国際レスキューシステム研究機構(IRS)
神戸ラボリーダー 高森 年
まずは、安全後進国を認めることから
「大きなクライシスがあると、その主体の本質が現れる ―」とよくいわれるが、「3.11」は、その典型的な事例となった。
危機的な状況もかかわらず、お互いを助け合い思いやる気持ちを持ち続けることができた被災地の方々には、心から賞賛の言葉を送りたいし、世界からも高い評価を受けた。しかし一方で、福島原発事故・災害緊急対応で、管理者(為政者も含む)の安全に対する認識・判断・行動が、世界から嘲笑を浴びることとなった。
今回の大災害により、国民の大多数がうすうすわかっていたにもかかわらず、多くの分野で、安全に対しコストをかけず、無作為を続けていたことへの大きなしっぺ返しである。わが国は、技術大国を誇る(?)一方で、安全後進国であることをひたすら無視し続けていたことが白日にさらされることとなった。深く反省すべきことである。安全後進国であることを素直に認め、安全についての世界の常識を学び、小さなことからでもよいから実行すべく国民全体が決意・監視すべき“とき”であろう。
約7年前(2005年9月)、「愛知万博(愛・地球博)」の特別企画「ロボットプロジェクト:ようこそ、ロボットと暮らす街へ(次世代ロボット実用化プロジェクト)」に、当時開発中のレスキューロボットを出展する機会を得た。
このとき、わが国で初めて当時、北九州市立大学の杉本旭先生(現明治大学教授)の指導のもとISO/IEC Guid51(安全設計の基本概念)の思想にもとづくサービスロボットのリスクアセスメントが実施されたが当時、ロボット技術者からの後ろ向きな声が上がったことを憶えている。私も「この忙しいときに、余分で面倒なことをさせる人たちがいるものだ・・・」とか、「ところで、リスクアセスメントって初めて聞くけど何のこと?」などと思っていたうちの1人だった。
しかし、その後、サービスロボットの安全技術が、わが国のサービスロボットの発展・産業化のための根幹となる技術の1つであることを認識するのに、そう時間はかからなかった。当時、杉本先生とともに、その重要性を説いていた長岡技術科学大学の木村哲也准教授たちの啓蒙によるお陰である。
「サービスロボット安全技術者認定講座」を最初に開講したのは、2008年1月(当時の記事はこちら)である。事業の採算の目処も立たぬまま、周囲の応援と使命感だけでスタートしたように思う。本講座も6回目(中級は2回)を終え、これまでに初級・中級合わせて71名の認定者を輩出することとなった。その大多数が大企業でロボット開発に従事している技術者である。大企業が、サービスロボットを次の中核産業の候補として位置付け、その安全技術が不可欠の技術であることを認識しているからであろう。
一方、サービスロボット(パーソナルケア・ロボット)の安全に関する国際規格ISO/DIS 13482が今年末までに発行されることになった。国際的にこの技術の中核が定まり、各国の具体的実用化技術のレースがいよいよスタートしようとしている。“サービスロボット安全先進国”を目指す好機と捉えるべきであろう。この世界的なターニングポイントを機に、本認定講座はカリキュラムを、国際規格ISO 13482を中心とした骨格に改編することとした。
本稿では、これまでの認定講座について振返りつつ、新しい国際規格をもとに改編されるカリキュラムの課題・展望について述べ、本連載を終わるに当たっての締めくくりとする。
サービスロボット安全技術者認定講座とそのねらい
世界をリードする安全技術のエキスパートを目指し、あるいはサービスロボットに関わる企業の急務として、必ず必要となるロボットの安全技術を習得させることを目的として、「サービスロボット安全技術者認定講座」の初級コースが2008年1月に開講し、同中級コースが2008年12月に開講した。現在、初級が第6回(認定累積:70名)、中級が第2回〔認定累積:11名(うち初級認定者:10名)〕を終えたところである。
本講座は、国際的ルールであるISO/IEC Guide 51の精神にもとづく安全化のプロセス、すなわちリスクアセスメントにもとづくPLP(Production Liability Prevention:製造物責任予防)手法をサービスロボットに適用するための技術習得が目的であり、実習・認定試験を含めて5~6日間の日程で構成される。
なお、各コースの特徴は概略以下の通りである〔詳細は、下記参考文献(*)ならびに本認定講座ホームページの各コースシラバスを参照のこと〕。
*:高森年,木村哲也,岩岡和幸,大築康生,加部隆史,杉本旭,奈木勉,“サービスロボットの初級中級安全技術者の育成カリキュラム”,第9回 計測自動制御学会 システムインテグレーション部門講演会,2008.
