ロボナブル 2009年 3・4・5月特集
今年期待のロボットベンチャー&ロボットビジネス2009
PART2
従来にない顧客価値を創出するビジネスモデルを提示
1.ゼットエムピー:音楽レコメンドサービス
2.JA三井リース:コマーシャリース

 これまで小サイトでは、ロボットビジネスにこだわった情報提供をし、ロボット開発と併行してその運用モデル、さらにはビジネスモデルを検討することの重要性を主張してきた。間もなく公開予定の「サービスロボット市場創出支援事業」(経済産業省)の事後評価報告書の中でも同様の指摘がなされているが、わざわざ、このような言及がなされることからわかるように、実際に検討されている例は少ない。しかし実運用に耐え、かつ工業製品としてのつくり込みがなされたロボットシステムが登場してきたためか、ここに来てようやく、新たな価値の創出を感じさせるロボットビジネス(ロボットサービス)が提案され始めている。「PART2」では、今年度期待されるロボットビジネスとして、ゼットエムピー(ZMP、http://www.zmp.co.jp/)が発表した、音楽レコメンドによる音楽配信サービス(音楽レコメンドサービス)とJA三井リース(http://www.jamitsuilease.co.jp/)の「コマーシャリース」を紹介する。

場所と時間を加味したレコメンドが可能

 ZMPが発表した音楽レコメンドサービスは、首都大学東京の高間康史准教授と共同開発したレコメンド(推奨)エンジンにより、同社の自走式ミュージックプレーヤー「miuro(ミューロ)」(http://miuro.com/)を介して、好みの楽曲を提供するものである。ユーザーサイドにあるmiuroは、再生履歴や好みを収集する役割を、レコメンドエンジンを実装したサーバーサイドでは収集した情報をデータベース化し、音楽レコメンドを行う役割をそれぞれ担う。ロボティクスとWebインテリジェンスを組み合わせたサービスと言える。

音楽レコメンドサービスの概要。自走式ミュージックプレーヤー「miuro」を利用することにより、場所と時間に応じた、つまり生活シーンやシチュエーションに応じたレコメンドが行える。

  miuroの活用により、従来にない音楽レコメンドの提供が可能なることが期待されている。
  通常、パソコンや携帯電話で音楽を楽しむためには、音楽配信サイトにアクセスして選曲や転送を行うといった操作が必要になる。また、選曲時にはユーザー自身の好みを選択したり楽曲の分類にタグを付与したりする煩雑さがある。これに対し、miuroを介したサービスでは、miuroからユーザーに働きかけるため自然に音楽を楽しむきかっけづくりがなされ、かつユーザーの音楽再生履歴が自動的に蓄積される。また、音楽の好みはmiuroのタッチセンサ(タッチインターフェース)を利用することにより、「好き」な場合は撫でる、「嫌い」な場合は叩くという簡単な操作で選択することができる。
  さらには、miuroの自走性とビーコンにより、家の中にいる場所や時間に応じて楽曲にタグが付与され、生活シーンやシチュエーションでのタギングが可能になる(*1)。従来のアーティスト名やジャンルによるタグに加えて生活視点でのタグの付与が可能になり、ここに後述する重要なポイントがある。

 実際のサービス提供は、音楽配信会社や通信会社などを通じてなされる。ZMPはmiuroおよび「miuro SDK(Software Development Kit)」を音楽配信会社や通信会社に供給(または受託開発したうえで供給)し、これらが、例えば光インターネットによる定額制音楽配信サービスとして、miuroとセットでユーザーに提供する。月額数千円程度(*2)で提供されることが見込まれている。

*1:miuroには、オプションソフトとして自律移動パッケージがある。車輪の回転数から移動距離を計測したりカメラで部屋の目印を撮影したりしながら、miuro自身が移動した軌跡をリアルタイムで2次元平面として記録する。記録したエリアは、miuroにとっての移動可能なエリアを示しており、移動時は、作成したマップと現実との差を確認しながら移動する。

*2:通常は、この業界では3年でペイできる価格設定にて通信機材が貸し出される。ゆえに、月額1,050円程度の定額(サービス)にて提供されると見られている。

 なお、ZMPではmiuroを音楽プラットフォームとして位置づけており、首都大学東京と共同で、さらなるアプリケーションの開発を進めることを表明している。その1つが、miuroで聞いている音楽とパソコンで閲覧しているWebサイトを連携させる「シチュエーション・ターゲティング」である。miuroで聞いている音楽に関連のある広告をWebサイト上に表示したり、閲覧しているWebサイトの内容に応じた音楽をmiuroから配信したりすることを検討している。
 現在の行動ターゲティング(*3)でも、ユーザーの属性や、過去の検索履歴や閲覧履歴などをもとに行えるが、miuroの活用により現在、音楽を聞いている場所や時間をもとにした行動ターゲティングの実現も見込まれる。こちらについては、おもに広告会社や検索サイト、ECサイトへの提供を想定している。

