ロボナブル 2009年 3~8月特集
今年期待のロボットベンチャー&ロボットビジネス2009
PART1
アシストスーツ市場を牽引!2010年には40億円弱の市場規模に
1.サイバーダイン&大和ハウス工業:HAL福祉用
2.アクティブリンク:パワー増幅ロボット、鍛造作業用アシスト装置

 アシストスーツとは、ボディスーツのように上半身や下半身に装着し、電動アクチュエータや空圧アクチュエータ(マッキベン式人工筋肉など)などにより、人の手足の動きをアシストする装着型ロボットのことである。高齢者や身障者がリハビリや自立支援を目的に使用したり、健常者が介護や重労働の作業負担の軽減を目的に利用したりすることが想定されている。

 同分野の市場予測は、富士経済によると2008年見込みが5億円、2009年には26億円、そして2010年には37億円にまで拡大すると予測している(http://robonable.typepad.jp/column/2008/10/7201145-7d7f.html)。
 同市場では近い将来、歩行アシスト装置などを手がけるホンダやトヨタもキープレイヤーになると予想されるが、いま最も注目されるのはサイバーダインである。2008年10月より介護・福祉施設向けに下半身タイプの「HAL福祉用」のリース販売を、大和ハウス工業を通じて開始。1月には、民間病院としては初めて下関市汐入町の昭和病院に導入した。

「設計」「運用」「保険」で安全を保証

 HAL(Hybrid Assistive Limb)は、随意制御と自律制御との組み合わせにより、適切なアシスト力を発生するシステムである(*1)。前者は、筋肉を動かそうとする脳からの生体電位信号を生体電位センサ(*2)で検出・増幅し、それをもとにパワーユニットを制御する。後者は人の基本動作をパターン化し、それに合わせて制御を行う。端的に言えば、トルク制御と軌道制御の組み合わせによりアシストを行う。これらの処理は、筋肉が動き出すよりも若干早いタイミングでなされ、ユーザーは違和感を憶えることなく動作することができる。
  また、アシスト力の算出は、足底に設置した床反力センサの情報をもとに行っている。検出した床反力分布をもとにユーザーの重心位置や移動方向などを推定し、動作に必要なアシスト力を発生している。検出される生体電位信号は「身体を動かそうとする力の強弱により差が生じる」(大和ハウス説明員)ことから、この情報もアシスト力の算出に利用しているという。

*1:NEDOの報告書によると、HAL福祉用の制御には随意的制御機構と自律制御機構に加え、キャリブレーション制御機構、粘性補償機構を実装している。
*2:生体電位信号(表面筋電位)を用いてアシストスーツを制御することに対し、疑問を投げかけるロボット研究者は多い。それでも利用することに対し、「複数筋の混合信号から意図した筋の信号のみを抽出できるアルゴリズムを開発し、かつ、それに適した生体電位センサの配置を見出した。さらに、自動キャリブレーションソフトも開発したからなのでは」と、推測するロボット研究者がいる。

遠隔保守サービス(遠隔操作) 遠隔保守サービス(アラーム情報転送)
HAL福祉用の基本構成。 HAL福祉用の基本スペックと契約の流れ。

 HALの要となる生体電位センサは、用途や形態により身体に貼り付ける数が異なるが、「単脚型」と「両脚型」の2タイプを用意したHAL福祉用では、それぞれ9個と18個を使用する。片脚型では基準電極として腹部に1個、屈曲側の大腿直筋と大腿二頭筋、伸展側の大臀筋と外側広筋の計4つの筋肉が位置する皮膚表面に2個ずつ貼り付けて使用する。両脚型では、もう片方の脚の同じ位置に貼り付けて使用するため計18個となる。

 HAL福祉用のビジネス展開で注目すべきは、該当する安全規格がない中で考えられ得る安全方策を採っていることである。
 現在、HALをはじめとするアシストスーツに関して、国際安全規格の中では能力を補助する装置「Compensation(能力補償)」と増大する装置「Augmentation(能力増大)」に分けて議論されている。
 前者は、ユーザーが本来有している最大筋力を上限にアシストを行うというものである。例えば20kg程度のモノを持ち運ぶことができる人に対して5kgの力をアシストする場合、仮にアシストスーツが暴走しても、本来有している筋力により耐えることができる。ゆえに、「最大筋力を上限にアシストを行うのが、アシストスーツにおける本質安全設計の考え方の1つになるだろう」(長岡技術科学大学 木村哲也准教授)という見方が、専門家の間でなされている。

