連載 ロボット新時代へ、最新システムインテグレート

 今から約50年前の1961年、米Unimation(ユニメーション)社が世界初の産業用ロボットとして「ユニメート」を導入した。産業用ロボットの基本原理の発明者であり、ジョセフ・F.エンゲルバーガーとともに同社を設立したジョージ・デボルは、1954年に「プログラム可能物品搬送装置」の特許を申請。ユニメートが実用化されたのと同じ1961年に認可を受けている。その後、ユニメートはわが国に技術導入され、国産初の産業用ロボットとなったが、彼の特許であるプログラム可能な搬送機械という考え方と教示・再生(ティチーング・プレイバック)は、いまも産業用ロボットの基本概念といえよう。なぜなら現在、稼働している産業用ロボットのほとんどがティーチング・プレイバック方式で動作しているのだから。

 これを最も端的に感じさせてくれるのが、東洋理機工業などが「2011国際ロボット展(iREX2011)」で公開した、綿菓子をつくる双腕ロボット「綿菓子ロボット」(写真)である。人と同じように、綿菓子機の中央にある釜にザラメを投入し、釜の細かい穴から糸状になって出てきたザラメを割り箸で絡め取る。安川電機の双腕ロボット「MOTOMAN-SDA10」をもとに開発しており、前回のiREX2009では同ロボットでお好み焼きを調理していた。ティーチング・プレイバック方式の普遍性の高さに、改めて気づかせてくれる。

watagashi-robo.jpg

写真 東洋理機工業が公開した、綿菓子をつくるロボット。鎌の細かい穴から糸状になって出てきたザラメを割り箸で絡め取ることができる(同社工場内での調整中に撮影)。音声認識技術の開発などは、「RTシステムプロデューサ」として活躍するパーソナル・テクノロジーの坂本俊雄社長が協力している。

ロボットによる綿菓子づくりは超D難度

 披露した綿菓子ロボットは、商売のために開発したものではない。調理という高度な作業を通じて、非製造業における産業用ロボットの新たな用途開発を議論してもらうことを目的としており、iREX2007に出展した「たこ焼きロボット」(汎用6軸構成のロボットを使用)、上述のお好み焼きロボットに続く3回目の取り組みとなる(お好み焼きロボの動画はこちら)。

  綿菓子をつくる作業は、人と同様のプロセスで進める。まず左手でスプーンを、右手で割り箸をそれぞれ把持する。専用ハンドは使用せず、いずれも2爪並行開閉グリッパーで把持する。次に、左手でスプーンを使ってザラメを綿菓子機の釜に投入。釜の細かい穴から糸状になって出てきたザラメを、右手で把持した割り箸で絡め取る。きれいに絡め取ったら、綿菓子機の脇に配置したスライダー機構に挿入し、最後に、右手でスライドさせて来場者の手前に綿菓子を差し出す(動画)。

   1つの綿菓子をつくるのに綿菓子機の中で割り箸を計40回転させている。その間、回転させる位置を高さ方向で3段階(上・中・下)に調整しており、例えば、最初の10回転は割り箸を綿菓子機に深く入れた状態(下)で回転し、次の5回は浅く入れた状態(上)で、さらに次からは少し深く入れた状態(中)で回転させる(動画)。最適な割り箸の回転数および回転させる位置(高さ)を見出すことで糸状のザラメを絡め取ることを可能にした。

動画 綿菓子ロボットが綿菓子をつくる様子。割り箸を回転させる位置を段階的に変更することで綿菓子を絡め取っているのがわかる

 過去に扱った対象物も超柔軟物であり、ハンドリングが非常に難しい。しかしながら、たこ焼きはたこ焼き機の溝の中で加熱することで、お好み焼きは鉄板で加熱することで、それぞれ形状が安定する。これに対し綿菓子は、糸状になって出てくるザラメは綿菓子機の中で不規則に回転運動をするうえ一向に安定しない。しかも、二度として同じような回転運動をすることがない。ゆえに、これまでに扱った対象物の中で最も扱いが難しく、「超D難度」の技を披露したといえよう。

ティーチング・プレイバック方式に次ぐ方式は?

  また、片腕7軸構成の双腕ロボットを利用したことも綿菓子づくりを可能にした要因となっている。一般的な6軸構成では、手先の位置姿勢(XYZ)を指示すると各関節が一義的に決まるため、障害物と干渉があると回避することができない。これに対し7軸構成は1軸多いために、同じように指示しても腕のかたちを障害物に干渉しない位置姿勢に変更することができる。

  綿菓子づくりでは、ザラメを釜に投入するとすぐに糸状になって出てくるため、割り箸を把持している右手を綿菓子機に素早く投入することが求められる。7軸構成の利点を生かしつつ、スプーンを把持している左手に干渉することなく、このような動作を行って見せた。それ以外にも、綿菓子機のカバーに干渉しないように動作をしたり、狭いブース内で右手と左手で割り箸を何度も持ち替えたりするなど、7軸構成の特徴を生かした動きをふんだんに披露した。

 ただ、冒頭の話題に戻るが、綿菓子ロボットを完成できたのは「会期前日の深夜まで続いたトライ&エラーのすえ」と説明している。実環境でティーチングするがゆえの直感性と、「現物合わせ」による正確性を有するデボルの特許が綿菓子づくりでも有効に機能しており、いかに普遍的な特許であるかが伺い知れる。

 本連載では、画像処理システムをはじめ周辺システムを組み合わせた高度なシステムインテグレート例を紹介してきた。
 ティーチング・プレイバック方式では、例えば組立作業では対象物とのわずかな位置ズレにより作業の失敗を招くため、治具などによる位置決めが求められる。また、ロボットが高い繰り返し精度を有していたとしても、作業環境側の不確定要因を押さえ込むのは不可能であり、一時的なエラーにより作業が停止することもある。さらに部品供給においては、ロボットに作業をさせるために、あらかじめ部品を整列しておくという“お膳立て”が必要とされ、これらのフォローはすべて人が行っている。
  したがって、ティーチング・プレイバック方式の限界を超えるための取り組みを紹介してきたといえるが、一方で、デボルの特許のように普遍的な技術ではなく、果たして、産業用ロボットそのものが進化しているのだろうかと疑問符がつく。

 昨年秋に、産業用ロボットの課題を調査した際、『産業用ロボットの基本構造の革新・技術進歩』を求めるとの回答が最も多く寄せられた(詳細はこちら)。回答した人たちも、きっと似たような問題意識を抱いているのであろう。今後の産業用ロボットのさらなる発展・普及を期すためには、デボルの特許と同様、それに相当するような普遍的な技術が創出されるべきだろうし、それへの期待を込め、本連載の終了としたい。

【参考文献】
[1]横小路泰義,“循環産業創成を目指した自律型セル生産ロボットシステム”,日刊工業新聞2011年11月8日付け別刷特集,8面,2011.
 

 産業用ロボットは、その導入により作業者を単純な繰り返し作業から解放し、工程管理やカイゼン活動などに従事できることに期待を寄せられてきた。現在も、こうした期待は変わっておらず、作業者に代わって「早く」「正確に」「力強く」作業を遂行し、価値ある生産財として認められている。しかしながら、「巧緻さ」では作業者に及ばず、複雑かつ微細な組立作業の多くを人手作業にいまだに依存している。より一層価値ある生産財としての進化が、産業用ロボットには求められている。

 その解の1つとして、数年前より人と同等サイズの双腕ロボットが提案され、作業者との代替が容易であることが訴求されている。ただし、作業者と同等の巧緻性を望む場合、画像処理システムなどを組み合わせなければならないため、結果的に、導入システムが複雑かつ高度になる。また、あるサブ工程の置き換え(代替)を図ろうとした場合、安全柵を設置しなければならないため、効率的なライン設計を妨げる場合がある。

 川田工業は2009年に、こうした課題に対し上体ヒューマノイド「NEXTAGE(ネクステージ)」を提案している(出荷開始は2010年11月)。昨年開催の「2011国際ロボット展(iREX2011)」では、電気デバイスの組立作業が行えるデモ(写真)を披露するなど、細かな組立作業に対応する産業用ロボットとして注目されつつある。

nextage_0324.jpg

写真 2011国際ロボット展で公開した、3体のNEXTAGEの協調作業による組立デモ

協調動作により細かな作業が可能

 NEXTAGEは、サイズが高さ730mm×肩幅576mm×奥行き250mm、重量20kgと、人の上半身と同等サイズの上体ヒューマノイド。片腕6軸、首部2軸、腰部1軸の計15軸を有しており、最大可搬重量は片腕1.5kg、両腕で3.0kg。
 頭部にステレオカメラを、両腕にハンドカメラをそれぞれ備えており、作業台などに配置したマーカをもとに、頭部のステレオカメラで自己位置推定および作業環境の3次元認識をし、両腕のハンドカメラでワークを視認しつつ細かな作業が行える。また、把持対象に応じてエンドエフェクタや各種工具を自動交換することもできる。

