「PART 1」では、10年前から災害対応ロボットの開発で欧米に遅れをとっていることに加え、「原発安全神話」と原発災害対応ロボット開発との関係性を通じて、国プロの実用化シナリオの欠如により進展しなかったことを述べた。すでに断片的に述べているが、改めて今回の震災に際し“使えるロボット”を提供できなかった理由を考察したい。なお、本稿では研究開発という切り口から考察し、災害対応ロボットを防災・減災システムの一部として社会に普及、展開するという包括的な議論は「PART 3」でさせてもらう。
極限環境分野の技術を育てる方策を
先に引用した『平成12年度 21世紀におけるロボット社会創造のための技術戦略調査報告書』でも指摘されているが、欧米(*1)との比較論で説明すると、両地域では国策市場としての軍需を背景に極限環境分野の技術開発が進展。防災や原子力などの分野におけるロボットの高度化に寄与し、“使えるロボット”の創出につながっている。これに対し、軍事目的の研究開発が難しいわが国では、国プロなどを通じて、それに代わり市場原理が働くような環境や制度を創出することで、民生市場では高度化が難しい極限環境分野の技術開発を推進すべきなのに、それができなかったからとまとめられる。
ここでいう環境や制度とは、「3.11」以降、ロボット研究者などから相次いで指摘されている、万一の災害に備え遠隔操作システムの配備を義務づけたり、定期的なメンテナンスやシステム更新などを制度化したりするなどである。もちろん、一定の技術レベルに到達していることが前提条件となるが、これにより(原発災害対応ロボットを含む)災害対応ロボットの産業化を図り、関連技術の高度化および技術者の育成などを促し、新たなソリューションとして海外展開することで、わが国の産業競争力の強化につながると期待される(*2)。
*1:同報告書では、極限環境分野における欧米の強みとして基礎研究から実用化までを見据えた、一貫した国家プロジェクトに組み込まれ、推進されていることにあると分析している。例えば、米国には具体的な宇宙ロボットの開発計画が存在するとし、「スペースシャトル」(すでに引退が決定)開発をベースとした宇宙実験や惑星探査の計画およびシナリオが立てられており、その中で求められる宇宙ロボットの目標性能(設計仕様)やミッションが規定され、かつ何年に何を行うのかといったことが明確されている。ロボットの基礎研究から応用開発までロードマップがあり、研究成果を結び付けやすいとしている。また筆者は、こうした環境があることは、すなわち計画を遂行する「ビジョナリスト」を育成する土壌となっており、彼らのもとで研究開発がすみやかに展開されるという好循環を生み出していると捉えている。
*2:原発災害対応については、産業競争力懇談会(COCN)の「災害対応ロボットと運用システムのあり方」にて、冷温停止後の燃料棒の取り出しへのロボット技術の適用などに加え、これらを原発災害ソリューションとして海外展開することなどが検討されつつある。
また、わが国のロボット開発の多くは民生市場をターゲットにしている事情から、極限環境での耐性基準の構築が疎かになっていたことも理由にあげられる。この分野の開発は、大規模災害や重大事故などによりニーズが顕在化したときには手遅れであり、リスク管理(日本語でいう「危機管理」に近い意味。以下、同様のニュアンスで用いている)の観点から計画的に技術開発ならびに技術基準を構築しておかなければならない。
例えば、米国では民生品より厳しい「MIL規格」などの技術規格が整備・改訂されており、その存在により、より厳しい耐環境性などの目標設定がなされ、高い信頼性を確保している。米iRobot社の「PackBot」が実装する電子部品も、MIL規格にもとづくDLA(米国国防補給庁)認定部品を使用することで高い耐環境性を有しており、戦地での運用実績が買われ、原子炉建屋内の調査や線量計測に利用された。
ところが、わが国は民生用途と同様、ニーズが顕在化した段階で開発を立ち上げるきらいにある。「PART 1」で紹介した「原子力防災支援システム開発補助事業」はその典型であり、東海村JCO臨界事故の発生を受け急遽、開発したのはよいが、計画的に取り組まれたわけではないため技術規格を構築するという発想すらなかった。それが現在に至り、信頼性で欧米に大きく遅れをとっている。加えて、当時の国プロでは技術シーズの実現や達成に重きが置かれる傾向にあり、技術目標が達成された時点で開発を終了(単発で終わる)するという「悪癖」も助長したと想像される。
