モノづくりは、わが国の今後の発展のために極めて重要であり、モノづくりを支える産業用ロボットの技術革新に終わりはない。産業用ロボットは自動車産業のみならず一般産業のさまざまな分野で活躍している。2001年に産業用知能ロボットが登場し、加工、組立およびその検査工程の自動化率を大幅に向上するとともに、一般産業分野においては、機械部品だけでなく、食品・医薬品ハンドリング分野などにも適用範囲を広げている。産業用知能ロボットは、製造業が現在抱えているさまざまな課題を解決し、国際競争力を向上させる手段として期待が高まっている。ここでは、最近の産業用知能ロボットの特徴および技術動向について述べる。
産業用知能ロボット(知能ロボット)は、ビジョンセンサと力覚センサを搭載し、2002年にマシニングセンタ(MC)へのワーク着脱の自動化を達成して、MCの長時間連続運転による加工コスト削減に成功した。また組立工程では、2009年に入り、従来難しいとされていた携帯電話などの小型電子デバイスや腕時計などの小型精密機器の高速組み立てを可能とする知能ロボットが登場した。さらに、知能ロボットによる加工品、組立品の高速検査も可能となりつつある。
昨今の厳しい経済状況にもかかわらず、知能ロボットの導入は順調に拡大している。そのおもな理由は、知能ロボットが製造コスト削減や納期短縮、熟練作業者減少など多くの課題を解決し、国際競争力を高めるキーテクノロジーになっているからである。それを支えているのは、知能ロボットの要素技術であるビジョンセンサ、力覚センサおよびオフラインプログラミングシステムなどの急速な技術的進歩であるが、最近では、それに加え、人間の能力をはるかに上回る高速化と大型化に向けた大きな技術的飛躍があり、生産システムの革新に寄与している。
1980年は「産業用ロボット普及元年」とされ、自動車分野のスポット溶接工程などのロボット化が急速に進んだ。機械工業における製造工程は大きく加工と組立に分けられるが、まず加工工程の自動化のニーズが高まった。加工工程は、NCにより機械加工そのものの自動化は達成されたが、例えば、旋盤への素材の取り付けをロボットで行う場合、素材を自動的に供給する専用装置を準備し、かつ人がその上に素材を並べてお膳立てをしなければならない。必ずしも自動化のメリットを生かせなかった。
2001年に知能ロボットの登場により、素材をコンテナに入れて知能ロボットの側に搬送しておけば、後は知能ロボットがビジョンセンサを使って素材を1つひとつ取り出すことができるため、専用の部品供給装置が不要となり、その上に素材を並べる手間も要らなくなった。また、知能ロボットは、ビジョンセンサおよび力制御機能により、MCの加工治具へ素材を精度よく取り付けることを初めて可能にし、バリ取り作業の自動化なども実現し、加工工程をほぼ完全に自動化することに成功した。
次に組立工程の自動化ニーズについては、加工工程に比べて遅れていたが、昨今の厳しい製造コスト削減の要求により、組立工程の自動化に対するユーザニーズも急速に高まりつつあり、それに応えるかたちで革新的な高速組立用知能ロボットが登場した。
(1)ロボットセル知能ロボットと工作機械の融合
知能ロボットがMCの加工治具へ直接素材を取り付ける長時間連続機械加工システム「ロボットセル」が開発され、月720時間の連続運転を達成した。知能ロボットは把持した鋳物素材の寸法バラつきに起因する把持ずれを3次元ビジョンセンサで補正する。また、素材を加工治具に取り付ける際、ロボットアームを柔らかく制御することで、素材を加工治具の面に倣わせて正確に取り付けることができる。ロボットセルでは、人件費、加工費および初期設備投資費の削減により加工コストを大幅に削減できる。
写真1は、知能ロボットが2台のCNCドリルに素材の取り付け、加工品の取り外し、バリ取り作業まで行うミニロボットセルである。最近では、CNC画面上にロボットの情報も表示し、ロボットの教示操作盤上にCNCの情報も表示するなど、CNC工作機械と知能ロボットの融合が進み、ユーザーにとっての使い易さが急速に向上している。写真2は、ロボットセルに使用される、可搬質量1tを超える大ロボットである。
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| 写真1 ミニロボットセル | 写真2 大ロボット |
