ロボナブル コラム

謹賀新年 旧年は、格別のご厚情を賜り誠にありがとうございました。
本年も、小サイト「ロボナブル」をよろしくお願い申し上げます。

 現在、新たな国プロとして「災害対応無人化システム研究開発プロジェクト」が計画されており、来週18日(水)まで公募がなされています。福島原発事故から廃炉までの対応を視野に入れており、ある程度の緊急性が求められることから、2012年度末までの単年度事業となっています。致し方ないとはいえ、短い開発期間に対し疑問を呈する声が聞かれます。

 同プロジェクトが必ずしも該当するわけではないですが、わが国は長期的かつ一貫した研究開発体制を敷くことができなかった結果、基盤技術プラットフォーム技術)において欧米に遅れを取りつつあると指摘されています〔例えば「ロボット学の将来 -新しい日本の発展に向けた革新と知の統合-」(日本学術会議 機械工学委員会 ロボット学分科会編)〕。特に2000年代以降は、わが国が貧乏になる(財政赤字が増大する)に従い、実用化という結果を求める傾向が強くなっているように感じられます。

 例えば、筆者が事後評価に関わった「サービスロボット市場創出支援事業」(2006~2007年度)では、プロジェクトが開始される直前(2006年3月上旬)に、当時の担当官にインタビューした際、次のようなコメントがなされたことを思い出されます。
 「財務省の理解を得にくく、関連予算の確保が非常に難しい・・・」
  特に1983~1990年実施の「極限作業ロボット」に対し、当時、約200億円を投じておきながら実用化に至らなかったことを詰問されたそうです(*1)。この頃からロボット関連の予算取りは非常に難しくなっており、ゆえに、短期的な結果を求める傾向に拍車がかかったのでしょう(また、実用化という結果を残さない限りは、予算の確保がますます難しくなるだろうという考えもあると思われます)。本来、民間企業が自らのリソースで実施すればよいような研究開発テーマが散見されるのは、そのためかもしれません。

*1:そもそも極限作業ロボットは、実用化に道筋をつけるための各種要素技術の開発に主眼を置いており、実用化に至らなかったことを批判するのは的をえていない。ただ、現在の財政状況では取り組むのは相当困難なプロジェクトであり、当時だったから行えたといえる。

 最近の国プロは「ロボット・新機械イノベーションプログラム」の中できちんと取り組まれており、また、過去の国プロとの連続性を保つように努力がなされています。しかしながら、一連のRTミドルウエア関連プロジェクトや安全性確保(*2)に向けた取り組みを除き、研究成果および開発資産が有機的にリンクしているとは言い難いです。結果、上述の日本学術会議が指摘したように、「国プロに一貫性がない」というロボット研究者および技術者の不満につながっているのでしょう。

 もちろん、実用化に重きを置いたプロジェクトを否定しませんし、絶対に必要です。ただ、海外でのロボット開発および普及に対する強化策に対抗し、わが国のロボット研究ならびにロボット産業の競争力を維持し続けるためには、少なくとも2020年以降の将来を見据え様々な応用分野に波及することができ、かつ世界に発信できるプラットフォーム技術〔ロボットにおける応用研究のフェーズでは、具体的な顧客や利用環境などを想定したシステムインテグレーションを伴うため、基礎研究レベルを想定しています。参考はこちら。また、ここでは要素技術も含めて論じています〕の育成に力を注ぐべきでしょう。また本来、国プロ(NEDOプロなど)は民間では開発が困難な先進的かつ挑戦的な研究開発に取り組むべきものであり、それが国(NEDO)が関与する理由づけになっていることを踏まえると、なおさら、そう思われます。

*2:ただ、「次世代ロボット実用化プロジェクト」(2004~2005年度)から「サービスロボット市場創出支援事業」、「人間支援型ロボットロボット実用化プロジェクト」(2005~2007年度)まで、安全性確保に向けた取り組みで中核を担ったのは安全工学研究所であり、これらで実施されたリスクアセスメント(RA)およびRAシート、得られた知見などは、現在の「生活支援ロボット実用化プロジェクト」(2009~2013年度)に必ずしも継承されていない。機能安全をターゲットにする生活支援ロボ実用化プロに対し、これら3つのプロジェクトでは本質安全を念頭に取り組んでいたという違いのみに原因を求めるのは難しいだろう。

  幅広い応用展開が見込まれるプラットフォーム技術の一例として、1998~2003年度に取り組まれた「人間協調・共存型ロボットシステム研究開発」や2002~2007年実施の「実環境で働く人間型ロボット基盤技術の研究開発」に見られるヒューマノイドロボット(歩行技術など)(*3)の研究開発が思い出されますが、これに相当するような研究課題をあげることが必要でしょう。

*3:現在のヒューマノイドは事前の軌道計画にもとづき、それを巧みに修正することで「ある程度賢そうに」振る舞うことはできるが、真に有用なツールとなり得るためには、「ある程度の運動能力」を備えること、つまり「歩く技能」を実装することが求められる。したがって、これらのプロジェクトで掲げたビジョンは、現在の軌道計画法の延長線上に存在するとは考えにくい。もちろん、これらのプロジェクトで創出された要素技術は、現在の研究開発に役立っており、評価されるべきである。また、ヒューマノイドの研究開発も継続されるべきだが、優先的に支援すべきプラットフォーム技術になり得るかどうかは別の問題と考える。

 推進すべき研究課題については、これからきちんと議論すべき内容ですので、いまはまだ筆者の考えは控えさせてもらいますが、その答えは、われわれが経験(研究成果)を着実に積み重ねてきたというファクトの中にあると考えます。つまり、過去から現在にかけて積み重ねてきた経験(研究成果)の中にこそ、わが国のロボット研究ならびにロボット産業の未来を担う価値が必ず存在するということです。海外のキャッチアップが激しいとはいえ、わが国が積み重ねてきた経験(研究資産)は世界でもトップクラスにあるのは確かであり、わが国の経験(研究成果)という価値を捉え直すことが必要と考えます。
 その時々の社会情勢や研究開発のトレンドなどの影響を受けたり、すぐには役に立たない(時期少々、未成熟)と判定されたり、価値(論理)を正しく認められなかったり、あるいは、現実と可能性との違いを見極められなかったり、ロボット技術が解決すべき課題であるか否かを的確に判断できなかったりして、単に蓋をしてしまった基礎技術や研究成果があるでしょう。しかし、顕在化しつつある社会的課題や、十数年先の社会構造や産業構造を見据えて見直してみると、重要性を増しつつある研究開発テーマ(*4)が存在すると筆者は捉えています。

*4:例えば、災害対応ロボットの研究開発も非常に重要ですが、このような応用分野に向けた取り組みでは、基礎研究から、開発成果の運用および活用体制(組織づくり)、人材育成までを有機的に連携した仕組みの構築が求められ、ここでいうプラットフォーム技術を育成する仕組みとは異なると考えます。

  先に少しだけ触れましたが、米国では製造業の再活性化に向け、全米科学財団(NSF)と米航空宇宙局(NASA)、国立衛生研究所(NIH)、農務省が共同で、次世代ロボットの研究開発に対し7,000万ドルを助成するとしています(詳細はこちら)。EUでは「FP7(Framework Program7、第7次研究開発枠組計画)」の中で「Congnitive Systems and Robotics」をICT分野のチャレンジ領域の1つに選定し、知能化技術に関する研究プロジェクトを、年間約2億ユーロを投資して推進しています。また、韓国では2008年に施行された「知能型ロボット及び普及促進法案(通称「ロボット特別法案)」にもとづき、中国は「国家中長期科学技術発展規画綱要」(2006~2020年)に則して、それぞれロボット開発・普及に向け大規模なリソースを投入しています。