災害対応ロボの開発は異なるスキームで臨むべき
上述のように、欧米に比してわが国は極限環境分野の技術開発を進めにくい環境にあるが、そもそも過去に立ち上げたプロジェクトが、災害対応に適したスキームになっていたのかと疑問が持たれる。
災害対応に向けた研究開発は、想定されるリスクに対し、常に先手を打つように推進しなければならない。次の瞬間に発生するかもしれない災害や事故などのリスクに備え、現在の最高水準の技術でもってロボットにまとめ上げる(システムインテグレートする)と同時に、基礎研究および応用研究も推進し、その成果をもとに、定期的にロボットをアップグレードする必要がある。防災対策の戦略変更や都市構造の変化などに伴い、その役割も想定されるリスク(ハザードマップなど)も変化するため、それに合わせて継続的に技術開発を進めていかなければならない。加えて、高い信頼性の確保に向け、先に説明した技術基準づくりを見据えた取り組みも遂行しなければならない。
「PART1」で紹介した原発災害対応ロボットのほかに、過去に災害対応ロボットの高度化に向け「大都市大震災軽減化特別プロジェクト(通称「大大特」)」(文部科学省、2002~06年度)と、その成果の一部を継承した「戦略的先端ロボット要素技術開発プロジェクト」(NEDO、2006~2010年度)が取り組まれた。
前者は、ハザードマップの高度化や既存構造物の耐震性の評価および補強などが含まれるなど包括的なプロジェクトである。リスク管理の観点から望ましい研究項目を掲げていたが、あくまで基盤技術の構築を目的としており、「当面5年程度」(「大大特」資料より引用)の取り組みにとどまった(*3)。後者は、その名の通り、先端的なロボット要素技術の開発や、それを活用することでロボットの適用範囲の拡大を図ることを目的としている。災害対応ロボットは1テーマに過ぎないうえ、配備に向けた仕組みづくり(事業化の意味合いが強い)は委託先の開発グループに委ねている。
*3:IRS内のレスキューチーム「インターナショナル・レスキュー・システム・ ユニット(IRS-U)」の隊長を務める小田原消防署の真壁賢一氏は「『大大特』ぐらいまでは、開発された災害対応ロボットに使えるイメージがあまり持たれなかったが、(Quinceをはじめ)最近の開発成果には、現場で使えるイメージを持てるようになった」とコメントしている。ロボット研究者が「レスキュー工学をはじめ現場作業者の作業内容などを理解し、改善・改良を図った結果」だが、基盤技術の構築を目的としていたために、ニーズを捉えた開発が必ずしもなされていなかったのかもしれない。
民生用途のロボットであれば、委託先企業による事業化を通じて継続的に高度化が図られる。ゆえに、プロジェクト終了の数年後に実用化を促すようなスキーム(予算計上からプロジェクト体制の枠組みまで)であればよいだろう。しかし、災害対応ロボットを対象にした開発支援では、上述のような条件を踏まえると、民生用途に向けたそれと同様のスキームでは“使えるロボット”の輩出には至らない。少ないながらも、持続的にリソース(財源や人材など)が割り当てられる、他の開発支援とは一線を画したスキームで研究開発に臨むべきである。こうした基本的な理解がなく(あったと思うが)、他分野の研究開発と同じノリで取り組まれたたために、「つくっては終わり」というプロジェクトにしかならなかったのではないだろうか。
災害対応ロボットの研究開発は、それで事業化が達成されれば理想的だが、まずはリスク管理の観点から国全体(あるいは自治体)として継続的に取り組まれるべきである。つまり、「電力をはじめ社会インフラの利用により便利さを享受しているのは国民であり、自然災害を含め、その享受に伴い想定されるリスクを国民1人ひとりが受け止め、その低減にかかる(開発)コストを引き受ける」。さらには「関連技術を継続的に育てていく」という意識を、国民1人ひとりに持ってもらい、こうした理解と選択のもとで計画的かつ継続的に災害対応ロボットの開発に取り組まれるべきである(*4)。
ただ残念なことに、国全体として(「PART1」で触れたマスコミ報道の問題もあり)、こうした方向に議論が進まなかった。このような理解と選択がなかったがために、また、非産業分野におけるロボット市場の創出を焦るあまり、安心・安全に直結する研究開発に十分なリソースが割り当てられなかった。結果、災害対応ロボットの分野でわが国は競争力を持ち得ないままでおり、今回の震災に際し“使えるロボット”を備えるに至らなかった。
