Robotコンサル小西の超・思考法

2013.01.04
第30回 介護支援ロボの現状と課題 ―電動歩行アシストカーを例に (前編)

 2012年9月21日に、村田製作所が電動歩行アシストカー「KeePace(キーパス)」を発表しました。福祉用具総合メーカーの幸和製作所(大阪府堺市)との共同開発によるものです。読者の中には、昨年9月末開催の「第39回 国際福祉機器展H.C.R. 2012」で幸和製作所のブースにて、または、10月初旬開催の「CEATEC JAPAN 2012」で村田製作所のブース(写真1)にて、KeePaceのデモをご覧になった方もいることでしょう。

 KeePaceは、村田製作所が電子部品PR用ロボット「ムラタセイサク君」(2005年発表)と「ムラタセイコちゃん」(2008年発表)の開発で培った倒立振子制御などを活用したRT(Robot Technology)応用製品で、「世の中に貢献したい」「人に役立つ機器を世に出そう」という開発者の思いが込められています

 計画では、2013年度内にモニター販売を行い、2014年度に一般販売することになっています。また、価格は10万~20万円が想定されています。仮に2015年度に、一般紙でも紹介された、介護福祉支援ロボットへの介護保険適用が実現すれば、実売価格が1万~2万円となり、その普及が大きく加速すると予想されます。2015年度に1万台という販売目標も現実味を帯びてくることでしょう。そこで、今回と次回の2回にわたって、KeePaceの仕様や構造、使用する利点に加え、市場化に向けた課題を分析します。

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写真1 電動歩行アシストカー「KeePace」(CEATEC JAPAN 2012で撮影)

KeePaceの仕様と構造

 本体は、いわゆる左右倒立2輪構造となっています。自律しての倒立は可能ですが、自走することはありません。ユーザーが本体上部の左右のハンドルを持ち、進みたい方向に押し進めて操作します。その際、搭載したジャイロセンサと傾斜センサの検出値を入力とし、左右に搭載したDCサーボにより車体が転倒しないようバランス制御を行います(図2)。ムラタセイコちゃんの前後方向のバランス制御と同じ原理を用いています(図3)。

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図2(左)KeePaceに搭載した村田製作所製の傾斜センサとジャイロセンサ。図3(左)ムラタセイコちゃんのバランス制御を活用したKeePaceの倒立振子制御(村田製作所の発表資料より)

KeePaceのおもな3つのベネフィット

 KeePaceの使用方法は、通常のシルバーカーと同様、左右のハンドルを手で握り、自分が進みたい方向へゆっくりと押し進めるのみです。これを利用するおもなベネフィットには、図4に示した3つがあげられますが、現行のシルバーカーと比較しつつ、これらの特徴を分析します。

photo_konishi30.PNG(1) 転倒防止 (図4上)
 現行のシルバーカー(写真は一例、幸和製作所製)では、ユーザーが躓(つまづ)いて前のめりになって転倒しそうになった際、(ハンドルの)ブレーキ操作をすることで踏ん張ることができます。ただし、あくまで機能上のことであり、不意に転倒しそうになった際、高齢者がきちんと反応してブレーキ操作ができるかは少々疑問です。
  これに対し、KeePaceは常時バランス制御が機能しているため、躓いてKeePaceに体重をあずけるような体勢になっても、転倒しないよう、あたかも杖のような役割を果たしてくれます。しかも、ブレーキ操作も不要です。ゆえに、KeePaceはシルバーカーの転倒リスクに対する改善策として、大きなベネフィットを有しているといえます。

(2) 坂道サポート (図4中央)
 現行のシルバーカーでは、坂道を上り下りする際に、荷物の重量と車体重量がユーザーに大きな負荷となってかかります。例えば下り坂では、下る方向にシルバーカーが進もうとするので、ユーザーは車体が離れないよう、自分の方に引き込むようにして支えながら下る必要があります。同様に上り坂でも、車体が下ろうとするのを支えながら登らなければなりません。

 一方、KeePaceは坂道であっても、その場でバランス制御するため、車体重量がユーザーに負荷としてかかることはありません。
 坂道では、バランス制御時の目標角度を調整しており、例えば上り坂では、重力方向よりも少し下り方向に設定されているとのことです。このような制御がなされていないと、上り坂を登る際に、ユーザーのつま先が車体と接触することで転倒につながる可能性があります。こうした事象な発生しないよう制御システムで工夫がなされています。

