ロボナブル 2008年 4月特集
「失敗するロボットビジネス 成功するロボットビジネス」
Part1
ロボット開発で陥りやすい失敗パターン -現在ロボットビジネスが抱える問題-

 「プロローグ」では、特にサービス業の工業化という課題から、サービスロボットが必要とされていることを紹介した。にもかかわらず、サービスロボット市場はまだまだ微々たるものでしかない。ここでは、現在ロボットビジネスが陥りやすい問題を、大きく3つに分けて紹介する。

現在のロボットビジネスが陥りやすい3つの問題。ロボットをつくることや、保有するRTを開発コンセプトにしてしまうと陥りやすい(図提供:石黒周氏)。
1.サービスプロセスの局部を置き換える

 まず多く見られるのが、あるサービスプロセスの局部を置き換えようとする例である。
  そもそもサービス業は一連のプロセスを通じて価値を創出するシステムになっている。ゆえに、局部的にサービスロボットやRTに置き換えられても、サービス事業者にとっては効果的な提案には思われない。結果、物別れに終わってしまう。
  このパターンに陥ってしまったのが、ダイヘンが開発した患者移動支援装置「C-Pam」である。すでに同社は軌道修正を図り、ビジネス展開に向けて着実に進んでいることを断っておく。

 看護の現場では、人手による重労働がなされている。特に患者をベッドからベッドへ、またはストレッチャーからベッドへと移乗させる作業は、患者を落とさないように支えながら行うため、大変な労力がかかる。そのために、看護師の多くが腰痛に悩まされていると言われる。
  そこで彼らを、このような重労働から解放し、患者のメンタルケアに専念させることを狙って開発されたのがC-Pamである。

 C-Pamは、患者移乗装置として、実によくつくり込まれた設計になっている。
 外周をエンドレスベルトが回転する機構を上下2段に重ねた4組のユニットから構成され、それらを身長方向に連結させている。下部ベルトでC-Pam自身が自走しながら、上部ベルトを逆回転させることで、患者とC-Pam上面との水平方向の相対速度を生じさせずに患者の下に滑り込み、持ち上げることができる。
  そのために、C-Pamを乗せたストレッチャーをベッドに横付けし、C-Pamがベッドへ移動しながら患者さんを乗せてストレッチャーに戻るという、ごく簡単な手順で移乗することができる。

ダイヘンが開発した患者移乗支援装置「C-Pam」。患者に肉体的な負担をほとんどかけずに、寝た状態のまま安静に移乗することができる。片側タイプの「C-Pam s」(左)と両側タイプの「C-Pam W」(右)がある。

 安全にも万全を期しており、同社独自のリングサーボ(*1)により、常にモータの位置・速度・トルクの情報を送信でき、衣服を引っかけるといった異常を感知したときには、自動的に停止できるようにしている。
  また、ベッドの下に入り込む薄く、かつワイドな板状の構造に、すなわち本質安全設計にすることで、万一、落下防止を検出するセンサが故障しても、患者を落下させるリスクを回避している。
  機械設計の観点から見れば、「100点満点」の設計と言える。

*1:産業用ロボットのモータ制御で使用されている位置制御以外に、一定トルクを出すトルク制御や一定速度で動作させる速度制御が行える制御方式。作業内容や使用状況に応じて、それぞれの制御方式に自律的に切り替えることができる。C-Pamでは、常にモータの位置・速度・トルクの情報を送信でき、衣服を引っかけるといった異常を感知したときには、自動的に停止できるようにしている。

 ところが、2004年10月の発売から約3年間は1台も納品には至らなかった。

 関西地区の病院を中心にデモを実施し、「随所でC-Pamの必要性を実感してもらえた」(ダイヘン担当者)という。その一方で、「『患者の移乗に時間がかかる』『従来と同様、人の手で移乗させる方が効率的』といった声も寄せられた」(同)という。患者の移乗という、ごく一部の作業の置き換えでは、その有効性を納得してもらうのは難しく、導入に至るのは厳しかったようだ(*2)

サービスのプロセスの局部を置き換えることの問題点。

 ダイヘンでは、こうした問題に気づき、開発および事業の方向性を変更している。
  C-Pamにより看護作業をどのように変革し、患者や看護師、病院にとって価値あるシステムになり得るのかという提案を行っているという。
  具体的には、介護用マットなどとC-Pamを組み合わせた患者の移乗システムを構築し、重病の患者にはC-Pamが利用されるという、看護現場の“文化”を変える取り組みを、院内サービスを手がける事業者とともに取り組んでいる(*3)。「実際にC-Pamを貸与し、定期的に意見交換を行うことで進めている」(同)と話す。

*2:同様に患者移乗作業を支援する、「トランスファーアシストロボット」を開発する松下電器産業 ロボット開発室の小林昌市室長は、「導入には、移乗作業の前後のプロセスを含めてアシストすることが求められるだろう」と話す。「ピンポイントの提案にならないよう、介護プロセスをきちんと捉えるように努めている」(同)という。なお、小林室長はダイヘンの開発担当とも交流があるという。

*3:富士重工業の清掃ロボットシステムは、ビルメンテサービスという一連のプロセスから捉えると局部的な取り組みに見えるかもしれない。同社は、ビル内で排出されたゴミを分別し、その重量を計測する「ゴミ計量器」や、分別したゴミを運搬する「ゴミ箱搬送計量ロボット」から構成されるゴミ管理システム、汚水槽の洗浄を行うオゾン洗浄システムなどの開発も進めており、これらを活用したビル全体のメンテナンスサービス業への移行を進めているという。

