すでに紹介しました通り、千葉工業大学 未来ロボット技術研究センター(fuRo)内で福島第一原子力発電所原子炉建屋への投入に向け準備を進められているレスキューロボット「Quince(クインス)」が近日中に投入される見通しとなっています。当初は、先週の26日に福島原発に向けて搬送される予定でしたが、関係者(fuRoの人ではないです)によると追加機能の搭載に伴う改造や調整作業に時間を要し、投入時期が若干延びたようです。
その方から伺う限りでは、東電側の要望により相当な改造がなされているようで、サブクローラも変更されたようです。
Quinceのミッションでは、40度の傾斜のある階段を登って原発建屋の上層階にアクセスする予定になっています。動画で示した国際レスキューシステム研究機構(IRS)神戸ラボ内のNIST/ASTM(米国標準技術研究所/米国材料試験協会)試験評価フィールドで同様の傾斜を難なく昇降しているように、現行システムであれば難なく対応可能です。ところが、建屋内の階段は各段のアールが大きいうえ、高い湿度により滑りやすい状態になっています。加えて、追加装備により重心位置が高くなり、サブクローラが階段をうまく捉えられないことが懸念され、それに対応すべく、サブクローラのグリップ力を増すための変更をするとともに、メインクローラと同期制御することで駆動力を増す改良が実施されたそうです(その方から伺う限りはの推測です)。
これは改造例の1つに過ぎませんが、東電の要求に応えようと奮闘されている小柳英次fuRo副所長をはじめとする研究スタッフの方のご苦労は想像に難くありません。大幅な変更に伴い、FMEAやFTAをゼロベースで実施し、Quinceのシステムとしての信頼性の確保に日夜取り組まれていることでしょう。これほどの大幅な改造を実施すると、企業では万全の対策を期すために、「最低でも1年以上は製品化を延期する」という判断がなされるのでしょうが、これを数日~10日前後で対応して投入に備えるのですから、研究スタッフの方々にはただただ頭が下がるばかりです。
ただ、どうしても懸念されるのは、すでに書きました通りQuinceのシステムとしての信頼性が低下していることです。
そもそも、無人化システムを推奨するリモートコントロール化プロジェクトチームでは、「まずは放射線下で稼働実績のあるシステムを、なければ通常環境下で稼働実績のあるシステムを投入する」という基本方針を掲げており、投入を判断する東電の現場スタッフは無人化施工や海外製ロボットから投入を始めました。妥当な判断です。それゆえに、実践経験のないQuince(実証実験は十分なされていますが)を大幅な改造して投入するのは、それに相反する行為であり、改造に伴い様々なリスク(システムへの信頼性という意味)が生じているのではと危惧されます。しかも、Quinceには米iRobot社の「PackBot(パックボット)」 とは比較にはならない、複雑かつ高度なミッションが課せられています。
そこで、福島原発に搬送される前に実施されている記者発表会では、ミッションの達成に向けた改造の内容および、それに伴い生じたリスク(システムへの信頼性という意味)とその技術的な対応策の紹介に加え、それでも残った懸念事項(「残留リスク」と表現しておきます)も開示し、Quinceの活動を見守る国民との共有化を図ってほしいです。もちろん共有化の要となるのは、われわれマスコミであり、その役割を果たすつもりです。
これまで千葉工大と東電が共同で、生じたリスクに対し現在の最高の技術と十分な訓練で対応を図ってこられたと想像されますが、それでも、これほどの大改造を短期間のうちに実施したわけですから、どうしても懸念事項、つまり残留リスク(繰り返しますが、システムへの信頼性という意味です)があるはずです。われわれは100%のミッションクリアを期待しており、それを達成すべく日夜努力されているのでしょうが、やはりハードルは高いです。それ以前に科学技術は万能の神ではありませんですし。したがって(Quinceが研究レベルのシステムであることに加え)これを事前に理解しておくことが大切で、結果、国民は冷静かつ科学的にQuinceの活動を見守り、今回のシステムの改造およびミッションを正しく評価できるはずです。もちろん、大前提としてQuinceの投入によるベネフィットと投入しないことによるリスク(ここでは本来の危険という意味です)を改めて発信しておくことも大切です。
機械安全における3ステップメソッドの実施や、残留リスクの情報提示およびユーザーにリスクの低減の責任を委ねる行為とは話が違いますが、今回、Quinceが担うミッションがわれわれ国民の安心・安全につながる公益性が高いものであることを考えると、そうあるべきと筆者は考えます。
ひいては、今回のような電力事業者と享受者である国民双方における「原発安全神話」の安易な受け入れではなく、リスクコミュニケーションを図り、互いにリスクを共有しコントロールしていける社会への一歩になるとも考えます。
(ロボナブル編集部)
【前回のコラム】
►わが国は災害対応・原発対応ロボは競争力に欠ける? (2011/05/23)


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