ロボナブル 2008年 7月特集
農業ロボット企画 第2弾 拡大する“空間ロボット”「植物工場」とRTの融合を予測する!


  「『野菜工場』、丸紅販売へ」。
  6月26日付けの朝日新聞に掲載された、総合商社による植物工場への参入はテレビでも頻繁に取り上げられており、最近高まりつつあった植物工場への関心をより一層強くしている。

 植物工場とは、この研究に長年携わる東京農業大学の高辻正基客員教授によると、「野菜や苗を中心とした作物を施設内で光、温湿度、CO2、培養液などの環境条件を人工的に制御し、季節に関係なく自動的に連続生産するシステム」と定義されている。植物工場には、後述する「太陽光利用型」と「完全制御型」があるが、低農薬または無農薬の高品質作物を、天候に左右されることなく、狭い土地利用で大量生産できることに特徴がある。

 その一般的な構成は、おもに各種センサ、コントローラ、(簡易なアクチュエータを含む)栽培装置、栽培ノウハウ(栽培ソフト)、各種光源などから成る。見方によっては、センサ、コントローラ、アクチュエータのロボットの3要素を空間内に分散配置した“空間ロボット”と見ることができ、農業ロボットの分類に加えられることもある。今月は、空間ロボットの1つとして植物工場を取り上げ、その技術動向から、今後の植物工場とRobot Technology(RT)とのさらなる融合までを考察する。
 なお、本稿では最近の植物工場の動向を踏まえたうえで考察を行っているので、今後の植物工場とRTとの融合のみに関心のある方は、最終節を参照してほしい。

完全制御型植物工場のイメージ プレハブ式の完全制御型植物工場
完全制御型植物工場のイメージ。サラダ菜換算で日産1,000株規模になる。栽培室のほか機械室や出荷・作業室などがある(イラスト提供:有機等利用植物工場研究会)。 プレハブ式の完全制御型植物工場。発芽室、育苗室、培養室などとして利用することがきる。このような小規模なタイプの植物工場もある(写真提供:エスペックミック)。
食の安全・安心で再び目覚める植物工場

 植物工場への期待が高まっているのにはいくつかの理由があるが、代表的なものは「食の安全・安心」への志向と「食料安全保障」の問題である。  
 前者は、2006年5月に施行された「残留農薬ポジティブリスト制」が深く関係している。これは、基準値以上の農薬が検出されるすべての食品の流通販売を原則禁止する制度で、安全・安心な食品の供給が義務化された。当然、生鮮食品にも適用されるものであり、急増する輸入野菜には逆風となるのに対し、完全無農薬で栽培できる(完全制御型)植物工場には追い風となっている。
 また、「食の安全・安心」の観点から、少々高価でも国産農作物に切り替える動きが、消費者レベルから食品加工工場レベルまで起きており、より強力な追い風にしている(*1)。

*1:植物工場では生産工程の情報管理を行うことができるため、トレーサビリティが高まり、消費者に対してより多くの生産情報を開示することができる。食の安全・安心に寄与する。

 後者は、作物の栽培が気象条件により収穫量が変動しやすいことなどが関係している。天候や土壌の影響を受けやすく、生産量が不安定になりがちな露地栽培を補う役目として、施設園芸が発展してきたが、夏場の温度管理が難しく周年での供給まではフォローできていない。しかも、大雨や渇水による被害、気温の上昇など、地球温暖化が関係していると思われる影響が現れてきており、食料自給率の低さ(カロリーベースで約39%)および輸入穀物の高騰も重なり、収穫の不安定さへの懸念がより一層高まっている。

 植物工場は、特に完全制御型は立地条件が柔軟であり、植物の育成ラインを本棚のように縦方向積み重ねた立体的な構成をとることができる。単位面積当たりの生産性が非常に高い。蛍光灯やLEDといった熱放射の小さい光源が登場したことによるものだが、このような特徴により、わが国のような狭い土地でも、またビルや倉庫でも大量生産ができ、食料安定生産の補助的な役割を果たすことができる(*2)。また、いざというときの食料安全保障になる可能性も秘めており、その期待を高めている。

