2月14日に、大阪南港のATCエイジレスセンターにて「介護福祉支援ロボット分野でビジネス化するために必要な企画・開発ステップとは」と題して講演をしました。100名を超える方に参加いただき、講演後には介護福祉分野でのロボットの活用ならびに事業化について多数の質問をもらいました。様々な方と意見交換ができる貴重な場となりました。
そこで、今回は講演でも取り上げた、介護福祉サービスとロボット/RTとの接点の導出について、その考え方を紹介します。今回の内容は、2011年1月に述べた「第23回 ADLにもとづく介護福祉ロボの現状分析と求められる開発アプローチ」の上位に位置づけられます(図1)。
その関係性から説明しますと、今回は、「ICF(International Classification of Functioning,Disability and Health、国際生活機能分類)」の生活機能モデルを活用して、介護福祉サービスとロボット/RTとの接点を広く分析します。一方、第23回ではICFの生活機能モデルを構成する6つの要素のうち「ADL(活動)」と「介護福祉支援ロボット(環境因子)」の2項目を取り上げ、これらの相互依存性を詳細に分析しています(図1)。今回のコラムを一読された後に再度、第23回を確認してもらうと、その内容の理解がより一層を進むはずです。
図1 第23回コラムで述べたADLとICFとの関係
「助けるだけの介護」から「よくする介護」へ
ICFを紹介する前に「最良の介護とは何か?」から説明しておきます。
読者の方には、介護とは「目の前の不自由なこと(活動制限)を手伝うこと(マイナスを補うこと)」と捉えている方が多いのではないでしょうか。現状、ロボット開発者の多くが、この思考に引きずられている印象を受けます。
実は、介護の真の目的は「介護を必要とする人が、より良い人生・生活を送れるようにすること」にあります。つまり「最高のQOL(Quality of Life)の実現」であり、まず、これを理解しておかなければなりません。今後、介護により「人の状態をよくすることができる」との考えが重要になってくるといわれていますが、これから介護福祉支援ロボットの開発に着手するのであれば、このトレンドを押さえておくことが求められます。
例えば、高齢者が室内での転倒で骨折し、その後、歩行が不安定なったとします。ここでの「よくする介護」を考えてみます。「助けるだけの介護」であれば、「住空間内の移動は車椅子や移乗支援ロボットなどに依存し、外出での移動は電動車椅子やシニアカーに委ねればよい」ということになります。
一方、「よくする介護」という視点で考えれば、このような考えに到る前に「歩行という活動を直接向上させられないか」を、まず検討します。歩行が不安定になった高齢者自身が「自力で歩けるようになりたい」と強く思っているのであればなおさら、そうすべきです。したがって、自力で歩行できるようにするためのステップとして、歩行補助具など物的な介護手段の積極活用を考えるべきです。現在、開発が進められているアシストスーツも、より簡易に装着したり運用管理したりできるようになれば、選択肢の1つになり得るでしょう。
歩行補助具などの活用により自立して歩行できるようになれば、歩行補助具は促進要因となります。一方、移乗支援ロボットや電動車椅子などを提案し、利用してもらうような「助けるだけの介護」では自立的な歩行から遠ざけてしまいます。やがては車椅子での生活となり、結果、良かれと思って導入した、これらの移乗支援ロボットや電動車椅子などは阻害要因になってしまいます。
では、どうすればロボット/RTの活用による「よくする介護」実現に向け、体系的な分析が行えるのでしょうか。その1つの解が、ICTの生活機能モデルの活用であると筆者は考えています。次章では、まずICFの概念を解説し、その後、ICFの考えにもとづいてロボット/RTがどのようなポジションを担っているのか、または担うべきなのか考察します。
以下、ICFに関する情報は、「『よくする介護』を実践するためのICFの理解と活用(大川弥生著、中央法規出版)を参考にしました。「目標指向的介護」という視点から介護におけるICFの重要性が平易に解説されています。お薦めの1冊です。
ICFの生活機能モデルとは
ICFの生活機能モデルとは、人が生きることの全体像を最も簡潔に示した図といわれています(図2)。人が生きることは極めて複雑ですので、それを最大限に簡潔に捉えたモデルといえるでしょう。
