昨年、本サイトにて連載「俺の起業!ロボットベンチャー奮戦記」を企画し、ロボットベンチャーまたは「ロボット」という切り口で新規事業を立ち上げた中小企業を紹介した。それぞれが優れた技術を持つばかりでなく、顧客価値をうまく捉えたビジネス提案をしていることが印象的だった。
その取材に取り組んでから、すでに1年以上が経過し、中には、さらなるビジネス拡大に向け邁進しているところがある。「今月の特集」では、昨年紹介した企業の中で新たな話題を提供してくれたところを厳選し、彼らの近況を紹介する。それぞれが開発したロボットシステムには技術的な進展はあまり見られないものの、いずれも顧客の事情やマーケット動向を適切に捉えることで、“しなやかな提案”をしている点が興味深い。
本企画でまず取り上げたのは、九州のロボットベンチャー・メカトラックスである。ヒューマノイドの技術的シーズとクレーンゲーム機の市場ニーズとをうまく融合させた「ロボキャッチャー」を開発し、4月末時点で全国のアミューズメント施設に約40台を納品している。
クレーンゲーム機市場は、ヒット機種の不在によるマンネリ化が進んでおり、景品人気に依存する体質に陥っていた。そこに、ヒューマノイドの特徴を生かしたロボキャッチャーが登場し、マーケットは好意的に迎えた。特に、ヒューマノイドが持つ表現力はバリエーション展開を可能にし、このような体質から脱却できる可能性を示した点が高く評価された。
今後は、ロボットの特徴を生かした提案がなされるものと予想されていたし、メカトラックス自身もそうした意向を示していた。が、いまは店舗内での演出を意識した取り組みを始めている。
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すでに全国約40個所のアミューズメント施設で稼働しているロボキャッチャー。ヒューマノイドの表現力を生かせば、さまざまな切り口でエンターテイメント性を付加できるという利点があるが、現在は、ロボットへのアイキャッチが高められるよう演出面に傾倒した開発に取り組んでいる。 |
また、屋上緑化に知能化制御技術を組み合わせて話題になったエビアも、新たな提案を始めようとしている。
同社は昨年、屋上菜園(屋上緑化)に設置した土中湿度センサなどから得られる情報と気象予報情報とを組み合わせて潅水指令を送り出す知能化潅水システム「SOILMASTER」を発表した。開発のきっかけとなった「なにわ空中棚田プロジェクト(*1)」を通じて、少ない水量で野菜を大きく収穫できた効果が取り上げられたこともあり、発表後2カ月足らずで2件の施工実績を上げた。
また、屋上緑化は空調室外機から放出される廃熱を緩和し、ヒートアイランド現象を低減する有力な手段として注目されており、その普及とともにSOILMASTERの導入も進展することが予想された。
*1:2006年12月27日から2007年3月9日にかけて、大阪市内のビルで実施された実証実験。屋上緑化による空調室外機の動力低減効果、および知能化潅水システムによる屋上菜園への効果を検証することを目的に実施した。「ルーフソイル」と呼ばれる屋上緑化に適した土の開発と、多くの施工実績で知られるマサキ・エンヴェックととともに取り組んだ。
ところがいま、エビアでは屋上緑化、すなわち“環境”という切り口での提案をやめている。代わりに、法対応と省エネ効果という切り口から「設備緑化」を、自動化およびコストダウンをキーワードに「緑化管理」をそれぞれ提案している。
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法対応と省エネ効果という切り口で提案している「設備緑化」。空調機室外機や機械室など屋上設備の壁面を、冷却効果のある緑のカーテンで覆うことで、それらの動力低減効果を効率的に達成することを目指している。SOILMASTERを利用している。緑地管理でも、同様にSOILMASTERを活用してコストダウンなどを提示している。 |
ここ数年、屋上緑化の施工件数は年間約1,000件で推移しているが、そのほとんどが緑地率の確保など法的義務の達成や助成金の獲得を理由に取り組まれている。環境への寄与を理由に取り組んでいる企業はほとんど存在しなかった。一部CSRから屋上緑化に積極的な企業があるが、すでに実施を終えている企業ばかりだった。
環境への関心は高く、屋上緑化への関心も高いが、“環境”に投資をする企業はほとんどなかったのである。そこで提示したのが、上述の提案である。