 出力80Wの低出力モータを採用することも特徴にあげられ、これにより産業用ロボットの適用除外(労働安全衛生規則)となるため、リスクアセスメントの実施により作業者と隣り合わせて運用することができる。人の上半身のサイズに画像処理システムなどが一体化されているうえ、効率的なライン設計を可能にする点で、他の産業用ロボットと大きく異なる。
 安全性の確保に向けては、背面に設置したレーザレンジファインダー(LRF)により作業者の接近を検知し、NEXTAGEとの相対距離に応じて減速したり停止したりするようにしている。

  2011国際ロボットでは、3体のNEXTAGEが協調して、配線の端末処理を含む電気デバイスの組立作業が行える様子を披露した。一例を紹介すると、中央のNEXTAGEが端末処理をした配線を両腕で把持している際に、右側のNEXTAGEがハンドカメラで端子(ターミナル)のカシメ不良を検査したり、同時に、その位置姿勢の情報を伝えて中央のNEXTAGEが端子の位置を補正したりする動きをした(動画1動画2)。
 双腕ロボットによる協調作業ならではの細かな作業といえ、特に組立作業での導入効果が期待されることから、グローリーの入金機や日立製作所のハードディスクドライブ(HDD)での組立作業(詳細はこちら)で運用が始まっている。

動画1 3体のNEXTAGEが協調して、配線の端末処理を含む電気デバイスの組立作業を行っている(前半)

動画2 3体のNEXTAGEが協調して、配線の端末処理を含む電気デバイスの組立作業を行っている(後半)
 

今後の普及を見越したデモ

 NEXTAGEのような双腕ロボットは、他社からも提供されているが、現段階では普及しているとは言い難い。また、披露したデモのように、このようなロボットが複数体で協調作業している導入事例も限られる。これからの発展が望まれる状況であるが、今後の普及を見越し、披露した組立作業には新規性(特許)を伴う動作を込めている。

 例えば、上述の作業がそうであるし、また、右側のNEXTAGEが端子をランダム・ビン・ピッキングする際、複数の角度からハンドカメラで捉えてピッキング可能な端子を認識し、さらに、もう一方のカメラで端子の表裏などを再確認してカシメ機に設置する作業もそうである(動画1)。
 さらに、これは安全性確保のためのデモだが、組立作業を始める前に、マーカの認識などを終えた後に3台のNEXTAGEが手をあげたり、アイコンタクトをしたりして準備が整ったことを知らせていた動作もあげられる(動画1)。これなら、仮に中央のNEXTAGEが作業者に入れ替わったとしても、作業者と協調しながら安全に運用できる。
 双腕ロボットによるシステム構築をする際、これらとは異なるアイデアでの運用が求められることになるだろう。

 ただ、これほどの複雑かつ高度な作業ができるがゆえ、教示(ティーチング~作業をはじめシステム構築にかかる負担は大きい。また、作業者との協調作業を前提としたライン設計やタスクの事前検討が求められるため、コンサルテーションも必要になる。双腕ロボットの普及を妨げる大きな要因となっている。
 川田工業では、NEXTAGEのソフトウエアのバージョンアップを図っており、連続的なティーチングポイントの指定に加え、速度パラメータの計算方法の改良により、指定ポイントの近傍を通過する滑らかなパスの生成などを可能にしている。利便性が向上しており、今後の展開が期待される。

※2011年6月20日に掲載したニュース記事を再編集しました。

 近年、市場の成熟化に伴い、製品およびサービスのカスタマイズ化が進んでいる。単にカスタマイズするだけではなく個々人に合わせたトータル価値の提供が求められており、それに伴い、顧客とともに顧客価値を共創することの重要性が叫ばれつつある。

 以前は、製品を販売した後やサービスを提供した後に企業が顧客調査をしなければ、使い心地をはじめ顧客ニーズを把握することができなかった。しかし最近は、BlogやSNSなどの発展により、ある強い興味を持った、あるいは専門性を持った顧客同士がWebサイト上にコミュニティを形成して自分の意見を述べるようになっている。顧客の興味や要望を理解しやすい時代になりつつあり、企業の多くは、これらのサイトをウォッチしたり、コミュニティを支援したりすることで開発のヒントを得るようになっている。広く捉えれば顧客価値の共創がなされているといえる。

 しかし本来は、顧客が製品を使って、あるいはサービスを受けて、どのような体験をしているのか、また、どのような感情を抱いているのかをリアルタイムに把握し、それに応じて提案するのが理想的である。米国で影響力を持つ経済学者の1人だったC・Kプラハラード(2010年逝去)は、著書「価値共創の未来へ」[1]で価値共創が重視される時代の到来を予見し、それを可能にする技術基盤を有する企業が優位になることを主張した。その後、発刊した著書「新時代のイノベーション」[2]では、これを有する企業が業界内で飛躍的にプレゼンスを高めたことを紹介し、自身の考えが実証されたことに触れている。そして、これらの事例を通じて、ロボットの要素技術の1つであるセンサが重要な役割を果たすことが認識され始めている。

  その先鞭といえる取り組みを展開しているのが、国際電気通信基礎技術研究所(ATR)が提案する、店舗への誘導や商品レコメンド(推奨)が行える「店舗内外連携サービス・システム」である(図1)。後述する、実空間で商品レコメンドが行える仮想店舗「ユビマート」に、センサなどで取得した店舗外での購買行動を組み合わせることで、ロボットが顧客を該当する店舗に案内したり、来店した目的に応じて商品を推奨したりすることができる。顧客の移動速度から急いでいるかどうかも判定することができ、こうした顧客には優先的に対応するなど、実験を通じて、状況に応じた案内ができることを示している(動画)。

fig1_atr_0305.png

図1 店舗内外連携サービスの概要

動画 店舗内外連携サービスのイメージ。急いできた顧客には優先的に対応して商品推奨を行っている

店舗内外の購買行動を計測して商品推奨

 ユビマートは、「環境情報構造化」技術や「ネットワークロボット」技術(複数の異なるロボット連携するためのプラットフォーム技術)などの利用により、顧客の購買行動を自動で取得・蓄積し、解析することで、ロボットとデジタルサイネージを通じて、顧客に合わせて店舗内を誘導したり商品推奨をしたりする仮想店舗のことであるAmazon(アマゾン)などのECサイトでなされている商品レコメンドを、コンビニエンスストアを模した実店舗で実現しており、店舗内での顧客の動線や滞留場所、視線、商品を手にしたかどうかといった情報をもとに行う。例えば、顧客が「おにぎり」を手にすると「飲み物の販売棚」に誘導したり、販売棚に足を運んだときは、それに合った商品として「お茶」を奨めたりすることができる

 環境情報構造化技術は、もともとは環境に埋め込んだ複数センサにより人の行動を計測し、状態を推定することで、ロボットにサービス提供(案内や誘導など)を促すことを目的に開発した技術だったが、購買行動の取得や蓄積、解析を行う中核技術として流用した。

 新たに構築した店舗内外連携サービス・システムでは、これにロボットとレーザ測域センサ(LRF)で取得した、店舗外での購買行動を組み合わせることで、顧客を該当する店舗に案内したり店舗内で来店目的に応じた商品を推奨したり、状況に応じて対応したりできるようにした。
 開発したプラットフォームは、おもに「購買行動センシングシステム」と、ネットワークロボット含む「顧客・誘導レコメンデーションシステム」から構成される(図2)。

fig2_atr_0305.png

図2 ユビキタスマーケット(ユビマート)のプラットフォーム

 前者は、計測した顧客の位置と向き、視線、商品の位置情報を行動履歴として顧客行動履歴データベース(DB)に統合・蓄積し、位置情報を統計的に解析することで店舗内の場所や行動の意味づけを行う。基本的な処理は、上述のユビマートとほぼ同じである。また、場所や行動の意味づけなど購買行動の解析には、ユビマートと同様、環境情報構造化技術を活用し、店舗外にも拡張している(図3)。
 LRFは店舗内に18台、店舗外に6台を設置しており、店舗内外のLRFの計測領域内に滞在する間に限定したIDを付与し、移動や滞留などの購買行動を取得する。また、移動速度をもとに顧客が急いでいるかどうかも判定することができる。

