設置され、委員長には現在、原子力安全委員会で委員長を務める斑目晴樹氏(当時 東京大学)が就いていた。同委員会の下に「技術水準調査ワーキンググループ(WG)」と「技術WG」、「施設WG」、「実証試験打合会」が設けられ、技術WGのリーダは産業技術総合研究所の谷江和雄ロボット工学部長(当時)が、施設WGのリーダは原子力発電技術機構(原子力安全基盤機構に一部事業が移管)の小川修夫理事(当時)がそれぞれ務めた。開発の委託先はMSTCであり、原子力発電技術機構と東芝、日立製作所、三菱重工業、仏サイバネティクス/日商岩井に再委託された。

 「3.11」以降、同事業は「幻の原発ロボット」とよく取り上げられるが、そもそも幻で終わった主因は、当時の国プロのスキームのまずさと実用化シナリオの欠如にある。
 ここ数年、経済産業省が主導するロボット関連プロジェクトでは、「サービスロボット市場創出支援事業」(2006~07年度)などのように、実用化や事業化を意識したプロジェクトではユーザー(候補)企業が必ず参画している。しかし、同プロジェクトでは開発後に実施した2001年3月の実証試験の段階で、ようやくユーザーとなる電力会社に公開している。たとえ実証試験で、東海村JCO臨界事故で実際に人が行った作業内容の一部を(*3)示して見せたとはいえ、このようなスキームでは電力会社が配備しようとしたり、開発予算を付けて機能強化を図ったりするという経営判断を下すのは難しい。配備に向け強制力を伴うものでなければ、開発成果を継承して改良・改善を加えるという判断すらできないだろう。

 また、濱田氏によると、同事業の関係者は2001年6月11日に運用を開始した国土交通省「防災センター」に組み込まれると考えていたようだが、2001年度以降はロボットには予算付けがなされず、情報システム系のみが、それに継承された。1999年度の二次補正予算により2000年1月の交付決定(旧・通商産業省)から1年程度で開発(実際の設計から組立までの期間は約7カ月)しておきながら、その後の実施計画がないというのは実用化シナリオの欠如を露呈しており、まずは、これに原因を求めるのが自然ではないだろうか。
 2002年12月には「実用化検討評価委員会」が開催され、ここでことごとく「性能不十分」と評価されたことが各マスコミで問題視されたが、この段階では、もはや開発成果は宙に浮いた状態となっており、廃棄に向けた理由づけのためになされた儀式に過ぎない。

fig.2-1.PNG

図1 原子力防災支援システム開発補助事業で開発されたロボットの一例(一部の写真はIRSより提供)

*3:2001年3月22日と23日に機械振興協会で実施した作業実証は次の通りである。(1)耐高放射線対応ロボット「MENHIR」(仏サイバネティクス社/日商岩井)により重量物を、重量物運搬用ロボット「MARS-T」(三菱重工)に積載する。(2)詳細監視ロボット「SMERT-M」(東芝)によるドア開閉作業(SMERT-Mが取り付けたドア開閉ツールがドアを開放する)、続いて、MARS-Tがドア部を通過して階段を昇降。(3)MENHIRにより配管穴あけ部からエアを注入、小型軽作業ロボット「SWAN」(日立)が1インチバルブを開操作し、エアベントを実施。(4)(3)のMENHIRの作業時に、MENHIR側から見えないため小型監視ロボット「SMERT-K」が配管裏側から目視により、位置決めにより必要な情報を提供する。(5)作業ロボット「MARS-A」による作業時も、工具の位置決めに必要な情報をSMERT-Kから得る。(6)SWANによるドア開閉作業、MENHIRによる配管切断作業、MARS-Aによる狭隘通路の通過などを実施する。

  同事業以降にも「プロローグ」で述べた通り、文部科学省により日本原子力研究所〔現・日本原子力研究開発機構(JAEA)〕にて「RESQ-A」「同B」「同C」および「RaBOT(*4)が、原子力安全技術センターにて「防災モニタリングロボットモニロボ)A」「同B」がほぼ同時期に開発。モニロボに至っては、2010年度も航空機サーベイシステムと合わせて2億5,900万円の予算計上がなされるなど、長期にわたり予算がつけられている(維持管理費が大半だが)。そもそも原発安全神話の立場をとっていれば、このような予算計上がなされるはずはないだろう。ましてや、このような立場をとるならば本来、事故の発生をイメージさせる原発災害対応ロボットの存在は秘匿しておきたいはずで、原子力教育支援情報提供サイト「あとみん」や「サイエンスチャンネル」を通じた広報活動や、2006年10月26日に実施した、四国電力伊方原発での放射能漏れ事故を想定した原子力総合防災訓練で2台のモニロボを出動させたことを説明できない。このときの訓練には安部晋三首相(当時)がテレビ会議で参加し、現地の本部長に指示を与えていることやモニロボが活動したことが全国紙で報じられている。