*3:Webサイトの履歴情報から推測されるユーザーの嗜好や価値観、ライフスタイルなどの特性によりユーザーをグルーピングする手法のことで、広告宣伝や販売などに活用されている。

新たな価値創出の可能性を秘めるサービス

 音楽レコメンドサービスで注目されるのは、上述の通り、日中でのリビングでの好みの曲や夜間の寝室での好みの曲など家の中にいる場所と時間、つまり生活シーンやシチュエーションを加味した音楽レコメンドを提供できることである。しかも、ユーザー側の簡単な操作で行える。もともとの着想は、世界有数のソーシャル・ミュージック・プラットフォーム「Last.FM」(http://www.lastfm.jp/)にあり、「Bedroom」「Desk」「Workout」など生活シーンやシチュエーションをもとにタグを付与している。それにかかる煩雑な作業を、miuroを利用することにより自動化したと言える。

コマツにおけるKOMTRAXの意義 ソーシャル・ミュージックプラットフォーム「Last.FM」では、「Bedroom」「Desk」「Workout」など生活シーンやシチュエーションをもとにタグを付与することができる。miuroの利用により、このような細かい設定作業を自動化した。

 音楽レコメンドサービスそのものは、すでに複数の音楽配信サイトで展開されており、決して珍しいわけではない。例えば、USENでは「OnGen USEN MUSIC SERVER」(http://www.ongen.net/)にレコメンドエンジン「zero-zone」(ゼロスタートコミュニケーションズ開発)を導入している。Webサイトにおけるユーザーの行動履歴に加え、レコメンド対象とする楽曲やアーティストなど各アイテムの相関関係を解析することで、ユーザーの嗜好に合わせた楽曲を選定し、ユーザーの専用ページを表示することを可能にしている。しかしながら、「ユーザー層が拡大しているとは言い難い状況にある」(ZMPの谷口恒社長)という。

 これらのサービスの多くは、ユーザーはパソコンを操作して楽曲を選択したりタグを設定したりする作業を伴う。そのために、テレビを視聴する行為などと比較して、「家の中で、パソコンで音楽を聴く行為は優先順位が低くなりがち」(谷口社長)という。
 また、通信会社はトラフィック(通信料)を増やすことで、音楽配信会社は音楽コンテンツを購入してもらうことで収益を上げていく必要があるが、ユーザーは“移り気”であり、その囲い込みを図るためにコンテンツ(サービス提供)の切り替えを随時行っている。ADSLや光回線のさらなる普及が期待しにくい通信会社にとっては必須の取り組みとなっているが、効果的なユーザーの囲い込みができていない。結果、上述のような状況となっている。
  miuroを使った音楽レコメンドサービスでは、音楽を楽しむプロセスが自動化(*4)されるため、上述のような課題は解消される。そのうえ、生活シーンに基づいた音楽レコメンドは新たなサービス提供を可能にし、「ユーザーの囲い込みを図りたいというニーズに応えるとして、高く評価されている」(谷口社長)という。

*4:miuroは、単なる自動化ではなく、飽きさせないためにデザインおよびモーションにこだわった設計をしている。後者については、左右独立駆動によりスムーズな移動に加え、その場での回転やツイストなども行える。また、音楽解析アルゴリズムにより、再生中のさまざまな音楽に合わせたダンスも行える。ユーザーに愛着を抱かせ、持続的にサービスを享受したいという気持ちを持続させることができる。

 また、同サービスは「ライフログ元年!」と言われる時代の流れ(*5)に合っていることでも注目される。世の中に流れに合致していることは、製品でもサービスでも普及のための必須条件である。
 ライフログとは、パソコンでWebサイトを閲覧したり、電車やクルマなどで移動したりといった人の生活全体のログを記録し、それをもとに、その人の行動パターンや好みを分析し、マーケティングなどに活用することである。従来はWebサイトが第一の情報収集経路だったが、ICカードやGPS機能付きの携帯電話機などが普及し、それが第二の経路として機能することで生活全体のログの記録を可能にしつつある。
 同サービスにより、音楽配信会社や通信会社はユーザーの好みの楽曲を、生活情報と組み合わせながら獲得できることになる。マーケティングに役立てられるうえ、統計情報(個人情報を秘匿した状態)として音楽制作会社に提供することも考えられる。これが実際になされれば「リビングで聞きたい音楽」「寝室で聞きたい音楽」という具合に、従来にないタイトルを付したアルバムの制作も可能になるだろう。

*5:最近は、RFIDや各種センサ(ユビキタスセンサ)、画像処理技術や感情認識技術など、センサを中心とするRT(Robot Technology)の発展により、顧客の状況をつぶさに把握して、リアルタイムに提案をしたりサービス内容を変更したりすることが可能になってきている。いわゆる顧客価値の『共創』が実現しつつあり、同サービスは、その1つであると言える。詳細は、2008年9・10月特集「顧客行動の“見える化”にRT(Robot Technology)の役割を埋め込め!」(http://www.robonable.jp/monthly/2008_09_10/)を参照してほしい。

