ロボナブル 2008年 4月特集
「失敗するロボットビジネス 成功するロボットビジネス」
Part2
現在ロボットビジネス必勝への条件 -失敗しないための押さえどころ4項目-

1.人とロボットが融合したサービスプロセスを再設計する

  では、「Part1」で触れた問題を踏まえ、いかにしてロボットビジネスを構想すべきだろうか?
  結論から言えば、『人とサービスロボットあるいはRTを最適なバランスで組み合わせた形態によるサービスの提供を目指すこと』。『一連のサービスプロセス全体を洗い出し、それを見直す(リエンジニアリングを行う)というアプローチをとること』である。

ロボットビジネスの構想の仕方。

 「Part1」で、すでにフロントステージを意識することの重要性を述べた。そこでは高度な能力が求められるうえ、人が行っても能力の差により創出される付加価値には大きな差が生じる。「カリスマ店員」という言葉が存在するのは、その例だろう。したがって、サービスロボットが単独で、サービスプロセスの中で高度な役割を果たすようになるまでには、まだまだ時間を要する。

 しかし、サービスプロセス全体を見渡して、人の方が優れているところは人が行い、ロボットやRTが担うべきところはこれらが担うという、人とサービスロボットおよびRTが組み合わされたシステムを前提に考えれば、現段階でも、サービスロボットやRTをフロントステージに導入していくことは可能になる。
  また、顧客に価値提供を行う人を中心にサービスプロセスを考えた場合、ロボット単体にまとめ上げるのではなく、各種RTを、ある空間の中に分散配置したり、一連のサービスプロセスの中に組み込んだりしたシステムの方が、そのプロセスの中で効果的に機能しやすい。
  ゆえに、上述の2点がポイントになるわけである。

 アサンテの例では、ロボットを、人の能力を拡張するための道具として捉え、作業者を中心に各種RTからなるシステム構成を考え、かつプロセスの再設計を行うことでサービス品質の向上に取り組もうとしている。現在、先進的と言われている開発例は、このように、サービスを提供する人を中心としたシステム構成にすることにより成功に近づこうとしているのである。

2.競争優位につながるロボットの特徴を見極める

また、ロボットビジネスを構想していく際、下の図に示すように、複数の観点からアプローチしていくことが求められる。

ロボットビジネスを構想する際のアプローチ例(図提供:石黒周氏)。消耗品やサプライ、アプリケーションのソフトの追加は、これは「後で儲ける方法」のことを指す。例えば、パソコンのセキュリティソフトは3カ月間無料で使用できるが、使っているうちに必須のものとなり購入に至る。そうした仕組みのことを指す。

 これらは、どのようなビジネスでも要求されることである。ロボットビジネスでは、これに加え、ロボットやRTの特徴をいかに捉え、これにより顧客へのサービス提供が従来手法よりも優れ、競争優位になるのかを提示しなければならない。
  その捉え方の一例として、ロボットビジネス推進協議会 幹事の石黒周氏が示す「身体性・表情」「自動化」「ハイパーヒューマン」「キャラクター性」「エージェント」というキーワードによる捉え方を紹介する。

次世代ロボットの特徴の捉え方の一例(図提供:石黒周氏)。

 例えば、「身体性・表情」を機能的特徴としてサービスに生かすとすれば、ロボットの腕や指に適した作業などが考えられる。
  情動的特徴として考えれば、ノンバーバル(非言語)コミュニケーションによる意思の疎通につなげることができる。

 また、「自動化」という特徴からは、人の行う単純な作業の高効率かつ高信頼な代替手段として組み込むことが、「ハイパーヒューマン」という特徴からは、人の能力を超えた機能の実現が考えられる。ハイパーヒューマンとは、具体的には人の動体視力を超えた超高速度ビジョンセンサによる高効率な検査や診断などである。

