※本記事は「機械設計2011年12月号」に寄稿した内容を再編集しました。
近年、変種変量生産への対応を目的に、一部製造業で生産拠点の国内回帰が進んでいる。これに伴いセル生産方式が導入されているが、今後の少子高齢化に伴う労働人口の減少や、アジア各国の人的資源を背景とした国際競争力への対応などを見すえると自動化が求められる。すなわち、ロボットを活用したセル生産システム(ロボットセル)への移行である。
IDECでは2000年からロボットセルを運用しており、産業用スイッチや産業用リレーなどの変種変量生産を行っている。併せて、ロボットセルの高機能化も進めており、「次世代ロボット知能化技術開発プロジェクト」(NEDO、2007~2011年度)に参加して以降は、知能化技術ならびに関連するソフトウエア・モジュール(「知能化モジュール」と表現されている)の開発に取り組んでいる(動画)。具体的には、ティーチング(教示)時間の自動化やチョコ停からの自動復帰などに関する知能化技術であり現在、これらの機能を実装した知能化モジュール群の公開に向け準備を進めている。
ここでは、ロボットセルの高機能化に寄与する知能化技術の概要を紹介する(研究開発の目的は事例を参照)。また、同プロジェクトが知能化モジュールの開発で採用しているロボット用分散ミドルウエア「RTミドルウエア」にも触れ、それに関心を持ってもらえるよう、IDECが推進しているソフトウエア・コンポーネントのデザイン手法の有効性を示す。
IDECでは、ロボットセルに6軸垂直多関節ロボットと4軸水平多関節ロボット(スカラロボット)を利用しており、これらの動作をターゲットに知能化モジュールを開発している。しかし、知能化モジュールを書き換えたり、またはモジュールを組み替えたり追加したりすれば、他のシステムにも展開することはできる。特に、後述するデザイン手法を活用すれば、なおさら進めやすい。また、IDECではマルチハンドに加え、部品トレイや部品供給システムなどの周辺機器を「ロボット周辺グッズ」として標準化、提供することを予定しており、知能化モジュールと併用することでロボットセルを容易に導入できると見込まれる。
動画 2011国際ロボット展でIDECが公開したロボットセルおよびマルチハンドの映像
ティーチング時間を短縮する知能化技術
事例でも紹介されているが、IDECのロボットセルは2台のロボットがあり、その周囲に組立治具や部品トレイなどを配置している(図1左)。一度に多数の部品を把持できるマルチハンド(図1右)により部品トレイ(部品供給トレイ)から部品を取り出し、組立治具を用いて組み立て、完成品を部品トレイ(部品完成品トレイ)に並べるという動作を繰り返す。マルチハンドは工程に応じて自動交換が可能で、変種変量生産に対応する。
図1 IDECのロボットセルの基本構成(左)と外販を開始したマルチハンド(右)
ロボットセルに限った話ではないが、ロボットを利用した生産システムではシステムの立ち上げに時間を要する。おもな要因の1つにティーチングがあげられ、正確かつ高精度に動作経路を定義するのに時間を要する。その自動化に向け開発したのが「教示支援モジュール群」である。部品トレイからの部品の把持にかかるティーチングの自動化と、現場でのオンラインでの動作経路の修正作業(中継点の追加作業)をターゲットにしており、ロボットセル内に設置したステレオカメラを利用して行う。
同モジュール群の利用により、それぞれのティーチングは非常に簡素なものとなっている。
前者では、まず部品トレイに付与した複数のマーカの3次元座標をステレオカメラで計測し、事前に登録した部品トレイのデータベースと比較して部品トレイの種類および位置姿勢を取得する(図2左)。部品トレイごとにマーカの配置が異なっており、把持対象の位置情報なども紐付けして登録されている。
次に、得た情報をもとに把持対象の位置にハンドカメラを移動し、把持対象の正確な位置姿勢を計測する(図2右)。ステレオカメラによる計測でおおよその位置姿勢が得られるが、把持対象が微小部品になると高い検出精度が求められるため、ハンドカメラにより詳細な位置姿勢を計測するようにしている。これら一連の作業を実行するのみでティーチングを終えることができ、IDECによると2~3分程度で済むとしている。なお、前半の作業に対し概略座標補正機能を、後半の作業に対し詳細座標補正機能をそれぞれ知能化モジュール群として用意している。

