ロボナブル 2010年第1弾特集
失敗するロボットビジネス!成功するロボットビジネス!【増補改訂版】
失敗パターン2 ターゲットが肉体労働・単純労働に集中(+フロントステージ支援の重要性)

 「失敗パターン1」と並んで多く見られるのが、提案するターゲットが肉体労働・単純労働に集中することである。サービスで言えば、フロントステージ(フロントオフィス)ではなく、それを支援するバックステージ(バックオフィス)に位置づけられる作業である。

 前者は、顧客との関係を構築する役割を担うのに対し、後者は、顧客との接点がないため作業をルーチン化しやすい。製造業の生産現場と大差がないため、作業分析を行うことで省力化、自動化あるいはロボット化できる作業を抽出できる。また、サービス事業者からすれば(サービス品質に関わる工程は別として)直接利益を生み出すところではないので、できるだけ効率化したいというニーズを抱いている。
 一見するとサービスロボット/RTを導入しやすく、ビジネスチャンスがありそうだが、そうした特徴を持つがゆえに、バックステージは「コストセンター」と化しているという現実がある。

 バックステージでの作業は、おもに時給数百円程度のアルバイトやパートが担っている。したがって、サービスロボット/RTにより彼らの労働力との置き換えを図ろうとすると必然的に、そのターゲットコストを低く設定せざるを得ない。せっかく高度なサービスロボット/RTを保有していても、彼らの時給から上限価格が設定されるため、その採用が困難になる(図1)。

 こうした問題に直面したのが、パナソニック電工が2006年度~07年度の「サービスロボット市場創出支援事業」(経済産業省)で取り組んだ、血液検体搬送への自律搬送ロボット「HOSPI(ホスピー)」の適用である。血液検体搬送ロボット「HOSPI-AL(Auto Loader)」と異なることに注意してほしい。

失敗パターン2 図1 サービスのプロセスの局部を置き換えることの問題点(ダイヘンのC-Pamを例に)
人件費とシステムの価格が不釣り合い

  まずは、2006年に導入を果たしたHOSPI-ALから説明しておく。
 同ロボットは、臨床検査サービスを手がけるビー・エム・エル(BML)の総合研究所で計15台が運用されており、血液検査検体の受け取りから自動分析装置へのセッティング、検査後の回収という一連の検体の受け渡し、その間の搬送業務を担っている。

 BMLでは以前より、血液検体の取り間違いをはじめとするヒューマンエラーの回避を目的に検査工程のオートメーション化を図っていた。が、図2のように1台の軌道台車で各ストッカに均等に検体を割り振るため検査の柔軟性に欠けるうえ、ひとたびストッカが故障すれば下流に位置する4台の血液検査装置が使用不能に陥るという問題を抱えていた。顧客となる各医療機関は、BMLより納品された検査結果をもとに診断や治療を行うため、納期の遅れは重大な経営リスクになる。その回避を図るべく導入したのがHOSPI-ALであり、導入後の検体の流れは、図3のようにフレキシブルなものへと刷新されている(詳細は2008年8月特集「フレキシブルな検査工程に改めたビー・エム・エル」を参照してほしい)。
 この業務への自律搬送ロボットの適用は成功を収めたが、同事業の開発成果については導入に至らなかった。

図2 図2 旧検査工程での血液検体の搬送イメージ。軌道台車により各ストッカに血液検体を均等に搬送する。ストッカにてラックに切り離されて搬送ライン(コンベヤ)に送り込まれ、自動分析装置に搬送、セッティングされる。各ストッカは4台の自動分析装置を管理(2008年8月特集を再掲)。
図3 図3 HOSPI-ALを利用した検査工程での血液検体の搬送イメージ。スタートストッカから2つのトレイを回収し、空いている自動分析装置に搬入、セッティング。検査が終了すると、自動分析装置からトレイを回収し、エンドストッカに搬送する。自動分析装置は独立して稼働しており、またHOSPI-ALは空いている自動分析装置に次々と搬送するため、フレキシブルな搬送が行える(2008年8月特集を再掲)。

 開発したロボットは、岡山県の榊原病院への納入実績のある病院内自律搬送ロボット「HOSPI」をベースに、1階から2階への血液検体の搬送業務への適用を狙ったものである。システムはHOSPIのほか、2台の血液検体ストッカ、自動充電装置、エレベータを操作するためのエレベータ・インターフェース(I/F)装置、全体制御を行う通信ステーションPCから構成される。