*2:安定生産ができるということは、知的営農によるビジネスモデルを構築する1つの要素になり、若年層に就農希望者を広げると期待されている。
植物工場が必要とされるおもな背景 植物工場が必要とされるおもな背景。

 これらに加え、高付加価値物質の安定生産・供給という要求も、植物工場への関心を高めている。  例えば、産業技術総合研究所などが生活習慣病の予防に役立つ高機能性物質入りイチゴ(*3)を、また、千葉大学などはイネ種子にて経口ワクチン(食べるワクチンコメ)を、植物工場で生産する研究にそれぞれ取り組んでいる。
  医薬品と試薬品としての遺伝子組み換え植物の安全性は担保されていないため、閉鎖環境にて物質の出入りを管理することが求められている。栽培工程から製剤化工程までを安全に管理し、かつ安定的に生産するための手段として、閉鎖型の植物工場が選択されている。

「アグロ・イノベーション2008」で展示された「完全閉鎖系栽培施設モデル展示」でのイチゴの栽培例 「アグロ・イノベーション2008」で展示された「完全閉鎖系栽培施設のモデル展示」でのイネの人工栽培例(ワクチン米ではない
「アグロ・イノベーション2008」で展示された「完全閉鎖系栽培施設モデル展示」でのイチゴの栽培例(高機能イチゴではない)。
光源には蛍光ランプ〔HF((High Frequency)型(松下電工製)およびHEFL(Hybrid Electrode Fluorescent Lamp)型(ツジコー製)〕を採用して栽培している。実際の密閉型植物工場では、収量は1作で3.2kg/m2。年4作が可能で年間生産量は12.8kg/m2になる。
「アグロ・イノベーション2008」で展示された「完全閉鎖系栽培施設のモデル展示」でのイネの人工栽培例(ワクチン米ではない)。光源にはセラミックメタルハライドランプを使用している。実際の閉鎖型植物工場では、玄米600~850g/m2を年4作できる。面積当たり水田の5~6倍の収量があるという。

*3:完全に外界と隔離した人工環境下で種々の組み換え植物体を通年・安定的に育成し、実用化モデルとして実証することを目的に実施した取り組み。産総研のリリースによると、わが国で遺伝子組み換え植物を利用したものづくり産業が加速的に形成され、その市場規模は国内で300億円に及ぶ(2010年)との見通しがなされていた。

植物工場の形態と特徴

  植物工場のタイプは、既述の通り、大きくは「太陽光利用型」と「完全制御型」に分けられる。
  太陽光利用型は、その名の通り、太陽光を利用して栽培するシステムである。従来のハウス栽培や水耕栽培の延長線上に位置づけられる。カイワレ大根や三つ葉、リーフレタスなどの各種葉菜類、トマト、イチゴ、バラなどの生産が行われている。カゴメが1998年より販売している「コクミトマト」は、大型の水耕温室で周年生産されたものである。
  果菜類や穀物の生産には必須となっているが、システムの特性上天候に左右されやすい。特に夏場は温度管理が困難で窓の開閉などを行う必要があるため、植物工場と言いながら、無農薬栽培が難しい。また、平面式での栽培に限られるために広大な設置面積を必要とし、単位生産量当たりでの設備コストがかかる。

太陽光利用型植物工場の一例 完全制御型植物工場の一例
太陽光利用型植物工場の一例。写真は農業・食品産業技術総合研究機構 野菜茶作業研究所(愛知県武豊町)のUECSモデルハウス。トマトを栽培している。 完全制御型植物工場の一例。写真はエスペックミックの有機水耕栽培の実験プラント。

 一方、完全制御型は人工光のみで生産を行う。一般には人工光の照度、日長、温度、湿度、養液PH/EC、液温、CO2などを自動制御して、栽培に最適な環境を維持する。
 天候や場所に左右されず、植物の育成ラインを縦方向に積み重ねた立体的な構成にできるため、狭い土地で大量生産が行える。また、細菌数が非常に少なく、環境条件を適切に制御しているのでビタミンやミネラルの含有量が多い(*4)。すでに普及しているモヤシやキノコに加え、レタスやホウレンソウ、ハーブをはじめとする葉野類が栽培されている。