ICFは、6つの要素から構成されます。具体的には、生活機能に関する3つのレベル「心身機能・構造」「活動」「参加」と、それに様々な影響を与える3つの背景因子である「健康状態」「環境因子」「個人因子」であり、双方向の矢印で結んだモデルで示されています。つまり、3つのレベルからなる生活機能は、それ自体の3つのレベルの間でも影響を与え合っており、さらに、様々な因子との間でも影響を与え合っていることを示す相互作用モデルがICFのモデルです。
図2 ICF(国際生活機能分類)とは
以下に、これら6つの要素の内容を紹介します。
【生活機能】
(1)心身機能・構造:心身機能とは、身体や精神の働きのことをいいます。具体的には、手足の動きや視覚・聴覚、内臓の働きなどの機能を指します。
(2)活動:生活行為、すなわち生活上の目的を持ち、一連の動作からなる具体的な行為のことです。生きていくために基本的に必要な、歩いたり、歯を磨いたり、風呂に入ったりといったADL(日常生活動作)を含みます。
(3)参加:「社会参加」といえばわかりやすいでしょうが、それだけではない広い概念があります。例えば、主婦としての家庭内の役割や、地域組織の中で役割を果たすなど広い範囲のものが含まれます。
【背景因子】
(4)健康状態:生活機能低下を起こす原因は、妊娠、高齢、ストレス状態、その他いろいろなものを含む広い概念であり、それらを健康状態といいます。障害の有無に関係なく、「全ての人に関する分類」として捉えられています。
(5)環境因子:ICFでいう「環境因子」は、非常に広く環境を捉えており、分類すると「物的環境」「人的な環境」「社会的な環境」の3つに分けられます。例えば、「物的な環境」とは建物、道路、交通機関を指し、「人的な環境」とは家族、友人、仕事上の仲間などを指します。「社会的な環境」とは、医療、保健、福祉、介護に関する制度や政策などを意味します。
(6)個人因子:その人固有の特徴であり、価値観やライフスタイルなどを指します。この「個人因子」は、「個性」というものに近いものであり、医療でも福祉でも患者、利用者などの個性を尊重しなければならないということが強調されている現在、重視されるべきものです。
余談になりますが、介護福祉分野以外のサービス業においても、ロボット/RTの活用を考える際、その業種ごとに日常的に用いられている規格や指標に則して、ロボット/RTを活用する意義を、整理することは重要です。技術の集合体としてロボット/RTを捉えるのではなく、各々のサービス業の中で機能を果たすツールとしてのロボット/RTの存在意義を明確にすることが、ビジネスデザインする際に重要と考えています。
ICF(生活機能)モデルで見た介護サービス分析
ここでは、図2に示したICFモデル図に、ICFの生活機能モデルで見た介護サービスの位置付けと、求められる他の職種・サービスとの連携を述べます。
まず、介護サービスがこのICFの項目のどこに影響を及ぼすのか考えてみます。図3に示すように、介護サービスは直接的に「活動」に働きかけますが、その効果は働きかけた活動項目に限られるものではなく、他の活動項目を含めた生活機能全体に影響を及ぼします。各要素が双方向の矢印でつながっているのはそのためです。したがって、どのようなプラスの効果があるか、同時にマイナスの影響を及ぼしていないかを、生活機能モデル全体として見ていくことが重要です。
また、関連サービスによる他の働きかけが、どのように影響するのかを考えることも重要です。現在、介護では様々な職種やサービスとの連携が求められています。他職種のサービスの役割をICFの生活機能モデルに位置づけて捉えることで、それらが生活機能向上にどのように貢献するのかを正しく位置づけて理解することができます。そして、利用者の生活機能のどのレベルのどの項目を向上させるために、他の職種やサービスと、どのように協力するかを把握することができます。
図3 ICF(生活機能)モデルで見た介護サービスと、求められる他の職種サービスとの連携
そこで、ICFの生活機能モデルに、現存する介護サービスを含めた関連するサービスを位置付けたものを(1)~(5)(赤字の項目)で示します(図3)。(1)~(5)については、以下のような内容を指します。
(1)医療・看護サービス
健康状態の管理。生活機能の低下は「健康状態」(疾患)によってもたらされることが多い。
(2)介護サービス
直接「している活動」への働きかけ。状況と希望にあわせて高齢者の介護生活をサポートし、介護する側・される側の負担を軽減するサービス。
(3)地方自治体の社会参加推進センター
直接参加レベルへの働きかけ。シニアの健康と生きがいづくりの活動を応援するため、様々な情報の発信と、地域活動への参加のきっかけづくりを行っている。
(4)理学療法士による訓練
直接心身機能レベルへの働きかけ。いわゆるリハビリテーション。基本動作訓練、機能回復訓練、模擬動作訓練などを指します。
