連載 モノづくりを、サービスを変革する挑戦者たち

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モリマシナリー
取締役社長 森 徹
〒701-2434
岡山県赤磐市仁堀東1383
http://www.mori-machinery.co.jp/japanese/

 

 「柔らかい」「不定形」「超微小」・・・。このようなワークは、機械設計の世界では「難供給ワーク」とされ、専用治具を用意したりワークに何らかの作用を加えたりすることで安定化する方法が採られる。また、ここに機械設計の醍醐味があり、ベテランエンジニアの"飯の種"になっている。

 モリマシナリーは、こうした手法を一切使わずに、重量25kgにもなる柔軟かつ不定形な樹脂袋のハンドリングに成功し、パレットから荷下ろしができる「ディパレタイジングロボット」として発表した。特殊構造のエンドエフェクタにより、袋を左右の両側から抱え込むようにしてハンドリングする。約80kgに及ぶ把持力により樹脂袋は大きく変形するが、それでも安定して把持し続けることができる(動画)。
これほど重い樹脂袋をハンドリングできるロボットシステムの開発は極めて珍しい。それだけエポックであり、セメント袋や穀物袋のハンドリングなど多方面での利用が期待されている。

動画 積み上げられた樹脂袋の荷下ろし作業が行えるディパレタイジングロボット。

 

試作・検証のすえに最適な構造に到達

 モリマシナリーは、金属ロール成形機やATC(自動工具交換装置)に加え、舶用エンジン部品や自動車部品などを一貫生産する総合機械メーカーである。成形機事業部や成形ロール事業部、省力機械事業部など計7つの事業部から構成され、様々な開発案件に対応できることを強みとする。

 ディパレタイジングロボの開発は、岡山県産業振興財団などの主催によるニーズ発表会で、大手石油化学製品メーカーとのビジネスマッチングしたことに端を発する。同メーカーでは現在、パレットからの樹脂袋の荷下ろし作業を2人1組の作業員で行っている。1つのパレットだけでも40袋(1段5袋×8段)、計1トンもあり、作業者にかかる負荷は尋常ではない。その作業のロボット化に対し開発依頼が寄せられた。現在は、「ものづくり中小企業製品開発等支援補助金(試作開発支援事業)」に採択され、開発に取り組んでいる。

 開発したシステムは、おもに安川電機製の6軸垂直多関節ロボット「MOTOMAN-HP165D」と独自開発のエンドエフェクタ、レーザレンジファインダ(LRF)、架台、位置データ作成用ソフトウエア(岡山大学とダイコーテクノが開発に協力)から構成される。架台上部のLRFで積み上げた樹脂袋の位置および形状を認識してから作業を行う(写真1)。MOTOMAN-HP165Dは可搬重量が165kgもありオーバースペックだが、コストパフォーマンスに優れるうえ様々な検証に耐えられるとの判断から使用した。製品版では、異なるロボットを使用する可能性がある。

写真1(c).png写真1(d).JPG写真1左:ステンレス棒の構成。上側は補強用。下側の2本は左右に配置してあり、これにより把持対象の樹脂袋に加え、それ以外の樹脂袋にも滑らかに接触することを可能にしている。写真1右:ハンドリング時の樹脂袋の不規則な変形に追従できるよう、上下・左右に微妙に可動できる構造にしている。

 システムの核となるエンドエフェクタは、左右3本ずつ配置したステンレス棒の開閉動作で把持する。補強用の1本を除き、残り2本は左右に配置してあり、これにより把持対象の樹脂袋に加え、それ以外の樹脂袋にも滑らかに接触する。他列の袋を傷つけずに袋の底部まで滑らかに入り込むことができる〔写真1(左)〕。
 開発当初は、1本の棒で樹脂袋を把持しようとしていた。把持対象の樹脂袋には形状に沿って回転することで滑らかに接触できる一方、他列の袋に対しては逆回転となり、袋の底部まで入る込むことができなかった。袋を傷つける原因になっていた。一見すると簡素な設計変更に思われるが、試作・検証を繰り返したすえに到達した最適解である。