*4:高辻客員教授によると、「野菜の栄養価は第一義的に言えば光量で決まり、十分な光量が照射されれば栄養分が高くなる」という。

 ただし、設備コストに加えて電気代がかかるため、太陽光利用型と比して採算ベースに乗せるのが難しい。結果、光源の選定および組み合わせ、光強度および照射の方法、反射膜の材質および形状の選定など、電力代の多くを占める光源が議論の中心となっている。現在、使用されているおもな光源は、以下の図のようにまとめられる。

植物工場で利用されるおもな光源 植物工場で利用されるおもな光源

 また、現在技術でも果菜類や穀物類の生産は可能だが、成長した部分のほとんどを出荷できる葉野菜と異なり、実の部分しか出荷できないため採算ベースに乗せるのは難しい。そのために、葉野菜類の生産が中心になっている。

 こうした事情から、完全制御型植物工場に自然光を利用する、ハイブリッド型と言える「屋上採光型植物工場」(日建設計など(*5))が研究されている(http://www.materialhouse.co.jp/sun/album006.html)。自然光を採光・搬送する光ダクトシステム(*6)と自動調光制御技術を採用したもので、自然光を取り入れながらも、栽培空間を一定の光強度を一定に維持することができる(*7)。実験では、照明エネルギーの7~10%を削減しつつ、人工光のみの環境で栽培したリーフレタスと同等の品質を確保できたことを確認したという。
 ただし、自然光という制御不可能な光源を利用するため、いかに定量的に、そのエネルギーマネジメントが行えるが課題となっている。

*5:「二酸化炭素固定化・有効利用技術実用化開発」(経済産業省)として取り組まれた。

*6:内側を鏡面仕上げにしており、開口部からの入射光を反対側へ搬送し、その途中または末端で光放射する機構を持つ。鏡面の可視光反射率が高いため減衰が少なく、自然光を効率良く採光することができる。

*7:この実験施設では、排CO2を有効利用することにより、植物の生産に使用するCO2ボンベ製造時のCO2排出削減、より安い価格でのCO2ボンベの購入にも取り組もうとしている。植物工場とエネルギー循環、自然エネルギー利用を融合させていることから、「地球環境工場」という概念を打ち出している。

2008年の植物工場の動向と施設概要

 既述のような植物工場への関心の高まりを受け、今年に入り、生産拡大が次々と発表されている。
 完全制御型植物工場を中心に見ていくと、「てんしの光やさい」というブランドにて葉野菜を生産するフェアリーエンジェル(http://www.fairyangel.co.jp/)は8月より、福井県三方郡美浜市にて月産約35万袋の植物工場を稼働させる(*8)。同社は、京都市に月産約3,000袋と千葉県野田市に月産約14万袋の工場を有しており、これにより生産量は3倍以上になる。

 また、野菜ブランド「ベジタス」を提供する野菜流通業のスプレッド(http://www.vege-tus.com/)は、2007年12月に京都府亀岡市で日産6000株、年産200万株の植物工場を稼働させ、3月より出荷を開始した。14ライン×12段で栽培しており、年間20回の収穫が可能。単位面積当たりの栽培効率は、20回転/年×12段=240回転になるという。2期工事の増設エリアがあり、2倍以上の生産能力も可能という。
  いずれの工場も蛍光灯による多段式水耕栽培方式を採用している。

*8:6月には、三菱化学と植物工場における業務資本提携を発表している。植物育成および植物工場運営の省電力化・高効率化に向けた共同開発を行うほか、「てんしの光やさい」の物流および販売での相互協力、第三者割当増資の引き受けによる三菱化学の資本参加(2億5,000万円)について締結した。