 後者は、ロボットとデジタルサイネージを通じて誘導や商品推奨を行う。店舗内と店舗外のロボットは、ともにネットワークロボット技術上で動作させており、ロボット同士に加え、デジタルサイネージと連携しての情報提供ができる。店舗外のロボットが顧客と交わした会話情報は顧客行動履歴DBにアップされるため、店舗内のロボットが付与したIDをもとに顧客を特定し、それに対応したインタラクション(応対や会話など)ができる。

fig3_atr_0305.png

図3 ユビマート仮設店舗のおもな機能

 店舗内外における顧客の購買行動を連携してのサービスは、次のようなイメージで検証している。店舗外のロボットが昼食を買いに来た顧客と、急いでボールペンを買いに来た顧客をそれぞれ該当する店舗に案内し、店舗内のロボットが、それぞれの目的に応じて売り場を案内。急いでいる顧客には、割り込ませて優先的に対応した(図4動画)。
 上述の動画で示した通り、それぞれの目的に応じて店舗および売り場を案内するとともに、急いでいる顧客に対しては、割り込み処理により優先的に対応し再度、元の状態に復帰できることを、実験を通じて示している。

fig4l_atr_0305.pngfig4r_atr_0305.png

図4 店舗内外連携サービスのイメージ(左)。店舗内外連携サービスのセンサシステムとロボットおよびデジタルサイネージの配置(右)

まずは店舗コンサルとして展開

  2011年のはじめに実施した実験では、実験には男性25名、女性25名の計50名が参加してもらっており、アンケート調査を通じて、ロボットへの親しみやすさが高く、「買い物が楽しくなる」といった好意的な回答が多くあった。これらのロボットをそのまま店員として使える可能性を感じさせた一方で、むしろ「買い物がしづらい」との回答が20%程度に上った。推奨のタイミングが合わなかったことに原因があると推定され今後、そのタイミングについて改善が求められるだろう。

 とはいえ、ATRではそのままのシステム構成で事業化できるとは到底考えておらず、店舗コンサルと商品推奨、顧客誘導からなる「ユビキタスマーケットコンシェルジェサービス」での提供が妥当との見方をしている。開発したプラットフォームをユーザー企業に提供することで、購買行動にもとづくコンサルに加え、商品推奨や顧客誘導による成果保証型広告料(アフィリエーション)による収入が見込まれる。
 特に、サービスイノベーションの創出につなげようとする「サービスサイエンス」における『観察』と『分析』のフェーズでは定量的な行動計測が求められることから、購買行動の計測を切り口とした、店舗コンサルを含むレンタル提供が実用化に向けた第一段階になると見ている。


【参考文献】
[1]C・K・プラハラード,ベンカト・ラマスワミ(有賀裕子訳),“価値共創の未来へ”,ランダムハウス講談社,2004.
[2]C・K・プラハラード,M・S・クリシュナン(有賀裕子訳),“イノベーションの新時代”,日本経済新聞社,2009.

※2011年5月18日と11月16日に掲載したニュース記事を再編集しました。

  本連載では、これまで産業用ロボットを活用したシステム構築例を紹介しており、従来、人手作業に依存していた組立工程にもロボットの導入ならびに自動化が進展しつつあることを感じてもらえたと思う。ところが、品質をはじめ製品価値につながらないような工程に目を向けると、まだまだ人手作業に依存している。例えば、段ボールなどの梱包資材の開封および原材料の取り出し、梱包資材の解体などは、その代表である。

 安川電機は鹿島建設と共同で、段ボールや紙袋などを開封して中身(原材料)を取り出すロボットシステムを開発した(写真1)。双腕ロボットが専用工具を用いて梱包資材を開封し、ハンドで把持して原材料を取り出すことができる。また、取り出した後は専用工具で梱包資材を解体し、畳んだ後に所定の場所に移動することもできる。医薬品や食品工場などの無菌エリアや高活性エリアに提案しており、すでにニプロファーマの伊勢工場(三重県伊勢市)が運用を始めている。

photo1_left_yaskawa.PNGphoto1_right_yaskawa.PNG

写真1 梱包資材を開封し、ハンドで把持して原材料を取り出すことができる双腕ロボット。段ボール(写真左)や紙袋(写真右)など異なる形状の対象物にも対応することができる

位置制御のみで梱包から解体まで行う

  開発したシステムは、食品工場や医薬品工場などで製造室に原材料や資材を持ち込む前に行う「開梱作業」での利用を想定している。開梱とは、段ボールや紙袋などの梱包資材を剥離する作業を指す。

 システムは、おもに片腕20kg可搬タイプの7軸構成の双腕ロボット「MOTOMAN-SDA20D」と、原材料の供給や搬送、梱包の回収を行う複数のコンベヤから構成。アーム先端にはチャック・グリッパー式のハンドを備えており、カッターナイフを搭載した専用工具を把持して開梱作業を行う。梱包資材の位置決めからカッターナイフによる梱包資材の切断・開梱、原材料の取り出し、梱包資材を解体・回収まで一連の作業が行える(図1)。
 解体・回収作業では、例えば段ボールでは箱をひっくり返し、カッターナイフで切断、畳んで解体するという高度な作業を行っているが、1種類のハンドと専用工具のみで対応している。

図yaskawa.png

図1 開発したシステムのイメージ。双腕ロボットが梱包資材の開封から解体までを行う

  ロボットの動作は、梱包資材の種別ごとにティーチング(教示)しており、上位システムで種別を判定し、専用テーブルで位置決めをした後に、それに応じた動作を実行している。梱包資材の形状データを事前に登録しておけば、段ボール(写真1左)や紙袋(写真2右)など異なる形状の梱包資材にも対応することが可能。また、段ボールには微妙な潰れなどが存在することから、距離センサでその度合いを検出し、切断時のカッターナイフの軌道を補正している。

 段ボールのような梱包資材は、たとえ中味となる原材料が入った状態でも、双腕ロボットが両側から把持すれば形状を維持するのが難しい。落下してしまうことが懸念される。的確に把持したいのであればハンド部に力覚センサを搭載し、力覚フィードバックして力制御する方がよいと思われる。しかしながら力センサは破損しやすく、システムとしてのロバスト性および安定性を考慮して位置制御のみで一連の作業を行うようにした。位置制御のみでこれほどの高度なタスクをこなしているのは、なかなかお目にかかることはできず、システムとして相当なつくり込みをしたことが伺い知れる。
 なお、梱包資材など対象物の位置の認識や、ロボットの動作の完了を確認するための各種センサを設置しており、これらにより作業ミスを検出し、作業をリトライできるようにしているという。

力覚センサの内蔵で様々な梱包資材に対応

  安川電機は、昨年開催の「2011国際ロボット展(iREX2011)」で、力覚センサを内蔵した双腕ロボットにより段ボール箱の製函および封函が行える様子を披露した(動画)。上腕軸に内蔵しており、製函および封函時の反力を計測しながら専用工具を用いて作業を行う。専用工具は折り畳んだり把持したりするための治工具や吸着パッド、粘着テープなどが一体となっており、工程に合わせて手先の位置姿勢を変更する。

動画 2011国際ロボット展で披露した段ボール箱の製函・封函作業

  前節で紹介した作業内容とほぼ同じであり、本来は、力覚センサを内蔵しなくても位置制御のみで対応することができる。物流工程を中心に広く提案することを予定しており、わかりやすい例として、梱包資材の開梱から解体・回収までの一連の作業を、人と同等の時間で行えることを示すために披露した。開発したシステムはコンパクトかつ独立しているため既存施設への導入が容易としており、また、力覚センサの内蔵により様々な梱包資材に対応できるため、多くの現場で利用されると見込まれる。

 安川電機は、より人に近い分野で人と共存できるロボットを目指す「ロボティクスヒューマンアシスト」を提案しており、製造現場ではロボットによる作業代行および支援により労働環境の改善や生産性向上を目指している。先に紹介したシステムはその一環であり、2009年から鹿島建設と共同開発を進めてきた。

※2010年12月10日と2011年10月19日に掲載したニュース記事を再編集しました。

  自動車部品など組立作業を行う生産ラインにおいて「ランダム・ビン・ピッキング」が導入されつつある。部品箱にランダムに積み重ねられた対象物をビジョンシステムで認識し、ロボットアームにより1つずつ把持して部品供給個所に特定の位置姿勢で搬送する作業で、ビジョンシステムの高度化により一部で実用化されている。

