Robotコンサル小西の超・思考法

 2月14日に、大阪南港のATCエイジレスセンターにて「介護福祉支援ロボット分野でビジネス化するために必要な企画・開発ステップとは」と題して講演をしました。100名を超える方に参加いただき、講演後には介護福祉分野でのロボットの活用ならびに事業化について多数の質問をもらいました。様々な方と意見交換ができる貴重な場となりました。

  そこで、今回は講演でも取り上げた、介護福祉サービスとロボット/RTとの接点の導出について、その考え方を紹介します。今回の内容は、2011年1月に述べた「第23回 ADLにもとづく介護福祉ロボの現状分析と求められる開発アプローチ」の上位に位置づけられます(図1)。
 その関係性から説明しますと、今回は、「ICF(International Classification of Functioning,Disability and Health、国際生活機能分類)」の生活機能モデルを活用して、介護福祉サービスとロボット/RTとの接点を広く分析します。一方、第23回ではICFの生活機能モデルを構成する6つの要素のうち「ADL活動)」と「介護福祉支援ロボット(環境因子)」の2項目を取り上げ、これらの相互依存性を詳細に分析しています(図1)。今回のコラムを一読された後に再度、第23回を確認してもらうと、その内容の理解がより一層を進むはずです。

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図1 第23回コラムで述べたADLとICFとの関係

「助けるだけの介護」から「よくする介護」へ

  ICFを紹介する前に「最良の介護とは何か?」から説明しておきます。
 読者の方には、介護とは「目の前の不自由なこと(活動制限)を手伝うこと(マイナスを補うこと)」と捉えている方が多いのではないでしょうか。現状、ロボット開発者の多くが、この思考に引きずられている印象を受けます。

 実は、介護の真の目的は「介護を必要とする人が、より良い人生・生活を送れるようにすること」にあります。つまり「最高のQOL(Quality of Life)の実現」であり、まず、これを理解しておかなければなりません。今後、介護により「人の状態をよくすることができる」との考えが重要になってくるといわれていますが、これから介護福祉支援ロボットの開発に着手するのであれば、このトレンドを押さえておくことが求められます。

  例えば、高齢者が室内での転倒で骨折し、その後、歩行が不安定なったとします。ここでの「よくする介護」を考えてみます。「助けるだけの介護」であれば、「住空間内の移動は車椅子や移乗支援ロボットなどに依存し、外出での移動は電動車椅子やシニアカーに委ねればよい」ということになります。
 一方、「よくする介護」という視点で考えれば、このような考えに到る前に「歩行という活動を直接向上させられないか」を、まず検討します。歩行が不安定になった高齢者自身が「自力で歩けるようになりたい」と強く思っているのであればなおさら、そうすべきです。したがって、自力で歩行できるようにするためのステップとして、歩行補助具など物的な介護手段の積極活用を考えるべきです。現在、開発が進められているアシストスーツも、より簡易に装着したり運用管理したりできるようになれば、選択肢の1つになり得るでしょう。

  歩行補助具などの活用により自立して歩行できるようになれば、歩行補助具は促進要因となります。一方、移乗支援ロボットや電動車椅子などを提案し、利用してもらうような「助けるだけの介護」では自立的な歩行から遠ざけてしまいます。やがては車椅子での生活となり、結果、良かれと思って導入した、これらの移乗支援ロボットや電動車椅子などは阻害要因になってしまいます。

 では、どうすればロボット/RTの活用による「よくする介護」実現に向け、体系的な分析が行えるのでしょうか。その1つの解が、ICTの生活機能モデルの活用であると筆者は考えています。次章では、まずICFの概念を解説し、その後、ICFの考えにもとづいてロボット/RTがどのようなポジションを担っているのか、または担うべきなのか考察します。

 以下、ICFに関する情報は、「『よくする介護』を実践するためのICFの理解と活用(大川弥生著、中央法規出版)を参考にしました。「目標指向的介護」という視点から介護におけるICFの重要性が平易に解説されています。お薦めの1冊です。

 ICFの生活機能モデルとは

 ICFの生活機能モデルとは、人が生きることの全体像を最も簡潔に示した図といわれています(図2)。人が生きることは極めて複雑ですので、それを最大限に簡潔に捉えたモデルといえるでしょう。

 ICFは、6つの要素から構成されます。具体的には、生活機能に関する3つのレベル「心身機能・構造」「活動」「参加」と、それに様々な影響を与える3つの背景因子である「健康状態」「環境因子」「個人因子」であり、双方向の矢印で結んだモデルで示されています。つまり、3つのレベルからなる生活機能は、それ自体の3つのレベルの間でも影響を与え合っており、さらに、様々な因子との間でも影響を与え合っていることを示す相互作用モデルがICFのモデルです。

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図2 ICF(国際生活機能分類)とは

 以下に、これら6つの要素の内容を紹介します。
【生活機能】
(1)心身機能・構造:心身機能とは、身体や精神の働きのことをいいます。具体的には、手足の動きや視覚・聴覚、内臓の働きなどの機能を指します。

(2)活動:生活行為、すなわち生活上の目的を持ち、一連の動作からなる具体的な行為のことです。生きていくために基本的に必要な、歩いたり、歯を磨いたり、風呂に入ったりといったADL(日常生活動作)を含みます

(3)参加:「社会参加」といえばわかりやすいでしょうが、それだけではない広い概念があります。例えば、主婦としての家庭内の役割や、地域組織の中で役割を果たすなど広い範囲のものが含まれます。

【背景因子】
(4)健康状態:生活機能低下を起こす原因は、妊娠、高齢、ストレス状態、その他いろいろなものを含む広い概念であり、それらを健康状態といいます。障害の有無に関係なく、「全ての人に関する分類」として捉えられています。

(5)環境因子:ICFでいう「環境因子」は、非常に広く環境を捉えており、分類すると「物的環境」「人的な環境」「社会的な環境」の3つに分けられます。例えば、「物的な環境」とは建物、道路、交通機関を指し、「人的な環境」とは家族、友人、仕事上の仲間などを指します。「社会的な環境」とは、医療、保健、福祉、介護に関する制度や政策などを意味します。

(6)個人因子:その人固有の特徴であり、価値観やライフスタイルなどを指します。この「個人因子」は、「個性」というものに近いものであり、医療でも福祉でも患者、利用者などの個性を尊重しなければならないということが強調されている現在、重視されるべきものです。

 余談になりますが、介護福祉分野以外のサービス業においても、ロボット/RTの活用を考える際、その業種ごとに日常的に用いられている規格指標に則して、ロボット/RTを活用する意義を、整理することは重要です。技術の集合体としてロボット/RTを捉えるのではなく、各々のサービス業の中で機能を果たすツールとしてのロボット/RTの存在意義を明確にすることが、ビジネスデザインする際に重要と考えています。

ICF(生活機能)モデルで見た介護サービス分析

 ここでは、図2に示したICFモデル図に、ICFの生活機能モデルで見た介護サービスの位置付けと、求められる他の職種・サービスとの連携を述べます。

 まず、介護サービスがこのICFの項目のどこに影響を及ぼすのか考えてみます。図3に示すように、介護サービスは直接的に「活動」に働きかけますが、その効果は働きかけた活動項目に限られるものではなく、他の活動項目を含めた生活機能全体に影響を及ぼします。各要素が双方向の矢印でつながっているのはそのためです。したがって、どのようなプラスの効果があるか、同時にマイナスの影響を及ぼしていないかを、生活機能モデル全体として見ていくことが重要です。

 また、関連サービスによる他の働きかけが、どのように影響するのかを考えることも重要です。現在、介護では様々な職種やサービスとの連携が求められています。他職種のサービスの役割をICFの生活機能モデルに位置づけて捉えることで、それらが生活機能向上にどのように貢献するのかを正しく位置づけて理解することができます。そして、利用者の生活機能のどのレベルのどの項目を向上させるために、他の職種やサービスと、どのように協力するかを把握することができます。

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図3 ICF(生活機能)モデルで見た介護サービスと、求められる他の職種サービスとの連携

 そこで、ICFの生活機能モデルに、現存する介護サービスを含めた関連するサービスを位置付けたものを(1)~(5)(赤字の項目)で示します(図3)。(1)~(5)については、以下のような内容を指します。

(1)医療・看護サービス
 健康状態の管理。生活機能の低下は「健康状態」(疾患)によってもたらされることが多い。

(2)介護サービス
 直接「している活動」への働きかけ。状況と希望にあわせて高齢者の介護生活をサポートし、介護する側・される側の負担を軽減するサービス。

(3)地方自治体の社会参加推進センター
 直接参加レベルへの働きかけ。シニアの健康と生きがいづくりの活動を応援するため、様々な情報の発信と、地域活動への参加のきっかけづくりを行っている。

(4)理学療法士による訓練
 直接心身機能レベルへの働きかけ。いわゆるリハビリテーション。基本動作訓練、機能回復訓練、模擬動作訓練などを指します。

(5)介護支援専門員(いわゆるケアマネージャー)によるツール/空間提案
 福祉用具や装具、住宅改修などの提案を含めたケアプランの提案を行う。

 このように整理すると、「介護」とひと言でいっても、いかに多くの要素・サービスが複雑に絡んでいるかがわかるでしょう。

各サービスにおいて活躍が期待されるロボット/RT

 前章の内容で、介護の全体像が見えてきたところで、改めてロボット/RTの役割について考えてみます。図3の生活機能モデル、および関連するサービスの中で、ロボット/RTが1つのツールとして活躍できるところはどこにあるのかを整理します。

 筆者の分析では、図4に示すように、3つの分野でロボット/RTの活用が期待されています。
 まず、「(1)医療・看護サービス」の分野では医療用ロボットがあります。米Intuitive Surgical社が開発した手術支援ロボット「da Vinci(ダ・ヴィンチ)」が一例にあげられます。
 次の「(4)理学療法士による動作訓練」の分野では、リハビリ支援ロボットの活躍が期待されています。現在、上肢や手首など様々なリハビリ支援ロボットが開発されています。

 そして、「(5)介護支援専門員によるツール/空間提案」の分野では、介護福祉支援ロボットの活用が期待されています。移乗支援ロボットや食事支援ロボット、メンタルケアロボットなどが、その例にあげられます。介護福祉支援ロボットは、(2)介護サービスの中に入れてもよいのですが、ロボットを1つのツールとして採用するか否かは、要介護者のケアプランを構築するケアマネージャーにより決定されることが多いため「環境因子」に入れました。

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図4 ICF(生活機能)モデルで見た関連するサービスの中で活躍が期待されるロボット

ロボット/RTが選択肢の1つになるには

 筆者は、様々な介護現場を訪問し、ヒアリングする機会がありますが、そのたびに痛感することがあります。ケアマネージャーによるツール/空間提案の中に、ロボット/RTという選択肢がまったくといってよいほど入っていないことです。介護現場へのロボット/RTの啓蒙・普及が不足していることもありますが、実際の介護現場で使えるものがあまりにも少ないからでしょう。

 以前、「第17回コラム」で、介護現場では、費用対効果はもちろんですが、「時間」「スペース」に対する導入判断のプライオリティが高いと述べました。これらの運用条件を満たし、かつ十分な機能価値を持つロボット/RTが介護現場では求められています。
 したがって、まずはキーマンであるケアマネージャーの選択肢にロボット/RTが入るために、どのような価値を備えることが必要なのか? こうした視点から介護福祉ロボット/RTの開発に着手していくことが、介護分野でロボットビジネスを成功に導くためのカギとなるでしょう。

【参考文献】
[1]大川弥生,“「よくする介護」を実践するためのICFの理解と活用 ―目標指向的介護に立って”,中央法規出版,2009.


【過去の関連コラム】
第17回 移乗介助ロボットの実用化に向けた課題と解決ポイント 
第23回 ADLにもとづく介護福祉ロボの現状分析と求められる開発アプローチ


 

●執筆者紹介

小西さん写真.JPG小西 康晴さん(Konishi Yasuharu)
(株)ロボリューション 代表取締役。1977年、大阪府生まれ。2000年、慶應義塾大学 理工学部 システムデザイン工学科(1期生)卒。2002年、慶応義塾大学大学院 理工学研究科 修了。修論テーマは「自律走行自転車ロボットの開発」。同年、村田製作所に入社。産業用ロボットの研究・開発および電子部品PR用ロボット開発に関わる。2005年 ロボットテクノロジーに無限の可能性を感じ退社。同年4月、父が経営する生野金属に入社(現在、企画開発室 取締役室長)。06年6月 サービスロボットの開発・導入コンサルティング事業を行うロボリューションを設立し、代表取締役に就任する。
 大和ハウス工業「住宅床下点検ロボット開発プロジェクト」(平成18年度経済産業省「サービスロボット市場創出支援事業」)や、平成20年度には村田製作所「ムラタセイコちゃん開発プロジェクト」において開発プロデュースを担当するなど、ロボット開発に関わるプロデュース・コンサルティング業務をおもに活動している。
 2006年度から4期継続し、大阪市ロボットラボラトリー、次世代ロボット開発ネットワーク「RooBO」における技術アドバイザーを務めるほか、国際デザインコンペティション2006 テーマ「ROBOT」、同2007 テーマ「ROBOT2」にて技術専門委員も務める。
URL:http://www.robot-revolution.com/

  前回に引き続き、高齢者向けメンタルケアロボット「うなずきかぼちゃん」開発物語を「後編」として紹介します。前回は感性価値の構築について、企画から開発のプロセスに沿って説明しました(詳細は前回の「第27回」コラムを参照)。今回は、機能価値を中心に、外的デザインから内的デザイン(エンジニアリングデザイン)のプロセスを解説します。

ユーザーとロボットの位置関係は?

