ロボナブル 2010年第1弾特集
失敗するロボットビジネス!成功するロボットビジネス!【増補改訂版】
失敗から学ぶ:非産業分野に向けたビジネス提案の押さえどころ
人とロボットが融合したサービスプロセスを再設計

 これまで、過去の開発例をもとに失敗パターンを分類し、その問題点を解説した。それぞれの要点は、図1のようにまとめられる。「プロローグ」でも触れたが、つくりたいロボットや保有しているRTをそのまま開発コンセプトにするきらいがあり、結果、このようなパターンに陥っていると考えられる。また、この傾向はコンセプト構築をはじめとするビジネスモデルのデザインが”後付け”になっている主因ともいえる。

図1 図1 ロボットビジネスに見られる失敗パターンと失敗から学ぶべき要点

 以上の内容を踏まえ、いかにしてロボットビジネスを構想すべきだろうか? 結論から言えば、
【1】人とサービスロボットあるいはRTを最適なバランスで組み合わせた形態によるサービスの提供を目指すこと
【2】一連のサービスプロセス全体を洗い出し、それを再設計する(リエンジニアリングを行う)というアプローチをとること

とまとめられる。

 「失敗パターン2」で、フロントステージを意識することの重要性を述べた。が、そこでは高度な能力が求められるうえ、人が行っても能力の差により創出される付加価値には大きな差が生じる。数年前に「カリスマ店員」という言葉が流行ったのは、その一例だろう。したがって、サービスロボット/RTが単独で、サービスプロセスの中で高度な役割を果たすようになるまでには、まだまだ時間を要する。さらにいえば、人に直接応対して何らかのサービス提供を行うという、サービス要員にとって代わろうとするような提案は、サービスの特性(*1)を踏まえると相当無理がある。

*1:フロントステージにおけるサービスでは、提供する相手や空間、扱う商材によってレベルは異なるが、わが国特有の「もてなし」サービスが認められる。「もてなし」サービスは伝統茶道に見られる、「主客一体」による顧客価値の「共創」がなされているとされ、顧客のTPO(Time Place and Occasion)を判断してインタラクティブに対応できる「ふるまい」が求められる。したがって、ロボットが担うのは無理であり、それ以前に、担わせるべきと判断し難い(ロボット/RTをアトラクションとして利用する場合は別だが)。詳しくは、(「RT応用による顧客価値の共創」―センサ技術を活用した真の顧客価値の共創に向けた提案―)を参照してほしい。

 しかし、サービスプロセス全体を見わたして、人の方が優れているところ(人の能力が発揮されるところ)は人が行い、ロボット/RTが担うべきところはこれらが担うという、人とロボット/RTが組み合わされたシステムを前提に考えれば、現段階でも、ロボット/RTをフロントステージ(厳密にはフロントステージ支援)に導入していくことは可能になる。
 また、顧客に価値提供を行う人を中心にサービスプロセスを考えた場合、一体型ハードウエアにまとめ上げるのではなく各種ロボット/RTを空間内に分散配置したり、一連のサービスプロセスの中に組み込んだりしたシステムの方が、そのプロセスの中で効果的に機能しやすい(*2)。

*2:現在、あらゆる製品がコンピュータ機能を持ち、ネットワークに接続して「サービス」を受けるためのツールになっている。これに伴い、現在の製品およびシステム開発では、それが持つ機能であるソフトウエアと、人とのインタラクション、複数の製品やシステムの連携によって提供されるサービスを統合して考えることが求められている。さらには、製品を使っているときの快適さや使い終わったあとの余韻、サービスを受けているときの楽しさなど、いわゆる「経験価値」を意識した開発も要求されている。こうした流れを踏まえると、一体型ハードウエアにまとめる方法は馴染まないように思われる。

 加えて、「失敗パターン3」にて「事業創出の障害となる課題と原因(サービス提供事業者の言い分)」で紹介した「ロボット・RTメーカーからの提案の妥当性や、導入後の発展のさせ方がわからない」という課題にも対応できる。このような柔軟なシステム構成であれば、彼ら自身で現場で調整したり変更したりすることができるからである。また同時に、システムインテグレートという形態でのシステム提供となり、「マスマーケティング/マスプロダクションの製品事業モデルに馴染まない」という課題にも対応できる。
 ゆえに、上述の2点がポイントになるわけである。