fig2-22.PNG

図2 日本原子力研究所(当時)と原子力安全技術センターが開発した原発災害対応ロボット

*4:JAEAが所有するロボットには維持管理のための予算付けがなされず、RaBOTは2010年9月に廃棄。RESQ-A~Cは、2004年以降は放置に近い状態となり、「3.11」の直後は可動不能という状態だった。JAEAでは、スウェーデンBROKK社の小型無人建機「Brokk」をベースに屋内瓦礫除去用として「JAEA-1号機」を、RESQ-Aをベースに屋内除染作業用として「同2号機」と屋内ガンマ線可視化計測用として「同3号機」を開発している。今回の震災ではJAEAも被災したため、初動への対応は不可能だったことを明かしている(図3)。そもそも運用訓練を積んでいないため、可動したとしても適切に対応できたかには疑問がある。

fig.2-3.PNG

図3 「3.11」以降のJAEAの対応一覧(図提供:JAEA福島支援本部 川妻伸二氏)

 なお、上述の原子力防災支援システム開発補助事業では、国際原子力機関(IAEA)の国際評価尺度「クラス3」(原子力施設外に影響が及ぶ)以上への適用を想定して開発している。炉心に重大な損傷(炉心の溶融)が生じ、多量の放射性物質を原子力発電所外に放出する可能性のある事故を想定事故とし、原子炉建屋内を適用現場としている。
 ただし、「原子力発電施設の『格納容器』内については、いかなる事象が起こってもプラントの『中央制御室』からの遠隔操作にて事象を終息させることが可能なように設計しており、万一、事故が終息しない場合でも鋼製ドーム状の『格納容器』で災害事象を封じ込めることが可能なように設計されている。更に、これらは国の定めた規則に則り設計認可を得、また、国の定めた製作要領に沿って製作され検査を受けているため『格納容器』内で発生した災害事象に対して、初動作業としてロボットシステムを適用することは考えられない」(平成11年度原子力防災支援システム開発補助事業成果報告書より)としている。

  今回は、格納容器内での災害事象の封じ込めができなかったが、これは報告書でも記されている通り、ロボットではなく原子力プラントそのものが担うものである。現在技術を持ってしても、ロボットの投入により水素爆発や高濃度汚染水の流出など原発災害の最小化(あるいは防止)に直接役立ったわけではない。これらが廃棄されていたことを問題視し、配備されていれば最小化されたかのような論調が一部でなされているが(*5)、そうではなく、ロボットは「事故終息に向けた早期対応」や「作業員の被曝量の防止」に寄与したと表現すべきである。加えて、原発安全神話による想定の甘さを指摘するのであれば、上記の発電施設の設計や設計認可および検査のあり方(さらには災害時の作業マニュアルの不備など)など管理不行き届きを問うべきだろう。

*5:同事業で開発されたロボットが廃棄されたことに対し「無駄遣い」との指摘がなされているが、一部は現場技術者や研究者の努力により開発成果が役立てられている。日立の「SWAN」と三菱重工などの「MARS-A」「同B」は、国際レスキューシステム研究機構(IRS)とMSTCによる防災ロボットの共同研究に役立てられている。また、MARS-Aと同BはRaBOTの開発に役立てられ、コストダウンに寄与している(MARSの開発には、東京工業大学の広瀬茂男教授が保有するクローラ型ロボットに関する特許を役立てている)。東芝の「SMERT-M」は急遽、ガンマ線カメラを搭載して、福島原発の1号機原子炉建屋内での線量計測に役立っている(東電広報資料)。
  また、同事業では建屋外の災害については、無人化施工技術などにより整地化した後に適用可能と判断している。今回、モニロボが瓦礫に阻まれてアクセスできなかったと報じられたが、同様に、整地化した後に運用することを想定して開発した結果によるものと推測される。

原発災害対応ロボの必要性を報じてきたか?

 「3.11」以降、競うように災害対応ロボット、特に原発災害対応ロボットの実用化および配備に向けた課題が取り上げられた。しかし、これはいまになって表出したことではなく、10年前から公知されている。

 例えば、先に引用した 『平成12年度 21世紀におけるロボット社会創造のための技術戦略調査報告書』(2001年)では、国プロを通じて欧米の軍事に相当する、競争や市場原理が働く環境づくりの必要性や、危機管理の観点からの極限環境技術の計画的な開発および基準づくりの必要性を強い口調で指摘している。同報告書はソリューションビジネスへの転換を促す「RT(Robot Technology)」技術戦略に加え、2025年にはわが国のロボット産業が約8兆円に成長するとの大胆な市場予測を提示し、数多くのメディアで取り上げられた。ところが、これらの指摘に言及したメディアは1つもなかった。単にニュースバリューがなかったからなのだろうか。

