終了:勝手に制御分析!あのロボットはどう動く?

2009.01.19
プロローグ スパロボの世界からロボット制御工学の世界へ!

立命館大学 総合理工学研究機構 先端ロボティクス研究センター
チェアプロフェッサー 金岡 克弥

 突然ですが、アナタはスーパーロボット(*1)は好きですか・・・?

 おそらく,この記事をご覧いただいているということは,相当興味をお持ちだと思います.しかし,スーパーロボットを実現するために必要なものは、アクチュエータのパワーとエネルギー源の容量、素材の強さだけだと思っていませんか? もちろん、これらは不可欠ですが、それだけでは不十分なのです。人間の場合でも、筋力・体力と打たれ強さだけでは「筋肉バカ!」と揶揄されてしまいます。同じように、無尽蔵にパワーを発揮でき、強固な超合金を身にまとっただけでは、到底スーパーなロボットにはなり得ません。
 「お金があって強いモータとバッテリー、強いロボットボディが買えれば、オレにも強いロボットがつくれるのに!」と思っているアナタ。残念ながらそれだけではダメなのです(図1)。

*1:ここでは工学的な考察を加える都合上、「機動戦士ガンダム」をはじめとする、いわゆるリアルロボット系を対象とします。一般に言われる「スーパーロボット」と「リアルロボット」の分類と異なることをご承知おきください。

図1・何か足りない.jpg図1 ロボット制御工学があってこそ、ガンダムのようにロボットを自在に動かせるのです。

 

制御なくしてスパロボなし!

 では一体、スーパーロボットたり得るには何が必要でしょうか? それは、強力なパワーと強靱なボディの力学を統御する「緻密さ」です。そして、その「緻密さ」を現実世界で実現するのが「ロボット制御工学」です。
 「制御? なんじゃそりゃ? ロボットはモータと歯車とリンクを組み合わせて、かっちょいいガワを付けてナンボやろ! あとはモーションをひたすら打ち込むべし!」…。
 そうおっしゃる方もいるでしょう。それはそれで構いません。しかし、筆者から言わせれば、それではロボットの“オイシイところ”をみすみす逃しています。

 モーション打ち込み派のみなさんは、モーションの再現性の悪さに悩まされたことはありませんか? プログラムしたときにはうまく動いてくれたのに、いざ本番ではズッコケたりしませんか? その理由は、モーションプログラミングという手法が、ロボットの「一人遊び」だからです。
 それはオープンループ(*2)のやりっ放しの手法であり、好きなように遊ぶことができますが、その結果は現実世界の力学に大きく左右されます。オープンループがダメというわけではないのですが、ロボットをとりまく力学を「モーション打ち込み≒試行錯誤」によって抑え込んでいる(つもりになっている)ことが、現実世界のロボットとしては致命的欠陥なのです。

*2:厳密に言えば、角度サーボはセミクローズドループですが、モーション打ち込みの本質はやはりオープンループです。

 一方、真のロボット制御工学(*3)における哲学は、ニュートン力学という厳格なルールが支配するにもかかわらず、未知の外乱の影響を受けまくる現実世界で、いかにロボットに思い通りの動作をさせるか、さらに、人間あるいは他のロボットのような「他者の意思」が力学の奥に介在したとしても、いかにうまく対応するかという、鍛錬された武道家やスポーツ選手のようなスキルを実現することにあります。

*3:「ロボット制御工学に『真』も『偽』もないやろ!」との指摘が聞こえてきそうですが、これは「真のロボット制御工学はサイバネティクスに内包される」という筆者の考えを念頭に置いた表現です。

 「何だかよくわからんなあ~」と言う方には、次のような例え話はいかがでしょうか。
 アナタは「強くなりたい!」と思い、ある空手の流派に入門しました。すると、型(*4)は徹底的に教え込んでくれるのですが、組手はまったく教えてもらえません。アナタは不安になり、「試合や実戦ではどうすればよいですか?」と聞くと、師範は「オレが型を指示するから何があってもその通りに動け。これがウチのやり方や!」と。アナタは疑問を感じつつも、他の流派でも同じような状況なので、とりあえず型を再現できるように練習しています…。
 どうですか? これがモーションプログラミングの本質です。それはそれで構いませんが、筆者に言わせれば、戦う相手を見ず、型しかしないというのは、強くなる方法を間違えているのです(*5)

