千葉工業大学 未来ロボット技術研究センター(fuRo)で福島第一原子力発電所原子炉建屋への投入に向け調整作業がなされているレスキューロボット「Quince(クインス)」(写真)が、15日もしくは16日に福島原発に向けて移送される見通しとなりました(6月10日時点)。3月中旬から約3カ月にわたり、Quinceの改造ならびに調整作業に取り組まれてきた小柳英次fuRo副所長をはじめ研究スタッフの方々の労をねぎらうとともに、深く感謝を申し上げます。
前回のコラムと一部重複しますが、Quinceの投入に当たり気になることがあります。それは、海外製ロボットと国内製とを比較して報道される傾向にあり、例えば「真打ち登場!」といった言葉に見られるように、Quinceを国内製の代表のような扱いになっている。結果、ミッションの達成度によって両極端な評価が下されるという、危うい「空気」に支配されていることです。筆者のみならず、取材先でも同様に危惧される方に会うことがあります。
大前提として、(遠隔操作)ロボットをはじめ無人化システムを利用するおもな理由は、作業員に代わり、冷温停止に向け原子炉建屋内外の状況の把握にあります。今月4日には、1号機の原子炉建屋で1時間あたり4,000ミリシーベルト(mSv)という高い放射線量が計測されました。この数値は作業員の被曝限度量とされる250mSvの16倍にも相当し、数分間の作業でさえ困難な状況です。ロボットであれば一定時間の活動は可能で、作業員に代わっての状況の把握に役立ちます。作業員ほどの複雑かつ高度な作業は見込めないでしょうが、作業員の被曝量の低減に寄与し、ここにベネフィットがあるといえます。
原発災害が発生した3月の時点では、東京電力が仏アレバ社からのロボット提供の申出を断った際、こうしたベネフィットが取り上げられ、政府と東電の対応を批判する記事が多く見られました。そして、海外製や国内製を問わず、利用可能な無人化システム(ロボット)を適材適所で投入して冷温停止につなげるべき、という論旨が展開されていました。
ところが、国内製ロボット(災害対応ロボット)の待機状態が続く中(無人化施工は「建設ロボット」に分類され、真っ先に投入されましたが)、4月17日に米iRobot社の軍用ロボット「PackBot(パックボット)」が突如投入されたのを機に、「国内製ロボットの出番はいつあるのか?」という記事が目立ち始め、さらには「ロボット大国の威信」という言葉も多用されるようになりました。執筆した記者からすれば、ロボット技術者の奮起を促す意味合いを込めての表現と想像されますが、この頃から海外製ロボットと国内製と比較して報道されるようになったと思われます。
決して、「ロボット大国」という言葉に応えようとしているわけではないのでしょうが、QuinceはPackBotにない高い踏破性(*1)を備えることから、さながら国内製の代表のような扱いとなり、過度な取り上げ方がなされるようになっています。
*1:Quinceをめぐる報道では、読者にわかりやすく伝えるため、特徴の1つである「踏破性」がよく取り上げられています。その際、米Disaster Cityのコンクリート瓦礫を唯一踏破した事実から「世界一の踏破性」という言葉が使われていますが、これのみが一人歩きをしてしまい、上述のような空気を助長しています。田所諭IRS会長は「(冷温停止に向け)海外製と国内製とを比較することには意味がない」と前置きしたうえで、こうした説明をされていますが、この発言にはニュースバリューがなく、報道側でカットされています。特に、このような非常時における情報発信は、報道側との意識の違いと理解したうえでなされるべきであり、周到さが求められます。
Quinceは踏破性に優れますが、時々刻々と変化する福島原発の状況および、それに伴う東電側のニーズに対応できる適応力も買われての投入と、筆者は判断しています。6月8日公開のQuinceが、それを示しているといえるでしょう。
無人化システムの投入に向け検討してきたリモートコントロール化プロジェクトチーム(リモコンPT)では、海外製・国内製を問わず、投入可能なシステム(図)を慎重に議論し、東電側には運用方法も含め、適材適所で導入推奨を行いました。無人化施工建機やPackBot、米QinetiQ社の「TALAN(タロン)」などの投入は、それを参考した結果ですが、稼働実績を重視して導入推奨を行った以外は、どのような議論がなされたのか、また、東電側ではどのような意思決定を行ったのかといった内容はコンフィデンシャル(機密)として開示されていません。
