一般に、ロボットの基本的な特徴は、センサを通じて状況を把握し、その情報をコントローラにフィードバックして環境に働きかける(アクチュエーションする)ことにある。
4月特集にて、「顧客とインタラクションしたり使い心地を把握したりする部分に、このようなロボットの特徴が埋め込まれる可能性がある」。そして、「顧客の状況をつぶさに把握してリアルタイムに提案できる、究極の顧客価値の共創のためのイノベーティブな仕組みや手段の提供に、ロボットやRTの重要な役割がある」という指摘がなされていることを紹介した。
このような考え方は、現在のロボット開発ではまだ見られず、実際にそれを意識したRT応用システムはほとんど提案されていない。
しかしながら、ロボットではないものの、実ビジネスではセンサをはじめとするRTをうまく応用することで顧客との密接なインタラクションを可能にし、リアルタイムなサービス提供により顧客価値を『共創』している取り組みがある。コマツ「KOMTRAX」と森精機製作所の「MORI-NET Global Edition」はその代表であり、ともにいち早く展開することにより、業界内でのプレゼンスの向上につなげている。
KOMTRAXとは、世界中の建設機械の稼働状況などを遠隔監視するシステムである。建機内部のエンジンや油圧コントローラ、各種センサからの情報を、GPSの位置情報とともに衛星通信回線または携帯電話回線などを介して行う。稼働時間(サービスメータ)や車両位置、エラー情報、稼働履歴、作業時間、燃費消費量、使われ方(作業負荷など)、燃料残量やラジエータ水温などを把握することができる。一部参照できないものがあるが(*2)、サービス代理店やユーザーもWebアプリケーションサーバを介して、これらの解析情報を参照することができる。
*2:例えば、故障情報は顧客にまで開示をすると余計な心配を煽り、トラブルの原因になるため、販促代理店にしか開示していない。
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コマツの「KOMTRAX」のシステム概要。GPSにより車両の位置情報をキャッチし、車内に搭載したエンジンおよびポンプコントローラなどの情報を各種センサ情報などととともに、衛星あるいは携帯電話などの通信回線網を介してデータサーバに蓄積。Webサプリケーションにより情報を解析して、サービス代理店や顧客が活用する。 |
コマツでは、これらの情報を活用して保守費や燃料費、オペレータ工賃などの「顧客コストの低減」や、メンテナンスおよび故障修理時間の短縮につながる「生産量(作業量)の向上」に向けた提案を行っている。
具体的には、前者ではサービスメータをもとに、フィルタやオイルの交換をはじめとする的確なメンテンナンスサービスによる保守費の低減。アイドリング時間や省エネ運転モードでの運転時間を管理し、運転指導に役立てることで燃料費の低減を提案している。そのほか、メンテナンス履歴や作業負荷履歴をなどの情報をもとに建機の内部検査を行うことで、下取り価格のアップに結び付けるような提案も行っている。
後者ではサービスメータの進み具合から、作業時間外を利用した、計画的なメンテナンスによる稼働率の確保や、エラー情報などから故障を予測し、重大な故障に発展する前に対応することで故障修理時間を短縮するといった提案につなげている。
一般に建設機械のライフサイクル(購入から下取り売却まで)では保守や燃料費、オペレータ工賃をはじめとする運用コストがかかり、車両価格の3倍近くに上ると言われている。いかに低い運用コストで高い生産量を創出し、かつ車両の残存価値を高めるかが顧客にとっては重要であり、稼働現場の“見える化”により、上述のような提案で応えているのである。また、故障の約7割はメンテナンスの不備により発生しており、いくら品質向上を図っても徒労に終わる可能性が高い。ゆえにコマツにとっても、こうしたサービス提案は重要になる(*3)。
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KOMTRAXで取得できる情報と、それを利用した顧客へのサービス提案。リアルタイムに取得した情報はサービスコンテンツの充実や品質向上だけでなく、経営判断の材料としても活用している。 |
また、コマツではKOMTRAXで得た情報を、生産量や在庫の調整をはじめとする経営判断にも役立てている(*4)。例えば、2004年に中国政府が実施した金融引締め策により需要が落ち込み、建設業界は在庫調整に悩まされたが、KOMTRAXで得たサービスメータ情報から、いち早く生産停止を判断することで、大量の在庫を抱えるリスクを回避したエピソードはよく知られている。