 これらと比較すると、わが国のロボットの研究開発に対する予算配分は少なく、ボヤきたいところではございますが、わが国の財政状況を鑑みると、潤沢なリソースでもって取り組むのは難しいでしょう。だからこそ、育成すべきプラットフォーム技術をきちんと見定めて効率的に、長期的かつ組織的に進めていくべきです。新たな年を迎えたいま、まずは、わが国が積み重ねてきた経験(研究資産)という価値を見直してみることから始めるべきと考えます。
(ロボナブル編集部) 


【過去のコラム】
あれから10年・・・ RT戦略の実現には人材の確保が求められるはず (2011/11/29)
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わが国は災害対応・原発対応ロボは競争力に欠ける?(2011/05/23)

※本コラムでは原文を尊重し、「ユーザ」や「メーカ」など音引きを削除して記載している個所が複数あります。あらかじめご了承下さい。

 10年前の2001年に、日本機械工業連合会と日本ロボット工業会が取りまとめた『21世紀におけるロボット社会創造のための技術戦略調査報告書』が公表されました(厳密には2001年5月発行ですので10年6カ月前になります)。大胆な市場予測とともに「RT(Robot Technology)」という新たな概念が提示され、話題となりました。RTとは、『ロボット技術を活用した、実世界に働きかける機能を持つ知能化システム』であり、その後の『センサー、知能・制御系、駆動系の3つの技術要素を有する知能化した機械システム』(ロボット産業政策研究会など)という現在の公的なロボットの定義につながっています。

 当時は、予測数値ばかりが注目されましたが、同報告書の狙いは「ロボットからRTへの技術戦略」、つまり「産業用ロボットからソリューションビジネス産業としてのRT産業への転換」にあります。「ユーザが抱えている問題を分析し、いくつかの既存技術を組合せ、ユーザの要求に合わせたシステムを作りあげる(=システムインテグレート)という『ソリューションビジネス(*1)』が活躍」する産業構造につなげるうえで、また、柔軟なソリューションの提供を可能にするうえで、ロボットを広義に捉え直すのは必須だったといえます。そして市場予測は、こうした転換が果たされた結果といえるでしょう(算出にかかる根拠にはやはり曖昧な部分がありますが)。
  ところが、すでに10年以上が経過したにもかかわらず、サービスロボット(次世代ロボット)市場がこうした方向にむかっている気配は感じられません。それを支える基盤技術として「RTミドルウエア(*2)」プロジェクトが取り組まれた以外は・・・。

*1:大きくは、顧客ニーズに合わせてシステムインテグレートする形態と、既存製品やシステムの知能化・巧緻化に向けロボット技術を組み込む(埋め込む)形態の2種類をイメージしていたと筆者は捉えています。後者は「カーロボティクス」という言葉が登場し定着したので、当時よりイメージしやすくなったでしょう。後者の形態は「メカトロニクス」のように技術を指す意味合いが強く、既存製品やシステムに組み込まれ、定着したときは「ロボット」と意識されないでしょう。が、この段階になって初めて「ロボットが役に立った」と社会から評価されると考えます。

*2:ソリューションビジネスへの移行に向けRTミドルウエアのようなプラットフォーム技術の存在は必要であり、重要と考えます。しかし、開発ターゲットが不明なままにソフトウエア・モジュールを用意・提供することで産業の活性化が図られるという考えには疑問符がつきます。詳細は別の機会に。

  このような技術戦略を掲げた背景には、非製造業(サービス)分野における特殊性があります。(ティーチング・プレイバックでは到底対応できない)不定形かつ高度な要求への対応や安全性の確保といった技術的な課題に加え、一般人(=非技術者)が多く含まれるために「ユーザ側がメーカに対し要求仕様を的確に伝えることで導入がスムーズに進んだという普及上の成功要因」が期待されない(=お互いの専門性が著しく異なる)ことです。それゆえに、ユーザー側に寄って立ち、かつ小回りが利くベンチャーをはじめとするシステムインテグレータの活躍が予測され、彼らを中心とした分業体制による産業構造が描かれていました。また、彼らが担う市場は中小規模であるとしながらも、その育成を通じて、大企業も参入できる巨大市場につながる「重要なフェーズ」でもあるとの見方もなされていました。

 このような捉え方は、筆者の取材経験を踏まえると現在にも通用するものであり、こうした方向にシフトする方がよいと考えています。例えば、特集『失敗するロボットビジネス、成功するロボットビジネス』で「(サービスロボット)事業創出の課題と原因」の一例として図1図2を紹介し、「(人を組み込んだ)システムインテグレーションの形態で提供する方が、それぞれのサービス事業者のビジネスモデルにフィックスしやすく、サービスのカスタマイズ化にも対応しやすい」ことを述べました。
 10年前からほぼ言い当てているにもかかわらず、こうした方向性に向かっていない原因は、具体的な施策が打たれなかった結果、システムインテグレートを担う人材や組織が手薄なままであるからと考えます。

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図1 サービスロボット/RTメーカーが指摘する、事業創出の障害となる課題とそれを生み出している原因(石黒周氏による、特集の図を再掲)

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図2 サービス事業者が指摘する、事業創出の障害となる課題とそれを生み出している原因(石黒周氏による、特集の図を再掲)

 ただし、ここで言う「システムインテグレータ」は、産業用ロボットの価値創出で活躍されているシステムインテグレータ(SI)とはかなり性格が異なります。サービスロボット市場におけるシステムインテグレートにおいては、先ほど述べましたように、ユーザーとの専門性が異なるばかりか、商習慣なども異なり、必然的に求められる能力が多岐にわたるからです。
 図1、2に関して話題提供されたロボットビジネス推進協議会の石黒周幹事は「RTシステムプロデューサー(RTSP)」と表現されており、「サービス事業者の立場に立って、ロボット/RTシステム導入による課題解決方法や代替案の創出を行う事業化のキープレイヤー」と定義づけています。そして、彼らが備えるおもな能力として、

(1)ロボット/RTに関する最新で、かつ包括的な知識を保有しており、必要とする各要素技術やそれらを統合する技術について優れた事業者の連携を組むことができる能力を持っている
(2)同時に、サービス提供事業者の事業について明るく、ロボット/RTを組み込んだ新たなサービスシステムが考案でき、その提案能力を持っている
をあげています。

 石黒氏の指摘はサービス事業者にもヒアリングを実施した結果であり、同報告書ではそこまでサービス業の特殊性は把握できていなかったでしょう。が、既述の「ユーザ側がメーカに対し要求仕様を的確に伝えることで導入がスムーズに進んだという普及上の成功要因」が期待されないことをあげていたことを踏まえると、(1)と(2)の能力をおおよそイメージしていたと思われます。

 同報告書では、ソリューションビジネスとしてのRTビジネスに従事する「RT技術者の教育システムの整備」の必要性にも言及していました。ただ、上述の能力をさらに整理すると図3のようにまとめられ、このような人材や組織の輩出に寄与する方法論やスキームの検討は極めて困難です。結果、具体的な施策を立てられなかったのかもしれません(*3)

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図3 RTSPに求められる能力を図のように整理される。もちろん、すべてにおいて高度な能力を有している必要はなく、得意とする個人や組織と連携すればよい。連携できる能力が重視される

*3:例えば、大阪ではロボットラボラトリーなどを中心に「EPEER」という教育プログラムが取り組まれている。次世代ロボット市場を開拓できる人材育成を目的としたもので、大阪大学や奈良先端科学技術大学院大学、ATRなどの各機関が連携し、それぞれの技術やノウハウを生かして「基礎技術力」「実践開発力」「実証評価力」を育成している。
  2年間のプログラムとなっており、1年目は、ロボット要素技術やシステム統合に関する技術力を「基礎技術力」として習得し、2年目は、次世代ロボットの利用現場などを想定して試作機を開発し、実フィールドでの検証などを通じて「実践開発力」および「実証評価力」を身に付ける。2年目からは、奈良先端大で画像処理を学習するグループと、阪大の知識・機能創成工学専攻「基盤PP(PIER Program)」を受講するグループに分かれて取り組む。

