ロボナブル 2009年 12月特集
2009年版ロボットビジネス番付 -今年の注目記事から独自評価!-
【西関脇】「HAL福祉用の販売」(サイバーダイン&大和ハウス工業)
 -設計・運用・保険の3段構えで安全性を確保--
●「番付の概要と目的」はこちら

 西の関脇には、2008年10月よりロボットスーツ「HAL福祉用」のリース販売を開始したサイバーダイン大和ハウス工業の販売システムを選びました。HALのシステムの詳細は、「今月の特集」を参照して下さい。

 HAL福祉用は、介護・福祉施設向けに開発した下半身タイプのもので、立ち座りや歩行、階段の昇降などの動作をアシストします。「単脚型」と「両脚型」の2タイプがあり、バッテリーを除く重量は、単脚型が約6 kg、両脚型が約10kg(バッテリー重量は約1 kg)。サイズは、身長150cm以下の「Sサイズ」と身長150~165cmの「Mサイズ」、身長165~180cmの「Lサイズ」の3種類があり、バッテリー駆動で約1時間利用することができます。

 契約は、おおよそ次のような流れになります。まずユーザーは大和ハウスに申し込みをし、リース会社とリース契約を、サイバーダインと保守契約をそれぞれ結びます。申し込み後1~2カ月程度で納品され、最後に、大和ハウスのサービススタッフによる取り扱い説明を受けます。説明を受けることではじめて利用できます。リース料金は保守料を含め、両脚タイプが月当たり22万円、単脚タイプが同15万円。リース期間は5年間で、リース満了後にサイバーダインが回収を行います(2008年10月発表時)。

図1 HAL福祉用の概要と契約までの流れ

 HALを含むアシストスーツ市場は、富士経済によると、2008年(見込み)が5億円、2009年は26億円、2010年には37億円、そして、2011年には45億円に拡大すると予測されています。高齢者や身障者がリハビリや自立支援を目的に使用したり、健常者が介護や重労働の作業負担の軽減を目的に利用したりするなど幅広い利用が見込まれるうえ、近い将来、トヨタやホンダなどの参入も予測されているからです。それでも、該当する安全規格が存在しない中で、いち早く製品化した両社の取り組みは引き続き同市場を牽引していくと思われます。

設計・運用・保険の3段構えで安全性を確保

 先ほど少し触れましたが、HAL福祉用の販売で注目すべきは、該当する安全規格がない中で考えられ得る安全方策を採っていることです。

 すでに「今月の特集」でも紹介しましたが、HALをはじめとするアシストスーツに関して、国際安全規格では能力を補助する装置「Compensation(能力補償)」と増大する装置「Augmentation(能力増大)」に分けて議論されています。
 前者は、ユーザーが本来有している最大筋力を上限にアシストを行うというものです。例えば20kg程度のモノを持ち運ぶことができる人に対して5kgの力をアシストする場合、仮にアシストスーツが暴走しても、本来有している筋力により耐えられます。ゆえに、「最大筋力を上限にアシストを行うのが、アシストスーツにおける本質安全設計の考え方の1つになる」との見方が専門家の間でなされています。これに対し、後者はアシストスーツが暴走するとケガを負わせるリスクが高くなるため、何らかの方策が必須となります。例えば、機械の安全設計と同様、稼働範囲や方向、角度、速度、空間などを機械的に制限するといったことです。

 HAL福祉用は介護・福祉施設の現場で立ち座りや歩行、階段の昇降などの動作のアシストを目的としており、能力補償の範疇に入る、小さなアシスト力しか発生していません。上述の考え方に従えば、本質安全設計を達成していると言えるでしょう。

 なお、HAL福祉用がこのような設計アプローチをとったのには、2005~07年にかけて実施された「人間支援型ロボット実用化プロジェクト」(NEDO)が関係していると言われています。同プロジェクトでは、プロジェクト推進委員を務めた長岡技術科学大学の杉本旭教授らが安全技術の指導をされましたが、杉本教授はサービスロボットの安全鑑定を行うNPO安全工学研究所の理事長を務めることでも知られています。
 同NPOでは、機能安全の認証にかかる膨大な期間や費用(最低でも3年以上、1,000万円以上)を考慮して、本質安全設計を確保している否かで安全鑑定を行っていますが、もしかしたら、HAL福祉用が能力補償という設計アプローチをとったのは、杉本先生の考えが反映された結果であり、また、このようなアプローチであるからこそ上市できると判断したのかもしれません。
 そのほか同プロジェクトでは、角度リミッタ機能や制御リミッタ機能、出力抑制機能のほか、故障検知機能、異常検知機能、過電流防止機能などを開発し、HAL福祉用に実装しています。

図2 HAL福祉用リース販売の特徴

 また、上述の設計で対応しきれなかった残留リスクは、運用による工夫で低減を図っています。提供先は介護・福祉施設に限定しており、現時点では、個人向けへの提供は行っていません。しかも、各施設の担当医(理学療法士など)が使用を許可し、かつ取り扱い説明をきちんと受けた人のみに提供することにしています。つまり、必ず監督者がいるところでの利用環境に限定(*)し、かつ使用できるユーザーの絞り込みをし、説明責任も果たしています。
 さらに、複数の既存商品を組み合わせた保険も用意しています。これは月々のリース料金に含まれているそうです。

 このように「設計」「運用」「保険」という3段構えで安全を保証しており、ユーザーに安心感を与える販売システムをつくり上げています。持続的に製造・販売が行える体制を整えており、ここにHAL福祉用のリース販売を評価したポイントがあります。