 開発時の苦労に関連すると、把持方法には真空吸着方式(写真2)と双腕ロボット(写真3)の活用も検討し、試作を行った。断念した理由は、前者は樹脂袋の変形により十分な吸着力が得られないから、後者は双腕ロボットが高価なうえ荷下ろしできるエリアが制限されるから、である。「『左右から袋を把持せざるを得ないだろう・・・』との結論は見えていたようだが、経験のないワークだったため、あえて試作して検証した」(ロボット・専用機部の鈴木洋次氏)という。
 冒頭でも、このような重量物で、柔軟かつ不定型なワークをハンドリングできるシステムは珍しいと述べたが、それゆえに解析不能な厄介な現象が多かったのだろう。試作・検証により1つひとつ課題をつぶしていったからこその独自機構といえる。

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写真2 開発当初に検討した真空吸着方式のエンドエフェクタ。    樹脂袋の変形により十分な吸着力が得られず断念した。     写真3 もう1つ検討した双腕ロボットによる搬送。双腕ロボットが 高価なうえ荷下ろしできるエリアが制限されるという問題があった。

 

従来にないシステムだけに期待は大

 今年度中には、ディパレタイジングロボットとして上市を予定しており、1カ月につき2台、年間で計24台を販売することを目指している。当面は、ニーズを寄せてくれた大手石油化学製品メーカーへの納品を最優先に取り組む。

 従来にないシステムであるがゆえ、様々な用途や分野への展開が期待されるが、いくつか改善すべき課題が残されている。
 1つは、エンドエフェクタの構成の見直し。ハンドリング時の樹脂袋の不規則な変形に追従できるよう、上下・左右に微妙に可動する構造にしたが、機構が複雑になったためにメンテナンス性に課題を抱える〔写真1(d)〕。安定したハンドリングを損ねない必要最低限の機能に絞り込むことで、構造の簡素化を図ろうとしている。

 もう1つは、タクトタイムの向上。単軸ロボットによりLRFを移動することで、樹脂袋の位置および形状の3次元認識を可能にしているが、そのために走査に相当な時間を要している〔写真1(a)〕。3次元距離画像センサに切り替えることなども検討しており、走査時間がなくなるだけでも相当な効率化が見込まれる。また、センサの変更により荷下ろしをする対象物かどうかといった判定機能を持たせることも検討している。

 モリマシナリーでは、NC加工機からのワークの取り出しなど定型物のハンドリングについては開発経験が多く、ノウハウを有している。しかし今回は、対象物が対象物だけに、最適な把持方法を見出すには「ゼロベースでの検討を強いられた」(鈴木氏)。そのために短期間ながら、試作・検証を繰り返すという手間のかかる開発となったが、それだけにチャレンジングな取り組みであり、結果、応用展開への期待は大きいのだと思われる。

【関連記事】
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post-100614_1.jpg 愛知工業大学
工学部 機械学科 奥川雅之
〒470-0392
愛知県豊田市八千草町八千草1247
http://www.ait.ac.jp/index.html
竹田設計工業
代表取締役 竹田健司
〒450-0003
名古屋市中村区名駅南2-7-36号
http://www.takeda-dsn.co.jp/
写真前列左が奥川雅之准教授、右は石丸英章 名古屋事業所長、写真後列左から、矢野久美子営業マネージャー、鞍岡敬一所長付、入江一文副所長

 

 企業の受付案内から公共施設のナビゲーションまで、様々な方面に向けて案内が行えるサービスロボットが提案されてきた。2000年代の半ば頃までは盛んに研究開発がなされていたが、期待されたほど導入が進まず、また、有意なコストパフォーマンスを示すのが難しい用途であることから、開発意欲は冷めつつある。