 「失敗パターン2」で紹介したアサンテでは、ロボット/RTを、人の能力を拡張するための道具として捉え、作業者を中心に各種ロボット/RTからなるシステム構成を構想し、同時に、プロセスの再設計することでサービス品質の向上、高効率化というサービスイノベーションに取り組もうとしている(図2)。フロントステージへの意識に加え、人中心にシステムおよびサービスプロセスを構想している点でも興味深い(*3)。

*3:同社の取り組みは知見に富むが、「サービスロボット市場創出支援事業」(2006年~2007年度)終了後、十分な開発資金を投じていない。これが原因でRTソリューションを中心とした開発グループが解消され、同社の開発はさほど進展していない。

図2 図2 サービスロボットビジネスの構想の仕方の具体例(アサンテ)
競争優位につながるロボットの特徴を抽出する

 また、ロボットビジネスを構想していく際、下の図3に示すように、複数の観点からアプローチしていくことが求められる。これらは、どのようなビジネスでも要求されることである。加えて、ロボットビジネスではロボット/RTの特徴を適切に捉え、これにより顧客へのサービス提供が従来手法よりも優れ、競争優位になるのかも明瞭に提示しなければならない。

 ここでポイントになるのはロボット/RTの特徴(=機能)の捉え方である。「ロボット」や「RT」という言葉自体の定義があまりにも曖昧であり、そのために顧客などとの議論が噛み合わないことが多い。にもかかわらず、過大な期待がされやすいからである。
 ユーザー側(サービス事業者)から実装したい機能が無尽蔵にあがる反面、システムとしての本質がきちんと議論されないまま開発が進展してしまうことが間々ある。例えるなら、“通話機能のない携帯電話”に様々なアプリケーションを実装しようとする、どこに向かうのかが不明な開発である。それを防ぐのが競争優位につながるロボット/RTの特徴であり、それが提示するシステムの本質となる(*4)。また、ここに自社の保有技術や得意技術を込めることができる。

*4:サービス事業者がイメージするロボットには、ASIMOに代表されるヒューマノイドがあがることが多い。過大な期待が寄せられるが、ひとたび現状の技術レベルを知ると「リアリティがない」とし、ロボットやRTの利用を消極的にさせることが多い。ロボットはシステム全体として機能することで能力を発揮するが、サービス事業者と議論するためには、ロボットを前面に出さず、サービス提供を可能にする機能ベースで議論をした方がよい。また、これはモノづくりの基本でもある。

図3 図4
図3 ロボットビジネスを構想する際のアプローチ例。消耗品やサプライ、アプリケーションのソフトの追加は、これは「後で儲ける方法」のことを指す。例えば、パソコンのセキュリティソフトは3カ月間無料で使用できるが、使っているうちに必須のものとなり購入に至る。そうした仕組みのことを指す。(2008年4月特集の図を再掲。図提供:石黒周氏)。 図4 次世代ロボットの特徴の捉え方の一例(2008年4月特集の図を再掲。図提供:石黒周氏)。

 その捉え方の一例として、ロボットビジネス推進協議会の石黒周幹事が示す「身体性・表情」「自動化」「ハイパーヒューマン」「キャラクター性」「エージェント」というキーワードによる捉え方を紹介する(図4)。

 例えば、「身体性・表情」を機能的特徴としてサービスに生かすとすれば、ロボットの腕や指に適した作業などが考えられる。情動的特徴として考えれば、ノンバーバル(非言語)コミュニケーションによる意思疎通につなげることができる。
 また、「自動化」という特徴からは、人の行う単純な作業の高効率かつ高信頼な代替手段として組み込むことが、「ハイパーヒューマン」(大阪大学の金子真教授が提唱)という特徴からは、人の能力を超えた機能の実現が考えられる。ハイパーヒューマンとは、具体的には人の動体視力を超えた超高速度ビジョンセンサによる高効率な検査や診断などである。

 「キャラクター性」は情動的特徴のみとなるが、その特徴からペットや玩具、コンテンツビジネスなどが考えられる。そして、「エージェント」「インターフェース」という特徴は、製品やサービスの中の機能的、情動的いずれかの役割のエージェントあるいはインターフェースとしてロボットを位置づけることを意味している。

サービスロボ開発では手戻りは必然

 ここまではビジネス構想を中心に述べたが、実行に移行してからの留意点にも触れておきたい。まずは、サービス業に向けた提案では、最初からつくり込まないことである。

 サービス業では、新たなプロセスやシステムを現場に適用する際、「観察」「分析」「設計」「適用」からなる「最適設計ループ」を展開したうえでなされる。これは、サービス現場でのサービス受容側と提供側の行動を「観察」し、それを「分析」して得られる客観的根拠にもとづいて、あるべきサービスモデルを再「設計」し、それを現場に「適用」するというものである。このループを複数回展開することではじめて、サービス現場に適用することができる。ロボット/RTを組み込んだサービスプロセスを適用する場合も同様に、最適設計ループが展開されることになる。