 これに対し、後者はアシストスーツが暴走するとケガを負わせるリスクが高くなるため、何らかの方策を考えなければならない。例えば「機械の安全設計と同様、稼働範囲や方向、角度、速度、空間などを制限することが必要になる」(同)と指摘されている。

コマツにおけるKOMTRAXの意義

アシストスーツの分類。
 HAL福祉用は介護・福祉施設の現場で立ち座りや歩行、階段の昇降などの動作のアシストを目的としており、能力補償の範疇に入る、小さなアシスト力しか発生していない。上述の考え方に従えば、本質安全設計を達成していると言えよう。
 加えて、角度リミッタ機能や制御リミッタ機能、出力抑制機能のほか、故障検知機能、異常検知機能、過電流防止機能を開発し実装している。センサ情報をリアルタイムでモニタリングすることも可能にしている。

 また、運用による工夫により残留リスクの低減を図っている。提供(*3)先は介護・福祉施設に限定しており、現時点では、個人向けへの提供は行っていない。しかも、各施設の担当医が使用を許可し、かつ取り扱い説明をきちんと受けた人のみに提供することにしている。つまり、必ず監督者がいるところでの利用環境に限定し、かつ使用できるユーザーの絞り込みをし、説明責任を果たしている。加えて、保険も用意しており、これは月々のリース料に含まれている。

KOMTRAXの概要 HAL福祉用の安全方策。
 このように「設計」「運用」「保険」という三段構えにて安全を保証しており、ユーザーに配慮した販売システムをつくり上げている。そして、持続的に製造・販売が行える体制を整えている。ここにHAL福祉用のビジネス展開に期待を寄せられる理由がある。
 2009年度以降には、介護支援者に向け全身タイプを販売することを予定しているが、このような方策を採っているからこそ、積極展開ができると言えよう。
*3:HAL福祉用の取り扱いは、サイバーダインが規定した試験をクリアした人しかできないようにしている。これに関する規定は、サイバーダインが独自に定めたという。

非常停止の対応に継続的な検討が必要

 ただし設計上、継続的に検討しなければならない課題がいくつかある。
 例えば、アシストスーツでは非常停止の概念が定義されていない。そのためにHAL福祉用では、動作が不安定になった場合は、電源ボタンを切ることで産業機器などと同様、ゼロメカニカル・ステートにするという対応を採っている。「監視者がいる環境での利用に限定していることから産業機器の考え方に倣った」(大和ハウス工業 ロボット事業推進室担当)とのことだが、身体に装着して使用することを考えると、例えば「緩やかに倒れる」仕掛けを検討するか、あるいは機能安全(*4)の考えに従って制御系を二重系統にするといった方策が求められるだろう。

 また、非常停止に備えて、アシストスーツを迅速かつ簡単に脱がせる手順も明確にすることも求められる。例えば、防弾チョッキの中にはすべてのパーツが1本のワイヤでつながっており、それを切断すれば、すぐに身体から外して治療を行えるものがある。同様に、どこかのボタンを押したり、あるパーツを外したりするといった簡単な操作により、迅速に脱着できる仕掛けと手順の用意も必要だろう。

 このような課題を抱えているものの、専用回線を通じてユーザーの使用状況を適時モニタリングしたり、リース満了後にはサイバーダインが回収したり(*5)するなど、その後の開発に役立つ各種データを収集できる方策をきちんと考えている。また、販売を担当する大和ハウスでは、ロボット技術の応用により家側が住民をサポートする住宅を構想しており、個人宅での運用への道筋をつけようとしている(*6)。
 製品のより一層のつくり込みに加え、運用範囲の拡大に向けた活動を着々と進めており、両社の取り組みに対する期待はやはり高い。

(追 記)
 HAL福祉用は、山口県の昭和病院での導入を皮切りに、松山市の「HAL」プロジェクト(松山市役所、愛媛大学)、茨城県の社会福祉法人 樅山会および阿見第一クリニックで導入されている。緩やかながら、確実に導入施設数を伸ばしている。

