先月末、あるロボット研究者の方から新規提案ならびに相談を受けました。現時点での用途およびシステム構成の特定を避けるため、抽象的な表現となることを断っておきます。
その先生は現在、福島原発災害への対応を目的に、自律制御と遠隔制御を組み合わせた半自律制御により、中長期間にわたり環境計測が行えるシステムの開発を進められています。すでに試作1号機を完成されており、学内および現地での実証実験を経て、夏以降に現場に投入することを計画されています。同時に、現場での受け入れおよび運用体制についても検討が具体化されており、水面下で関係者との調整作業も進められています。
本来であれば、中長期的な運用に向け(国民の安心・安全に寄与する公益性が高いシステムであることを踏まえ)資金確保ならびに運営サポートを目的に、「早々にプレス発表を行いところ」ですが、「基本機能の確認試験がこれからという状況下では、いたずらに期待を煽ることになりかねません」。しかも、今回の福島原発災害をめぐる一連の報道により、「国内製ロボットが役に立たないという印象を与えており、(ただでさえ)ロボット業界全体の信用が落ちているところで『使えない』との決定打を与えかねません」。そう危惧されており、「どのようにして自身の取り組みを開示すべきか?」との相談を受けました。
また、ご相談された先生は、ある大きな成果を上げた国家プロジェクトに参画されており、こうした実績から、余計に期待を煽る可能性があると容易に想像され、より慎重になられているように感じられました。なお、超学会組織「対災害ロボティクス・タスクフォース(ROBOTAD)」にもまだ開示されていないとのことです。
確かに、(4月や5月に比べると落ち着きつつあるとはいえ)現在のロボットを取り巻く状況を考慮すると、そう考えるのは当然のように思われます。しかし、筆者はメディア側との対話がきちんとなされれば、クリアされる問題と捉えています。ここで重要になるのは、ロボットの信頼性とベネフィット(公益性)との関係性を丁寧かつ繰り返し伝えることです。
国内製ロボットは使えないとの印象を助長している要因の1つは、「日本はロボット大国」であるというイメージと、運用実績(=信頼性)を有する海外製ロボットが優先的に利用されているというファクトとの乖離にあります。
過去のコラムでも紹介しましたが、災害対応ロボットや原子力ロボットの分野に関しては、わが国は欧米に比して十分な競争力を備えているとは言い難いです。これは単純に研究・開発力を指すものではなく、市場を形成する能力や他国に輸出する能力などビジネス的な側面を多分に加味した評価です(詳細はこちら)。製品レベルではない(ビジネスベースにのっていない)ロボットは、必然的にユーザー数も、利用現場および頻度も限定されます。システムとしての成熟度に欠け、信頼性という点で(すでに商業ベースにのっている)欧米のロボットには叶いません。また、欧米のような技術規格も調達基準もありません。
ましてや、ご相談された先生のロボットは、要素技術では他分野で高い実績を有しているとはいえ、未知の現場に投入することになるため、しかも開発期間も限られているため、十分な信頼性を確保できるとは考えにくいです。
災害対応・原発災害対応ロボットの発表会では、研究者の方は真摯ですので、こうした信頼性への懸念を伝えていないわけではありません。ところが、「日本はロボット大国」との情報がインプットされており、対応できて当然と考えられているのでしょうか、また、わざわざ取り上げる価値がないと捉えられているからなのでしょうか、ほとんどスルーされています。また、1つひとつの機能(要素技術)を高度化する力(研究開発力)と、システムとして、また製品として信頼性を確保する能力(モノづくり力)は別次元のものですが、どうも同一に捉えられるきらいがあり、信頼性はあたかも達成されているかのような受けとめ方がなされています。
したがってまず、信頼性に関しては未知数のところがあることを伝え、そのうえで、それでも、こうしたシステムを投入する公益性を伝えるべきです。つまり、信頼性と公益性のトレードオフの明示です。
また、マスコミ側は、読み手にわかりやすく伝えるための手段としてシステムの特徴を、他システムと比較して扱うきらいがあります。例えば、『海外製ロボットに比べて高い踏破性を有している』という具合に。次第に、そればかりが流布されてしまい、あたかも海外製ロボットよりも優れているという印象を与え、結果、余計な期待を煽ることになります。例えば、ブログで散見される「米国製を圧倒する超性能!」といったフレーズのようにです。
もちろん、マスコミ側には他意はないですし、質問された研究者も素直に返答されただけなのでしょうが、こうした一人歩きを防ぐ意味で、より客観的に記事を取り扱ってもらう意味でも、災害対応・原発災害対応ロボットの発表会では、信頼性と公益性との関係性をきちんと伝えておくべきです。余計な期待を煽ることも、悲観することもなく、みなが冷静にロボットの活動を評価できると考えます。
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