図5 図5 最適設計ループの概要。このループを複数回展開することで新たなサービスプロセスが現場に適用される。必然的にシステムの改良や変更を伴うので、最初からロボット/RTをつくり込まない方がよい。

 最適設計ループの初期段階では、提示するロボット/RTは仮設の域を出ないものとなる。最初からつくり込み過ぎてしまうと、その後の修正や改良に時間もコストもかかる。ゆえに初期段階では、世界最高のデザイン・ファームとして知られる米IDEOがいう「ダーティ・プロトタイプ」のように、簡素な試作を提示し、それを順次ブラッシュアップしていくアプローチ方がよい。

 また、ロボット開発では合意した仕様にもとづいた試作機を提示しても、顧客側から「イメージが違う!」と言われることが多い。実際、ロボテクシステムプロデューサの1人として、多くの開発経験を持つ知能技術の大津良司社長は、そう指摘する。既述の通り、ロボット/RTのイメージが曖昧であるために起きるロボット開発ならではの現象(*5)だが、多かれ少なかれ手戻りすることを想定し、最初からつくり込まない方が賢明である。

*5:「川上川下ネットワーク構築支援事業」をはじめ、ロボット関連のビジネスマッチングが開催されるが、その後、共同開発につながった例は少ない。同様にロボット/RTのイメージが曖昧だからであり、また、自動車産業などのように産業として成立していないために、自社製品がシステムとしてのロボット/RTの中でどのように利用されるのかがまったくイメージできていないことにも原因がある。根気強く交渉しないとニーズとシーズのマッチングは難しく、それを可能にするような方策が求められている。

サービス事業者との関係性を整理しておくべき

  もう1つは、すでにサービス事業者と連携していることを前提に話しをすると、お互いの関係性も整理しておくことが求められる。ロボット/RT開発企業からすれば、ある特定のサービス事業者にロボットを導入しただけでは利益は小さいので外販をしたい。一方、サービス事業者にとっては、競争優位であり自社のノウハウも込められているシステムを同業他社に持ち出されることは死活問題につながりかねない。

 そのような場合、例えば、次のような契約を考えておくべきである。
 1つは、数年間は他のサービス事業者には販売しない。つまり、共同開発者であるサービス事業者に、利用に関する優先権を与えるという契約。
 2つ目は、他のサービス事業者に販売するが、販売利益を共同開発者であるサービス事業者に利益の一部を還元するという契約。
 そして3つ目は、他のサービス事業者には販売しない代わりに、新たなサービスで得られた収益を次の開発資金として還元するという利益を共有する契約である。
 このように、お互いにWin-Winの関係になるような仕掛けを組み込んでおくべきである。

 「失敗パターン2」で紹介したパナソニック電工の「HOSPI-AL」は導入には成功したが、事業として成功したとは言い難い。発注側のビーエムエル(BML)が提示した仕様にもとづいて開発・納品した分の収益しか上げておらず、新規開発(*6)に投じた資金を回収できていないからである。

*6:具体的には適時、最適なロボットに指令を与えて検体を運ばせる「最適配車機能」や、ロボットの集中回避、交錯の防止、狭所への侵入を1台に制限する「交通整理機能」からなる「群制御技術」。検体の受け渡しを確実に行うための「オートローダー機能」。24時間連続稼働を可能にする「自動充電システム」である。また、カルテなどを搬送するHOSPIとは使用環境が異なるため、センサ類の配置も大幅に変更している。当時、開発を担当し、現在パナソニック 生産革新本部 ロボット事業推進センターに移籍している北野幸彦氏は、「(このように)顧客ごとにカスタマイズを行うのは、ビジネスとしては好ましい姿ではない」とコメントしていた。

 もともと、HOSPI-ALを利用したフレキシブルな搬送ラインはBMLが構想した「次世代ラボ」(「オートメーション化され、かつその時代にあったフレキシブルなラインを構築できるラボ」と説明されている)の一部であり、パナソニック電工側から何らかの新規提案を行うのは難しい。
 が、HOSPI-ALの利用によりBMLが抱えていた経営リスク(検査結果の納品の遅延)が大幅に低減され、かつ先進的かつ独創的な血液検体サービスを提供する企業として広く知られるところとなった。かといって、BMLのサービスプロセスに合わせて開発したHOSPI-ALを同業他社のサービスプロセスにそのまま適用するのは難しいだろうし、それ以前に、同業他社が同じシステムを使って競争優位になると判断するとは考えにくい。