 同様の栽培方式を採用するみらい(http://www.2004-mirai.co.jp/TOP2.html)は、今年度に入り、水耕栽培システムと野菜栽培ノウハウの提供事業をスタートすることを明らかにした。自社製装置と専門スタッフを派遣し、栽培の技術指導を行う。外食チェーン、食品加工会社などをターゲットに初年度2、3件の販売を目指す。
 提供するのは、三波長タイプの蛍光灯を使った水耕栽培システムと、葉野菜の栽培ノウハウ。約60m2からの小規模スペースに対応するため、レストランの調理場内などでの栽培が可能。自社開発の栽培システムには安価な汎用機材を用いており、導入費用は建物改装や空調設備費を含めて2,000万円からと低コストに抑えている。
 また、みらいは2月より植物工場を南極昭和基地に設置し、遠隔制御により栽培実験を実施している。栽培データを取得し、日本から遠隔的に栽培コンサルティング行い、栽培の安定化に取り組んだ。

みらいの三波長タイプ蛍光灯を使った水耕栽培システム みらいの三波長タイプ蛍光灯を使った水耕栽培システム。水耕栽培システムと野菜栽培ノウハウの提供事業をスタートさせた。

 各種電子機器の設計開発・製造を受託するランドマーク(http://www.landmarkinc.co.jp/)は7月に、光源にLEDを利用した完全制御型植物工場の販売を発表している。
 水耕栽培方式を採用しており、換気扇により外部からCO2を取り込む。センサ情報に基づいて溶液やCO2濃度、温湿度などを最適化し、液体肥料と水を重力で循環させる。水量は露地栽培の1/10以下で済むという。

ランドマークが発表したLEDを利用した完全制御型植物工場のイメージ ランドマークが発表したLEDを利用した完全制御型植物工場のイメージ。図の通り、4段の栽培ラック6台を使用すると栽培面積は12.96m2となり、レタスの場合、月産960個になる。

 光源となるLEDは48本を使用しており、発光面は約90cm。4段の栽培ラック6台を使用し、栽培面積は12.96m2。レタスを栽培した場合、月当たり960個生産することができる。設置面積は11.5m2で済むため、単位面積当たりで露地栽培の70倍以上の生産が行えるという。
 同植物工場は、1,000m2以上の大規模型にも対応できるとのことだが、「都市部などの大消費地の近くに小規模施設を点在させ、ネットワーク化(*9)させることが有効」(岡崎聖一社長)と捉えている。「携帯電話の基地局のようなイメージ」とのことで、これにより作物価格にかかる輸送費を低減することができ、かつCO2の削減につながると考えているという。

*9:遠隔制御によるモニタリングも可能で、これにより「自社がハブとして機能し、営農家同士の技術交流を深め、新たなイノベーションを興すことができれば」と、岡崎社長は話す。

 また、冒頭で紹介した丸紅の取り組みは、「有機等利用植物工場研究会(*10)」(http://www.orgpf.com/)の枠組みによるものであり、ここでは蛍光灯を主光源に赤色LEDを組み合わせた植物工場を提案している。赤色LEDを一定程度加えることにより生育が促進され(葉緑素は赤光を最も吸収する)、かつ甘くなることが知られているからである。
 最大の特徴は従来、まったく対照的な生産方式とされていた有機栽培と植物工場を組み合わせたことで、有機土壌および有機液肥料による栽培システムを採用している。因果関係はまだ明らかではないが、リーフレタスの栽培実験で、野菜のえぐみや苦みの原因になる硝酸態窒素(*11)が格段に少ない、完全無農薬野菜の栽培に成功したことが報告されている。

蛍光灯と赤色LEDを利用した栽培 蛍光灯と有機土壌による栽培例(エスペックミック実験プラント)
蛍光灯と赤色LEDを利用した栽培。波長660nmのLEDによる補光を行っている(エスペックミック実験プラント)。 蛍光灯と有機土壌による栽培例(エスペックミック実験プラント)
植物工場と有機利用植物工場の違い 植物工場と有機利用植物工場の違い
(ヴェルデ資料をもとに本サイトにて作成)。

 現在は、栽培ノウハウに蓄積に取り組んでおり、「有機土壌や有機液肥を約半分ずつ投入して硝酸態窒素を抑えて美味しさを上げたり、LEDにより植物の活性化を変えてビタミンCの含有量を大きくしたりといった提案を行えるよう、各種パラメータの抽出作業に取り組んでいる」(エスペックミック 環境モニタリング事業部の中村謙治部長)という。すでに秋にはある運送会社が、有機等利用植物工場を建設し、栽培に着手することが決定しているという。

