上述のZMPの「音楽レコメンドサービス」と並び、今年度注目されるのが、JA三井リースが打ち出している「コマーシャリース」である。
コマーシャリースとは、同社の物件である立乗り電動二輪車「Segway(セグウェイ)」にかかるレンタル料を広告料収入で賄うことにより、ユーザー負担をゼロにするというものである。広告クライアント企業の広告用ボードとホイールキャップをSegwayに取り付け、広告料収入によりレンタル料をゼロ円(ゼロレンタル)にする。さらに、十分な広告料収入を獲得できるレベルにまで発展したときには、ユーザー還元を行うことも視野に入れている。イベント主催者や、イベント会場および商業施設に向けた提案を想定している。
![]() |
| コマーシャリースの概要。Segwayにかかるレンタル料を広告料収入で賄うことにより、ユーザー負担をゼロにする。さらに、十分な広告料収入を獲得できるレベルまで発展したときには、ユーザー還元を行うことも検討している。 |
JA三井リースは、2007年10月のレンタル事業(*7)を皮切りに、2008年4月には販売・リース事業を、8月にはTRY&BUYをそれぞれ開始。Segwayのレンタル・リース事業を拡大してきた。レンタル事業(*8)については、開始当初は固定客との取引にとどまっていたが、ホームページ(http://www.jamitsuilease.co.jp/rental/segway.html)開設後は急激に引き合いを増加し、2008年6月には単月黒字を達成している。安定的に収益を上げつつある。
コマーシャリースは、このようなレンタルでのSegwayの普及が見えてきたことと、そのアイキャッチの高さを広告料収入に生かせるという判断から打ち出した。また現状のSegwayのレンタル料金は、他の物件と比較すると物件価格に対して高額設定となっており、予算不足でレンタルができないユーザーがいる。これに配慮したという側面もある。
なお、コマーシャリースのコンセプトは、Segwayを物件として扱う以前より同社内であった。一般の目に触れる機会が多く、かつアイキャッチが高いSegwayの特徴と合致するとの判断から打ち出した。まずはSegwayで成功事例をつくり、パソコンをはじめとする一般のレンタル・リース物件にも拡大していくことで、顧客の設備投資にかかる負担軽減につなげていくことも検討している。
*7:JA三井リースでは、製品が普及する条件として、(1)高品質で汎用性があること、(2)世の中の流れに合致していること、(3)顧客と接する普及者がいること、を挙げている。Segwayをレンタル物件として扱った当初は、(1)を重視したからであるが、扱った後に環境に配慮した製品への関心が高まり、(2)も満足するとして、扱うべき物件として自信を深めたという。
*8:レンタル事業は現在、計12台で展開し、月額24万円(物件金額は基本モデルで93万5,000円)で提供している。2008年7月より従来のレンタル料金を半額に引き下げて展開したキャンペーン価格を、2009年1月より通常価格にしている。価格の値下げについては「ファーストフード店の取り組みなど異業種の手法に倣って取り入れた」と、中井潤部長は説明する。
コマーシャリースで注目されるのは、レンタル業を変革する可能性を秘めていることである。
一般にレンタル業は、代金と引き替えに物件を一定期間貸し出すというものである。これに対し、コマーシャリースはゼロレンタルを、さらにはユーザー還元を目指しており、一般的なレンタル業とは明らかに異なる業態を志向している。Segwayに広告用ボードやホイールキャップを取り付けてPRする取り組みは、米Segway社でもなされているが、あくまでレンタルの動機付けとしての提案であり、コマーシャリースのようにレンタル業を変革するようなものではない。
また、企業の広告宣伝予算を原資とする点も注目される。一般にサービス業の企業広告は売上高の2%程度を占めており、例えば、SegwayをイベントでのPRとして利用した経験を持つ日本マクドナルドでは、広告宣伝費に年間約109億円(2008年12月期)を投入していると言われる。
2008年秋以降の経済危機の影響で各企業の広告宣伝予算は大幅に削減されているが、いわゆる“選択と集中”がなされているだけであり、アイキャッチの高い媒体に出稿するマインドは依然高い。しかも、新たな広告媒体に出稿する気運は高いとされる。
上述の日本マクドナルドが2007年8月末に実施した「マックカフェ」恵比寿ガーデンプレイス店のオープンニングセレモニーは、動く広告としてのSegwayの注目度が寄与して話題(*9)となった。また、チラシを配布したり説明をしたりするなど、Segwayの運転者と顧客がコミュニケーションをとれるという利点も評価された。これらを踏まえると、新たな媒体でありながらも広告効果が高く、膨大な原資を獲得できる可能性は高い。