 さらに、ユーザーの視点で同サービスを捉えると、「無意識のうちに生活シーンの劇場化を好む」とされる日本人の習性に合致していることでも注目される。
 以前、「ロボナブル」でインタビューをしたアーサー・D・リトルの川口盛之助シニアマネージャーは、『日本製品のオタク性・10の法則』の1つとして『生活の劇場化を目指す』を挙げていた。つまり、平凡な暮らしの中で自分をドラマやアニメの世界の主人公に置き換えて、シーンに応じて音楽を持ち運ぶ文化があることを指摘していた。いわば『マイ・テーマソング』を生活シーンやシチュエーションに応じて流すという行為であり、それを可能にする同サービスは、こうした日本人の習性に合致していると言えよう。
  ZMPでは、同サービスで得られた音楽再生履歴を携帯音楽プレーヤーにも展開することを視野に入れているが、携帯電話機が内蔵している加速度センサなどでユーザーの状況を把握し、その情報もタグとして付与すれば、よりきめ細かく生活シーンに合致したレコメンドが可能になると想像される。

コマツにおけるKOMTRAXの意義
音楽レコメンドサービスの特徴。生活シーンやシチュエーションに応じたレコメンドが行えるというサービスそのものもユニークだが、ライフログ元年と言われる時代の流れに合っていることや、生活シーンの劇場化を好むとされる日本人の習性に合致していることも注目される。
レコメンドの母数が小さいのは問題にはならない?

 また、同サービスの枠組みに着目すると、ロボットベンチャーが一様に抱える、販売力の弱さを解消できる点も注目される。
 miuroのユーザーへの提供は音楽配信会社および通信会社が担い、ZMPはこれらに納品をするだけで済む(SDKとセットで納品、または開発を受託する場合もある)。ロット単位で納品するため、生産台数の確保および生産コストの低減を図ることができる。また、ユーザーは月額数千円程度を支払うだけで同サービス(定額料金サービスになる可能性が高い)を受けることができ、miuroへの初期投資がほとんどかからない。したがってZMPは、音楽配信会社および通信会社にはある程度の納品価格(販売価格は税込みで10万8,800円)で、またユーザーには低価格で提供することができ、ZMP自身の販売力とは関係なしにmiuroを普及させることができる。
 もちろん、同サービスが上述のような特徴を備えており、音楽配信会社および通信会社が高い関心も持ったからこそ実現した枠組みと言える。

コマツにおけるKOMTRAXの意義
音楽レコメンドサービスのビジネスモデルでは、ベンチャーが共通に抱える販売力の弱さを克服できる。しかも、ユーザーには月額数千円程度の低価格で提供されるため、miuroの普及につながる可能性が高い。

 ただし、このようなレコメンドサービスは、ユーザーの母数が大きいほどレコメンドの精度が向上する傾向にあり、サービスを開始した時点で、どの程度の精度を確保できるのかを疑問視する声がある。しかし同サービスは、あくまで個人の生活シーンに着目したレコメンドであり「母数の大きさは、それほど問題にはならない。数千レベルのユーザーを獲得できれば、かなり精度を確保できる」(首都大学東京の高間准教授)としており、母数の大小がサービスに与える影響は小さいようだ。

 ZMPでは、2007年よりmiuroを販売し(2006年8月にテスト販売)、初回ロットとなる500台を完売している。次のステップ(ステップ2)として発表したのが同サービスであり、2009年以降は、さらなるステップ(ステップ3)として、さまざまなアプリケーションの音楽プラットフォームとしてmiuroを世界展開していくことを予定している(*6)。複数の音楽配信会社などと交渉が進んでおり、中には海外企業も含まれていることから、「早くもステップ3に移行しつつある」(谷口社長)という。ワールドワイドで10万台以上のmiuroの提供を目指しているが、このような特徴を踏まえると、かなり現実的な目標数値と言えるのではないだろうか。

*6:ZMPではレコメンドの改良にも取り組み、ジェスチャーで音楽の好みを伝えるジェスチャーインターフェースや、環境センシングにより場所に適した楽曲の配信や場の演出にも取り組むことを表明している。例えば、より高度に複数人を検知することで、家族団らんをしているのか、またはパーティーを開催しているのかを把握し、グループを対象にしたレコメンドを行うことを想定している。

■関連サイト
2008.12.18 ZMP、miuroを利用した楽曲レコメンドサービスを展開、miuroはレンタルにて提供
http://robonable.typepad.jp/news/2008/12/20081218-zmpmiu.html

RT基礎講座 特別編 心のツボを捉えるロボットは芸術的!?
――ロボット開発が取り組むべきフロントラインは、もはや技術の域にあらず
アーサー・D・リトル ジャパン 川口 盛之助
http://robonable.typepad.jp/trend/2008/03/post-afdd.html

■参考文献
川口盛之助:オタクで女の子な国のモノづくり,第2章 日本製品のオタク性・10の法則,法則8 生活の劇場化を目指す,pp.178-180,講談社,2007年.