ロボナブル 2009年 3~8月特集
今年期待のロボットベンチャー&ロボットビジネス2009
PART3
長年にわたるロボット開発を経て飛躍の年を迎える
1.テムザック:ベーダ国際ロボット開発センター開設
2.フィグラ:多目的清掃ロボットの量産、リース販売へ(11月以降に掲載)

ベーダ国際ロボット開発センターの開設により、国内外の研究機関との連携強化を果たしたテムザック
多目的清掃ロボット「F.ROBO」の量産、リース販売を開始するフィグラ

 テムザックは、ロボット研究室を別会社とする以前のテムス社の頃からロボット開発に取り組んでおり、1993年には初めての開発成果となる、受付案内ロボット「テムザック1号機」を発表している。またフィグラは、ミノルタ(現コニカミノルタホールディングス)で自律移動技術の研究に携わっていた技術者を迎え入れたから取り組んでいるが、ミノルタでの基礎研究は1991年頃から始めている。両社ともに、20年近くにもわたりロボット開発および事業に携わっている。
 テムス社本業の収益の圧迫による別会社化や、ミノルタのる方針転換で開発中止に追い込まれるといった数々の苦難に遭いながらも、2009年は冒頭のようなかたちで、新たな段階に移行しようとしている。「PART3」では、これらの近況を紹介する。
 なお、フィグラの状況については現在、設計の見直しなどに取り組んでおり、秋以降に上市を予定してることから11月以降に改めて報告する。自律移動型多目的ロボット「F.ROBO」シリーズとしての展開を予定しており、清掃ロボット「同CLEAN」、警備ロボット「同SECURITY」、コミュニケーションロボット「同IT-CS」などの開発を進めている。同社の活動実績は、以下を参照してほしい。

数年の構想を経て設立に至る

 テムザックは5月25日、旧宗像市役所玄海庁舎(*1)に移設した同社敷地内に「ベーダ国際ロボット開発センター」を開設した。メンバーは、早稲田大学の高西研究室をはじめロボット工学および医療・生命体工学を専門とする国内外の11の研究機関から構成され(*2)、各研究機関の分室を設置することを予定している。理事長は、九州大学大学院医学研究院の橋爪誠教授が務める。
 企業や行政より医療・介護、生活支援分野のロボットおよびRT(Robot Technology)応用製品の開発を受託開発し、事業化および市場化を目指す。

*1:旧宗像市役所玄海庁舎は、医療法人財団池友会が玄海ヘリクリニック、救急搬送用のヘリコプター離着陸基地として利用しており、利用していない部分を借り受けるかたちで設置している。

*2:構成メンバーは以下の通り。九州大学大学院医学研究院 橋爪誠 教授、早稲田大学理工学術院 高西淳夫 教授、システム・バイオロジー研究機構 北野宏明 所長、フラウンホーファー研究機構IAIS研究所 トーマス・クリスタラー 所長、聖アンナ大学院大学 パオロ・ダリオ 教授、金沢工業大学 南戸秀仁 教授、京都大学大学院 横小路泰義 准教授、九州工業大学大学院 相良慎一 准教授、同大学大学院 石井和男 准教授、同大学大学院 宮本弘之 准教授、テムザック。

 同センターの開設は、テムザックの福岡県宗像市への移転および昨年秋以降の経済危機を契機に実現した。
 福岡県では90年代以降、自動車と半導体を軸に産業振興を図ってきた。しかし、昨年秋以降の経済危機により、いずれも不振に陥っている。ロボットは自動車と同様インテグレートを伴う製品であり、地元のモノづくり企業が参入できる可能性が高く、雇用創出といった波及効果が期待される。また、今年2月に公表した「新製品・新市場・雇用創出16プロジェクト 福岡ニューディール」にて、重点政策の1つとして「医療・介護・生活支援ロボットの開発」が明記され、今年に入り、福岡県の後押しのもと(現時点では、県側より具体的な資金援助は行われていない)開設に向けた動きが加速した。
 同センターの構想自体は、テムザック社内では数年前より抱いていたとのことで、「今年に入ってにわかに、福岡ニューディールを含め、県側と何度か打ち合わせをする機会があった」と、高本陽一社長は明かす。突如開設された印象があるが、同社にとっては、念願叶っての開設というのが正直な感想のようだ。