*4:「PART 1」で示したように、日本も米国も、欧州も、保有技術のほか、それぞれに抱える社会問題、歴史や文化などを背景に、それぞれに得意とするロボットの応用分野や要素技術がある。これらすべてにおいて高い競争力を備えることは、一国のみでは難しく、限られたリソースの中で注力すべき応用分野や要素技術を適切に選択しなければならない。それを直接下したり助言をしたりするのは行政担当でありロボット研究者であるが、国民の理解と選択があってこそ行えるものであり、注力すべき応用分野および要素技術について議論したり声を上げたりできる環境や雰囲気づくりをしていかなければならない。
ロボット研究者・技術者は国民との対話を
このような理解と選択に向けては、本来「学校教育や地域教育などを通じて最低限の安全リテラシーを備えてもらい、防災・減災およびリスク管理などへの理解を深める。その結果として、選択肢の1つとして、ロボットを活用した防災・減災システムを議論してもらう」のが、あるべき姿と考える。「PART 1」でも取り上げた「原発安全神話」についても、リスクを社会に開示し、科学的・技術的な議論を経たうえでリスク管理するという基本的な安全リテラシーがあれば、そもそもこのような絶対安全などという考えは存在しなかったはずで、今回の原発災害により適切に対応できただろう。
こうした長期の取り組みと併行して、いまからできる取り組みとして、ロボット研究者および技術者は、災害対応ロボットを国民に語ってほしい。特にそれが備えるベネフィットを、今後の研究ビジョンとともに語るべきである。災害対応ロボットの認知度はまだまだ不足しているうえ、(現時点では)まだまだ役に立たないという考えが根強いという理由もある。
今回の東日本大震災ならびに福島原発災害に向け、複数のロボットが活用された。ただし、その活躍の場は非常に限られており、前者への対応では、水中ロボットによる行方不明者の探索や港湾の調査で、後者では遠隔操作ロボットによる線量計測や原発建屋内での清掃作業で使われた程度である(一般人がロボットと認識していない「無人化施工」を除くと)。特に後者では、高レベルの線量下での活動でありながらも、作業のほとんどを人に依存しなければならないのが実情で、人の方が効率的だからとして「ロボットは不要」または「使えない」といった声さえ囁(ささや)かれる。確かに、現時点をもってすれば、人が行う方が現在の作業課題に対し最適解となるかもしれない。
図 東日本大震災および福島原発災害で利用されたロボットの例
しかし、長期的な視点に立てば、決して最適解にはなり得ない。今回の原発災害で決死の覚悟で対応に当たった作業者が、数年後にどのような後遺症を発症するのかは、現時点では誰にも明確にはわからない。仮に、何らかの重篤な後遺症に悩まされれば、すなわち貴重な労働力の喪失になる。また、そうなった場合は、手厚くかつ数十年にもわたり補償がなされるべきで、国費で、つまり社会全体として、国民1人ひとりが支援し続けなければならない。結果、社会コストの増大(あえて直接的に表現した)につながる。
災害対応ロボットが備えるベネフィットは、刹那的に捉えれば作業者の命や安全性の確保になるだろうが、長期的な視点で捉えれば貴重な労働力の維持ならびに社会コストの低減になる。このような極限環境分野のロボットの実用化には時間を要するかもしれないが、長期的な視点に立てば安くつくどころか、誰もがハッピーになれる。だからこそ、リスク管理の観点から開発・配備しなければならないのだが、こう捉えれば国全体としてもっと前向きに取り組めるのではないだろうか。
現在、米国では今後、有人戦闘機を開発する場合は「有人である必然性」を証明することが求められ、開発の主流は「Predator(プレデター)」など無人戦闘機に移行している。イラクで多数の兵士が死亡し、国民感情がナーバスになっているうえ、兵士遺族への死亡退職金などが増大しているのがおもな理由である。話の次元は違うかもしれないが、これと同様に説得力をもって災害対応ロボットの研究開発の必要性を謳えるはずである。