 まずは、「感性価値」(詳細はこちら)を構成する5項目の1つである「調和」(そのほか「デザイン」「こだわり」「共感」「遊び心」)の構築について説明します。
 外観デザインを決定した時点で、かぼちゃんとユーザーがどのような位置関係で触れ合うのかを検討しました。ロボットの基本姿勢には「座っている」「立っている」「寝ている」などが考えられます。また、ユーザーとの位置関係でいえば「向き合っている」「腕の中に抱かれている」「ユーザーの膝の上に、ユーザーと同じ方向を向いて座っている」などが考えられます。ロボットの基本姿勢が変われば、ユーザーにとって自然な触れ合い方は変化し、それに伴い、必要な機能価値(搭載するセンサの位置や種類など)も変化します。検討の結果、「かぼちゃんは机の上に座ってユーザーと向き合っている」を基本姿勢としました(写真1)。

 当初より、かぼちゃんにはうなずく動作を入れたいと考えており、正面を向き合ってユーザーに話しかけ、それに呼応してうなずくかぼちゃんを見やすいよう、お互いが向かい合っている体勢を「基本姿勢」とするのがベストと判断したからです。また、介護施設で検証試験をした際、「(腕を伸ばした状態で)持ち上げると少し重いわね」と述べられた高齢者が複数いたことも理由にあります。かぼちゃんを把持することを定常状態にしませんでした。

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写真1 机の上にかぼちゃんを座らせ、向き合った際のユーザーの視野

 さらに基本姿勢に加え、触れ合う行為として「手をあげる」「頭をなでる」「抱っこする」「たかいたかいをする」「寝かせる」といった行為を重視し、これらの状態を的確に認識できるよう、センサなどの入力機器(写真2)を選定しました。

感性価値を受けての「機能価値」の構築

 上述の感性価値の構築を受けての機能価値の説明になります。

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写真2 うなずきかぼちゃんに搭載されている5種類のセンサ・スイッチと1軸のうなずき駆動部

1.頭をなでる動作を検知する光センサ
 前頭部の布地の内側に設置しています。ユーザーが、かぼちゃんの頭をなでる動作を検知します。検知すると、かぼちゃんは頭をなでられたことに関連した発話(通称「なでなで語」)をします。

2.手の上げ下げを検知する振子スイッチ
 両手の手のひらの内部には振子スイッチが組み込まれています。振子スイッチの構造は、パイプ状の円柱の中に入っている金属球が重力で移動することにより、手の上げ下げを検知します。非常にアナログなスイッチですが、安価で使い勝手の良いスイッチです。玩具メーカーならではローテクの活用といえるでしょう。

3.体勢を検知するモーションセンサ
 かぼちゃんの体勢を検知するために、内部の制御基板に3軸加速度センサを実装しています。これにより「たかいたかいをされている」「抱っこされて、やさしく揺られている」「寝かされている」といった状態を検知しています。
 ちなみに、仰向けに寝かせるとスースーと寝息を立てて眠ってしまうことがあります。また、身体を起こすと『はふ~(あくび)、寝ちゃってた』などと発話して目を覚まします。

4.音声認識ではなく音入力
 頭部に内蔵したマイクで、ユーザーが話しかけた声を拾います。話しかけが終わった(途切れた)ことを認識し、一瞬、間を置いて返答します。
 音入力によるコミュニケーションのロジックの一端を紹介しますと、音入力が連続すると連続した数に応じて発話が変化します。例えば、3回以上連続して会話のキャッチボールがあると『それから、それから?』『それで、それで~』などと、さらなるコミュニケーションを求めています。

 よく聞かれるのですが、かぼちゃんには音声認識は実装していません。費用対効果を検証した結果です。かぼちゃんは「コミュニケーション相手」ですので、「聞き役」でもあり「話し役」でもあります。かぼちゃんを「話し役」とし、かぼちゃんの発話内容に合わせてユーザーが返答すると、連続して会話が成立することも珍しくありません。音声認識を実装していないので、「聞き役」としてのかぼちゃんから十分な返答が得られないことが間々ありますが、「話し役(コミュニケーションを促がす存在)」としては、高齢者に高い満足度が得られるはずです。
 また、音声認識を活用すれば機械的な会話のキャッチボールは成立するかもしれませんが、機能価値と感性価値のバランスの崩壊を招きます。こうした判断も実装を取りやめた理由となっています。

  音入力の効果として、介護施設での検証テストを紹介すると、高齢者の方がかぼちゃんに話しかけた際、思いもよらぬ返答をして会話が成立し、その場にいた高齢者やヘルパーさん全員が笑顔になり、空間全体が笑いに包まれましたことがありました。ランダムに様々な言葉を発話する曖昧さがある中で、ときに的確な答えが返ってくることで大きな笑いが生まれたわけで、ここに介護現場に笑顔を届けるための大切なロジックが隠されていると捉えています。

5.笑い声のトリガーである押しボタンスイッチ
 両足裏の布地の内側に、押しボタンスイッチを設置しています。足の裏をくすぐると『キャハハハ(笑)』と笑います。連続して何度もくすぐると、別のフレーズを発話することもあります。

 初期段階での机上のエンジニアリングデザインでは、足裏に押しボタンスイッチを搭載していませんでした。ところが介護施設での検証で、かぼちゃんの試作機を向かい合った基本姿勢で触れ合ってもらった際、手を握ったり挙げたりするのと同じくらい、足裏を触る方が多いことに気付きました(余談ですが、生まれも育ちも大阪である筆者は、通天閣の『ビリケンさん』のようだなと感じました)。そこで、簡単な押しボタンスイッチを両足裏に取り付け、足裏を触ると(スイッチを押すと)くすぐったがる表現を入れることにしました。また、かぼちゃんの明るく、かつ楽しい笑い声がいつでも聞ける簡易なトリガーが欲しいと考えており、押しボタンスイッチに、その役割を担わせることにしました。こうした検討を経ての設置となったわけです。

6.うなずき動作を担うDCモータ
 かぼちゃんは、発話するタイミングでうなずき動作を行います。具体的には首部に搭載したDCモータにより、ギヤを介して首内部にあるレバーが上下動することで行います。ただし、すべての発話時にうなずくわけではありません。厳選したフレーズのみうなずくようにしています。

ユーザビリティを高めるために

1.億劫な設定作業をイベントに!
 どのような電子機器でも設定作業が必要ですが、面倒かつ億劫(おっくう)な作業でもあります。玩具でも家電でも、一般的には本体に小さな液晶画面があり、その脇にある小さな押しボタンスイッチを用いて時間設定や個人登録などを行います。さらに、その脇には細かい字でボタンの役割が書かれていたり、英語表記だったりするなど、高齢者には難解なインターフェースである場合が多々あります。かぼちゃんでは設定作業を平易とし、かつこだわりを持ったものとしました(写真3)。

  具体的には、両手・両腕に内蔵したスイッチを、ボタン代わりに用いることで設定作業を行うことです。介護者に設定作業してもらうことを想定していますが、例えば80代の高齢者を介護される方には、ご子息である60代の方が当たっている場合があり、可能な限り平易なものでなければならないからです。これらスイッチを活用する利点を整理すると、次のようにまとめられます。

(1)設定しながら、かぼちゃんとのコミュニケーション方法を理解できる
 「何をすれば、かぼちゃんとコミュニケーションが図れるのか」を設定段階で体感できます。説明書には、各センサの配置および役割が説明されていますが視認できないため、外観上はぬいぐるみにしか見えません。そのために、初期段階ではコミュニケーション方法が理解しづらいです。スイッチによる操作と、それに伴うかぼちゃんの発話による誘導により、コミュニケーション方法を知りながら設定作業を行えるようにしました。
 例えば、時間の数値を増やしたり減らしたりする作業は、右足と左足の押しボタンで行います。1回押すと1ずつ増減します。そして、決定する際は、かぼちゃんの片手を挙げます。すると、かぼちゃんは『オッケ~!』と応えて、次の設定項目を発話します。

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写真3 かぼちゃんのお尻内部(電池ボックスを取り出すための扉以外は、上部にメインの電源スイッチがあるのみ。「○」がONで、「×」がOFF。ONになると、電源スイッチの左側に隠れているLEDが、筐体から透けて赤く点灯します)

(2)かぼちゃんのユーザーとなった喜びが感じられる
 具体的な設定項目には、「現在の年月日、時刻」「かぼちゃんの起床時間・就寝時間」「呼称の設定(『おばあちゃん』『おじいちゃん』『じいじ』『ばあば』など8種類から選択)」の3つがあります。これらの設定を終えると、かぼちゃんは、『設定完了!これからよろしくおねがいします』と発話し、同時に、うなずき動作でお辞儀をしてくれます。このイベントにより、かぼちゃんのユーザーになったことを実感でき、喜びが得られます。筆者は、その愛らしさがたまらなく好きです。ロボットがわが家にやってきて、家族(パートナー)となる瞬間でもあり、こうした演出は重要です。

2.高齢者が扱いやすい電源を
 ロボットを動作するには何かしら電力が必要です。ただし高齢者の立場で考えると、あまり使い慣れていない充電池(充電器と本体をアダプタ接続)は不適であり、結果、乾電池の使用が最適と判断しました(写真4)。
 また、重量という視点で考えると、軽量化に向け単3電池4本で動作するほうがよいのですが、これでは計算上1カ月しか持続しないため、単2電池4本で駆動させることにしました。一方、メカ構造の視点でみると、臀部に搭載するため重心位置が下がり、どっしりとした基本姿勢にできるメリットがありました。

 なお、乾電池の電圧が低下してくると、かぼちゃんは自分で認識して『力が出ないよ~、電池交換して!』と発話します。面倒な電池交換作業に対しても「しょうがないな~」という気持ちでお世話できるようにしています。

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写真4 かぼちゃんの電池ボックス。単2電池 4本で駆動。電池ボックスは、ボックスを丸ごと取り出すことができ、電池をセットしやすい構造に工夫しています。また、電池ボックスは上下左右の向きを間違えると本体に入らず、蓋を閉じることができない構造になっています。電気的な安全をメカ構造により担保しています

 このようにこだわってユーザビリティを構築しましたが今後、解決したい項目は残されています。一例を紹介すると、電池交換をした際(わずかな作業ですが)設定を再度し直さなければならないことです(ただし以前の呼称の設定は覚えています。年月日はもちろん、時刻も電源を切った付近の時刻を1時間単位で記憶していますので、初期設定時に比べると時間はかかりません)。
 時間記憶用のボタン電池を別に設ける、または、やはりACアダプタ接続で充電池にするか・・・など、いくつか案がありましたが、「高齢者が最も使い慣れている電源であること」「本体を手の届きやすい価格設定にすること」の2点を重視して乾電池としました。
 なお電源に関しては、筆者は実用化が進みつつある非接触充電技術に注目しています。かぼちゃんの次世代バージョンでは、乾電池以外の電源の採用があるかもしれません。

周辺アイテムでさらなる「楽しみ」と「喜び」を!

 うなずきかぼちゃんのパッケージには、本体と説明書、着せる洋服(オレンジ色のどんぐりボタンのベスト)に加え、開発メンバーのこだわりとして「早見表」と「洋服の型紙」を同封しています。

 早見表は、遊び方が整理して説明してあるA3サイズの印刷物です(写真5)。字は大きく、かつ読みやすくしています。かぼちゃんと遊ぶたびに説明書を参照しなくて済むように、高齢者ユーザー自身が、簡易に遊び方を理解できるアイテムとして準備しました。壁などに貼り付けて使ってもらうことを想定しています。

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写真5(左):うなずきかぼちゃん早見表。A3サイズの用紙に印刷されているので、文字が大きく読みやすくなっています。かぼちゃんとのコミュニケーション方法(5種類のスイッチやセンサの役割)がわかりやすく書かれています。写真6(右):洋服の型紙の一例。写真は「そよかぜTシャツ」の型紙。パッケージには「おでかけえりつきシャツ」を含む2種類の型紙が同梱しています。

 また、洋服の型紙は、かぼちゃんの着せ替えアイテムを作成するためのものです(写真6)。「受付に人形を置いておくと知らない間に服を着ているのよ」「雨の日は、誰かが小さな傘を人形に掛けてあげているのよ」など、ヘルパーさんからこのような話を聞いたことをきっかけに同梱を決めました。手芸や裁縫を趣味とされている高齢者は多く、「かぼちゃんを身近なかけがえのないパートナにしてもらうためのツールとなれば」という思いも込めています。

 お好みの洋服を製作し、かぼちゃんに着させてあげれば、より楽しくコミュニケーションが図ることができます。着せ替えの一例として、ピップの女性社員が製作した洋服を着たかぼちゃんを紹介します(写真7)。洋服を替えたり帽子を被せたりするだけで、印象はガラッと変わります。

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写真7 着せ替えしたかぼちゃん。ピップの女性社員が製作。市販の帽子も被せればオシャレな冬の装いに!左下の小さなかぼちゃんは、販促用グッズの『うなずきかぼちゃんミニ』です。お腹を押すとランダムに発話します

 最後に、前回も触れましたが、ピップの介護RTビジネスのコンセプトを改めて紹介しておきます。
『介護の現場を明るくしたい。介護する人にも、される人にも、ひとときの安らぎと笑顔を届けたい』
 前回から2回にわたり、この思いをどのように具現化したのか、その開発ストーリの一端を紹介しました。みなさんの『共感』が得られれば幸いです。

うなずきかぼちゃんの販売スタート!

