ロボナブル 2008年 5月特集
俺の起業!ロボットベンチャー奮戦記2008 ビジネス拡大に向けて邁進する、その後の彼ら・・・
CASE STUDY1
クレーンゲーム機市場を深耕するメカトラックス -演出の強化で幅広い客層の獲得を狙う-

 ヒューマノイドとクレーンゲーム機の融合という新たな組み合わせで、アミューズメント業界に新風 を吹き込んだメカトラックス(http://www.mechatrax.com/)。ヒューマノイドの特徴をうまく切り出し、かつマーケットに提示した好例として解説したが、改めて、同社が評価された要因を紹介するとともに、同業界に向けた次の一手を紹介する。 ロボットそのものの開発からやや外れつつあることに意外な印象を受けるが、顧客価値をきちんと捉えた活動として評価される。

全国約40個所のアミューズメント施設で稼働しているロボキャッチャー。 「前」「後」「右旋回」「左旋回」の4つのボタンで移動させ、「開閉」ボタンでぬいぐるみを掴んだり放したりできる。1ゲームを経験すれば、すぐに慣れる。1プレイ200円で60秒間楽しむことができる。
ロボットの特徴をうまく切り出したことが勝因

  メカトラックスは、2005年12月に設立したロボットベンチャーである(創業は2004年9月)。社長の永里壮一さんが経営実務を、技術取締役の古賀俊亘さんが技術開発をそれぞれ担当する体制を敷いている。
  設立当初は、研究機関向けに高機能のヒューマノイドロボット「KRB-1」を販売していたが、その後、ヒューマノイドの技術的シーズとクレーンゲームの市場ニーズとをうまく融合させることにより、「ロボキャチャー」の開発に至る。その検討プロセスは、おもに次のようにまとめられる。

永里さんによるヒューマノイドロボットビジネスをめぐる調査結果と考察(メカトラックス提供資料より本サイトにて作成)。 永里さんによるマーケットニーズと技術シーズの整理(メカトラックス提供資料より本サイトにて作成)。

 上図を補足すると、ヒューマノイドの表現力を生かせば、さまざまな切り口でエンターテイメント性を付加できるという利点がある。
  初回出荷モデルは、歩行してぬいぐるみキャッチするだけだが、景品獲得に成功したときは万歳三唱をしたり、失敗したときは床を叩いて悔しがったりしているようなモーションを付加することが考えられる。また、景品に合わせたキャラクター性を付加することも考えられる。
  従来のクレーンゲーム機には見られない、さまざまなバリエーション展開が可能になり、景品による差別化するという状況から脱却できる可能性を秘めている。

 このようなマーケット分析および可能性の提示により、発表当初から業界の反応は良かった。2007年には「AOUアミューズメントEXPO」では人気機種ランキング1位を、「アミューズメントマシンショー」でも人気機種ランキング部門首位を、それぞれ獲得した。
  また、ファンド側からの評価も高く、2007年7月には「九州技術開発ファンド」投資第1号して1億円の出資を受けた。開発・製造および販売のための特別目的会社(SPC*1)を設立し、必要な技術シーズをSPCに投入してファンドとの共同事業を開始した。さらには、製造はJASDAQ上場のプロデュースが、販売は地元福岡の老舗起業アールエスがそれぞれ担当し、メンテナンスは3社が共同で担当する体制を早々に構築して、2007年末には初回出荷を果たした。

*1:九州地域の中小・ベンチャー企業が保有する技術力や知的財産権の価値を評価し、投資を行う。不動産などの担保余力がない企業や、公開を目指さない企業に対しても投資が可能という。企業への直接投資ではなく、「プロジェクト・ファイナンス」と呼ばれる手法や匿名組合出資と呼ばれる手法を活用する。㈱パテント・ファイナンス・コンサルティングが運営する。

 すでに本サイトで述べたが、同社の事業が順調に進展した要因は、コンセプトづくりの段階で、ヒューマノイドの技術的シーズとクレーンゲームのニーズをうまく合致させたからである。さらに言えば、シーズであるヒューマノイドが持つ表現力をうまく切り出して、クレーンゲーム機の魅力アップにつながることを、また儲けにつながることをマーケット側に提示できたからと言える。