いずれの提案もSOILMASTERを活用したものであるが、設備緑化はピークカットに効果的に寄与するシステムとして、緑地管理は緑地の維持管理の自動化によるコストダウンに寄与するシステムとして、それぞれの顧客に提案している。顧客価値を捉え直した結果、ほぼ同じシステムでありながら、まったく異なる切り口でビジネス提案をしている。
「先月の特集」で紹介したように、昨年までビジネスパートナー探しに苦慮していたフィグラだったが、今年度に入り、事業化に向けた取り組みを加速させている。
同社では、人と協調して清掃作業を行う清掃ロボット「フィグラ・アイ」を開発している。自律的に人や障害物を回避するうえ、周囲の環境情報に基づいて部屋の隅々まで移動して壁際までを清掃できる、他の清掃ロボットにはない特徴を持つ。
ところが、清掃現場では清掃単価が低下しており、ロボットという新たな清掃機械の導入は一層の清掃単価の低下を助長することになり、導入段階でビジネスが停滞していた。
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フィグラが開発したフィグラ・アイ。周囲の環境情報に基づいて部屋の隅々まで移動し、左右にスライドする吸引ノズルを使って壁際までを清掃することができる。 そのほか、移動する人への挨拶機能などを有しているが、現在は大幅なコストダウンを目指して機能の絞り込みを進めている。 |
同社では、今秋にはフィグラ・アイを発売することを決意し現在、プレ営業を始めている。顧客となるビルメンテンス事業者が、どのような運用を構想しているのかはまだ明かせないとのことだが、フィグラでは、彼らがフィグラ・アイの導入によりコストダウンを達成し、清掃業務にかかる入札獲得に結び付くことを意識して取り組んでいる。すなわち、顧客の競走優位につながる提案である。そして開発では、それを可能にすべく、徹底したコストダウンを目指して取り組んでいるという。
簡単に近況を紹介したが、これらの事例にはロボットビジネスを展開するうえで、興味深い知見が込められている。すなわち、メカトラックスの例ではマーケットに提示する技術の順序の重要性を、エビアおよびフィグラの例では、顧客の競走優位につながる提案の重要性を、それぞれ示している。
ロボキャッチャーの魅力は、ゲーム機の筐体内で動き回るヒューマノイドの表現力にあり、これを生かせば魅力あるものへと昇華できる。メカトラックス自身も当初は、そうした開発路線を考えていた。ところが、マーケットの事情を知るやいなや、ディスプレイの設置をはじめとする店舗内での演出を重視した取り組みへとシフトしている。
ロボットビジネスでは、「マーケットに技術を提示する順番を間違ったために、ビジネスが成立しなかった例がある」(ロボットビジネス推進協議会 幹事)と指摘されることがある。「特に高度な技術を有している企業ほど、それに固執してしまい、武器になるどころか足枷になっていることがある」(同)。
メカトラックスであれば、もともと研究機関向けヒューマノイド「KRB-1」を手がけていた企業であり、こちらの技術開発の方が得意である。いずれは、上述のようにヒューマノイドの表現力を生かした開発に取り組むことを構想しているが、優先すべき開発として、店舗内での演出に傾倒しているのである。
また、エビアとフィグラの例では、エビアの緑地管理に着目すると、緑地の維持管理ビジネスは、長期メンテナンス契約を交わすことで収益が得られる構造になっている。ところが、年を経るごとに契約金額は抑えられる傾向にあり、やがてはコストダウンに耐えられず、契約を断わらざるを得ない状況にまで追い込まれる。ゆえに、コストダウンの達成が契約獲得の必須条件であり、また、同業他社に対する競走優位にもなる。
業界の事情は異なるが、エビアでは知能化制御という特徴を、フィグラでは自律移動という特徴を切り出し、これらを利用したサービス提供が従来手法より低コストで、かつ競争優位になることを提示している。特にビジネスユーザーをターゲットにする場合、これを提示できるかどうかが開発したロボットシステムの導入を左右することが多く、重要な視点と言える。
本稿では、「今月の特集」で取り上げるロボットベンチャーおよびロボットビジネスに取り組む中小企業の近況を概説した。ここで触れた内容は、すべての新規事業に共通する内容であるが、先月も触れたようにロボットビジネスでは、これらの視点がすっぽり抜け落ち、うまく進展しないことが意外に多い。ロボットベンチャーであっても、ビジネスの成否は、その基本を押さえることにあることを気付かせてくれるし、各事例から感じていただきたい。