 11月21日より、うなずきかぼちゃんの販売が開始されました。ピップが運営するWebダイレクトショップから購入可能です。直販サイトの1つを紹介しておきます。

●ピップ ネットショップ「きれいと元気のマイドストア 楽天市場

  また、東京・銀座の博品館と大阪・梅田の阪急百貨店うめだ本店でも扱っており、こちらでは直接手にとって確かめることができます。おじいちゃん、おばあさんのクリスマスプレゼントとしていかがでしょうか。

●博品館 銀座店 2階(東京都)
●阪急百貨店 うめだ本店 11F介護用品売場(大阪市)
*年明けには、大阪南港のATCのエイジレスセンター(大阪市)にも常設予定です。

●「うなずきかぼちゃん」公式サイト(ピップ)

 

●執筆者紹介

小西さん写真.JPG小西 康晴さん(Konishi Yasuharu)
(株)ロボリューション 代表取締役。1977年、大阪府生まれ。2000年、慶應義塾大学 理工学部 システムデザイン工学科(1期生)卒。2002年、慶応義塾大学大学院 理工学研究科 修了。修論テーマは「自律走行自転車ロボットの開発」。同年、村田製作所に入社。産業用ロボットの研究・開発および電子部品PR用ロボット開発に関わる。2005年 ロボットテクノロジーに無限の可能性を感じ退社。同年4月、父が経営する生野金属に入社(現在、企画開発室 取締役室長)。06年6月 サービスロボットの開発・導入コンサルティング事業を行うロボリューションを設立し、代表取締役に就任する。
 大和ハウス工業「住宅床下点検ロボット開発プロジェクト」(平成18年度経済産業省「サービスロボット市場創出支援事業」)や、平成20年度には村田製作所「ムラタセイコちゃん開発プロジェクト」において開発プロデュースを担当するなど、ロボット開発に関わるプロデュース・コンサルティング業務をおもに活動している。
 2006年度から4期継続し、大阪市ロボットラボラトリー、次世代ロボット開発ネットワーク「RooBO」における技術アドバイザーを務めるほか、国際デザインコンペティション2006 テーマ「ROBOT」、同2007 テーマ「ROBOT2」にて技術専門委員も務める。
URL:http://www.robot-revolution.com/

 2011年10月13日に、ピップ株式会社(大阪市)が高齢者向けメンタルケアロボット「うなずきかぼちゃん」(写真12)を開発し、11月中旬より発売を開始することを発表されました。当日は、筆者も開発チームのメンバーとして会見に列席させてもらいました。

 筆者が、ピップと初めてお会いしたのは、およそ3年前。ちょうどインテックス大阪で「国際次世代ロボットフェア2008(ICRT JAPAN 2008)」が閉幕してすぐの冬でした。「新規事業として、介護福祉に関わるロボット事業を立ち上げたいので、トータルでサポートして欲しい」という依頼でした。そこから、ピップの新規事業部のスタッフの方々と事業化に向けて、ゼロから積み上げてきました。事業化を進める中で、玩具メーカーのウィズ(東京都 JASDAQ上場)のスタッフの方がと出会い、異業種異文化の企業同士が組んだ共同開発を実現し、ようやく今回の「うなずきかぼちゃん」の製品化に辿り着くことができました。発表当日は、販売スタートに向けた区切りを迎えられたということで万感の思いでした。

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写真1 スマイルサプリメントロボット「うなずきかぼちゃん」パッケージと本体

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写真2 プレス発表会場での『うなずきかぼちゃん』。記者のみなさまにも好評でした。特に女性記者さんは、笑顔で楽しそうに触れて下さいました。

 製品の発売が11月中旬を予定しておりますので、製品に関する詳細は発売開始後の次回のコラムでまとめるとしまして、今回は、介護福祉ロボットのゼロからの事業化~製品開発に至るストーリーを紹介します。
 ロボナブルの読者の多くが、研究者や技術者だと聞いているので、技術的な解説をした方がウケるのは理解しています。一方で、ロボット開発に携わる方の中には、そのビジネス化に悩んでいる方も多いように思われます。ですので、ロボット事業への新規参入のプロセス、異業種コラボによる新たな価値の創造といった観点で、時系列に沿って紹介します。

なぜ、ピップがロボットか?

 みなさんが「ピップといえば?」と聞けば、きっとテレビCMでお馴染みの「ピップエレキバンのメーカー」と答える方が多いのではないでしょうか。最近では「マグネループ」や「スリムウォーク」と答える方もおられるかもしれません。筆者も新規のロボット事業に関する話をいただいた当初は、みなさんと同じイメージでした。それゆえ、ピップと「ロボット」、およびその構成要素「RT」との接点を見出しにくく、「どのように介護ロボットの事業化をサポートするのが最適なのか?」と、正直、悩んだところもありました。
 その一方で、違う見方もしていました。「介護福祉ロボット事業を進めるにあたり、技術的な縛りが無いので、自由度が高いのはプラスと捉えるべき。これは、本当の意味でユーザー志向なモノづくりができるということ。だからこそ、介護福祉分野に新たなロボットイノベーションが起こせるかもしれない!」という、いままでにない高揚感も感じていました。

 そこで、まずピップの歴史や歩みについてヒアリングすることからスタートしました。ウェルネスカンパニーであるピップの企業理念を理解するとともに、扱われている数多くの製品について学びました。ピップでは、以前からグループ企業で高齢者向け介護施設を運営され、また、卸し業の立場で介護用品も数多く取り扱われるなど、高齢者介護に関わる事業を幅広く展開されてきました。この実績だけでも他の介護福祉ロボットメーカーにない強みといえます。

 また、ロボットの市場化までの開発プロセスで見ると、ピップはグループ内で、製品を検証できる介護施設を運営され、介護製品の販売ルートも保有されています(ただし今回のロボット事業では、既存の卸し販売ルートは使わず、新規に開拓しています)。一般的なサプライチェーンで考えると、ピップは、設計・開発において強みとなる特別な要素技術は持っていませんので、製品検証(実証実験)から流通に至る川下に強い企業であるといえます。そのようなポジションの企業が、新規事業として、介護福祉に関わるロボットの「メーカー」という立ち位置で参入すること自体、いままでなかったことですので、非常に大きな出来事と捉えています。

 現在、ピップでは、従来の「卸売業」「健康・医療関連の製品メーカー」の立ち位置にプラスして、介護福祉ロボット事業では、RTを活用した製品のメーカーとしての新しいポジションでビジネス展開し、将来の事業の柱にできるよう成長させることを大きな目標とされています。

ピップの思いをカタチに!

 「介護の現場を、まず明るくしたい。介護する人にも、される人にも、ひとときの安らぎと笑顔を届けたいのよ、小西さん!」

 これは、今回発表したスマイルサプリメントロボット「うなずきかぼちゃん」の画が具体化する以前から、ピップの新規事業担当役員の江本茂氏が、筆者に何度もいわれていた言葉です。いまでは、このフレーズは、ピップの介護福祉ロボット事業における大切なコンセプトとなっています。私は、この言葉を最初に伺ったとき、介護施設をグループ内で運営されているピップだからこその着眼点だと感じました。一方で、「どのような役割を持ったRTプロダクトを開発すれば、介護現場にひとときの安らぎと笑顔が届けられるのか?」を考える日々が続きました。

 そんな中、企画会議の中で「ロボットというと高額なものが多く、介護現場に笑顔を届けられる商品であったとしても、一般の方の手に届く商品では現状ない。そこで、一般生活者が手の届くひとときの安らぎと笑顔を届けられるメンタルケアロボットを開発し、販売するというのはどうだろう?」という案があがりました。
 
 介護福祉ロボット事業として、RTを活用できる分野は、既存の分類ですと、「身体補助(自立・リハビリ)」「介助・補完(移乗・入浴補助)」「見守り」「メンタルケア(癒し)」などがあります。その中から、社内ベンチャー的に新規事業の第一弾として取組むのであれば、
(1)担当者の強い思い入れがある分野
(2)保有する介護施設で有効に開発検証がしやすい分野
(3)開発期間・初めてRT製品開発に取り組む想定リスクが、事業部署の規模とマッチしている
 この3つ観点からトータルで考えた場合、「メンタルケア」分野から参入するのがベストと分析しました。筆者も「まず、ここから新規介護ロボット事業をスタートさせましょう。まずは、ピップの思いをカタチにしましょう!」と強く推したことを覚えています。

 いままでの介護福祉ロボットの多くは、肉体労働支援ロボット(例えば、移乗ロボット)にせよ、メンタル面の支援ロボット(例えば、セラピーロボット)にせよ、機能(最先端技術)の詰め合わせになっているため、研究開発への投資、および安全性確保に向けた対策を考えると、なかなかユーザーが満足できる価格帯が実現できていません(第23回コラム参照)。一方、ユーザー視点で見れば、メンタル面を支援するロボットにおいては、中で使われている技術が最先端か否かが問題ではなく、いかに費用対効果を満たした感性価値(心に響く/心を満たす価値)があるかどうかが重要です。つまり、「感性価値を十分満たせる機能価値を実現し、かつ、費用対効果を満足させた製品開発を実現すること」が、今回の製品開発における筆者自身に課せられた命題だと感じていました。
 
 ちなみに、今回の「うなずきかぼちゃん」の製品のサブタイトルには「スマイルサプリメントロボット」と命名しました。本節の最初に述べた「介護の現場を、明るくしたい。介護する人にも、される人にも、ひとときの安らぎと笑顔を届けたい」というピップの思いを高齢者ユーザーに直接届けるために、その思いをそのままサブタイトルにしました。

動画 「うなずきかぼちゃん」の説明動画(画像提供:ピップ)

既存製品の徹底的な分析

 メンタルケア分野のロボット開発を推し進めることを決定してから、より具体的なビジネスデザインの構築をスタートしました。最も時間を割いたのが製品分析でした。現存するメンタルケアの役割を担う製品をリストアップし、「価格」および「機能価値」「感性価値」について比較分析を徹底的に行いました。例えば「セラピーロボット」「ヒーリングパートナー」「ぬいぐるみロボット」と称される製品を中心に数十種類を分析しました(パロの製品分析の概要については第14回コラムを参照)。参考までに、以下にその分析要素の一例を示します。

【機能価値】
(1)機能性:抱き心地(サイズ/重量など)、連続稼動(バッテリー)、存在(連続対話可or聞き役)、動き(モーション)、表情(駆動系や光)、声(大きさ、明瞭さ、速さ)、入力(センサの種類と数)のバリュー
(2)保全性:汚れ防止加工が施されている、丸洗い可能orクリーニングサービスがある、保証期間が長いなど
(3)安全性/耐久性/信頼性:ST規格に準拠してつくられているか、安全規格UL、METなどを取得しているか? など

【感性価値】
(1)こだわり:メーカーのメンタルケア製品のモノづくりに対するこだわりが、きっちりとユーザーに伝えられているか? など
(2)介護空間への調和:その製品が介護者、被介護者と同一空間に存在することに違和感はないか? など
(3)共感:その企業が、なぜそのロボットを開発しなければならなかったのか? など、ユーザーが共感できるストーリーがあるか
(4)デザイン(外観スタイリング):見た目のかわいらしさ(電源OFF時)可能な体勢(寝かせられる、座らせられる)など
(5)遊び心:ユーザーがクスッと笑顔になるようなロジックが存在するか? など

 これらの分析から、搭載がマストな機能の絞込み、および外観スタイリングのイメージや理想的な肌触りなど詳細を詰めていきました。また、製品分析を進めながら、予算を加味したビジネスデザイン(どれくらいの規模のビジネスを展開するか)の詰めを行っていきました。

製品開発におけるマストな縛り

 冒頭で「今回の製品開発には、技術的な縛りがない、開発自由度が高い」と述べました。このポイントは、良い面である一方で、自由度があり過ぎると議論が発散しまとまらないというデメリットもあります。そこで、1つだけ縛りを設けました。それは、多くの方に使ってもらうために「上代(販売価格)を2万円以下にすること」でした。

 「いくらなら購入したいと思いますか?」といったメンタルケアロボットの価格に関するアンケートを準備し、ピップで運営されている介護施設のケアマネージャーさんや介護士さん、そして、デイサービスに通われている高齢者の方々など、ターゲット層の声を吸い上げました。その意見を分析し、さらに前章の製品分析の結果も加味したうえで、この価格帯を決定し、製品開発において最もプライオリティの高い「縛り」としました。

 筆者は、ロボット開発をプロデュース&コンサルティングする際、ロボット開発を3つのデザイン階層に分けて進めます(第15回コラム参照)。この考えを基本とすると、使用される環境との調和や製品の外観デザインなど「感性価値」を司るプロダクトデザイン、仕様をRTに落とし込む「機能価値」を司るエンジニアリングデザインよりも、ビジネスデザインを優先した進め方をするので、このような「価格の縛り」を真っ先に決定するのは必然といえるでしょう。

 一方で、懸念される事項もありました。現存するロボットメーカーや、ロボット関連の要素技術メーカーと開発コンソーシアムを形成したのでは、筆者の経験上、この価格帯を実現するのは、まず無理だと感じていました。量産を見すえたとしても非常に困難であると感じていました。したがって、開発コンソーシアムのイメージとしては、「枯れた技術をうまく活用できる企業が中心となって開発を進める。必要であれば、ロボットの要素技術メーカーを巻き込む」と当初から考えていました。加えて、感性価値を一緒につくり込めるパートナーが必要であることも感じていました。

最良の開発パートナー企業の開拓

 ピップと製品分析を進める中で、開発パートナー候補として目にとまった業界がありました。それは玩具業界でした。機能価値よりも感性価値を重視する業界なので、ロボットというと「キャラクタービジネスになってしまわないか?」「ピップの『健康』といったイメージに合った製品開発が可能なのか?」など懸念されるところもありましたが、一方で、前節で挙げたパートナー条件としては最適だと判断しました。
 そこで、様々な玩具関連企業をリサーチしたり訪問したりして、開発パートナーを選定していきました。最終的にウィズに決定した理由は、それぞれの立場で異なるかもしれませんが、筆者の判断は、新たな価値づくりのために必要な共創というポイントで考え、最もピップに適する感覚があったので推したことを覚えています。

 ちなみに、ウィズは、「たまごっち」や「デジタルモンスター」などの企画提案で実績をお持ちの玩具の企画・開発・製造・及び販売を中心に事業を推進するエンタテインメント企業です。ピップの事業と比較すれば、どれだけ異業種なコラボかが理解してもらえると思います。

 以上のような流れで、ピップとウィズによる異業種コラボが実現し、2010年11月から具体的なメンタルケアロボットの開発会議がスタートしました。進めていく中で、注意を払った点は、
(1)お互いの視点を大事にし、尊重し合いながら進めること
(2)製品開発はもちろん、量産~出荷検査~物流まで、様々なステップにおいて文化の違いが必ずあるはずなので、早めに洗い出し、話し合い解決していくこと
の2つでした。

 ウィズとのコンソーシアム構築時点で、すでにピップと「ビジネスデザイン」は、ほぼ描けていましたので、ウィズとまず取り組んだことは、感性価値の構築でした。ピップとの会議の中で、感性価値の構築は、ある程度進めていましたが、「デザイン(外観スタイリング)」だけは、「こんな感じ」というぼんやりとしたイメージをおのおのが持っているだけで、具現化はできていませんでした。その点、ウィズは社内に優秀なデザイナーがおられますので、「デザイン(外観スタイリング)」は最も得意な領域の1つでした。
 
