Robotコンサル小西の超・思考法

2013.01.12
最終回 介護支援ロボの現状と課題 ―電動歩行アシストカーを例に (後編)

「前編」はこちら

新たな潮流 ~大手の技術を使って中小が製品化~

 今回、電動歩行アシストカー「KeePace(キーパス)」の開発を手がけたのは村田製作所です。大手上場企業とはいえ、あくまで電子部品メーカーであり、KeePaceのような介護福祉機器を開発しても、ターゲットとなる顧客に向けた流通・販売ルートを持っていません。ゆえに、福祉用具の総合メーカーである幸和製作所と組んだことは、事業を推進するうえでたいへん重要といえます。加えて、幸和製作所は、シルバーカーのメーカーとして約50%という高いシェアを有しているので当然、介護福祉機器に求められる機能などについて、様々な知見を持っていることでしょう。

 ただ、このように「大手上場企業が持つ技術を活用して中小企業が製品化する」という事業展開は、サービスロボットの市場化においてはきわめてまれです。過去に見られた、電機メーカーに代表される大手上場企業によるロボット事業では自社の販売ルート、もしくは大手商社を通じて市場投入を行うのが通例でした。村田製作所と幸和製作所の両社の取り組みは新たな試みといえるものであり、今後の展開に期待を寄せています。

 業界はまったく異なっていても、また会社の規模に差異があったとしても、お互いの強みが明確であり、その強みが相手の弱みを補填できるのであれば、製品の実用化においてはベストなコンソーシアムを形成できます。また、お互いの役割分担もおのずと決まるので、上市に向けスピードアップを図ることもできるでしょう。
 筆者は、このKeePaceの開発により「“餅は餅屋”の考えにもとづく、異業種コラボによる新たな価値創出」は、今後のサービスロボット事業化に向けて重要な視点になると捉えています。

KeePace実用化の課題

 ただし、2012年9月に発表されたKeePaceは試作段階であり今後、量産に向けて様々な観点からつくり込むことが求められています。上市に向けた課題について、筆者が用いる3つのデザイン階層図1、2)に即して考察します(詳細は「15回コラム」参照)。

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図1 ロボットビジネスのキモとなる3つのデザイン階層

【1】ビジネスデザイン ―ターゲットの明確化を

 筆者のプロデュース業務では、アイデアコンセプトシートを作成しますが、製品の利用シーンをもっと限定する必要があると思います。
 「第29回コラム」でも書きましたが「まったくその行為をできない人ができるようになる製品なのか?」「時間をかければ何とかその行為ができる人が、より効率的にその行為ができるようにサポートする製品なのか?」により、開発コンセプトを含むビジネスデザインは変化します。

 KeePaceでいえば「杖なしではまったく歩行できない人でも長時間外出できますよ」という製品なのか?「少し膝の具合が悪いので長時間の歩行は辛い(家の中を移動するのは問題ない)人でも、長時間の歩行での外出が可能になりますよ」という製品なのか? この2つの設定だけでも、製品の開発コンセプト(3要素「ベネフィット」「シーン」「ターゲット」)は大きく異なります。さらに、安全性確保に取り組む前段で立てる安全コンセプトも変化します。そうすると、おのずと、3ステップメソッドによるリスクアセスメント(RA)の内容も大きく変化し、リスクの低減方策も異なることは明らかです。

【2】プロダクトデザイン ―感性価値と機能価値のバランスをどう保つか

 今回、採り上げたKeePaceは、歩行をアシストしてくれる製品であることは理解できる(「車輪の付いた杖(つえ)みたいなもの」「電動のシルバーカーみたいなもの」)でしょうが、ユーザーとなる高齢者には自分が使用しているシーンを思い描けないと想像されます。これは他の介護福祉ロボットにもいえる課題であり、実証実験などの場で実際に使用してもらった感想として「きっと未来は、そうなるんだろうね~」といった前向きな感想がもらえる一方で、「いま自分が使う!」「いま家族に買ってあげたい!」という思いがなかなか芽生えないという事象で見られます。

 では、どういった視点が必要なのでしょうか?そのマイナスポイントを補填する1つの方策は、ターゲットとする層が?その製品を使っている人を見て、格好良く、オシャレに使いこなしている自分を想像できるかどうか?つまり、製品に「感性価値」があるかどうかを捉えることです。

 「高齢者が触りたくなる。使いたくなる」「これを使っている自分がお洒落で格好いい!」「ただ外出できるようになるだけの製品じゃなく、使っている自分を皆に見せたくなる」。このような観点が重要と感じています。特に、女性がそのように感じる製品づくりが求められています。

