ロボナブル 2008年 6月特集
農業ロボット企画 第1弾 ロボティクスがもたらす農業革新
PART1
農作業の省力化・効率化に寄与するか!? 最新!主要農業ロボットの技術動向

 「プロローグ」にて現在、農業ロボットが必要とされている背景を述べた。そして、農水省による施策などを通じて、かなり以前より各種農業ロボットの開発に取り組まれていることを紹介した。
 ここでは実用が期待される主要な農業ロボットを取り上げ、その開発動向および要素技術を概説する。農業・食品産業技術総合研究機構 生物系特定産業技術研究支援センター(生研センター、http://brain.naro.affrc.go.jp/)にて取り組まれている農業用ロボットを中心に概説する。

 同センターでは、トラクタや田植機などの運転や作業を無人化したロボットを「車両系ロボット」、トマトやイチゴなどの果菜類の収穫や、野菜苗の接ぎ木作業を自動あるいは無人で行うものを「マニピュレータ系ロボット」と表現し、農業ロボットを大きく分類している。本稿でも、その分類に倣って紹介する。
 インテリジェンス化した農業施設や植物工場は、センサ、コントローラ、アクチュエータのロボットの3要素を空間内に分散配置した「空間ロボット」と見ることができる。農業ロボットの一種に分類される場合もあるが、植物工場については来月の特集として解説する。
なお、本稿は生研センター企画部 企画第2課の松尾陽介課長の協力および講演資料をもとにまとめている。

車両系ロボットの概要

 車両系ロボットとは、トラクタや田植機など従来農業機械の走行部、作業部を制御できるように改造し、その上に無人走行や作業を支える航法センサやコントローラを装備したものを指す。市販の農業機械をベースに開発しているため、有人でも運転することができる。
 作業部は市販品をほぼ踏襲しており、無人運転のための各種航法システムの完成度が性能を左右する。そのほか、圃場までの運搬や苗などの資材の補給、安全に配慮した人との関わりなども、重要な開発課題になる。

 おもな車両系ロボットの開発事例および動向は、以下の図の通りにまとめられる。約20年前から農業用車両の無人走行やロボット化に向けた研究開発がなされている。農林水産省の「次世代農業機械等緊急開発事業(通称「緊プロ」)」などを通じて、2000年頃には基礎研究はほぼ完成し、以降は実用化に向けた改良や、各種RTを適用した自動化が取り組まれている。

車両系ロボットの開発事例①(1987年~1995年)。 車両系ロボットの開発事例②(1996年~2001年)。

 近年は、高精度かつ比較的低コストのGPSが普及し始め、車両系ロボットの発展に寄与している。また、車載LANとして標準となっているCAN(Control Area Network)を搭載することにより、操舵・変速・3点リンク昇降などの運転操作を電気信号とアクチュエータにより行えるようなったこと(Drive-by-Wire)も、その発展に寄与している。

車両系は航法システムの確立がポイント

 クボタ(http://www.kubota.co.jp/)と日本航空電子>(http://www.jae.co.jp/)、生研センターは、32馬力の市販トラクタをベースに耕耘ロボットの開発を進めている。同ロボットは、航法システム、作業ソフトを組み込んだメインコントローラ、車両コントローラおよび車両制御システムから構成される。航法システムは、利用状況に応じて「光学測量装置方式」「DGPS(DifferencialGPS)方式」「電磁誘導方式」を選択できるようにしている。

耕耘ロボットのおもなシステム構成(航法システムを中心に)。 耕耘ロボットで採用した光学測量装置「XNAV」の概要。

 上図に示した耕耘ロボットは、「XNAV」と呼ばれる光学測量装置方式を採用したものである。基準局として圃場外に設置した光学測量装置が、車両上の光反射標識を自動追尾しながら位置計測を行い、計測位置を無線通信で車両に送信することにより位置情報(XY平面座標)を特定する。また、移動局となる車両側は搭載した地磁気方位センサと傾斜センサにより、走行の向きや姿勢情報を取得する。基準局と移動局との通信は、通信モデムにより行っている。

