災害対応ロボの開発では遅れをとっている
わが国では、過去にロボットの応用分野や要素技術ごとに米国と欧州との比較による国際競争力が何度か分析されている。代表的な資料を参照すると、2001年発行の『平成12年度 21世紀におけるロボット社会創造のための技術戦略調査報告書』〔日本ロボット工業会(JARA)、日本機械工業連合会編〕では、製造業の分野で競争力が高いことを背景に、「総じて競争力が高い」としながらも非製造業分野(非産業用ロボット)は「必ずしも高くない」と評価している。
本特集がテーマとする災害対応および原発災害対応ロボットに言及すると、前者は米国と欧州が「平均レベル」なのに対し、わが国は「競争力が弱い」。後者は(「報告書では「原子力ロボット」と表現)は、米国と欧州の「競争力あり」に対し、わが国は「平均レベル」と分析している(表1)。関連する要素技術についても分析しており、「移動技術(クローラ)」は欧州が「競争力あり」に対し、日本と米国は「平均レベル」、「遠隔操作機構・制御」は米国と欧州が「競争力あり」に対し、日本は「平均レベル」としている(表2)。
ここでの国際競争力とは、製品開発力に加え、市場をプロモートする力や他国に輸出する力、国内で他国を越える製品市場を持つ力を加味した評価(*1)である。
*1:本来であれば、同報告書の評価基準を紹介したいところだが当時、取りまとめを担当されたのは、2007年6月に逝去された首都大学東京の谷江和雄教授(元産業技術総合研究所 知能システム研究部門長)であり、また、検討に参加された当時の先生方も所属変更などされている事情から、コンタクトをとるのが難しいとJARAより報告を受けている。

表1 ロボット分野の国際競争力比較(応用技術)[1](「平成12年度 21世紀におけるロボット社会創造のための技術戦略調査報告書」より引用・転載)

表2 ロボット分野の国際競争力比較(要素技術)[1](災害対応に深く関連する要素技術のみを抜粋、「平成12年度 21世紀におけるロボット社会創造のための技術戦略調査報告書」より引用・転載)
また、2007年発行の『平成18年度の特許出願技術動向調査の結果について -Part.1 ものづくり・情報通信-「ロボット」「ズームレンズ系」「半導体洗浄技術」』(経済産業省発行)では、各国特庁への出願件数の上位を日本勢が占めるとしながらも、軍事、宇宙、災害対応、水中・海洋、原子力などの「特殊環境用ロボット」で必須となる(複数ロボットの)制御技術や遠隔操作技術については、米国勢が優位としている。1994~2004年の間に出願された特殊環境用ロボットに関連する特許のうち、米国は43%となる776件を、日本は32%となる563件を出願(欧州を加えた総数は1,782件)。出願の伸び率については、制御技術は米国の2.23に対し日本は1.89、遠隔操作技術は米国の2.55に対し、日本は1.10にとどまっている。
これらの報告書および調査結果をそのまま踏まえると、わが国は災害対応および原発災害対応ロボットと関連技術で競争力を備えているとは言い難く、欧米に比して、国全体の取り組みとして開発に熱心とも言い難い。したがって、すべての応用分野に対し「ロボット大国」と表現するのは正しくないし、特に原発災害対応ロボットを含む災害対応ロボットについては、前述の報告書で加味されている市場をプロモートする能力や製品市場を持つ力に欠けており、今回の災害で“使えるロボット”を即提供できなかったことに納得させられる。
最近の状況にも触れておくと、科学技術振興機構(JST)研究開発戦略センターが取りまとめた『科学技術・研究開発の国際比較 2011年版(電子情報通信分野)』では、災害対応ロボットを含む「フィールドロボット」を、日本の「研究水準」は「○」、「技術開発水準」は「◎」、産業技術力は「○」と評価したのに対し、米国はそれぞれ「◎」「◎」「○」、欧州はそれぞれ「◎」「○」「○」としている。IRSなどの「Quince(クインス)」の不整地走行や環境情報の取得技術、「はやぶさプロジェクト」による小惑星のサンプリング技術などを高く評価し、総合的な日本の技術開発水準を米国と同等の「◎」にしている(表3)。

表3 フィールドロボットにおける日本と米国、欧州の比較(表の構成にはアレンジを加えている)[3]
しかし、産業技術力の「トレンド」については、日本のみを減退傾向を示す「↓」としており、技術開発が継続的になされていないことを問題視している。また、研究水準についても研究費が不足し、何らかの公的なプロジェクトに依存せざるを得ない状況も課題にあげている。
一方、米国については「小型軽量の不整地移動ロボットの軍事用での有用性が見いだされ、『現場で使えるロボット』が複数の企業で量産されている。(中略)使えるロボットとしては、他国の追随を許さない」と高く評価している。技術開発の水準が高度化した以外は、上述の報告書および調査結果を踏襲したかのような分析内容となっている。
これがわが国の災害対応ロボットの実態(正体)であり、このまま何もしないままでいると、上述の報告書(2001年)が言及していた10年後である現在(2011年)のように、さらに10年後も災害現場で“使えるロボット”を用意できず、国際競争力を持ち得ないままでいる可能性を否定できない。
安全神話が開発や配備を阻んだといい切れる?