 欧州の車椅子に代表される福祉機器は、日本で普及しているそれに比べて、お洒落でデザイン性が高いといわれています。例えば、2012年10月に独デュッセルドルフで開催された、世界的な介護福祉機器の展示会「REHACARE2012」に来場された方から、「Segway(セグウェイ)タイプの車椅子が非常に注目を浴びていた」との報告を受けましたが、斬新かつ格好いいデザインにたいへん感心させられました。本体のデザイン性に加え、背もたれも人間工学にもとづいて開発されており、さながら背中の各筋肉にフィットするパーツの集合体といった風貌でした。

 高齢者にとってKeePaceの使用は、初めての体験となりますので、「違和感を覚える」「慣れるまで時間がかかる」といった問題が想定されます。その解決策としても、KeePaceは誰にでも販売するのではなく、介護福祉機器のレンタルビジネスを手がける事業者などと組むべきと考えています。そうすることにより、レンタル事業者がそのユーザーが使えるかどうかをしっかりと判断したうえで、世の中に提供することができます。また今後は、「使用教育を受けた人のみが実社会で使用できる」といった仕組みづくり(リスクマネジメントの一端として)も求められるでしょう。

【3】エンジニアリングデザイン ―安全性の確保

  現状のKeePaceは試作段階のため、安全性確保に向けた取り組みはこれからといった状況です。したがって、その確保に向け基本的な流れである「実製品を用いてのRA」→「現状の安全評価、検証実験」→「目標値設定」→「低減方策の実施」→「低減後の安全評価、検証実験」→「合格ライン到達」といったことをまずは、開発メンバーを中心に、外部の専門家も加えて進めるべきでしょう。さらに実用化した後も、ユーザー側からのヒヤリ・ハットなど新たな危険源について、情報収集できる仕組みづくりも求められると考えます(関連記事はこちら)。

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図2 3つのデザイン階層の構築が基盤となるサービスロボットの実用化までの道筋 

最後に、5年間コラムを執筆して・・・

 今回、ロボット専門サイト「ロボナブル」の統合に伴い、今回をもちまして本コラムは終了となります。約5年にわたり「ロボットのいま」について、その時々で感じていることを率直に述べさせてもらいました。みなさまのお役に立っていれば、これ以上の喜びはございません。

 最後に、5年前の「第1回コラム」でも触れた内容について振り返りつつ、5年経ったいまの考えを述べたいと思います。それは、「ロボットが、今後の日本の“豊かさの象徴”にならなければならない」という思いです。この考えはいまも変わりません。ここで言う「豊かさ」とは、「選択肢が多い社会」を意味します。できる限り早期に、ロボットが一般生活者の選択肢の1つとして、当然のシステムにならなければなりません。「世界に誇れる日本の豊かさ、その象徴がロボットだ!」といえるよう、そして体現できるよう、筆者はロボットビジネスプロデューサとして、各方面で貢献していきたいと思います。

 約5年間にわたってご覧くださり、ありがとうございました!


 

●執筆者紹介

小西さん写真.JPG小西 康晴さん(Konishi Yasuharu)
(株)ロボリューション 代表取締役。1977年、大阪府生まれ。2000年、慶應義塾大学 理工学部 システムデザイン工学科(1期生)卒。2002年、慶応義塾大学大学院 理工学研究科 修了。修論テーマは「自律走行自転車ロボットの開発」。同年、村田製作所に入社。産業用ロボットの研究・開発および電子部品PR用ロボット開発に関わる。2005年 ロボットテクノロジーに無限の可能性を感じ退社。同年4月、父が経営する生野金属に入社(現在、企画開発室 取締役室長)。06年6月 サービスロボットの開発・導入コンサルティング事業を行うロボリューションを設立し、代表取締役に就任する。
 大和ハウス工業「住宅床下点検ロボット開発プロジェクト」(平成18年度経済産業省「サービスロボット市場創出支援事業」)や、平成20年度には村田製作所「ムラタセイコちゃん開発プロジェクト」において開発プロデュースを担当するなど、ロボット開発に関わるプロデュース・コンサルティング業務をおもに活動している。
 2006年度から4期継続し、大阪市ロボットラボラトリー、次世代ロボット開発ネットワーク「RooBO」における技術アドバイザーを務めるほか、国際デザインコンペティション2006 テーマ「ROBOT」、同2007 テーマ「ROBOT2」にて技術専門委員も務める。
URL:http://www.robot-revolution.com/




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