 同センターでは、テムザックが窓口として、企業や官公庁より医療・介護、生活支援分野のロボットおよびRT応用製品の開発を受託する(図1)。また、構成する研究機関それぞれが研究開発テーマを持ち寄り、事業化および市場化に向けたプロジェクトを推進する。テムザックが保有するユーザーや事業パートナーなどとの提携や、旧宗像市役所玄海庁舎跡という広大な敷地と建物を利用した実証実験の実施などを通じて進めていく。そのほか、地元住民を対象としたロボットの一般公開や、講習会、国際交流なども実施することも予定している(*3)。

*3:大阪市では梅田北ヤードにおける「ナレッジ・キャピタル」の中心的な施設といて次世代ロボット産業創出拠点「RobotCityRoRE(ロボシティコア)」の設置を予定している。(1)ロボットテクノロジーにおける世界最高レベルの研究開発・情報発信拠点、(2)最先端のロボットテクノロジーを楽しみながら体験でできるエデュテイメント拠点、(3)研究者間のコミュニケーションを促し、革新的なビジネスや商品を誘発する交流拠点となることを目指している。同センターは、これに相当する施設をひと足早く開設したと言えるかもしれない。
ベーダ国際ロボット開発センターの活動体制。テムザックが窓口として、企業や官公庁より医療・介護、生活支援分野のロボットおよびRT応用製品の開発を受託する。また、テムザックが保有するユーザーや事業パートナーなどとの提携や、実証実験の実施などにも取り組む。
研究室との連携強化による企業価値の向上

 今回のベーダ国際ロボット開発センターの開設は、テムザックの学とのつながりの強さを改めて印象づけた。同時に、テムザックの企業価値の向上につながったという見方がなされている。

 同社は、2007年9月にマイクロソフト(MS)社と、「Microsoft Robotics Studio(MSRS)」を用いたソフトウエア部品の共通化で提携し、また、2008年4月には国内ロボットメーカーとしては初めて韓国・知識経済部との間で、ロボティクス分野に関する覚書(MOU)を交わした。いずれも先方から持ち込まれた案件であり、同社が有する大学や研究機関との密接なネットワークを重視した結果と言われている。つまり、MS社は同社ネットワークを通じたMSRSの普及促進を、また、韓国・知識経済部は同社ネットワークを経由しての知的財産の獲得を、それぞれ意図しているとされ、テムザック自身もこのような見解を示している(*4)。

 現在、テムザックが公表している、おもな国内の大学および研究機関との連携は図2のようにまとめられる。秘密保持契約などがあり、すべてを公開できないとしながらも「連携している大学や研究機関は国内外を合わせて、少なくとも50以上に上る」(高本社長)という。
 これだけ学とのつながりを有するロボットメーカーはなく、ここにテムザックの企業としての魅力の1つがある。同センターの開設は、それをより一層強くしたと言える。

テムザックと提携、協力関係のある企業と大学および研究機関。過去に関係のあったものも含まれている(テムザック提供資料をもとに作成)。

 また同センターの開設は、受託開発の拡大にもつながると見られる。
 テムザックでは留守番ロボット「ROBORIOR(ロボリア)」(*5)を販売しているが、受託開発が収益のほとんどを占めている。これまでにレスキューロボットや警備ロボット、コミュニケーションロボットなど、遠隔操作技術を活用したロボットを数多く発表してきたが、介護・医療、生活支援分野に向けた開発実績は少ない。同センターでの開発は、テムザック本体の開発とは別としながらも、高本社長自身は「2009年度の活動は、ベーダでの取り組みが中心になる」ことを明かしている。この分野での受託開発が増えることは必至であり、収益の拡大につながることが期待される。