【初級安全技術者認定コース】
このカリキュラムでは、以下の(1)~(3)の能力を持つサービスロボット初級安全技術者を育成することを目的とする。
(1)サービスロボットに関連する国際安全規格の概念を正しく理解するとともに、(2)サービスロボットに関する技術を習得し、(3)リスクアセスメントを実践(リスクアセスメントシートの作成)できる技術者
《カリキュラム内容》単位:時間
●サービスロボットの安全認証(概念と実務):3
●サービスロボットの認証業務設計者心得〔RBA(Risk Based Approach)、ARR(Adequately Reduced Risk)、CH(Critical Hazard)、RAD(Reasonably Alternative Design)〕:3
●ロボット技術(色々なロボット、ロボットの構成、知能技術):3
●メカトロニクス技術(駆動システム、センサシステム):3
●関連国際安全規格基礎(機械安全、リスクアセスメント規格、安全距離、非常停止、ノイズ):6
●リスクアセスメント実習1(実機を用いた例題に対し指導を受けながらリスクアセスメントを実施・リスクアセスメントシート作成):6
●リスクアセスメント実習2(実機を用いた例題に対し自らが主体となりリスクアセスメント実施・リスクアセスメントシート作成、写真1):6
《認定試験の実施》:2
このカリキュラムの特色は、国際安全規格(ISO/IEC Guide 51、ISO 14121、ISO 12100)基本原則をサービスロボットに適用することを前提に、PLPの考え方の基本、ロボットの基礎知識を習得させ、次の段階の中級につなげようとするものである。この段階のリスクアセスメント実習では、安全化対策(安全防護)の前提となる危険源の具体的把握(危険源の同定)についてのみ習得させる。
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写真1 2012年1月27~2月5日実施した「第6回 初級安全技術者認定講座」の様子。グループに分かれてお掃除ロボットを例にリスクアセスメントを実施した
【中級安全技術者認定コース】
このカリキュラムでは、以下の(1)~(4)の能力を持つサービスロボット中級安全技術者を育成することを目的とする。
(1)国際安全規格の真髄を理解し、サービスロボットに応用する。
(2)国際安全規格の基本原則を理解のうえ、人とサービスロボットとの「共存の原則(隔離の原則との対比)」の可能性を正しく理解する。
(3)機械安全の概念に則り設計・運用上の安全コンセプトを作成し、適切に低減されたリスクを実現する。
(4)残留リスク管理を利用者に移譲するための関連図書を完成する。
《カリキュラム内容》単位:時間
●サービスロボットの安全性確保の概念
・設計者責任と安全認証:3
・安全認証例(4線式安全マット):3
●サービスロボットの電気・制御・機能暗線の基礎知識
・制御安全、機能安全の概要:3
・安全節制での電気的注意点(EMC、IP保護等級、感電、制御盤):3
●安全コンセプトの実践演習
・安全コンセプトの作成手順(隔離の原則⇒共存の原則の条件、ΔRとRAD):3
・実習1(安全コンセプトの実例:三菱重工業の「wakamaru」などの例、写真2):3
・実習2(リスクアセスメントとリスク低減:5種類程度のロボット資料にもとづく演習):3
・実習3(関連図書(リスクアセスメントシート、仕様、取説)作成)
《認定試験の実施》:2
このカリキュラムの特色は、すでに安全鑑定を受けたサービスロボットの特徴を踏まえ、鑑定を 実際に実行した立場から危険源の同定や本質安全にもとづく安全防護、関連図書の作成方法について講義する。また、具体的なロボット資料に基づく実習を通じて、安全コンセプトの作成を体験させる。
すなわち、中級を習得することにより、サービスロボットの安全設計の3ステップメソッドを包含した 設計・企画のための能力をつけることができる。
写真2 2011年12月9~17日実施の「第2回 中級安全技術者認定講座」の様子。三菱重工業のwakamaruなどを例に安全コンセプトの作成について解説している。講師は安全工学研究所の加部隆史理事
ISO 13482の発行とその概要
ISO/DIS 13482(Robots and robotics devices-Safety requirements for non-industrial robots-Non-medical personal care robot)が、2012末までに正式に発行されるべく作業が進められている。国際的にはこの規格を中心としてサービスロボットの安全技術が今後、発展していくものと考えてよい。
以下、この規格について概観する。なお本規格のDraftは、ISOホームページより購入できるため、参考にしてほしい。
2012年末発行のISO/DIS13482の特徴は以下のように捉えられる。
(1)personal care robot(人間支援ロボット)を具体対象とするアウトライン的規格(2015年以降の改訂で、より具体的な規格に仕上げられる予定)である
(2)安全化の思想(手法)は、リスクアセスメントを中心とする3ステップ・メソッド(ISO 12100)にもとづく
(3)規格の位置付けとしては、産業ロボットのみをカバーしているISO 10218-1:2006に補完的に組み込まれる
personal care robotの定義を述べておくと、人間の生活の質(Quality of Life)の向上に資する目的で、直接または間接的(支援)行動を実行するために物理的な接触を許すサービスロボットのこと。このrobotの代表的なタイプとして、(1)mobile servant robot、(2)person carrier robot、(3)physical assistant robotが含まれる。ただし、医学的分野での応用を除く。