 そんな中、愛知工業大学の奥川雅之准教授は、岐阜工業高等専門学校竹田設計工業なとどともに、博物館や美術館に向け「ツアーガイドロボット」(写真1)の開発に取り組んでいる。倒立二輪による軽快な移動と本質安全設計を両立した独自機構が特徴で、楽しく、かつ安心安全なガイドが期待される。
 開発プロジェクトではもちろん、製品化も目指しているが、その先の取り組みとして、これをプラットフォームに実用的なサービスロボットおよびビジネスモデルをつくり上げることを志している。「東海地区におけるロボット産業の育成を見据えた"雛形プロジェクト"である」(奥川准教授)ことに重要な意味がある。

post-100614_2.jpg 写真1 大阪芸術大学の中川志信准教授によるツアーガイドロボットのデザイン案。コンセプトは「クール」「ユーモア」「クレーバー」。子供たちに威圧感を与えることなどを考慮し、当初の120cmから90cm程度に小さくすることを予定している。技術レベルなどを考慮した結果、公共施設でのサービス提供が担えるロボットの方が実用化が早いと判断し、同ロボットの開発を選択した。

 

自己復元機構を持つ倒立二輪機構

 ツアーガイドロボットは、科学館や博物館などで来場者とインタラクションしながら展示物の案内をするロボット。スタッフ(助手)による遠隔操作で稼働し、また助手と連携して案内サービスを行う。来場者にはタブレットPCやヘッドセットカメラを提供し、これらを介してのインタラクションも想定している(写真2、3)。画像や音声などの処理は外部PCで行う(いわゆる「リモートブレインシステム」)。

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写真2 ツアーガイドロボットの利用イメージ。来場者にはタブレットPCやヘッドセットカメラを手渡し、これらを介してのインタラクションも想定。 写真3 検討しているシナリオ案。操縦やツアーの補助をする助手と連携してガイドを行う。

 

 サービス内容からすると遠隔操作である必然性はないが、基本技術として確立しておけばレスキューをはじめ様々な用途に応用展開できる可能性がある。「プラットフォーム化を見据えた活動であるため、あえて採用した」(奥川准教授)。また、岐阜高専・各務原市連携事業として取り組んでいることから、地元企業や研究機関が保有する要素技術に加え、伝統工芸も役立てることも検討している。具体的には、木工や和紙の技術を生かして本体を構成することを予定している。

 2006年から始まった開発はゆるやかに進展してきたが、昨年秋以降は、「ものづくり中小企業製品開発等支援補助金(試作開発等支援)」の採択を受け、製品化に向けた活動を加速している。直近の目標としては、大阪芸術大学の中川志信准教授によるデザインを実スケールで製作することに加え、倒立二輪機構に関する技術的課題をクリアすることを掲げている。

 移動機構には、奥川准教授が岐阜高専在席時に考案した、自己復元機構を有する倒立二輪を採用している。重心位置を回転中心より下方に配置することで生じる復元力により倒立を維持するのが特徴で、ダルマや起き上がり小坊師のように、横方向から強い力が加えられても電源を遮断しても倒立状態に復帰したり維持したりすることができる(写真4)。機構設計の工夫により本質安全設計を達成している。

post-100614_5.jpg 写真4 自己復元機能を有する倒立二輪機構の試作機。

 

 また同機構の採用に伴い、一般的な倒立二輪と違い、加速度センサとジャイロセンサにより本体の姿勢角を計測している。姿勢角に関する定常偏差や、傾斜路や段差乗り越え時に静的な姿勢変化などが生じ、ジャイロセンサのみでの計測が難しいからで、外乱推定オブザーバを応用したセンサフュージョンにより姿勢角を検出する。

 ただし、凹凸がある路面での走行など高周波での振動が発生する場合、加速度センサが姿勢角の変化以外の動きを検出してしまい、姿勢角の推定に影響を与える。現在、様々な手法を検討しているという。
 また、機構についても見直しを進めている。同機構の採用により傾斜路や段差乗り越え時に本体が傾いてしまうからで、このようなときでも本体部は地面に対しほぼ垂直状態を維持できる設計変更を進めている。

 このような機構を採用した背景には、奥川准教授自身の学術的なチャレンジがあり、サービスを指向しながらシーズ優先であることは否定できない。が、倒立二輪ならではの軽快な走行性は楽しいガイドをもたらすことが期待されるし、また自己復元機構は安定感をもたらし、開発者にも来場者にも安心感を与える。結果的として、ツアーガイドロボットに適した機構といえる。