 搬送業務は、おもに次のような流れで進める。
(1)作業者が血液検体を(供給側)血液検体ストッカにセット
(2)セットを検知するとHOSPIが血液検体ストッカへと移動し、血液検体を自動で受け取る
(3)受け取り終了後、エレベータI/F装置と通信をし、HOSPI専用のエレベータモードに切り替えて2階の分析工程へと移動する
(4)分析工程に到着後、(受入側)血液検体ストッカに血液検体を引き渡し、搬送する血液検体があれば供給側の血液検体に移動し、なければ自動充電装置で充電する

 2008年1月~3月にかけて80回以上の実証実験を実施し、1mmの位置決め精度での血液検体の受け渡しや、電子タグを用いた絶対位置認識などに加え、人が多数往来する環境下での安全な搬送が行えることを確認した。同事業では、経産省よりユーザー企業に対し導入推奨がなされていたが、それでも導入されることはなかった。

 パナソニック電工の説明では、「2008年秋以降の世界的な経済危機による設備投資の縮減によるもの」とされたが、BML側からは「安全性確保に関する技術的課題に加え、導入コストが高かったから」と説明されている。搭載するバッテリの価格を含め全体システムが相当の価格になったようだが、そもそも1階から2階への血液検体の搬送業務はアルバイトが担っており、彼らの人件費と比較すると導入コストが釣り合わなかった。ここに導入に至らなかった主因がある。
 ただそれ以前に、HOSPI-ALを適用した工程のように、経営課題に直結するようなシステム提案ではなかったことに、こうした結果を招いた原因があると言えるだろう。

フロントステージを意識した取り組みを

 フロントステージへのサービスロボット/RTの適用は技術的ハードルが高く、導入当初は、バックステージからの導入でもよい。しかしながら、顧客への価値の創出と提供を行う場である、フロントステージにシフト(*)していくことを視野に入れた提案ができなければ(ただし、経営課題に直結する提案であればバックステージであっても問われない)、サービス事業者もロボット開発メーカーも利益を得られない。上述のような物別れに終わってしまう。

 このようなフロントステージおよびバックステージの両方を意識した代表例に、アサンテのシロアリ防除サービスに向けた開発がある。
 シロアリ防除サービスは、一部悪徳業者の詐欺行為により、業界全体が好意的に見られていない。そのために、成約に至る確率が極めて低い。ひどい場合は、数百回もの営業をかけて1件程度の確率とも言われている。

 そこで、アサンテでは調査・提案の時点で、床下点検ロボットと連動した映像通信システムを使用することにより、被害状況を顧客や、遠隔地に住む顧客の家族にも映像配信をしたり、本部にいる専門家とやり取りしたりすることで、説得力のある営業を始めようとしている(*)。顧客の安心感や信頼感を獲得して、営業効率の向上に結び付けることを目指している(4)。

図4 図4 ロントステージとバックステージを意識した、アサンテのシロアリ防除ロボット

 なお、アサンテの取り組みは「サービスロボット市場創出支援事業」を機に10年がかりで達成するとしており、表立った成果はまだない。また、RTソリューションを中心とする開発体制を敷いていたが、同社はすでにロボット関連事業から撤退しており、担当していたプロジェクトマネジメントなどはアサンテに移譲されている。アサンテでは現在、開発体制の見直しを行っている。なお、技術的な課題については、2008年8月特集「次世代シロアリ防除サービス業を目指すアサンテ」を参照してほしい。

*:上述のアサンテは、サービス工学の視点で見れば、厳密にはフロントステージではなく、それを支援するバックステージに分類される。なぜなら、シロアリ防除ロボットが捉えた映像をもとに、営業スタッフや技術スタッフが説明をしたり、施工をしたりするからである。
 ただ、ここで重要なのはフロントステージかバックステージかではなく、フロントステージを意識した提案になっているかであり、また、顧客との関係性を構築するフロントステージは、むしろロボットではなく人間が担うべきと考える。ここでは、状況に合わせた臨機応変な対応に加え、顧客をオープンにさせるような「よそおい」や「ふるまい」が要求されるからで、その支援を果たすサービスロボットやRTを提案する方が効果的であると判断される。この議論は次回特集にて行う。

【失敗パターン3:ハードウエア一体型にまとめる(+システムインテグレートになる背景)に続く】

■関連サイト
ロボナブル 2008年 8月特集
「先進事例に見る サービスロボットによるプロセス革新」
-サービス事業者の取り組みから学ぶ開発の押さえどころ-
次世代シロアリ防除サービス業を目指すアサンテ
http://www.robonable.jp/monthly/2008_08/index.html#p001

フレキシブルな検査工程に改めたビー・エム・エル
http://www.robonable.jp/monthly/2008_08/index.html#p002