 また同年11月に開催された「2001国際ロボット展(iREX2001)」にて「原子力防災支援システム開発補助事業」の成果物がロボット制御盤コンテナなどともに巨大ブースで展示され、このときには配備される可能性がきわめて低い状況となっていたが、ほとんど取り上げられることがなかった。これを扱った記事として確認できるのは、インプレスが運営する「PC Watch」のみで、フランスの政策などと比較しつつ配備体制が構築されるか否かを憂慮するようなコメントで記事を締めくくっている。

fig.2-4.PNG iREXの主催者であり、ロボナブルの運営会社である日刊工業新聞社もいっさい取り上げておらず当時、「終面」の特別企画で取り上げたのは、ソニーの「AIBO(アイボ)」のほか、バンダイやタカラとトミー(当時は統合前)などのエンターテイメントロボットである。実装するアプリケーションの高度化や多様化などビジネスの活性化に向け、ソフトウエアウエアプラットフォーム(AIBOでいえば「Open-R」)の公開や、ソフトウエアコンポーネントの仕様の標準化などの課題を提起している。当時、AIBOやホンダの「ASIMO(アシモ)」が人気を博しており、それに誘発されるかのようにパーソナルロボットやエンターテイメントロボットへの注目が飛躍的に高まっていたことを踏まえ、こうした記事になったのだろう(図4は当時の記事で掲載された写真、特別企画「エンターテイメントロボットゾーン」で実施されたロボリンクフォーラムの様子)。

 同事業を取りまとめた前述の濱田部長は、配備されない方向で話が進展している状況に対して疑義を唱えたとし、「(本来であれば)各マスコミを集めて問題提起すべきだったかもしれない」と述べる一方で、当時、国全体がパーソナルロボットやヒューマノイドに関心が向かっており、「まともに取り上げられなかったのでは」とも振り返る。今から思えばぜひそうしてほしかったが、iREX2001でのメディアの扱いは、濱田氏の見方そのものとなっている。
 その後、原発災害対応を含む災害対応ロボットの不備を、米国および独国と対比しつつ問題提起したのは、2005年7月12付けの朝日新聞の夕刊記事のみで、記事データベース(*6)ではいっさい確認できない。

  また、学会誌レベルでは、前述の濱田氏が「日本機械学会誌」2003年10月号(Vol.106 No.1019)で、東京工業大学の広瀬茂男教授が「日本ロボット学会誌」2003年3月号(Vol.21 No.02)で、同事業を例に運用体制の不備などを指摘している。広瀬教授に至っては、同事業の顛末に触れつつ国プロの一貫性のなさを強い口調で批判している。学会誌とはいえ、専門紙や専門雑誌を発刊するメディアが広く購読していることを踏まえると、これを参考に取材を進めてもよいはずだが、扱ったメディアは存在しなかった。

*6:朝日新聞社と時事通信社、日刊工業新聞社が運営する記事データベース「キジサク」を参照した。これら3紙のほか東洋経済新報社、ダイヤモンド社、帝国データバンク、日本教育新聞社、モーニングスター、日刊建設工業新聞社、日刊自動車新聞社、日本農業新聞、住宅新報社、日本電気協会新聞部、化学工業日報社、鉄鋼新聞社、じほう、東亞日報社、産業タイムズ社の過去の記事を参照できる。詳細はこちら

 東海村JCO臨界事故を受け、2000年前後には既述のような原発災害対応ロボットが相次いで開発された。ところが、当時のAIBOやASIMOなどの人気に加え、国のロボット政策そのものも2005年の「愛・地球博」をターゲットにしたロボットブームの創出に向け、パーソナルロボットやヒューマノイドを中心に夢の側面を強調するきらいにあった。もちろん、そればかりではなかったが、もともと「大衆工学」といえるロボットの性格上、パーソナルロボットやヒューマノイドの方が一般読者にはアドレスしやすく、こうした世の中の流れが後押しとなり、原発災害対応ロボットの話題を脇に追いやってしまったのだろう(類似の問題は「ロボット開発のデスバレー克服に向け ―顧客価値を捉えた研究開発/報道への転換を」を参照してほしい)。結果、東海村JCO臨界事故の終息とともに、今回の「3.11」まで、原発災害対応ロボットの実用化にかかる問題が取り上げられることはなかった。国内ではじめて事故被曝による死者を出したにもかかわらず。

  その時々の世間の関心や風潮がどうであったにせよ、国内のマスコミが安心・安全に直結する技術開発や、その配備に向けた課題に目を向けらなかったのは上述の通りである。ロボットならではの夢の側面を強調することも大切だが、危機管理の観点から、読者の関心度とは別に(切り離して)、ロボットの防災・減災への応用の可能性をきちんと伝え、関心を向けたり議論を促したりする役割をマスコミは担っている。今回、原発災害対応ロボットを巡る報道で電力会社の想定外を断じていたが、マスコミ報道が、それを助長した可能性を否定できない(*7)。  (ロボナブル編集部 今堀崇弘)

*7:日本人特有の自己批判から指摘してものではなく、記事データベースをひと通り参照したファクトをもとに述べたことを断っておく。なお2001年当時は、筆者は「機械設計」誌という技術専門誌の編集を担当していた。iREX2001は取材すらできておらず、論外の対応である。