 

サービスの下に専門企業が集積するピラミッド構造を

 現在、同機構の安定化に向け、重心検討および配置検討などを進めている。名古屋市の竹田設計工業と共同で取り組んでおり、航空宇宙や自動車分野での設計開発で高い実績を持つ同社の協力は心強い。8月にはひと通りの設計および試作を終え、9月23日の「第28回 日本ロボット学会学術講演会」の一般公開で試作機を披露することを予定している。その後は、「かかみがはら航空宇宙科学博物館」に持ち込み、実証実験にも取り組むことも検討している。

 近い将来の目標であるロボット産業の育成に向けては、現在の連携事業の枠組み(写真5)を拡大した「ロボット開発コミュニティ」の形成により臨むことを構想している。「実用的なロボットサービス」の下に、下層にはプラットフォームとなる各種要素技術を有する企業群が、中間層にはロボットデザインを手がける企業や人が、中間層の上位には、企画立案、販売・サポート担う企業や人がそれぞれおり、そこに研究機関や自治体、NPOが参画するようなピラミッド構造を構想している(写真6)。
 奥川准教授らのイメージとしては、強いてあげると「建築業界のようなもの」で、住民のニーズに合致した住空間を提案するインテリアコーディネータ的な役割を担うロボットデザイン担当者がいたり、ロボットや要素技術をパッケージ化してサービス提案ができる役割を企画立案がいたりするなど、「顧客と対話して提案できるような役割を担う企業や人が存在し、彼らを起点に開発やサービス提案に取り組む」ことを想定している。

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写真5 岐阜高専・各務原市連携事業による開発の枠組み。 写真6 目指すロボット開発コミュニティのイメージ。

 

 現在は、プラットフォームとなる各種要素技術を担う企業や人が集まった状態で、このような構造をつくり上げるのはこれからである。また構築した後は、ツアーガイドロボットの開発で培った要素技術や、デザイン手法や生産技術などの開発手法を共有する活動も残されている。それゆえに、ツアーガイドロボットの開発はボトムアップ的な取り組みとなり、肝心のビジネスモデルが後付になっている印象を与えるが、ひとたび、この構造が形成されれば、ビジネスデザインの検討から始められる理想的な流れでロボットビジネスの構築、産業化に向けた取り組みを展開できる。

 ツアーガイドロボットの開発は、一見すると実用化に至るのかが危ぶまれる取り組みに思われるが、このようにロボット産業の育成に向けた雛形プロジェクトであることを知ると意義深い活動であることが理解される。近い将来には、サービス起点からロボットビジネスの構築・開発がなされるという理想型を提示してもらいたい。

■参考文献
1)椋木 , 小林 , 奥川 ,"自己復元機構を有する倒立振子型移動ロボットにおける姿勢角の推定", 第9回システムインテグレーション部門講演会(SI2009), pp.2104-2107 , 2009.

【関連記事】
愛工大など、自己復元機能を持つ倒立二輪型ガイドロボ、9月のロボ学会講演会で公開 (2010/06/08)

post-100531_1.jpg 菱田伸鉄工業
代表取締役社長 菱田聡
〒592-8331
堺市西区築港新町2-7-2
http://www.i-hishida.com/

 工場プラントの配管点検や、コンクリート壁や橋梁など各種インフラの目視点検などの高所点検は、広範囲に足場を設置したうえでなされる。高所点検に相当な時間およびコストがかかる原因となっている。専用の高所作業車を用いて実施されることもあるが、点検個所に沿って少しずつ移動する面倒な作業となり、決して効率的とは言えない。各種インフラの老朽化が進む中、高所点検の重要性は以前にも増しているが、効果的な点検方法やツールが見あたらないのが実状である。

 こうした現状に向け、ロボット飛行船による目視検査の提案を試みるのが、菱田伸鉄工業の菱田聡さんである。「伸鉄工業」という社名だが、これは創業時の業態の名残であり、いまは倉庫およびマンションの不動産賃貸業と次世代ロボットシステムの開発を手がけている。