*4:型とは、各種の技を決まった順序で行い、空手の基本的な技や姿勢を身に付けるための練習で、おもに1人で行います。一方、組手はおもに2人が相対して行う練習で、互いに技を掛け合って型の技術を磨く約束組手と、勝敗を目的とした組手試合があります。
*5:もちろん型は基本です。組手だけで型をしないというのも間違いでしょう。

 …ちょっと熱くなってしまいましたが、ここで、ここまでの内容をまとめてみましょう。
 モーションプログラミングと異なり、真のロボット制御とは、コンピュータの抽象世界と現実の世界、言い換えれば、数学の世界と力学の世界をつなぐ存在図2)であるべきです。コンピュータの中だけで完結するオープンループのやりっ放しでは、真のロボット制御とは言えません。
 スーパーロボットにおいては、スーパーなコンピュータとスーパーなロボットメカが設定されており、われわれはそのスーパーさにワクワクするのですが、実は、その陰にはスーパーなロボットを手懐けて現実世界につなげる緻密なロボット制御工学が、人知れず地道に機能しているはずなのです。

女神さま改訂.png図2 数学の世界と力学の世界をつなぐ存在がロボット制御工学です。

本連載の哲学と方針

 本連載は、ロボット制御工学の重要さと難しさ、難しさと表裏一体の面白さを、一般の方に理解してもらうことを目的としています。ここでは、例えば「ミノフスキー粒子」や「ガンダリウム合金」のような、現在の技術の延長に位置付けられない不連続なオーバーテクノロジーは原則扱いません。オーバーテクノロジーはオーバーテクノロジーとして扱うのが SF の大原則であり、それを現在の技術で無理矢理解釈しても本連載の趣旨に合いません。何より、スパロボに対する“愛がない!(*6)”と考えるからです。

*6:『空○科○読○』のように、マジンガーZが立てないなんて制御の観点からはあり得ません。否、巨大ロボットの歩行は現在の技術の延長に十分位置付けられるので、これは愛ではなく単に知識がないだけと言えます。

 現在のロボット制御工学は、すでにスパロボの尻尾を掴みかけています。この尻尾、すなわち、現在のロボット制御工学が実現しつつある技術を解説します。
 その一方で、現在のロボット制御工学でも解決できていない課題も、実はまだまだ山積みです。本連載では、皆さんにも馴染みの深い SF やアニメのロボットを題材に考察しつつ、現在のロボット制御工学ができること/できないことを、そしてロボット制御工学の発展の先に、われわれはどんなスパロボを目指すべきなのかを述べていきます。

 なお、説明のために数式を用いることがあります。数式をすべて読み飛ばしても十分理解できるように執筆することを心がけますが、ロボット制御工学の感覚を体感してもらうために、あえて「数式を極力使わない」という方針は掲げません(*7)。これを機会に再度数学を学習されることを期待しています!

*7:大学で教えていると、ロボット制御工学が数学で記述されることを知らなかった新入生達が愕然としているのを毎年目にします…。

本連載をぜひ読んでほしい方々

 本連載の対象とする読者は、中学生・高校生・大学生、ロボットに興味はあるが必ずしも工学的な専門知識のない一般の方々とします。さらに、ロボットに対するさまざまな先入観を持っている方々、例えば、「ロボットって何でもできるんやろ」「ロボットって何もできないやん」「ロボットの技術なんてもう完成しているんやろ」「ロボットは喋ってナンボやろ」「ロボットとは生きている機械」「ロボットはともだち」「ロボット工学三原則!」「ガンダムは男のロマンやろ」・・・と思っている方々には、ぜひ本連載を読んでほしいです。

本連載を読むと何がおトクなのか?

