※本コラムでは原文を尊重し、「ユーザ」や「メーカ」など音引きを削除して記載している個所が複数あります。あらかじめご了承下さい。
10年前の2001年に、日本機械工業連合会と日本ロボット工業会が取りまとめた『21世紀におけるロボット社会創造のための技術戦略調査報告書』が公表されました(厳密には2001年5月発行ですので10年6カ月前になります)。大胆な市場予測とともに「RT(Robot Technology)」という新たな概念が提示され、話題となりました。RTとは、『ロボット技術を活用した、実世界に働きかける機能を持つ知能化システム』であり、その後の『センサー、知能・制御系、駆動系の3つの技術要素を有する知能化した機械システム』(ロボット産業政策研究会など)という現在の公的なロボットの定義につながっています。
当時は、予測数値ばかりが注目されましたが、同報告書の狙いは「ロボットからRTへの技術戦略」、つまり「産業用ロボットからソリューションビジネス産業としてのRT産業への転換」にあります。「ユーザが抱えている問題を分析し、いくつかの既存技術を組合せ、ユーザの要求に合わせたシステムを作りあげる(=システムインテグレート)という『ソリューションビジネス(*1)』が活躍」する産業構造につなげるうえで、また、柔軟なソリューションの提供を可能にするうえで、ロボットを広義に捉え直すのは必須だったといえます。そして市場予測は、こうした転換が果たされた結果といえるでしょう(算出にかかる根拠にはやはり曖昧な部分がありますが)。
ところが、すでに10年以上が経過したにもかかわらず、サービスロボット(次世代ロボット)市場がこうした方向にむかっている気配は感じられません。それを支える基盤技術として「RTミドルウエア(*2)」プロジェクトが取り組まれた以外は・・・。
*1:大きくは、顧客ニーズに合わせてシステムインテグレートする形態と、既存製品やシステムの知能化・巧緻化に向けロボット技術を組み込む(埋め込む)形態の2種類をイメージしていたと筆者は捉えています。後者は「カーロボティクス」という言葉が登場し定着したので、当時よりイメージしやすくなったでしょう。後者の形態は「メカトロニクス」のように技術を指す意味合いが強く、既存製品やシステムに組み込まれ、定着したときは「ロボット」と意識されないでしょう。が、この段階になって初めて「ロボットが役に立った」と社会から評価されると考えます。
*2:ソリューションビジネスへの移行に向けRTミドルウエアのようなプラットフォーム技術の存在は必要であり、重要と考えます。しかし、開発ターゲットが不明なままにソフトウエア・モジュールを用意・提供することで産業の活性化が図られるという考えには疑問符がつきます。詳細は別の機会に。
このような技術戦略を掲げた背景には、非製造業(サービス)分野における特殊性があります。(ティーチング・プレイバックでは到底対応できない)不定形かつ高度な要求への対応や安全性の確保といった技術的な課題に加え、一般人(=非技術者)が多く含まれるために「ユーザ側がメーカに対し要求仕様を的確に伝えることで導入がスムーズに進んだという普及上の成功要因」が期待されない(=お互いの専門性が著しく異なる)ことです。それゆえに、ユーザー側に寄って立ち、かつ小回りが利くベンチャーをはじめとするシステムインテグレータの活躍が予測され、彼らを中心とした分業体制による産業構造が描かれていました。また、彼らが担う市場は中小規模であるとしながらも、その育成を通じて、大企業も参入できる巨大市場につながる「重要なフェーズ」でもあるとの見方もなされていました。
このような捉え方は、筆者の取材経験を踏まえると現在にも通用するものであり、こうした方向にシフトする方がよいと考えています。例えば、特集『失敗するロボットビジネス、成功するロボットビジネス』で「(サービスロボット)事業創出の課題と原因」の一例として図1と図2を紹介し、「(人を組み込んだ)システムインテグレーションの形態で提供する方が、それぞれのサービス事業者のビジネスモデルにフィックスしやすく、サービスのカスタマイズ化にも対応しやすい」ことを述べました。
10年前からほぼ言い当てているにもかかわらず、こうした方向性に向かっていない原因は、具体的な施策が打たれなかった結果、システムインテグレートを担う人材や組織が手薄なままであるからと考えます。
図1 サービスロボット/RTメーカーが指摘する、事業創出の障害となる課題とそれを生み出している原因(石黒周氏による、特集の図を再掲)
図2 サービス事業者が指摘する、事業創出の障害となる課題とそれを生み出している原因(石黒周氏による、特集の図を再掲)