 そこで、筆者はまずは、こうした人材の輩出を促す「雰囲気づくり」から始めてみるのがよいと考えています。少ないながらも、関西ではRTSP(例えばロボリューション知能技術パーソナルテクノロジーなどが相当する)として活躍されている方や組織がすでに存在し、その価値や重要性に気づき、自身のキャリア(培った能力やスキルに加え、センス)と情熱を支えにRTSPへと変貌(独立など)を遂げているからです。したがって、ロボット業界内においてRTSPの価値を高め、業界内外に対し、その重要性に気づきを与えるような施策でも意味があるといえ、例えば「ロボット大賞」で該当する表彰枠を設けることを検討するのも一計と考えます。

 RTSPが担う仕事はクライアントとの関係があり、その活動は表出しにくく、外部からは価値を見出しにくいです。だからこそ表彰枠がある方が望ましいわけで、このような人材や組織が増え、活躍することでソリューションビジネス産業への転換が果たされ、やがては巨大市場になる中小規模のロボット市場の創出につながればと願うばかりです。 (ロボナブル編集部)


【参考文献】
[1]日本機械工業連合会、日本ロボット工業会,“平成12年度 21世紀におけるロボット社会創造のための技術戦略調査報告書”,2001.
[2]石黒 周,“ロボット/ロボット技術導入によるサービスイノベーション事業創出アプローチ:事例と類型とキープレイヤー」,研究・技術計画学会,第24回年次学術講演要旨集,2009.


【過去のコラム】
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 ピップは10月13日、高齢者や要介護者のメンタルケアに向けコミュニケーションロボット「うなずきかぼちゃん」の開発を発表しました。技術への関心が高いロボナブル読者からすれば、「ロボット」という表現に違和感をおぼえられたかもしれません。なんせ、かぼちゃんができるモーションは、首部に搭載したDCモータによるうなずきのみですから。
 しかし「うなずきかぼちゃん」という商品名から推察されるように、「はなしかけて」「うなずく」というアクションのみで高齢者や要介護者の心にアドレスできるという確信があってのことと思われます。

●自己本位にアクションするだけ

 筆者の実家は1970年代の頃から高齢者が多数を占めていた地域で、よく誰かの家に集まっては団らんをしていました(現在はいわゆる「限界集落」です)。そして、数時間にもわたってたわいもない話がなされる中、保育園児ぐらいの幼児が飛び込むと場の雰囲気が一変したことを、ぼんやりと記憶しています。
 幼児ですので、会話の内容は理解できません。うなずいて話を聞いているような素振りをしておきながら、素っ頓狂なリアクションしかできません。また何の脈略もなく、憶えたばかりの歌やお遊戯を披露したり、保育園で食べた給食やおやつの話をしたりしたものです。しかし、これで笑いが起きて場が明るくなりましたし、それを機に、高齢者が過去の話をしたり季節を感じたりしていました。

 このとき幼児は特別なことは何もしていません。高齢者の状況には頓着することなく、自分の都合でアクションをしているだけです。にもかかわらず、その場の雰囲気が明るくなっていました。かぼちゃんの「はなしかけて」「うなずく」というアクションは、まさにそれで、幼児の振る舞いを抽象化、集約化したといえるでしょう。結果、他のモーションを諦めるという判断ができたのかもしれません。
 また、初期設定時に年代や時間を記憶させれば、それに応じて歌を披露したり話題提供をしたりするという機能は、幼児ならではの自己本位なアクションでありながら、それに伴い時代や季節を感じさせる効果を狙ったものと推察されます。

 かぼちゃんは複数のセンサやスイッチを搭載していますが、かなり低価格なものを使用しているようです。これらにより自身の状態を推定してアクションをしますが、それには正確さは求められていませんし、そもそも設定年齢(3歳)からすれば、自分の都合でアクションをしても差し支えがないです。ゆえに、高精度なセンサやスイッチは不要です。
 また、これらはかぼちゃんとの親密度を計測するカウンタとしても使用しており、これによりかぼちゃんがより多くの言葉を話したり最後まで歌を唄ってくれたりしますが、ここでも精度は不要でしょう。カウンタの不正確さが、それぞれのかぼちゃんの成長の違いとなって、つまり個性として好意的に受け入れられるでしょう。このような判断があり、思いきった低コスト化が図れたと考えられます。

●インタラクションの課題は広義の技術観で検討

  今回、かぼちゃんのプレス発表に参加して、約4年前にアーサー・D・リトルジャパンの川口盛之助氏にインタビューしたときのこと(詳細はこちら)を思い出しました。

 川口氏は、人と機械とのコミュニケーションにおいて、人が機械に親しみを感じたり感情移入をしたりする度合いは、技術の難易度とリニア(線形)な関係にはなく、学術体系になりにくい方に答えがあるとの見方を示されていました。
 また、かつてオリンピック競技に芸術競技があったことを引き合いに、もともと技術と芸術との区別がなく、技術開発においても技術と芸術の両方の要素があった。そして、国として成熟した現在、技術の成熟度が質的評価にある芸術の域に踏み込みつつあり、技術一辺倒のモノづくりでは行き詰まりつつある。芸術を含む「広義の技術観」により技術開発を進めなければ、人の心を満足させられないとの見方をされていました(は製品が備える機能とユーザーが求める満足度との関係)。

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 かぼちゃんのように、(技術レベルは段違いですが)人とコミュニケーション、つまり人とインタラクションするロボットの研究開発が多くなされています。そして、ロボットの身体性やビヘイビア(アイコンタクトや身振り手振りなど)について、実験・解析を通じて、それによる訴求効果や感情移入の度合いを検証している論文が多数発表されています。研究をしたり論文をまとめたりするうえで実験・解析を実施しなければならないのでしょうし、システム仕様というかたちで数値化するうえでも必須です。しかしながら、果たして、それの積み重ねが「」になり得るのかと疑問に感じることがあります(それ以前に、ロボットの身体性やビヘイビアの違いによる効果が見え見えな論文が散見されますが・・・)。

 かたや、かぼちゃんは研究投資がなされていないため、こうした検証を経ていません。介護施設を運営するピップグループの知見と、玩具メーカーのウィズのノウハウから創出されましたが、そこには数値的(量的)な根拠は感じられません。しかし、上述の筆者の体験も加味すると、「はなしかけて」「うなずく」という自己本位なアクションは、高齢者にはなんとな~くクセになる(=質的評価)印象を受けますし、高齢者の心にアドレスできるのではという期待を抱かせてくれます。明らかに研究者や技術者からは出てこない発想であり、川口氏が指摘する広義の技術観で臨んだ製品開発に思われます。また、コミュニケーションロボットの製品開発は、こんなアプローチでよいのではと納得してしまいます。

  ピップでは現在、かぼちゃんのセラピー効果について科学的・医学的に検証を進めています。何らかの効果が認められるのかもしれませんが、筆者は、これによってかぼちゃんの魅力が増すとは考えていません。かぼちゃんを長く側に置いてもらうための理由付けと、高齢者のご子息がプレゼントとして選択するための動機付けという販売戦略上の検証にすぎないと捉えているからであり、やはり、かぼちゃんの魅力は自己本位なアクションにあると考えます。

 なお、かぼちゃんの機能価値と感性価値の両立や、見守り機能の追加など今後の発展性については近々、技術指導されたロボリューションの小西康晴さんに解説してもらう予定です。 (ロボナブル編集部)