*10:会長は東京農業大学の高辻正基客員教授が、副会長は大阪府立大学の村瀬治比古教授が務める。会員企業は、朝日工業社、エスペックミック、ヴェルデ、シリコンメディア、九州電力、丸紅の6社(2008年6月現在)。有機培地(ヴェルデナイト)はヴェルデが、光源はシリコンメディアが、各種栽培装置はエスペックミックが提供し、丸紅はこれらの販売を担うほか、栽培した作物の流通を担う。将来的には、丸紅自身が植物工場を運営することもあるという。

*11:硝酸態窒素とは、摂取されると体内で毒性の強い亜硝酸ナトリウムとなり、発ガン性の強いニトロソアミンを生成する。また、血液中のヘモグロビンと結合して酸素欠乏症を引き起こす。過剰の化学肥料を投入したり、光環境が弱くて十分な光合成が行われなかったりした場合に、葉に大量に残ることがある。植物工場では、光強度を高くし肥料を制御することで低下させることができるという。

 植物工場では、後述するように、電気代の大半を占める光源が議論の中心となっているが、計測・制御システムの低コスト化にも取り組まれている。
 農業・食品産業技術総合研究機構 野菜茶業研究所(愛知県武豊)高収益施設野菜研究チーム(http://vegetea.naro.affrc.go.jp/)では、自律分散制御システムにより低コスト化を図った「ユビキタス環境制御システム(Ubiquitous Environmental Control System:UECS)、http://www.uecs.info/」を利用した農業の自動化・高度化に取り組んでいる。
 小規模な施設園芸向けの情報化を促すことを目的に開発され、また「導入する施設は選ばない」(高市益行チーム長)ため、完全制御型でも太陽光利用型でも環境制御に利用することができる。

 UECSでは、施設内の各種機器およびセンサに「ネット化マイコン」と呼ばれるマイコンボードを搭載し、LANを介して通信し、それぞれが自律的に協調しながら計測・制御を行う。UECSではネット化マイコンを搭載した装置を「ノード(node)」と表現している。
 node単体で動作する自律動作を重視した設計となっており、必要に応じて、nodeを追加してシステムアップすることができる。node単体では高度な制御は行えないが、LANにプログラム制御nodeやPCを接続すれば、群制御や複合環境制御など大規模な制御も自在に行える。同研究所では、下図に示すように、複数のnodeを開発し作動させている。
 また、自律分散制御であるため、万一故障が発生しても全体のシステムダウンを招くことがなく、自動的に切り替えて制御運転を継続することができる。挙動がおかしなnodeは容易に特定できるため、その交換によりすぐに修復することができる。

野菜茶業研究所の実証ハウスにおけるUECSのシステム構成 ネット化マイコン基板
野菜茶業研究所の実証ハウスにおけるUECSのシステム構成。室内気象node、室外気象node、天窓node、カーテンnode、暖房機node、簡易コンソールnode、スイッチnodeなどから構成される。植物工場において、このような分散制御システムを用いた例はあまりないという(図提供;東海大学 星岳彦教授)。 ネット化マイコン基板。サイズは90×110mm。各種機器およびセンサにこれを内蔵し、LANを介して通信し、それぞれが自律的に協調しながら計測・制御を行う(写真提供:東海大学 星岳彦教授)。

 従来、集中型の制御方式では1個所の温室コンピュータに施設内すべての機器とセンサを接続する必要があるうえ、配線の電気信号規格はバラバラで、配線および設置工事が複雑だった。しかも、汎用性を高めるために入出力点数や制御機能が、導入可能な園芸施設に設置される全機器の上限仕様に合わせて設計されており、オーバースペックになるきらいがあった。
 UECSでは、複数台のnodeを設置する必要があるが、1つのnodeがカバーする計測・制御が簡素であり、マイコンボードも簡略化できるため、nodeを100個程度設置した場合でも、集中型システムと比較すると6~7割程度の初期コストで済むという。