(3)コンパクト&小回り (図4下)
 車体の奥行きサイズが大きいと、既存のシルバーカーと同様、狭所で旋回などができません。その点、KeePaceは左右倒立2輪構造ですので、立ち乗り電動2輪車「Segway(セグウェイ)」と同様、その場旋回が可能で、かつ小回りも効きます。
  KeePaceの本体サイズは、4輪タイプのシルバーカーと比較するとコンパクトです。しかしながら今後、KeePaceもシルバーカーと同様、荷物などを積載するよう改良がなされると、それはあまりメリットにならないような気がします。

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図4 KeePaceのおもな3つの特徴(KeePaceのパンフレットより)

実用化では「歩行アシスト」という概念は重要

 前回の「第29回コラム」で、介護福祉ロボットを3つのADLサポート業務に分けて分析しました。では今回、取り上げたKeePaceは、どのADLサポート業務を担うと思われるでしょうか? 結論からいえば、筆者は「手段的ADL支援ロボット」に属すると考えています(図6)。手段的ADLの中で、「買い物に行く」という行為を支援するロボットとしてKeePaceを捉えるのであれば、図5のようなポジションに位置づけられます。

 現状、手段的ADL支援ロボットは、図5に示す通り、「ロボット」と銘打つ製品は少ないですが、お掃除ロボットがすでに市場を形成しているように、基本的ADL支援ロボットを比較して普及しやすいといえます。また、実用化という観点からも、拡大ADL支援ロボットの次は手段的ADL支援ロボットが世の中に普及していくと考えられ、期待されるRT応用製品の1つがKeePaceであると捉えています。

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図5 KeePaceが担うのは手段的ADLサポート業務

介護福祉ロボに求められるキーワードは「介護予防」

  今後、介護福祉ロボットの実用化を進める際、「介護予防」という観点はとても重要になります。周知の通り、わが国は高齢化が急速に進展しており、介護を必要とされる高齢者が増加しています。そのうち、要介護度が軽度の方(要介護状態までにはいかないものの、家事や身のまわりの支度など日常生活に支援を必要とする状態)が増加しており、その予防に寄与するRT応用製品が求められるからです。

 要介護状態になると、手段的ADLが自分自身で行うのが困難となり、さらに、その先には、1人で基本的ADLを実行することも困難となります。より重度な要介護生活に突入することになります。その予防策の1つとしてKeePaceは有効であり、要介護度が軽度な方に提供し、可能な限り手段的ADLを自身で行ってもらうことで引きこもりの回避つながるでしょう。そうすれば、KeePaceそのものが持つ手段的ADLサポート業務としての役割に加え、外出による複合的な効果として地域社会との接点が増え、拡大ADLサポートにつながるRT応用製品としても評価されると捉えています。  (次回「第31回」につづく)


 

●執筆者紹介

小西さん写真.JPG小西 康晴さん(Konishi Yasuharu)
(株)ロボリューション 代表取締役。1977年、大阪府生まれ。2000年、慶應義塾大学 理工学部 システムデザイン工学科(1期生)卒。2002年、慶応義塾大学大学院 理工学研究科 修了。修論テーマは「自律走行自転車ロボットの開発」。同年、村田製作所に入社。産業用ロボットの研究・開発および電子部品PR用ロボット開発に関わる。2005年 ロボットテクノロジーに無限の可能性を感じ退社。同年4月、父が経営する生野金属に入社(現在、企画開発室 取締役室長)。06年6月 サービスロボットの開発・導入コンサルティング事業を行うロボリューションを設立し、代表取締役に就任する。
 大和ハウス工業「住宅床下点検ロボット開発プロジェクト」(平成18年度経済産業省「サービスロボット市場創出支援事業」)や、平成20年度には村田製作所「ムラタセイコちゃん開発プロジェクト」において開発プロデュースを担当するなど、ロボット開発に関わるプロデュース・コンサルティング業務をおもに活動している。
 2006年度から4期継続し、大阪市ロボットラボラトリー、次世代ロボット開発ネットワーク「RooBO」における技術アドバイザーを務めるほか、国際デザインコンペティション2006 テーマ「ROBOT」、同2007 テーマ「ROBOT2」にて技術専門委員も務める。
URL:http://www.robot-revolution.com/




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