 使用できるエリアは数百m2程度だが現時点では、位置精度および信頼性の点でGPS方式よりも優れているという。コストについては、「数cm程度の高精度GPSを使用した場合とほぼ同等の250万円程度だろう」(生研センター松尾氏)という。
なお、開発している耕耘ロボットは、作業ソフトの入れ替えにより任意の区画で耕耘や代かき、播種などの各種作業が行える。

 農業・生物系特定産産業技術研究機構 中央農業総合研究センター(http://narc.naro.affrc.go.jp/)では、航法システムにGPS方式を利用した田植えロボット(http://narc.naro.affrc.go.jp/projects/agrobots/rice_t_j.html)を開発している。
 これは、市販の6条田植機をベースにしたもので、RTK-GPS(Real-Time KinematicGPS)により位置情報を、圧電振動ジャイロと傾斜センサを組み合わせた姿勢センサ(*1)により車体の傾斜と進行方向を計測。これらをもとにメインコンピュータで各部の操作量を算出して、PLCにより制御信号を送信して操舵やエンジンスロットル、クラッチなどをコントロールする。2006年以降は、すべてのセンサやアクチュエータをCANバス上に配置している。
 植え付け作業時は設定した作業経路に沿って走行するよう操舵制御し、圃場の端ではゆっくりと、中央付近では速く走行するように作業速度を制御している。また、枕地(両端での旋回などで一時作業を中断するためにできる、部分的な一種の空地)では2度に分けて旋回することで、無理のない旋回を可能にしている。

*1:北海道大学 農学部でトラクタ用に開発されたものを使用している。圧電振動ジャイロ、傾斜センサ、データ処理用のマイコンから構成される。ロール角、ピッチ角は傾斜センサの反応の遅れを圧電振動ジャイロで補正することにより時間遅れなく計測できる。また、ヨー角GPSによって得られる走行軌跡データをもとに圧電振動ジャイロに生じるドリフトを補正することで、正確な数値を計測している。従来は、姿勢センサには高価な光ファイバジャイロ(FOG)を利用していた。
中央農研が開発を進めている田植えロボット。 田植えロボットは2006年にバージョンアップし、すべてのセンサやアクチュエータをCANバス上に配置している。

 開発した田植えロボットでは、数cm程度の測位精度が求められるためRTK-GPSを用いている。
 従来、RTK-GPSは、前もって正確な位置がわかっている基準局から、補正情報を無線で移動局となる田植えロボットに伝えるために基準局と移動局の両方にRTK-GPS受信機の設置が必要だった。しかし、2003年5月より国土地理院の電子基準点のリアルタイムデータを利用できるようになり、移動局の近辺にこれらの電子基準点を使用した、仮想化した基準点を設置して補正情報を配信するサービスが開始されている。移動局のみでRTK-GPSと同等の測位精度が得られるようになった。
 この田植えロボットでは、携帯電話などで補正情報配信サービス局と通信し、その情報を得ることにより、移動局のみで2台を用いたときと同等の測位精度を得ている。低コストでのシステム構築を達成している。

 同じくRTK-GPSを利用したものに、北海道大学の野口伸教授(http://www.agr.hokudai.ac.jp/)らが開発する耕耘ロボット(トラクタロボット)がある。クボタの市販トラクタをベースに開発したもので、RTK-GPSと姿勢角センサ、これらを統括する制御コンピュータ、車両コントローラなどから構成される自律走行システムを搭載している。車両コントローラはCANバスにより外部機器と通信しており、制御コンピュータだけでなく、他のECU(Electronic Control Unit)でも制御できるという。RTK-GPSにはトリンブル社製MS750を採用しており、計測精度は2cm、計測周期は10Hz。