「原発事故は起きない!」「活用場面はないから不要!」
原発災害対応ロボットが配備されなかった主因を原発安全神話に求める記事では、こうした言葉が電力会社側から発せられたと、ロボット研究者のコメントとしてよく引用している。そして、東京電力の“想定の甘さ(=絶対安全)”を断じる論旨が展開されている。確かに、一連の福島原発災害をめぐる東京電力の「事前」および「事後」の対応(特に津波被害による非常用発電装置やポンプなど冷却機能の喪失など)を見ると、原発安全神話から来る想定の甘さに起因する事象が数多くあったが、同様に、原発災害対応ロボットが配備されていなかったことの主因にするのには無理がある。
各マスメディアで報道されているように、電力会社が原発安全神話を盾に不要論を展開していたのかというとニュアンスが異なる。1999年9月の東海村JCO臨界事故の後、同年度の二次補正予算で実施された「原子力防災支援システム開発補助事業」で、取りまとめを担当した当時、製造科学技術センター(MSTC)ロボット技術開発室の濱田彰一室長(現・日本ロボット工業会 技術部長)によると、「すぐには要らない」が電力会社側からのコメントであり、「さすがに、今回のような(レベル7に相当する)大事故は想定外と信じていたが、原発が(絶対)安全と信じきっていたわけではない」と振り返る。
また、電力会社への直接的な規制はできないものの、原発の安全性確保に向け審議・決定を行う原子力安全委員会(*2)では、原発へのロボットの配備ついて好意的な見解を示している。長岡技術科学大学の木村哲也准教授によると、例えば2004年7月に「原子力重点安全研究計画に関する意見について」でのパブリックコメントに対し、次のようなやり取りがなされたことが明らかにされている。
《意 見》
「(略)JCO事故後の事故対応ロボットの継続発展の考慮をされたい」
《回 答》
「(略)今回の計画が主として安全規制の面から策定したものであるため、それを具体的な項目として記載していませんが、原子力安全委員会としても防災対応のための遠隔操作ロボット等の開発の重要性は認識しており、こうした技術が確立し、原子力防災において利用可能になることは非常に望ましいと考えています」(全文はこちら)
配備に至らなかったという結果は変わらないだろうし、同委員会が立場上、好意的なコメントするのは当然といえよう。が、少なくとも原発安全神話を盾に配備しなかったと結論づけるのには違和感がある。
*2:同事業では、円滑な推進と重要事項の審議を行うために「原子力防災支援システム開発推進委員会」が設置され、委員長には現在、原子力安全委員会で委員長を務める斑目晴樹氏(当時 東京大学)が就いていた。同委員会の下に「技術水準調査ワーキンググループ(WG)」と「技術WG」、「施設WG」、「実証試験打合会」が設けられ、技術WGのリーダは産業技術総合研究所の谷江和雄ロボット工学部長(当時)が、施設WGのリーダは原子力発電技術機構(原子力安全基盤機構に一部事業が移管)の小川修夫理事(当時)がそれぞれ務めた。開発の委託先はMSTCであり、原子力発電技術機構と東芝、日立製作所、三菱重工業、仏サイバネティクス/日商岩井に再委託された。
「3.11」以降、同事業は「幻の原発ロボット」とよく取り上げられるが、そもそも幻で終わった主因は、当時の国プロのスキームのまずさと実用化シナリオの欠如にある。