【参考文献】
[1]日本ロボット工業会,日本機械工業連合会,“平成12年度 21世紀におけるロボット社会創造のための技術戦略調査報告書”,2001.
[2]経済産業省,“平成18年度の特許出願技術動向調査の結果について -Part.1 ものづくり・情報通信-「ロボット」「ズームレンズ系」「半導体洗浄技術」”,2007.
[3]科学技術振興機構 研究開発戦略センター,“科学技術・研究開発の国際比較 2011年版”,pp.150-151,2011.
[4]製造科学技術センター,“平成11年度 原子力防災支援システム開発補助事業成果報告書”,2001.
[5]濱田彰一,間野隆久,“原子力防災支援システムの開発概要”,日本機械学会誌,Vol.106 No.1019,2003.
[6]広瀬茂男,“大衆工学としてのロボット”,日本ロボット学会誌,Vol.21 No.2,pp.138-140,2003.
[7]荒井裕彦,“レスキューロボット・極限作業ロボットに関する議論”RSJ-Forumメーリングリスト,2004.
[8]ビジネス記事データベース「キジサク」,1999.1-2011.8,朝日新聞社,時事通信社,日刊工業新聞社.
[9]今堀崇弘,“顧客価値を捉えた研究開発・報道への転換に向け”,日本ロボット学会誌,Vol.29 No.2,pp.32-35,2011. 

<< back                              >> next
 

特集コンテンツ一覧

プロローグ
:ロボット活用の防災・減災システムへの理解を得よう

●PART 1  ロボット大国と原発安全神話の真偽
―災害対応ロボの開発では遅れをとっている/安全神話が開発や配備を阻んだといい切れる?/原発災害対応ロボの必要性を報じてきたか?
PART 2  ロボット研究者・技術者は国民との対話を
―災害対応ロボットの継続的な研究開発に向け

●PART 3  災害対応ロボの実用化に向け
―世界の救助センター構想より(8月末掲載予定)
 

  「PART 1」では、10年前から災害対応ロボットの開発で欧米に遅れをとっていることに加え、「原発安全神話」と原発災害対応ロボット開発との関係性を通じて、国プロの実用化シナリオの欠如により進展しなかったことを述べた。すでに断片的に述べているが、改めて今回の震災に際し“使えるロボット”を提供できなかった理由を考察したい。なお、本稿では研究開発という切り口から考察し、災害対応ロボットを防災・減災システムの一部として社会に普及、展開するという包括的な議論は「PART 3」でさせてもらう。

極限環境分野の技術を育てる方策を

  先に引用した『平成12年度 21世紀におけるロボット社会創造のための技術戦略調査報告書』でも指摘されているが、欧米(*1)との比較論で説明すると、両地域では国策市場としての軍需を背景に極限環境分野の技術開発が進展。防災や原子力などの分野におけるロボットの高度化に寄与し、“使えるロボット”の創出につながっている。これに対し、軍事目的の研究開発が難しいわが国では、国プロなどを通じて、それに代わり市場原理が働くような環境制度を創出することで、民生市場では高度化が難しい極限環境分野の技術開発を推進すべきなのに、それができなかったからとまとめられる。

 ここでいう環境や制度とは、「3.11」以降、ロボット研究者などから相次いで指摘されている、万一の災害に備え遠隔操作システムの配備を義務づけたり、定期的なメンテナンスやシステム更新などを制度化したりするなどである。もちろん、一定の技術レベルに到達していることが前提条件となるが、これにより(原発災害対応ロボットを含む)災害対応ロボットの産業化を図り、関連技術の高度化および技術者の育成などを促し、新たなソリューションとして海外展開することで、わが国の産業競争力の強化につながると期待される(*2)

*1:同報告書では、極限環境分野における欧米の強みとして基礎研究から実用化までを見据えた、一貫した国家プロジェクトに組み込まれ、推進されていることにあると分析している。例えば、米国には具体的な宇宙ロボットの開発計画が存在するとし、「スペースシャトル」(すでに引退が決定)開発をベースとした宇宙実験や惑星探査の計画およびシナリオが立てられており、その中で求められる宇宙ロボットの目標性能(設計仕様)やミッションが規定され、かつ何年に何を行うのかといったことが明確されている。ロボットの基礎研究から応用開発までロードマップがあり、研究成果を結び付けやすいとしている。また筆者は、こうした環境があることは、すなわち計画を遂行する「ビジョナリスト」を育成する土壌となっており、彼らのもとで研究開発がすみやかに展開されるという好循環を生み出していると捉えている。

*2:原発災害対応については、産業競争力懇談会(COCN)の「災害対応ロボットと運用システムのあり方」にて、冷温停止後の燃料棒の取り出しへのロボット技術の適用などに加え、これらを原発災害ソリューションとして海外展開することなどが検討されつつある。

 また、わが国のロボット開発の多くは民生市場をターゲットにしている事情から、極限環境での耐性基準の構築が疎かになっていたことも理由にあげられる。この分野の開発は、大規模災害や重大事故などによりニーズが顕在化したときには手遅れであり、リスク管理(日本語でいう「危機管理」に近い意味。以下、同様のニュアンスで用いている)の観点から計画的に技術開発ならびに技術基準を構築しておかなければならない。
 例えば、米国では民生品より厳しい「MIL規格」などの技術規格が整備・改訂されており、その存在により、より厳しい耐環境性などの目標設定がなされ、高い信頼性を確保している。米iRobot社の「PackBot」が実装する電子部品も、MIL規格にもとづくDLA(米国国防補給庁)認定部品を使用することで高い耐環境性を有しており、戦地での運用実績が買われ、原子炉建屋内の調査や線量計測に利用された。