(5)介護支援専門員(いわゆるケアマネージャー)によるツール/空間提案
福祉用具や装具、住宅改修などの提案を含めたケアプランの提案を行う。
このように整理すると、「介護」とひと言でいっても、いかに多くの要素・サービスが複雑に絡んでいるかがわかるでしょう。
各サービスにおいて活躍が期待されるロボット/RT
前章の内容で、介護の全体像が見えてきたところで、改めてロボット/RTの役割について考えてみます。図3の生活機能モデル、および関連するサービスの中で、ロボット/RTが1つのツールとして活躍できるところはどこにあるのかを整理します。
筆者の分析では、図4に示すように、3つの分野でロボット/RTの活用が期待されています。
まず、「(1)医療・看護サービス」の分野では医療用ロボットがあります。米Intuitive Surgical社が開発した手術支援ロボット「da Vinci(ダ・ヴィンチ)」が一例にあげられます。
次の「(4)理学療法士による動作訓練」の分野では、リハビリ支援ロボットの活躍が期待されています。現在、上肢や手首など様々なリハビリ支援ロボットが開発されています。
そして、「(5)介護支援専門員によるツール/空間提案」の分野では、介護福祉支援ロボットの活用が期待されています。移乗支援ロボットや食事支援ロボット、メンタルケアロボットなどが、その例にあげられます。介護福祉支援ロボットは、(2)介護サービスの中に入れてもよいのですが、ロボットを1つのツールとして採用するか否かは、要介護者のケアプランを構築するケアマネージャーにより決定されることが多いため「環境因子」に入れました。
図4 ICF(生活機能)モデルで見た関連するサービスの中で活躍が期待されるロボット
ロボット/RTが選択肢の1つになるには
筆者は、様々な介護現場を訪問し、ヒアリングする機会がありますが、そのたびに痛感することがあります。ケアマネージャーによるツール/空間提案の中に、ロボット/RTという選択肢がまったくといってよいほど入っていないことです。介護現場へのロボット/RTの啓蒙・普及が不足していることもありますが、実際の介護現場で使えるものがあまりにも少ないからでしょう。
以前、「第17回コラム」で、介護現場では、費用対効果はもちろんですが、「時間」「スペース」に対する導入判断のプライオリティが高いと述べました。これらの運用条件を満たし、かつ十分な機能価値を持つロボット/RTが介護現場では求められています。
したがって、まずはキーマンであるケアマネージャーの選択肢にロボット/RTが入るために、どのような価値を備えることが必要なのか? こうした視点から介護福祉ロボット/RTの開発に着手していくことが、介護分野でロボットビジネスを成功に導くためのカギとなるでしょう。
【参考文献】
[1]大川弥生,“「よくする介護」を実践するためのICFの理解と活用 ―目標指向的介護に立って”,中央法規出版,2009.
【過去の関連コラム】
►第17回 移乗介助ロボットの実用化に向けた課題と解決ポイント
►第23回 ADLにもとづく介護福祉ロボの現状分析と求められる開発アプローチ
●執筆者紹介
小西 康晴さん(Konishi Yasuharu)
(株)ロボリューション 代表取締役。1977年、大阪府生まれ。2000年、慶應義塾大学 理工学部 システムデザイン工学科(1期生)卒。2002年、慶応義塾大学大学院 理工学研究科 修了。修論テーマは「自律走行自転車ロボットの開発」。同年、村田製作所に入社。産業用ロボットの研究・開発および電子部品PR用ロボット開発に関わる。2005年 ロボットテクノロジーに無限の可能性を感じ退社。同年4月、父が経営する生野金属に入社(現在、企画開発室 取締役室長)。06年6月 サービスロボットの開発・導入コンサルティング事業を行うロボリューションを設立し、代表取締役に就任する。
大和ハウス工業「住宅床下点検ロボット開発プロジェクト」(平成18年度経済産業省「サービスロボット市場創出支援事業」)や、平成20年度には村田製作所「ムラタセイコちゃん開発プロジェクト」において開発プロデュースを担当するなど、ロボット開発に関わるプロデュース・コンサルティング業務をおもに活動している。
2006年度から4期継続し、大阪市ロボットラボラトリー、次世代ロボット開発ネットワーク「RooBO」における技術アドバイザーを務めるほか、国際デザインコンペティション2006 テーマ「ROBOT」、同2007 テーマ「ROBOT2」にて技術専門委員も務める。
URL:http://www.robot-revolution.com/

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