 そこからウィズに、ピップと構築したコンセプトをお伝えし、それをもとに合計すると20以上あったと思いますが、デザイン画を作成してもらいました。
 その後、ある程度、デザインを絞り込んだ時点で、製品のターゲット層にヒアリングすることにしました。ピップで運営されている介護施設の関係者はもちろん、「おばあちゃんの原宿」といわれる東京・巣鴨を歩いておられる高齢者にも好みをヒアリングしました。高齢者の方々には「抱っこしてみたいぬいぐるみはどれですか?」「おしゃべりするぬいぐるみだとしたら、どれが欲しいですか?」など、ロボットという言葉は一切使わず、高齢者の視点でアンケートを作成し、意見を収集しました。
 また、ユーザー層だけでなく、想定する購買層(高齢者の息子・娘、及び孫にあたる年代)にも「おばあちゃんにプレゼントするならどれを選びますか?」といったアンケートを実施しました。
 
 それらのアンケート結果を参考にし、様々な観点から議論を深め、最終的にプロダクトデザインを決定しました。今回発売される「うなずきかぼちゃん」の製品化が決定した瞬間でした。アンケートで用いたうなずきかぼちゃんの初期のデザイン画()をお見せします。ちなみにアンケートでは、そこそこ人気はありましたが、1番人気ではありませんでした。

fig.kabo-chan_01.PNG

 うなずきかぼちゃんの初期のデザイン画

機能価値の構築に向けて

 この原画をもとに外装となるぬいぐるみのサンプル製作をスタートさせました。併行して、ロボットの機能価値(エンジニアリングデザイン)を詰めていきました。入力に関わる仕様を、センサなど電子部品およびモジュールに、そして、出力に関わる仕様については、1軸のアクチュエータとスピーカー(発話)に落とし込みました。

 特に、発話に関してはこだわりを強く持って取り組みました。高齢者の立場で心に響き、かつ楽しめるセリフリストを作成し、それらを搭載した試作機をピップグループの介護施設に持ち込み、利用者はもちろん介護スタッフを交えセリフの検証・修正を何度も行いました。また、ロボットの音声には「生声」を使うことを決定し、声優のオーディションを行い、録音スタジオでセリフを収録しました。少し耳の遠い高齢者でも聞きとりやすいように、「ゆっくり」と「明瞭」に話すよう声優さんにお願いをしました。

  話はまだ途中ではありますが、冒頭で述べましたように、ここから紹介する製品の詳細については、次回のコラムにて触れさせてもらいます。うなずきかぼちゃんの機能価値について具体的に説明します。

 最後に、11月9(水)~12日(土)に東京ビッグサイトで開催される「2011国際ロボット展」で、ピップが出展される「うなずきかぼちゃん」に実際に触れることができます(ブース番号「SR3-42」)。発売前に触れられる数少ない機会ですので、ぜひお越し下さい。筆者も会期の前半は、ピップのブースを中心に会場におりますので、気軽に声をかけて下さい。 

 

●執筆者紹介

小西さん写真.JPG小西 康晴さん(Konishi Yasuharu)
(株)ロボリューション 代表取締役。1977年、大阪府生まれ。2000年、慶應義塾大学 理工学部 システムデザイン工学科(1期生)卒。2002年、慶応義塾大学大学院 理工学研究科 修了。修論テーマは「自律走行自転車ロボットの開発」。同年、村田製作所に入社。産業用ロボットの研究・開発および電子部品PR用ロボット開発に関わる。2005年 ロボットテクノロジーに無限の可能性を感じ退社。同年4月、父が経営する生野金属に入社(現在、企画開発室 取締役室長)。06年6月 サービスロボットの開発・導入コンサルティング事業を行うロボリューションを設立し、代表取締役に就任する。
 大和ハウス工業「住宅床下点検ロボット開発プロジェクト」(平成18年度経済産業省「サービスロボット市場創出支援事業」)や、平成20年度には村田製作所「ムラタセイコちゃん開発プロジェクト」において開発プロデュースを担当するなど、ロボット開発に関わるプロデュース・コンサルティング業務をおもに活動している。
 2006年度から4期継続し、大阪市ロボットラボラトリー、次世代ロボット開発ネットワーク「RooBO」における技術アドバイザーを務めるほか、国際デザインコンペティション2006 テーマ「ROBOT」、同2007 テーマ「ROBOT2」にて技術専門委員も務める。
URL:http://www.robot-revolution.com/

  6月末に長岡技術科学大学の木村哲也准教授の呼びかけで、サービスロボット安全技術認定者(「サービスロボット安全技術者認定講座」の受講者)を対象にした勉強会が開催(於:IRS神戸ラボ)され、筆者も参加してきました。2012年の発行を控える生活支援ロボット(厳密には「パーソナルケアロボット」)の国際安全規格「ISO 13482」の策定状況や、国際安全規格にもとづく安全の考え方などについて、より理解を深めることができました。勉強会への参加を通じて今後、生活支援ロボットの安全技術の開発や運用能力の向上に貢献できればとの思い強くしました。
 そこで今回は、生活支援ロボットの安全性確保に向け、ビジネス上想定される課題として2テーマをあげ、意見ならびに提案をさせてもらいます。

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6月25日に開催された勉強会の風景。情報交換という意味合いもあり、フランクな雰囲気での勉強会となりました。

大企業しか生活支援ロボは上市できない!?

 2010年12月に茨城県つくば市に生活支援ロボット実用化プロジェクト(2009~13年度、NEDO)の一環として、「生活支援ロボット安全検証センター」が設置されました(*1)。「走行試験関連エリア(動画)」「対人試験関連エリア」「強度試験関連エリア」「EMC試験関連エリア」の4エリアから構成され、2010年末時点で計17台の試験機が設置されているようです。

*1:三菱総合研究所が取りまとめた「戦略的な認証ビジネスの国際化戦略に関する調査」(2010年3月まとめ)では、同センターの運営コストの概算が示されており、初期投資として試験設備機器に約11億円、施設の建設に約6億円(同プロジェクトより捻出)、運営コストとして年間3億円と見積もっている(内訳は、設備更新のための資金:50%、メンテナンス費用:5%、固定資産税:10%、人件費や光熱費、管理費など:35%)。

動画 走行試験関連エリアに設置されている、3次元動作解析装置と障害物接近再現装置を組み合わせた障害物検知の試験風景。移動ロボットが周辺の人や物、障害物などと接近した際に適切な検知と対応が行えるかを検証する。

  NEDOプロ終了後は、同センターは日本自動車研究所(JARI)が試験設備を所有し、日本品質保証機構(JQA)が認証業務を請け負う予定とのことです。すでにJQAでは認証審査官の育成に取り組まれており、2015年までに5名程度が輩出されるそうですが、(当初の市場規模を想定してのことのようですが)あまりにも少人数のため、認証開始から認証完了まで長期化するのは避けられないのではと危惧しています。後述する認証コストにもかかわりますが、その間、“儲けゼロ”で会社を運営するというのは中小・ベンチャーのロボットメーカーには経営上、耐え難いです。

 そこで、こうした状況をうまく回避するためにサービスロボット安全技術認定者を生かせないかと考えています。安全認証の申請に先行して、ロボット関連企業への安全教育コンサルタントとして技術資料をチェックし、認証審査官に引き継ぐという具合に。もともと、木村准教授らはサービスロボットの安全性確保に向けては技術者の育成が必須と考え、同講座を立ち上げられたそうですので、こうしたかたちで国プロとの融合を果たすのは、その考えに沿うものです。NEDOプロに関わる方にはぜひ検討してほしいです。

 また、認証コストの低減に向けても、ひと工夫をしてほしいです。NEDOプロに参画する大手企業からすれば、技術・人材・資金の面から見ても、安全認証にかかるコストは、さほど負担がかかるものではないでしょう(そもそも、これを考慮して大手企業の提案が採択されていると聞きますが・・・)。しかし、中小・ベンチャーが、そのための資金を用意するのは困難です。
  例えば、各種試験を受けるためには、販売予定の量産機と同仕様のロボットを複数台準備する必要があると想定されます。仮に、量産試作機1台のみで認証が受けられないとなると、数台の小ロットで量産期を製造することになり、中小・ベンチャーにとって資金的負担は相当なものになります。加えて、安全検証センターがある茨城県つくば市までロボットを輸送し、担当者が何度も往復するコストもかかります。

 さらに、ISO 12100にもとづくリスクアセスメントの実施など設計段階に要求される各種安全技術の教育などにかかるコストも加味しなければなりません。つまり安全認証に加え、安全性という「機能価値」を満足するために数千万円もの負担がかかるわけです。こうした現状を理解しないまま、技術オリエンテッドなアプローチで生活支援ロボットを開発すると、その資金的なリスクは増大するばかりしょう。

 ISO 13482の策定において、現在のようにわが国が主導的な立場にあることは、生活支援ロボットの市場化に向けて重要ですし、引き続きそうあってほしいです。しかしながら、それにもとづく安全認証を取得するために相当なコストがかかる現状は、中小・ベンチャーの上市を妨げる可能性があり、改善されるべきです。それに向け次のような方策を提案したいです。

【1】「生活支援ロボット安全協会」といった団体(*2)を設立し、ロボット関連メーカーに加盟を促す(認証申請企業は必ず加盟)。また、加盟料は企業の規模(資本金など)によって区別し、加盟料が安全検証センターの運営を支える。加盟企業は安全に関わる最新情報を共有可能とするといったインセンティブを与える
【2】 申請企業の規模(資本金など)に応じて、認証にかかるコストに差を付ける
【3】 販売台数/売上げに応じて、後から追加で認証費用を納めてもらう

 これに加え、木村准教授も指摘されていますが、一部試験を各地の工業試験所でも実施可能にすることもあげたいです。安全検証センターには汎用的な試験装置を複数台備えているので、同様の試験装置を備える工業試験所には試験実施の認定を与えることで、茨城県つくば市までのロボットの輸送費や担当者の交通費の抑制につなげてもらいたいです。わが国では地域に中小・ベンチャーのロボット開発企業が点在することを踏まえると、必須の取り組みと考えます。

*2:NEDOプロでプロジェクトリーダーを務める産業技術総合研究所 知能システム研究部門の比留川博久部門長らは、安全検証センターの事業化に向け、経済産業省と「事業化検討委員会」を立ち上げており、自治体および参加企業から支援金を提供してもらい、コンソーシアム形式で運営するといった方策を検討している。

ユーザーから危険事象をフィードバックしてもらうには?

 ここからは話題を変えて、ISO 12100にもとづくリスクアセスメントに関して今後、ユーザー(ユーザー企業)が意識すべきことに触れます。まずISO 13482でも規定されるであろうリスクアセスメントのフローを示します。

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 ISO 12100にもとづくリスクアセスメントのフローと安全対策の手順 

 で注目してもらいたいのは、ユーザーからロボットメーカーに対し、ロボットを実際に運用する中で見えてきた、これまで想定されていなかったリスクをフィードバックすることが求められていることです(青線の個所)。このフローは、安全性確保のPDCAを回すという意味で理想的だと思います。ところが筆者の経験上、ユーザー企業はロボットの安全に関する基礎知識がほとんどないです。何に主眼を置いて運用上の危険事象をチェックすればよいのかがわかりません。さらにいえば、ユーザーは「残留リスクさえ理解しておけば絶対安全!」と思い込んでいることさえあります。

 このリスクアセスメントのフローを実現するためには、メーカーの開発技術者に対するサービスロボットの安全教育と併行して、ユーザーに向けて「サービスロボットの安全ユーザー教育」を実施する必要があります。つまり、開発技術者を対象にサービスロボット安全技術者認定講座が開催されているように、ユーザーに対しても「サービスロボット安全ユーザー認定講座」を実施するのです。そうすれば、メーカーとユーザー間の安全性確保に関する相互理解が深まり、ロボットの安全に関わるメーカーからユーザーへの引継ぎが円滑になります。今後のサービスロボット普及に向けて、重要な活動になるでしょう。

 もしかすると近い将来、サービスロボット安全技術認定者が在籍するロボットメーカーとサービスロボット安全ユーザー認定者が在籍するユーザー企業が生活支援ロボットの開発でコンソーシアムを組んだ場合、両者の合意のもとで実用化されるというストーリーが現実味を増すと思います。
 例えば、介護福祉施設を全国展開しているような企業が、中小・ベンチャーのロボットメーカーが開発した生活支援ロボットを導入するような場合、中小・ベンチャーにとって安全検証センターでの認証コストが開発の障壁になるかもしれませんが、両者の合意のもとで安全認証を受けずとも実用化に至る―。
 このような開発が現実味を増すと考えます。

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《トレンドウォッチ》
再来年には発行!パーソナルケアロボの国際安全規格ISO 13482 次世代ロボット分野の国際安全規格策定と関連技術の動向より
 

 

●執筆者紹介

小西さん写真.JPG小西 康晴さん(Konishi Yasuharu)
(株)ロボリューション 代表取締役。1977年、大阪府生まれ。2000年、慶應義塾大学 理工学部 システムデザイン工学科(1期生)卒。2002年、慶応義塾大学大学院 理工学研究科 修了。修論テーマは「自律走行自転車ロボットの開発」。同年、村田製作所に入社。産業用ロボットの研究・開発および電子部品PR用ロボット開発に関わる。2005年 ロボットテクノロジーに無限の可能性を感じ退社。同年4月、父が経営する生野金属に入社(現在、企画開発室 取締役室長)。06年6月 サービスロボットの開発・導入コンサルティング事業を行うロボリューションを設立し、代表取締役に就任する。
 大和ハウス工業「住宅床下点検ロボット開発プロジェクト」(平成18年度経済産業省「サービスロボット市場創出支援事業」)や、平成20年度には村田製作所「ムラタセイコちゃん開発プロジェクト」において開発プロデュースを担当するなど、ロボット開発に関わるプロデュース・コンサルティング業務をおもに活動している。
 2006年度から4期継続し、大阪市ロボットラボラトリー、次世代ロボット開発ネットワーク「RooBO」における技術アドバイザーを務めるほか、国際デザインコンペティション2006 テーマ「ROBOT」、同2007 テーマ「ROBOT2」にて技術専門委員も務める。
URL:http://www.robot-revolution.com/

 筆者はコンサルテーションを通じて、クライアント企業から次のような質問をよく投げかけられます。

【1】サービスロボットは、どのように社会に普及していくと思いますか?
【2】サービスロボットの市場創出について、グランドデザインとして、どのようなイメージを持っていますか?
【3】1つの推測として、コンピュータが普及した流れを、サービスロボットも踏襲するのではという考え方がありますが、どう思いますか?