ここ数年、経済産業省が主導するロボット関連プロジェクトでは、「サービスロボット市場創出支援事業」(2006~07年度)などのように、実用化や事業化を意識したプロジェクトではユーザー(候補)企業が必ず参画している。しかし、同プロジェクトでは開発後に実施した2001年3月の実証試験の段階で、ようやくユーザーとなる電力会社に公開している。たとえ実証試験で、東海村JCO臨界事故で実際に人が行った作業内容の一部を(*3)示して見せたとはいえ、このようなスキームでは電力会社が配備しようとしたり、開発予算を付けて機能強化を図ったりするという経営判断を下すのは難しい。配備に向け強制力を伴うものでなければ、開発成果を継承して改良・改善を加えるという判断すらできないだろう。
また、濱田氏によると、同事業の関係者は2001年6月11日に運用を開始した国土交通省「防災センター」に組み込まれると考えていたようだが、2001年度以降はロボットには予算付けがなされず、情報システム系のみが、それに継承された。1999年度の二次補正予算により2000年1月の交付決定(旧・通商産業省)から1年程度で開発(実際の設計から組立までの期間は約7カ月)しておきながら、その後の実施計画がないというのは実用化シナリオの欠如を露呈しており、まずは、これに原因を求めるのが自然ではないだろうか。
2002年12月には「実用化検討評価委員会」が開催され、ここでことごとく「性能不十分」と評価されたことが各マスコミで問題視されたが、この段階では、もはや開発成果は宙に浮いた状態となっており、廃棄に向けた理由づけのためになされた儀式に過ぎない。

図1 原子力防災支援システム開発補助事業で開発されたロボットの一例(一部の写真はIRSより提供)
*3:2001年3月22日と23日に機械振興協会で実施した作業実証は次の通りである。(1)耐高放射線対応ロボット「MENHIR」(仏サイバネティクス社/日商岩井)により重量物を、重量物運搬用ロボット「MARS-T」(三菱重工)に積載する。(2)詳細監視ロボット「SMERT-M」(東芝)によるドア開閉作業(SMERT-Mが取り付けたドア開閉ツールがドアを開放する)、続いて、MARS-Tがドア部を通過して階段を昇降。(3)MENHIRにより配管穴あけ部からエアを注入、小型軽作業ロボット「SWAN」(日立)が1インチバルブを開操作し、エアベントを実施。(4)(3)のMENHIRの作業時に、MENHIR側から見えないため小型監視ロボット「SMERT-K」が配管裏側から目視により、位置決めにより必要な情報を提供する。(5)作業ロボット「MARS-A」による作業時も、工具の位置決めに必要な情報をSMERT-Kから得る。(6)SWANによるドア開閉作業、MENHIRによる配管切断作業、MARS-Aによる狭隘通路の通過などを実施する。
同事業以降にも「プロローグ」で述べた通り、文部科学省により日本原子力研究所〔現・日本原子力研究開発機構(JAEA)〕にて「RESQ-A」「同B」「同C」および「RaBOT」(*4)が、原子力安全技術センターにて「防災モニタリングロボット(モニロボ)A」「同B」がほぼ同時期に開発。モニロボに至っては、2010年度も航空機サーベイシステムと合わせて2億5,900万円の予算計上がなされるなど、長期にわたり予算がつけられている(維持管理費が大半だが)。そもそも原発安全神話の立場をとっていれば、このような予算計上がなされるはずはないだろう。ましてや、このような立場をとるならば本来、事故の発生をイメージさせる原発災害対応ロボットの存在は秘匿しておきたいはずで、原子力教育支援情報提供サイト「あとみん」や「サイエンスチャンネル」を通じた広報活動や、2006年10月26日に実施した、四国電力伊方原発での放射能漏れ事故を想定した原子力総合防災訓練で2台のモニロボを出動させたことを説明できない。このときの訓練には安部晋三首相(当時)がテレビ会議で参加し、現地の本部長に指示を与えていることやモニロボが活動したことが全国紙で報じられている。

図2 日本原子力研究所(当時)と原子力安全技術センターが開発した原発災害対応ロボット