機器開発にも役立てており、例えば中国では1日当たり20時間以上、月当たりでは500時間以上稼働しているというデータからヘビーデューティな仕様にしている。このような地域ごとのきめ細かな仕様決定を可能にしている。
*3:関係者によると、KOMTRAXを運営するプロフィットセンター設立した当初、その導入による費用対効果ばかりを検討しており、顧客や代理店の視点に立ったサービス提案ができていなかった。しかし、「今後は、きめ細かく顧客情報を得るのは当然の時代になる」という当時の坂根正弘社長(現会長)の言葉を受けて、顧客視点でKOMTRAXを運用できる体制になったという。
*4:コマツでは部品の履歴情報などを管理するために電子タグの導入も積極的に進めている。KOMTRAXを上流でのマクロな情報収集ツールとして、電子タグを部品単位の動きを可視化するミクロな情報収集ツールとして、それぞれ位置づけている。
「MORI-NET Global Edition」(以下MORI-NET)は、KDDIの無線通信網(国内)とインターネット(海外)を利用して顧客の工作機械を遠隔監視するシステムである。顧客の工作機械から稼働実績を森精機のサービスセンタに送信し蓄積することで、定期的に稼働情報を提供したり、アラーム発生時には顧客の携帯電話などにメールで通知したりするサービスに役立てている。「MAPPS(*5)」搭載機に標準装備しており、2008年7月に搭載台数は1万台を突破している。
*5:ベースとなるCNC装置に搭載して操作を理解しやすくしたオペレーティングシステム。CNC装置にはファナック製と三菱電機製を採用している。操作しやすいインターフェースによりプログラム作成時間や段取り時間の削減に寄与している。また、可動物の干渉を未然に防ぐ3次元干渉チェック機能やUSBインターフェースなども備える。
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「MORI-NET Global Edition」のシステム概要。KDDIの無線通信網(国内)とインターネット(海外)を利用して顧客の工作機械を遠隔監視する。大きくは、「遠隔保守サービス」と「稼働情報サービス」を提供している。 |
森精機では、景気回復の兆しが見え始めた2002年頃からアフターサービスの強化に乗り出している。伊賀事業所内のサービスセンタ内にコールセンタを設置し、数十名のベテランエンジニア(現在は52名が在籍)による24時間365日体制の電話対応を始めた。ところが、電話のみの対応では状況を把握しにくいうえに、営業担当が訪問しなくも済むような案件が7割近くを占めていた。
そこで、ユーザーが保有する機械のダウンタイムの短縮をはじめとする復旧の迅速化や、営業担当の負荷軽減を図るべく導入したのがMORI-NETである。ベテランエンジニアによる電話対応がアフターサービスの中心であり、MORI-NETはそれをアシストする役割として位置づけている。
現在、森精機ではMORI-NETを通じて「遠隔保守サービス」と「稼働情報サービス」を提供している。
前者では、アラーム発生時に、サービスセンタ担当者が顧客と同じMAPPS画面を見ながらアラーム状況(NCアラームやDGNコード)を診断し、ネットワーク経由でMAPPSを操作するなどリアルタイムな対応を提供している。顧客の機械からアラームメッセージを受信した瞬間に、パソコン画面上に顧客の機種や利用履歴などが表示される「自動ポップアップ機能」により、顧客との円滑な情報共有を可能にしている。
NCアラームやDNGコードがわかるということは、すなわち工作機械が搭載する各センサの情報やスイッチ類のON/OFFを把握できることであり、アクチュエータの位置情報をはじめ、シフタ機構の動作状況、エアシリンダの配管漏れなどを知ることができる。これにより的確な対応を可能にしている。
また、アラーム発生や加工完了の通知を顧客が指定したメールアドレスに通知することもでき、夜間や休日の無人運転時に機械から離れている場合でも連絡をとることができる。
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| 遠隔保守サービスの一例。遠隔操作によるアラームサポート。ネットワークを介してユーザーから送信された診断要求をもとに、サービスセンタがトラブルの原因を診断し、復旧に向けて対応する。 | 遠隔保守サービスの一例。アラーム情報転送。トラブル発生時のアラームや加工完了などの通知を、パソコンや携帯電話など、ユーザーが指定したアドレスに送信する。 |