加えて、広告宣伝予算は設備投資予算と比較して、費用対効果の検証を厳密に行うことが困難という特製がある。機械本部 ロボット市場開発チームの中井潤部長は、これを「おおらか」と表現する。つまり、設備投資予算が原資となる、一般的なレンタル・リース業では見られない判断基準の寛容さがあり、このような予算に目を付けたのは「発明」(中井部長)とも言う。上述のように広告宣伝予算の選択と集中がなされているものの、やはり判断の「おおらか」さには変わりはなく、寛容な原資と言える。
*9:オープニングイベントに訪れた人が、Segwayを携帯電話で撮影して友人に送信したり、BlogやWebサイトの掲示板に書き込んだりすることで、口コミ的に話題が広がったことが確認されている。Segwayの珍しさとアイキャッチの高さは、こうしたかたちでの話題づくりにも寄与することが期待される
さらに、過去に示されたサービスロボット事業の中で、その普及にかかる原資を、これほど明瞭に示されたことがないことも注目される。中井部長は「広告宣伝予算は、サービスロボットを普及させる重要な原資になる可能性が十分にある」と期待を込めるが、事業性が不明瞭な提案が多いロボット業界において、それが初めて示されたと言えるかもしれない。
このように新たなレンタル業を創出する可能性も秘めるコマーシャリースであるが、いくつかの課題がある。
1つは広告宣伝費を原資とするがゆえに、同社ではほとんど経験がない広告営業に取り組まなければならないことである。広告代理店を絡めた営業活動を展開するのが通例だが、こうした経験がないうえに大手広告代理店を絡めた場合、それとの力関係上、プロフィットを吸い取られてしまうことが懸念される。これではゼロレンタル、さらにはユーザー還元も視野に入れる、コマーシャリースのコンセプトの達成は困難である。
ゆえに、広告代理店を絡めた営業が現実的としつつも、「プロ(=広告代理店)の技を学びつつ、まずは自前で展開できるよう足元を固めていく」(中井部長)という。その一歩として、今年度は同社が扱う物件に関連するイベント(例えば建設機械関連の展示会など)に参画したり施主に近い位置についたりすることで、コマーシャリースの展開にトライしていくことを予定している。まずは1つでも事例をつくることが重要になるだろう。
もう1つの課題は、Segwayの広告用ボードのバリエーションを増やすことである。広告クライアントからすれば、多くの選択肢から選びたいところだが、現在、米Segway社が用意しているのは1つのパターンにとどまる。また、効果的にアピールできるために、Segwayの先進的なデザインが醸し出す“軽快さ”を覆い隠すきらいがある。コマーシャリースの普及に向けて選択肢の幅を広げておくことは必須であり、クライアント候補を交えつつ、いくつかのデザイン案の製作に入っている。現時点では詳細を明かせないが、Segway本来の“軽快さ”を生かしており好評という。
このような課題を抱えつつも、確実に商談が進んでいるクライアントをいくつか抱えており、「関東平野あたりで最初の事例ができる可能性がある」(中井部長)。このような前向きな話を踏まえると、Segwayを利用したコマーシャリースへの期待は、やはり高いと言えよう。
なお、コマーシャリースのコンセプトは、例えば、富士通グループ(富士通研究所、富士通フロンテック、富士通)が開発するサービスロボット「enon(エノン)」の提供でも類似の方法が検討されるなど、水面下で模索しているところはある。しかしながら、JA三井リースのようにユーザー還元も視野に入れたビジネスモデルを検討し、かつ明瞭なスキームで臨んでいるところはない。
■取材協力
JA三井リース 機械本部 建設機械部
部長 中井 潤さん、部長代理 半戸敏博さん、石井大生さん
■関連サイト
2008.12.01【RTフォーラム】JA三井、広告料収入により顧客負担をゼロにするレンタル戦略を披露
http://robonable.typepad.jp/news/2008/12/20081201-rtja-8.html
2008.05.09 三井リース事業(現JA三井リース)、セグウェイのレンタル・リース事業開始
http://robonable.typepad.jp/news/2008/05/20080509-5598.html
2009.04.01 セグウェイジャパン発足、横浜市などに次世代交通システムとしてSegwayを提案
http://robonable.typepad.jp/news/2009/04/20090401-segway.html