クレーンゲーム機は演出と運用が大切

  ロボキャッチャーは、4月末時点で40台程度を出荷(1ロット50台で生産)しており、各地のアミューズメント施設(店舗)で稼働している(http://robocatcher.jp/html/location.html)。各店舗からの反応は、既述の展示会での評判と同様かなり良い。また当初から、2足歩行ロボットの操作を目当てにプレイする人が増えることが予想されていたが、サラリーマンなど、そうした来場者が多い店舗では売り上げ(インカム)を伸ばしつつある。
  ただ、利益を上げている店舗とそうでない店舗とのインカムに差があり、「もしかしたら、プレイする客層を選ぶ機器なのかもしれない・・・」と、永里社長は話す。

 マーケットからの反応はおおむね好評であり、インカムも上々だが、今後の展開に向けた課題もいくつかある。おもに店舗内での演出と運用に関するものである。

 現在、クレーンゲーム機は景品を大量にレイアウトすることで派手さや見栄えの良さを演出する傾向にある。そして、景品レイアウトの自由度が高く、かつ美しく魅せるタイプがヒット機種になっている。

現在、クレーンゲーム機業界でヒットしている機種の一例。景品レイアウトの自由度が高く、景品を美しく見せる照明になっている。 あるアミューズメント施設での設置の様子。白を基調にした機種に囲まれているせいか、パープルを基調とするロボキャッチャーの渋さが目立つ。

  ところが、ロボキャッチャーはロボットが筐体内を縦横無尽に動き回るのが魅力の1つであるため、景品を大量にレイアウトすることが難しい。しかも、ロボット本体のサイズが小さいため、遠くから見ると、ロボットの存在がわかりづらい。人が正面にいることを検知すればロボットがデモを行う設定になっているが(*2)、それ以外は、ロボットは筐体内で鎮座した状態になっており、地味な印象を与えてしまうこともある。

*2:メンテナンスは、ロボットの稼働時間で4,000分を目安に行っている。ロボットを常時稼働させるとメンテナンスへの対応が早期に求められることになるため、デモの実施を抑えている。人の検知は、本体の正面に設置した光学式の対人センサで行っている。

 その対策として、まず大型ディスプレイの設置を検討している。デモの実施時には内部カメラの映像に切り替え、大型ディスプレイに表示してロボットの動作を見せようというものである。単純に店舗の収益向上には結び付かないが、ロボットへのアイキャッチが高まるうえ、クレーンゲーム機ゾーン全体の空間演出に寄与することが見込まれる。
  すでに福岡市内の店舗と試験的に取り組み始めており、「次期機種には何らかのかたちで投影システムを搭載できれば」(永里社長)と話す。
  また、この取り組みは、ロボキャッチャーは従来にない魅力を持つ機種であり、異なる客層の集客によりゾーン全体を活性化させることが、各店舗より期待されているという理由もある。

 もう1つの対策として、デモ機能の強化も検討している(*3)。その1つとして、筐体上部のカメラで捉えたカメラ画像を画像処理することで景品の座標位置を抽出し、その情報をもとにロボットが後片付けを行うことを考えている。ロボットの自己位置推定は、マーカーとして付加したLEDを頼りに行う。また、景品などのオブジェクトとの切り分け・エッジ抽出を行えるよう、筐体内の床面の色変更も検討している。
  「製品に実装できるレベルには至っていないが、技術的な検証を重ねていきたい」(同)と意欲を示す。

*3:ロボキャッチャーは従来にないゲーム機であるため、ロボットが景品をどのようにキャッチして、抱えながら歩行するのかをイメージしづらく、結果、敷居を高くしているきらいがある。そこで、デモ機能の強化によりゲームの内容をイメージさせ、ゲームへの敷居を低くすることを狙っている。
ロボキャッチャーが抱える演出と運用に関する課題。

  運用面に関しては、上述の演出にも関連するが、現在クレーンゲーム機は使い方の差別化により集客を図るのがトレンドになっている。各メーカーは運用マニュアルを充実させることで、客層に応じた景品や、その見せ方、販促ツールなどを提示している。
 ところが、ロボキャッチャーはまだ出荷して間もない製品であり、また従来にない機種であるため、これらを提示できる情報をまだ有していない。「約半年がかりでノウハウを蓄積して、店舗や客層に応じた運用方法(*4)を提案できるようにしたい」(同)と話す。