従来の集中制御型システムの構成 UECSを利用した自律分散システムの構成
従来の集中制御型システムの構成
(図提供:東海大学 星岳彦教授)。
UECSを利用した自律分散システムの構成
(図提供:東海大学 星岳彦教授)。

 UECSではUDP(User Datagram Protocol)などインターネットで使用される標準プロトコルに準拠しており、携帯用ゲーム機や携帯電話機のWebブラウザ上から各nodeを遠隔操作・計測を行うことができる。
 また、「nodeの出口であるLANの通信規格のみを共通化している」(同チーム安場健一郎主任研究員)ため、各種機器やセンサは各ベンダーが自由に開発することができ、ネット化マイコンを付与するだけで、既存製品でもnodeとして容易に製品化することができる。
 いまはエヌアイシステム1社が基板や開発環境およびミドルウエアを整理している状況だが、「さらなるベンダーの参入により、また共通基板の量産効果により、現在1万2,000円強するネット化マイコンの価格をさらに低減できる」(安場主任研究員)と見ている。

UECSを設置したモデルハウス 天窓に設置したnodeの一例 室内気温・湿度nodeの一例
UECSを設置したモデルハウス。 天窓に設置したnodeの一例。他nodeからの温度や湿度などの情報をもとに、モータを駆動して天窓を開閉する。 室内気温・湿度nodeの一例。
「ニンテンドーDS」上からも各nodeを遠隔操作・計測が行える 野菜茶業研究所が開発したUECS用温室モニタソフト(図提供:東海大学 星岳彦教授)
「ニンテンドーDS」上からも各nodeを遠隔操作・計測が行える。 野菜茶業研究所が開発したUECS用温室モニタソフト(図提供:東海大学 星岳彦教授)。  
現在植物工場が抱える課題、人件費の圧縮でロボットが必要? 

 前節での説明からわかるように、植物工場の市場、特に完全制御型では中心プレーヤーは中小・ベンチャーである。
 昨年、富士経済がまとめた「2007年版アグリビジネスの最前線と将来予測」(https://www.fuji-keizai.co.jp/market/07053.html)によると、(完全制御型を対象とした)2006年度の植物工場の市場はわずか13億円である。このような企業規模でないと成立しない市場になっており、丸紅のような総合商社の参入は、それだけインパクトが強いのである。その最大の原因は、ひとことで言えば「露地栽培に対して、コスト競争力で勝っているとは言い難いから(*12)」(東京農大 高辻客員教授)である。

*12:みらいやフェアリーエンジェルなどが経営的に成り立っているのは、「創業当初より販路を意識した取り組みがきちんとなされていたから」と指摘する声が多い。例えば、フェアリーエンジェルでは、自社の直営レストラン「天使のカフェ」(http://www.tenshino-cafe.com/)などで栽培した野菜を提供し、消費者の認知度高めたうえで販路の拡大を図っている。また、みらいは植物工場と一体となった野菜ショップ「グリーンフレーバー」にて、栽培した野菜を販売。新鮮かつ安全・安心であることをピーアールしている(同社では、野菜生産機能と店舗販売機能とを一体化させた「サービス業の農業」という新しい事業モデルを提案している)。

 コストに占めるおもな項目は、償却費、電気代と冷房コストである。一般には10年間で採算がとれるよう計算がなされるが、この場合、「償却費が約4割、電気代が約2割、人件費が約2割程度を占める」(エスペックミック中村部長)という。電気代のうち約7割を光源が占めており、これ以上電力代がかかると、経営的に成立させるのは困難だろう」(同)という。

 2007年4月、植物工場へのLEDの導入を牽引してきたコスモプラントが資金繰り悪化のために事業停止に陥った。同社では、比較的安価な赤色LEDのみを利用し、それのみで育成できるリーフレタス、ルッコラ、小松菜などを栽培していた。それでも、LEDパネルのコストが設備コストの半分近くを占めていたとのことで、LED植物工場は照明設備コストが大きく、また、完全制御型植物工場は採算に乗せるのが容易ではないことを印象づけた。