  サービスロボット市場では、お掃除ロボットや教育教材ロボットを除いて、普及につながったベストプラクティスがほとんどないので、このような質問されるのでしょう。【1】と【2】の質問は少々抽象的なうえに超難問ですので、そう簡単には答えられませんが、【3】については、コンピュータが普及した流れを踏まえると、「『集中化』→『分散化』→『ネットワーク化』という流れでサービスロボットも普及すると思いますか?」と言い換えられるでしょう。この質問のように、サービスロボットとコンピュータを比較しての検討は以前よりよくなされていることから、今回は、この切り口でサービスロボット普及のシナリオを検討してみます。以下では、断りがない限りはサービスロボットを単にロボットと表現します。

ロボットの『集中化』はオススメできない

 まず、『集中化』→『分散化』→『ネットワーク化』という各ステップについて簡単に説明します。
 図1にコンピュータの発展のフローを示します。まず初期段階では、メインフレームという巨大なコンピュータが『集中化』した形態で、オフィスユースをメインに存在していました。そこから、急速なマイクロプロセッサの性能向上とユーザーの需要拡大を背景に、個人ユースに『分散化』したパーソナルコンピュータ(PC)が登場。そして、インターネットの普及により世界中のPCがつながり、『ネットワーク化』されることで活用範囲が拡大しました。それに伴い、新たなサービスが次々と誕生し、PCはビジネスユースだけではなく一般生活にも爆発的に普及しました。

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図1 コンピュータが社会へ普及したフロー

  これを1つのストーリーとした場合、ロボットも同様のステップで普及していくのでしょうか? 筆者は、基本的には同調するのですが、『集中化』のステップについては疑問を抱いています。ロボットによる事業化では、多くの場合、『分散化』の状態でスタートするのがベターと考えているからです。

  その理由を説明する前に、コンピュータにおける『分散化』とロボットにおけるそれは異質ですので、あらかじめ整理しておきます。
 コンピュータにおける『分散化』は、メインフレームがダウンサイジングすることによる「処理の分散化」を指します。一方、サービスロボットの場合の分散化は、ロボットの3要素である「入力(センサ)」「制御(コントローラ)」「出力(アクチュエータ)」が機能ユニットとして『分散化』する、つまり「機能の分散化」という意味です。筆者がいうロボットはこれを念頭に説明します。

  機能が『集中化』したスタンドアローンなロボットには、顧客との接点のないバックステージで活躍している、自動機のようなシステムはありますが、フロントステージで生活者と共存し、かつ社会に新たな価値を提供することで普及したロボットはいまだに登場していません(ただし厳密には、ロボットの多くはネットワークの利用を前提としているため、情報処理という意味では『分散化』しているといえるでしょう)。その理由は、機能を『集中化』させればさせるほど、一般消費者が思い描くようなロボットらしさは増大する反面、費用対効果が見合わなくからです。それ以前に、サービスを提供するうえで『集中化』する必然性がないロボットが多く見受けられ、ここにも普及しない理由があると思われます。

 過去のロボット開発プロジェクトを振り返ると、ロボットの身体性という特徴を生かそうとするがあまり、一体型ハードウエアにまとめ上げる『集中化』にこだわり過ぎている気がします。また、介護福祉ロボットの開発でいえることですが、『集中化』したロボットが実証実験の段階で現場での運用が困難と判断されたら、そのまま開発が停滞していることにも問題があると感じています。理想的な開発プロジェクトとは言い難いですが、機能を『分散化』してみて、費用対効果を再検討してもよいはずです。

『分散化』を前提に検討するのがベター

  これだけの説明でも『分散化』からスタートした方がベターであることを理解してもらえたと思いますが、筆者がロボット開発プロジェクトをプロデュースする際は、ロボットの3要素が『分散化』していることを前提にシステムをデザインしています。具体的には、ロボットを構成する「入力」「制御」「出力」それぞれの単機能ユニットを、使用空間内でどのように設置すべきかを検討し、かつ設置数の最適化を図っています。
 もちろん、このようなアプローチで検討しながらもユーザビリティを考慮した結果、機能を『集中化』して一体型ハードウエアにまとめ上げた方がよいと判断されれば、そのようにデザインしています。『分散化』機能を後になって『集中化』するのは、さほど難しい作業ではありませんですし。

  このアプローチでは「入力」と「出力」は別空間に存在することもあり、完成したシステムは、一般消費者が思い描くロボットからは、ほど遠いものになっているかもしれません。見た目や印象はどうであれ、『分散ユニット化された機能の集合体がロボットである』という概念が今後、ますます重要になると考えています。

 また、ユーザーの視点に立つと、必要なときに必要な機能だけを容易に、かつ安価で使えれば理想です。『分散化』は、それぞれの単機能化を推し進める行為であり、ユーザーにとっては機能が『集中化』したロボットよりも理解しやすくなります。
 前回、災害対策用ロボットにおける開発アプローチを図2で紹介しました。この図は、「BtoBビジネスにおけるロボットの『分散化』」の一例としてわかりやすいので、改めて掲載しておきます。なお、「BtoCビジネスにおける『分散化』」については現在、進めているプロジェクトがあるので、近いうちに本コラムで取り上げる予定です。

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図2 駆動系と機能ユニットを分離し、それぞれ専門的にユニットを開発するイメージしたもので、ロボット『分散化』の一例として再度掲載

『ネットワーク化』で見込まれるロボットの価値

  米Apple社の「iPhone(アイフォーン)」に代表されるスマートフォンは、購入時は基本機能を搭載しているのみで、ユーザーが使い続けていくことで、自分に必要なアプリケーションをダウンロードし、自分仕様にカスタマイズしていきます。これは「完成していない共通のハード/インターフェースに、自分に必要なアプリケーション(ソフトウエア)を追加購入し、モバイル機器をつくり上げていく」というスマートフォンならではのビジネスモデルといえるでしょう。サービスサイエンスでいえば、ユーザーとともに新しい価値を創造する「共創」であり、さらには、先進的なユーザーが自身の趣味やこだわりなどの希求からもたらされる価値が創出される「自律」といえるでしょう(北陸先端科学技術大学院大学の亀岡モデル)。

 このモデルに習うと、ロボットも機能を『分散化』し、それらをユニット化することで「完成していない共通な基本RTユニット(基本「入力「制御」「出力」ユニット)に、自分が必要なハードウエア(機能ユニット感性ユニットのこと。機能価値感性価値の詳細はこちらを参照)を追加し、自分仕様のロボットへと組み上げ、自分だけのかけがえのない存在へと昇華させていく」というストーリーが描けます。

  その際、必要なソフトウエアのダウンロードやロボットが収集したライフログなどの情報管理は、スマートフォン経由で処理するという選択肢があります。つまり、スマートフォンを「入力」ユニットや「制御」ユニットとして分散化したロボットの中に組み込み、活用するというイメージです。そうすれば、ロボットとスマートフォンとの役割分担が明確になりますし、ロボットとスマートフォンとの共存が実現できます。
 また、ロボットはスマートフォントと違い、ユーザーがソフトウエアを追加する行為により安全性を担保できないという声を上げられる方もいますが、リスクが懸念されるようなロボットの場合は、スマートフォンにダウンロードするようにしておけば、「出力」ユニット(アクチュエータ)への影響を抑えられるはずです。この過程が『ネットワーク化』の初期段階といえるでしょう。

 上記の内容をまとめると、ハードウエアの追加・カスタマイズを担うロボットと、ソフトウエアの追加・カスタマイズを担うスマートフォンとに機能分離することで、それぞれの役割が明確になり、自然なカタチでロボットのネットワーク化が実現するはずです。さらに、ロボットの『分散化』→『ネットワーク化』は、構成する要素技術の進化と、提供されるサービスのさらなる広がりにより実現され、より個別ニーズに応えられるロボットが提供できるようになると私は考えています。勝手な想像かもしませんが、米Google社が提供するスマートフォン向けOS「Android(アンドロイド)」および、それに呼応するかのように米Willow Garage社が提唱する「Cloud Robotics(クラウド・ロボティクス)」は、その先鞭になるのかもしれません。

『分散化』は、社会トレンドにもマッチ

 最後に、別の視点として環境への配慮について考えてみます。
 現在の携帯電話や家電は新機能が追加されると、本体を丸ごと買い換えないといけません。大量生産・大量消費の時代は終焉を迎え、環境配慮への意識が格段に高まる中、従来の消費形態をロボットは踏襲すべきではありません。「必要な機能を必要なだけ追加する。買い足していく」という、上述の『分散化』のコンセプトは、社会トレンドにもマッチするのではないでしょうか。

 また、最近のニュースでパナソニックが8社の賛同を得て、神奈川県藤沢市にスマートタウンを構想するという記事がありました。環境配慮型の街づくりに向けて「省エネ」だけでなく、建物で使うエネルギーを家でつくる「創エネ」や、つくったエネルギーを貯める「蓄エネ」にも取り組むとのことです。さらにはEVが「走る蓄電池」となり、新たなライフスタイルが提唱されようとしています。
 このニュースを聞いて思ったことは、エネルギー分野も『集中化』→『分散化』→『ネットワーク化』という流れを歩むということです。一局集中型の大型発電所を建設するのではなく、戸建ごとに『分散化』した発電システムを構築し、それらを『ネットワーク化』することで、地域の電力を管理・コントロールできるようになります。『集中化』→『分散化』→『ネットワーク化』という流れは、現代のテクノロジービジネスにおける趨勢なのかもしれません。

 このように、エネルギー政策が大きな方向転換を迎え、都市構造自体が変わろうとしています。このような変革期に、サービスロボットも存在意義を早期に示さなければなりません。筆者も、その一翼を担えるよう現在、進めているプロジェクトに邁進していくつもりです。

 

●執筆者紹介

小西さん写真.JPG小西 康晴さん(Konishi Yasuharu)
(株)ロボリューション 代表取締役。1977年、大阪府生まれ。2000年、慶應義塾大学 理工学部 システムデザイン工学科(1期生)卒。2002年、慶応義塾大学大学院 理工学研究科 修了。修論テーマは「自律走行自転車ロボットの開発」。同年、村田製作所に入社。産業用ロボットの研究・開発および電子部品PR用ロボット開発に関わる。2005年 ロボットテクノロジーに無限の可能性を感じ退社。同年4月、父が経営する生野金属に入社(現在、企画開発室 取締役室長)。06年6月 サービスロボットの開発・導入コンサルティング事業を行うロボリューションを設立し、代表取締役に就任する。
 大和ハウス工業「住宅床下点検ロボット開発プロジェクト」(平成18年度経済産業省「サービスロボット市場創出支援事業」)や、平成20年度には村田製作所「ムラタセイコちゃん開発プロジェクト」において開発プロデュースを担当するなど、ロボット開発に関わるプロデュース・コンサルティング業務をおもに活動している。
 2006年度から4期継続し、大阪市ロボットラボラトリー、次世代ロボット開発ネットワーク「RooBO」における技術アドバイザーを務めるほか、国際デザインコンペティション2006 テーマ「ROBOT」、同2007 テーマ「ROBOT2」にて技術専門委員も務める。
URL:http://www.robot-revolution.com/

 3月11日に発生した東日本大震災で被害に遭われた皆様へお見舞い申し上げます。1日も早い復興をお祈りして申し上げます。

 今回は震災発生以来、運用面をはじめ遠隔操縦タイプのロボット(レスキューロボット)を取り巻く様々な課題があがったことを受け、「災害時におけるロボットの実用化に向けた課題」と題して、私見を述べさせてもらいます。

 東北地方の被災地の状況や、大地震と津波で大きなダメージを受けた福島第一原発の状況が日々刻々と明らかになってきました。原発の現場では、目に見えない放射能の恐怖が迫る中、人による地道な情報収集と復旧活動が続いています。「安全」と思われていた職場が、地震と津波により一転して人にとって「危険」箇所へと変化したにもかかわらず、結局は、ロボットではなく人が作業しなければならない現状を目にし、次のことを考える必要があります。

【1】災害時に、ロボットに対して本当に必要とされる役割とは何か?
【2】ロボットを災害復旧システムの運用プロセスに組み込んでもらうためには、どのような観点や行動が不足しているのか?