後者では、顧客がサービスセンタ内に蓄積した情報を遠隔地から閲覧したり、顧客が希望するレポートをメールで送信したりするサービスを提供している。
具体的には、顧客が保有する全体の機械状況を把握できる「フロア画面」、過去に発生したアラームを確認できる「アラーム履歴画面」および、その統計処理をした「パレート図画面」、1日単位や週単位などで加工実績がわかる「加工実績画面」、稼働状態の時間的変化を比較表示した「ガントチャート画面」、稼働中や停止中など各状態の割合を比較表示した「稼働率画面」が把握できる(*6)。
顧客は生産性向上に向けた分析に役立てることができ、また、支社工場を持つ顧客は、各工場の機械稼働状況を一元管理することもできる。
*6:MORI-NET Global Editionは1時間に1度データが送信されるが、リアルタイムにデータが送信される「MORI-NET LAN Edition」もある。こちらでは、加工個数の進捗が確認できる「製造三角図画面」、機械の稼働状態をリアルタイムに確認できる「機械詳細画面」、部品1個ごとの加工時間とアイドル時間の変遷を表示する「サイクルタイム画面」も閲覧したり定期的に送信されたりする。リアルタイム性が確保されているため、主軸回転数やオーバーライド、各軸の負荷情報も把握することができる。
森精機では、上述のコマツと同様、MORI-NETを通じて得た情報を、次期製品開発やサービス品質の向上などに役立てている。例えば、稼働率から部品の交換時期を把握したり予防対策に生かしたりすることができる。
また、稼働率などから業種や企業規模ごとに、また地域や国ごとに機械の使い方や景況が把握でき、開発戦略や販売戦略をはじめ経営判断に役立てることもできる(*7)。森精機では、四半期に1度各地域の開発や営業などのトップが参加する「開発方針会議」を開催しており、「開発戦略の修正をはじめとする意思決定にMORI-NETのデータを役立てている」(高山直士常務取締役)という。
*7:MORI-NET Global Editionによるサービスは無料で提供している。今後、有料化するかどうか、新たなサービスの付加で製品価格を上げられるかどうかなどを議論しているが、「MORI-NETの導入効果を数値で示しにくいといった課題があり、なかなか結論には至らない」(高山常務取締役)という。コマツでも「KOMTRAXによりマーケットシェアはアップしたが、何%寄与しているのかは不明」(コマツ担当者)としており、このようなサービス提供による効果の定量化は難しいようだ。
これら2つの事例では顧客の機械の利用状況をモニタリング(“見える化”)し、リアルタイムでのサービス提案を行うことでカスタマー・ロイヤリティを飛躍的に高めている。また、価値提供と顧客情報の取得との交換を巧みに行うことで、自社の経営に役立つシステムへと育て上げている。
それを可能にしているのは、いずれも各種センサを潤沢に搭載する建設機械および工作機械であるが、このような現場状況(顧客行動)の“見える化”に、センサをはじめとするRTの役割の1つがあると言える。また、ここ数年の両社の躍進を見ると、そうした用途にRTを利用することにより顧客価値の『共創』につながり、さらには経営強化に結び付くことを示していると言える。
加えて、ロボット開発の究極の目標がヒューマノイドであり、眼や耳をはじめ人間の感覚器官の置き換えを目指して各種要素技術の開発がなされてきた。このような外界の検知に役立つ技術開発を行っているわけだから、必然的に“見える化”に適した技術的特徴を有しており、そうした用途を目指すのは自然な流れと言えるだろう。
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「KOMTRAX」および「MORI-NET」の例では顧客の機械の利用状況をモニタリング(“見える化”)し、リアルタイムでのサービス提案を行うことでカスタマー・ロイヤリティを飛躍的に高めている。また、価値提供と顧客情報の取得との交換を巧みに行うことで、自社の経営に役立つシステムへと育て上げている。いずれも各種センサを潤沢に搭載する建設機械および工作機械が、それを可能にしている。 |
以前、本サイト「6月特集」にて農業ロボットの定義が変化しつつあることを説明した。つまり、農業ロボットとは、センシングやハンドリングを通じて、作物や土壌の状態をはじめとする生産情報や作業規範(プロトコル)を取得・蓄積し、事実として提供するツールとして、農作業の“見える化”を達成するツールとして見直されていることを紹介した。