 さて、本連載を最後まで読んでくれた方には、どのようなメリットがあるのでしょうか? 以下に、代表的なものを挙げておきます。

★人工知能とロボット制御の違いがわかる
 ここでの「人工知能」は、人間のような「自我」や「意識」を工学的に実現すること、と定義しておきます。いわゆるデカルトのコギト「私は考えている、だから私は有る」という命題1)をロボットで実現することが、ロボット工学における重要な課題だと見なされることもあります。
 おそらくは、人工知能もロボット制御もともに、ロボットに搭載されるコンピュータソフトウエアとして実現される(*8)ところからの混同だと推測しますが、これらは別物と捉えるべきです。

 ロボットは、何を考えているのかわからない、得体の知れない自我を持つ「他者」として創造すべきではありません。また、そういう意味で「考えている」ロボットは現存しませんし、実現する方法さえ見出されていません。したがって、今のロボットは、数式としての「制御則」の計算に完全に則って動く、ただの機械(*9)です(図3)。それがわかってしまえば、ロボットなど恐るるに足らずです!
 同時に、「とりあえずメカをつくる」だけではなく、また、ブラックボックスとしての人工知能に期待するのでもなく、数学と力学に基づいて「クリアボックス」としてロボット制御則を構築することの重要さと困難さも、本連載からわかってもらえるでしょう。

*8:近年では、身体性、すなわち物理的身体を持つことによる環境との相互作用が不可欠であるという立場が有力ですが・・・。
*9:そして今後もそうあるべきだと筆者は考えます。

イラスト1.PNG図3 ロボットは、数式としての「制御則」の計算に完全に則って動く機械。自我を有していません。

 

★現在のロボット制御工学でも、かなりスーパーロボットに近づけることがわかる、夢を捨てずに済む
 強大なパワーと強靭なボディ、そして、それらを緻密に統御するロボット制御。これらすべてが揃えば、スーパーロボットをつくることは十分可能です。ただし、スーパーロボットのパワーとボディは、多くの場合、現実の機械に比べてスーパー過ぎるため、そう簡単には具現化できません。
 しかし制御については、スーパーな部分を緻密に扱うことが、現実の技術でかなり可能になってきています。ということは、パワーとボディについては、モビルスーツ(*10)をあきらめてパワーローダー(*11)APU (Armored Personnel Unit(*12))、ランドメイト(*13)あたりを目標にすれば、われわれが生きている間にスーパーロボットを実現できる可能性は十分にあります(図4)。

*10:スーパーロボット大戦に参戦したロボットだけがスーパーロボットではありません。
*11:1986年のSF映画『エイリアン2』に登場した、人間が搭乗して操作する人間型のフォークリフト。主人公がこれを使ってエイリアンと格闘した。

*12:SF映画『マトリックス・リローデッド』『マトリックス・レボリューションズ』『アニマトリックス』に登場した人間型のロボット。やはり人間が搭乗して操作し、人類の最後の都市を侵略するロボット軍団(イカ野郎:センティネル)と戦った。
*13:士郎正宗原作のSF漫画『アップルシード』およびその派生作品に登場する装甲外骨格型パワードスーツ。搭乗者の動きをトレースすることで人間に近い動作を可能とし、さらに四肢のパワー増幅や対小火器防御、センシング能力の拡張、通信などの機能が得られる。

スライド2.PNG

図4 「ランドメイト」「APU」「パワーローダー」(左から)は、工学的な実現が期待できます。

 

★次世代ロボットは、必ずしも人に近づかないことがわかる
 一般の方が「次世代ロボット」としてパッと想像されるのは、より人間に近い知能とより人間に近いボディを持った、人間型の人に優しいロボットだと思います。しかし、例えばレプリカントのように、見分けがつかないほど人間に近くなり自我に悩むようになるならば、ロボットを偽人間に堕する愚を犯す可能性があります。ロボットが、自分が人間でないことを恥じ「早く人間になりたい!」と泣く(*14)など、工学の成果としては失敗作と言わざるを得ません(図5)。
 もちろん、次世代ロボットが人間型となることもあるでしょう。しかし、それはあくまで工学的な目的を追求した結果であり、必ずしも人間型とすることが目的ではありません。

*14:マンガでよくあるプロットですが、これは、異質なものの象徴としてロボットが使われた結果の産物であり、この台詞を吐かせるのは別にロボットでなくても妖怪人間でも何でも良い訳です。

イラスト5.PNG図5 自我に悩むロボットなんてあり得ないですし、ロボット工学の成果としては失敗作と言わざるを得ません。

 

ようこそロボット制御工学の世界へ!