 ただ し、山積みされた対象物の初期姿勢はランダムであり、把持対象が他のワークと重なっていたり接触したりしているため、ハンドをアプローチできなかったり把持時に他のワークや装置を破損したりすることがある。3次元距離センサなどにより個々の対象物の位置姿勢やワーク同士の重なり具合を高精度に認識することで取り出しミスや、ワークや装置の破損を防止するといった手法が提案されているが、ビジョンシステムが高額になるため導入の敷居は高い。

 ナレッジは、より簡易なビジョンシステムを一体化した「3Dピッキングソリューション」を提案している。3次元で認識した対象物に対してリアルタイムに軌道生成してビン・ピッキングができ、ティーチング(教示)にかかる負担が小さいことでも注目を集めている(動画1)。

動画1 ビジョンシステムを一体化した3次元ピッキングシステム

簡易なビジョンシステムと教示レスが特徴

 2010年12月の「画像処理機器展」で公開したロボットセルをもとに説明すると、おもに6軸垂直多関節ロボットと専用ハンド、天井に設置した単眼カメラとプロジェクタから構成。動作領域に制限がなく、様々な角度から対象物にアプローチできるようロボットは天吊りにしており、ワークの穴に指を差し込み、指を広げる「内掴み」により把持を行う。

  3次元認識には「光切断法」を採用している。対象物にスリット光や特定の縞模様の光を照射し、照射光をもとにカメラ画像中の各点の奥行き情報を得て3次元認識を行う。光照射のためのプロジェクタと単眼カメラのみで構成できるため、他の方法と比較して安価にビジョンシステムが構築できる()。また、曲面ワークに対しては光切断法の方がステレオ視(ステレオカメラ)よりも認識しやすいという判断も、採用した背景にある。
 運用に当たっては、照射光以外の外部からの光(外乱光)を遮断しなければならないため適用現場に制約があるが、すでに導入が進展しつつある現場では暗室にしてもらうことで、こうした課題を解消している。

fig2l_knowledge.JPGfig2r_knowledge.jpg

 ビン・ピッキングの様子(左)とPC上での処理の様子(右)

 また、計測データをもとにリアルタイムに軌道生成できることも特徴に挙げられる。3次元計測した位置姿勢の情報をもとに対象物のテンプレートモデルならびにロボットの軌道をリアルタイムに生成。最上位に積まれたワークを把持可能な対象物として認識してビン・ピッキングを行う。軌道生成のアルゴリズムは非公開としているが、(撮像枚数により多少前後するが)3次元認識にかかる時間は1秒強、経路生成までに要する時間は3秒程度としている。

  3次元認識にかかる処理速度のみに着目すれば、ステレオカメラによる方法でも、この程度の速度を達成しているシステムはある。しかしながら、あらかじめティーチングした軌道に対し3次元認識した部品の位置姿勢をもとに補正をかけている。ティーチングをしなければならない。ティーチングレスと謳える点が大きく異なり、設備の立ち上げにかかる負荷を低減することができる。

ロボットセルとして高付加価値化に向け

 最近は、段ボール箱のランダム・ピッキングにシステムを拡張している。システム構成は、可搬重量が大きいロボットに変更した以外はほぼ同様で、1つひとつの段ボール箱を3次元で認識し、リアルタイムに軌道生成することでランダム・ピッキングを行う。
 こちらのシステムでは、事前に登録した3次元モデル(STLデータなど)をもとにパターン認識(形状比較)を行う一般的な手法と異なり、形状認識を行わない。それゆえに乱雑に積まれ、かつサイズが異なる段ボール箱でもパレタイズ(パレットへの積み付け)およびデパレタイズを可能にしている。

 従来のように、ロボットによるパレタイズやデパレタイズ作業に向け段ボール箱を所定の位置に配置する手間や、ティーチングの負担がないため、物流現場などに容易に導入することができる。2012年にはパッケージ商品としての提供を予定している。

動画2 乱雑に積まれた段ボールもピッキングできるデパレタイズシステム

 ナレッジは2010年12月に「ロボットソリューション事業部」を発足し、3次元認識によるピッキングシステムの導入や運用に関するコンサルテーションや販売を手がけている。画像処理ソフトなどの開発は、ビジネスパートナーのファーストが担当している。本稿で紹介したように、一般的なティーチング・プレイバック(教示・再生)の枠を超える提案するなど、他社とは異なるシステム構築により産業用ロボットの価値の向上につなげており、注目を集めている。

※本記事は「機械設計2011年12月号」に寄稿した内容を再編集しました。

  近年、変種変量生産への対応を目的に、一部製造業で生産拠点の国内回帰が進んでいる。これに伴いセル生産方式が導入されているが、今後の少子高齢化に伴う労働人口の減少や、アジア各国の人的資源を背景とした国際競争力への対応などを見すえると自動化が求められる。すなわち、ロボットを活用したセル生産システム(ロボットセル)への移行である。

 IDECでは2000年からロボットセルを運用しており、産業用スイッチや産業用リレーなどの変種変量生産を行っている。併せて、ロボットセルの高機能化も進めており、「次世代ロボット知能化技術開発プロジェクト」(NEDO、2007~2011年度)に参加して以降は、知能化技術ならびに関連するソフトウエア・モジュール(「知能化モジュール」と表現されている)の開発に取り組んでいる(動画)。具体的には、ティーチング(教示)時間の自動化やチョコ停からの自動復帰などに関する知能化技術であり現在、これらの機能を実装した知能化モジュール群の公開に向け準備を進めている。

 ここでは、ロボットセルの高機能化に寄与する知能化技術の概要を紹介する(研究開発の目的は事例を参照)。また、同プロジェクトが知能化モジュールの開発で採用しているロボット用分散ミドルウエア「RTミドルウエア」にも触れ、それに関心を持ってもらえるよう、IDECが推進しているソフトウエア・コンポーネントのデザイン手法の有効性を示す。

 IDECでは、ロボットセルに6軸垂直多関節ロボットと4軸水平多関節ロボット(スカラロボット)を利用しており、これらの動作をターゲットに知能化モジュールを開発している。しかし、知能化モジュールを書き換えたり、またはモジュールを組み替えたり追加したりすれば、他のシステムにも展開することはできる。特に、後述するデザイン手法を活用すれば、なおさら進めやすい。また、IDECではマルチハンドに加え、部品トレイや部品供給システムなどの周辺機器を「ロボット周辺グッズ」として標準化、提供することを予定しており、知能化モジュールと併用することでロボットセルを容易に導入できると見込まれる。

動画 2011国際ロボット展でIDECが公開したロボットセルおよびマルチハンドの映像

ティーチング時間を短縮する知能化技術

  事例でも紹介されているが、IDECのロボットセルは2台のロボットがあり、その周囲に組立治具や部品トレイなどを配置している(図1左)。一度に多数の部品を把持できるマルチハンド(図1右)により部品トレイ(部品供給トレイ)から部品を取り出し、組立治具を用いて組み立て、完成品を部品トレイ(部品完成品トレイ)に並べるという動作を繰り返す。マルチハンドは工程に応じて自動交換が可能で、変種変量生産に対応する。

fig1l_idec.pngfig1r_idec.png

図1 IDECのロボットセルの基本構成(左)と外販を開始したマルチハンド(右)

 ロボットセルに限った話ではないが、ロボットを利用した生産システムではシステムの立ち上げに時間を要する。おもな要因の1つにティーチングがあげられ、正確かつ高精度に動作経路を定義するのに時間を要する。その自動化に向け開発したのが「教示支援モジュール群」である。部品トレイからの部品の把持にかかるティーチングの自動化と、現場でのオンラインでの動作経路の修正作業(中継点の追加作業)をターゲットにしており、ロボットセル内に設置したステレオカメラを利用して行う。

  同モジュール群の利用により、それぞれのティーチングは非常に簡素なものとなっている。
 前者では、まず部品トレイに付与した複数のマーカの3次元座標をステレオカメラで計測し、事前に登録した部品トレイのデータベースと比較して部品トレイの種類および位置姿勢を取得する(図2左)。部品トレイごとにマーカの配置が異なっており、把持対象の位置情報なども紐付けして登録されている。
 次に、得た情報をもとに把持対象の位置にハンドカメラを移動し、把持対象の正確な位置姿勢を計測する(図2右)。ステレオカメラによる計測でおおよその位置姿勢が得られるが、把持対象が微小部品になると高い検出精度が求められるため、ハンドカメラにより詳細な位置姿勢を計測するようにしている。これら一連の作業を実行するのみでティーチングを終えることができ、IDECによると2~3分程度で済むとしている。なお、前半の作業に対し概略座標補正機能を、後半の作業に対し詳細座標補正機能をそれぞれ知能化モジュール群として用意している。

fig2_idec.png

図2 ティーチング時間の短縮。概略座標補正機能によりステレオカメラで部品トレイのマーカを検出して登録したトレイを識別(左)。詳細座標補正機能によりハンドカメラで部品の正確な位置姿勢を得る(右)