 また、野口教授らの研究グループではマスター・スレーブシステムにより、複数ロボットを協調して農作業させるシステムも試作している。開発したシステムでは、マスター側はスレーブに対し、ある相対角および距離を維持して走行するよう命令し、逐次自身の車両情報を送信し続ける。一方、スレーブ側はマスターの車両情報に基づいて車両制御を自律的に行う。
 各ロボットはエンジン回転数、ステアリング制御などが行えるように改造している。また、RTK-GPSと方位センサ、車両通信用の無線ルータを搭載。アクセスポイントを介してデータを通信できるよう構成している。ロボット間および管理ホスト間でやり取りする情報には、動作命令、情報報告、情報要求の3つを設定している。

実用化された車両系ロボットもある 

 そのほか、車両系ロボットには防除ロボットがある。すでに市販化されたものにヤンマー農機(http://www.yanmar.co.jp/index-agri.htm)と生研センターが共同開発した「果樹園無人スピードスプレーヤー(SS)」がある。1993年より発売している。
 走行経路に誘導電線を敷設し、電磁誘導により無人走行を可能にしている。工場内で資材搬送などを行うAGVと同じ原理である。果樹園では、果樹を植え替えたり土を深く起こしたりすることがあまりないため、このような簡素な方式を利用できるという。市販品であるため、障害物を検出する超音波センサやタッチセンサを装備するなど安全対策もなされている。

ヤンマー農機と生研センターが共同開発した「無人スピードスプレーヤー」。1993年に市販化。 果樹園内の誘導電線の敷設例。敷設した誘導電線に沿って走行する。

 また、ハウス内で使用する防除ロボットとして、丸山製作所の「シャトルスプレーカ」や共立の「ロボットスプレーカ」などがあるが、これらも誘導電線により無人走行を行っている。
 防除作業では薬剤が飛散する危険性があるため、このようなロボットが利用されることが多い。生研センターの松尾氏によると、現在までに計3,000台程度が普及していると推定される。

 富士重工業は市販の草刈り機をベースに開発した「草刈りロボット」を発表している。RTK-GPSと地磁気方位センサなどにより無人走行を行っている。障害物センサによる障害物回避や、埋設した磁鋼による進入禁止領域の設定、非常停止リモコンによる緊急停止、接触型バンパスイッチによる緊急停止など、各種安全システムを装備している。

 除草に関連すると、水田除草ロボットの研究もなされている。カルガモのように水田内を動き回って除草を行う。九州農研センターにて開発されているものや、みのる産業(http://www.agri-style.com/)などが「地域イノベーション創出研究開発事業」(経済産業省)の枠組みで取り組む「水田用小型除草ロボット(通称「アイガモロボット」)」などがある。

果菜類を収穫するマニピュレータ系ロボット 

 農業分野におけるマニピュレータ(MP)系ロボットは、対象物の検出を行う視覚部、作業を行うマニピュレータ部(アーム部)、これに付加したハンド(エンドエフェクタ)部から上半身が構成される。また、下半身側は、移動機構と制御コントローラ、動力源や収穫物の収容部などから構成される。マニピュレータや移動機構に市販品が利用される場合があるが、それ以外は独自開発された要素部品から構成される。

 マニピュレータ系ロボットは、車両系ロボットと比較して、“ロボットらしい”構成となっている。また、視覚部とコントローラによる高精度な認識・判断およびエンドエフェクタ部の「ソフトハンド技術」が、性能を大きく左右する。イチゴ収穫ロボットやトマト収穫ロボットなど、とりわけ柔軟物を扱うものは、その実現が求められている。

 これまでに研究・開発に取り組まれたマニピュレータ系ロボットは、以下の通りにまとめられる。車両系ロボットと同様、約20年前から着手されている。トマトやミカンなどの収穫ロボットの研究開発は大学を中心に、野菜苗の接ぎ木など園芸作業用ロボットの開発は生研センターや企業でなされている。なお、図に「☆」印を付けたものは、すでに実用化されているものである。

マニピュレータ系ロボットの開発事例①(1987年~1994年)。 マニピュレータ系ロボットの開発事例②(1994年~2004年)。
ソフトタッチがポイントになる果菜収穫