(2)高速組立用知能ロボット
小型電子デバイス、小型精密機器の組立を高速かつ高精度に行える、画期的な高速組立知能ロボットが登場した。このロボットは、その形状から、通称「ゲンコツ・ロボット」と呼ばれるが、写真3に示すように6軸パラレルリンク型ロボットであり、0.5kgまでの部品を高速・高精度に組み立てることができる。写真4にはその適用例を示す。また、複数台のゲンコツ・ロボットを協調制御することで、携帯電話や腕時計など複雑な組立作業が行える。
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| 写真3 6軸パラレルリンク型ロボット | 写真4 高速・高精度で組立作業が行える |
(3)検査用知能ロボット
加工品あるいは組立品の検査をロボットに搭載したビジョンセンサで自動化する際、従来はカメラを把持したロボットを検査個所で一時停止させ、画像を撮像していた。しかし最近は、ロボットを停止させることなく鮮明な静止画像を連続取得する機能が開発され、検査時間を大幅に短縮することが可能になった。また、従来はあまり用いられていなかった対象物のカラー情報も積極的に活用して検査精度を上げている。
今後、労賃の高いわが国の製造業が国際競争力を維持するためには、加工、組立工程の自動化率を可能な限り上げる努力が必要である。そのためには知能ロボットを、ますます高速・高精度で複雑な作業をこなせるように進化させなければならない。また、知能ロボットは、さらに重いワークを取り扱えるようになるとともにケーブル組み立てのような柔軟物も取り扱えるようになるだろう。
それでも、人間でなければどうしてもできない作業は残ると思うが、そのような作業は人間が行い、それ以外の付帯作業は、すべてロボットが行うといった、人間・ロボット協調型生産システムも登場してくるだろう。いずれにせよ、われわれロボットメーカーは、知能ロボットの進化を加速し、製造業の国際競争力向上に貢献していくつもりである。
■関連サイト
2009.10.20 富士経済、12年にパラレルリンク市場は136億円、パワーアシストは58億円に拡大と予測
http://robonable.typepad.jp/news/2009/10/200910202012136.html
2009.04.03 ファナック、小型組立多軸ロボットを発売、手作業並みの俊敏な動作を実現
http://robonable.typepad.jp/news/2009/04/20090403-a272.html
2009.01.05 日刊工業新聞、十大新製品賞発表、ファナックの大ロボットが「増田賞」受賞
http://robonable.typepad.jp/news/2009/01/20090105-01e5.html
自動車の組立作業を代表に、産業用ロボットは機械製造業、食品加工業など幅広い用途で使用されている。最近では、少子高齢化により介護スタッフ不足に対応するため、福祉分野においての利用を目指した様々なロボットが研究開発され、実用化されようとしている。ロボットで使われる動力には電気式モータが大半を占め、用途の拡大に比例して多種多様なモータが開発・実用化されている。特に永久磁石の革新的進歩により大容量から超小型までさまざまなモータ形態が実現されている。
ロボットの機構は、座標系の取り方により様々な呼び方がされ、直交や円筒、水平・垂直多関節形などがあり、最近では人型と呼ばれる人間の動作を忠実に実現するロボットも開発されている。どのような機構にしても、基本は1つの自由度に対しモータと減速機で1つのアクチュエータを構成し、自由度の数だけそれを配置することでロボットとしての動作をつくり出している。
したがって、取り付ける部位によってアクチュエータとして要求する事項に違いがあり、スカラ型ロボットのように細長い形状が適している場合と、多関節型の胴体のように扁平形状が適している場合に分けることができる。
ロボット用モータとして、サーボモータという言葉が使われ、DCサーボモータ全盛の時代は、ペンシル形の細長い形態が取られていた。1990年代に入り、ネオジム磁石の実用化が永久磁石同期モータの特性を急激に向上させ、モータの出力密度が2~3倍になったことから、応用用途が拡大している。