 後者の経路修正は、ティーチングペンダントのタッチパネルを操作して行う。タッチパネル上に表示されたステレオカメラの画像に中継点を定義し、概略座標補正機能で計測することで動作経路の追加や修正が行える(図3)。現場でよくなされる、障害物を回避するために中継点を追加する作業を、このような簡易な操作で行えるようにしている。

fig3_idec.PNG

図3 タッチパネルに中継点を定義し、概略座標補正機能により計測することで動作経路の追加や修正ができる

  また、ティーチングの簡素化に向け、「LED指示棒」を使用する方法も提案している。LEDランプに三角錐に形成した拡散板を配置しており、これによりティーチングしたい軌道を描き、ステレオカメラで計測することで、3次元座標とロボットの姿勢を定義することができる。LED指示棒は三角錐の形状のため、ステレオカメラにより指示棒の先端部を認識できなかったり一部が隠れていたりしても各辺から先端部の座標位置の推定が可能で、問題なく計測することができる。現場では、ロボット直接動作して軌道を記憶させるダイレクトティーチングが多用されているが、作業者にかかる負担は小さくない。LED指示棒による方法では、動作させたい軌道上でLEDを発光するだけで済み、より簡便かつ高効率なティーチングが見込まれる。

チョコ停を回避・自動復帰する知能化技術

   チョコ停とは、作業中のエラーの発生による一時的な停止のことである。マルチハンドの指先や組立治具のセンサの状態を確認することでチョコ停を認識できるが、復旧作業にはメンテナンス要員が当たっている。長期連続稼働に向けてはロボットセルが自律的に原因を排除する方が望ましく、画像処理により事前回避と自動復帰を行う知能化技術を開発している。

  事前回避では、上述の詳細座標補正機能を利用しており、把持する前に部品トレイ上の部品の位置を認識し、位置ずれが発生していれば、部品トレイを載せているXYテーブルで補正を行う(図4左)。また、事前に部品トレイ上の部品を検査することで、ハンドリングミスにつながると判定される部品はあえて把持しないようにしている。ここでの検査は天井カメラなどで捉えた2次元画像で行っており、合致度により良品判定を行っている(図4右)。また、学習機能を実装しており、ハンドリング可能と判定したにもかかわらず把持できなかった場合は、その都度学習し、合致度に反映することで次のハンドリングに役立てるようにしている。しかしながら、それでもチョコ停の発生を避けられないため、併せて自動復帰を実装している。

fig4l_idec.PNGfig4r_idec.PNG

図4 チョコ停の事前回避。詳細座標補正機能により位置ずれを補正する方法(左)と、事前に部品トレイ上の部品の合致度を判定する方法(右)がある

 自動復帰は次のような手順で行う。
 前段階として、事前に各工程における本来の「あるべき姿」、復帰対象とする「異常状態」、異常状態からあるべき姿への「復帰動作」を学習させておく。1つひとつの異常状態に対し、それぞれの復帰動作を記憶させる。

 そして、実際にチョコ停が発生したときは、該当する工程や場所は作業の進捗度や異常検知のタイミングなどから推定されることから、まず該当個所を画像で捉え、あるべき姿の画像と比較して異常エリアを検索する。次に、事前に学習した異常状態をもとに異常の内容を識別し、復帰動作を選択する。同時に、異常の原因となっている部品の位置姿勢など異常状態を計測する。最後に、計測した位置姿勢をもとに、復帰動作に必要な座標情報をロボットに伝え、選択した復帰動作を実行することでチョコ停の原因を排除する(図5)。

 例えば、ハンドリングミスにより部品が落下し、裏返しになったことが原因でチョコ停が発生した場合は、裏返しとなっている状況を異常状態として認識し、復帰方法としてバキュームによる撤去を選択。同時に部品の位置姿勢を計測し、その作業に必要な座標情報をロボットに伝えて撤去作業を実行する。チョコ停の原因を排除した後は、再び画像認識を行い、生産を再開できる状態になったことを確認している。なお自動復帰では天井カメラにより認識を行っている。

 IDECの調査によるとチョコ停の原因は、部品の取り出しミスによるものが64%、組立ミスによるものが18%と、ハンドリングミスに起因するものが8割以上にも上る。このような復帰方法によりチョコ停からほぼ自動で復帰できるといえよう。IDECでは、実稼働システムと同等の検証システムにて8時間連続稼働を実施し、ロバスト性などを検証した後、滝野事業所の現場に適用することを予定している。

fig5_idec.PNG

図5 チョコ停からの自動復帰の手順・画像のキャプチャー(STEP1)、異常エリアの検索(STEP2)、異常エリアの識別(STEP3)、復帰動作の選択(STEP4)、異常エリアの計測(STEP5)、復帰行動の実行(STEP6)という手順で進める

RTミドルウエアと2層化RTC

 冒頭で紹介したRTミドルウエアとは、ひと言でいえば、ロボットの機能要素であるソフトウエア・モジュールをネットワークを介して組み合わせることで様々なロボットシステムを構築する開発基盤のことである。システムを構成する主体であり、制御ロジックを包含するソフトウエア・モジュールを「RTコンポーネント(RTC)」といい、その実行環境がRTミドルウエアとなる。RTCは他のRTCと通信・相互作用を行うデータポート、サービスポートを備えており、これらのインターフェース仕様を共通化することで様々なRTCを結合したり再利用したりすることができる。RTCは、いわば制御ロジックを共通の皮(フレームワーク)で包み込んだようなもので、共通の皮で包み込むことでRTミドルウエアがRTC同士をうまく接続する役割を果たしてくれる。

 前節で紹介した知能化モジュールはRTCのことであり、複数のRTCが連携して知能化技術を実行することから知能化モジュール群と表現していたのである。IDECではセンサデバイスを制御する「Sense」系と、アクチュエータやロボットを制御する「Act」系、システムの状態遷移を定義した「Plan」系に分類してRTCを開発している。そのほかシステムの監視・操作に向け「GUI」系も用意している。

 RTミドルウエアは、各RTCの相互接続や再利用を保証する最低限のインターフェース構造を定めており、実装に関しては規定していない。それだけ開発の自由度が高いが、モジュールの粒度の選択や外部公開するインターフェースの決定も自由であるため、再利用性が高いRTCになるか否かは開発者に委ねられている。実際、冒頭で触れた次世代ロボット知能化技術開発プロジェクトでは、インターフェースの整合性は図れたもののモジュールの粒度などに著しい違いがあり、厳密な意味で再利用性が確保されていない。また、各ロボットおよびデバイスメーカーのインターフェースに依存するかたちでRTCを開発すると、異なるロボットやデバイスに切り換える際、そのままでは使えない。それぞれのRTCの仕様を理解しつつ個別にRTCを制御しなければならない。そこで、IDECでは「2層化RTC」というデザイン手法を提案し、こうした状況に一石を投じている。

 2層化RTCは、「汎用機能モジュール」(=仕様)と「デバイス依存モジュール」(=実装)の2つを組み合わせてRTCを構成する(図6)。前者は、接続や起動、停止などの各種設定や、基本コマンド動作など汎用的な機能を実装したモジュールであり、メーカーや機種に依存しない操作方法を規定している。また、デバイスごとの機能を共通化した汎用的な外部インターフェースと、デバイス固有の要素機能を接続する内部インターフェースを備えており、外部インターフェースの提供によりメーカー固有の専用関数などを隠蔽する。後者は、内部インターフェースで規定された要素機能を実装するモジュールであり、RTCの開発者はそれに沿ってデバイス依存モジュールを開発しておけば、ロボットやデバイスを切り換えたときでも、これまでと同様に汎用機能モジュールを利用することができる。

fig6RTC_idec.bmp

図6 2層化RTCの概要。内部インターフェースに沿ってデバイス固有の要素機能を、つまりデバイス依存モジュールを開発すれば、異なるデバイスでも汎用機能モジュールの利用が可能になる