 現在、利用されている光源は、人間のための照明用途として最適化されており、植物の栽培に適した仕様にはなっていない。ゆえに、光の照射が最大のノウハウとなっており、光の照射、栽培する作物に適した照明の選定と組み合わせ、光の強度や波長、反射板の材質や形状などで差別化がなされている。
 光源をはじめ反射板など関連する部品や機材の開発が求められるが、最近になり、光強度の調整などの研究に加え、光質の測定やおよび調整方法の研究が盛んになっていることは、コストダウンに向けて明るい材料と言える。

HEFL型蛍光灯とHL型蛍光灯の照射比較(日本アドバンスアグリ資料より) HEFL型蛍光灯とU字型反射板。中央に見えるのはインバータ
HEFL型蛍光灯とHL型蛍光灯の照射比較(日本アドバンスアグリ資料より)。独自のU字型反射板の設置により、平面に強い光を均一かつ近接での照射を可能にしている。管を減らしても明るさを向上できるという。同社では、EEFL(External Electrode Fluorescent Lamp)とCCFL(Cold Cathode Fluorescent Lamp)を総称してHEFLと表現している。いずれも液晶テレビのバックライトに利用されている。 HEFL型蛍光灯とU字型反射板。中央に見えるのはインバータ。
光源の選定、反射板の設計がノウハウとなっており、ここに省エネのポイントがある。

 人件費の圧縮については優先順位は若干低くなるが、ここにロボットを導入する余地があると考えられている。現在、栽培した作物の収穫や包装、苗の移植作業はほぼすべて手作業で行っている。植物工場で一般的な水耕栽培の場合、これらの作業は「簡易的なハンドリングロボットでも十分に行える(*13)」(高辻客員教授)という。
 「1日5,000株程度の生産量で、これらの作業に約40名の人員が必要になる」(同)とのことで、いくらアルバイトやパートでカバーしても、相当なコストになるという。まだまだ植物工場の施設数が少ないため、そうした用途はまだ注目されていないのだろうが、「一定程度の規模の植物工場であれば、ハンドリングをはじめとする自動化ツールは十分必要とされるだろう」(高辻客員教授)という見方があり、実際、「人件費削減を目的としたロボット化(自動化)は必要」(みらい関庄八マネージャー)という声がある。このような用途でまず、植物工場とロボティクスとの融合が図られるのかもしれない。

 そのほか自動化を支えるツールとして、ムービングベンチやスペーシング装置など搬送装置がある。前者は搬送機能を備えたベンチで、後者は植物の生育に合わせて間隔を広げる搬送機構を備えた装置である。一部の植物工場にて利用されている。

搬送機能を備えるムービングベンチの例(写真提供:エスペックミック) 植物の生育に合わせて間隔を広げる搬送機構を備えるスペーシング装置(写真提供:エスペックミック)
搬送機能を備えるムービングベンチの例(写真提供:エスペックミック)。搬送装置の導入も人件費の圧縮には欠かせない。 植物の生育に合わせて間隔を広げる搬送機構を備えるスペーシング装置(写真提供:エスペックミック)。

*13:上述の産総研などが進めている高機能性イチゴの生産では、先月紹介したイチゴ収穫ロボット(http://www.robonable.jp/monthly/2008_06/p1.html#p004)の利用が考えられる。遺伝子組み換え体を封じ込めるために、動線を一方通行にするなど、作業員の行動を制限している。真空専用サーボモータを採用したり可動部を低発塵にしたりするといった手間があるが、必要とされている分野の1つと言える。

これからの植物工場とRTのさらなる融合はどこに?