*:大和ハウスでは、自社のロボット事業に関して「HAL」と「住宅床下点検ロボット」への取り組みを明らかにしているが、それ以外にも2つのロボットシステムを構想している。1つは、住空間と連携することができ、かつ、建物単体ではなく団地全体あるいは町全体と協調できるようなシステム。2つ目は、ロボット技術の応用により住空間が老人をサポートしてくれるようなシステム。HALの個人宅での運用は、2つ目のシステムが関係していると推測される。

ユーザー・理学療法士・経営者の3者の一致が必須、またつくり込みも必要

 開発元のサイバーダインによると、HAL福祉用は、山口県の昭和病院での導入を皮切りに、松山市の「HAL」プロジェクト(松山市役所、愛媛大学)、茨城県の社会福祉法人 樅山会および阿見第一クリニックで導入されています(そのほかの導入先はこちらを参照)。導入施設数を伸ばしつつありますが、当初の年間500台の販売目標にはほど遠いです。その原因は、ユーザーおよび使用環境の絞り込みを行ったがゆえに、導入までの意志決定に異なる立場の人間が介在することにあります。つまり、ユーザーとなる高齢者や身障者、運用や指導を担当する理学療法士、導入を最終決定する施設経営者の3者の思いが、HAL福祉用の利用という目標にピッシッと向かうことが求められることです。これら3者に納得してもらい、同様に「利用したい!」という強い思いを持ってもらうのは、そう簡単なことではないと想像されます。

 また、このような状況になっているのは、HAL福祉用が“製品として発展段階”にあるからでもあります。
 HALは、筋肉を動かそうとする脳からの生体電位信号を生体電位センサで検出・増幅し、それをもとにパワーユニットを制御(これは随意制御の場合。これに基本動作をパターン化し、それに合わせて制御を行う自律制御を組み合わせている)しています。「単脚型」と「両脚型」の2タイプを用意したHAL福祉用では、それぞれ9個と18個の生体電位センサを使用しており、片脚型では基準電極として腹部に1個、屈曲側と伸展側の計4つの筋肉の皮膚表面に2個ずつ貼り付けて使用しています(両脚型では、もう片方の脚の同じ位置に貼り付けて使用するため計18個)。
 適切に制御し、かつ汎用的に使えるようにするためには、複数筋の混合信号から意図した筋の信号のみを抽出するアルゴリズムの開発および、それに適した生体電位センサの配置方法、さらには、ユーザーの個人差に対応する自動キャリブレーションソフトの開発が必要になると思われます。しかし、これらの技術的なハードルは相当なものであり、それを達成しないと十分満足してもらうのは難しいでしょう(導入事例で紹介されている「患者様のお気持ち」「導入現場の実感」が参考になります)。

 とはいえ、HAL福祉用は上市してまだ1年程度の“新製品”です。製品としては100%のつくり込みがなされているかもしれませんが、巷に溢れる製品は数年、数十年もの歴史を有しており、200%、300%、それ以上と言えるレベルにまで成熟しています。HAL福祉用がこのようなレベルに到達するには時間が必要でしょうが、それが持つ有用性を認め、同時に現段階の技術レベルを正しく理解する(メーカーは開示して伝える)ことで、社会が育てていくという土壌をつくることが大切だと考えます。

 余談ですが、サイバーダインは、「生活支援ロボット実用化プロジェクト」では「能力増強」というアプローチで開発を進めているようです。能力補償というアプローチがアシストスーツの本質安全設計になるのではという説明をしましたが、この場合、どのような方策で安全性を確保するのかが気になるところです。また、「人間装着(密着)型」生活支援ロボットの典型例として安全性を確保するための技術や安全基準などが開発されることになりますが、類似のロボットにも拡張できるようなものになることを期待します。

■関連サイト
2009.10.20 サイバーダイン、北欧に新たに現地法人設立、米国での事業展開を視野に調査を開始
http://robonable.typepad.jp/news/2009/10/20091020-d366.html

2009.10.01 サイバーダイン、生活支援ロボ実用化プロでは能力増強のアプローチで安全技術を開発
http://robonable.typepad.jp/news/2009/10/20091001-hal-e8.html

2009.09.17 筑波大など、RTを活用した、産官学連携による自立支援技術などの研究拠点を設置
http://robonable.typepad.jp/news/2009/09/20090917-rt-aa7.html

2009.08.07 【追記】生活支援ロボ実用化プロの提案内容を公開、パナソニック以外は既存システム
http://robonable.typepad.jp/news/2009/08/20090807-eba8.html

2008.10.17 大和ハウス、HAL福祉用を出展。運用により残留リスクを低減、保険も用意
http://robonable.typepad.jp/news/2008/10/20081017-hal-cf.html

2008.10.07 サイバーダインと大和ハウス、下半身タイプの福祉用ロボットスーツのリース販売開始
http://robonable.typepad.jp/news/2008/10/20081007-82f5.html

2008.07.02 サイバーダイン、デンマークでロボットスーツの実証開始
http://robonable.typepad.jp/news/2008/07/20080702-9807.html

2008.07.02 大和ハウス、ロボットスーツ「HAL」に関する総代理店契約を締結
http://robonable.typepad.jp/news/2008/07/20080702-hal-a6.html

2008.04.17 大和ハウス、CYBERDYNEの量産工場着工。10月から稼働し年間500台生産
http://robonable.typepad.jp/news/2008/04/20080417-cyberd.html

ロボナブル2009年3~8月特集「今年期待のロボットベンチャー&ロボットビジネス2009」
PART1 アシストスーツ市場を牽引!2010年には40億円弱の市場規模に
1.サイバーダイン&大和ハウス工業:HAL福祉用
http://www.robonable.jp/monthly/2009_3_4/p1.html

「富士経済アナリストが斬る!ロボット市場の実情 第7回『2011年に45億円市場が期待!パワーアシストスーツ』」
http://robonable.typepad.jp/column/2008/10/7201145-7d7f.html