 結果論かも知れないが、上述の3つ目の方法を契約に盛り込んでおけば、次期製品の開発資金を多少は獲得できたのではないだろうか(*7)。
 また、サービスロボット/RTはマスマーケティング・マスプロダクションに馴染まないという声を踏まえると、こうした契約は重要性を増すと言える。

*7:これに関しては、「納品段階でようやく営業担当と交渉することになった。技術担当にこのような交渉術を求めるのは厳しいだろう」と、BMLの担当者は振り返っていた。

結局は、最良のパートナーを獲得できるかどうか

 ロボットビジネスにおける留意点をいろいろ述べてきたが、最も重要なのは、提案したサービス事業者が最良のビジネスパートナーであるか否かである。つまり、ロボット/RTの導入を起点にプロセス革新を図る強い意志を持っているサービス事業者であるかである。

 例えばアサンテは、すでに紹介したように「サービスロボット市場創出支援事業」を起点に、ロボット/RTを導入したサービスプロセスへと刷新し、次世代シロアリ防除サービス業へと変貌すること表明した。
もともと、この構想は業界第1位のサニックスに提示されたが、同社はその必要性を理解しなかったのに対し、アサンテは人材教育をはじめとする企業努力に加え、ロボット/RTの活用によるプロセス革新によりサニックスをキャッチアップすることに関心を示した。結果、同事業での採択を機に開発に取り組んだ。しかし、同事業終了後は「事実上、開発投資を停止」(RTソリューション)しており、目立った進展が見られない。

 もちろん、2008年秋以降の世界同時不況など経済情勢の急激な変化もあるが、RTソリューションでは「そもそも開発投資を止めるということは、実需(ウォンツではなくニーズ)がないから」と見ている。つまり、ここ数年の間は、開発したシステムがあってもなくてもよいという判断を、アサンテ側がしているということである。
 アサンテ側としては、経営上問題はないだろうが、開発企業や、それを統率するRTソリューションとしては辛い話しであり、同社がロボット関連のプロジェクトから身を引いた一因になっている(*8)。

 同事業では計8つのプロジェクトのうち導入に至ったのは、富士重工業が大和ハウスなどに向けて提案した清掃ロボットと、ツムラに提案した容器交換ロボットの2例のみ。継続的に開発しているのは、大和ハウスの住宅床下点検ロボットぐらいである。そのほかは「追加調査」にて、同事業終了後の実用化の見通しを「3~5年以内」「時期は特に定めていない」と回答している。上述のRTソリューションの見方のように、サービス事業者側が実需を感じているのかどうかは極めて不透明だ(*9)。パナソニック電工と連携したBMLに至っては、「失敗パターン2」で紹介した理由で導入決定されなかったが、それ以前に、「(パナソニック電工による)同事業の申請に当たり名前を貸しただけ・・・」というコメントもしている。相当なボタンの掛け違いがあったようだ。

 「ニーズを聞く相手を見極める」で、予算措置を講じられる相手を絡めたうえで聞き出すことの重要性を述べたが、さらに踏み込んで、きちんと講じる相手かどうかを見極めないと行き場のない「ハイテクマシン」をつくることになってしまう。そして、最良のビジネスパートナーの獲得に寄与するのが、これまで紹介したビジネス構想である。

*8:RTソリューションの起業には、ロボットビジネス推進協議会の石黒周幹事も関わっている。(開発力がなくても)提案力やマネジメント力を生かして開発プロジェクトの中核を担えることを実証する意味合いを込めての起業だったが、「自ら試作したりデザインをしたりする能力や熱意がなかったために、ロボット関連事業を継続できなかった」と、同社の玉井竜士社長は振り返る。

*9:一方で、開発側の開発スピードがあまりにも遅いことにも原因がある。

 本特集では、過去のサービスロボット事業で見られる失敗例をパターンごとに分析し、失敗を回避する方策を紹介した。成功例が少ないために、後ろ向きな話題が多くなってしまったが、このような先行者の取り組みから得られた知見を整理し、同じ轍を踏まないことが、徐々にではあるが、サービスロボット市場の立ち上がりにつながると考える。