  ところが、わが国は民生用途と同様、ニーズが顕在化した段階で開発を立ち上げるきらいにある。「PART 1」で紹介した「原子力防災支援システム開発補助事業」はその典型であり、東海村JCO臨界事故の発生を受け急遽、開発したのはよいが、計画的に取り組まれたわけではないため技術規格を構築するという発想すらなかった。それが現在に至り、信頼性で欧米に大きく遅れをとっている。加えて、当時の国プロでは技術シーズの実現や達成に重きが置かれる傾向にあり、技術目標が達成された時点で開発を終了(単発で終わる)するという「悪癖」も助長したと想像される。

災害対応ロボの開発は異なるスキームで臨むべき

  上述のように、欧米に比してわが国は極限環境分野の技術開発を進めにくい環境にあるが、そもそも過去に立ち上げたプロジェクトが、災害対応に適したスキームになっていたのかと疑問が持たれる。
 災害対応に向けた研究開発は、想定されるリスクに対し、常に先手を打つように推進しなければならない。次の瞬間に発生するかもしれない災害や事故などのリスクに備え、現在の最高水準の技術でもってロボットにまとめ上げる(システムインテグレートする)と同時に、基礎研究および応用研究も推進し、その成果をもとに、定期的にロボットをアップグレードする必要がある。防災対策の戦略変更や都市構造の変化などに伴い、その役割も想定されるリスク(ハザードマップなど)も変化するため、それに合わせて継続的に技術開発を進めていかなければならない。加えて、高い信頼性の確保に向け、先に説明した技術基準づくりを見据えた取り組みも遂行しなければならない。

  「PART1」で紹介した原発災害対応ロボットのほかに、過去に災害対応ロボットの高度化に向け「大都市大震災軽減化特別プロジェクト(通称「大大特」)」(文部科学省、2002~06年度)と、その成果の一部を継承した「戦略的先端ロボット要素技術開発プロジェクト」(NEDO、2006~2010年度)が取り組まれた。
 前者は、ハザードマップの高度化や既存構造物の耐震性の評価および補強などが含まれるなど包括的なプロジェクトである。リスク管理の観点から望ましい研究項目を掲げていたが、あくまで基盤技術の構築を目的としており、「当面5年程度」(「大大特」資料より引用)の取り組みにとどまった(*3)。後者は、その名の通り、先端的なロボット要素技術の開発や、それを活用することでロボットの適用範囲の拡大を図ることを目的としている。災害対応ロボットは1テーマに過ぎないうえ、配備に向けた仕組みづくり(事業化の意味合いが強い)は委託先の開発グループに委ねている。

*3:IRS内のレスキューチーム「インターナショナル・レスキュー・システム・ ユニット(IRS-U)」の隊長を務める小田原消防署の真壁賢一氏は「『大大特』ぐらいまでは、開発された災害対応ロボットに使えるイメージがあまり持たれなかったが、(Quinceをはじめ)最近の開発成果には、現場で使えるイメージを持てるようになった」とコメントしている。ロボット研究者が「レスキュー工学をはじめ現場作業者の作業内容などを理解し、改善・改良を図った結果」だが、基盤技術の構築を目的としていたために、ニーズを捉えた開発が必ずしもなされていなかったのかもしれない。

  民生用途のロボットであれば、委託先企業による事業化を通じて継続的に高度化が図られる。ゆえに、プロジェクト終了の数年後に実用化を促すようなスキーム(予算計上からプロジェクト体制の枠組みまで)であればよいだろう。しかし、災害対応ロボットを対象にした開発支援では、上述のような条件を踏まえると、民生用途に向けたそれと同様のスキームでは“使えるロボット”の輩出には至らない。少ないながらも、持続的にリソース(財源や人材など)が割り当てられる、他の開発支援とは一線を画したスキームで研究開発に臨むべきである。こうした基本的な理解がなく(あったと思うが)、他分野の研究開発と同じノリで取り組まれたたために、「つくっては終わり」というプロジェクトにしかならなかったのではないだろうか。

  災害対応ロボットの研究開発は、それで事業化が達成されれば理想的だが、まずはリスク管理の観点から国全体(あるいは自治体)として継続的に取り組まれるべきである。つまり、「電力をはじめ社会インフラの利用により便利さを享受しているのは国民であり、自然災害を含め、その享受に伴い想定されるリスクを国民1人ひとりが受け止め、その低減にかかる(開発)コストを引き受ける」。さらには「関連技術を継続的に育てていく」という意識を、国民1人ひとりに持ってもらい、こうした理解と選択のもとで計画的かつ継続的に災害対応ロボットの開発に取り組まれるべきである(*4)
 ただ残念なことに、国全体として(「PART1」で触れたマスコミ報道の問題もあり)、こうした方向に議論が進まなかった。このような理解と選択がなかったがために、また、非産業分野におけるロボット市場の創出を焦るあまり、安心・安全に直結する研究開発に十分なリソースが割り当てられなかった。結果、災害対応ロボットの分野でわが国は競争力を持ち得ないままでおり、今回の震災に際し“使えるロボット”を備えるに至らなかった。