さらに、(1)~(3)それぞれの定義を述べると、mobile servant robotは、自ら意図したタスクや物体のハンドリング(マニピュレータの有無にかかわらない)を実行するために、自由に行動できるpersonal care robot。physical assistant robotは、要求された支援タスクを実行するために、人間をアシストするpersonal care robot(後略、写真3)。そして、person carrier robotは、自律的ナビゲーションや案内、歩行によって人間を移動させる目的をもったpersonal care robotのことを指す(写真3)。
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写真3 person carrier robot(左)とphysical assistant robot(右)の一例。トヨタのWinglet(ウィングレット、左)とホンダのリズム歩行アシスト(右)
基本的には産業ロボットを含む機械安全についての枠組みが骨格となっており、
ISO 12100(機械安全)+ISO 14121(リスクアセスメント)+ISO 13849(制御安全)+IEC 61508(機能安全)
が全体構成である。関連規格についても機械安全で用いられるものがそのまま適用される。
しかし、これまでの機械安全の内容と大きく異なって重点が置かれることになる規格は、機能安全規格IEC 61508であろう。IEC 61508は、ISO 13482ではIEC 61508でなく、その派生規格のIEC 62061(産業機械用の機能安全規格)が2章で引用規格として明示され、6章のSafety-related control system requirementsと付属書Dで、リスクレベルの表現としてSIL(Safety Integrity Level:安全度水準)が、また付属書Eで、validation(安全の妥当性確認)の例で、IEC 61508が引用されている。(参考:ISO 13482の目次構成については、2012年2月8日のニュース記事を参照してほしい)。
今後、サービスロボットに関する安全を論じる場合、機能安全の課題を避けて通ることができず、現状、この課題がまったく手付かずの状態であることから、このための研究が今後多く望まれる。長岡技科大の木村准教授は、最近、この問題に対する安全・ロボット技術の専門家からなる勉強会を立ち上げつつあり、今後の活動とその成果が注目される。
なお、この新しい規格による体系化と、これまでの「サービスロボット安全技術者認定講座」初級・中級のカリキュラムとの関係、および、これにともなうカリキュラムの改正方針については、以下で概説したい。
認定講座のこれまでの課題と今後の予定
本認定講座を開始した2008年当初は、サービスロボット開発者に国際安全規格にもとづく安全設計の基礎であるリスクアセスメント自体が浸透していなかった。ゆえに、本認定講座では規格・認証・保険という国際安全規格の求めるリスクマネジメント社会の基本構造を教授するとともに、リスクアセスメントの具体的な理解に時間をかけていた。
これまでの受講生アンケートを振り返ると、「異なる講師の講義内容に重複があり効率的でない」との意見もあったが、当時の安全に対する社会状況からすると、異なる講師の異なる立場から安全の真髄を教授することが必要だったと考える。そのためか、受講生アンケートではまた「はじめてリスクアセスメントの具体的手法が理解できた」との意見もあった。
本認定講座の開始から4年以上が経過し、ISO/DIS 13482の発行を控える2012年現在、サービスロボット開発関係者の間では国際安全規格の理解がかなり進展しつつある。本認定講座の参加者からの質問も、回を追うごとに関連規格を踏まえて具体的になり、場合によっては講座修了後に、個別にコンサルテーションを実施する事例も出てきている。
ISO 13482が発行されることで、サービスロボット安全に求められる国際安全規格の要点が明確化され、本講座のカリキュラムの方向性も明らかになってきている。今後、ISO 13482に沿って講義内容を整理し、初級においてはリスクアセスメントに加えて保護方策手法の理解を、中級においては関連規格のより幅広い理解と、より具体的な安全コンセプトの立案能力の教授が必要と考えている。国際安全規格の求めるState of the Artの原則に則り、受講生の進化とともに、本認定講座も進化を続けていく予定である
安全の同士を求める
2007年、経済産業省 がとりまとめた「次世代ロボット安全性確保ガイドライン」が発表され、また、2009年度よりNEDOによる「生活支援ロボット実用化プロジェクト」が取り組まれる中、サービスロボット安全技術者育成の重要性をより一層強く感じている。今後、本認定講座からの多くの安全技術者を輩出するとともに、これら公的な成果にも呼応した活動を活発化していきたい。
最後に、本連載講座を通じて、1人でも「安全の同志」が増えることを望むとともに、サービスロボット市場の創出を志す方からの支援を期待する。
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―次世代ロボット分野の国際安全規格策定と関連技術の動向より
《特集》
►生活支援ロボット安全検証センター始動!設立の背景と課題を探る
《連載掲載記事一覧》
4肢選択で理解する!サービスロボット安全技術講座
►第1回 サービスロボット安全概論 【設問編】
►第2回 サービスロボット安全設計基礎 【設問編】
►第3回 機械安全規格概論 【設問編】
►第4回 リスクアセスメント規格 本質的安全設計とその他の保護方策【設問編】
►第5回 サービスロボット安全技術概論【設問編】
►第6回 安全性確保のためのメカトロ技術【設問編】
►第7回 リスクアセスメント【設問編】
(※解答&解説編は、各設問編からアクセスして下さい)

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