*4:運用に言及すれば、どの程度の稼働時間でロボットのどの部分に、どのような故障が発生するかといったデータの収集も進めているという。これをもとに消耗部品の交換スケジュールを算出し、メンテナンス費用などを割り出したいと話す。

まずはクレーンゲーム機市場を深く掘り下げる 

 現在、同社では次期機種の開発に向けて取り組んでいるところだが、上述の通り、店舗での演出や運用に重点を置いたものになる(*5)
 キャラクター性や新たなモーションの付加など、ロボットによる差別化がゲーム性を付加し、新たな遊びが提案されることを期待していた。が、現在のクレーンゲーム機市場のトレンドへの対応が求められており、こうしたヒューマノイドの特徴を生かした提案は先送りになるような印象を受ける(*6)

 「クレーンゲーム機は、ゲーム機を製作して納品すれば儲かるという単純な世界ではなかった。ゲーム機および景品の演出(*7)や運用で相当工夫をしないと、なかなかプレイしてくれない市場になっている」
 そのような方向性をとる理由は、この永里社長の言葉に集約されるのであろう。

 また、同社では起業当初から、いずれは家庭用ロボットの開発に取り組むことを表明しており、ロボキャッチャーの販売を通じて、その開発に役立つ実験に取り組むことを検討していた。例えば、非接触電源供給技術を利用した足裏からの電源供給といった取り組みなどで、「技術的なバックグランドもってロボットやRTを提供したい」(1年前のインタビューより)という考えを示していた。

 「いまもそうした意向を抱いている」とのことだが、「やはり、クレーンゲーム機という1つの応用分野に飛び込んだ以上、パートナーとディスカッションしながら、この市場を深く掘り下げていきたい」と、永里社長は話す。それもまた上述の方向性につながっていることを伺わせる。

 このように、最近の同社の取り組みを聞いていると、ロボット本来の開発から外れつつあるような印象を受ける。しかし、クレーンゲーム機市場の動向をきちんと捉えた結果であり、また、各店舗のニーズを受けた結果でもあるので、ビジネスとしては正統的な取り組みと言える。
 ロボットビジネスでは、ロボット本体の技術開発に傾倒してしまうあまり、知らずに顧客価値から外れてしまうことが間々ある。それが、ロボットビジネスが立ち上がらない原因の1つになっているわけだが、本取材を通じて、ビジネスの基本を押さえることの大切さを感じさせられた。

*5:今後はロボキャッチャーの方向性についても検討しなければならないと永里社長は話す。具体的には、このまま景品ゲーム機の路線でいくのか、それともミッションクリア型のゲーム機の路線にシフトするのか、である。
現在、一般的なクレーンゲーム機の価格は90万円台、ミニクレーンゲーム機の価格は50万円弱と言われている。一方、ロボキャッチャーの価格は198万円(税抜)と約倍程度になるが、業界内では新たな機種であるため、150万円以下の価格帯にすれば十分勝負できると言われている。
こうした状勢を踏まえ、「景品ゲーム機としてコストダウンを図るのか、それとも同じ価格帯で付加機能を搭載するのか、または、新たにミッションクリア型のゲーム機に仕立てあげるのかを見極める必要がある」と話す。

*6:ロボキャッチャーの完成度が一定レベルに到達したという理由もある。

*7:ロボキャッチャーの演出やWebサイトなどでのイメージ戦略は、当初より高く評価されている。最近は、景品を獲得した後に流れる、哀愁漂うイメージソングが話題になっている。歌詞は次の通り。
夕日に染まった日の記憶は  思い出すこともできない
この手で抱きしめたいものは  運ぶことしかできない
ロボキャッチャー  流す涙は誰がために
熱い思い胸に秘め  ひとり夢の破片(かけら)を探している
今日もまた運ぶ  運ぶ 運ぶ 運ぶ ひとり

■企業データ
メカトラックス(株) 
代表取締役 永里 壮一
〒814-0001 福岡市早良区百道浜2-1-22
TEL(092)843-9572/FAX(092)843-9571
http://www.mechatrax.com/

■関連Webサイト
ロボット産業振興会議
http://www.f-robot.com/

北九州ロボットフォーラム
http://robotics.ksrp.or.jp/robotforum/index.html

パテント・ファイナンス・コンサルティング
http://www.ptfc.co.jp/