  クルマの操作に例えるなら、前者は「アクセルを踏む」「ブレーキを踏む」「ハンドルをきる」といった“汎用的な動き(制御)”を、後者は乗用車やダンプカー、F1マシンそれぞれの動きを実現する“手段”をそれぞれ規定したようなもので、これらを切り分けることでクルマ(ロボットやデバイス)を乗り換えても、デバイス依存モジュールを用意しておけば、同じようにクルマを操作できる(汎用機能モジュールが使える)ことになる。IDECでは4種類のロボットの動作検証を通じて、デバイス依存モジュールを開発しておけば、汎用機能モジュールを再利用できることを実証している。

  2層化RTCを利用することにより、汎用機能モジュールの内部インターフェースに合わせてデバイス依存モジュールを作成すれば、目的とするRTCを開発することができる。開発側の実装作業が容易になる。また、ロボットおよびデバイスメーカーごとのインターフェースの違いをRTC内に隠蔽されるため、これらを切り換えても、ソフトウエアを変更することなくシステムを構築することができる。RTCの再利用性の向上につながる。したがって、RTCを開発する側にも再利用する側にもなるシステムインテグレータにとって、有効な開発手法になり得る。

 なお、2層化RTCはロボットコントローラやカメラの制御、画像処理など様々なシステムに展開することができ、IDECでは開発した知能化モジュールを、「Sense」系「Act」系を“デバイス制御型2層化RTC”、「Plan」系を“状態遷移型2層化RTC”、「GUI」系を“画面遷移型2層化RTC”として、それぞれこの手法により実装している。

付加価値向上に知能化モジュールを

 本稿では、IDECが開発した知能化技術の概要を紹介し、そのベースとなっているRTミドルウエアを紹介した。さらに、IDECが提案している2層化RTCに触れ、その活用によりRTCの実装が容易となり、かつ再利用性が向上することを説明した。知能化モジュール群をロボット周辺グッズと併用することでロボットセルを容易に構築することができ、また、2層層化RTCを利用したり、それに即した実装をしたりすることで高効率な開発が見込まれる。これらはシステムインテグレータにとって高付加価値なロボットシステムを提案するためのツールになり得る。

 次世代ロボット知能化技術開発プロジェクトは2011年度で終了するが、多種多様なロボットやアプリケーションを想定して、つまり、ターゲットとなるロボットやアプリケーションが不明なままに取り組まれたがために、実際の開発で使える知能化モジュールは限られる。これに対し、産業用ロボットの分野ではターゲットとなるロボットや各種デバイスをある程度固定することができ、かつ用途も想定しやすい。数年先に求められるロボットの役割や機能を見据えつつRTCを作成することが可能で、RTミドルウエアのようなソフトウエア・プラットフォーム戦略が目的とする開発の高効率化と高品質化の両立を達成しやすい。

  本稿で紹介した知能化モジュールの利用を通じて、産業用ロボットを中心にRTミドルウエアが普及する可能性は他のロボットの応用分野よりも遙かに高く、また、システムインテグレータにとっても有効なツールになると考えている。

【参考文献】
[1]濱田航一,米澤浩,飯田勝久,樋口伸夫,井田勝久,“千手観音モデルによるロボット制御セル生産システムの進化”,計測自動制御学会 第10回 システムインテグレーション部門講演会(SI2009),2009.
[2]米澤浩,濱田航一,飯田勝久,“ロボット制御セル生産システムにおけるチョコ停からの自動復帰手法”,第27回 日本ロボット学会学術講演会,2009.
[3]米澤浩,菅井祐平,濱田航一,飯田勝久,“汎用機能モジュールとデバイス依存モジュールを組み合わせた2層化RTCの再利用性、実装容易性の向上”,第27回 日本ロボット学会学術講演会,2009.

※本記事は2011年3月3日と9月17日に掲載したニュース記事を再編集しました。

  昨今の超円高などを背景に国内製造業の海外展開が加速しつつある中、いかにして国内にモノづくりを残すべきかが議論されている。極端な海外移転は、次代の技術者がモノづくりに触れる機会を喪失することになり、国全体としての生産技術の低下につながりかねないからである。そこで、国際競争力への対応を睨みつつ、より一層の自動化が取り組まれている。
  ロボットを活用したセル生産システム(ロボットセル)への移行は、その代表例であるが、現状では簡易なアセンブリにとどまる。中でも、ケーブルをはじめとする柔軟物の取り扱いがロボットでは難しく、人手作業に依存する主因の1つになっている。

 三菱電機は、その解となり得るロボットセルを発表している。「戦略的先端ロボット要素技術開発プロジェクト」(2006~2010年度、NEDO)の開発成果であり、昨年3月の成果発表会で2台のロボットが協調してバラ積み状態のケーブルをビンピッキングして治具に整列したり、コネクタに挿入したりしてサーボアンプを組み立てるデモを披露した(写真1)。柔軟なケーブルの取り扱いを実現しており、電気・電子部品の組立作業の自動化につながると期待されている。

p1-mitsubishi.jpgp2-mitsubishi.jpg

写真1 公開したロボットセル。2台の垂直多関節ロボットが協調して作業を行う(左)。整列治具にコネクタ付きケーブルを整列(キッティング)した後、プリント基板上のコネクタに挿入する(右)

動画 公開したサーボアンプの組立デモ

ケーブルとコネクタを分けて認識処理

 開発したロボットセルは、2台の垂直多関節ロボットが協調して組立作業を行う。ロボットには3次元(3D)距離センサと力覚センサを配置しており、これらの計測情報を用いることで、バラ積み状態のケーブルをビンピッキングして整列治具(もう一方のロボットが扱いやすくするための治具)に整列(キッティング)したり、ケーブルをプリント基板上のコネクタに挿入したりすることを可能にしている。
  3D距離センサは、ビンピッキング時の認識と把持状態の認識に1台ずつ使用しており、前者はハンドカメラとして、後者は整列治具の脇にそれぞれ配置している。

 このような柔軟なコネクタ付きケーブルの取り扱いは、独自開発の認識アルゴリズムにより可能となった。把持した後のハンドリングのしやすさを考慮し、コネクタ付近のケーブルを把持するように制御していることから、ケーブルとコネクタそれぞれをターゲットにしたアルゴリズムを実装している。

  まず、ケーブルの認識では、計測した3D距離画像からケーブルの3D曲面形状を抽出し、ケーブルの位相(ここではトポロジー)判定ならびにロボットハンドとの干渉判定を行うことで把持候補の優先づけを行う。ケーブル中央ではなく端部を優先した処理を行っており、結果、バラ積みされたケーブルの中で、コネクタ部があたま1つ飛び出したようなケーブルを把持できるようにしている。
 一般的なビンピッキングでは単純に最上位に位置する対象物を把持するよう制御するが、このようなケーブルでは掴み損ねに加え、複数ケーブルを同時に取り出してしまう可能性が高い。このような処理を採用sるうことで、単純に最上位のケーブルを把持したときの成功率が50%以下だったのに対し、90%にまで高めることに成功している。

  次に、コネクタの認識は、簡易な直方体モデルの結合で表現したコネクタの3Dモデルを用いて行う(*))。おもに3段階で処理しており、まず3D距離画像からコネクタのエッジを検出して先端領域を抽出。次に、抽出した領域にハフ変換(特徴抽出法の1つ)を適用し、コネクタは直方体モデルという前提から、一対の平行線の抽出および、その間の面法線を計算。コネクタと推定される先端部の3D姿勢を決定する。最後に、これに対して直方体の結合で表現したコネクタの3Dモデルを、3D距離情報を用いて位置合わせ(=照合)をし、コネクタの位置姿勢を推定する。

*:簡易な直方体の結合によりコネクタの3Dモデルを表現した結果、0.5秒での高速処理を可能にするとともに、±0.5mmの位置姿勢の推定精度を実現している。

fig1-mitsubishi.png

  単純な直方体モデルの結合によりコネクタを3Dモデル化。これを計測データに対し位置合わせすることでコネクタの位置姿勢を推定する

  ビンピッキングとキッティング時は、これらの認識アルゴリズムを併行して走らせており、前者では、把持候補の優先づけをしたケーブルの情報と、推定したコネクタの位置姿勢から把持すべきケーブルの位置姿勢を算出して行う(写真2)。後者では、把持したケーブルのコネクタの位置および姿勢を再度認識し、位置ズレを補正して整列治具への整列を行う(写真3)。

  三菱電機では、バラ積みされたビンピッキングおよび位置姿勢の補正によるキッティングができたうえ200回連続で行えることを確認している。さらには、人と同等の5分程度でサーボアンプの組立が行えたとしている。ロボットセルのより高度なアセンブリへの適用に向け、道が拓かれたといえる。
 また、このような直方体の組み合わせで表現したコネクタモデルの利用により、他のケーブル付きコネクタにも対応できるとしており、様々な製品に適用できると見込まれる。

p3-mitsubishi.jpgp4-mitsubishi.jpg

写真3(左)バラ積み状態のコネクタの計測例。推定したコネクタの位置姿勢から把持すべきケーブルを算出する。写真4(右)把持したケーブルの状態判定。コネクタの位置姿勢を再度認識して、位置ズレを補正する