*4:「PART 1」で示したように、日本も米国も、欧州も、保有技術のほか、それぞれに抱える社会問題、歴史や文化などを背景に、それぞれに得意とするロボットの応用分野や要素技術がある。これらすべてにおいて高い競争力を備えることは、一国のみでは難しく、限られたリソースの中で注力すべき応用分野や要素技術を適切に選択しなければならない。それを直接下したり助言をしたりするのは行政担当でありロボット研究者であるが、国民の理解と選択があってこそ行えるものであり、注力すべき応用分野および要素技術について議論したり声を上げたりできる環境や雰囲気づくりをしていかなければならない。

ロボット研究者・技術者は国民との対話を

 このような理解と選択に向けては、本来「学校教育や地域教育などを通じて最低限の安全リテラシーを備えてもらい、防災・減災およびリスク管理などへの理解を深める。その結果として、選択肢の1つとして、ロボットを活用した防災・減災システムを議論してもらう」のが、あるべき姿と考える。「PART 1」でも取り上げた「原発安全神話」についても、リスクを社会に開示し、科学的・技術的な議論を経たうえでリスク管理するという基本的な安全リテラシーがあれば、そもそもこのような絶対安全などという考えは存在しなかったはずで、今回の原発災害により適切に対応できただろう。

  こうした長期の取り組みと併行して、いまからできる取り組みとして、ロボット研究者および技術者は、災害対応ロボットを国民に語ってほしい。特にそれが備えるベネフィットを、今後の研究ビジョンとともに語るべきである。災害対応ロボットの認知度はまだまだ不足しているうえ、(現時点では)まだまだ役に立たないという考えが根強いという理由もある。

 今回の東日本大震災ならびに福島原発災害に向け、複数のロボットが活用された。ただし、その活躍の場は非常に限られており、前者への対応では、水中ロボットによる行方不明者の探索や港湾の調査で、後者では遠隔操作ロボットによる線量計測や原発建屋内での清掃作業で使われた程度である(一般人がロボットと認識していない「無人化施工」を除くと)。特に後者では、高レベルの線量下での活動でありながらも、作業のほとんどを人に依存しなければならないのが実情で、人の方が効率的だからとして「ロボットは不要」または「使えない」といった声さえ囁(ささや)かれる。確かに、現時点をもってすれば、人が行う方が現在の作業課題に対し最適解となるかもしれない。

fig.3-1.PNG

 東日本大震災および福島原発災害で利用されたロボットの例

 しかし、長期的な視点に立てば、決して最適解にはなり得ない。今回の原発災害で決死の覚悟で対応に当たった作業者が、数年後にどのような後遺症を発症するのかは、現時点では誰にも明確にはわからない。仮に、何らかの重篤な後遺症に悩まされれば、すなわち貴重な労働力の喪失になる。また、そうなった場合は、手厚くかつ数十年にもわたり補償がなされるべきで、国費で、つまり社会全体として、国民1人ひとりが支援し続けなければならない。結果、社会コストの増大(あえて直接的に表現した)につながる。
 災害対応ロボットが備えるベネフィットは、刹那的に捉えれば作業者の命や安全性の確保になるだろうが、長期的な視点で捉えれば貴重な労働力の維持ならびに社会コストの低減になる。このような極限環境分野のロボットの実用化には時間を要するかもしれないが、長期的な視点に立てば安くつくどころか、誰もがハッピーになれる。だからこそ、リスク管理の観点から開発・配備しなければならないのだが、こう捉えれば国全体としてもっと前向きに取り組めるのではないだろうか。

 現在、米国では今後、有人戦闘機を開発する場合は「有人である必然性」を証明することが求められ、開発の主流は「Predator(プレデター)」など無人戦闘機に移行している。イラクで多数の兵士が死亡し、国民感情がナーバスになっているうえ、兵士遺族への死亡退職金などが増大しているのがおもな理由である。話の次元は違うかもしれないが、これと同様に説得力をもって災害対応ロボットの研究開発の必要性を謳えるはずである。

 ロボット研究者および技術者は自身の研究を理解しているからこそ、こうしたベネフィットを広く語る責務も負っているはずで、そうした意味では、今年3月に組織化された超学会組織「対災害ロボティクス・タスクフォースROBOTAD)」には、各マスコミと連携しつつ取り組んでほしい。国民の理解と選択さえあれば、危機管理の観点から計画的な国プロの立案は可能で、これらを支えに関連技術の高度化が達成され、あらゆる天災・人災に強い、安心できる社会づくりの一助になると考える。

