ロボナブル 2009年 12月特集
2009年版ロボットビジネス番付 -今年の注目記事から独自評価!-
【東大関】「ムラタセイサク君&セイコちゃんプロジェクト」(村田製作所)
 -ぶれないコンセプトと共感を得る仕掛けで人材確保に-
●「番付の概要と目的」はこちら

 大関には、いずれもロボットの特徴を生かした提案を選びました。
 東の大関となった村田製作所の「ムラタセイサク君&ムラタセイコちゃんプロジェクト」は、ロボットを動的媒体と見立て、自社の電子部品および技術力・モノづくり力をPRする取り組みです。最新モデルとなるムラタセイコちゃんの「09年モデル」は、半径75cm(最小で約50cm)でのカーブ走行や幅2cmの平均台走行が可能になりましたが、その実現にはムラタの電子デバイスが寄与しています。

 詳細を説明しますと、09年モデルでは従来のピッチ方向とロール方向の傾きに加え、ヨー方向を検出するジャイロセンサを搭載。検出した角速度から回転角度(進行方向)を推定し、腹部に追加装備した重量約1kgの「方向円板」の反力トルクを利用して進行方向を変更します。右にカーブしたいときは方向円板を左向きに、左にカーブしたいときは右向きに、1周カーブしたいときは360°回転するという具合に、任意の方向および角度でカーブ走行が行えます。
 また、本体前方の下部には足元を捉えるカメラを追加。平均台上面とタイヤを捉えた画像から進行方向を推定し、方向円板で進行方向を微妙に調整することで平均台走行を可能にしています。これらの詳細は、下の動画で確認して下さい。

 そのほか、障害物までの距離を測定するための超音波センサ(送信用受信用で1対)や、携帯情報端末やパソコンとのデータの送受信を行う2.45GHz帯Bluetooth通信モジュール、バッテリーからの電気エネルギーを変換して各制御回路に供給するDC-DCコンバータなどムラタが取り扱う各種電子部品を実装しています。

 従来、展示会における電子部品などの要素部品の展示は、姿やカタチを見せるだけの静的なものでした。展示パネルには仕様や用途例をはじめ詳細は説明されていますが、わかりやすいとは言い難いです。またPRも不足しています。これに対し、ムラタセイサク君&セイコちゃんを利用した動的な電子部品のPRは、その機能が直感的にわかるうえインパクトも絶大です。同プロジェクトをプロデュースしたロボリューションの小西康晴さんは、従来の『形態展示』に対し『行動展示』と表現しています。
 また、2005年開催の「CEATEC JAPAN 2005」にムラタセイサク君をお披露目して以来、バージョンアップを繰り返しつつ同展でのPRを継続していますが、この継続力が来場者の関心を喚起し、ムラタセイサク君&セイコちゃんによるPRをより一層強力なものにしています。

 そのほか同プロジェクトには、技術的チャレンジを見せることで顧客や社員、子供たちの期待に応えることや、これによりムラタ社内のモチベーションを向上するという狙いもあります。

図1 ムラタセイサク君&セイコちゃんプロジェクトの目的


共感を得るための取り組みが徹底している

 ムラタの影響を受けたからでしょうか、最近はロボットなどの動的媒体を利用した要素部品のPRが散見されるようになっています。が、顧客や社員、子供たちから共感を得て、さらには企業イメージの向上にまでつなげようとするムラタセイサク君&セイコちゃんプロジェクトは突出しています。

 「CEATEC JAPAN 2008」のときがそうでしたが、デモを開始する前にムラタ社員の開発へのこだわりや思い(女性デザイナーたちの生の声など)をビデオ映像で繰り返し伝えていました。ムラタセイサク君&セイコちゃんに込められているストーリーやこだわりを可視化(見える化)することで、大人から子供まで幅広い層に受け入れられるようにしています。また、ムラタセイサク君&セイコちゃんは、たまにデモに失敗することもありますが、あえてそれも見せています。七転び八起きしながらもデモにチャレンジするひたむきな姿を介して、ムラタ社員の開発へのひたむきさも感じさせる意図もあるのでしょう。結果、展示会来場者の共感に結び付けています。

 またCSR活動にも力を入れており、2006年からは全国の小中学校を訪問して理科学習を行う「出前授業」を実施しています。ムラタセイサク君&セイコちゃんを用いて、その開発秘話から性能、実装している電子部品の機能を説明するとともに、理科のおもしろさを伝えています。その活動は、いまや世界へと飛び出しています。
 このような活動の甲斐があり、例えば2006年度の日経企業イメージ調査『技術力がある企業」の一般個人の部門で、24位にランクインしています。電子部品メーカーとしては異例の高順位と言えるでしょう。