 イチゴ生産では、規模拡大を図るうえで収穫作業やパック詰め作業の省力化が求められており、高設栽培を対象にした収穫ロボットの研究がなされてきた。また、イチゴは非常に柔軟であり、これを扱えれば他の果菜類の収穫にも流用できるとの考えから、複数の研究機関で取り組まれてきた。
 しかしながら、「収穫適期の果実の100%収穫は困難」「収穫速度が遅い」「果実を傷つける」「不整地での安定走行が困難」といった課題があり、実用化へのハードルが高い。

 生研センターとエスアイ精工(http://www.si-seiko.co.jp/)では、これらの課題を踏まえたイチゴ収穫ロボットの開発を進めている。収穫ロボットは作業者が寝ている夜間に収穫可能な果実のみをゆっくり、かつ確実に収穫し翌朝、収穫できなかった果実を作業者が収穫する「協働作業体系」を想定したもので、2005年には1号機を、今春には2号機をそれぞれ発表している。

エスアイ精工と生研センターが共同開発しているイチゴ収穫ロボット。 2008年春にバージョンアップしたしたイチゴ収穫ロボット(写真提供:生研センター)。コンテナ収容部を備え、摘み取られた果実を待機しているそれに計44個を1段ずつ詰める。満杯になると、専用ストックスペースに収納される。コンベヤ上にコンテナがなくなれば次の空コンテナが待機場所まで運ばれてきて摘み取られた果実を詰める準備をする。ストックスペースにはコンテナ数12個(イチゴ個数528個)のスペースがある。

 1号機の技術情報をもとに説明すると、おもに視角部、マニピュレータ部、ハンド部から構成される。また、ハンド部は果実吸引壁と把持フィンガーから成る。移動はレール上を前後進して行う。上の写真で示したように、通路側から収穫するイチゴを認識して摘み取りを行う。

 主要部の詳細を紹介すると、まず視覚部は、カラーカメラ3台と偏光フィルタ付き照明4灯から構成される。カメラはハンド上部に1台を、ほか2台をマニピュレータ部にそれぞれ設置している。ハンド上部のカメラは3次元位置の測定誤差を補正するために使用している。
 イチゴの認識は、左右のカメラで撮影した画像を画像処理して赤く熟した果実を認識し、ステレオ画像法により、ターゲットとする果実の3次元位置を推定して行う。色合い(熟度)の推定は、左カメラから撮影した画像の中から果実の赤色部と緑白色部をそれぞれ抽出し、これらの面積の割合から行っている。
 各カメラにも偏光フィルタを付加しており、照明とカメラの偏光方向を調整することで果実表面のハレーションの発生を抑制し、鮮明な画像の撮影を可能にしている。光環境の変化が少ない夜間に稼働するため、高精度な色合い推定を可能にしている。

イチゴ収穫ロボットの視覚部とハンド部。 2008年春にバージョンアップしたイチゴ収穫ロボットの視覚部とハンド部(写真提供:生研センター)。視覚部はカラーカメラ3台と偏光フィルタ付きLED照明5灯からなる。左右のカメラで撮影した画像に画像処理を施し赤熟した果実を認識したのち、ステレオ画像法によりターゲットとなる果実の3次元位置を計測する。中央カメラは、3次元位置の測定誤差を補正するために用いる。収穫ロボットは夜間稼働することを前提としており、光環境の変化が少ない状態で安定した画像が得られ、高精度な着色度合いの判定が期待できる。

 また、ハンド部は吸引壁とカッター付き把持フィンガーから構成され、これらは独立して前後移動をする。収穫は、マニピュレータ制御により視覚部およびハンド部が果実にアプローチした後、吸引壁により吸引し引き寄せ、把持フィンガーで果柄を切断して行う。このような方法により、イチゴという柔軟物をソフトに扱えるようにしている。収穫した果実は、収容トレイに順次配列していく。