ロボット分野でも当然小型高性能化のため、このモータが使用されるようになり、DCサーボモータに対応する呼称としてACサーボモータという言葉で呼ばれるようになっている。
ACサーボでは、ブラシ・整流子を必要としないため、ペンシル形から扁平形まで必要に応じた形態に設計可能である点が、従来のDCモータと大きく異なる。モータのトルクは、永久磁石のつくる磁束と電機子に流す電流の積であり、巻き線抵抗の低減による効果は非常に大きい。ACサーボでは、モータの巻き線を高密度に巻くための技術開発が行われた結果、ネオジム磁石の効果と相まって従来のモータと比較し格段の性能向上が行われている。
図1に、モータ重量が技術の進歩で改善された例を示す。初期のモータと比較して同一出力で重量が1/2以下となっている。また、モータ設計の自由度が上がったことを利用して、従来減速機がモータと直列に取り付けられギヤドモータにするとペンシル形構造にしかならなかったものを、モータを中空の扁平構造とすることで、減速機を中空部分に取り付けることが可能となり、文字通り扁平のアクチュエータを実現することが可能となっている。
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| 図1 ACサーボの技術革新による性能向上 |
サーボモータの性能を決定する1つの要因は、負荷とモータの慣性モーメントの比を最適なものに設計することである。しかし、汎用のサーボでは、幅広い負荷に対応させるようにドライブを含め設計されていることが極限の性能を追求する際のボトルネックとなる。軸ごとに要求特性を満足するようにモータを専用設計できれば、モータの持つトルク特性を最大限発揮できるようになる。
最近の産業用ロボットでは、極限まで効率的な生産を行うことが望まれており、ソリューションとして、各アプリケーションに最適な機能を持たせるため、汎用ロボットから飛躍的に生産性の向上を図れる専用ロボットが実用化されている。
モータドライブシステムに対しても、要求項目の高度化に対応する開発が進んでいる。システムとしては、パワーと信号ケーブルの取り扱いは、実際の利用に関しては重要であり、配線の引き回しにより動作が制限されることさえある。
モータのトルク定数を大きく設計すれば、配線は細くすることができ、引き回しに有利となるような細かい点まで配慮がなされている。また、使用するエンコーダも絶対値のものが標準で使用され停電対策が施され、しかもシリアル通信を行うなどして少配線化が行われている。
医療・介護分野でのロボット開発が推進されている。そこでは産業用で要求される機能面からの仕様に加え、医用電気機器は国際規格IEC 60601に制定されている安全性を満足するとともに、使用環境からの制約が加わる点が大きくことなる。
安全性の面からは、介護に使用する場合、モータ出力を最小限に抑える必要があるとされる。手術用として医療で使用されるモータは、小型・高出力が求められるためペンシル形DCモータが使用されているが、ACサーボでも極限まで小型化が追求されており、今後の展開が注目される。
医療・介護ロボットでもモータの使用法がキーポイントであり、バッテリー駆動が多いため、小電力、小型・軽量のモータが選定されている。人との接触がある場合には最大トルクが脱調により自然に制限されるステッピングモータも選定の対象になるなど、モータの種類の選定が重要となる。この分野でのモータの使用は、モータ自体が硬いということさえ問題となる。人が衝突しても安全性を確保するということも将来の課題となろう。
アクチュエータとして夢の話としては、多自由度を1つのモータで実現することを目的とした多自由度アクチュエータの研究も行われている。つまり、従来は1軸ごとの動作を積み重ねていたものを、1台のモータで解決しようとするものである。平面を移動する平面モータや、写真1に示す球面モータなどが研究されている。
特に球面モータは、1台で1つの関節が構成できるため、その効果は計り知れないものがある。実用化には、課題が山積しているが、実現した場合のロボット用アクチュエータに与えるインパクトは大きいものがあり、今後が期待される。
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| 写真1 球面モータのプロトタイプ(産業技術総合研究所 矢野智昭主任研究員による開発) |