また、その背景として、1つは「精密農業」という圃場管理手法が普及し始め、農家の意思決定を支援する役割が農業ロボットに求められてきていること。もう1つは、食の安心・安全が叫ばれるのに伴い、消費者に向けて一気通貫で生産情報やプロトコルを提供する役割が、つまりトレーサビリティの完成が農業ロボットに求められていることを説明した。このような時代の要諦を受けて、定義の見直しがなされているわけである。
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農業分野における農業ロボットの意義と定義の変化(6月特集より再掲)。農作物情報を生産情報として後工程に引き渡し、蓄積していくことで知的営農に役立てることができる。同時に、流通および消費情報を付加することでトレーサビリティが完成。作物情報として消費者に提供することで作物の付加価値向上につながる。 |
上述の事例と農業ロボットでは、情報として扱う対象も違えば、顧客(ユーザーあるいは消費者)に提供する内容も、顧客価値も異なる。が、それぞれの現場状況の“見える化”にRTを実装する機器(またはロボット)を活用しているという点では同じと言える。
これまで、各種サービスを提供するためのロボットが模索されてきた。しかしながら、それ自身が提供すべき有益なサービスは見出されていないため、また、ロボットによるサービス提供が有益かどうかもきちんと検証されていないため、提案されているロボットに価値が認められていない。
このようなロボットでは、自身のセンサやアクチュエータなどRTを通じて得た情報を自律制御するために利用しているが、上述の事例などを踏まえると、現在は、得た情報を“見える化”に向けて利用する方が、その存在価値を認められる可能性は高い。そして、農業ロボットと同様“見える化”に寄与するシステムに仕立て上げてこそ、RTの価値を高めることができるように思われる。
また、今後のロボットおよびRTの発展を見据えると、ロボット自身でPDCAサイクルを展開して顧客価値の最適化が行えるようになることが期待され(*8)、顧客行動の“見える化”部分にRTを埋め込んでおくと、ビジネスを有利に展開できる可能性がある。
例えば、建設機械にて現場作業の“見える化”をさらに進めていくと、運転者の状態を検知することにより、その状態に適した制御を行うことが行えるかもしれない。あくまでたとえ話しだが、初心者による建機の操作では、坂道に差し掛かると緊張が増して、操作ミスを犯す可能性が高くなるとする。このとき、その緊張の度合いをセンシングし、あるレベル以上に達するとKOMTRAXによる遠隔操作によりアシスト機能に自動的に切り替えてあげるという、個人にフィットした、リッチな顧客価値の共創が可能になる(*9)。
もちろん、このサービスが有効であるか否かという十分な検証が必要だが、このようなサービス提供が技術的に可能になったときに備え、そのベースとなる顧客行動の“見える化”への取り組みを進めておくことに意味があると思われる。
繰り返しになるが、顧客行動および現場状況の“見える化”に、センサをはじめとするRTを利用する価値があり、価値の『共創』に結び付けることができる。それに寄与するようなシステムに仕立て上げてこそ、現在はRTの利用価値を高めることができる。ロボットの有効なアプリケーションを見出すことができない現状では、そうした取り組みが有効に思われる。
なお、こうした用途ではプライバシーの問題にかかわる可能性があるので、その論考ついては「PART3」を参考にしてほしい。
*8:産業技術総合研究 サービス工学研究センターの内藤耕次長は、「生活空間がユビキタスセンサ化し、顧客行動データを取得できるようになってきており、ここにロボットの役割を埋め込むことができる」とコメントしている。また、「ロボットはセンサ、処理系(コントローラ)、アクチュエータを備えており、PDCAサイクルを循環できる」とも言う。つまり「アクチュエーションすることによりAが出力されるが、センサにより、その結果を感知して再度PDCAサイクルを循環すれば、顧客ニーズに合致したサービスを提供することができる。このような人間を含むリアルな世界を処理・分析して次のアクションに展開できるところに、ロボットの利点がある」と説明する。
*9:ナビタイムジャパンが提供するナビゲーションツール「NAVITIME」では、ユーザーが自分の歩行スピードを「せかせか」(5km/h)、「ゆっくり」(4km/h)、「のんびり」(3km/h)の3つから選択し、それをもとに列車の乗り換え時間を算出している。最近は、GPSからユーザーの歩行スピード算出し、過去の行動パターンや検索履歴などの情報を組み合わせることで、より個人にフィットしたナビゲーションを行えるように変更している。ユーザー情報の取得により個人により適したサービス提供を可能にしている。