図2 ティーチング時間の短縮。概略座標補正機能によりステレオカメラで部品トレイのマーカを検出して登録したトレイを識別(左)。詳細座標補正機能によりハンドカメラで部品の正確な位置姿勢を得る(右)
後者の経路修正は、ティーチングペンダントのタッチパネルを操作して行う。タッチパネル上に表示されたステレオカメラの画像に中継点を定義し、概略座標補正機能で計測することで動作経路の追加や修正が行える(図3)。現場でよくなされる、障害物を回避するために中継点を追加する作業を、このような簡易な操作で行えるようにしている。

図3 タッチパネルに中継点を定義し、概略座標補正機能により計測することで動作経路の追加や修正ができる
また、ティーチングの簡素化に向け、「LED指示棒」を使用する方法も提案している。LEDランプに三角錐に形成した拡散板を配置しており、これによりティーチングしたい軌道を描き、ステレオカメラで計測することで、3次元座標とロボットの姿勢を定義することができる。LED指示棒は三角錐の形状のため、ステレオカメラにより指示棒の先端部を認識できなかったり一部が隠れていたりしても各辺から先端部の座標位置の推定が可能で、問題なく計測することができる。現場では、ロボット直接動作して軌道を記憶させるダイレクトティーチングが多用されているが、作業者にかかる負担は小さくない。LED指示棒による方法では、動作させたい軌道上でLEDを発光するだけで済み、より簡便かつ高効率なティーチングが見込まれる。
チョコ停を回避・自動復帰する知能化技術
チョコ停とは、作業中のエラーの発生による一時的な停止のことである。マルチハンドの指先や組立治具のセンサの状態を確認することでチョコ停を認識できるが、復旧作業にはメンテナンス要員が当たっている。長期連続稼働に向けてはロボットセルが自律的に原因を排除する方が望ましく、画像処理により事前回避と自動復帰を行う知能化技術を開発している。
事前回避では、上述の詳細座標補正機能を利用しており、把持する前に部品トレイ上の部品の位置を認識し、位置ずれが発生していれば、部品トレイを載せているXYテーブルで補正を行う(図4左)。また、事前に部品トレイ上の部品を検査することで、ハンドリングミスにつながると判定される部品はあえて把持しないようにしている。ここでの検査は天井カメラなどで捉えた2次元画像で行っており、合致度により良品判定を行っている(図4右)。また、学習機能を実装しており、ハンドリング可能と判定したにもかかわらず把持できなかった場合は、その都度学習し、合致度に反映することで次のハンドリングに役立てるようにしている。しかしながら、それでもチョコ停の発生を避けられないため、併せて自動復帰を実装している。
図4 チョコ停の事前回避。詳細座標補正機能により位置ずれを補正する方法(左)と、事前に部品トレイ上の部品の合致度を判定する方法(右)がある
自動復帰は次のような手順で行う。
前段階として、事前に各工程における本来の「あるべき姿」、復帰対象とする「異常状態」、異常状態からあるべき姿への「復帰動作」を学習させておく。1つひとつの異常状態に対し、それぞれの復帰動作を記憶させる。
そして、実際にチョコ停が発生したときは、該当する工程や場所は作業の進捗度や異常検知のタイミングなどから推定されることから、まず該当個所を画像で捉え、あるべき姿の画像と比較して異常エリアを検索する。次に、事前に学習した異常状態をもとに異常の内容を識別し、復帰動作を選択する。同時に、異常の原因となっている部品の位置姿勢など異常状態を計測する。最後に、計測した位置姿勢をもとに、復帰動作に必要な座標情報をロボットに伝え、選択した復帰動作を実行することでチョコ停の原因を排除する(図5)。