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《トレンドウォッチ》
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 茨城県つくば市とロボット特区実証実験協議会は10月3日から、立ち乗り電動2輪車「Segway(セグウェイ)」による通勤実験を開始しました。搭乗型移動ロボットの活用による公共交通機関の利用促進効果(モーダルシフト)や、負担のかからないエコ通勤の可能性の検証を目的としており、普段は自動車(ガソリン車)で通勤している市職員に、自宅の最寄り駅から研究学園駅までを電車で、研究学園駅から市庁舎までをSegwayで通勤してもらいます。10月28日までに計9名の市職員が参加を予定しています。

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  つくば市のように、自動車をおもな移動手段とする地方都市において、環境配慮型の交通システムを構築するためには、二次的な交通機関の整備が必須です。搭乗型移動ロボットはその1つであり、これが公共交通機関を補完できる可能性を見極めるうえで必要な活動といえます。ただ、今回の実証実験のストーリーに首を傾げられる方は多いかもしれません。研究学園駅から市庁舎までは徒歩約7分と非常にアクセスがよく、搭乗型ロボットを運用する必然性が感じられないのですから(*1)

*1:どうしても、現状の実証実験のストーリーで実施するのであれば、市職員のES(従業員満足度)向上によるCS(顧客満足度、ここでは市民)向上の効果を検証する方がよいと思われる。サービス業ではES向上に伴い、CS向上ならびに収益の向上が見込まれることが知られており、ES向上につながる取り組みが展開されている。ここでは市職員にSegwayを搭乗してもらい、堪能してもらい、ESの向上を図ることで市民サービスの向上が見込まれるかを検証する方が、実施する意味があると思われる。もちろん実証実験の本来の目的から大きく反れることになるが。

 参加者にはSegwayの搭乗訓練(指導)を受けてもらう(交通リテラシーを身に付けてもらう)必要性や、Segwayの設置スペースおよび、それにかかるセキュリティの確保、さらには早期の実証実験の実施といった制約条件もあり、上述のような実証実験のストーリーになったのかもしれません(つまり、これらの制約条件をクリアしやすいのは市職員の参加であり、研究学園駅構内へのSegwayの配備だったということ)。
 とはいえ、今回のストーリーはSegwayの特徴を検証するような行為であり、すでに世界各国で利用され、魅力が認められているシステムを調査するのはムダに思われます。単純にモーダルシフトの可能性を検証したいのであれば、実証実験エリア(*2)内に位置しながら、研究学園駅からの徒歩通勤がやや困難な事業所や機関に協力してもらう方がよいです(今回の実証実験はその説得のためのデータ収集なのだろうか?)。例えば、安全・安心で協定を締結した日本自動車研究所など(研究学園駅から徒歩約25分を要する)。

*2:実証実験エリアには、研究学園駅を起点に半径2km程度にわたり、自転車走行が可能な歩道を備える「つくば研究学園エリア」と、北が筑波大学まで、南が洞峰講演までのベデストリアンデッキと東・西・南・北大通り内の歩道の「つくばセンターエリア」の2個所が定められている。

 すでに広く語られていますが、ロボットをはじめ新たな技術を社会システムに実装するためには、それを利用する文化の創出が必要です。それに向け重要になるのが全体設計(モデル)であり、ここでは未来都市交通モデル(*3)になります。そして、様々な要素(技術や制度)やプロセスで構成される未来都市交通モデルが文化となる影響力(=有効性)を備えており、かつ普及を後押ししてくれる人たちの力を伴わなければ社会実装は困難です。

*3:別の言い方をすれば、「新規性」「進歩性」に富むモデルを提示し、技術と結合することで社会や暮らしに有効性を導く行為といえる。搭乗型移動ロボットという「技術」に「未来都市交通モデル」が結合することで有効性が広く認識され、影響力を備えることが重要と考える。このような結合を本来「イノベーション」と表現されるが、わが国では「技術革新」と訳されているせいか、過去のロボットの取り組みでは技術に傾倒しすぎていると思われる。

  つくば市では、おそらく、各種モビリティを組み合わせることで環境配慮型の未来交通モデルを構想していると想像されます。例えば、近距離移動には搭乗型移動ロボットや自転車などを、中距離移動にはEVやHEVなどを、長距離移動はガソリン車を、そして主要都市間の移動は公共交通機関をそれぞれ利用することでゼロエミッション交通モデルを構築するといった具合に。運用に当たってはカーシェアリングオンデマンドによる乗り合い方式のバスやタクシーなども利用されるでしょう。さらに、交通弱者の安全な移動など地域の課題解決に向けた仕組みも盛り込むことで、市民サービスのより一層の充実を目指しているはずでしょう。すでに提示されているイメージ()から想像されますが、未来都市交通モデルを構成する要素やプロセスに加え、どのようなステップで進めていくのかが不明なうちは、文化となる影響力(=有効性)を備えるのかを判断することができず、市民の後押しも協力も得るのも困難です。そして本来、それを提示するのが実証実験であり、次回以降の取り組みがその一端を示すものとなることを期待しています。  (ロボナブル編集部)

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わが国は災害対応・原発対応ロボは競争力に欠ける?(2011/05/23)

 東京電力は7月17日、福島第一原子力発電所の事故収束に向けた工程表の第1段階(ステップ1)を終了したと発表しました。「トレンドウォッチ」で紹介しましたように、同月には作業環境の改善に向けた原発建屋内での清掃活動などに複数ロボットが活用されており、これに寄与したといえるでしょう。

 4月6日に原発建屋外の瓦礫除去に向け、建機による無人化施工システムが導入されたのを皮切りに、国産・国外産を問わず様々な遠隔操作ロボット(無人化システム)が投入されました。原発建屋外では瓦礫除去を目的に、建屋内では、米iRobot社の「Warrior(ウォーリアー)」による清掃作業を除き、線量計測内部調査を目的に利用されてきました。原発災害対応で主役を担ったわけではないですが、特に建屋内の作業では作業者の被曝量の低減に役立ったことは確かで、ここに大きなベネフィットが認められたといます。

 ただしステップ2以降でも、ロボットが果たすべき役割が多く残されています。いまだに原子炉建屋およびタービン建屋内の状況を把握できていない状況で、そのための内部調査や、作業者が活動できる環境(放射線量など)にあるか否かも不明です。また、冷温停止に向けた各種機材の搬入および設置工事、カバーの設置に加え、冷温停止後の燃料棒の取り出しや廃炉となった原子炉の解体作業も控えています。
 遠隔操作システム(無人化システム)あるいは自律制御システムでなければできない作業が数多くあり、ここにロボット技術の適用が求められているといえるでしょう。

 7月末に、東北大学 極限ロボティクス国際研究センターが米Pennsylvania大学と共同で、クローラ型災害対応ロボットと小型飛行ロボットを活用して東北大学校舎内の被災状況を調査し、これらの協調作業による有効性を検証しました。建屋内の状況把握に向けた予備実験と捉えられます。しかしながら、上述の冷温停止に向けた作業ならびに冷温停止後に控える作業に向けては、既存の災害対応ロボットでは対応困難であり、新規システムおよび運用モデルの構築が必須です。

  それに向けては現在、例えば産業競争力懇談会(COCN)の新規テーマ「災害対応ロボットと運用システムのあり方」〔リーダー:(正)東京大学 淺間一教授、(副)日立GEニュークリアエナジー 齋藤荘蔵会長〕で検討作業が進められています。東芝・日立製作所・三菱重工業の原子力3社に加え、対災害ロボティクス・タスクフォース(ROBOTAD)のメンバーも参加しています。ROBOTADのメンバーには、放射性廃棄物の処理廃炉解体装置などの知見を有する日本原子力研究開発機構(JAEA)のスタッフも含まれます(ROBOTADのメンバーは現在、各検討グループに参加し、そこで具体的な議論を進めているため、全体としての活動が見えにくくなっているかもしれません)。10月に中間報告が、2012年2月には最終報告がなされる予定で、その間に開発に向けた活動が具体化するものと思われます。