 まず、今回の大震災に関連したロボットの話題に少し触れておきます。
 『国際レスキューシステム研究機構(IRS)が、大震災の発生直後から、被災地域での調査活動の実施を模索すると同時に、東北大学と千葉工大、長岡技科大、新潟工科大学(後者の2大学は後方支援)が連携して、仙台市内にQuince(クインス)や能動スコープカメラなどを持ち込んだ』というニュースがありました。まだまだ余震が続く危険な中でも、米テキサスから帰国されてすぐに、行動に移そうと現場へ向かわれた、レスキューロボット開発に携わる研究者の皆様の強い意志と情熱に尊敬の念を抱いています。

 ほかには、米iRobot(アイロボット)社が陸上自衛隊の要請を受けて、軍用ロボット510 PackBot(パックポッド)と710 Warrior(ウォーリアー)の2種を日本に輸送中とのニュースもあります。これらのロボットは、福島第一原発での活用が想定されており、原発内の偵察やホースの運搬などを遠隔操縦で行うと予想されます。わが国にとって国難ともいえる未曾有の大災害において、日本のロボットではなく米国のロボットが活用されることに少々複雑な思いがありますが、2001年の米国同時多発テロでの活動など、すでに災害現場で運用実績を積んでおり、大きな戦力になると信じています。
 その一方で、放射能で汚染された環境下で、ロボットの頭脳となるパソコンなどの制御機器類が正常に機能するかが懸念されます。

 このようなロボット関連のニュースがありましたが今後、遠隔操縦タイプのロボットを災害現場の要所で活用してもらうために、そして、災害復旧時の資機材の1つとして社会に認知してもらうために、ロボット研究者ならびにロボットビジネス関係者に求められることは何でしょうか? ここから本題となりますが、ユーザー(高度救助隊や消防隊など)とメーカー両者の立場から、そして、ロボット操縦者の視点から述べさせてもらいます。
 なお、震災発生時の被災自治体の受け入れなど行政側の課題については、専門家の方に譲らせてもらいます。

ロボを災害復旧プロセスに組み込んでもらうには

1.運用するユーザー側として
●ユーザーとしては、まず災害対策時に判断を下すための材料(情報)として何が必要かを捉えておく必要があります。その情報をもとに人が判断し、アクチュエータを備えたロボットがどのような作業を行うべきかを整理します。

 具体的な作業は、災害対策フローを4要素【現象発生(認識)】→【データ・情報収集(入力)】→【人が判断】→【対策実行(出力)】に分け、人による判断以外の3つの行為に対し必要とされる具体的な任務を整理し、人とロボットそれぞれに役割を分担していきます(図1参照)。これらの条件出しのためには、想定される災害発生後の環境変化を事前に把握しておく必要があります。このプロセスを経れば、開発すべきロボットに求められる機能が絞られてくるはずです。

konishi24・f1.JPG図1 災害時、人が対策を決断するまでのフローとロボットが寄与できる箇所

 さらに、枝葉の部分として、
○ロボットを操縦でき、かつ簡単なメンテナンス管理を実践できる人材を育成する。
○ロボットとその操縦者を、日常の避難訓練・危機想定訓練に参加させる。
○ロボット出動許可の決定を誰が下すのか? その決裁者の順位付けを明確にする。
○ロボットの運用方法を、メーカーと一緒になって、頭をつき合わせて、開発初期段階から参画してつくり込む。
という取り組みが必要です。ロボットのことを最も理解しているのはメーカーの開発者ですが、使われる環境のことを最もよく知っているのはユーザーであり、彼らとともに検討することが求められます。

2.ロボット開発メーカーとして
 次に、上記の項目をユーザーに実施してもらうために、ロボットメーカーとして求められる姿勢や取り組みをまとめてみます。
●メーカーの開発メンバーが、ユーザーと一体となり、開発~導入~運用まで一括して『共創』する!というスローガンを持つことが大切です。さらに共創を進める中で、両者で詰めてきた内容を深く理解し、ロボットの操縦方法をユーザーに教育できる人材の育成に取り組むことも忘れてはいけません。

●作業フロー構築に、時間をかけて取り組むことが重要です。開発段階から、このロボットがどのような場所で、どのように保管され、また出動する際は、どのような形態で現場まで送られるのかを、ユーザーと確実に決定しておきます。保管倉庫を出てから現場で作業を実施し、その後メンテナンスを実施、元の保管場所まで戻ってくるところまでを一連の作業フローとして捉えなければなりません。
 例えば、毒性の高い気体が充満した空間で作業したロボットが任務を終えて戻ってきた場合、どのようなプロセスを経て元の保管場に戻すのかなど、想定される課題を1つずつ地道にクリアしていくことが重要です。サービスロボット開発の多くが、ロボットの電源を入れてから切るところまでしか作業フローを構築していないという問題を踏まえての提言です。

●多彩な機能を実装(集中)したロボットの開発を前提とし、かつ環境対応における障壁が高度な場所での使用を想定した場合、ロボットの要求仕様は複雑かつ高度になります。さらに様々な機能の搭載により、必然的に本体サイズも大型化することになりますが、これでは活用範囲が限定されてしまい、費用対効果が見合わなくなります。ゆえに、機能を集中したロボットよりむしろ、機能を分散した複数ロボットによる連携システムを検討する方がベターです。

 筆者の経験上、ユーザーはロボットメーカーに対しロボットという『個』にまとめて欲しいとは考えていません。作業者の安全・安心が確保でき、極度の緊張下でも適切に運用できる資機材が欲しいだけなのです。それを実現する要素としてロボット技術(RT)が不可欠なことは言うまでもありませんし、こうした考えで開発に臨む必要があります。

●さらに今後の話として、駆動系と機能ユニットに分け、専門知識や技術を有する産学が共通したソースのもとで個別に開発する体制を構築してはいかがでしょうか。併行して、ロボットシステムインテグレータにより駆動系と機能ユニットの統合化デザインを検討します。理想の最終形としては、ユーザー側で駆動系に搭載する機能を選択し、ブロックをはめ合わせるようなイメージです。容易に機能ユニットを取り付けることができる、すぐに使えるようなコンセプトが重要と考えます(図2参照)。

konishi24・f2.JPG図2 駆動系と機能ユニットを分離し、それぞれ専門的にユニットを開発するイメージ
災害対応時に、必要な機能をユーザー自身が組み合わせてセットすることができれば、必然的にユーザビリティは非常に高いものとなる。

●災害時、遠隔操縦ロボットを活用する目的を大きく分類すると、次に挙げる3つの事象を「移動」させるためといえます。つまり、人が活動するリスクが高い環境下で、
(1)情報の移動/伝達(例:現場の監視、情報収集)
(2)モノの移動/運搬(例:現場の大気・物質の収集、瓦礫の撤去、必要物資の運搬)
(3)人の移動/搬送(例:人の救出、現場への人の搬送)
を実現することにあります。

 したがって、(1)~(3)それぞれの役割に特化した駆動系と機能ユニットを開発する必要があります。特に、機能ユニットは(1)~(3)それぞれの項目に対し、単一目的を確実に実現できるようなユニット化を意識して開発することが重要です。
 (1)~(3)における機能ユニットの具体例としては、
(1)情報の移動/伝達:高解像監視ユニット、放射能計測ユニット、大気温湿度計測ユニット、赤外線サーモグラフィーユニット、非破壊検査ユニットなど
(2)モノの移動/運搬:ロボットアームユニット、流体(大気)収集ユニット、物体収集ユニットなど
(3)人の移動/搬送:捕捉ユニットなど
があげられます。
 加えて、共通ユニットとして、リアルタイムで遠隔操縦の目の役割を果たすカメラ+無線画像送信ユニットは必須となるでしょう。

●駆動系に関しては、想定される様々な災害環境を強く意識する中で、それらに適するロボットの外観サイズを3種程度に限定し、踏破性の高い駆動系(クローラ式 or 脚式 or 車輪式 or これら3つを組み合わせたもの)モジュールを開発する必要があります。
 まず取り組むべきは、「世界NO.1の踏破性!」を謳えるクローラモジュールの開発であると私は考えています。ロボカップのレスキュー部門の世界大会で優勝経験がある開発チームが国内にはあるのですから無理な話ではないはずです。

●併せて、飛翔型IRTプロダクトの開発にもっと力を入れるべきです。飛翔系には、流体の外乱に対抗するロバスト性の確保など様々な課題がありますが、今回の福島第一原発で見られた、原子炉建屋から煙が上がってもすぐに原因を確認できない状況というのは、決断の遅れを招くだけです。「三現(=現場・現物・現象)を把握せずして、的を射た対策は打てません。
 今回は、米軍に無人偵察機「グローバルホーク」による情報収集を要請したというニュースがありました。国産に固執するわけではないですが、わが国オリジナルの飛翔型災害対応偵察ロボットの開発に力を入れてもよいはずです。

3.ロボット操縦者の視点から
●ロボットの操縦者の視点で考えると、ロボット操縦時のコントローラとインターフェースおよびアイコンデザインを早期に標準化すべきです。ユーザー側からすれば、信頼性および耐久性さえ確保されていれば、ロボットの中身(ハード/ソフト)は何でもよいといっても過言ではありません。ロボットの操作教育を受け、認定を受けてさえいれば、どのメーカーのどのロボットでも操縦できるような仕組みをつくることも大切です。

ロボットを一般生活者へ啓蒙するには?

 筆者が参画したロボット開発プロジェクトの1つに、大和ハウス工業の「住宅床下点検ロボット開発プロジェクト」〔「サービスロボット市場創出支援事業」(経済産業省、2006~2007年度)にて1号機を開発〕があります。2006年10月の着手から、たび重なる改良のすえ実運用可能な住宅床下点検ロボット「moogle(モーグル)」が完成し、4月からmoogleによる点検・診断作業が実施されます。昨年10月にmoogleの操縦を体験させてもらいました。実用化というレベルで、非常に完成度が高いという印象を受けました。
 moogleの実用化は、クローラ型の遠隔操縦ロボットが、多くの一般生活者の目に触れるきっかけとなると期待しています。なぜなら、それは一般社会へのロボット啓蒙活動といえるからです。

 ロボットは、まだまだ技術者や研究者の世界の存在であり、一般社会に浸透していません。今後万一、大きな災害が発生したとき(もちろん、もう起きてほしくないですが)に、「災害現場に人が近寄れないのなら、床下点検ロボットのようなロボットを出動させて情報収集を行ってほしい」という声が、専門家だけでなく、一般生活者や自治体から声が上がることを望んでいます。そして、その声がわが国をさらなるロボット産業大国へと導く礎になると信じています。


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●執筆者紹介

小西さん写真.JPG小西 康晴さん(Konishi Yasuharu)
(株)ロボリューション 代表取締役。1977年、大阪府生まれ。2000年、慶應義塾大学 理工学部 システムデザイン工学科(1期生)卒。2002年、慶応義塾大学大学院 理工学研究科 修了。修論テーマは「自律走行自転車ロボットの開発」。同年、村田製作所に入社。産業用ロボットの研究・開発および電子部品PR用ロボット開発に関わる。2005年 ロボットテクノロジーに無限の可能性を感じ退社。同年4月、父が経営する生野金属に入社(現在、企画開発室 取締役室長)。06年6月 サービスロボットの開発・導入コンサルティング事業を行うロボリューションを設立し、代表取締役に就任する。
 大和ハウス工業「住宅床下点検ロボット開発プロジェクト」(平成18年度経済産業省「サービスロボット市場創出支援事業」)や、平成20年度には村田製作所「ムラタセイコちゃん開発プロジェクト」において開発プロデュースを担当するなど、ロボット開発に関わるプロデュース・コンサルティング業務をおもに活動している。
 2006年度から4期継続し、大阪市ロボットラボラトリー、次世代ロボット開発ネットワーク「RooBO」における技術アドバイザーを務めるほか、国際デザインコンペティション2006 テーマ「ROBOT」、同2007 テーマ「ROBOT2」にて技術専門委員も務める。
URL:http://www.robot-revolution.com/

  1年を振り返り、2010年1月に取り上げたコラムのテーマを思い返すと『移乗介助ロボットの実用化に向けた課題』でした。今年も引き続き、介護福祉分野でのロボットの活用は広く議論されると思いますので、今年もまず介護福祉ロボットに関するテーマを取り上げます。

 みなさんは、「ADL」という指標・考え方をご存知でしょうか? 医療介護の分野では、よく用いられる指標です。まず、このADLの3つの分類を簡単に説明した後、それぞれに属するロボットを整理・分析します。

 ADL(Activities of Daily Living)とは、「身体的な自立度を、生活機能からみた目標」で、「日動生活動作能力」と訳され、日常動作が、どの程度自分の力で遂行できるかを測るための尺度であり、介護の必要度も表します。
 ADLは、もともとリハビリ分野における患者の機能障害や効果測定のために開発されましたが、最近は、高齢者の自立の尺度として用いられることが多くなっているようです。入浴や食事、排泄、移動、衣服の脱衣など最も基本的な生活機能の項目を、それぞれ自立、一部介護、全介助の3段階で評価し、総合点が高いほど自立度が高いと判定されています。この指標は「基本的ADL」と呼ばれています。

 また、ADLには「手段的ADL」と呼ばれるIADL(Instrumental Activities of Living )があります。電話や遠方への外出、買い物、食事の支度、服薬、金銭の管理などの項目を測定し、自立した社会生活を送るうえで必要な能力をもっているか(基本的ADLを実現するための手段を自分で実行できるか)どうかを判定します。

 さらに、「拡大ADL」と呼ばれるEADL(extended Activities of Daily Living )もあります。文化・社会生活に関連するご近所さん(遊び友達など)との会話、地域社会との交流など社会的コミュニケーションがどの程度できているかを図る指標です。

 以上がADLの3つの分類になります(詳細は図1参照)。高齢者にとって、この3つのADLの項目を1人でできればできるほど、生活満足感や生きがい感を獲得できるといえます。これら3つを、「それができないと人の生命に関るリスクの大きさ」で並べると、基本的ADL > 手段的ADL > 拡大ADL となります。

fig.1.koonishi.JPG

図1 3つのADLと、それぞれに該当する生活動作

 現在、介護福祉ロボットに求められているタスクは、これら3つのADLに関する支援業務といえるでしょう。そこで、この3つのADLに属する代表的なロボットを整理し、現状の課題と、今後求められる開発アプローチやコンセプトについて私見を述べます。
 まず、既存の介護福祉ロボットを中心に代表的なRT製品を、各ADLに分類・整理したものを図2に示します。

fig.2-2.konishi.JPG

図2 既存の介護福祉ロボットと3つのADLサポート業務との関係

 各ADLに属するロボットの「数」を分析すると、基本的ADLサポート業務を行うロボットが非常に多いです。「ユーザーニーズが最も高いから」というのが、その理由と考えられます。基本的ADLのサポート業務を行うロボットには、食事支援ロボット「マイスプーン」や、ロボットスーツ「HAL(福祉用)」などが代表例にあげられます。

 次に、手段的ADLサポート業務を行うロボットを考察すると、ロボットと銘打って発売されているものは、お掃除ロボット「Roomba(ルンバ)」くらいしかありません(一時期、通販の企画商品として売れたお掃除ロボは除く)。数が少ない理由を分析すると、手段的ADLサポート業務は、現状の家電製品が、その役割の多くを担っているためと考えられます。例えば、掃除⇒掃除機、洗濯⇒洗濯機、料理⇒オーブンレンジといった具合です。
 そして、拡大ADLサポート業務を行うロボットの代表例には、セラピーロボット「PARO(パロ)」やコミュニケーションロボット「PaPeRo(パペロ)」が挙げられます。例えば、独居老人をターゲットユーザーとした場合、コミュニケーション相手を、このようなロボットが担う潜在的な需要はあると私は分析しています。

 続いて、実用化の観点から分析します。
 基本的ADLのサポート業務は、介護する人の肉体的な負担も大きく、さらに被介護者が生きていくうえで必要性が非常に高いので、『介護福祉分野で、ロボットにして欲しいことは?』といったアンケートを採ると、「移乗・移動介助」や「入浴介助」などが上位にあがります(ニッソーネット調査はこちら)。