 「キャラクター性」は情動的特徴のみとなるが、その特徴からペットや玩具、コンテンツビジネスなどが考えられる。
  「エージェント」「インターフェース」という特徴は、製品やサービスの中の機能的、情動的いずれかの役割のエージェントあるいはインターフェースとしてロボットを位置づけることを意味している。情動的なインターフェースとして機能すれば、顧客との関係性の構築に役立てることができるはずである。

3.最良のビジネスパートナーを見つける

 これまでに、ロボットビジネスの立案に関する押さえどころを紹介したが、最も重要になるのは顧客価値をいかに創出するかである。その重要な手段として考えられているのが、サービス事業者との連携である。
  ここ1、2年、ロボット開発企業がサービス事業者と相次いでパートナーを組んでいるのは、それが必須であることに気づいたからである(*1)

*1:また、製作してしまったロボットシステムの技術レベルと顧客価値を一致させるために、そのような開発スタイルをとっているという側面もある。

 ただし、手を組むサービス事業者を、きちんと見極めておかなければならない。“突出した”サービス事業者と手を組まなければ、あまり相手にされないだろうし、開発に役立つようなニーズは何も出てこない。
  ここで言う「突出した」とは、あるサービス分野で業界1位になるという強い意志を持ち、かつ業務革新に前向きなサービス事業者のことである。なぜなら、数%程度のコスト削減やサービスの生産性の向上というレベルのニーズであれば、わざわざロボットやRTを導入しなくても、人材教育をはじめとするサービス事業者や協力業者の企業努力で達成されるからである。

 パートナーの重要性を示す例として、清掃ロボットの例を取り上げる。
  よくロボットビジネスの成功例として紹介される富士重工業は、パートナーである住友商事(住商)の物件である神田和泉町ビルで約1年間をかけて実証実験を実施した。富士重工の技術レベルと住商側の要望との擦り合わせを延々と行った。廊下の壁際20cm以内は人が清掃すればよいという、人と清掃ロボットとの役割分担は、その一例である。また住商は、ビル管理会社、ビル清掃会社などビル事業に関わるグループ会社を総動員して、業務内容の変更を模索したという。
  清掃の確実性、労働力の確保という目的の下に、2000年という早い時期から、このような取り組みを進めていたことを考えると、相当強い意志を持っていたことが伺い知れるよう。

 同様に、清掃ロボットを開発するフィグラ(*2)では、昨年よりパートナー選びを最重要課題に置いて活動を続けている。

現在、清掃現場への導入に向けた活動をしているフィグラの清掃ロボット「フィグラ・アイ」。自律走行ユニットと作業ユニットから構成され、ワックスの塗布やゴミの集塵など用途に合わせて作業ユニットを交換できる。秋頃には、新たなバージョンが発表されるという。

 清掃現場では、すでに数多くの清掃機械を導入してコストダウンを図っており、ロボットの導入により機械化が進めば、さらに単価が下がるというスパイラルに陥る。ゆえに、多くの場合は、「コストの問題で交渉がストップすることが多い」と、開発担当の川越宣和氏はこぼす。
  また、「事業者のトップには好評でも、いざ現場に清掃ロボットを持ち込もうとすると、拒否反応を示されることが間々ある」(同)という。

 これは、事業体の規模が大きいためにトップが現場をよく理解していない、業務プロセスを変更することへの現場の抵抗など、複合的な理由によるものだった。業務改善に意欲的であることを前提条件として、「どの分野の清掃事業者がよいのか、どのレベルの企業規模がよいのかを整理しつつ、最適なサービス事業者を検討している段階だ」(同)という(*3)

 両社が開発した清掃ロボットは仕様や目的が異なるため、単純には比較できないが、このように最良なパートナーを得るか否かで、事業化へのハードルは高くなったり低くなったりするのである。