例えば、ハンドリングミスにより部品が落下し、裏返しになったことが原因でチョコ停が発生した場合は、裏返しとなっている状況を異常状態として認識し、復帰方法としてバキュームによる撤去を選択。同時に部品の位置姿勢を計測し、その作業に必要な座標情報をロボットに伝えて撤去作業を実行する。チョコ停の原因を排除した後は、再び画像認識を行い、生産を再開できる状態になったことを確認している。なお自動復帰では天井カメラにより認識を行っている。
IDECの調査によるとチョコ停の原因は、部品の取り出しミスによるものが64%、組立ミスによるものが18%と、ハンドリングミスに起因するものが8割以上にも上る。このような復帰方法によりチョコ停からほぼ自動で復帰できるといえよう。IDECでは、実稼働システムと同等の検証システムにて8時間連続稼働を実施し、ロバスト性などを検証した後、滝野事業所の現場に適用することを予定している。

図5 チョコ停からの自動復帰の手順・画像のキャプチャー(STEP1)、異常エリアの検索(STEP2)、異常エリアの識別(STEP3)、復帰動作の選択(STEP4)、異常エリアの計測(STEP5)、復帰行動の実行(STEP6)という手順で進める
RTミドルウエアと2層化RTC
冒頭で紹介したRTミドルウエアとは、ひと言でいえば、ロボットの機能要素であるソフトウエア・モジュールをネットワークを介して組み合わせることで様々なロボットシステムを構築する開発基盤のことである。システムを構成する主体であり、制御ロジックを包含するソフトウエア・モジュールを「RTコンポーネント(RTC)」といい、その実行環境がRTミドルウエアとなる。RTCは他のRTCと通信・相互作用を行うデータポート、サービスポートを備えており、これらのインターフェース仕様を共通化することで様々なRTCを結合したり再利用したりすることができる。RTCは、いわば制御ロジックを共通の皮(フレームワーク)で包み込んだようなもので、共通の皮で包み込むことでRTミドルウエアがRTC同士をうまく接続する役割を果たしてくれる。
前節で紹介した知能化モジュールはRTCのことであり、複数のRTCが連携して知能化技術を実行することから知能化モジュール群と表現していたのである。IDECではセンサデバイスを制御する「Sense」系と、アクチュエータやロボットを制御する「Act」系、システムの状態遷移を定義した「Plan」系に分類してRTCを開発している。そのほかシステムの監視・操作に向け「GUI」系も用意している。
RTミドルウエアは、各RTCの相互接続や再利用を保証する最低限のインターフェース構造を定めており、実装に関しては規定していない。それだけ開発の自由度が高いが、モジュールの粒度の選択や外部公開するインターフェースの決定も自由であるため、再利用性が高いRTCになるか否かは開発者に委ねられている。実際、冒頭で触れた次世代ロボット知能化技術開発プロジェクトでは、インターフェースの整合性は図れたもののモジュールの粒度などに著しい違いがあり、厳密な意味で再利用性が確保されていない。また、各ロボットおよびデバイスメーカーのインターフェースに依存するかたちでRTCを開発すると、異なるロボットやデバイスに切り換える際、そのままでは使えない。それぞれのRTCの仕様を理解しつつ個別にRTCを制御しなければならない。そこで、IDECでは「2層化RTC」というデザイン手法を提案し、こうした状況に一石を投じている。
2層化RTCは、「汎用機能モジュール」(=仕様)と「デバイス依存モジュール」(=実装)の2つを組み合わせてRTCを構成する(図6)。前者は、接続や起動、停止などの各種設定や、基本コマンド動作など汎用的な機能を実装したモジュールであり、メーカーや機種に依存しない操作方法を規定している。また、デバイスごとの機能を共通化した汎用的な外部インターフェースと、デバイス固有の要素機能を接続する内部インターフェースを備えており、外部インターフェースの提供によりメーカー固有の専用関数などを隠蔽する。後者は、内部インターフェースで規定された要素機能を実装するモジュールであり、RTCの開発者はそれに沿ってデバイス依存モジュールを開発しておけば、ロボットやデバイスを切り換えたときでも、これまでと同様に汎用機能モジュールを利用することができる。