*4:JAEAが所有するロボットには維持管理のための予算付けがなされず、RaBOTは2010年9月に廃棄。RESQ-A~Cは、2004年以降は放置に近い状態となり、「3.11」の直後は可動不能という状態だった。JAEAでは、スウェーデンBROKK社の小型無人建機「Brokk」をベースに屋内瓦礫除去用として「JAEA-1号機」を、RESQ-Aをベースに屋内除染作業用として「同2号機」と屋内ガンマ線可視化計測用として「同3号機」を開発している。今回の震災ではJAEAも被災したため、初動への対応は不可能だったことを明かしている(図3)。そもそも運用訓練を積んでいないため、可動したとしても適切に対応できたかには疑問がある。

図3 「3.11」以降のJAEAの対応一覧(図提供:JAEA福島支援本部 川妻伸二氏)
なお、上述の原子力防災支援システム開発補助事業では、国際原子力機関(IAEA)の国際評価尺度「クラス3」(原子力施設外に影響が及ぶ)以上への適用を想定して開発している。炉心に重大な損傷(炉心の溶融)が生じ、多量の放射性物質を原子力発電所外に放出する可能性のある事故を想定事故とし、原子炉建屋内を適用現場としている。
ただし、「原子力発電施設の『格納容器』内については、いかなる事象が起こってもプラントの『中央制御室』からの遠隔操作にて事象を終息させることが可能なように設計しており、万一、事故が終息しない場合でも鋼製ドーム状の『格納容器』で災害事象を封じ込めることが可能なように設計されている。更に、これらは国の定めた規則に則り設計認可を得、また、国の定めた製作要領に沿って製作され検査を受けているため『格納容器』内で発生した災害事象に対して、初動作業としてロボットシステムを適用することは考えられない」(平成11年度原子力防災支援システム開発補助事業成果報告書より)としている。
今回は、格納容器内での災害事象の封じ込めができなかったが、これは報告書でも記されている通り、ロボットではなく原子力プラントそのものが担うものである。現在技術を持ってしても、ロボットの投入により水素爆発や高濃度汚染水の流出など原発災害の最小化(あるいは防止)に直接役立ったわけではない。これらが廃棄されていたことを問題視し、配備されていれば最小化されたかのような論調が一部でなされているが(*5)、そうではなく、ロボットは「事故終息に向けた早期対応」や「作業員の被曝量の防止」に寄与したと表現すべきである。加えて、原発安全神話による想定の甘さを指摘するのであれば、上記の発電施設の設計や設計認可および検査のあり方(さらには災害時の作業マニュアルの不備など)など管理不行き届きを問うべきだろう。
*5:同事業で開発されたロボットが廃棄されたことに対し「無駄遣い」との指摘がなされているが、一部は現場技術者や研究者の努力により開発成果が役立てられている。日立の「SWAN」と三菱重工などの「MARS-A」「同B」は、国際レスキューシステム研究機構(IRS)とMSTCによる防災ロボットの共同研究に役立てられている。また、MARS-Aと同BはRaBOTの開発に役立てられ、コストダウンに寄与している(MARSの開発には、東京工業大学の広瀬茂男教授が保有するクローラ型ロボットに関する特許を役立てている)。東芝の「SMERT-M」は急遽、ガンマ線カメラを搭載して、福島原発の1号機原子炉建屋内での線量計測に役立っている(東電広報資料)。
また、同事業では建屋外の災害については、無人化施工技術などにより整地化した後に適用可能と判断している。今回、モニロボが瓦礫に阻まれてアクセスできなかったと報じられたが、同様に、整地化した後に運用することを想定して開発した結果によるものと推測される。
原発災害対応ロボの必要性を報じてきたか?
