東日本大震災を境に、災害対応ロボットの動向に注目が集まっている。被災地の復旧支援や福島第一原子力発電所の事故収束への適用が期待されているが、活躍はまだまだこれからという状況である。その主因となっているのが、事業化に至っていないことによる運用実績の不足と運用モデルの不備。「未知の環境」に挑む海中と宇宙の例から、適用の具体化に向け必要な取り組みを探った。
東日本大震災では多くの漁港が壊滅的な被害を受けた。東京大学の浦環教授らは、震災による海底変化や漁業復興の課題を探るため、岩手県大槌町の大槌湾と宮城県南三陸町の志津川湾を海洋調査した。三井造船の水中ロボット「RTV」を使い、600mのケーブルを介して船から遠隔操作した。大槌町では11エリアを調査して養殖用アンカーの存在などを確認したほか、2遺体を発見した。南三陸沖合の志津川湾の海底では瓦礫もなく、きれいな砂が広がる様子を確認し、漁業関係者を喜ばせた。
調査で一定の成果を上げられたことについて、浦教授は「必要なのは周辺準備と段取り」と説明する。どのような装置を使って何を調べるのかを明確にしないと、現場へ行っても何もできなかったという事態を招きかねない。また、現地の協力も不可欠である。今回の調査も船の確保や調査地点とルートの選択など、事前準備を十分に整えてから実施した。「成果を出すためには、ロボットをどうやって動かすかが大切なのでは」と浦教授は話す。
昨年、日本中がその行方に胸を躍らせていたのが小惑星探査機「はやぶさ」の帰還。新型イオンエンジンや自律制御システムなどの新技術を搭載し、小惑星「イトカワ」表面でのサンプルの採取に成功した。システム障害や燃料漏れなどのトラブルに何度も遭いながらも危機を回避し、任務を完了した姿は記憶に新しい。
地球からの遠隔制御と自律制御のハイブリッド制御により未知の環境下でミッションを達成した、はやぶさもロボットの1つに位置づけられる。宇宙では、一度打ち上げたら修理やメンテナンスができないため、事前のシナリオ(制御プログラムなどを含む)づくりがカギとなる。ゆえに、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の川口淳一郎教授は「トラブルを想定した対策を何重にも施す」と話す。予算規模も大きいため、つくるのは1台限りであり、綿密な計画が求められる。「シナリオを作成した時点で計画の半分はできたようなもの」と続ける。
浦教授と川口教授はともに、「現場がどのような環境なのかは実際に行ってみるまでわからない」と口を揃える。行くことすら簡単ではない宇宙はもちろん、海の中も波や海底の深さ、温度、水圧など、見た目からは判断できない。
東日本大震災後に扱われたロボットの記事で、よく指摘されるのが、国産ロボットは「実戦を経験していない」こと。海外、特に軍事目的で研究開発が活発な米国では、軍の設備などを使って実績を積む例が多い。しかし、日本ではできない。未知の環境に飛び込まねばならない海中や宇宙は「常に戦場のようなもの」(浦教授)だが、国内には陸上でそれに相当する現場がないことが、災害対応ロボットなどの実績づくりを困難にしているかもしれない(同時に、運用モデルおよび体制が存在せず、研究者が腐心している点が悩ましい)。
川口教授は「宇宙ロボと災害ロボの共通点は未知の環境で動かす点」と分析する。ロボットを現場に投入するには“想定外”を想定してシナリオを作成し、その日に備えて訓練するしかない。積み上げてきたロボット技術をムダにしないためにも、実績を積むための環境を整え、未知に対応する能力を身に付けることが今後の開発には欠かせない。
【関連記事】
►JST、東日本大震災に関連する研究を支援、IRSの水中ロボ探査など採択 (2011/06/16)
►【コラム】わが国は災害対応・原発対応ロボは競争力に欠ける?(2011/05/23)
►稼働実績のあるものから使うのが妥当、産総研・比留川部門長、ロボTFシンポ (201/05/08)
►IRSなど、水中ロボによる探索活動を報告、行方不明者の発見には至らず (2011/04/25)
►【第3報】IRSと米国の合同チーム、19日から水中ロボで行方不明者を探索 (2011/04/17)
►【第6報】東電、原発建屋内の調査に米国製ロボを投入、運用実績を重視 (2011/04/17)
►【内容変更】東工大の広瀬教授、海中探索プロ提案、船の提供を呼びかけ (2011/04/13)
►【第2報】IRS、岩手県宮古市から陸前高田市の港湾内で水中探査へ (2011/04/11)
►IRS、宮城県三陸町で水中ロボットによる行方不明者の捜索へ (2011/04/06)
►東大と海上保安庁、2種類の海中ロボで高精度な海底の自動観測に成功 (2010/07/08)
►三井造船、高出力スラスタ搭載の水中ロボを海洋土木に納入、海洋調査に向け拡販 (2010/05/18)
►三井造船、2,600mの水中ケーブル搭載の水中ロボ開発、超長距離の水路点検に成功 (2009/12/08)
《トレンドウォッチ》
►原子炉建屋内での活動に向け国内対災害ロボの準備が進む! ― 10年前のデジャブではなく運営・体制づくりにつながる知見を
►「いまから実績をつくる」という事実を押さえて見守るべき ―原発建屋内への国内の対災害ロボット投入に向け


ビジネスライン