 福島原発災害の発生直後、過去に開発されたロボットが配備されずに廃棄されたことや、原発災害にも対応可能な災害対応ロボットが存在しないこと、さらには、戦地での活動実績を有する海外製ロボットが投入される現状に対し、ロボット関係者にも容赦なく批判が浴びせられました。過去の国プロのあり方研究開発のあり方に対してであれば素直に受け止めなければなりませんが、散見されたような、ロボットの投入により原発災害(水素爆発や高濃度汚染水の流出など)を最小化できた、さらには防げたかのようなニュアンスは的を射たものではなく、むしろ受け流してもよいとさえ考えます。そもそも原発の本質的な安全性の確保に向けては、システム設計や制御システム、運用方法が担うわけですし、この論調では「原発安全神話のロボット版」につながってしまうだけですから。

 ですが、上述にあげたステップ2以降の作業に向けては、ステップ1以上に重要な役割をロボットが担うのは確かです。ここからがロボット技術者・ロボット研究者の腕の見せどころであり、安心・安全の提供に向け責任重大でもあります。ロボット関係者みなさんの底力に期待しています。  (ロボナブル編集部)


【過去のコラム】
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わが国は災害対応・原発対応ロボは競争力に欠ける?(2011/05/23)

 先月末、あるロボット研究者の方から新規提案ならびに相談を受けました。現時点での用途およびシステム構成の特定を避けるため、抽象的な表現となることを断っておきます。

 その先生は現在、福島原発災害への対応を目的に、自律制御と遠隔制御を組み合わせた半自律制御により、中長期間にわたり環境計測が行えるシステムの開発を進められています。すでに試作1号機を完成されており、学内および現地での実証実験を経て、夏以降に現場に投入することを計画されています。同時に、現場での受け入れおよび運用体制についても検討が具体化されており、水面下で関係者との調整作業も進められています。

 本来であれば、中長期的な運用に向け(国民の安心・安全に寄与する公益性が高いシステムであることを踏まえ)資金確保ならびに運営サポートを目的に、「早々にプレス発表を行いところ」ですが、「基本機能の確認試験がこれからという状況下では、いたずらに期待を煽ることになりかねません」。しかも、今回の福島原発災害をめぐる一連の報道により、「国内製ロボットが役に立たないという印象を与えており、(ただでさえ)ロボット業界全体の信用が落ちているところで『使えない』との決定打を与えかねません」。そう危惧されており、「どのようにして自身の取り組みを開示すべきか?」との相談を受けました。
 また、ご相談された先生は、ある大きな成果を上げた国家プロジェクトに参画されており、こうした実績から、余計に期待を煽る可能性があると容易に想像され、より慎重になられているように感じられました。なお、超学会組織「対災害ロボティクス・タスクフォース(ROBOTAD)」にもまだ開示されていないとのことです。

 確かに、(4月や5月に比べると落ち着きつつあるとはいえ)現在のロボットを取り巻く状況を考慮すると、そう考えるのは当然のように思われます。しかし、筆者はメディア側との対話がきちんとなされれば、クリアされる問題と捉えています。ここで重要になるのは、ロボットの信頼性とベネフィット(公益性)との関係性を丁寧かつ繰り返し伝えることです。

 国内製ロボットは使えないとの印象を助長している要因の1つは、「日本はロボット大国」であるというイメージと、運用実績(=信頼性)を有する海外製ロボットが優先的に利用されているというファクトとの乖離にあります。
 過去のコラムでも紹介しましたが、災害対応ロボットや原子力ロボットの分野に関しては、わが国は欧米に比して十分な競争力を備えているとは言い難いです。これは単純に研究・開発力を指すものではなく、市場を形成する能力や他国に輸出する能力などビジネス的な側面を多分に加味した評価です(詳細はこちら)。製品レベルではない(ビジネスベースにのっていない)ロボットは、必然的にユーザー数も、利用現場および頻度も限定されます。システムとしての成熟度に欠け、信頼性という点で(すでに商業ベースにのっている)欧米のロボットには叶いません。また、欧米のような技術規格調達基準もありません。
 ましてや、ご相談された先生のロボットは、要素技術では他分野で高い実績を有しているとはいえ、未知の現場に投入することになるため、しかも開発期間も限られているため、十分な信頼性を確保できるとは考えにくいです。

  災害対応・原発災害対応ロボットの発表会では、研究者の方は真摯ですので、こうした信頼性への懸念を伝えていないわけではありません。ところが、「日本はロボット大国」との情報がインプットされており、対応できて当然と考えられているのでしょうか、また、わざわざ取り上げる価値がないと捉えられているからなのでしょうか、ほとんどスルーされています。また、1つひとつの機能(要素技術)を高度化する力(研究開発力)と、システムとして、また製品として信頼性を確保する能力(モノづくり力)は別次元のものですが、どうも同一に捉えられるきらいがあり、信頼性はあたかも達成されているかのような受けとめ方がなされています。
 したがってまず、信頼性に関しては未知数のところがあることを伝え、そのうえで、それでも、こうしたシステムを投入する公益性を伝えるべきです。つまり、信頼性と公益性のトレードオフの明示です。

  また、マスコミ側は、読み手にわかりやすく伝えるための手段としてシステムの特徴を、他システムと比較して扱うきらいがあります。例えば、『海外製ロボットに比べて高い踏破性を有している』という具合に。次第に、そればかりが流布されてしまい、あたかも海外製ロボットよりも優れているという印象を与え、結果、余計な期待を煽ることになります。例えば、ブログで散見される「米国製を圧倒する超性能!」といったフレーズのようにです。

 もちろん、マスコミ側には他意はないですし、質問された研究者も素直に返答されただけなのでしょうが、こうした一人歩きを防ぐ意味で、より客観的に記事を取り扱ってもらう意味でも、災害対応・原発災害対応ロボットの発表会では、信頼性と公益性との関係性をきちんと伝えておくべきです。余計な期待を煽ることも、悲観することもなく、みなが冷静にロボットの活動を評価できると考えます。


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 先週6月30日、対災害ロボティクス・タスクフォース(TF)上で、産業技術総合研究所の荒井裕彦主任研究員からの情報提供として、福島第一原子力発電所で米iRobot社の軍用ロボット「PackBot(パックボット)」や「Warrior(ウォーリアー)」などの操作にあたっているオペレータ(消防士)さんのブログが紹介されました。元ネタは、サイエンスライターの森山和道氏のブログとのことで、すでに多くの方が、オペレータさんが紹介された作業内容などを確認されたと思います。一昨日、そのオペレータさんからメッセージをいただきました。

 オペレータさん自身も被災者であり、津波により新築のマイホームを流出・全壊するという被害に遭われたそうです。それゆえに、もともとは福島原発での活動内容を記事にするつもりはなかったようですが震災後、各マスコミから正しい情報発信がなされていないことに憤りを感じ、正しい情報を発信すべく、こうした話題を掲載されるようになったそうです。マスコミの端くれとして耳の痛い話です。

 また、災害対応ロボットについて次のようなコメントもされました。
 「ロボットについては、すでに原発事故を利用したビジネスになりつつある」
 「(今後の開発に向け)高放射線下という特殊環境における実証データの取得に向け、ロボットを無償提供しようとする魂胆が伺える」
 「(復旧・復興)商戦でシェア争いが見え隠れする」
  (一部言い回しを変更しています)

