ピップは10月13日、高齢者や要介護者のメンタルケアに向けコミュニケーションロボット「うなずきかぼちゃん」の開発を発表しました。技術への関心が高いロボナブル読者からすれば、「ロボット」という表現に違和感をおぼえられたかもしれません。なんせ、かぼちゃんができるモーションは、首部に搭載したDCモータによるうなずきのみですから。
しかし「うなずきかぼちゃん」という商品名から推察されるように、「はなしかけて」「うなずく」というアクションのみで高齢者や要介護者の心にアドレスできるという確信があってのことと思われます。
●自己本位にアクションするだけ
筆者の実家は1970年代の頃から高齢者が多数を占めていた地域で、よく誰かの家に集まっては団らんをしていました(現在はいわゆる「限界集落」です)。そして、数時間にもわたってたわいもない話がなされる中、保育園児ぐらいの幼児が飛び込むと場の雰囲気が一変したことを、ぼんやりと記憶しています。
幼児ですので、会話の内容は理解できません。うなずいて話を聞いているような素振りをしておきながら、素っ頓狂なリアクションしかできません。また何の脈略もなく、憶えたばかりの歌やお遊戯を披露したり、保育園で食べた給食やおやつの話をしたりしたものです。しかし、これで笑いが起きて場が明るくなりましたし、それを機に、高齢者が過去の話をしたり季節を感じたりしていました。
このとき幼児は特別なことは何もしていません。高齢者の状況には頓着することなく、自分の都合でアクションをしているだけです。にもかかわらず、その場の雰囲気が明るくなっていました。かぼちゃんの「はなしかけて」「うなずく」というアクションは、まさにそれで、幼児の振る舞いを抽象化、集約化したといえるでしょう。結果、他のモーションを諦めるという判断ができたのかもしれません。
また、初期設定時に年代や時間を記憶させれば、それに応じて歌を披露したり話題提供をしたりするという機能は、幼児ならではの自己本位なアクションでありながら、それに伴い時代や季節を感じさせる効果を狙ったものと推察されます。
かぼちゃんは複数のセンサやスイッチを搭載していますが、かなり低価格なものを使用しているようです。これらにより自身の状態を推定してアクションをしますが、それには正確さは求められていませんし、そもそも設定年齢(3歳)からすれば、自分の都合でアクションをしても差し支えがないです。ゆえに、高精度なセンサやスイッチは不要です。
また、これらはかぼちゃんとの親密度を計測するカウンタとしても使用しており、これによりかぼちゃんがより多くの言葉を話したり最後まで歌を唄ってくれたりしますが、ここでも精度は不要でしょう。カウンタの不正確さが、それぞれのかぼちゃんの成長の違いとなって、つまり個性として好意的に受け入れられるでしょう。このような判断があり、思いきった低コスト化が図れたと考えられます。
●インタラクションの課題は広義の技術観で検討
今回、かぼちゃんのプレス発表に参加して、約4年前にアーサー・D・リトルジャパンの川口盛之助氏にインタビューしたときのこと(詳細はこちら)を思い出しました。
川口氏は、人と機械とのコミュニケーションにおいて、人が機械に親しみを感じたり感情移入をしたりする度合いは、技術の難易度とリニア(線形)な関係にはなく、学術体系になりにくい方に答えがあるとの見方を示されていました。
また、かつてオリンピック競技に芸術競技があったことを引き合いに、もともと技術と芸術との区別がなく、技術開発においても技術と芸術の両方の要素があった。そして、国として成熟した現在、技術の成熟度が質的評価にある芸術の域に踏み込みつつあり、技術一辺倒のモノづくりでは行き詰まりつつある。芸術を含む「広義の技術観」により技術開発を進めなければ、人の心を満足させられないとの見方をされていました(図は製品が備える機能とユーザーが求める満足度との関係)。
かぼちゃんのように、(技術レベルは段違いですが)人とコミュニケーション、つまり人とインタラクションするロボットの研究開発が多くなされています。そして、ロボットの身体性やビヘイビア(アイコンタクトや身振り手振りなど)について、実験・解析を通じて、それによる訴求効果や感情移入の度合いを検証している論文が多数発表されています。研究をしたり論文をまとめたりするうえで実験・解析を実施しなければならないのでしょうし、システム仕様というかたちで数値化するうえでも必須です。しかしながら、果たして、それの積み重ねが「解」になり得るのかと疑問に感じることがあります(それ以前に、ロボットの身体性やビヘイビアの違いによる効果が見え見えな論文が散見されますが・・・)。
かたや、かぼちゃんは研究投資がなされていないため、こうした検証を経ていません。介護施設を運営するピップグループの知見と、玩具メーカーのウィズのノウハウから創出されましたが、そこには数値的(量的)な根拠は感じられません。しかし、上述の筆者の体験も加味すると、「はなしかけて」「うなずく」という自己本位なアクションは、高齢者にはなんとな~くクセになる(=質的評価)印象を受けますし、高齢者の心にアドレスできるのではという期待を抱かせてくれます。明らかに研究者や技術者からは出てこない発想であり、川口氏が指摘する広義の技術観で臨んだ製品開発に思われます。また、コミュニケーションロボットの製品開発は、こんなアプローチでよいのではと納得してしまいます。
ピップでは現在、かぼちゃんのセラピー効果について科学的・医学的に検証を進めています。何らかの効果が認められるのかもしれませんが、筆者は、これによってかぼちゃんの魅力が増すとは考えていません。かぼちゃんを長く側に置いてもらうための理由付けと、高齢者のご子息がプレゼントとして選択するための動機付けという販売戦略上の検証にすぎないと捉えているからであり、やはり、かぼちゃんの魅力は自己本位なアクションにあると考えます。
なお、かぼちゃんの機能価値と感性価値の両立や、見守り機能の追加など今後の発展性については近々、技術指導されたロボリューションの小西康晴さんに解説してもらう予定です。 (ロボナブル編集部)
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