図2 ムラタセイサク君&セイコちゃんプロジェクトのおもな特徴

 ムラタでは、顧客や来場者との距離を縮めるために「ムラタセイサク君の科学」をはじめ各種コミュニケーショングッズを用意しています。ただし、これらは展示会に足を運ぶか、ムラタ社員を介してしか入手できません。社外の人から入手を懇願されると、ムラタセイサク君&セイコちゃんの人気の高さを知ると同時に、ムラタへの帰属意識および愛社精神が高まるはずです。こうした仕掛けを組み込んでいることにも感心させられます。

人材確保が最大の成果!?

 ムラタセイサク君&セイコちゃんプロジェクトでは、上述のような成果を得ていますが、ロボナブルでは、こうした活動の結果として、人材確保に結び付いていることが最大の成果と捉えています。

 例えば、2006年度の新卒者の応募者数は、好景気により技術系の採用が激化する中、前年比60%増を達成し、大手セットメーカーに流れる新卒者の抑制に見事に成功しました。
 また同時に、人事労務にかかる経費削減にもつながっています。ムラタのような要素部品メーカーは、学生からの注目度は高いとは言い難いです。人事担当者が各大学の就職課に足繁く通って製品や技術をPRしても、就職希望者を紹介してもらったり応募者数が増加したりするという成果に至りません。しかし、ムラタでは上述のように応募者数が飛躍的に増加し、大学への訪問が不要になっているようです。出張旅費をはじめ人事労務にかかる経費の大幅な圧縮にもつながっています。

 最近の「マイコミ」による就職意識調査によると、学生が就職時に重視するのは「1位:自分のやりたい仕事ができる」「2位:安定している」「3位:働きがいのある」とのことですが、前節で紹介した共感を得る仕掛けを通じて、ムラタから、これらを感じ取った結果なのかもしれません。

手段と目的を違えないことが大切

 話はやや反れますが、ここ数年、全国各地でロボット開発を切り口にした地域振興策が展開されています。新産業の創出、地域経済の活性化がおもな目的ですが、その先に、モノづくり人材の環流を目指そうとする強い意図が垣間見えます。地域の工業高校や高専、大学を卒業しても地元企業への就職を希望してくれる学生が少ないからで、ロボット開発を通じて、このようなモノづくり人材に対し、地元企業の技術力や魅力を伝えようとする意気込みが感じられます。
 しかし、成功事例はほとんど聞かれません(成功しつつある八尾市の取り組み例はこちらを参照)。開発そのものがうまく進展していないこともありますが、手段であるはずのロボット開発が目的と化し、本来の人材の還流という目的に向けた継続的な取り組みが展開されていないことが原因です。1体のロボット開発だけで地元企業の魅力を伝えるのは困難ですし、次代のモノづくり人材から共感を得るのは不可能です。ましてや、開発企業だけが充実感を味わっているような取り組みでは話になりません。

 これに対し、ムラタでは「電子部品PR用ロボット」というコンセプトからぶれず、継続的な活動を通じて上述のような成果を得ています。また、広報部というコンセプトの実現に適した組織が、ムラタセイサク君&セイコちゃんプロジェクトをコントロールしていることが、成功の背景にあります。
 ムラタの取り組みは、単なる電子部品のPRにロボットを活用したと見られがちですが、既述の通り、その効果を最大限にする共感を得る仕掛けを併せて実行し、PRという目的に適した組織が裁量権を持って展開しています。ここに重要なポイントがあります。そして、ムラタセイサク君&セイコちゃんによるPRは人材確保という重要な成果を得るに至っています。

 ロボット開発は、世間や地域の関心を惹くには有効な手段になり得ます。が、新産業の創出や地域経済の活性化の先の結果として、人材の確保につなげるためには地元の共感を得る仕掛けが必須です。加えて、目的に合致した能力を持つ組織が担う、または関わることも必要でしょう。人材確保という視点で見ても、ムラタセイサク君&セイコちゃんプロジェクトには様々なヒントが込められているように感じられます。

■関連サイト
2009.09.28 カーブ走行や平均台走行がこなせるムラタセイコちゃん発表【動画つき】
http://robonable.typepad.jp/news/2009/09/post-e0b5.html

Robotコンサル小西の「超・思考法」
第7回「ムラタセイコちゃん 開発秘話」
http://robonable.typepad.jp/column/2008/10/7-9600.html

第8回 ロボット開発による企業価値の向上
http://robonable.typepad.jp/column/2008/11/robot8-2a70.html