 ただし開発した1号機は、上述の通り、通路側からターゲットとする果実にアプローチするため、果実の手前に他の果実や茎葉がある場合は収穫が難しい。果実手前に障害物をなくし、独立して実が付いている果実を対象に性能を確認したところ、収穫適期の果実20のうち15を収穫でき、1つ当たり9~18秒で行えたことが報告されている。が、それを実現するためには、「ロボットが収穫しやすいイチゴの育種が前提となる」(生研センター松尾氏)。果実が重なったときの精度の改善が課題の1つのようだ。
 イチゴ収穫ロボットの中は、このような場合に備え、色合いの推定に加えて補完的にパターンマッチングを応用しようとしているものもあるという。

 なお、今春発表した2号機は、バッテリー駆動により自走および収穫動作が可能となった。おもな構成は1号機をほぼ踏襲しているが、それぞれ機能強化がなされている。
 視覚部は、カラーカメラ3台と偏光フィルタ付きLED照明5灯からなり、左右のカメラで撮影した画像に画像処理を施し赤く熟した果実を認識した後、ステレオ画像法により目的果実の3次元位置を計測する。中央カメラは、3次元位置の測定誤差を補正するために用いる。
 また、ハンド部も1号機の構造をほぼ踏襲しているが、未熟果や複雑なものは取りにいかず、後で人が判断、収穫できるようアルゴリズムを変更している。2号機は1つ当たり9~12秒で収穫できるという。

 イチゴ収穫ロボットは、宇都宮大学院発のベンチャー・ロモビリティ陽東(http://www.utsunomiya-u.ac.jp/news/2006/n_060824/n_060824.html)でも開発を進めている。こちらも色合いから収穫適期を推定しているが、天候や時間帯に左右されずに認識できる点に特徴がある。現状では、収穫した果実の収納や収穫速度に課題があるが、2~3年後の実用化を想定しているという。

 なお、イチゴ収穫では、パック詰めを担うロボットの開発により「収穫日」「時刻」「収穫位置」「着色度合い」「サイズ」「糖度」「酸度」などの生産物情報の取得が期待される。トレーサビリティの観点から、その開発は重要視されており、イチゴ収穫ロボットと併せて開発が検討されている(*2)

*2:栃木県農業試験場と日本協同企画(http://www.n2k.co.jp/index.html)は、イチゴを傷めずにパック詰めまでを行う自動選果・調製機を研究している。糖度センサなどを利用した非破壊品質評価機能を搭載することにより、品質保証がなされた均質なイチゴの供給を目指した。

 イチゴ収穫と同様、トマト収穫においても収穫ロボットの開発が盛んに進められている。トマトはわが国で栽培される果菜類の中で最も生産量が多いことから、労力軽減を目的に収穫作業のロボット化が研究されてきた。

 生研センターでは、ハウス栽培の生食用トマトを対象にしたトマト収穫ロボットの開発に取り組んでいる。おもに視覚部と、マニピュレータ部およびハンド部から構成され、パイプレール上を走行して移動する。マニピュレータには市販の6軸多関節ロボットを使用。また下図に示すように、ハンド部には独自開発した、4つのフィンガーにより把持・収穫を行う開閉式のものを利用している。トマトを掴み、捻ねることで果柄の部分からもぎ取る。

生研センターにて開発しているトマト収穫ロボットのおもなシステム構成。 トマト収穫ロボットの視覚部とハンド部。

 このロボットは、鏡面反射を利用して収穫作業を行う。ここで言う鏡面反射とは“てかてか”したトマト表面の凸部が、照明により白く映る状況のことである。上図のように、視覚部のハロゲンランプにより対象付近を照らし、2台のCCDカラーカメラと画像処理により、収穫するトマトの背景からの識別および抽出と、果実の中心位置を検出している。
 現在の性能は、果実固体の半分以上が見える状況において、収穫すべき果実の50~70%程度は収穫できる。認識から収穫までのインターバルは約15秒のレベルという。