協力会議を通じて運用ノウハウを提供

 ロボットセルを支えるもう1つの要素技術に触れておくと、力センサによる組立制御技術がある。コネクタの挿入時は位置制御から力制御に切り換えており、力センサの計測値をもとにコネクタの位置ずれなどを認識し、力制御のパラメータをリアルタイムに変更して作業を行う。高速での挿入作業に加え、位置すれが生じた際の安全な停止が行える。また、ネジを挿入する際も同様に制御することで、挿入エラーの検知ならびに自動復旧を可能にしている。

  三菱電機では、公開したロボットセルは従来、作業者でなければできなかったコネクタ付き柔軟ケーブルの組付作業が行えるのを提示したとしており、コスト面を考慮すると、そのままでの外販は予定していないと説明する。まずは、構成する3D距離センサや制御技術などをコンポーネント製品として社内の生産技術部やシステムインテグレータ(SI)に提供するとともに、協力会議を通じて運用ノウハウとともに提供することを計画している。したがって、今後2~3年のうちにSIを通じて、各生産現場に提供されると思われる。

【参考文献】
[1]北明靖雄,堂前幸康,奥田晴久,関真規人,“柔軟物を扱えるロボットビジョンシステムの開発”、第29回 日本ロボット学会学術講演会,2011.
 

※本記事は2011年11月14日に掲載したニュース記事を再編集しました。

 労働安全衛生規則 第36条 第31号の労働大臣が定める機械を定める告示では、すべての原動機出力が80W以下であれば産業用ロボットの適用除外となり、リスクアセスメントの実施により人と共存環境下での運用が可能になる。産業用ロボットの国際安全規格ISO 10218-1では、現在はこの数値は削除されているが、国内では同規則が優先されるため、この数値を満たすロボットは基本的には「共存可能」と解釈されている。

  このような低出力ロボットの登場に期待を寄せられるのは、単に安全柵(防護柵)を簡素化できるからではない。作業者との協働作業により高度なタスクをこなしたり、ロボットを適用しながらも、作業者による改善活動によりその工程を進化したりできる効果が期待されるからである(*1)。実際、2010年に「第4回 ロボット大賞」で「大賞(経済産業大臣賞)」を獲得したトヨタ自動車は、開発した「スペヤタイヤ自働搭載ロボット(トヨタでは「自働」と表現)」の効果は、それらにあると説明している。
 大手産業用ロボットメーカーの安川電機は、こうした効果を意図して「人共存ロボット」(写真1)を開発し、11月9~12日開催の「2011国際ロボット展(iREX2011)」で初公開した。

photo1_yaskawa.jpg

写真1 安川電機が初公開した人共存ロボット。エアシリンダーによる自重補償により全軸に出力80Wのモータの採用を可能にした

*1:加えて、生産ラインの柔軟の編成や、ショートプロセス化によるコスト削減も見込まれる。

トヨタのロボットと類似の軸構成に

  人共存ロボットは、昇降軸と水平軸からなる5軸構成のロボットである。昇降駆動と水平駆動を分離し、昇降軸にエアシリンダーによる自重補償機構(簡単にいえば自重をゼロにすること)を組み込むことで、全軸に出力80Wの低出力モータの利用を可能にした。人と共存環境下で運用することができる。

  加えて、さらなる安全性の確保に向けた対策もいくつか施している。
 ロボットの手先にはキーエンス製レーザスキャナーを搭載しており、作業者などの接近を検知して停止することが可能。水平回転の第2軸に力センサを搭載しており、レーザスキャナーの死角に入り込んで作業者に衝突したり挟み込んだり際は、アームにかかる外力を検知して安全に停止することができる。また、作業者はアームを押しのけてロボットから逃げることができる。さらに、エアシリンダーによる自重補償機構を採用しているため、電磁モータと違い、電源が遮断されてもアームが急に下がるといった危険もない。
  2011国際ロボット展では、動画で示したように、トヨタのスペアタイヤ自働搭載ロボットと同様の用途をイメージしたデモを披露した(動画)。

動画 2011国際ロボット展で披露したスペヤタイヤの搭載をイメージしたデモ

 スペアタイヤ自働搭載ロボットでは昇降軸に平行リンク機構を採用しており、平行リンクが鉛直方向に向いた姿勢でバネの伸びがゼロになるようバネのたわみを調整することでアームの自重をゼロにしている(写真2図1)。自重補償機構の原理は異なるが、同様の用途をイメージしたためか、類似の軸構成となっている点が興味深い(*2)
 ただ、人共存ロボットの可搬重量はスペアタイヤ自働搭載ロボットの25kgに対し120kgを有しており、他の重量物の搬送用途にも活用することができる。汎用性が高く、様々な用途への展開が期待される。

photo2_yaskawa.JPG

写真2 トヨタのスペアタイヤ自働搭載ロボットと作業者による協同作業

fig1_yaskawa.JPG

図1 スペアタイヤ自働搭載ロボットの軸構成(図提供:トヨタ自動車)

*2:スペアタイヤ自働搭載ロボットとの違いに触れておくと、こちらでは「力センサレス柔軟制御」により外力推定を行っている。駆動軸のモータ負荷電流からトルクと各軸の角速度、角加速度を推定し、これらをもとにアームの動力学モデルを解いてアームにかかる外力を推定している。駆動軸のトルクを用いて推定しているため、アームのどの部分が作業者や障害物に衝突しても外力推定が可能としている。

トヨタのラインで使われる可能性も?

 トヨタでは2010年1月より高岡工場(愛知県豊田市)の第1組立ラインでスペヤタイヤ自働搭載ロボットの運用を開始している。ここでは、適用に当たり45秒のラインタクトへの対応を条件としていた。仮に、デモで示した通りスペアタイヤの自動搭載での実用化を目指す場合は、これへの対応が1つの目安になるだろう。

 また、トヨタではバッテリーやエンジンなどの重量物の自動搭載にも適用をする計画を明かしていた。人共存ロボットは可搬重量が大きく、かつ汎用性を備えるため、こうした重量物の自動搬送に有効である。トヨタでは同社製ロボットを多数導入していることを踏まえると、安川電機ではこれらの搬送用途への対応も見越して可搬重量120kgにしたと推察され、また、可搬重量を低減した小型タイプの開発も進めていると想像される。
 

※本記事は2011年5月31日に掲載したニュース記事を再編集しました。

  生産現場における大物ワークや重量物の搬送や組み付け工程に対し、自動化や省人化へのニーズは高い。しかしながら、扱う対象物が大きいために寸法誤差が大きいうえ、位置決めには高度なセンシングや制御技術が要求されることから、一向に進展していない。特に自動車の組立工程では、ライン上を移動する車体に対し組み付け作業を行うため、より一層難しくさせている。

 これに対し1つの解となり得るのが、ロボットによる自動作業と作業者の繊細かつ臨機応変な作業を組み合わせた「半自動化」である。IHIでは、1人の作業者がハンドガイド装置でロボットを操作して、自動車のインスツルメントパネル(インパネ)の組み付け作業ができるシステムを開発している(写真1)。社内の試験システムで検証したところ、移動する車体に対し、おおむね10秒以内で組み付け作業ができた。通常2人1組でなされる組み付け工程の省人化が期待される。

photo1_ihi1.jpg

写真1 IHIが開発しているハンドガイド装置でロボットを操作して組み付け作業をするシステム(写真提供IHI)

協働作業により10秒以内で組み付けを可能に

 インパネの組み付け作業をアシストするシステムは、トヨタ自動車が2000年に実用化している。モータの駆動力により水平方向の移動をパワーアシストすることで、作業負荷の軽減を達成している。IHI のシステムは、ロボットと作業者それぞれの特徴を融合することで作業負荷の軽減による省人化に加え、技能のサポートも狙っている。

  開発中のシステムは、ロボットによる自動作業と作業者との協働作業に切り換えて作業を進める。その検証を目的に構築した試験システムは、おもに6軸多関節ロボットとインパネの把持機構、ハンドガイド装置から構成。ハンドガイド装置にはイネーブルスイッチと力覚センサを用いた操作卓が搭載してあり、イネーブルスイッチを押しながら操作卓に力を加えることでロボットを操作する(図1)。

fig1_ihi1.png

図1 構築した試験システムの構成(写真提供IHI)

