西の大関には、ロボットベンチャー・ゼットエムピー(ZMP)が提案した「音楽レコメンドサービス」を選びました。
同サービスは、首都大学東京の高間康史准教授と共同開発したレコメンドエンジン(テレビ番組推薦技術をベース)により、同社の自走式ミュージックプレーヤー「miuro(ミューロ)」を介して好みの楽曲を提供するものです。ユーザーサイドにあるmiuroは再生履歴や好みを収集する役割を、レコメンドエンジンを実装したサーバーサイドでは収集した情報をデータベース化し、音楽レコメンドを行う役割をそれぞれ担っています。ロボティクスとWebインテリジェンスを組み合わせたサービスと言えます。
同サービスでは、各種RT要素を実装するmiuroの活用により従来にない音楽レコメンドの提供が可能になります。
通常、パソコンや携帯電話で音楽を楽しむためには、音楽配信サイトにアクセスして選曲や転送を行うといった操作が必要になります。また、選曲時にはユーザー自身が好みを選択したり楽曲の分類にタグを付与したりする煩雑さもあります。
これに対し、同サービスではmiuro自身からユーザーに働きかけるため自然に音楽を楽しむきかっけづくりがなされ、かつユーザーの音楽再生履歴が自動的に蓄積されます。音楽を楽しむプロセスが自動化されます。また、音楽の好みはmiuroのタッチセンサ(タッチインターフェース)を利用することにより、「好き」な場合は撫でる、「嫌い」な場合は叩くという簡単な操作で選択・反映することができます。
加えて、miuroの自律移動とビーコンにより、家の中にいる場所や時間に応じて楽曲にタグが付与することができます。つまり、生活シーンやシチュエーションでのタギングが可能になります。
エンドユーザーへのサービス提供は、音楽配信会社や通信会社などを通じてなされることが計画されています。ZMPは、miuroおよび「miuro SDK(Software Development Kit)」を音楽配信会社や通信会社に供給(または受託開発したうえで供給)し、これらが、例えば光インターネットによる定額制音楽配信サービスとして、miuroとセットでユーザーに提供します。月額数千円程度での提供が見込まれています。
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図1 音楽レコメンドサービスの概要 |
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音楽レコメンドサービスで注目されるのは、日中でのリビングでの好みの曲や夜間の寝室での好みの曲など家の中にいる場所と時間、つまり生活シーンやシチュエーションを加味した音楽レコメンドを提供できることです。しかも「撫でる」「叩く」という簡単な操作で行えます。ZMPの谷口恒社長によると、もともとの着想は世界有数のソーシャル・ミュージック・プラットフォーム「Last.FM」にあったそうです。「Bedroom」「Desk」「Workout」など生活シーンやシチュエーションをもとに、有志がタグ付けを行っているようですが、miuroの利用により、これらを完全自動化したと言えます。
音楽レコメンドサービスそのものは珍しいわけでないですが、パソコンを操作して楽曲を選択したりタグを設定したりする作業を伴うため、「家の中で、パソコンで音楽を聴く行為は優先順位が低い」(谷口社長)です。また、通信会社はトラフィック(通信料)を増やすことで、音楽配信会社は音楽コンテンツを購入してもらうことで収益を得る構造になっていますが、そのためには魅力あるサービス提供が求められます。このような課題に対し、同サービスは1つの解を与えるものと言えます。
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図2 音楽レコメンドサービスの注目点 |
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また、「ライフログ(*)元年!」(2009年)と言われる時代の流れに合っていることでも注目されます。サーバを運営する音楽配信会社や通信会社は、同サービスを介してユーザーの好みの楽曲を、生活情報と組み合わせながら獲得できます。マーケティングに役立てられるうえ、統計情報(個人情報を秘匿した状態)として音楽制作会社に提供することも考えられます。「リビングで聞きたい音楽」「寝室で聞きたい音楽」といった、従来にないレーベルが創出されるかもしれません。
