ロボナブル 2008年 5月特集
俺の起業!ロボットベンチャー奮戦記2008 ビジネス拡大に向けて邁進する、その後の彼ら・・・
CASE STUDY3
清掃単価が低いビルメン業界に戦略的提案を試みるフィグラ
-競走優位を示すことで導入への突破口を拓く-

 人と協調して清掃作業をするフィグラの清掃ロボット「フィグラ・アイ」。目の前に人がいるときちんと停止し、かつ道を譲ってくれるよう行儀良く声をかける“健気さ”から注目を集めた。
 製品としてのほぼ完成の域に達していることから、昨年は、実際に清掃現場で利用する事業パートナー選びに注力した。すでに清掃現場では多くの清掃機械を導入することでコストダウンを図っているという事情からうまく進展しなかったが、今年度に入り事業化に向けた動きを加速している。10年以上にわたる研究開発の成果が、いま花開こうとしている。

清掃単価の低下が事業化の大きな壁に

 「フィグラ・アイ」とは、人と協調して清掃作業をすることを目指して開発した清掃ロボットである。サイズは757mm(幅)×664mm(奥行き)×508mm(高さ)。重量は約30kg。自律走行ユニットと作業ユニットから成り、ワックスの塗布やゴミの集塵など用途に合わせて作業ユニットを変更することができる。
  また、超音波センサなど数種類のセンサを搭載し、これらで壁や障害物までの距離や方向を測定して、人や障害物を回避するとともに壁の凹凸や角度を認識する。周囲の環境情報に基づいて部屋の隅々まで移動し、左右にスライドする吸引ノズルを使って壁際までを清掃することができる。このように人と共存し、かつ隅々まで清掃できる点に、他の清掃ロボットにはない特徴がある。

赤外線センサや超音波センサなど数種類のセンサを搭載し、これらで壁や障害物までの距離や方向を測定して、人や障害物を回避するとともに壁の凹凸や角度を認識する。周囲の環境情報に基づいて部屋の隅々まで移動し、左右にスライドする吸引ノズルを使って壁際までを清掃することができる。 オプションのネットワークカメラと無線LANを搭載することにより遠隔監視機能を実現できる。

 同社がフィグラ・アイの開発に着手したのは1998年からであるが、厳密には、開発を担当するロボット技術開発部の川越宣和部長がミノルタ(現コニカミノルタ)在籍時から始めている。ミノルタが保有する光学技術や画像処理技術、センシング技術などを利用した自律移動の研究に着手し、その成果として、病院内での床消毒作業やワックスがけを行う「ロボサニタン」(*1)を完成させている。そこで培った自律走行ロボット技術を継承し発展させたのがフィグラ・アイになる。

 これだけの年月をかけて基礎技術のつくり込みがなされていることもあり、フィグラ・アイの完成度は高く、評価は高い。2005年の「愛・地球博」や成田空港、特別養護老人ホームなどでの導入実験に加え、2007年3月には大阪市のユニバーサル・シティ・ウォークでも実証実験(*2)を実施し、話題となった。特に、ここでの実証実験では人混みでの障害物認識・回避機能や移動する人への挨拶機能の実用性を示し、各マスコミで大きく取り上げられた。

*1:1997年3月4日の新聞記事によると、その仕様は、サイズが321mm(幅)×320mm(奥行き)×170mm(高さ)、重さ9.7kgで、フィグラ・アイより2回りほど小さい。500mlの専用タンクに消毒液を入れて、病室内をベッドの下まで自律的に移動して消毒を行う。自律走行ユニットと作業ユニットから構成される構造や、消毒液を塗布する消毒用作業ユニットが左右にスライドする機構、超音波センサで壁を認識して壁倣い走行をする技術など、フィグラ・アイのベースとなる機能を有していた。

*2:2007年3月19日~20日にユニバーサル・シティ・ウォーク大阪にて、人混みでの障害物認識・回避能力と移動する人への挨拶機能の実用性を検証した。屋外でフィグラ・アイを稼動した初めての実験だった。