「3.11」以降、競うように災害対応ロボット、特に原発災害対応ロボットの実用化および配備に向けた課題が取り上げられた。しかし、これはいまになって表出したことではなく、10年前から公知されている。
例えば、先に引用した 『平成12年度 21世紀におけるロボット社会創造のための技術戦略調査報告書』(2001年)では、国プロを通じて欧米の軍事に相当する、競争や市場原理が働く環境づくりの必要性や、危機管理の観点からの極限環境技術の計画的な開発および基準づくりの必要性を強い口調で指摘している。同報告書はソリューションビジネスへの転換を促す「RT(Robot Technology)」技術戦略に加え、2025年にはわが国のロボット産業が約8兆円に成長するとの大胆な市場予測を提示し、数多くのメディアで取り上げられた。ところが、これらの指摘に言及したメディアは1つもなかった。単にニュースバリューがなかったからなのだろうか。
また同年11月に開催された「2001国際ロボット展(iREX2001)」にて「原子力防災支援システム開発補助事業」の成果物がロボット制御盤コンテナなどともに巨大ブースで展示され、このときには配備される可能性がきわめて低い状況となっていたが、ほとんど取り上げられることがなかった。これを扱った記事として確認できるのは、インプレスが運営する「PC Watch」のみで、フランスの政策などと比較しつつ配備体制が構築されるか否かを憂慮するようなコメントで記事を締めくくっている。
iREXの主催者であり、ロボナブルの運営会社である日刊工業新聞社もいっさい取り上げておらず当時、「終面」の特別企画で取り上げたのは、ソニーの「AIBO(アイボ)」のほか、バンダイやタカラとトミー(当時は統合前)などのエンターテイメントロボットである。実装するアプリケーションの高度化や多様化などビジネスの活性化に向け、ソフトウエアウエアプラットフォーム(AIBOでいえば「Open-R」)の公開や、ソフトウエアコンポーネントの仕様の標準化などの課題を提起している。当時、AIBOやホンダの「ASIMO(アシモ)」が人気を博しており、それに誘発されるかのようにパーソナルロボットやエンターテイメントロボットへの注目が飛躍的に高まっていたことを踏まえ、こうした記事になったのだろう(図4は当時の記事で掲載された写真、特別企画「エンターテイメントロボットゾーン」で実施されたロボリンクフォーラムの様子)。
同事業を取りまとめた前述の濱田部長は、配備されない方向で話が進展している状況に対して疑義を唱えたとし、「(本来であれば)各マスコミを集めて問題提起すべきだったかもしれない」と述べる一方で、当時、国全体がパーソナルロボットやヒューマノイドに関心が向かっており、「まともに取り上げられなかったのでは」とも振り返る。今から思えばぜひそうしてほしかったが、iREX2001でのメディアの扱いは、濱田氏の見方そのものとなっている。
その後、原発災害対応を含む災害対応ロボットの不備を、米国および独国と対比しつつ問題提起したのは、2005年7月12付けの朝日新聞の夕刊記事のみで、記事データベース(*6)ではいっさい確認できない。
また、学会誌レベルでは、前述の濱田氏が「日本機械学会誌」2003年10月号(Vol.106 No.1019)で、東京工業大学の広瀬茂男教授が「日本ロボット学会誌」2003年3月号(Vol.21 No.02)で、同事業を例に運用体制の不備などを指摘している。広瀬教授に至っては、同事業の顛末に触れつつ国プロの一貫性のなさを強い口調で批判している。学会誌とはいえ、専門紙や専門雑誌を発刊するメディアが広く購読していることを踏まえると、これを参考に取材を進めてもよいはずだが、扱ったメディアは存在しなかった。
*6:朝日新聞社と時事通信社、日刊工業新聞社が運営する記事データベース「キジサク」を参照した。これら3紙のほか東洋経済新報社、ダイヤモンド社、帝国データバンク、日本教育新聞社、モーニングスター、日刊建設工業新聞社、日刊自動車新聞社、日本農業新聞、住宅新報社、日本電気協会新聞部、化学工業日報社、鉄鋼新聞社、じほう、東亞日報社、産業タイムズ社の過去の記事を参照できる。詳細はこちら。