 提案するロボット飛行船は、風などの外乱下でも安定した機体制御が行えるのが特徴で、ラジコン用プロポを操作して、検査したい個所の撮影や目視検査を手軽かつ正確に行える(写真1)。一般に飛行船は流体(ここでは空気)を介して推力を発生するため応答性が悪く、風などの影響(外乱)に非常に弱い。目標軌道に沿って制御するのは絶望的に難しい。
 菱田さんが、こうした課題をクリアした秘訣は、立命館大学の金岡克弥チェアプロフェッサーの特許技術「推力伝達ゲートシステム(TTGS)[1]の利用にある。

post-100531_2.jpg 写真1 「中小企業総合展 2010 in Kansai」で披露した目視検査用ロボット浮遊カメラの試作機。

 

本体部を外乱などから分離したのがミソ

 金岡チェアプロフェッサーの特許技術は、飛行船などの浮遊移動体を、推力を受ける「本体部」と推力を発生する「効果器部」(スラスタ)に分離し、かつ、その結合部に「推力伝達ゲート」を設けることで、効果器部から本体部に作用するすべての推力を推定できる構成(図1)、とすることに特徴がある。これにより本体部を風などの外乱や流体の非線形ダイナミクスなど扱いが厄介な要素から隔離できる。同時に、本体部は推力伝達ゲートのみから推力(力およびトルク)が加えられるようになるため、どの程度の推力を発生すれば推進できるかを確実に推定することができる。

post-100531_3.jpg 図1 推力伝達ゲートの概念図。飛行船などの浮遊移動体を、推力を受ける「本体部」と推力を発生する「効果器部」(スラスタ)に分離し、その結合部に「推力伝達ゲート」を設けることで、効果器部から本体部に作用するすべての推力を推定できる構成としている(金岡チェアプロフェッサーの論文より引用・転載)。

 推力伝達ゲートにおける制御ソフトウエアは、目標軌道を実現するために本体部が受けるべき推力を計算・指令する「推力計画部」と、推力伝達ゲートで推定した推力をスラスタにフィードバックして推力計画にもとづく指令推力を実現する「推力制御部」から構成される。効果器部は、外乱や流体の非線形ダイナミクスの影響を受けるが、このように力を直接フィードバックして指令推力を即座に発生するため高速な応答が可能になり、外乱に強い機体制御となっている。

 飛行船などの浮遊移動体の制御は、一般には位置や速度センサの情報をフィードバックし、スラスタを駆動して行う。外乱の影響で目標軌道から外れたとき、誤差を修正するようにスラスタを制御するが、そもそも位置誤差や速度誤差のセンシングに時間がかかる。また、スラスタは流体を利用して推力を発生するため、指令推力と実際に出力した推力との間には、流体の非線形ダイナミクスが存在し、制御性能に悪影響を及ぼす。これでは外乱に対抗するために発生した推力が、新たな外乱を起こしてしまう可能性が高い。

 これに対し、同技術における推力伝達ゲートによる分離は、機械的もしくは計算上のどちらでもよいが、それにより本体部の運動方程式が簡素となり、制御しやすくしている。また、発生した推力を直接フィードバックしてスラスタを指令しているため高速な応答が可能となり、外乱下でも高精度の制御が行えるのである。

老朽化した道路梁への適用も視野に

 5月26~28日開催の「中小企業総合展 2010 in Kansai」では、「目視検査用ロボット浮遊カメラ」という製品名で試作機を公開した。ヘリウムバルーンとワイヤレスカメラや電動スラスタ、各種制御ボード、ヘッドマウントディスプレイ(HMD)などから構成され、これらをカーボンフレームで囲んでいる。ワイヤレスカメラが捉えた画像をHMDによってリアルタイムで閲覧することで、ロボット浮遊カメラの視点で操作および目視検査が行える(図2)。
 制御の要となる、上述の推力伝達ゲートを実装するコンピュータには3軸角速度計と3軸加速度計を搭載するワイズラブの制御ボード「MAVC 1」を設置しており、3軸加速度計によりスラスタ推力を推定している。