図6 2層化RTCの概要。内部インターフェースに沿ってデバイス固有の要素機能を、つまりデバイス依存モジュールを開発すれば、異なるデバイスでも汎用機能モジュールの利用が可能になる
クルマの操作に例えるなら、前者は「アクセルを踏む」「ブレーキを踏む」「ハンドルをきる」といった“汎用的な動き(制御)”を、後者は乗用車やダンプカー、F1マシンそれぞれの動きを実現する“手段”をそれぞれ規定したようなもので、これらを切り分けることでクルマ(ロボットやデバイス)を乗り換えても、デバイス依存モジュールを用意しておけば、同じようにクルマを操作できる(汎用機能モジュールが使える)ことになる。IDECでは4種類のロボットの動作検証を通じて、デバイス依存モジュールを開発しておけば、汎用機能モジュールを再利用できることを実証している。
2層化RTCを利用することにより、汎用機能モジュールの内部インターフェースに合わせてデバイス依存モジュールを作成すれば、目的とするRTCを開発することができる。開発側の実装作業が容易になる。また、ロボットおよびデバイスメーカーごとのインターフェースの違いをRTC内に隠蔽されるため、これらを切り換えても、ソフトウエアを変更することなくシステムを構築することができる。RTCの再利用性の向上につながる。したがって、RTCを開発する側にも再利用する側にもなるシステムインテグレータにとって、有効な開発手法になり得る。
なお、2層化RTCはロボットコントローラやカメラの制御、画像処理など様々なシステムに展開することができ、IDECでは開発した知能化モジュールを、「Sense」系「Act」系を“デバイス制御型2層化RTC”、「Plan」系を“状態遷移型2層化RTC”、「GUI」系を“画面遷移型2層化RTC”として、それぞれこの手法により実装している。
付加価値向上に知能化モジュールを
本稿では、IDECが開発した知能化技術の概要を紹介し、そのベースとなっているRTミドルウエアを紹介した。さらに、IDECが提案している2層化RTCに触れ、その活用によりRTCの実装が容易となり、かつ再利用性が向上することを説明した。知能化モジュール群をロボット周辺グッズと併用することでロボットセルを容易に構築することができ、また、2層層化RTCを利用したり、それに即した実装をしたりすることで高効率な開発が見込まれる。これらはシステムインテグレータにとって高付加価値なロボットシステムを提案するためのツールになり得る。
次世代ロボット知能化技術開発プロジェクトは2011年度で終了するが、多種多様なロボットやアプリケーションを想定して、つまり、ターゲットとなるロボットやアプリケーションが不明なままに取り組まれたがために、実際の開発で使える知能化モジュールは限られる。これに対し、産業用ロボットの分野ではターゲットとなるロボットや各種デバイスをある程度固定することができ、かつ用途も想定しやすい。数年先に求められるロボットの役割や機能を見据えつつRTCを作成することが可能で、RTミドルウエアのようなソフトウエア・プラットフォーム戦略が目的とする開発の高効率化と高品質化の両立を達成しやすい。
本稿で紹介した知能化モジュールの利用を通じて、産業用ロボットを中心にRTミドルウエアが普及する可能性は他のロボットの応用分野よりも遙かに高く、また、システムインテグレータにとっても有効なツールになると考えている。
【参考文献】
[1]濱田航一,米澤浩,飯田勝久,樋口伸夫,井田勝久,“千手観音モデルによるロボット制御セル生産システムの進化”,計測自動制御学会 第10回 システムインテグレーション部門講演会(SI2009),2009.
[2]米澤浩,濱田航一,飯田勝久,“ロボット制御セル生産システムにおけるチョコ停からの自動復帰手法”,第27回 日本ロボット学会学術講演会,2009.
[3]米澤浩,菅井祐平,濱田航一,飯田勝久,“汎用機能モジュールとデバイス依存モジュールを組み合わせた2層化RTCの再利用性、実装容易性の向上”,第27回 日本ロボット学会学術講演会,2009.