開発したトマト収穫ロボットによる収穫作業の様子。

 トマト収穫ロボットの開発では、岡山大学の門田充司教授の研究(http://mama.agr.okayama-u.ac.jp/)も知られている。門田教授の研究グループでは、2種類のロボットを開発している。
 1つは、果実を離層からもぎ取って収穫する方法を採用したものである(http://mama.agr.okayama-u.ac.jp/robot01.html)。収穫を行うハンドは、開閉する平板フィンガー、前後にスライドする吸着パッド、この圧力を検出する圧力センサなどから構成される。
 収穫の手順は、まず吸着パッドを最も前方に伸ばした状態で果実に接近する。パッドが果実に吸着したことを検出すると、パッドを後退させて平板フィンガーで把持。最後に、ハンド全体を回転させて果実を離層からもぎ取る。吸着パッドの動作により、収穫するトマトを他の果実から引き離し、フィンガーが把持しやすくする点に特徴がある。
 また、このロボットにはミニトマト用エンドエフェクタを搭載することもできる。これには吸引装置と光センサなどを付加しており、エンドエフェクタ内に吸い込んだ果実を光センサが感知すると、吸口部のシャッターが閉じ、取り付けたカッターが果柄を切断する。

 もう1つは、遠隔操作による作業を想定したシステムである。距離センサとカラーカメラを搭載した別のロボットが温室内を移動しながらカラー画像や3次元距離情報を収集し、それをホストコンピュータにより収穫適時の果実の識別や距離検出を行う。作業者はWebを介して、これらの情報を閲覧することができ、ロボット側に判断ミスなどがあれば遠隔から修正することができる。
 こちらのシステムでは、収穫ロボットには4つのフィンガーを有するハンドを用いている。前後に移動するパッドなどの基本構造は、上述のロボットと同じである。
 フィンガーは、複数のナイロン製チューブが連携された構造となっており、パッドが後退する動作に同期して、果実表面に沿って湾曲して把持する。包み込むように把持するため応力集中が発生せず、果実のへの損傷が少ない。こちらのロボットも同様、離層から果実をもぎ取って収穫する。

 そのほか、果実収穫を行うロボット(*3)にナス収穫ロボットがある。視覚・検出部はテレビカメラと超音波センサから、ハンド部はフィンガーと収穫ハサミからそれぞれ構成される。マニピュレータの動作により、ある程度の距離まで果実に近づいた後、カメラ画像と超音波センサにより果実にさらにアプローチし、開いたフィンガーと収穫ハサミを果柄部に入れて保持・切断する。認識から収穫までにかかる時間は30秒程度という。

ナス収穫ロボットの収穫作業の様子。超音波センサとTVカメラにより収穫物を認識する。
*3:収穫ロボットの研究開発は、「担い手の育成に資するIT等を活用した新しい生産システムの開発」(農林水産省、2007年度~2011年度)でも取り組まれている。「収穫・選果作業ロボット技術等を活用した低コスト施設園芸体系の確立」にて、複数の研究機関にて取り組まれている。約6,000万円程度の予算が付けられている。


実用化されたマニピュレータ系ロボット

 「ロボット」の分類に加えるか否かが議論されることがあるが、上述の果菜収穫ロボットと異なり、接ぎ木ロボットは1990年以降、さまざまなタイプのものが実用化されている。
 接ぎ木とは、2つ以上の植物体を、人為的に作成した切断面で接着資材(クリップなど)にて接着して、1つの個体とする作業である。このとき上部にする植物体を「穂木」、下部にする植物体を「台木」という。高品質な果菜類を安定生産する栽培技術として広く普及しており、キュウリやスイカ、ナス、トマトの約6割が接ぎ木栽培されている。