捕捉:災害対応ロボの導入に至った神戸市

 神戸市は2010年度末に、国際レスキューシステム研究機構が開発した災害対応ロボット「UMRS2010」を購入した。阪神淡路大震災のような直下型地震の発生時に、ビルや地下街など閉鎖空間における先行探査や要救助者の探索などを目的に開発されており、神戸市の事情に合致する。長田区に設置した「神戸ロボット工房」での展示を通じた啓蒙や、神戸市消防局での運用訓練に役立てることを計画している。財政状況が厳しい中、導入に至った直接的な要因は投資判断ができる行政担当官がいたからだが、住民サービスとして「安心・安全」を提供しようとする政策に理解を示し、そうした判断を支持する神戸市民の防災・減災へのリテラシーの高さが下支えとなっている。加えて、そうした政策への理解に向け、10年以上にわたり支援している「レスキューロボットコンテスト(レスコン)」の開催を役立てている(レスコンでのミッションの様子)。

fig.3-2.jpg

 レスコンは、その名の通り、災害救助を題材としたロボットコンテストで、レスキュー技術の評価と訓練を目的とした実験という想定のもと、大学生らが設計・製作した遠隔操縦型ロボットなどにより、1/6スケールの被災した街の模型の中から要救助者を模擬したダミー人形を救出し、連れ帰るミッションに挑む。また、防災やレスキューの啓発および広報も目的としており、競技参加者に加え、観客(神戸市民や兵庫県民)にもその大切や難しさを考えてもらうことに重きを置いている。それゆえに、単にポイントを競うのではなく、レスキューに対する姿勢や、それにもとづいたロボットの設計・製作も評価している(今年の本選の様子はこちら)。

 当然、学生を対象としたコンテストであるため、高性能な災害対応ロボットが登場することはない。しかし、神戸市では阪神淡路大震災を経験して以降、震災発生後の円滑な対応に向け、救命救助活動および機器(資機材)に関する啓発や広報も必須であるとの考えを抱いており、これに未来の救助活動をイメージさせるレスコンを活用し、かつ支援という努力を惜しみなく行っている。結果、災害対応ロボットへの理解が進み、それへの予算投入を可能にした。

 2010年4月に、総務省により救助隊の編成、装備および配置の基準を定める省令改正がなされ、特別高度救助隊および高度救助隊による「検知型遠隔探査装置」の配備が推奨された。つまり、遠隔操作式の災害対応ロボットの配備である。あくまで地域の実用に応じて導入するものであり、義務づけているものではないが、すでに配備していた東京消防庁を除き、現在のところ神戸市以外の自治体で配備に向けた動きは見られない。
 もちろん、災害対応ロボットを導入する以前に、災害に強い街づくりに向け耐震改修などインフラの再整備を「事前の対策」として行うと同時に、「事後の対策」として、有事に備えた条例改正を行ったり、消防隊員を増強したり新たな資機材を導入したりするといった方策がなされるべきである。しかし、総務省より配備が推奨されたのは、そうした方が望ましいと思われる地域があると判断されたからで、こうした自治体では防災・減災へのリテラシーを下支えに、その予算付けに向け住民の理解と選択を求めるべきだろう。  (ロボナブル編集部 今堀崇弘)


【参考文献】
[1]日本ロボット工業会,日本機械工業連合会,“平成12年度 21世紀におけるロボット社会創造のための技術戦略調査報告書”,2001.

 

<< back                              >> next
 

特集コンテンツ一覧

プロローグ
:ロボット活用の防災・減災システムへの理解を得よう

PART 1  ロボット大国と原発安全神話の真偽
―災害対応ロボの開発では遅れをとっている/安全神話が開発や配備を阻んだといい切れる?/原発災害対応ロボの必要性を報じてきたか?

●PART 2  ロボット研究者・技術者は国民との対話を
―災害対応ロボットの継続的な研究開発に向け
●PART 3  災害対応ロボの実用化に向け
―世界の救助センター構想より(8月末掲載予定)

※掲載にあたりタイトルを一部変更しています。

福島原発災害対応関連の記事一覧
 【2011/03】
03.18 原子力安全技術センター、福島原発に放射線測定ロボット投入へ 
03.29 放射性物質のモニタリングに探査ロボを活用へ、検討が具体化 
03.30【第2報】原発の調査・放射能の計測に探査ロボ活用、近く試験を実施 
 

【2011/04】
 04.05 ゼネコン各社、無人建機で危険域復旧へ、福島原発に投入 
 04.06 IRSなど、原発内での探査活動に向け探査ロボに追加機能を搭載 
 04.07【第3報】原発へのロボ投入に向け、統合連絡本部内チームで本日初会合 
 04.08 東芝、福島原発の燃料棒取出で連携、ロボ運用実績のある米企業と計画案 
 04.08【第4報】福島原発にロボ投入向け、プロジェクトチームが初会合 
 04.12 原発の復旧作業に向け複数ロボによる作業プロセスとしての提案が必須 
 04.15【第5報】原発建屋内の作業に向け国内ロボットを近く投入へ
 04.17【第6報】東電、原発建屋内の調査に米国製ロボ投入、運用実績を重視
 04.22 IRS、クインスの原発建屋内への投入に向け24日に緊急記者発表会
 04.24【速報】IRS、原子炉建屋内の調査に向けQuince再改造、投入時期は未定
 04.25 仏アルデバラン、対災害ロボの開発を発表、専用ロボの開発にも注力
 04.28 原発被害のリスクを考慮し、開発戦略の再考が必要、東大・淺間教授
 04.28【第7報】東京電力、福島原発にクインスとタロンの投入を決定
 04.28 日立と三菱重工、福島原発の事故対策で協力、特殊フォーク開発
 