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図2 目視検査用ロボット浮遊カメラのシステム構成。ロボット側のワイヤレスカメラが捉えた画像をHMDによってリアルタイムで閲覧することにより、ロボット浮遊カメラの視点で操作や目視検査が行える。 写真2 推力伝達ゲートを実装するコンピュータ部と電動スラスタ。3軸角速度計と3軸加速度計を搭載する制御ボードを設置しており、3軸加速度計によりスラスタ推力を推定している。電動スラスタには右回転と左回転の2種類、2基ずつ計4基を使用しており、機体下部の四隅に配置している。

 また、電動スラスタの配置などにも工夫を凝らしている。右回転と左回転の2種類、2基ずつ計4基を機体下部の四隅に配置しており、これらの回転力を調整することでXYZ方向に加え、ヨー方向の制御も可能にしている(写真2)。例えば、各電動スラスタの回転数を同じにしたときは、それぞれの回転力で発生した反力を相殺して向きを固定するが、右回転を大きくすれば左方向に、左回転を大きくすれば右方向にという具合に、スラスタの方向を変えなくても、機体の向きを任意に変更できる。よく考えられた設計だ。

 写真1のように独特の縦長の形状になっているのは、菱田さんの経験から、まずは倉庫内の各種点検作業に向けた提案を検討しているからである。成人男性とほぼ同サイズになっており現在、人が行っている目視検査にそのまま適用することができる。

 菱田さんが、もう1つターゲットに定めているのが、老朽化した橋梁の損傷や修繕の確認作業である。
 国土交通省によると、地方公共団体が管理する橋梁の老朽化が進展し、建設後50年以上になる橋梁は、2016年には2万8,4000橋と約20%(全橋梁数は約14万橋)を占め、2026年には6万6,300橋と47%にも上ると試算している(「長寿命化修繕計画策定事業費補助制度」資料より)。現在、その長寿命化に向けた事業が展開されているが、橋梁の目視検査に有効なツールが存在しない。腐食や孔食が進行した部分を1つひとつデジタルカメラで撮影し、記録・分析している。これでは時間もコストもかかる。ロボット浮遊カメラは、こうした現状に一石を投じるものになるだろう。

 ただし、いまはまだ試作1号機を製作したばかりであり、どの程度、特許技術の性能を発揮できるのかは検証段階にある。7月開催の「ROBOTECH 次世代ロボット製造技術展」では飛行デモの実施を予定しており、それまでには検証を済ませ、出展後には拡販を図りたいと意気込んでいる。

■参考文献
1)金岡克弥 , 川村貞夫 ,"ダイバーロボットの実現に向けて", 日本ロボット学会誌 , Vol.22 , No.6 , pp732―737 , 2004.

【関連記事】
日立エンジ&サービスなど、配管検査システム開発、自走ロボで多様な現場に対応 (2010/03/24)
イクシスリサーチ、プラント検査や高所作業に使えるクローラロボット開発 (2009/09/17)

post-100427_1.jpg 東洋理機工業(株)
代表取締役 細見 成人
〒555-0012
大阪市西淀川区御弊島6-13-60
http://www.toyoriki.co.jp/

 自動車の足回り部品をはじめ鍛造加工で製造される製品は多い。大きくは、金型を使用する型鍛造とハンマーなどで成形する自由鍛造に分類されるが、後者のようなエアハンマー作業では熟練技が要求されるため、いまだに自動化(ロボット化)が進展していない。高温、振動・騒音、油、粉塵・・・にさらされる典型的な3K職場にありながら、である。

 かつて、三菱長崎機工がチャレンジしたことがあるが、伝統ある同社でさえも技術的課題をクリアできず断念した。こうした経緯などから以後、エアハンマー作業のロボット化に取り組む企業が現れなかったが、それでも挑もうとしているのが東洋理機工業の細見成人社長である。
 「たこ焼きロボット」「お好み焼きロボット」を手がけた企業といえば"ピン"とくる人が多いだろうが、熱間鍛造ハンドリングロボットのシステム構築で高い実績を持つシステムインテグレータである。もともと得意とする領域であり、これらのロボット開発で培ったチャレンジスピリッツをぶつけようとしている。実現すれば、もちろん世界初だ。