 接ぎ木ロボットは、穂木と台木を人手で供給し、接合部の切断、接合とクリップ止め、コンベヤ排出を自動で行う「半自動タイプ」と、穂木と台木の供給もセルトレイごと自動で行い、接がれた苗のセルトレイへの挿入も自動で行う「全自動タイプ」がある。
 また、接ぎ木の方法により分類され、「合わせ接ぎ木タイプ」や「挿し接ぎタイプ」などがある。前者は穂木、台木ともに胚軸を斜め、または水平に切断し、両方の切断面を合わせて接着・固定する方法。後者は、台木胚軸にヘラで穴を開け、そこにくさび状に削った穂木を差し込む方法である。接合時にはクリップなどは使用しない。下図は、前者の方法により接ぎ木を行うタイプで、1993年に井関農機(http://www.iseki.co.jp/)より市販されている。

井関農機と生研センターが開発した半自動接ぎ木ロボット。1993年に市販化されている。 半自動接ぎ木ロボットの接合部と作業の様子。

 接ぎ木ロボットの国内の普及台数は、500台程度と見られているが、ほとんどが半自動タイプであり、おもにウリ科の接ぎ木で利用されている。一般に、接ぎ木ロボットは、自動化が向上するほど胚軸長、胚軸径、曲がりなどの苗性状や育苗方法に対する条件が厳しくなる。半自動ではこれらの条件が緩く、従来の育苗管理法をあまり変えなくても済むため普及した、とされている。

 接ぎ木ロボットと同様、マニピュレータ系ロボットでは「搾乳ロボット」が普及している。搾乳ロボットとは、ロボットのセンサおよびアームにより乳頭への搾乳機器を自動装着するシステムである。
 一般的に、搾乳ロボットは搾乳ストール、搾乳牛のID識別機能、飼料給飼機能、乳頭位置計測センサ、ロボットアーム、搾乳機(ティートカップ)、これらを制御するコンピュータと、搾乳データを管理するデータベースから構成される。
 搾乳作業は次のような流れで進む。まず牛は自らの意思で搾乳ストールに入出する。その時点で牛の固体識別を行う。牛の乳頭を自動で清拭した後、センサにより乳頭位置を計測し、搾乳機を装着して搾乳を行う。そして、搾り終えたら搾乳機を離脱させて牛を搾乳ストールより退出させる。搾乳した乳量は、固体ごとにコンピュータで記録管理する。
 搾乳ストールに入出した際に配合飼料を与えることで、自発的に入出するための動機づけにしている。

 搾乳ロボットはおもに2つに分類され、複数頭の搾乳が行えるマルチユニットタイプと、コンパクトな1ユニットタイプがある。
2007年時点で、世界23カ国で5,000台以上、国内でも約200台の納入実績があるオランダのレリー社の「ASTRONAUT」は、後者のタイプである(わが国は輸入商社のコーンズ・エージー(http://www.cornesag.com/jp/)が扱っている)。
 ASTONAUTでは、乳牛が自発的に搾乳室に入ると、ロボットが乳頭の洗浄やティートカップの装着および搾乳、各装置の洗浄などを自動的に行う。また、管理プログラム「T4C」を用いて個体ごとに搾乳や乳頭情報、乳質、日乳量、泌乳などを管理することができる。さらには、表示される乳質レポートから、牛の異常乳の発見など健康状態のチェックも行える。

 現在、市販されている搾乳ロボットは、「フリーストール飼養」という放し飼い牛舎での使用を前提としている。このような飼養が普及しているオランダでは、搾乳施設の更新時に、約半数の酪農家が搾乳ロボットの導入を決定しているという。また、酪農政策により酪農経営が搾乳ロボットに適した頭数規模に制限されおり、その普及を後押ししている。
 これに対し、わが国の酪農家の飼養体系は約9割がつなぎ飼いであり、また、搾乳ロボットのコストの問題もあり、搾乳ロボットの普及はまだまだ進んでいない。

