ロボナブル コラム

2014.01.19
安全規則の規制緩和はあり得ない!80W規制改正を考える

 2013年12月24日に、「産業用ロボットに係る労働安全衛生規則第150条の4の施行通達の一部改正」が通知されました。6月14日に閣議決定された規制改革実施計画ならびに近年の安全性確保にかかる技術レベルの実情を踏まえたものです。
 
 日本国内では労働安全衛生規則が適用(優先)されるがゆえ、産業用ロボットを安全柵などを用いて人(作業者)と分離して使用する必要があり、作業者との共存・協調作業が認められていませんでした(定格出力80W以下は除外)。かたや、産業用ロボットの国際規格「ISO 10218-1:2011」および「ISO 10218-2:2011」では、ロボットの停止監視や人とロボット間の相対距離・速度監視、ロボットの力制限などの条件下では、人とロボットの共存・協調作業を認めており、今回の改正は国際規格に整合するものといえます。また、長らく問題視されてきた労働安全衛生規則と国際規格との差異の解消にもつながるでしょう。
 
 ただ、気になるのは、今回の規制改革を「規制緩和」と軽々に表現されるきらいにあることです。
 確かに、今回の改正により人とロボットの協調作業が可能となり、従来設備を利用しつつ設置スペースをとらずにロボットが導入できます。中小製造業に加え、産業用ロボットがあまり利用されていない3品業界(食品・医薬品・化粧品)へのロボットの導入につながるかもしれません(*)。しかし、産業用ロボットメーカー(産ロボメーカー)にとってのビジネスチャンスは、このような導入台数の拡大ではなく、各種セーフティコンポーネントを自社製品(ロボット)に取り込めることで、安全性確保に関するソリューションの選択肢を拡大できることにあります(大前提として、人とロボットが協調作業することに、どの程度の価値があるかを精査しなければなりませんが)。また、今回の改正を通じてなお、産ロボメーカーならびにシステムインテグレータ(SI)がユーザー企業に安全なシステムを提供するという本質は、なんら変わりはしませんし、そもそも「安全を規制緩和!」するなんてあり得ません。
 
*:ロボットによる工程と作業者による工程が分断されるうえ、投資効果が得にくいため、完全自動化を積極的に進められないために、産ロボなどによる自動化が進展しないという話をされる方がいますが、果たして、そうでしょうか? また、WTOに加盟するわが国では本来、国際規格との整合を図るべきはずですが、長年にわたり、海外産ロボメーカーから労働安全衛生規則との乖離および、その解消を要求されなかったのは商売上、支障がない判断されていたからであって、協調作業に必要性を感じていないように思われます。
 
 今回の改正で懸念されるのは、産ロボメーカー(SI含む)およびロボットユーザーがリスクアセスメントにもとづく適切な安全対策を講じることや、国際安全規格に準じた安全対策を講じることを求めているにもかかわらず、中小システムインテグレータならびに(自動車および電機メーカー以外の)中小ユーザー企業の知識レベルが低いままであることです。
 
 少々古い資料になりますが、三菱総合研究所が取りまとめた『設備の安全確保におけるシステムインテグレータの役割に関する調査』を参照すると、一般的な中小企業では、安全基準は有していないことや、中小システムインテグレータはユーザーの仕様を満足するので精一杯で、安全性に関する国際規格を確認していないことなどが明らかにされています。こうした結果、(中小)ユーザー企業の要求からシステムインテグレータが設備の安全性確保に妥協を強いられたり(本来は妥協することはあってはならない)、システムインテグレータが未然防止策として安全防護装置をセットアップしていたとしても、中小ユーザー企業がそれを無効化(いわゆる安全機能を“殺す”)にしたりする例が多いです。産業用ロボットを含む設備機器の安全に対する取り組みが、企業規模や経営者の考え方に大きく依存しています。
 
 そこで、課題解決に向け重要なキーワードになるのは、日本機械工業連合会が提唱している「セーフティ・システム・インテグレーション」です。システム全体に対してリスクアセスメントを行うことをそう定義しており、さらに説明すると、リスクベースの考え方にもとづき、制御ゾーンと制御ゾーン間のインターフェースで生じる問題を解決し、安全な作業現場を構築することとなります。具体的には、システム(全体)リスクアセスメントの実施に加え、リスク低減策(保護方策)の実施、妥当性検証(バリデーション、機能安全における「Vモデル」の実践など)、ドキュメントの整備(技術ファイルや適合性宣言書など)を担うことになります(労働安全衛生規則の改正では、実質的にこれらの実施を求めていることになる)。
 
 一部システムインテグレータなどでは、社内に「セーフティアセッサ」の資格を持つエンジニアを抱えるところがありますが、このような専門人材はまだまだ少ないです。また、中小システムインテグレータや中小ユーザー企業では、こうした専門人材の育成および確保は非常に困難であり、場合によっては、これらの代行サービスを担うような企業の育成が求められるでしょう。少なくとも、今回の改定は、セーフティ・システム・インテグレーションの啓蒙普及ならびに専門人材の育成を喫緊の課題にしたといえます。
 
 人材育成と併せて、安全性確保にかかる妥当な目標設定のための責任区分の明確化および合意にかかる問題を議論し、その仕組みを指導していくことも求められます。
 労働安全衛生規則では、その性格上、ユーザー企業のシステム採用責任者に最終的な安全性確保の責任があるとされますが、上述の通り、中小ユーザー企業におけるこうした人たちは専門知識が不足しています。そのために、システム承認が名目的なものとなり、事故防止の責任所在が曖昧なままとなりがちです。事故が発生した場合は、システムインテグレータ側のシステム承認者にも責任があることから、双方に責任があるとして、結果、誰も責任をとらないことがまかり通っているのは、その典型です。
 
 中小ユーザー企業においては、安全技術の評価能力を持つ人が安全管理者に助言してシステム承認をさせる、または、上記の通り、助言を担う外部の専門家の支援を受けるといった仕組みの構築および指導が必要でしょう。さらにいえば、安易な安全への妥協を防ぐために、ユーザー企業とシステムインテグレータによる妥当性検証にかかるプロセスを、組織的に分けるよう規定(義務化)することも必要かもしれません。いずれにしましても、今回の改定は、いままで問題視されていたこれらの課題への取り組みを、より一層求められるようになったことは間違いないです。
 
 なお筆者は、国際レスキューシステム研究機構(IRS)と安全工学研究所が実施する「サービスロボット安全技術者認定講座」の広報ならびに“お手伝い”に携わってきました。安全工学上「危険状態」となるサービスロボット(生活支援ロボット)の安全性確保のための考え方(国際規格)や具体的な方法論を指導する同講座は、まさに、既述の専門家の育成に最適な構成となっており、これらを通じて、上述のような専門人材の輩出に関わっていくつもりでおります。
(ロボナブル編集部 管理人 今堀崇弘)
 
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