大阪ガスでは、行動観察技術をサービスサイエンスに活用する取り組みを行っている。そして、必ずしも複雑なシステムを利用しているわけではないが、行動観察による調査を通じてリアルタイムな改善に役立てている。その一例として、イベントでの生産性向上に向けた取り組みを紹介する。
大阪ガスでは、毎年秋から冬にかけて計150以上の会場で「ふれあいガスてん」を開催している。日頃ガスを利用している顧客への感謝を示すとともに新しい機器のPRを行うイベントであり、顧客と直接ふれ合える重要な場として位置づけている。
2006年から計15回のイベントにてリアルタイム改善を実施しており、①会場レイアウトの変更による滞留時間の長期化と、②販売員の立ち位置変更による顧客動線の改善で、成果を上げている。
①は、木陰効果の創出により、意図的に顧客の滞留時間を長くした例である。イベント会場で人の流れの方向に沿ってポスターが展示されている場所では、通路スペースでは人の流れに押されてしまい、ゆっくりと展示を眺めることが難しい。これに対し、観葉植物を設置したような木陰のスペースでは、それが目隠しとなり、人の流れを気にせずに眺められる傾向にある。そこで、観葉植物の設置前と設置後との滞留時間を比較・検証したところ、通路スペースでは平均11秒だったのに対し、木陰では約2倍となる平均24秒という結果を得た。
「人には他人と一定の距離を保ち、パーソナルスペースを維持しようとする心理が働く。観葉植物の設置により落ち着けるスペースが確保されたからだろう」と、大阪ガス 情報通信部 松波晴人課長は分析する。そして、重要なポスターを見せる場合は木陰に配置するなど、通行人が視線に入らないような空間設計を行うよう指導しているという。
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| 観葉植物の設置による木陰効果の検証。観葉植物の設置前と設置後との滞留時間を比較・検証したところ、通路スペースでは平均11秒だったのに対し、木陰では約2倍となる平均24秒という結果を得た。 | パーソナルスペースの理論。人には他人と一定の距離を保ち、パーソナルスペースを維持しようとする心理が働く。観葉植物の設置により落ち着けるスペースが確保され、滞留時間が延びたと考えられる。 |
②は、レイアウトや係員の配置変更により、意図した顧客動線に改善した例である。ガスてんを開催した、あるイベント会場は円形をしており、顧客の動線は会場入口から左回りにすることを意図して展示レイアウトを行った。初日に現場で人の動きを観察したところ、意図に反して40%しか左回りをしていないことが判明し、動線が自然と左回りになるよう展示方法を改善した。
おもに実施した方法は、会場入口付近のモノの配置や並びの変更、係員の立ち位置の変更、ディスプレイ関係の配置変更である。具体的には、「来場者が入口から入ろうとするのに妨げとなるよう立ち位置を変更して自然と入口から入場するような配置にした」(松波課長)と話す。こうした改善により、翌日のイベントでは80%の顧客の動線を左回りに変更することができたという。
大阪ガスでは、これら以外にもイベントなどを通じて得た知見を定量的なデータと人間工学に基づく理論とともにノウハウとして蓄積している。そして、ガスてんをはじめ各イベントで、行動観察を通じて分析し仮説を立てて、リアルタイムにノウハウを実行している。
今後の課題としては、より一層のイベントの生産性向上を図るべく、画像自動処理技術の導入やセンサシステムを利用した人数カウントの負荷軽減などRT(*10)の利用を挙げている。
「特定行動のカウントや、仕草や表情の分析など人間行動の定量化に役立つシステムがあれば、その利用には前向きではある」(同)とのことだが、現状では、「そこまで踏み込んだシステムはないようだ。今後は人間の様々な行動を正確にカウントできるシステムが開発されることを期待したい」と説明する。
*10:大阪ガスでは以前、イベントでの来場者の年齢や性別といった属性情報の取得に、「Part2」で紹介するNECソフトの「FieldAnalyst」の利用を試みた。が、同社従業員や販売員の出入りが多いために、検出データをそのまま利用することができず、また、キャリブレーションなどの問題から、十分に使いこなせなかった。
(取材協力)
森精機製作所
常務取締役
開発・製造本部 本部長
高山 直士 氏
ゼネラルマネージャー
開発・製造本部 制御技術部
樫原 圭蔵 氏
大阪ガス
情報通信部 課長
松波 晴人 氏
情報通信部 エネルギー情報技術チーム 係長
大西 道隆 氏