*5:ROBORIORは計3,000台を生産し、2008年時点で約1,300台を販売している。Webサイトを通じて、今も月に10台程度を販売し続けているという。これまでに留守番ロボット「番竜」のほか、RIDICをベースにした受付案内ロボットを会津中央病院やイオンモール福岡ルクルに販売してきたが、現在、正式販売しているのはROBORIORのみという。

 なお、昨年より話題になっているテムザックと韓国・知識経済部との関係に触れておくと、MOUを締結した以外は、何も進展していない。テムザックによると、共同研究や合弁会社の設立といった提案から、さらに踏み込んで同社の株式を51%以上取得したい、つまり韓国企業にしたいという考えまで提示されている。同社の遠隔操作技術の軍事への応用が感じ取られることもあり、話し合いの席にはついていないという。

まだ開発体制を整えたところ・・・

 夏頃には、ベーダ国際ロボット開発センターとして新製品の発表を予定しているが、それ以外は、かなりの部分が未定という。今後、取り組む受託開発の方向性や開発資金の調達先が未定であるばかりか、構成メンバーのうち具体的な入居者も決定していない。「今後、理事会を通じて、どのような開発案件を引き受けるのか、あるいは共同で公募プロジェクトへの応募を申請するのかなどを検討するところ」(テムザック)としており、この説明をそのまま受け止めれば、まずは開発体制を整えたというのが実情のようだ。

 最近のテムザックの連携と言えば、昨年6月に、国内の主要ロボットベンチャーとともに立ち上げた「次世代ロボット市場創造連盟」がある。販売やマーケティングなどを共同で手がける(*6)ことにより、次世代ロボット市場の創出、特に家庭用ロボットの普及促進を目的に発足したもので、月1回のペースで会合を開いている。テムザックが遠隔操作技術を、ヴイストンとゼットエムピー(ZMP)の両社に技術供与し、両社が企画した商品をビジネスデザイン研究所(BDL)が製造・販売するというスキーム(図3)にて新商品を発表することを予定していたが、「開発を進めたものの、商品化しない可能性が高い・・・」(ZMPの谷口恒社長)という。
  BDLの社内事情などもあり、このスキームが十分に機能しないこともあるが、もともと緩やかな企業連携であり、それぞれの本業を尊重し、踏み込んだ議論をしていない。そのために、発足から1年以上が経過した現在でも活動内容がいまひとつ具体化していない。

ロボット市場創造連盟の商品プロジェクトのスキーム。テムザックが遠隔操作技術を、ヴイストンとゼットエムピーの両社に技術供与し、両社が企画した商品をビジネスデザイン研究所が製造・販売するというスキームにて新商品を発表することを予定。

 同センターは、国内外の著名なロボット工学および医療・生命体工学を専門とする研究機関から構成されるうえ、その方向性は福岡県の方針に合致していることもあり、地元からの期待は非常に高い。それだけに市場創造連盟と異なり、具体的な活動内容を早々に示してくれること望む。ひと口に医療・介護・生活支援分野と言っても漠然としており、どのような案件を持ち込めばよいのかがわからないという外野の声を抑えるためにも。

*6:新宿・丸井のメンズ館に、4社共同によるロボットコーナーを設置することを予定しており、昨年6月の記者発表で「流通大手との連携によるイベントの開催やロボットの販売を行う」ことを表明していた。しかし、急激な経済情勢の変化を受け、丸井側が後ろ向きになったために実現しなかった。

■関連サイト
2009.05.25 テムザックなど国際ロボセンター開設、医療・介護、生活支援分野に向けて研究開発

2009.03.06 テムザックと西日本工業大、ロボットデザインで連携、開発中のロボのデザイン委託

2008.12.18 テムザック、独IAIS研の研究用プラットフォーム台車を販売および連携強化

2008.12.03【NRFセミナー】イタリア・ダリオ教授、話題のDustBot紹介。来月にUCWにて実証実験