 しかし図2に示したように、すでに数多くの製品があるのに、なぜ移乗・移動介助支援ロボットが一般社会に広まらないのでしょうか? 最大の理由は、図3に示すように、そのユーザーの期待値と製品のコストがあまりに乖離しているから、と考えています。製品が高価になる理由は、現状の開発アプローチでは、人の臨機応変な対応をロボットに置き換えようとするため、それに伴いロボットの機能性の充実に関る開発コストが膨らむことと、安全対策として残留リスクを可能な限り低減するための負担が大きくのしかかることにあります。
 また、基本的ADLをサポートする移乗ロボットには100万円以上するものが多く、数十万円のものでも、サポートする人が常に脇にて看視しなければならないなど様々な運用条件(運用による安全性の確保など)があり、「施設経営者」「介護者」「被介護者」のすべてが、ベネフィットを見出せていないという点が大きな課題といえるでしょう。
 
 一方、手段的ADLのサポート業務の中で、製品コストとユーザーの期待値が一致したロボットとして、ワールドワイドで数百万台の売上げ実績を誇るRoombaが挙げられます。Roombaの実売価格が6万~8万円なので、この価格帯は手段的ADLをサポートするロボットとして、費用対効果を満たしていると考えられます。今後、手段的ADL支援ロボットを開発する際は、この成功例を1つの基準として、開発前に費用対効果を分析するのもよいかもしれません。

 拡大ADLをサポートするロボットについては、一般生活者には『別になくても生活できる』『不便ではない』と捉えられる可能性が高いので、費用対効果を考えると5万円以下(少なくともRoomba以下の値段)に抑えることが必須かもしれません。したがって、一般生活者の感覚からすればPAROやPaPeRoは高価(ゼロが1個多い)といえるでしょう。もちろん今後、ロボットの感性価値を向上することにより、高価格でも売れる製品を上市することは可能かもしれません。しかし、それが拡大ADL支援ロボット市場を確立できるほどのインパクトになる可能性はやや低いと推察されます。

fig.3.konishi.JPG

図3 3つのADL支援ロボットに対するメーカーの開発コスト事情とユーザーの期待との乖離

  以上、ADLの考えに則して介護福祉ロボットの開発のあり方を、筆者の提言としてまとめると次のようになります。

【提言1】ロボットに最も求められている役割は、「基本的ADLサポート業務」であることは間違いない。ロボットだからこそ解決することができ、社会貢献できる領域といえる。しかし、現状の技術オリエンテッドなアプローチは、ビジネスベースでは非常にリスクが高いため、ロボットという「個」にすべての機能を集中させる(人をそのままロボットに置き換える)という考え方を根本的に変えていく必要がある。

【提言2】各ADLサポート業務に関して、「各作業がまったくできない人へのサポート製品」なのか「各作業に時間をかければできる人の作業効率化のためのサポート製品」かにより、開発アプローチおよびコンセプトは大きく異なる。したがって、開発メーカーはできる限り対象ユーザーを細かいセグメントで捉える必要がある。

 今後、基本的ADL支援ロボットの開発アプローチとしては、家電では対応しきれていない需要を満たし、ある機能に特化した手段的ADL支援製品から開発を進めることが重要です。そして、それらと家電やIT製品とを『統合化(ネットワーク化)』し、プロセスの点と点をつなぐことで、基本的ADL支援ロボットの実用化への道筋が拓けると筆者は考えています。

【参考Webサイト】
くらし辞書 「ADLとは」
岡山県総社市『ADL(Activities of Daily Living 日常生活動作能力)について』

【過去の関連記事】
Robotコンサル小西の「超・思考法」
第17回 移乗介助ロボットの実用化に向けた課題と解決ポイント
第14回 セラピー効果のあるロボット「パロ」
 

●執筆者紹介

小西さん写真.JPG小西 康晴さん(Konishi Yasuharu)
(株)ロボリューション 代表取締役。1977年、大阪府生まれ。2000年、慶應義塾大学 理工学部 システムデザイン工学科(1期生)卒。2002年、慶応義塾大学大学院 理工学研究科 修了。修論テーマは「自律走行自転車ロボットの開発」。同年、村田製作所に入社。産業用ロボットの研究・開発および電子部品PR用ロボット開発に関わる。2005年 ロボットテクノロジーに無限の可能性を感じ退社。同年4月、父が経営する生野金属に入社(現在、企画開発室 取締役室長)。06年6月 サービスロボットの開発・導入コンサルティング事業を行うロボリューションを設立し、代表取締役に就任する。
 大和ハウス工業「住宅床下点検ロボット開発プロジェクト」(平成18年度経済産業省「サービスロボット市場創出支援事業」)や、平成20年度には村田製作所「ムラタセイコちゃん開発プロジェクト」において開発プロデュースを担当するなど、ロボット開発に関わるプロデュース・コンサルティング業務をおもに活動している。
 2006年度から4期継続し、大阪市ロボットラボラトリー、次世代ロボット開発ネットワーク「RooBO」における技術アドバイザーを務めるほか、国際デザインコンペティション2006 テーマ「ROBOT」、同2007 テーマ「ROBOT2」にて技術専門委員も務める。
URL:http://www.robot-revolution.com/

  先月11~17日の1週間にわたり、大阪・梅田の地下ショッピングモール「ディアモール大阪」にて、当社初のオリジナル製品となるBOOK型非接触コントローラ「エアリアル」の発表を兼ねた実証実験を行いました。今回のコラムではまず、その結果報告をします。また、同月20日に米Microsoft社から「Xbox360」用の非接触ジェスチャー入力コントローラ「kinect(キネクト)」が発売されたので、その解説も兼ねて非接触コントローラの未来を考察します。

介護・福祉分野での活用も見えたエアリアル

 まずは、エアリアルの概略を説明しておきます。本を開いた状態をデザインした箱型の機体上面から20cm程度離れた空中に手をかざし、ページをめくる動作によりバーチャルな世界(デジタル書籍や電子カタログなど)を操作できるシステムです。また4分割したエリアに分け、手をかざすことで拡大表示することも可能です(システムの詳細は、こちらを参照)。

写真1.PNG

写真1  BOOK型非接触コントローラ『エアリアル』の上面写真。本体上面には超音波センサを横並びに5個、ファイバーセンサを4区画に1つずつ実装。前者でページをめくる手の動作(方向)を検知して画面上のページをめくり、後者で50mm程度の距離まで手が近づいたことを検知し、検知したセンサの区画に該当する画面のエリアを拡大表示する。

 

写真2左.PNG写真2(右).PNG

写真2  ディアモール大阪のファッショナブルストリートにおける実証実験の様子。7日間の実証実験で、約1,000人(幼稚園児から80歳を越えたおばあちゃんまで)に体感してもらえました。土日は行列が絶えませんでした(写真左)。誰でも簡単に操作することができ、実証実験により得られた最適パラメータ設定時には、ヒアリングで90%以上の方が「初めてでも操作しやすい!」との回答をもらいました(写真右)。バーチャルBOOKをリアルなモーションで閲覧できるという初めての体験に、多くの子供たちの驚きの表情と笑顔が見られました。

  エアリアルの開発で意識したことは、おもに以下の3点です。
(1)ユーザー目線で機能価値と感性価値のバランスを図る
(2)費用対効果がユーザーの意識と近いものになるように機能を限定する。
(3)機能を限定することにより、直感的に操作方法を理解してもらえる外観デザインのアフォーダンス(取り扱いの手がかりを提示)を追究し、ユーザビリティの高いコントローラとして表現する

 これら3つのテーマについて、一般生活者の方々に実際にエアリアルを体感してもらいながら、結果をヒアリングし、想定通りに受け入れてもらえたかを実証実験を通じて調査しました。

 従来までにないインターフェイスを初めて体感したときの動きを観察し、また、ヒアリングを通じて得た結果で注目したのは次の4点です。

【1】コンテンツにまったく興味がないと「めくる」という行為に意識(目的)が集中し、「高速でどんどんめくりたい!」という欲求が増大する。エアリアルを楽しんでもらうのはありがたいが、「閲覧システム」としての効果を検証する意味では実証実験に適さない行為であった(私もそうですが、大阪人は「せっかち」だということに改めて気付かされました。苦笑)
【2】拡大用のセンサ(ファイバーセンサ)をページめくり用のセンサと勘違いして、超音波センサがあるエアリアルの手前に手をかざさずに中央部に手をかざし、ページがめくれずに困っているケースが見られた。特に、RTに精通された方(技術職の方)に多く見られた傾向であった。

【原因1】拡大用のファイバーセンサ4つが赤く点灯し目立っているため、そこに注目が行きやすい。「上下2つのセンサを同時に手のひらで隠すと、ページめくりの手の動きが検知される」と錯覚されてしまった。
【原因2】ページめくりの手を動かす位置を本体筐体デザインに表現しなかったため。デザインのアフォーダンスの欠如。

【3】ページをめくる感覚がつかめないと、「センサに手の位置を強く認識させよう」と、かざした手のひらをどんどんコントローラ上面に近付けていく傾向が見られた。近付け過ぎると、センシングの感度としては悪い方向に向かってしまう。
【4】遠くの大画面を見ながら、画面と垂直に設置したコントローラ上を、非接触の状態で手を画面に平行にスライドするのが難しい(操作者はそうしているつもりなのだが・・・)。手の感知エリアの制限を緩くし、許容範囲を広げることも必要と感じた。

 加えて、想定していなかったユーザー視点からの用途提案も寄せられました(図3)。エアリアルは、『広告業にロボットイノベーション!』をスローガンに開発してきたのですが、『医療・介護・福祉分野』での活用についても広がりが感じられました。

 今回の実証実験では、場所がショッピングモールという商業施設空間だったこともあり、幅広い年代の方々に体感してもらい、大きな成果が得られました。実証実験では評価項目を明確に、かつ限定することで、大きなアウトプットが得られることを改めて感じました。

図1.PNG

図3 実証実験時のヒアリングで得られたエアリアルの用途提案

 

ジェスチャーコントローラを空間制御に

 続いて、エアリアルと同じく非接触コントローラに属するkinectを採り上げます。kinectは、11月20日に発売されたXbox360用の新コントローラで、端末を持たずに身体の動きや音声のみでゲームを操作できるのが特徴です。その本体には距離画像センサ(「3D深度センサ」とも呼ばれている)、可視光センサ(RGBカメラ)、アレイ・マイク(マイク4個)が搭載されています。これらのセンサ群が人の関節の動きや声などを検知し、人のリアルなモーションがモニタ画面上のバーチャルな世界をコントロールできるという、従来までにない非接触タイプのコントローラです。距離画像センサは、クラス1のパターン化されたレーザ光を画角エリア内に照射し、そのパターンの幾何学的な歪み具合から対象までの距離を検知しているようです。

kinectプレス向け写真.jpg

写真3 Xbox 360 4GB + Kinect +ゲームソフトセット (右下がジェスチャー入力コントローラ「kinect」)

 Kinectで注目すべき点は、メーカー希望小売価格で1万4,800円とお手頃価格で販売されたことです。kinectの製造コストは把握できませんが、ゲーム機本体やコントローラなどのハードを低価格で提供し、それに付随するゲームソフトで儲けるゲーム業界のビジネスモデルは、ロボット関連ビジネスにも参考になるでしょう。また現状ではkinectはゲームソフト、いわゆるバーチャルコンテンツに対して使用されていますが今後、リアルな世界へとさらなる広がりを見せると思われます。
 「出力がバーチャルな世界ではなくリアルなロボットであれば、ジェスチャーコントローラの活用で、どのようなビジネスデザインが描けるか・・・?」。このようなアプローチは、個人的にはあまり好きではありませんが、思いを巡らせてみることは重要と感じています。

 近い将来、これらのジェスチャー入力コントロールを司るセンサ群ユニットは、テレビの上だけでなくテレビ本体にも組み込まれ、「リモコンレスのモーションコントロールテレビ」が出現することも容易に想像されます。さらに時を同じくして、センサ群は空間の壁や天井に埋め込まれていくことになると考えています。「空間知能化」や「インテリジェントスペース」といったRTを活用した研究成果が、コスト対効果を十分に満足したカタチで社会で実用化される日は近いと言えるでしょう。それらをどのような既存サービスに組み込めるのかと、当社でも今から検討を進めていくつもりです。

●執筆者紹介

小西さん写真.JPG小西 康晴さん(Konishi Yasuharu)
(株)ロボリューション 代表取締役。1977年、大阪府生まれ。2000年、慶應義塾大学 理工学部 システムデザイン工学科(1期生)卒。2002年、慶応義塾大学大学院 理工学研究科 修了。修論テーマは「自律走行自転車ロボットの開発」。同年、村田製作所に入社。産業用ロボットの研究・開発および電子部品PR用ロボット開発に関わる。2005年 ロボットテクノロジーに無限の可能性を感じ退社。同年4月、父が経営する生野金属に入社(現在、企画開発室 取締役室長)。06年6月 サービスロボットの開発・導入コンサルティング事業を行うロボリューションを設立し、代表取締役に就任する。
 大和ハウス工業「住宅床下点検ロボット開発プロジェクト」(平成18年度経済産業省「サービスロボット市場創出支援事業」)や、平成20年度には村田製作所「ムラタセイコちゃん開発プロジェクト」において開発プロデュースを担当するなど、ロボット開発に関わるプロデュース・コンサルティング業務をおもに活動している。
 2006年度から4期継続し、大阪市ロボットラボラトリー、次世代ロボット開発ネットワーク「RooBO」における技術アドバイザーを務めるほか、国際デザインコンペティション2006 テーマ「ROBOT」、同2007 テーマ「ROBOT2」にて技術専門委員も務める。
URL:http://www.robot-revolution.com/
 