 以前、本コラム(当時は、メルマガ読者のみに案内)にて4月17日のPackBotの投入を受け、次のような主旨の文面を配信いたしました。以下は抜粋記事です(全文は、末尾を参照して下さい)。

 「今回のような原発災害を経験した国は他になく、復旧作業の計画に欠かせない内部状況の把握などロボットの運用モデルを構築し、近い将来には、原発の復旧システムの1つとして海外展開し、外貨獲得に寄与する。早期に復興に役立てることを視野に入れてほしいです」
 「しかしながら、ヒラリー・クリントン国務長官の来日に合わせての投入を踏まえると、PackBotのデモに利用されているような感じがしてなりません(編集子の浅はかな邪推であってほしいですが)。一定程度の成果につながれば、軍用以外での海外展開が見込まれるうえ、米iRobot社に投資し続けてきた研究資金の回収にもつながるはずです。もちろん、現在のPackBotがそのまま展開されるのではなく、(原発災害対応に)仕様変更したうえで日本にも、他の同盟国にも対災害用ロボとして売りつけられるのでしょう」(引用ここまで)

 これまでに、個人レベルから学会レベルまで、今後の災害対応・原発災害対応ロボットの開発のあり方および実用化に向けた方策が、社会システムの変革を含めて議論され、提案がなされています。ところが、オペレータさんのコメントに見られるように、ビジネスベースでは線量計測や除染作業などで一定程度の成果を上げたファクトをもとに、今後のわが国の復興、ならびに新たな防災・減災システムの構築を見据え、売り込みが始まっています。上記メールのように、原発災害対応を絶好の実証実験の場として、また、売り込みのデモの場として使われつつあり、あまり悠長なことをしていると、災害対応・原発災害対応ロボットの分野(市場創出という点で)で、(海外勢に)さらなる遅れをとってしまいそうです。

  原発災害に対しロボットを適用するためには実績は問われるべきですし、周到な準備も必要です。わが国は特に運用面で、災害対応・原発災害対応ロボットの分野で競争力があったと言い難く、国産ロボットの投入に関しては慎重な議論がなされるべきです。しかし、ビジネスの世界では今後の拡販に向け、厚かましいまでに、迅速かつ効果的に癌発災害さえも利用してきます。
 これに対抗するためには、実績づくり(実証機会)を要求する逞(たくま)しさと、それに即対応(改造・改良など)する迅速さに加え、それを制度面および財政面でアシストする政府側の対応が求められます。すでにIRSや千葉工大に代表されるように真摯に、かつ熱心に活動をされている研究機関や企業がありますが、それぞれに対応するのではなく、例えば、昨年4月のロボットビジネス推進協議会による「次世代ロボットの本格普及に向けて」のように、まずは業界をあげて「とにかく任せてみろ!」とのメッセージを発信することが必要でしょう。

 災害対応・原発災害対応ロボットの実用化で後れをとっているという事実を受け止め、この分野でのビジネス展開を諦めるというのであれば話は別ですが、きっと、多くの方がそう望んでないはずでしょうから。  (ロボナブル編集部)

【福島原発に米iRobot社のPackPod投入】(2011年4月18日配信)
 昨日17日より、米iRobot社の軍用ロボ「PackBot」を用いて原発建屋内の調査が開始されました。原発およびタービン建屋内の調査には国内のロボットが利用される見込みと聞いていましたが、戦地でのPackBotの実績が買われて、最初に投入されたようです。

そのほかの理由を問い質しましたが「ノウハウに関わる」との一点張りで東電側より回答を拒否されました。好意的かつ前向きに受け止めると、今回のような原発災害を経験した国は他になく、復旧作業の計画に欠かせない内部状況の把握などロボットの運用モデルを構築し、近い将来には、原発の復旧システムの1つとして海外展開し、外貨獲得に寄与する。早期に復興に役立てることを視野に入れている結果と受け取れるかもしれませんし、そうあってほしいと思います。

 しかしながら、ヒラリー・クリントン国務長官の来日に合わせての投入を踏まえると、PackBotのデモに利用されているような感じがしてなりません(編集子の浅はかな邪推であってほしいですが)。
一定程度の成果につながれば、軍用以外での海外展開が見込まれるうえ、米iRobot社に投資し続けてきた研究資金の回収にもつながるはずです。もちろん、現在のPackBotがそのまま展開されるのではなく、(原発災害対応に)仕様変更したうえで日本にも、他の同盟国にも対災害用ロボとして売りつけられるのでしょう。その際、東京電力がノウハウを主張している内容が彼らの手にわたり、運用モデルもセットで展開されると、強力なソリューションになってしまいます。

 今回の原発災害で、わが国も国民も甚大な被害ならびに経済的損失を被りました。現在の危機を脱却するのが第一ですが、この過酷な経験をむしろ強みするぐらいの意気込みで、原発ならびに災害復旧システム、ソリューションとして海外展開する方策を考えるべきです。そして国民の暮らしや経済の復興の一助とすべきです。

 特に、わが国のロボットを運用する際は、こうした視点を意識して、また、したたかさをもって、将来的には海外展開も可能な運用モデル、ソリューションの構築を意識してもらいたいです。

清掃(徐染)結果(ブログ「言いたい放題*やりたい放題」)

 
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 先週22日、経済産業省日本ロボット工業会のホームページにて、産業用ロボットの導入効果や導入成功に向けた要点などをまとめた「ロボット技術導入事例調査」(三菱総合研究所まとめ)が公開されました。システムインテグレータ(SI)などへのインタビューを通じて分析・整理されたもので、自動車や電機など既存ユーザーから、食品・医薬品・化粧品(いわゆる「3品」)やサービス業などの新規ユーザーまで計54の導入事例が紹介されています。産ロボの導入事例を包括的に取りまとめた文献としては、おそらく、わが国初でしょう。筆者も微力ではありますが、事例提供で協力させてもらいました。

  わが国の産ロボ市場を振り返ると、SIの存在および彼らの下支えにより発展してきたといえます。そもそも産ロボは「半完成品」であり、SIがシステムインテグレートをしたり既存システムに組み込んだりすることで初めて価値が生まれるからであり、また、産ロボメーカーはSIによるシステムインテグレート例を受けて、新たな可能性を産ロボに埋め込み、SIはこれを生かして新たな分野や用途にトライするというサイクルによりアリケーションが拡大されてきたからです。
 そして、いま上述の「3品」に代表される新規ユーザーへの適用拡大に向け、このサイクルを通じて、新たな技術革新が求められています。すなわち、大胆なコスト低減に寄与する技術革新です。3品業界では、自動車や電機など既存ユーサーほどの大規模な設備投資が難しく、いまだに産ロボは専用機や人手作業とコスト面で競合に、いや、むしろ遅れをとっているからです。

  産ロボは、市場が立ち上がった当初から基本的な構成要素に変化がありませんが、もしかしたら、これにメスを入れることが必要なのかもしれません。かつて、600~700点あった部品点数を約300点に半減させたように、あって当然と思われている減速機やエンコーダなどの削減にも手を加えるという具合に。原価低減や品質管理など間接費の圧縮につながるばかりか、減速機がなくなることで、これらの業界に適した、新たな構造を備える産ロボの創出につながるかもしれません。

 また、システムインテグレートに関しても技術革新が必要です。現在のシステムインテグレートは案件ごとに設計や立ち上げ費用が発生するうえ、他システムとの接続や安全性の確保などが求められるために、システムの価格は産ロボの単価の3~20倍にまで膨らんでいます。例えば、ティーチングレスや、それを簡易にする技術は有効で、システムインテグレートにかかる費用の圧縮につながり、絶大なコスト削減効果を生み出すでしょう。「3品」業界は産ロボの扱いに不慣れであることを踏まえると、余計に求められるといえます。