ロボット研究者および技術者は自身の研究を理解しているからこそ、こうしたベネフィットを広く語る責務も負っているはずで、そうした意味では、今年3月に組織化された超学会組織「対災害ロボティクス・タスクフォース(ROBOTAD)」には、各マスコミと連携しつつ取り組んでほしい。国民の理解と選択さえあれば、危機管理の観点から計画的な国プロの立案は可能で、これらを支えに関連技術の高度化が達成され、あらゆる天災・人災に強い、安心できる社会づくりの一助になると考える。
捕捉:災害対応ロボの導入に至った神戸市
神戸市は2010年度末に、国際レスキューシステム研究機構が開発した災害対応ロボット「UMRS2010」を購入した。阪神淡路大震災のような直下型地震の発生時に、ビルや地下街など閉鎖空間における先行探査や要救助者の探索などを目的に開発されており、神戸市の事情に合致する。長田区に設置した「神戸ロボット工房」での展示を通じた啓蒙や、神戸市消防局での運用訓練に役立てることを計画している。財政状況が厳しい中、導入に至った直接的な要因は投資判断ができる行政担当官がいたからだが、住民サービスとして「安心・安全」を提供しようとする政策に理解を示し、そうした判断を支持する神戸市民の防災・減災へのリテラシーの高さが下支えとなっている。加えて、そうした政策への理解に向け、10年以上にわたり支援している「レスキューロボットコンテスト(レスコン)」の開催を役立てている(レスコンでのミッションの様子)。
レスコンは、その名の通り、災害救助を題材としたロボットコンテストで、レスキュー技術の評価と訓練を目的とした実験という想定のもと、大学生らが設計・製作した遠隔操縦型ロボットなどにより、1/6スケールの被災した街の模型の中から要救助者を模擬したダミー人形を救出し、連れ帰るミッションに挑む。また、防災やレスキューの啓発および広報も目的としており、競技参加者に加え、観客(神戸市民や兵庫県民)にもその大切や難しさを考えてもらうことに重きを置いている。それゆえに、単にポイントを競うのではなく、レスキューに対する姿勢や、それにもとづいたロボットの設計・製作も評価している(今年の本選の様子はこちら)。
当然、学生を対象としたコンテストであるため、高性能な災害対応ロボットが登場することはない。しかし、神戸市では阪神淡路大震災を経験して以降、震災発生後の円滑な対応に向け、救命救助活動および機器(資機材)に関する啓発や広報も必須であるとの考えを抱いており、これに未来の救助活動をイメージさせるレスコンを活用し、かつ支援という努力を惜しみなく行っている。結果、災害対応ロボットへの理解が進み、それへの予算投入を可能にした。
2010年4月に、総務省により救助隊の編成、装備および配置の基準を定める省令改正がなされ、特別高度救助隊および高度救助隊による「検知型遠隔探査装置」の配備が推奨された。つまり、遠隔操作式の災害対応ロボットの配備である。あくまで地域の実用に応じて導入するものであり、義務づけているものではないが、すでに配備していた東京消防庁を除き、現在のところ神戸市以外の自治体で配備に向けた動きは見られない。
もちろん、災害対応ロボットを導入する以前に、災害に強い街づくりに向け耐震改修などインフラの再整備を「事前の対策」として行うと同時に、「事後の対策」として、有事に備えた条例改正を行ったり、消防隊員を増強したり新たな資機材を導入したりするといった方策がなされるべきである。しかし、総務省より配備が推奨されたのは、そうした方が望ましいと思われる地域があると判断されたからで、こうした自治体では防災・減災へのリテラシーを下支えに、その予算付けに向け住民の理解と選択を求めるべきだろう。 (ロボナブル編集部 今堀崇弘)
【参考文献】
[1]日本ロボット工業会,日本機械工業連合会,“平成12年度 21世紀におけるロボット社会創造のための技術戦略調査報告書”,2001.
特集コンテンツ一覧
●プロローグ
:ロボット活用の防災・減災システムへの理解を得よう
●PART 1 ロボット大国と原発安全神話の真偽
―災害対応ロボの開発では遅れをとっている/安全神話が開発や配備を阻んだといい切れる?/原発災害対応ロボの必要性を報じてきたか?
●PART 2 ロボット研究者・技術者は国民との対話を
―災害対応ロボットの継続的な研究開発に向け
●PART 3 災害対応ロボの実用化に向け
―世界の救助センター構想より(8月末掲載予定)

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