 搾乳ロボットに関連すると、安川電機(http://www.yaskawa.co.jp/)は今年初めに開催された「技術革新フェア」にて、双腕ロボット「MOTOMAN-DA20」を搾乳作業に適用した事例を紹介している。
 双腕ロボットが、搾乳台に乗った牛の乳頭に搾乳機を取り付けるという単純な作業だが、使用する搾乳機および作業環境を変更することなく、そのまま適用できることを示した。
 同社によると、乳牛は乳を搾らないと生命の危機に陥るため本能的に絞られることを望んでおり、ロボットによる搾乳作業もすんなりと受け入れるという。また、お尻の位置から乳房や乳頭の位置を推定することができ、そのためのセンサ類は不要と説明した。

 同社は、労働力不足を補うという観点でロボット開発に取り組んでおり、人間に近い動作をするロボットの提供により、人間が行っている作業をそのままロボットに置き換えることを目標にしている。また、人間の上半身と近い形態にすることにより、人間が使用する作業環境の変更を最小限にとどめることができ、かつ使用するツールと同様のものを利用できると考えている。それを具現化したのが双腕ロボットである。
 ただし、あくまで上述のような観点から模索した例であり、実際の搾乳作業にそのまま適用するとは考えにくい。

農業分野でもアシストスーツの開発が

 車両系とマニピュレータ系に分けて紹介してきたが、「これらをすべて導入すると、儲かるのはメーカーだけ」(農業関係者)という悩ましい事情になることが想定される。1台のロボットでマルチに作業を行えるのが理想的であり、そうした見方の延長から、東京農工大の遠山茂樹教授(http://www.tuat.ac.jp/~toyama/)らが研究を進める、農作業の負荷の軽減を目指した農業用パワーアシストスーツ(*4)に注目が集まっている。

東京農工大の遠山教授らが研究開発を進める農業用パワーアシストスーツ。超音波モータを両肩、両肘、腰、両膝の計8に配置。角度センサや圧力センサなど4種類のセンサで検知した人間の身体動作に基づき、超音波モータを適度に動かしてアシストを行う。

 開発したスーツは、軽量かつ剛性の高いABS樹脂を骨格構造とし、超音波モータを両肩、両肘、左右の腰、両膝に計8つを配置している。角度センサや圧力センサなど4種類のセンサで検知した人間の身体動作に基づき、超音波モータを適度に駆動させる。
 また、あらかじめ覚え込ませた動きのパターンを再現する手法も組み合わせている(*5)。例えば、大根の収穫では膝と腰にかかる負担が大きいため、この場合は、それらの部分を重点的にアシストすることで作業負荷の軽減を図る。
  ロボットスーツは現在約18kgあり、うち約12kgを超音波モータが占める。2009年度までに超音波モータの軽量化を図ることで、総重量6kg程度を目指すという。

*4:「ウエアラブルアグリロボットの実用化」として、「農林水産研究高度化事業」(農林水産省)の枠組みにて、2007年度~09年度まで実施される。研究実施機関は、東京農工大のほか、NPOぐんまネット、東京都農林水産振興財団東京都農林総合研究センター 。

*5:視点を変えれば熟練作業者の高度な作業内容をデータ化することにより、若い作業者にそれを追体験させることもできる。技能伝承ツールとして役立てることもできる。

(謝 辞)
  本稿の執筆では、生物系特定産業技術研究支援センター(生研センター)企画部 企画第2課の松尾陽介課長に、同センターで研究開発する農業ロボットをご教示いただいたうえに、参考資料および写真類の収集で多大な協力をいただきました。本稿で掲載した図のほとんどは、松尾課長よりご提供いただいたものです。また、農林水産省 農林水産技術会議事務局の中嶋勇研究調査官には、多くの参考資料をご提供いただきました。ここに感謝申し上げます。

(参 考 文 献)
1)松尾陽介:ロボット化技術を応用した農業機械の開発 ~生研センターの取組みを中心に~,平成18年度 新技術セミナー,2007年3月7日.
2)澁澤ほか:農業情報と機械化技術,精密農業,pp.35-pp42,朝倉書店,2007.
3)野口ほか:農林業生産現場で活躍するロボット,農林水産技術研究ジャーナル,農林水産技術情報協会,Vol.28 No.11,2005.