  ただ、気になるのは2008年秋のリーマンショック以降、多くのSIが元気をなくしていることです。現在も「見積もりの提示は多いが、仕事(受注)が半減したまま・・・」という声が聞かれます。以前であれば、上述のサイクルにより適用拡大に向けた試みがなされてきたのでしょうが、SIがこのような状況では、それが十分に機能しているかどうかが気になるところです。しかも、以前は産ロボメーカーによる製品説明会(懇親会)が定期的に開かれていましたが、「最近は、めっきりなくなった・・・」という声がSIから聞かれ、両者の関係性が疎遠になりつつあるのではと懸念されます。産ロボの主戦場がすでに中国をはじめとする新興国へと移行し、収益を支えているからなのでしょうが・・・。

  今月はじめに紹介した「国際食品工業展(FOOMA JAPAN 2011)」にて新たなアプリケーションが見られたように、3品業界で産ロボの利用が広がりつつあります。一部、元気なSIの仕事によるものです。しかし、自動車業界における「溶接」や「塗装」、成形機からの「取り出し」などのアプリケーションのように、これらの業界で産ロボが不可欠な存在となるためには上述のような技術革新が必要であり、これを支えるサイクルが機能しなければなりません。まだまだSIには頑張ってもらわないといけません(彼ら自身に自助努力してもらわないといけません)し、同時に、彼らの役割を再評価する必要があると考えます。

 海外への生産拠点の移行が避けられない中、わが国に残るのは高度なモノづくりのみになることイメージすると、なおさらSIの役割は欠かせないわけで、同調査事例は単に参考になるばかりではなく、こうした機会を与えるものになっていると捉えています。
(ロボナブル編集部)

ロボット技術導入事例調査 ロボット技術導入事例集
ロボット技術導入事例調査 ロボット技術導入事例集要約版


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 来週26日(日)に、「第11回レスキューロボットコンテスト(レスコン)」競技会予選が開催されます。8月6日と7日開催の本選への出場権をかけて、書類審査を通過した20チーム(主催者枠を含む)が競います。

  レスコンは、その名の通り、災害救助を題材としたロボットコンテストで、「国際レスキュー工学研究所」におけるレスキュー技術の評価と訓練を目的とした実験という想定のもと、設計・製作した遠隔操縦型ロボットなどにより、1/6スケールの被災した街の模型の中から要救助者を模擬したダミー人形(ダミヤン)を救出し、連れ帰るミッションに挑みます。被災地へ出動する「つよさ」と活動の「はやさ」に加え、要救助者を扱う「やさしさ」を競います。
  また、防災やレスキューの啓発および広報も目的としており、競技参加者に加え、観客(市民や県民)にもその大切難しさを考えてもらうことに重きを置いています。それゆえに、単にポイントを競うのではなく、レスキューに対する姿勢や、それにもとづいたロボットの設計・製作も評価しています。

 レスコンは例年、企業スポンサーに加え、神戸市と兵庫県からも支援を得て開催されています。阪神淡路大震災を経験し、救命救助の活動や機器(資機材)に関する啓発や広報も必須であるとの認識によるものであり、昨年は「レスコン10周年」を記念して市民シンポジウムが開催されました。

  すでにニュース覧で紹介したように、神戸市は2010年度末に、国際レスキューシステム研究機構が開発した災害対応ロボット「UMRS2010」を購入し、神戸ロボット工房(神戸市長田区)での展示を通じた啓蒙や、神戸市消防局での運用訓練に役立てようとしています(東日本大震災の影響により遅れていますが)。導入に至った直接的な理由は、年度内で予算を確保することができ、かつ投資判断ができる行政担当官がいたからですが、住民サービスとして「安心・安全」を提供しようとする政策に理解を示し、そうした選択を支持する神戸市民の防災・減災へのリテラシーの高さもあったからでしょう。そして、過去10年にわたるレスコンの開催は、上述のような狙いがあることを踏まえると、その一助になったといえるはずです。

 2010年4月1日に、総務省により救助隊の編成、装備および配置の基準を定める省令改正がなされ、特別高度救助隊および高度救助隊による「検知型遠隔探査装置」(遠隔操作式の災害対応ロボットなど)の配備が推奨されました。あくまで、地域の実情に応じて導入すべきものですので、現在のところ神戸市以外の地域では、配備に向けた動きは確認されていません(すでに導入している東京消防庁は別として)。しかし、ハザードマップなどで災害の危険性が示されている地域は、ロボットを配備するかどうかは別として、それに対応した対策や手段が講じられなければならないはずです。何もしなければ、想定が甘いと斬って捨てられた東京電力と五十歩百歩です。

  災害対応ロボットに限っていえば、各自治体の財政状況を踏まえると、導入困難なのは容易に想像されます。国が戦略的に全国の主要都市(政令指定都市)やハザードマップにもとづいて配備したり、自衛隊に配備したりすべきという声が聞かれます。こうした選択肢もあるでしょうが、省令改正でも記されているように、やはり地域の実情に応じて、地域あるいは広域連合が責任をもって導入すべきです。
 国の財政状況や、東日本大震災ならびに福島原発災害への被災者への対応を考慮すると、こうしたシステムの大規模な配備に予算がつけられる可能性は低いという理由もありますが、自治体ベースで取り組まれる方が、ハザードマップに応じたシステムの導入、運用モデルの構築を円滑に進められるからです。各地の消防が運用している資機材は、それぞれの実状を踏まえて導入されているのですから、なおさらそう思われます。そこで、カギとなるのが防災・減災に対するリテラシーの向上です。選択肢の1つにすぎない災害対応ロボットに対し、限られたリソース(財源)の中で予算配分を行うためには、住民に理解してもらい、こうした選択を支持してもらうことが必須であり、(リスク)リテラシーがなければ、そうなり得ないからです。
  リテラシーを備えてもらうためには、小学校の段階からレスキュー工学に馴染んでもらうのが理想ですが、これに関心を持ってもらう初級段階として、レスコンの開催に協力したり予選会の開催を誘致したりするのは「あり」でしょう。神戸市民の(リスク)リテラシーの醸成の一助となっているのですから。

 もちろん、災害対応ロボットの導入ではなく、災害に強い街づくりにつなげてもらうことが第一の目的です。耐震改修などインフラの再整備を「事前の対策」として行うとともに、「事後の対策」として、有事に備えた条例改正を行ったり、消防隊員を増強したり新たな資機材を導入したりするといった方策がなされるべきで(機械安全でいえば両方を含め「事前の責任」とされるでしょう)、事後対策の1つとして、ロボットの選択および地域の実情に合わせた要求仕様の提示につながればよいのです。
 大切なことは、ハザードが高い地域では災害・減災へのリテラシーを備えてもらうこと。そして、地域の情勢を踏まえて、そのときどきで適切に政策を選択してもらい、資機材の購入など必要な対策に結び付けてもらうことです。住民に正しい選択をしてもらうための十分なリテラシーを備えている地域はまだまだ多いとは言い難く、また、何から手を付ければよいのかがわからないというところも多いはずです。その一助して、レスコンの活用は「あり」ですし、関係される先生方も協力してくださるはずでしょう。

(ロボナブル編集部)

第11回 レスキューロボットコンテスト競技会予選

【過去のコラム】
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事前に想定される懸念事項の開示・共有を、クインスの投入にあたり (2011/05/31)
わが国は災害対応・原発対応ロボは競争力に欠ける?(2011/05/23)

