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2012.10.11
【ロボ大賞】ステークホルダーを巻き込んだ価値創出を評価、パナソニックの事業

 「第5回 ロボット大賞」の各賞が発表され、新設の「ロボットビジネス/社会実装部門」にエントリーした、パナソニックと松下記念病院の『生活支援ロボットソリューション事業の推進』が「ロボット大賞(経済産業大臣賞)」に選ばれた。少子化・高齢化などに起因する社会的課題解決に向け、ロボットの社会実装の必要性が指摘される中、有効なアプローチを見出せず、その取り組みは停滞気味にあった。パナソニックなどの活動は、これに一石を投じるものと高く評価され、受賞に至ったが、私見を交えつつ、その要点を紹介する。キーワードはトータルシステムソリューションユーザードリブンイノベーションの組み合わせである。

 パナソニックは、前回の「第4回 ロボット大賞」にて『注射薬払出ロボットシステムを起点としたロボット群』で「日本機械工業連合会 会長賞」を受賞している。薬剤払出・調剤・監査・搬送・服薬指導からなる薬剤業務に対し、第一弾として薬剤払出と搬送支援に向け提案したもので、複数ロボットによるソリューション提案が評価された。
  その後、各工程に向け「注射薬混合ロボット」や「錠剤監査ロボット」など複数の試作機を開発しており、薬剤業務を“まるごと”支援できる体制を整えている()。加えて、病院内自律搬送ロボット「HOSPI(ホスピ)」を安全に運用するためのLED可視光通信システムなど、院内インフラ(各種IT機器)の構築に向けたシステムソリューション事業も整備している。

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 当時から、同社の「NEXTセル生産ツール」(現場観察・分析ツール)による業務分析やコンサルティング(*)、システムソリューションの企画・提案、ロボットおよびインフラの導入という流れにてトータルソリューションを展開しており、いわゆるまるごとロボット化事業として知られている。中でも、薬剤業務プロセスのリデザイン(サービスの再設計)を伴う提案は各ソリューションのスムーズな導入を可能にしており、2008年秋から松下記念病院と取り組んだ「収益力強化プロジェクト」では、薬剤業務にかかる工数を10%以上削減し、それのみの改善効果で年間数千万円の支出削減を達成している。
 また、同病院との協業を通じて、現場観察・分析ツールなどノウハウの体系化を進めつつトータルソリューションの拡充を図ってきたが、ここ数年は、同病院を導入モデル病院に位置づけ、さらにロボットオープンラボの設置などを組み合わせることで、導入モデル病院としての機能強化を図っている。パナソニックでは、これら一連の活動をユーザードリブンイノベーションと表現している。

※:コンサルティングは、将来のロボットやインフラの導入を見据え、現在は無料で行っている。すでに数十件以上の医療機関で実施している。同社のソリューションの効果が周知されることで、コンサルのみでも相当な収益を上げる可能性があると見込まれる。

 ロボットオープンラボでは、国内外を問わずユーザー候補となる医療機関や関係者を招き、具体的なニーズの収集や事業化パートナーの探索を行っている。試作段階から各ソリューション(ロボット)をオープンにしており、導入に前向きな医療機関(リードユーザー)とは導入検証や実証実験へと移行する。サンセール香里園における電動ケアベッドの機能検証やデンマークにおけるロボティックベッドの実証実験は、その一例であり、オープンラボをユーザーとの共創の場として役立てている。

 導入モデル病院と位置づける松下記念病院では、他の医療機関からの見学を受け付けており、各ソリューションの導入イメージの創出に加え、同病院で体系化したノウハウの展開による導入プロセスの理解につなげている。いわゆるアーリーアダプトとしてソリューションの啓蒙普及に寄与するとともに、リードユーザーにおける導入検証の推進、さらなるリードユーザーの確保に結び付けている(2012年7月には、埼玉医科大国際医療センターにHOSPI2台を導入し、実証実験を開始。関東地区での導入モデル病院に位置づけている)。
 加えて、2010年度からは大阪大学にてロボティクス&デザイン看工融合共同研究講座を実施しており、保健看護学に対し工学の視点を取り入れた研究開発に加え、将来のユーザーとなる看護学生の工学への理解を促している。

  このようなユーザーとなる医療機関を巻き込んだ研究開発や実証実験は、ユーザードリブンイノベーションと呼べる活動であるが、トータルソリューションとの組み合わせにより、ロボットなどハードウエアの実用化にとどまらない、新たなサービス(ここでは院内サービス)創出につながっている。ロボットの社会実装に向けては、それにかかわるステークホルダーを巻き込んだかたちで価値創造に取り組み、(社会)サービスとして具現化するアプローチが重要との見方がなされているが、まさしく、こうしたアプローチとなっており今回、もっと評価された理由がここにあると想像される。

 また、パナソニックでは2012年10月に組織変更に伴い、ロボットなどのハードウエアはパナソニック ヘルスケアに、可視光通信システムを含むインフラ関係はパナソニックシステムソリューションズジャパンにそれぞれ事業移管している。すでに数十億円規模の売上をあげており、2012年度は倍増が予想されている。上述のアプローチによりユーザーの課題解決を図りつつ、収益が見込まれるビジネスモデルになっているという判断も、今回の評価につながったと想像される。


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