 導入数の拡大に向けては、システムとしてのつくり込みも必要だが、導入後、監督者となる理学療法士をはじめとするスタッフの理解と情熱、および利用者自身が『歩こう』とするマインドにより円滑な導入が左右されるきらいあり、これらを伴うことが求められている。利用者に合わせて自動的にキャリブレーションを行うという夢のような技術はいまだ確立されておらず、導入後は利用者に合わせた調整作業が必要になるからで、こうした事実から、施設側スタッフへの教育の重要性を意識し始めているという。
 また、HAL福祉用の利用に適している人とそうでない人が、つまり生体電位信号(表面筋電位)をきちんと取れる人とそうでない人がいるという。導入にはこうした個人差を見極める見極めも必要で、適した人に対して利用を勧めるようにしていると話す担当者がいる(「生活支援ロボット実用化プロジェクト」では能力増強というアプローチで開発を進めており、健常者も利用対象にしているが、健常者の方が確実に信号を検出できるともコメントしている)。

 もともと生体電位信号を用いてアシストスーツを制御することに対し、疑問を投げかける研究者がおり、その一端を示すものなのかもしれない。しかし、HALでは「ひとたび利用者の動作パターンを記録・保存すれば、軌道制御(自律制御)によりアシストを行うことが可能」(担当者)で、すると、生体電位信号は利用者の意思を検出するためというよりむしろ、動作パターンやクセを記録し、あらかじめパターン化した基本動作を修正するためのインターフェースとして利用している、と言えるかもしれない。

コマツにおけるKOMTRAXの意義 HAL福祉用が抱える課題。
*4:機能安全規格IEC 61508が規定する設計工程は、①本質安全設計、②リスク分析、③リスク基準設定、④安全要求仕様、⑤ハードウエアの機能安全設計、⑥ソフトウエアの機能安全設計、⑦機能安全管理、⑧残留リスク対応、という手順をとる。サービスロボットの開発に適用するためには、各工程でいくつかの課題があると指摘される。例えば、②では「ヒューマンファクター」を研究している分野は原子力などに限られ、ロボットと人間との協調作業におけるリスクの分析が困難。⑤と⑥ではそれぞれベストプラクティス(設計技法)が示されているが、簡素化しないと膨大な開発コストを要する。⑦ではサプライヤーを含め設計・製造に従事した人のコンピテンシー(資質)まで問われており、その管理が求められるが、それを行うのは困難。⑧では既存の機能安全規格が対象とする産業システムと異なり、一般消費者向けへの対応は困難、といったものがある。少なくとも、③が明確になされていないと次工程への移行は困難であり、「まずは利用対象および環境、マーケットなどに区切って、リスク基準を明確にしておくことが求められるだろう」と、機能安全規格に詳しい日本システム安全研究所の吉岡律夫代表は話す。

*5:第三者に手渡されることで軍事目的に転用される事態を防ぐという理由もある。

*6:大和ハウスでは、自社のロボット事業に関して「HAL」と「住宅床下点検ロボット」への取り組みを明らかにしているが、それ以外にも2つのロボットシステムを構想している。1つは、住空間と連携することができ、かつ、建物単体ではなく団地全体あるいは町全体と協調できるようなシステム。2つ目は、ロボット技術の応用により住空間が老人をサポートしてくれるようなシステム。HALの個人宅での運用は、2つ目のシステムが関係している。

■関連サイト
「富士経済アナリストが斬る!ロボット市場の実情 第7回『2011年に45億円市場が期待!パワーアシストスーツ』」
http://robonable.typepad.jp/column/2008/10/7201145-7d7f.html

2008.10.17 大和ハウス、HAL福祉用を出展。運用により残留リスクを低減、保険も用意
http://robonable.typepad.jp/news/2008/10/20081017-hal-cf.html

2008.10.07 サイバーダインと大和ハウス、下半身タイプの福祉用ロボットスーツのリース販売開始
http://robonable.typepad.jp/news/2008/10/20081007-82f5.html

2008.07.02 サイバーダイン、デンマークでロボットスーツの実証開始
http://robonable.typepad.jp/news/2008/07/20080702-9807.html

2008.07.02 大和ハウス、ロボットスーツ「HAL」に関する総代理店契約を締結
http://robonable.typepad.jp/news/2008/07/20080702-hal-a6.html

2008.04.17 大和ハウス、CYBERDYNEの量産工場着工。10月から稼働し年間500台生産
http://robonable.typepad.jp/news/2008/04/20080417-cyberd.html