*:ライフログとは、パソコンでWebサイトを閲覧したり電車やクルマなどで移動したりといった人の生活全体のログを記録し、それをもとに、その人の行動パターンや好みを分析し、マーケティングなどに活用すること。従来はWebサイトが第一の情報収集経路だったが、ICカードやGPS機能付きの携帯電話機などが普及し、それが第二の経路として機能することで生活全体のログの記録を可能にしつつある。
加えて、「マイ・テーマソング」を好む日本人の習性に合致するという特徴も挙げられます。日本人は「無意識のうちに生活シーンの劇場化を好む」きらいがあるようで、平凡な暮らしの中で自分をドラマやアニメの世界の主人公に置き換えて、シーンに応じて音楽を持ち運ぶ文化があるとの指摘がなされています。生活シーンやシチュエーションに応じた音楽がレコメンドされるというのは、このような習性や文化にジャストフィットしていると言えるのではないでしょうか。
ロボットビジネスという観点から見ても、同サービスはロボットベンチャーが一様に抱える、販売力の弱さを克服できる可能性があることで注目されます。
miuroのエンドユーザーへの提供は音楽配信会社および通信会社が担い、ZMPはこれらに納品をするだけです(SDKとセットで納品、または開発を受託する場合もある)。ロット単位で納品するため、生産台数の確保および生産コストの低減を図ることができます。また、エンドユーザーは月額数千円程度で同サービスが受けられるため、miuroへの初期投資がほとんどかかりません。ZMPは音楽配信会社および通信会社にはある程度の納品価格(販売価格は税込みで10万8,800円)を維持しながらも、エンドユーザーには低価格で提供することができ、ZMP自身の販売力とは関係なしにmiuroを普及させることができます。もちろん、このような仕組みは同サービスが魅力的なものであるからこそ、音楽配信会社および通信会社が高い関心を抱き、可能になることは言うまでもありません。
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図3 ZMPにとっての利点。魅力あるサービス提案によりベンチャーの販売力の弱さを克服 |
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ただ、2008年秋以降の景気後退の影響などがあり、同サービスの展開は遅れ気味です。そこで、ZMPでは同様にmiuroを活用した高齢者見守りサービスを提案しています。
SIMカードの挿入によりハンズフリーの電話として利用したり、カメラ機能を利用して生活情報を記録(ライフログを取得)したりすることができ、高齢者のQOLの向上や常時の状況確認に役立てることができます。すでに複数の通信会社や警備会社に向けた提案を始めています。こちらでも高齢者などのエンドユーザーには、これらの起業を介して月額880円程度の価格でレンタル提供される予定です。miuroの自律性や大型スピーカを備えるといった特徴を高齢者サービスにうまく合致させたサービスと言えます。
ZMPでは、2007年よりmiuroを販売し(2006年8月にテスト販売)、初回ロットとなる500台を完売しています。次のステップ(ステップ2)として発表したのが音楽レコメンドサービスであり、さらなるステップ(ステップ3)として、さまざまなアプリケーションの音楽プラットフォームなどとしてmiuroの展開を予定しています。上述の高齢者向けサービスは、その1つと言えるでしょう。また、miuroというハードウエアの普及に向け、その特徴を捉えたサービス開発・提案に腐心しています。
2000年以降、「サービスロボット」の必要性が叫ばれたわりには、肝心のロボットを介したサービス内容はあまり議論されていません。いまもサービスロボットというハードウエアの開発ばかりが先行しています。ハードウエアを普及するためにサービス開発および提案に力を入れるZMPの取り組みは、こうした状況に一石を投じるものと言えます。
■関連サイト
2008.12.18 ZMP、miuroを利用した楽曲レコメンドサービスを展開、miuroはレンタルにて提供
http://robonable.typepad.jp/news/2008/12/20081218-zmpmiu.html
2009.11.24 ZMP、miuroを使った高齢者見守りサービスを提案、月額880円でレンタル販売の見込み
http://robonable.typepad.jp/news/2009/11/24zmp.html