 ここからが本特集の本題である、植物工場とRTとのさらなる融合の模索となるが、まずは今後の植物工場の発展から触れてみたい。

 植物工場とロボットとの関連性に詳しい大阪府立大学大学院生命環境科学研究科の村瀬治比古教授(http://www.bioinfo.osakafu-u.ac.jp/~nishiura/)は、完全制御型植物工場の有効性を指摘しつつも、「現時点では不完全な技術で成立させようとしているので経営的に苦しくなっている。そこに現在植物工場の苦しさがある」と話す。
 つまり、かつて1980年代に電力会社が植物工場の研究に着手したときは、電力を利用することを前提としたシステムが組まれていた。その技術を継承しているために、上述のように「いつまでもエネルギーコストの課題を抱え、結果、光源ばかりが議論されている」(同)というのである。

 ゆえに、今後の植物工場の発展を図るうえで重要な取り組みとなるのは、「育種技術および栽培ノウハウの確立になるだろう」(同)と指摘する。
 植物工場に投入されるのは、おもにエネルギー(光源)、遺伝情報、水と栄養であり、これだけで生産が行える。このうち最も理解されていないのが遺伝情報であり、植物工場での栽培に適した遺伝子を持つ作物の育種技術(品種改良または遺伝子組み換え)が進んでいない。「結果、植物の特性に支配された経営になっている」というのが、村瀬教授の主張である。
 例えば、国内で栽培されるコメは、総じて「倒れにくい」という特性を備えるが、そればコンバインなどによる機械収穫に適した品種改良がなされたからである。同様に「密植型」「矮性型」「微量な光量」・・・で育つといった特性を持つコメを育種することができれば、エネルギーコストを格段に低減することができ、コメの栽培でも経営的に成立させることができる。今後の育種技術への取り組みにより、達成させる可能性は十分にある。

 このように、植物工場に適した育種技術および栽培ノウハウが確立されると、「(完全制御型植物工場では外乱がないため)化学プラントと同様、プロセス制御による栽培が可能になり、品質管理という観点から、イメージセンサおよび画像処理技術が必須になるはず」と、村瀬教授は予測する。

今後の植物工場の発展とRTとの融合 今後の植物工場の発展とRTとの融合。

 植物には、個体差や遺伝子の異常により、同じ環境で栽培した作物でも成長にバラツキが生じる。しかし、例えば栽培している作物の成長点の温度などをセンシングし、成長が遅れていると診断されば、重点的に栄養を補給したり別の場所に移動して成長を促進したりすれば、バラツキを低減して品質を均一に保つことができる。「非接触かつ3次元で情報が得られれば理想」(同)とのことだが、作物の状態を測定できるイメージセンサと画像処理技術を確立し、工場内に分散配置することにより工業製品と同様、一定の品質を確保することが可能になる(*14)。

 近い将来、植物工場は「センシング技術を中心としたロボティクスとの融合が図られることになる」。また、「こうした品質を議論できるレベルになってはじめて『植物工場』と表現するに値するものになるだろう」と、村瀬教授は話す。
 育種技術の開発はこれからであるが、その動向を睨みつつイメージセンサおよび画像処理技術を進めておくことにより、今後、より一層の拡大が期待される植物工場分野に進出する機会を得られる可能性は高い。ここに、農業分野でのビジネスチャンスの1つがあると言える。

*14:これに関連すると、電気学会にて農業センサの専門員会が立ち上げられた。2008年6月から2011年3月までの約3年にわたって議論がなされる。「農業分野のへの高度なセンサ類の導入を目指した取り組みとのことで、ロボット関連の研究者も多数参画することになる」(高辻客員教授)という。

(参 考 文 献)
1)高辻正基:完全制御型植物工場、オーム社,2007.
2)澁澤ほか:精密農業の新たな展開,精密農業,pp.152-pp156,朝倉書店,2007.
3)星岳彦:UECSの特徴と現状,国際競争力を備えた環境制御システムに実現に向けて ~施設園芸の競争力強化を狙って~要旨集,2007.

■取材協力
東京農業大学客員教授 高辻 正基さん
大阪府立大学大学院生命環境科学研究科 教授 村瀬 治比古さん
エスペックミック 環境モニタリング事業部 部長 中村 謙治さん
農業・食品産業技術総合研究機構 野菜茶業研究所 高収益施設野菜研究チーム チーム長 高市益行さん、同主任研究員 安場 健一郎さん
ランドマーク 代表取締役 岡崎聖一さん
みらい 総務部 マネージャー 関 庄八さん