ただし、ここで言う「システムインテグレータ」は、産業用ロボットの価値創出で活躍されているシステムインテグレータ(SI)とはかなり性格が異なります。サービスロボット市場におけるシステムインテグレートにおいては、先ほど述べましたように、ユーザーとの専門性が異なるばかりか、商習慣なども異なり、必然的に求められる能力が多岐にわたるからです。
図1、2に関して話題提供されたロボットビジネス推進協議会の石黒周幹事は「RTシステムプロデューサー(RTSP)」と表現されており、「サービス事業者の立場に立って、ロボット/RTシステム導入による課題解決方法や代替案の創出を行う事業化のキープレイヤー」と定義づけています。そして、彼らが備えるおもな能力として、
(1)ロボット/RTに関する最新で、かつ包括的な知識を保有しており、必要とする各要素技術やそれらを統合する技術について優れた事業者の連携を組むことができる能力を持っている
(2)同時に、サービス提供事業者の事業について明るく、ロボット/RTを組み込んだ新たなサービスシステムが考案でき、その提案能力を持っている
をあげています。
石黒氏の指摘はサービス事業者にもヒアリングを実施した結果であり、同報告書ではそこまでサービス業の特殊性は把握できていなかったでしょう。が、既述の「ユーザ側がメーカに対し要求仕様を的確に伝えることで導入がスムーズに進んだという普及上の成功要因」が期待されないことをあげていたことを踏まえると、(1)と(2)の能力をおおよそイメージしていたと思われます。
同報告書では、ソリューションビジネスとしてのRTビジネスに従事する「RT技術者の教育システムの整備」の必要性にも言及していました。ただ、上述の能力をさらに整理すると図3のようにまとめられ、このような人材や組織の輩出に寄与する方法論やスキームの検討は極めて困難です。結果、具体的な施策を立てられなかったのかもしれません(*3)。
図3 RTSPに求められる能力を図のように整理される。もちろん、すべてにおいて高度な能力を有している必要はなく、得意とする個人や組織と連携すればよい。連携できる能力が重視される
*3:例えば、大阪ではロボットラボラトリーなどを中心に「EPEER」という教育プログラムが取り組まれている。次世代ロボット市場を開拓できる人材育成を目的としたもので、大阪大学や奈良先端科学技術大学院大学、ATRなどの各機関が連携し、それぞれの技術やノウハウを生かして「基礎技術力」「実践開発力」「実証評価力」を育成している。
2年間のプログラムとなっており、1年目は、ロボット要素技術やシステム統合に関する技術力を「基礎技術力」として習得し、2年目は、次世代ロボットの利用現場などを想定して試作機を開発し、実フィールドでの検証などを通じて「実践開発力」および「実証評価力」を身に付ける。2年目からは、奈良先端大で画像処理を学習するグループと、阪大の知識・機能創成工学専攻「基盤PP(PIER Program)」を受講するグループに分かれて取り組む。
そこで、筆者はまずは、こうした人材の輩出を促す「雰囲気づくり」から始めてみるのがよいと考えています。少ないながらも、関西ではRTSP(例えばロボリューション、知能技術、パーソナルテクノロジーなどが相当する)として活躍されている方や組織がすでに存在し、その価値や重要性に気づき、自身のキャリア(培った能力やスキルに加え、センス)と情熱を支えにRTSPへと変貌(独立など)を遂げているからです。したがって、ロボット業界内においてRTSPの価値を高め、業界内外に対し、その重要性に気づきを与えるような施策でも意味があるといえ、例えば「ロボット大賞」で該当する表彰枠を設けることを検討するのも一計と考えます。
RTSPが担う仕事はクライアントとの関係があり、その活動は表出しにくく、外部からは価値を見出しにくいです。だからこそ表彰枠がある方が望ましいわけで、このような人材や組織が増え、活躍することでソリューションビジネス産業への転換が果たされ、やがては巨大市場になる中小規模のロボット市場の創出につながればと願うばかりです。 (ロボナブル編集部)
【参考文献】
[1]日本機械工業連合会、日本ロボット工業会,“平成12年度 21世紀におけるロボット社会創造のための技術戦略調査報告書”,2001.
[2]石黒 周,“ロボット/ロボット技術導入によるサービスイノベーション事業創出アプローチ:事例と類型とキープレイヤー」,研究・技術計画学会,第24回年次学術講演要旨集,2009.
【過去のコラム】
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