図 東京大学の淺間一教授の講演資料「対災害ロボティクス・タスクフォースの活動」より(5月2日)。図には掲載されていないが、東芝が開発した作業監視支援ロボット「SMERT-M」を急遽改造し、5月22日にはガンマカメラを搭載して建屋外の環境計測を行っている。また、日本原子力研究開発機構(JAEA)が開発、改造した線量計測ロボット「JAEA-1号」と情報収集ロボット「同2号」も投入に向けた準備が進められている(詳細はこちら)。
また4月4日には、経済産業省 製造産業局 産業機械課による主導で国内の災害対応ロボットと開発者を産総研(つくば市)に集め、東電側へのプレゼンがなされています。しかし、ここでの議論も非公開とされており、参加したロボットの中から、どのような経緯でQuinceが選択されたのかも不明です。唯一開示された内容は、参加したテムザックが密着取材をしていた「ガイアの夜明け」取材班に手渡したビデオ映像が番組内で流れるという、実に中途半端なものです(漏洩と表現する方が正しいですが)。特に、この国難に役立ちたいという高いモチベーションで参加された開発者からすれば腑に落ちないことでしょう。
このように必要な情報開示がなされない中でのPackBotの投入は唐突な印象を与えてしまい、適材適所でロボットが選択・投入されているという事実が脇に追いやられ、「ロボット大国」というフレーズとともに、海外製ロボットと国内製とが比較されるようになり、結果、過度な注目を浴びたり期待を背負ったりしているのではないでしょうか。そして、ミッションの達成度に応じて両極端な評価が下される「空気」を創出しているように思われます。
したがって、適材適所で国内外のロボットが投入されている事実を思い出してもらい、こうした「空気」を除去し、かつ冷静にQuinceの活動を見つめるために、リモコンPTでの検討内容および東電側における選択は、可能な限り開示されるべきです。政府と経産省は主体的に、それを行うべきです。確かに、原発の詳細な内部構造の公開など、テロの標的になるような情報開示は避けなければなりませんが、無人化システムの選択にかかる意思決定の開示に何ら問題があるとは思えません(*2)。
*2:PackBotの投入を巡っては、ヒラリー・クリントン国務長官の来日に間に合わせるという政治判断にもとづくものとの声があがっており、また、Quinceの投入を巡っては、(わかりやすい)国内製ロボットを投入しなければならないという行政側の意思が働いているとの声があがっています。これらを邪推とするのであれば、排除するためにも開示されるのが望ましいです。
Quinceをはじめ遠隔操作式の災害対応ロボットは、操縦者と一体なることで100%の機能を発揮するよう設計されています。東電の作業員の方は必死に習得に努められているのでしょうが、短期間の操作訓練では、千葉工大の学生さんレベルの習熟度は望ません。ミッションの達成には慎重な操作と、場合によっては、例えば狭い階段でスタックする可能性がある状況下であれば引き返すという(勇気ある)判断力が求められます。そして、このように引き返すという判断に対し、きちんと「正しい」と声を発する「空気」が必要です。が、いまの海外製ロボットと国内製とが比較された結果として、創出された「空気」は、その妨げになるかもしれません。このとき最大の不利益をこうむるのは、誰になるでしょうか?(もちろん、国民も含まれます)
繰り返しになりますが、政府と経産省はQuinceを取り巻く重い「空気」を認識して情報の開示に努め、現段階では無意味な比較論を排除し、冷静にQuinceのミッションを見つめる「空気」の創出につなげるべきと考えます。 (ロボナブル編集部)
【過去のコラム】
►事前に想定される懸念事項の開示・共有を、クインスの投入にあたり (2011/05/31)
►わが国は災害対応・原発対応ロボは競争力に欠ける?(2011/05/23)


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