 むしろ工学の観点から重要なのは、ロボット≒人間を幸せにするための道具として正当に扱うこと。つまり、人間とは違う、ロボットならではのスーパーな,力学的な特性を伸ばしてあげることです。ロボットを人間に似せるという方針には、そろそろ限界が見えてきました。家庭にヒューマノイドが入るという未来は当分なさそうです。
 しかし、間違っても家庭になど入りそうにないスーパーロボットの方が、ある意味、工学的には実現に近いのです(もちろん、モノにもよりますが)。時代はいよいよスーパーロボットに向かっているのです。
 さあ、スーパーロボットの世界へようこそ! そして、ロボット制御工学の世界へようこそ!! 本連載を読んで、スーパーロボット時代を、われわれとともに「正しく」切り拓いていきましょう。

【参考文献】
!)ルネ・デカルト 著,三宅徳嘉・小池健男 訳:方法叙説,白水社,東京,p.52,2005.
2)有本卓:"ロボティクスは先端科学技術になりうるか",日本ロボット学会誌,vol.20,no.6,pp.569-570,2002.
3)前田太郎:"パワードスーツのサイエンス:創作と創造の狭間で",計測と制御,vol.43,no.1, pp.38-45,2004.
4)マクロス・クロニクル,株式会社ウィーヴ,東京,no.1, 2008.
5)金岡 克弥:"マンマシンシナジーエフェクタ(人間機械相乗効果器)~人と機械のシナジーを目指して~",日本ロボット工業会機関誌 ロボット,no.162, pp.11-15,2005.
6)K. Kanaoka:"The Concept of Man-Machine Synergy Effector",Proc. Int. Symp. on Robotics,TH 2C OS: Experiential-type Robots,2005.
7)金岡 克弥:"マンマシンシナジーエフェクタの概念 仮想パワーリミッタシステムによるマンマシンシナジーの実現",計測自動制御学会SI部門講演会講演論文集,pp.887-888,2005.
8)金岡 克弥:"パワー増幅ロボットシステム設計概論 力学的相互作用にもとづく人と機械の相乗効果を実現するために",日本ロボット学会誌,vol.26, no.3,pp.255-258,2008.
9)中内 靖,安西 祐一郎:"ヒューマン・群知能ロボット・インターフェースシステム ―人間とロボットの協調について―",計測と制御,vol.31,no.11,pp.1167-1172,1992.
10)H. Kazerooni:"The Extender Technology at the University of California, Berkeley",計測と制御,vol.34,no.4,pp.291-298,1995.
11)K. Nagai, I. Nakanishi, and T. Kishida:"Desigin of Robotic Orthosis Assisting Human Motion in Production Engineering and Human Care'',Proc. Int. Conf. on Rehabilitation Robotics,pp.270-275,1999.
12)前田 太郎:"パワードスーツのサイエンス:創作と創造の狭間で,"計測と制御,vol.43,no.1, pp.38-45,2004.
13)特集 ウェアラブルロボティクス,日本ロボット学会誌,vol.20,no.8,pp.779-834,2002.
14)小菅 一弘,藤澤 佳生,福田 敏男:"仮想ツールダイナミクスに基づくマン・マシン系の制御",日本機械学会論文集C編,vol.60,no.572,pp.1337-1343,1994.
15)H. Kazerooni:"Human-Robot Interaction via the Transfer of Power and Information Signals",IEEE. Trans. on Systems,Man, and Cybernetics,vol.20,no.2,pp.450-463,1990.
16)金岡 克弥:"仮想パワーリミッタシステムによる人間パワー増幅システムの実現",第9回ロボティクス・シンポジア講演論文集,pp.260-263,2004.
17)K. Kanaoka and M. Uemura:"Virtual Power Limiter System which Guarantees Stability of Control Systems",Proc. Int. Conf. on Robotics and Automation,pp.1392-1398,2005.




好評連載がついに書籍化!


―東大研究者が描く未来―


国内外の事業例を解説


消費者が描く未来生活を紹介