 しかしながら、事業化の段階で足踏み状態が続いていた。すでに『4月特集』で紹介したように、最大の障壁は清掃単価の問題だった。
  清掃現場では、すでに多くの清掃機械を導入することで、徹底したコストダウンを図っている。ロボットの導入により一層の機械化が進めば、さらに清掃単価が下がるというスパイラルに陥る傾向にある。ゆえに、「多くの場合は、コストの問題で導入に向けた交渉がストップすることが多い」と、昨年の取材で川越部長は話していた。
 また、提案した清掃事業者の規模や分野などによって交渉の進み具合が異なることから、清掃業務の改善に意欲的であることを前提として、「どの分野のビルメンテナンス事業者がよいのか、どのレベルの企業規模がよいのかを整理しつつ最適なサービス事業者を検討している」(同)と説明していた。

事業化を決意、秋には発売開始

 こうした事業パートナー選びに苦慮していた同社であるが、今年度に入り事業化に向け本腰を入れようとしている。今年の秋頃にはフィグラ・アイの発売を始めることを決定し、これに伴い、営業や事業計画の立案などを担う専任担当者(F.T部 毛利裕部長)を設置した。

 また、ターゲットユーザーにはビルメンテナンス事業者(ビルメン業者)に定める方向で検討している。オフィスビルでも病院でも清掃業務を手がけているのはビルメン業者であり、彼らに受け入れられるものでなければ導入は困難と判断したことによる。加えて、人の清掃作業を補完する“高度な清掃機械”として受け入れる風土を持つ事業者がいることも挙げられる。このようなユーザーでなければ、ロボットへの過度な期待が寄せられがちで、現実的な使い方を想定してくれない可能性があるからである。

 ただし既述の通り、清掃単価の低価格化が進んでおり、事業化に向けては、フィグラ・アイの導入によりコストダウンが図れることを、ビルメン業者に示すことが求められる。

 例えば、同じく清掃ロボットを手がける富士重工業(富士重工)を例に、経済産業省が示した採算モデルでは、費用対効果を最大化するフィールドとして、5000m2(例えば、廊下と共用部が1フロア250m2×20階以上のビル)以上の床面積を導入対象とする“絞り込み”の戦略(*3)を提示している。
 この条件下であれば、例えばロボット導入前の人件費を、作業員6名、週5日、1日6時間、時給1,200円と仮定した場合、年間1,144.8万円、5年間で5,724万円となるのに対し、ロボットを3台導入し、その運用とメンテナンスなどにかかる5年間の費用は4,154万円〔ロボット本体価格500万円×3台、エレベータ改造費200万円、メンテナンス100万円/(台・年)、ロボット運用の人件費1名190.8万円/年〕と算出される。5年間で約27%の経費を削減できるという試算を示すことで導入に結び付く可能性を提示している。

*3:富士重工業では、清掃業務のみの提案では儲けにつながらないことを熟知しており、清掃ロボットの導入を突破口に、ビル全体のメンテナンスサービスを請け負うビジネスを、パートナー企業と推進している。大きくは「オゾン洗浄」「清掃・警備」「ゴミ管理」から構成される。オゾン洗浄では、「オゾハイターV」「オゾンパワー100」による下水管・トイレ洗浄サービスと、「プラズマオゾン」「プラズマオゾンミスト」による原水機の脱臭・分解サービスを、清掃・警備では「清掃ロボット」などによるビル清掃・警備サービスを、ゴミ管理では「定量式ゴミ計量器」「搬送計量ロボット」などによるゴミ管理サービスを、それぞれ提案している。ビル全体という包括的なメンテナンスサービスを提供することにより、各サービスのコストダウンを図っている。

 一方、フィグラでは、一定規模の床面積の清掃を手がけるビルメン業者がユーザー対象になることを想定しつつも、「こうした絞り込みを行うつもりはない」(毛利部長)と話す。「ビルメン業者自身が、導入によりコストダウンの見通しが立てばよい話しである」(同)とし、それを効果的に提示すべく、導入価格の低減に向けた方策をいくつか検討している。