  組み付け作業は、以下のような手順で進める。まず、ロボットが供給されたインパネを把持して車体の組み付け位置の近くまで搬送する。次に、作業者との協働作業に切り換え、作業者がロボットの手先に取り付けたハンドガイド装置を用いて操作し、インパネを車体に組み付ける。そして、作業者がロボットから離れた後、再び自動作業に切り換えてロボットが次のインパネの把持に向かう(図2)。
 協働作業時のハンドガイド装置の操作は、安全性を考慮して制限速度内でロボットを動かすようにしている。また、作業者が進入できるエリアを設けることで作業者とロボットが接触しないよう監視をしたり、作業者が開始ボタンと終了ボタンを操作することで協働作業や自動作業に切り換えたりすることができる。

fig2_ihi1.PNG

図2 システムの配置と組み付け作業の手順(図提供IHI)

  システムの動作検証は、毎秒5m移動する車にインパネ(いずれもモックアップ)を組み付ける動作で実施した。組み付け動作は実際の作業と同様、作業者はインパネを車体側面板の間に入れ、インパネの位置決めピンを車体側の穴に挿入して行う。また、インパネと車体の位置許容差と姿勢許容差もそれぞれ約5mmと約0.1度と、実際の組み付けを参考に設定した。

 予備試験の段階では、作業者がロボットの位置および姿勢の6軸を同時に操作して組み付けるのが難しいうえ、搬送ライン自体に歪みがあり、搬送中にインパネの姿勢がずれるといった問題があった。そこで、ラインの姿勢をあらかじめ計測し、ロボットがそれをもとに手先姿勢をラインに合わせて自動補正する機能を搭載したところ、XYZの3軸の並進操作のみで手先位置の制御が可能になった。操作ミスの低減ならびに操作時間の短縮につながり、おおむね10秒以内での組み付け作業ができた。最短では約7秒で組み付けられる例もあったという。
 一般に、インパネの組み付けにかかるスループットは50~60秒とされる。ロボットの自動搬送や作業者の退避時間などを差し引くと、この程度の時間であれば実際のラインで使える可能性が十分にあるといえよう。

現時点では研究開発以外では使えない

 ただし現状では、ハンドガイド装置の操作時にインパネが車体の目標位置を行き過ぎたり、上下に揺れながらアプローチしたりするなど不必要な移動が発生している。その際は、作業者による調整が必要となり、作業者に負担がかかることになる。今後、操作支援方法の改善により、このようなムダの低減につなげる。

  また、非常に重い課題であるが、実用化に向けては安全法規のダブルスタンダートの解消・改正が求められる。産業用ロボットの国際規格「ISO 10218」では減速条件下で作業者との相対位置がモニタリングできていれば運転できるのに対し、「労働安全衛生規則」では作業者とロボットが接触しないように規定している。現時点では、研究開発以外では運用することができない。提案したシステムのリスクの洗い出し、ならびにその対応により安全なシステムとして国内外に提案し、ダブルスダンダードの解消に向け働きかけたいとしている。

【参考文献】
[1]小椋優,藤井正和,西嶋和之,村上弘記,曽根原光治,“ハンドガイドロボットの組立ラインへの適用に関する研究”,ロボティクス・メカトロニクス講演会2011(ROBOMEC 2011),2011.

※本記事は2011年5月29日に掲載したニュース記事を再編集しました。

  近年、ロボットビジョンの普及により位置が定まらないような対象物(ワーク)の把持が可能になっている。そして、計測した試作情報をフィードバック情報として用いるビジュアルサーボを利用すれば、移動量を把握できないワークでも対応することができる(図1図2)。
 ただし、ビジュアルサーボでは高速カメラのほか、高速な画像処理システムや応答性の高いロボットアームが必要とされる。コスト面で大きな課題があり、生産用途での利用は難しい。また、ロボットビジョンをハンドカメラ(ロボットの手先に配置)として利用した場合、ハンドリングに伴い、ワークがカメラの視野から外れたり見失ったりする時間が生じる。

fig1_ihi2.PNGfig2_ihi2.PNG

移動量を把握できる搬送装置上でのワークのハンドリング(図1、左)、ビジュアルサーボを用いたワークのハンドリング。移動量を把握できないワークも把持できる(図2、右)。図提供IHI

  IHIでは、撮像周期が一般的なそれとほぼ同じハンドカメラを利用しながら、独自の運動推定アルゴリズムにより把持を可能にする技術開発に取り組んでいる。現在から約200ms(ミリセカンド)先の未来の位置の予測を可能にしており、この予測技術をロボットアームの制御に適用することで、不規則な移動をするワークでもハンドリングが可能になると期待される。

拡張カルマンフィルタで移動先を予測

 実装した運動推定アルゴリズムには「拡張カルマンフィルタ」を使用。ロボットビジョンにより一定周期で対象物の位置姿勢を計測し、これにより移動先を予測する。

 カルマンフィルタは、誤差のある計測値を用いて動的なシステムの状態を推定したり制御したりするフィルタの一種である。物体の位置と速度など時々刻々と変化する量を推定する目的で多用されている。ロボットビジョンのような用途では、画像の入力遅れを補償する目的で活用される例があり、先に述べたような、ワークがカメラの視野から外れたり見失ったりした時間が生じた際、その間の対象物の移動量を予測する手段として使える。
 また、予測にかかる誤差を評価することで突発的な運動の変化を検出できる特徴も備えており、例えば、ラインの停止や他のワークとの衝突などにより対象物の移動量が変化しても、予測可能なタイミングを判定することができる。こうした特徴から拡張カルマンフィルタを利用するに至った。

 まだ検証段階はあるが、IHIではハンガーに吊された状態での搬送を想定して、振り子運動するワークを例に技術検証を行っている(図3写真1)。

 構築した検証システムは、おもにハンドカメラを搭載する垂直多関節ロボット(ロボットアーム)と、ロボット正面に配置した、スライドテーブルに吊したワーク、ワーク側面に配置した固定カメラから構成。ワークはスライドテーブルの往復運動により振り子運動をする。スライドテーブルの位置情報はロボットに与えておらず、ハンドカメラと固定カメラだけを用いてワークの位置姿勢を計測する。計測結果から、拡張カルマンフィルタによりワークの角速度や、振り子運動の支点からワークの重心までの長さなどを推定し、推定結果をフィードバック情報としてロボットアームに入力する。
  使用したロボットアームの動作には約150msの動作遅れがあるため、推定結果を用いてワークの移動先を予測したうえで制御を行っている。

fig3_ihi2.PNGphoto1_ihi2.jpg

検証システムの概要(図3、左)、検証システムによる予測技術の検証風景(写真1、右)。図・写真提供IHI

  検証結果は非常に良好なものとなっており、既述の通り、ワークの現在位置を200ms事前に予測できることを確認している。またスライダが往復運動する際、折り返し時に発生する外乱が予測精度に影響を及ぼすが、拡張カルマンフィルタによる予測誤差を評価することによりワークの運動の変化を検出することも確認している。
 予測する時間幅は約200ms事前まで任意に設定可能としており、ハンドリングに伴いワークがハンドカメラの視野から外れる時間分なども考慮して把持位置を予測できるとしている。

ハンガーに吊されたワークのハンドリングで期待

  紹介した検証方法では、ワークの運動モデルは振り子の視点が等速直線運動をすると仮定している。ワークがモデルと異なる運動をした場合は予測が外れやすくなると懸念されるが、IHIでは運動モデルの適合度に応じて把持動作を開始したりキャンセルしたりすることで、高い成功率で把持できると見ている。ゆえに今後は、紹介した予測技術によるワークの移動先の予測値とモデル適合度を用いて、ロボットアームの動作の実現に取り組むとしている。また、検証では画像処理を簡単にするためにワークにマーカを貼付していたことから、マーカレスで、かつ複雑な運動をするワークにも対応する画像処理技術などの開発にも取り組む。

  開発した予測技術は、ワークの把持のほか様々な用途への展開が見込まれるが、ハンガーで吊された状態で搬送される鋳物部品のハンドリングに有効と見ており、まずは自動車の生産ラインに向け提案することを予定している。

【参考文献】
[1]江本周平,藤井正和,曽根原光治,“移動体把持ロボットに向けた状態推定手法による予測技術の開発”,ロボティクス・メカトロニクス講演会2011(ROBOMEC 2011),2011.
 




好評連載がついに書籍化!


―東大研究者が描く未来―


国内外の事業例を解説


消費者が描く未来生活を紹介