東海村JCO臨界事故を受け、2000年前後には既述のような原発災害対応ロボットが相次いで開発された。ところが、当時のAIBOやASIMOなどの人気に加え、国のロボット政策そのものも2005年の「愛・地球博」をターゲットにしたロボットブームの創出に向け、パーソナルロボットやヒューマノイドを中心に夢の側面を強調するきらいにあった。もちろん、そればかりではなかったが、もともと「大衆工学」といえるロボットの性格上、パーソナルロボットやヒューマノイドの方が一般読者にはアドレスしやすく、こうした世の中の流れが後押しとなり、原発災害対応ロボットの話題を脇に追いやってしまったのだろう(類似の問題は「ロボット開発のデスバレー克服に向け ―顧客価値を捉えた研究開発/報道への転換を」を参照してほしい)。結果、東海村JCO臨界事故の終息とともに、今回の「3.11」まで、原発災害対応ロボットの実用化にかかる問題が取り上げられることはなかった。国内ではじめて事故被曝による死者を出したにもかかわらず。
その時々の世間の関心や風潮がどうであったにせよ、国内のマスコミが安心・安全に直結する技術開発や、その配備に向けた課題に目を向けらなかったのは上述の通りである。ロボットならではの夢の側面を強調することも大切だが、危機管理の観点から、読者の関心度とは別に(切り離して)、ロボットの防災・減災への応用の可能性をきちんと伝え、関心を向けたり議論を促したりする役割をマスコミは担っている。今回、原発災害対応ロボットを巡る報道で電力会社の想定外を断じていたが、マスコミ報道が、それを助長した可能性を否定できない(*7)。 (ロボナブル編集部 今堀崇弘)
*7:日本人特有の自己批判から指摘してものではなく、記事データベースをひと通り参照したファクトをもとに述べたことを断っておく。なお2001年当時は、筆者は「機械設計」誌という技術専門誌の編集を担当していた。iREX2001は取材すらできておらず、論外の対応である。
【参考文献】
[1]日本ロボット工業会,日本機械工業連合会,“平成12年度 21世紀におけるロボット社会創造のための技術戦略調査報告書”,2001.
[2]経済産業省,“平成18年度の特許出願技術動向調査の結果について -Part.1 ものづくり・情報通信-「ロボット」「ズームレンズ系」「半導体洗浄技術」”,2007.
[3]科学技術振興機構 研究開発戦略センター,“科学技術・研究開発の国際比較 2011年版”,pp.150-151,2011.
[4]製造科学技術センター,“平成11年度 原子力防災支援システム開発補助事業成果報告書”,2001.
[5]濱田彰一,間野隆久,“原子力防災支援システムの開発概要”,日本機械学会誌,Vol.106 No.1019,2003.
[6]広瀬茂男,“大衆工学としてのロボット”,日本ロボット学会誌,Vol.21 No.2,pp.138-140,2003.
[7]荒井裕彦,“レスキューロボット・極限作業ロボットに関する議論”RSJ-Forumメーリングリスト,2004.
[8]ビジネス記事データベース「キジサク」,1999.1-2011.8,朝日新聞社,時事通信社,日刊工業新聞社.
[9]今堀崇弘,“顧客価値を捉えた研究開発・報道への転換に向け”,日本ロボット学会誌,Vol.29 No.2,pp.32-35,2011.
特集コンテンツ一覧
●プロローグ
:ロボット活用の防災・減災システムへの理解を得よう
●PART 1 ロボット大国と原発安全神話の真偽
―災害対応ロボの開発では遅れをとっている/安全神話が開発や配備を阻んだといい切れる?/原発災害対応ロボの必要性を報じてきたか?
●PART 2 ロボット研究者・技術者は国民との対話を
―災害対応ロボットの継続的な研究開発に向け
●PART 3 災害対応ロボの実用化に向け
―世界の救助センター構想より(8月末掲載予定)