 例えば、他社製清掃ロボットの価格に対し、より低い価格提示を行うことにより複数台で複数フロアを清掃するような使い方を提示でき、清掃作業の圧倒的な効率化、結果として、大幅なコストダウンを示せる可能性が考えられる。  そのほかリースをはじめ、さまざまな提供方法が考えられるが、「複数台の導入に結び付くような提案ができることをイメージしている」(毛利部長)と話す。

ビルメンテナンス業務に関する課題とフィグラがイメージする提案。

 ただ、こうしたインパクトのある価格を提示するためには大幅なコストダウンが前提となり現在、開発では、その達成を第一に進めているという。人混みでの障害物認識・回避機能をはじめ各種機能をを有しているが、ユーザーおよび使用環境を限定しつつあることもあり、機能を絞り込む方向で取り組んでいる(*4)

*4:同社では、自律移動機能を生かせる用途として清掃という応用分野を選択しており、今後も、必ずしも清掃分野に限定して考えているわけではないという。産業分野、さらには民生分野に向けて、「フィグラ・アイで培った自律移動機能を提案したい」(川越部長)とし、すでに水面下では「いくつかの取り組みを始めつつある」(同)という。

ビルメンテンス事業者が入札に勝つことが大事

 フィグラでは、今年秋からの発売に向け、すでにプレ営業を展開している。そして、いくつかのビルメンテナンス事業者の中には、「導入に向けて非常に前向きで、かつフィグラ・アイの利用によりコストダウンの見通しをつけているところがある」(毛利部長)という。

 現時点では、提案している具体的な運用方法などは明かせないようだが、今後のさらなる展開に向けて、少なくとも「導入したビルメン業者が入札に勝つことを示す必要があるだろう」(同)と説明する。
  現在、清掃業務は入札制度により委託業者を決定しており、一般的には、最も低い価格を提示したビルメン業者が業務を勝ち取っている。フィグラ・アイを導入した事業者がコストダウンを達成し、入札獲得につながることを示せれば、おのずと普及していくことが期待されるわけで、「それをサポートできるような提案を行う」(同)という。こうした提案は顧客の競走優位につながるものであり、的を得たビジネス提案として評価される。

 また、事業拡大に直接結び付くわけではないが、「フィグラ・アイのような清掃ロボットの普及により、清掃の品質向上に寄与できるのでは」(同)とも期待を込める。
  本稿でさんざん述べてきたが、清掃現場では清掃単価の低下が進んでいる。より低い入札価格で業務を獲得することになるが、少ない作業員で、より短い時間で、より広いエリアを清掃することになり、清掃品質の低下につながっている。実際、あるビルでフィグラ・アイのデモを実施したところ、毎日清掃しているにもかかわらず、1リットルものゴミを集塵できたという。
  ゆえに、フィグラ・アイによる清掃作業の補完により、低コストでありながら質の高い清掃作業が見込まれる。一部ビルメン業者の中には、それに期待しているところもあるという。

 導入に向けた活動は、これからが本番ではあるが、このようにフィグラ・アイの普及により清掃現場に変革がもたらされる可能性もあり、その普及に期待をしたい。

(参考文献)
1)辻本崇紀・中桐裕子(当時経済産業省産業機械課)、「ロボットブームの終わりとロボットビジネスの始まり」、日本ロボット学会誌 2005年7月号、pp.7-pp.10、第23巻 第5号、2005. モノづくり推進会議

■企業データ
フィグラ㈱
代表取締役社長 岩田保志、加藤秀規
102-0075 東京都千代田区三番町6番地2
TEL(03)5226-1800/FAX(03)5226-1806
URL http://www.figla.co.jp/

■関連Webサイト
俺の起業!ロボットベンチャー奮戦記 第7回 「プラスαの価値づくりに腐心しています」
コストパフォーマンスの向上で清掃単価の下落に挑む フィグラ 川越 宣和さん
http://robonable.typepad.jp/robot/2007/09/post_4420.html

ロボットラボラトリー
URL http://www.robo-labo.jp/

次世代ロボットネットワーク『RooBO』
URL http://www.roobo.com/