*2:同社の清掃ロボット「フィグラ・アイ」は、人と協調して清掃作業をすることを目指して開発したロボットである。自律走行ユニットと作業ユニットから成り、ワックスの塗布やゴミの集塵など用途に合わせて、作業ユニットを変更できる。また、超音波センサなど数種類のセンサを搭載し、これらで壁や障害物までの距離や方向を測定して、人や障害物を回避するとともに壁の凹凸や角度を認識する。周囲の環境情報に基づいて部屋の隅々まで移動し、左右にスライドする吸引ノズルを使って壁際までを清掃することができる。

*3:フィグラの開発担当者は、「単なる提案だけではなく、コンサルテーションも行えるほどでないと有益な提案をすることは難しい」と話す。そこで、同社では清掃専門のコンサルタントを交えることで、サービス事業者の要望を詳細にヒアリングし、提案をする活動を展開している。また、清掃サービスはバックステージ的な領域であり、清掃ロボットを導入したユーザー企業にとって顧客にアピールできる内容に乏しい。「顧客にアピールできるような領域を提示することが必要になる」とも話す。

 また、パートナーに言及しておくと、事前に互いの関係も整理しておかなければならない。ロボット開発企業からすれば、ある特定のサービス事業者にロボットを導入しただけでは利益は小さいので外販をしたい。一方、サービス事業者にとっては、競争優位であり自社のノウハウも込められているシステムを同業他社に持ち出されることは死活問題につながる。

 そのような場合、次のような契約を考えておくべきだろう。
 まずは、数年間は他のサービス事業者には販売しない。つまり、共同開発者であるサービス事業者に、利用に関する優先権を与えるという契約。
 次は、他のサービス事業者に販売するが、販売利益を共同開発者であるサービス事業者に利益の一部を還元するという契約。
 最後は、他のサービス事業者には販売しない代わりに、新たなサービスで得られた収益を次の開発資金として還元するという利益を共有する契約である。
 お互いにWin-Winの関係になるような仕掛けを組み込んでおくべきである。

4.あとは「自立する」という強い気持ちを持つ

 「Part2」では、ロボットビジネスを構想するうえで、押さえるべきポイントを紹介した。これらの関係は、下の図のようにまとめられる。

ロボットビジネスにおける基本的な押えどころ。

 顧客価値の観点からサービスプロセスをリエンジニアリングし、同時に、強みとなるRTの特徴を組み込む。そうすれば、保有しているサービスロボットやRTは、一連のサービスプロセスにおいて、顧客価値の創出に効果的に機能するはずである。

 現在も、多くの企業でサービスロボットやRTの開発がなされているが、市場を創出できていないため苦しい状況に追い込まれつつある。本稿で紹介した問題もあるが、最大の原因は、「サービス事業者や外部の協力企業と手を組み、自立するという強い気持ちで臨んでいないことにあるのでは」と指摘する声がにわかに増えている。
  成功するか否かは、それに賭ける情熱にかかっており、今一度、ロボットビジネスに対し強い気持ちで取り組むことを期待したい。

(参考文献)
1)石黒周:石黒周が語るロボットビジネスの明日,ロボットビジネス開拓記,ロボットラボラトリー,http://www.robo-labo.jp/,2006年.
2)石黒周:次世代ロボットビジネスの鍵を握るネットワーク連携,川上・川下ネットワーク構築支援事業in名古屋,ロボットビジネスセミナー.2007年9月12日.
3)石原昇・五内川拡史:ロボットイノベーション,日刊工業新聞社,2007年.

■関連サイト
俺の起業!ロボットベンチャー奮戦記 第7回 「プラスαの価値づくりに腐心しています」 コストパフォーマンスの向上で清掃単価の下落に挑む フィグラ 川越 宣和さん
http://robonable.typepad.jp/robot/2007/09/post_4420.html

フィグラ
http://www.figla.co.jp/

ロボットラボラトリー
http://www.robo-labo.jp/

次世代ロボットネットワーク『RooBo』
http://www.roobo.com/