【2011/05】
05.02 仏アルデバラン、2012年までにケンタウルス型の対災害ロボ開発へ 
05.11 東京電力、瓦礫除去にキネティック社のボブキャットなど投入
05.12 千葉工大、原発建屋内の線量マップの作成へ、追加改良のクインス公開
05.16 20Svあるいは30Svに達した時点で電子部品を交換、リモコンPTが推奨
05.17 原子力機構、原発建屋内の作業に向けロボを改造、6月には投入へ
05.20 三菱重工、放射線遮断特殊フォークを公開、福島原発に投入へ
05.26 千葉工大などのクインス、近日中に福島原発に投入へ 
 

【2011/06】
06.08 千葉工大などのクインス、10日に福島に移送、汚染水を採取 
06.09 クインスによる原発建屋地下の汚染水の調査と採取に向けた方策
06.21 原子力機構、原子炉建屋内の線量計測向けロボ開発
06.27 クインス、24日のミッションは水位計センサの投下に至らず
 

【2011/07】
07.07 東電、窒素封入を確認できず、ロボと高所作業車で撮影を試みる
07.09 東電、線量計測にクインス利用、窒素封入接続個所は作業者が確認
07.12 東電、クインスのミッション公開、不具合が発生するも自力で戻る
07.17 東電、8日実施のクインスのミッションの様子を動画で公開
07.27 東電、クインスによる3号機原子炉建屋内の線量計測を公開
 

【2011/08】
08.24 東電、26日にも燃料上部から直接冷却へ、Quinceの調査結果を生かす

 

東日本大震災関連の記事一覧
【2011/03】
03.19 京大の松野教授、八戸工大でレスキューロボによる調査活動へ
03.24 NEC、外壁のひび割れ可視化する赤外線サーモグラフィを被災地に貸与
03.27 長岡技科大、レスキューロボで貴重品を探査するボランティア開始
03.28 復旧に向け探査ロボのニーズがある、松野京大教授、調査を振り返る
 

【2011/04】
04.06 IRS、宮城県三陸町で水中ロボットによる行方不明者の捜索へ
04.11【急募】東工大の広瀬教授、海中探索プロ提案、船の提供を呼びかけ
04.11【第2報】IRS、岩手県宮古市から陸前高田市の港湾内で水中探査へ
04.13【内容変更】東工大の広瀬教授、海中探索プロ提案
04.15 キャタピラージャパン、気仙沼で瓦礫処理の実証実験を開始
04.17【第3報】IRSと米国の合同チーム、水中ロボで行方不明者を探索
04.23 消防の指示のもとロボ探索に伴う住居侵入は正当業務、小林弁護士
04.25 IRSなど、水中ロボによる探索活動を報告、行方不明者の発見に至らず
 

【2011/05】
05.09 千葉大の野波教授ら、無人ヘリで被災地を空撮、避難住民に提供へ
05.27 産総研の柴田研究員、避難所向けパロの導入・運用マニュアル開発へ
 

【2011/06】
06.02 京大、走行しながら線量マップを作成できる車載型システム開発
06.03 北大、作業服一体型のスマートスーツ・ライトを被災地に大量投入へ
06.06 IRS、神戸市に納品したレスキューロボ公開、操作性を大幅に改善
06.11 東大の鈴木教授ら、無人飛行機で千葉県の津波被害を調査
06.15 神戸市消防局、IRSの旧型災害対応ロボ、現場投入は困難と評価
06.16 大和ハウス、被災した高齢者へパロ50体を無償貸与
06.16 JST、東日本大震災に関連する研究を支援、IRSの水中ロボ探査など採択
06.18 クインス、20日午前に福島原発に移送へ、3号機原子炉建屋から投入
06.24 災害対応ロボ活躍のカギは、未知の環境で動かす準備と訓練を積むこと
 

【2011/07】
07.01 東大など、7月上旬に被災地で海底ロボ探査を実施、漁業の再開を支援
07.14 ホンダ、震災被災地でASIMO特別事業を開催、今回で4回目
07.29 IRS、8月1日にクローラ型ロボと飛行ロボによる情報収集活動を報告
 

【2011/08】
08.02 東北大、クローラ型と飛行型ロボで被災建物の3次元地図の生成に成功

 

学会関連の動向 
【2011/04】
04.05 ロボット学会など、ロボ技術の震災復興と原発災害への適用に向け声明 
04.09 対災害ロボTF、ブログ立ち上げ、災害対策ロボ情報を発信
04.16 対災害ロボTF、5月2日にシンポ開催、東北大の田所教授らが活動を紹介
 

【2011/05】
05.02 対災害ロボティクスTF、シンポジウムをUSTREAM上でライブ中継
05.08 実績のあるものから使うのが妥当、産総研・比留川部門長



好評連載がついに書籍化!


―東大研究者が描く未来―


国内外の事業例を解説


消費者が描く未来生活を紹介