 千葉工業大学 未来ロボット技術研究センター(fuRo)で福島第一原子力発電所原子炉建屋への投入に向け調整作業がなされているレスキューロボット「Quince(クインス)」(写真)が、15日もしくは16日に福島原発に向けて移送される見通しとなりました(6月10日時点)。3月中旬から約3カ月にわたり、Quinceの改造ならびに調整作業に取り組まれてきた小柳英次fuRo副所長をはじめ研究スタッフの方々の労をねぎらうとともに、深く感謝を申し上げます。

quince0609-2.jpg  前回のコラムと一部重複しますが、Quinceの投入に当たり気になることがあります。それは、海外製ロボットと国内製とを比較して報道される傾向にあり、例えば「真打ち登場!」といった言葉に見られるように、Quinceを国内製の代表のような扱いになっている。結果、ミッションの達成度によって両極端な評価が下されるという、危うい「空気」に支配されていることです。筆者のみならず、取材先でも同様に危惧される方に会うことがあります。

 大前提として、(遠隔操作)ロボットをはじめ無人化システムを利用するおもな理由は、作業員に代わり、冷温停止に向け原子炉建屋内外の状況の把握にあります。今月4日には、1号機の原子炉建屋で1時間あたり4,000ミリシーベルト(mSv)という高い放射線量が計測されました。この数値は作業員の被曝限度量とされる250mSvの16倍にも相当し、数分間の作業でさえ困難な状況です。ロボットであれば一定時間の活動は可能で、作業員に代わっての状況の把握に役立ちます。作業員ほどの複雑かつ高度な作業は見込めないでしょうが、作業員の被曝量の低減に寄与し、ここにベネフィットがあるといえます。

 原発災害が発生した3月の時点では、東京電力が仏アレバ社からのロボット提供の申出を断った際、こうしたベネフィットが取り上げられ、政府と東電の対応を批判する記事が多く見られました。そして、海外製や国内製を問わず、利用可能な無人化システム(ロボット)を適材適所で投入して冷温停止につなげるべき、という論旨が展開されていました。

 ところが、国内製ロボット(災害対応ロボット)の待機状態が続く中(無人化施工は「建設ロボット」に分類され、真っ先に投入されましたが)、4月17日に米iRobot社の軍用ロボット「PackBot(パックボット)」が突如投入されたのを機に、「国内製ロボットの出番はいつあるのか?」という記事が目立ち始め、さらには「ロボット大国の威信」という言葉も多用されるようになりました。執筆した記者からすれば、ロボット技術者の奮起を促す意味合いを込めての表現と想像されますが、この頃から海外製ロボットと国内製と比較して報道されるようになったと思われます。
 決して、「ロボット大国」という言葉に応えようとしているわけではないのでしょうが、QuinceはPackBotにない高い踏破性(*1)を備えることから、さながら国内製の代表のような扱いとなり、過度な取り上げ方がなされるようになっています。

*1:Quinceをめぐる報道では、読者にわかりやすく伝えるため、特徴の1つである「踏破性」がよく取り上げられています。その際、米Disaster Cityのコンクリート瓦礫を唯一踏破した事実から「世界一の踏破性」という言葉が使われていますが、これのみが一人歩きをしてしまい、上述のような空気を助長しています。田所諭IRS会長は「(冷温停止に向け)海外製と国内製とを比較することには意味がない」と前置きしたうえで、こうした説明をされていますが、この発言にはニュースバリューがなく、報道側でカットされています。特に、このような非常時における情報発信は、報道側との意識の違いと理解したうえでなされるべきであり、周到さが求められます。
  Quinceは踏破性に優れますが、時々刻々と変化する福島原発の状況および、それに伴う東電側のニーズに対応できる適応力も買われての投入と、筆者は判断しています。6月8日公開のQuinceが、それを示しているといえるでしょう。

 無人化システムの投入に向け検討してきたリモートコントロール化プロジェクトチーム(リモコンPT)では、海外製・国内製を問わず、投入可能なシステム()を慎重に議論し、東電側には運用方法も含め、適材適所で導入推奨を行いました。無人化施工建機やPackBot、米QinetiQ社の「TALAN(タロン)」などの投入は、それを参考した結果ですが、稼働実績を重視して導入推奨を行った以外は、どのような議論がなされたのか、また、東電側ではどのような意思決定を行ったのかといった内容はコンフィデンシャル(機密)として開示されていません。

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 東京大学の淺間一教授の講演資料「対災害ロボティクス・タスクフォースの活動」より(5月2日)。図には掲載されていないが、東芝が開発した作業監視支援ロボット「SMERT-M」を急遽改造し、5月22日にはガンマカメラを搭載して建屋外の環境計測を行っている。また、日本原子力研究開発機構(JAEA)が開発、改造した線量計測ロボット「JAEA-1号」と情報収集ロボット「同2号」も投入に向けた準備が進められている(詳細はこちら

 また4月4日には、経済産業省 製造産業局 産業機械課による主導で国内の災害対応ロボットと開発者を産総研(つくば市)に集め、東電側へのプレゼンがなされています。しかし、ここでの議論も非公開とされており、参加したロボットの中から、どのような経緯でQuinceが選択されたのかも不明です。唯一開示された内容は、参加したテムザックが密着取材をしていた「ガイアの夜明け」取材班に手渡したビデオ映像が番組内で流れるという、実に中途半端なものです(漏洩と表現する方が正しいですが)。特に、この国難に役立ちたいという高いモチベーションで参加された開発者からすれば腑に落ちないことでしょう。

  このように必要な情報開示がなされない中でのPackBotの投入は唐突な印象を与えてしまい、適材適所でロボットが選択・投入されているという事実が脇に追いやられ、「ロボット大国」というフレーズとともに、海外製ロボットと国内製とが比較されるようになり、結果、過度な注目を浴びたり期待を背負ったりしているのではないでしょうか。そして、ミッションの達成度に応じて両極端な評価が下される「空気」を創出しているように思われます。
  したがって、適材適所で国内外のロボットが投入されている事実を思い出してもらい、こうした「空気」を除去し、かつ冷静にQuinceの活動を見つめるために、リモコンPTでの検討内容および東電側における選択は、可能な限り開示されるべきです。政府と経産省は主体的に、それを行うべきです。確かに、原発の詳細な内部構造の公開など、テロの標的になるような情報開示は避けなければなりませんが、無人化システムの選択にかかる意思決定の開示に何ら問題があるとは思えません(*2)

*2:PackBotの投入を巡っては、ヒラリー・クリントン国務長官の来日に間に合わせるという政治判断にもとづくものとの声があがっており、また、Quinceの投入を巡っては、(わかりやすい)国内製ロボットを投入しなければならないという行政側の意思が働いているとの声があがっています。これらを邪推とするのであれば、排除するためにも開示されるのが望ましいです。

  Quinceをはじめ遠隔操作式の災害対応ロボットは、操縦者と一体なることで100%の機能を発揮するよう設計されています。東電の作業員の方は必死に習得に努められているのでしょうが、短期間の操作訓練では、千葉工大の学生さんレベルの習熟度は望ません。ミッションの達成には慎重な操作と、場合によっては、例えば狭い階段でスタックする可能性がある状況下であれば引き返すという(勇気ある)判断力が求められます。そして、このように引き返すという判断に対し、きちんと「正しい」と声を発する「空気」が必要です。が、いまの海外製ロボットと国内製とが比較された結果として、創出された「空気」は、その妨げになるかもしれません。このとき最大の不利益をこうむるのは、誰になるでしょうか?(もちろん、国民も含まれます)

 繰り返しになりますが、政府と経産省はQuinceを取り巻く重い「空気」を認識して情報の開示に努め、現段階では無意味な比較論を排除し、冷静にQuinceのミッションを見つめる「空気」の創出につなげるべきと考えます。   (ロボナブル編集部)


【過去のコラム】
事前に想定される懸念事項の開示・共有を、クインスの投入にあたり (2011/05/31)
わが国は災害対応・原発対応ロボは競争力に欠ける?(2011/05/23)  
 




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