2.肉体労働や単純労働に集中する

 これはサービスで言えば、フロントステージ(フロントオフィス)ではなく、バックステージ(バックオフィス)に位置づけられる作業である。

 前者は、顧客との関係を構築する役割を担うのに対し、後者は、顧客との接点がないため作業をルーチン化しやすい。製造業の生産現場と大差がないため、作業分析を行うことで自動化あるいはロボット化できる作業を抽出できる。また、サービス事業者からすれば、利益を生み出すところではないので、できるだけ効率化したいというニーズを抱いている。
  一見すると、ビジネスチャンスがありそうだが、そうした特徴を持つがゆえに、バックステージは「コストセンター」と化しているという現実がある。

 バックステージでの作業は、おもに時給数百円程度のアルバイトやパートが担っている。したがって、サービスロボットにより彼らの労働力との置き換えを図ろうとすると、そのターゲットコストを低く設定せざるを得ない。せっかく高度なサービスロボットやRTを有していても、彼らの時給から上限価格が設定されるため、その採用が困難になる。開発に投資した資金回収も難しくなる。

 導入当初は、バックステージからの導入でもよいかもしれない。しかし、顧客への価値の創出と提供を行う場である、フロントステージにシフトしていくことを視野に入れたサービスロボットを提案できなければ、サービス事業者もロボット開発メーカーも利益を得られない。

単純労働や肉体労働に集中することの問題点。

 このようなフロントステージおよびバックステージの両方を意識した代表例に、アサンテのシロアリ防除サービスがある。
  シロアリ防除サービスは、一部悪徳業者の詐欺行為により、業界全体が好意的に見られていない。そのために、成約に至る確率が極めて低い。ひどい場合は、数百回もの営業をかけて1件程度の確率とも言われている。
  そこで、アサンテでは調査・提案の時点で、床下点検ロボットと連動した映像通信システムを使用することにより、被害状況を顧客や、遠隔地に住む顧客の家族にも映像配信をしたり、本部にいる専門家とやり取りしたりすることで、説得力のある営業を始めようとしている。顧客の安心感や信頼感を獲得して、営業効率の向上に結び付けることを目指している。

フロントステージとバックステージを意識した、アサンテのシロアリ防除ロボットの開発。
3.ロボット(機械)にまとめ上げようとする

 最後に、最も多く見られるのが、あるサービスプロセスをいきなりロボット(機械)に完全に置き換えようする試みである。

 20世紀の製造業の成功モデルのように、最終的にロボットというハードウエアにまとめ上げて、それを販売するというビジネスモデルが成立すればよいが、現在の技術レベルや、「プロローグ」で触れたカスタマイズ化という流れから考えると成立しにくい(*4)
  また、サービスロボットによって人が担ってきたサービスプロセスを完全に置き換えられる方が望ましい対象もあるだろうが、原子力発電所の配管点検や超高所作業をはじめとする極限環境作業など、特殊な用途に限られてしまう。一品もののロボットを開発・導入すれば済む話しであり、ビジネスの広がりが期待できない。

*4:カスタマイズ化に対応する手段としては、ソフトウェアの変更とモジュール構成の変更が考えられる。後者は、RTミドルウエアが一例で、モジュールの充実度、組み替えの用意さが求められる。
ロボット(機械)にまとめ上げようとすることの問題点。

  ロボットビジネスに限らず、新規事業の基本は、従来にない顧客価値をコンセプトとして提示することである。誰に対し、どのような価値を提供するのかという基本を押さえておかなければならない。
  ところが、ロボットビジネスでは、こうした視点がすっぽり抜け落ち、自分がつくりたいロボットや、保有するRTで達成できることを事業コンセプトにしてしまうことが多い(*5)。すなわち、「ロボットをつくることがロボットビジネスである」という思考である。その結果、これらの問題に陥ってしまう。まずは、こうした思考を改めることが、ロボットビジネスでは不可欠なのである。

*5:現在、ロボット開発は研究室でなされており、事業部のマーケティング部隊がニーズの掘り出しに関わっている例が少ない。結果、「開発したロボットやRTを売るために、これらと想定される顧客とを無理矢理結び付けて、実証実験を実施して反応を見ているという状態が続いている」と、ロボットビジネス推進協議会 幹事の石黒周氏は見ている。

(参考文献)
1)石黒周:石黒周が語るロボットビジネスの明日,ロボットビジネス開拓記,ロボットラボラトリー,http://www.robo-labo.jp/,2006年.
2)石黒周:次世代ロボットビジネスの鍵を握るネットワーク連携,川上・川下ネットワーク構築支援事業in名古屋,ロボットビジネスセミナー.2007年9月12日.

■関連サイト
ロボットを看護の現場に適用するためには、その文化を変えることが大切です ダイヘン
http://robonable.typepad.jp/robot/2007/07/post_11de.html

『まずは単機能の道具型ロボットから』が、松下の開発コンセプトです 松下電器産業
http://robonable.typepad.jp/robot/2008/04/post-5390.html

俺の起業! ロボットベンチャー奮戦記 最終回 特別編6 RTによるサービスプロセスの革新 10年がかりのプロジェクトで“次世代シロアリ防除サービス業”を目指すアサンテ
http://robonable.typepad.jp/robot/2008/03/rt-10-828c.html

患者移動支援装置「C-Pam」専門サイト
http://www.daihen-cpam.com/