ロボット化を妨げる要因ばかり

 エアハンマー作業(図1)のロボット化が進まないのには、その加工方法にある。ハンマーの速度および位置を制御することにより塑性変形エネルギーを調整しながら加工をするが、その調整は、巧みなペダル操作によりエアシリンダーを制御して行う。また、ハンマーを上下動させている間に複数の金型間でワークをすばやく移乗し、かつ位置決めをする作業も伴う。熟練作業者でなければ対応は困難だ。

 加えて、ロボット化を妨げる技術的課題もある。
 通常、エアハンマーは打撃を吸収する目的からスプリング上にマウントされており、打撃時には下型およびワークが数十mm程度下降する。人による作業では、ワークを把持する火箸を緩めたり強めたりすることで、このような下降時の変位を調整できるが、ロボットハンドによる把持では難しい。また、ワークが上型から剥がれないといった異常事態も間々あり、ロボットの破損につながる。単に汎用ロボットでワークを把持するだけでは、簡単にアームがもがれてしまう。

 これらを踏まえ、細見さんは次のような方法でクリアしようとしている。つまり、エアハンマーの作業における現象のモデル化と、サーボ駆動方式のペダル(サーボペダル)およびフロート機能を付加したロボットハンドの製作である。

図1.PNG図1 エアハンマーの構造と各部の名称

 

ハンマーなどの挙動のモデル化がカギ

 後者から説明しておくと、サーボペダルは1軸スライドユニットから構成され、任意のパターンでハンマーを動作できるような軌跡制御を行う。また、ロボットハンド(図2、同社では「フロートハンド」と表現)には下型およびワークの沈み込みに追随できるよう、リニアエンコーダで検出したハンマーの挙動をもとにフィードフォワード制御を行う。併せて、機械的なバッファ機構を付加しておく。

 精度良く制御するには、センサ情報をもとに調整を行うフィードバック制御の方がよいが、いちいちフィードバックをかけていてはハンマーやアンビルの高速な挙動に追従できない。ゆえにフィードフォワード制御を採用しているわけで、この制御では誤差が生じるため、補正が行える機械的なバッファ機構も設けるのである。ロボットハンドにはセンサも付加することでワークが上型に固着したことを検出し、機械を停止させることも予定している。

図2.PNG図2 開発を計画するフロートハンドの概念図

下型およびワークの沈み込みに追随できる機能を付加することから、このような名称を付けている。フィードフォワード制御により追随させ、機械的なバッファ機能も搭載することで物理モデルと実際とずれを補償する。


 

   そして、これらを実現するうえで重要になるのが、前者の現象のモデル化である。
 これは運動方程式を立てるような作業であり、まずは実験を通じてペダル操作とハンマーの挙動、つまりペダル操作とハンマーの位置、ワークの挙動の特性の把握が求められる。大阪大学と浪速鉄工の協力のもと、作業者の火箸の操作状況(作業時のそれぞれ位置)を含め、これらの挙動を各種センサで計測して取り組もうとしている。

 しかしながら、このような挙動の計測、計測結果をもとにした現象のモデル化は、途方もなく困難な作業である。著名なロボット工学の研究室が束になっても、そうやすやすと導き出せるような運動方程式(ダイナミクス)にはならない。それでも、「エアハンマーは導入台数が多いですし、人材確保の問題もあって、エラくニーズが高いんですよ!」。細見さんはそう意気込む。
 細見さんは上述のたこ焼きロボットやお好み焼きロボットは、ティーチング・プレイバックのみで行うという課題に果敢に取り組み、達成してきた。"クレイジー"とも受け取れるような超高度なミッションをクリアしてきた。それゆえに、世界初の開発をやってのけるのではないか。そう期待を抱かざるにはいられない。

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