 今回のコラムでは、9月15、16日と立て続けに新型2足歩行ロボットの発表があり、大変注目されましたので、これら移動型ロボットの実用化に向けた考えを述べます。

スリムな外観デザインのHRP-4と超重量級のcore

 まず採り上げるのは、産業技術総合研究所川田工業が発表した「HRP-4」です。「HRP-4」は、身長151cm、体重39kgと、軽量かつスリムなボディを実現し、様々な方向から対象物にアプローチできるよう片腕7軸の構成としており、全身で計34軸を有しています。

post-100927_1.jpg 産総研と川田工業が開発した人型研究開発プラットフォームロボット「HRP-4」

 まず写真を見て、重厚なロボットのイメージが払拭された威圧感のない外観デザインに感動しました。さらに、HRP-4に注目したのは、産業用ロボットの安全規格ISO 10218(ツールセンターポイントの最大動力は80W以下、最大力は150Nという制御下で人との協調運転を許容)に準拠し、人との協調作業に対応できるよう各関節には80W以下のモータを採用しているところです。

 安全性への意識の高さに共感する一方で、機能面から見ると、関節軸を構成するモータの出力を落とすということは、一般的に可搬重量の低減につながります。そのため、HRP-4では片腕の可搬重量が0.5kgと非常に小さくなっているようです。いまあるロボットに関る安全規格を強く意識して開発すると用途・シーンが限定されてしまう典型例といえます。しかし、私は用途シーンを限定させることがマイナスになると捉えていません。むしろ、そうすべきであり、ロボット実用化への道筋として、あるべき方向性だと感じています。

 2足歩行ロボット開発の目的が、人間により近いロボットをつくることより先に、いち早く実用化へのブレイクスルーをつくることにあるのであれば、可搬重量が小さくても活用できる産業分野を具体的に描くこと(ビジネスデザイン)が最優先項目であると考えています。また、実用化に向けた2足歩行ロボットの課題を推察すると、『コスト(イニシャル+ランニング)』と『生産性向上(作業時間短縮)』の2点が大きく、これらを考えるうえでも絞り込める方がよいと捉えています。

 次に取り上げるのは、千葉工業大学の未来ロボット技術研究センター(fuRo)が発表した下半身型の大型2足歩行ロボット「core(コア)」です。fuRoの先川原正浩室長から、発表の1週間ほど前に記者発表会の案内を受けていたのですが、あいにく予定が合わず、出席できなかったのは残念です。

post-100927_2.jpg 下半身型の大型2足歩行ロボット「core(コア)」

 coreは、電磁ブレーキを組み込んだ関節駆動用大型モータシステムと、移動時に足にかかる衝撃を吸収する機構に特徴がある2足歩行ロボットです。下半身のみの構成ですが、全長1,915mm、体重230kgもあります。関節駆動用大型モータシステムは、定格1,200W(最大3,000W)の三相ブラシレスモータと波動歯車減速機、電磁ブレーキ、絶対角度センサからなる関節駆動ユニットとモータドライバユニットから構成されています。
 可搬重量が100kgと非常に大きく、近い将来、人を乗せて移動する「介護福祉系パーソナルモビリティ」への活用も視野に研究開発が進められるとのことで、興味深く感じています。

 また、YouTubeでcoreの動画を視たところ、トヨタの搭乗型モビリティロボット「i-foot(アイフット)」と同様、鳥脚構造(膝関節が後方へ曲がる)が採用されているようです。非常に滑らかな動作に加えて、衝撃吸収機構による接地時の衝撃力の緩和も、動画から確認することができました。今後、どのような企業と連携を図り、成長過程を経て、実用化に向け進んでいくのかが要注目のロボットと言えるでしょう。

ユーザーが最適な機能を判断できる仕組みづくりを

 さて、ここからが本題になりますが今後、2足歩行型を含め移動型ロボットの開発は、『駆動システム研究/開発』と『機能システム研究/開発』に分けて、専門的に進めるべきだと考えています。私が関った開発案件の中で、「システムとしての機能にはユーザーも満足しているのに、駆動系の耐久走破性だけが十分に満たされない・・・」という悔しい思いをしたことがあります。その経験にもとづく提言です。

 まず、前者の『駆動システム研究/開発』の目的は、現存する移動機構(脚式やクローラ式、車輪式、体幹式など。加えて、それらを組み合わせた駆動系)に焦点を当て、ロボットメーカーや大学・研究機関が独自の技術を活用し、ロボットの利用環境を想定した最適な駆動システムをつくり上げることにあります。
 ここで言う「駆動システム」とは、無線操縦可能なコントロールインターフェースを備えた駆動系のみのシステムを指します。設計の自由度がありすぎると収拾がつかないので、駆動システムのサイズや重量、重心位置などの項目は、ユーザー視点(現場条件)をもとに規定を設けます。さらに、駆動系の走破性や耐久性、安全性を図る統一ルールを設定し、ある基準をクリアすれば、次のステップに向けて(例えばユーザー側から)開発助成金が提供されるような仕組みを構築します。そうすれば、研究者は長期的に開発モチベーションが高くキープされますし、ユーザーにとっても駆動システムの現状が「見える化」され、技術レベルが把握しやすくなる利点があります。

 さらに、この『駆動システム研究/開発』の最終目標はその先にあります。それは、『ロボットユーザー自身が、想定される空間環境で使える最適な移動機構がどれなのかを、製品群の中から容易に選択できる仕組みをつくること』にあります。
 RT(Robot Technology)の活用が期待されるどのような業界においても、ビジネスでは「スピード」と「タイミング」が重視されます。ユーザー側で「使えそうだ!」という判断が早急にできる仕組みづくりが、ロボットの実用化には不可欠です。したがって、ユーザーが環境条件(屋内or屋外、表面の材質(砂地orアスファルトor絨毯orフローリングなど)、不整地の度合(段差、障害物の想定サイズ)、移動距離、移動時間、通路幅など)の項目を整理すれば、おのずとその環境下で活用できる駆動系を選択できる。そのような仕組みの構築が必要と言えます。さらにその後、数多く採用された駆動系が『標準化』される体系づくりも重要になります。

 続いて、後者の『機能システム研究/開発』は、駆動システムに搭載される機能要素を開発することを指します。例えば、移動して地図生成をしながら自己位置推定を行う「SLAMシステム」や、モノを把持する機能が必要であることを見越して「単腕/双腕のハンドリング機構」を開発する、といったことです。
 このような機能モジュールの組み合わせで、必要な機能価値をユーザー側で描けるようにするのが理想です。駆動システムと機能システムの選定後は、ロボット・システムインテグレータの仕事となり、2つのシステム群の『統合化』が図られます。そして、試作/アセンブリ業者にて移動型ロボットとして組み上げられます。

 上述のような移動型ロボットの開発に至らない背景には、ユーザー視点を兼ね備えたロボット・システムインテグレータがまだまだ少数であることが挙げられます。このような開発の構築に向け、また、移動型ロボットの実用化に向け、このような人材が要とされる間違いないでしょうし、RTシステムを統合的にデザインできる人材育成が、いま強く求められていると考えます。

 ●執筆者紹介

小西さん写真.JPG小西 康晴さん(Konishi Yasuharu)
(株)ロボリューション 代表取締役。1977年、大阪府生まれ。2000年、慶應義塾大学 理工学部 システムデザイン工学科(1期生)卒。2002年、慶応義塾大学大学院 理工学研究科 修了。修論テーマは「自律走行自転車ロボットの開発」。同年、村田製作所に入社。産業用ロボットの研究・開発および電子部品PR用ロボット開発に関わる。2005年 ロボットテクノロジーに無限の可能性を感じ退社。同年4月、父が経営する生野金属に入社(現在、企画開発室 取締役室長)。06年6月 サービスロボットの開発・導入コンサルティング事業を行うロボリューションを設立し、代表取締役に就任する。
 大和ハウス工業「住宅床下点検ロボット開発プロジェクト」(平成18年度経済産業省「サービスロボット市場創出支援事業」)や、平成20年度には村田製作所「ムラタセイコちゃん開発プロジェクト」において開発プロデュースを担当するなど、ロボット開発に関わるプロデュース・コンサルティング業務をおもに活動している。
 2006年度から4期継続し、大阪市ロボットラボラトリー、次世代ロボット開発ネットワーク「RooBO」における技術アドバイザーを務めるほか、国際デザインコンペティション2006 テーマ「ROBOT」、同2007 テーマ「ROBOT2」にて技術専門委員も務める。
URL:http://www.robot-revolution.com/
 

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 今回は、エンターテインメント産業におけるロボットおよびRT(Robot Technology)活用の可能性に触れます。

 今春、大阪のある造形工房から『アニマトロニクスにチャレンジしたいので、ぜひサポートして欲しい』と依頼を受け、また、自分の目で実物を間近で体感したいとの思いから、7月22日に「ウォーキング・ウィズ・ダイナソー」の大阪講演(場所:大阪城ホール)を観覧してきました。すでに夏休みに入っており、家族連れで来場されている方が非常に多かったです。

 本公演は、1999年に英BBCが制作したテレビシリーズに感銘を受けたオーストラリアのCreature Production Company社が、テレビ作品をもとに興行しています。恐竜の誕生から絶滅までのストーリーとともに、等身大のリアルな恐竜たちが動き回るエンターテインメントショーとして完成されています。2007年1月のオーストラリアでの初演に始まり、同7月から北米ツアーを、2009年7月にはヨーロッパツアーをそれぞれ実施し、全世界で500万人以上が体感しています(2010年1月時点)。30カ月以上のロングラン公演を実施した北米ツアーでは、興行収入は230億円を超えているとのことです。 

  post-100726_1.jpg 写真1 舞台全体の写真。公演のハーフタイム休憩に撮影した(公演中はフラッシュ撮影を行わないという会場内の規則に沿って筆者が撮影した。以下同)。

  開演の約1時間前に会場に到着し、舞台や音楽装置などを見渡して感じたことがあります。
 「どうして、このようなエンターテインメント産業がロボット大国『日本』で実現できていないのか?」と。
 もしかすると、本公演で使用されている個々のロボットの製造や要となるRT要素技術の提供を、日本企業が行っているのかもしれません。しかし、それらを統合し、大きな産業としてカタチにできていないところが現在の日本の弱みかもしれないと感じました。

 私が考える『サービスロボットに求められる価値構造』から分析すると、『機能価値』を構成するRT要素技術は、世界的に見て、日本が牽引しているといっても過言ではありません。しかし、もう1つの大事な要素であるロボットの『感性価値』に関しては、日本は劣っていると改めて痛感しました。もう少し踏み込んでいえば、『人の感性に訴える仕組みを構築し、そのロジックを顧客に体感してもらい、そこで得られる経験価値に対して対価をもらうビジネスがヘタ』だと感じられます。

 そして、
【1】「ロボット関連企業が異分野の既存業界と組み、RTイノベーションを起こすこと」
【2】「開発から実用化、さらにビジネス化まで、1つのプロジェクトとして全体をプロデュースできるロボットシステムデザイナーを育成すること」

 これら2点の重要性を改めて感じました。

post-100726_2.jpg     post-100726_3.jpg
写真2 ステージを歩き回る全長22mのブラキオサウルス。ステージ上の植物の造形も、エアーコンプレッサで自動制御されていました。シーンに応じて、草が生えたり花が咲いたりと非常に豊かな表現がなされていました。     写真3 ナビゲータ役の俳優(右)、ティラノサウルス(左)とアンキロサウルス(下)。俳優と恐竜のサイズを比較すれば、恐竜の巨大さを感じてもらえるでしょう。

 

 公演を観た感想は、本当に恐竜がいた時代へタイムスリップしたような感覚をおぼえ、実物大のリアルな恐竜の動き、演出・効果のすばらしさに正直驚きました。私が高校生だった頃、映画館で映画「ジュラシックパーク」を鑑賞して、そのCG技術の高さと迫力のある映像に驚かされましたが、今回の衝撃は、そのときの比ではありません。今回のように、リアルなモノによる表現は2次元の映像表現を凌駕すると実感しました。

 本公演の魅力をひと言でいえば、「アニマトロニクスとショーアミューズメント産業の融合」にあるといえるでしょう。アニマトロニクス(animatronics)とは、SFXの一種で、生物のロボットを使って撮影する技術です。「アニメーション(動作)」と「エレクトロニクス(電子工学)」を組み合わせた造語です(Wikipediaフリー百科事典より引用)。実際、恐竜の口や首、尻尾の細かな動作などは、とてもリアルでした。これらの動作には、油圧アクチュエータなどが活用されているようです。

 アニマトロニクス以外で、ロボット技術者の視点でショーを見た印象は以下の2点です。
【1】恐竜は、コンピュータ制御により決められた動作をしているだけで、インタラクティブではありません。恐竜自身がナビゲータの俳優(写真3)を認識し、近寄っていくことはありませんし、環境を把握するためのセンサネットワークからのデータなどをもとに、自律行動しているわけではありません。厳密にはロボットの定義から外れます。しかしながらロボットの要素技術は、恐竜の内部機構として確実に生かされていました。

【2】恐竜は2足あるいは4足で歩行しているのではなく、足元の台車の移動により、あたかも歩行しているかのように見せています。つまり、台車上に固定したボディが、その移動に合わせて歩行動作をリアルに表現することで恐竜自身が歩行しているかのように見せているのです。当然ですが、人とほぼ同サイズで、自律して動的歩行/走行が行える日本のヒューマノイドロボットの方が、技術レベルは格段に高いです。

 約2時間の公演は、盛大な拍手を持って幕を閉じました。
 ここで大事なのは、RTを活用した恐竜たちが公演の間、来場者全員の心を掴んで離さなかったということです。「ショービジネスなのだから当然」といってしまえばそれまでですが、一方で、これは「ロボットを活用した産業」であることも事実なのです。『感性価値』を重視したロボットビジネスの最もわかりやすい例といえるでしょう。

 現代のバイオテクノロジーを持ってしても実現し得ない生身の恐竜の再現。『人にはできないことを実現する』という観点でも、これらリアルな恐竜ロボットは存在価値が非常に高いプロダクトだと感じました。
 『アミューズメント産業にロボットイノベーション』、さらにいえば、『ロボットを活用した既存産業のアミューズメント化』に、大きな可能性を感じた貴重な1日となりました。

■ ウォーキング・ウィズ・ダイナソー公式サイト
http://www.fujitv.co.jp/events/wwdj/index.html

■BBC ワールドワイドジャパン
http://www.bbcjapan.co.jp/

■コラム執筆担当
小西 康晴さん(Konishi Yasuharu)
(株)ロボリューション 代表取締役
URL:http://www.robot-revolution.com/




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