前回に引き続き、高齢者向けメンタルケアロボット「うなずきかぼちゃん」開発物語を「後編」として紹介します。前回は感性価値の構築について、企画から開発のプロセスに沿って説明しました(詳細は前回の「第27回」コラムを参照)。今回は、機能価値を中心に、外的デザインから内的デザイン(エンジニアリングデザイン)のプロセスを解説します。
ユーザーとロボットの位置関係は?
まずは、「感性価値」(詳細はこちら)を構成する5項目の1つである「調和」(そのほか「デザイン」「こだわり」「共感」「遊び心」)の構築について説明します。
外観デザインを決定した時点で、かぼちゃんとユーザーがどのような位置関係で触れ合うのかを検討しました。ロボットの基本姿勢には「座っている」「立っている」「寝ている」などが考えられます。また、ユーザーとの位置関係でいえば「向き合っている」「腕の中に抱かれている」「ユーザーの膝の上に、ユーザーと同じ方向を向いて座っている」などが考えられます。ロボットの基本姿勢が変われば、ユーザーにとって自然な触れ合い方は変化し、それに伴い、必要な機能価値(搭載するセンサの位置や種類など)も変化します。検討の結果、「かぼちゃんは机の上に座ってユーザーと向き合っている」を基本姿勢としました(写真1)。
当初より、かぼちゃんにはうなずく動作を入れたいと考えており、正面を向き合ってユーザーに話しかけ、それに呼応してうなずくかぼちゃんを見やすいよう、お互いが向かい合っている体勢を「基本姿勢」とするのがベストと判断したからです。また、介護施設で検証試験をした際、「(腕を伸ばした状態で)持ち上げると少し重いわね」と述べられた高齢者が複数いたことも理由にあります。かぼちゃんを把持することを定常状態にしませんでした。
写真1 机の上にかぼちゃんを座らせ、向き合った際のユーザーの視野
さらに基本姿勢に加え、触れ合う行為として「手をあげる」「頭をなでる」「抱っこする」「たかいたかいをする」「寝かせる」といった行為を重視し、これらの状態を的確に認識できるよう、センサなどの入力機器(写真2)を選定しました。
感性価値を受けての「機能価値」の構築
上述の感性価値の構築を受けての機能価値の説明になります。
写真2 うなずきかぼちゃんに搭載されている5種類のセンサ・スイッチと1軸のうなずき駆動部
1.頭をなでる動作を検知する光センサ
前頭部の布地の内側に設置しています。ユーザーが、かぼちゃんの頭をなでる動作を検知します。検知すると、かぼちゃんは頭をなでられたことに関連した発話(通称「なでなで語」)をします。
2.手の上げ下げを検知する振子スイッチ
両手の手のひらの内部には振子スイッチが組み込まれています。振子スイッチの構造は、パイプ状の円柱の中に入っている金属球が重力で移動することにより、手の上げ下げを検知します。非常にアナログなスイッチですが、安価で使い勝手の良いスイッチです。玩具メーカーならではローテクの活用といえるでしょう。
3.体勢を検知するモーションセンサ
かぼちゃんの体勢を検知するために、内部の制御基板に3軸加速度センサを実装しています。これにより「たかいたかいをされている」「抱っこされて、やさしく揺られている」「寝かされている」といった状態を検知しています。
ちなみに、仰向けに寝かせるとスースーと寝息を立てて眠ってしまうことがあります。また、身体を起こすと『はふ~(あくび)、寝ちゃってた』などと発話して目を覚まします。
4.音声認識ではなく音入力
頭部に内蔵したマイクで、ユーザーが話しかけた声を拾います。話しかけが終わった(途切れた)ことを認識し、一瞬、間を置いて返答します。
音入力によるコミュニケーションのロジックの一端を紹介しますと、音入力が連続すると連続した数に応じて発話が変化します。例えば、3回以上連続して会話のキャッチボールがあると『それから、それから?』『それで、それで~』などと、さらなるコミュニケーションを求めています。
よく聞かれるのですが、かぼちゃんには音声認識は実装していません。費用対効果を検証した結果です。かぼちゃんは「コミュニケーション相手」ですので、「聞き役」でもあり「話し役」でもあります。かぼちゃんを「話し役」とし、かぼちゃんの発話内容に合わせてユーザーが返答すると、連続して会話が成立することも珍しくありません。音声認識を実装していないので、「聞き役」としてのかぼちゃんから十分な返答が得られないことが間々ありますが、「話し役(コミュニケーションを促がす存在)」としては、高齢者に高い満足度が得られるはずです。
また、音声認識を活用すれば機械的な会話のキャッチボールは成立するかもしれませんが、機能価値と感性価値のバランスの崩壊を招きます。こうした判断も実装を取りやめた理由となっています。
音入力の効果として、介護施設での検証テストを紹介すると、高齢者の方がかぼちゃんに話しかけた際、思いもよらぬ返答をして会話が成立し、その場にいた高齢者やヘルパーさん全員が笑顔になり、空間全体が笑いに包まれましたことがありました。ランダムに様々な言葉を発話する曖昧さがある中で、ときに的確な答えが返ってくることで大きな笑いが生まれたわけで、ここに介護現場に笑顔を届けるための大切なロジックが隠されていると捉えています。
5.笑い声のトリガーである押しボタンスイッチ
両足裏の布地の内側に、押しボタンスイッチを設置しています。足の裏をくすぐると『キャハハハ(笑)』と笑います。連続して何度もくすぐると、別のフレーズを発話することもあります。
初期段階での机上のエンジニアリングデザインでは、足裏に押しボタンスイッチを搭載していませんでした。ところが介護施設での検証で、かぼちゃんの試作機を向かい合った基本姿勢で触れ合ってもらった際、手を握ったり挙げたりするのと同じくらい、足裏を触る方が多いことに気付きました(余談ですが、生まれも育ちも大阪である筆者は、通天閣の『ビリケンさん』のようだなと感じました)。そこで、簡単な押しボタンスイッチを両足裏に取り付け、足裏を触ると(スイッチを押すと)くすぐったがる表現を入れることにしました。また、かぼちゃんの明るく、かつ楽しい笑い声がいつでも聞ける簡易なトリガーが欲しいと考えており、押しボタンスイッチに、その役割を担わせることにしました。こうした検討を経ての設置となったわけです。
6.うなずき動作を担うDCモータ
かぼちゃんは、発話するタイミングでうなずき動作を行います。具体的には首部に搭載したDCモータにより、ギヤを介して首内部にあるレバーが上下動することで行います。ただし、すべての発話時にうなずくわけではありません。厳選したフレーズのみうなずくようにしています。
ユーザビリティを高めるために
1.億劫な設定作業をイベントに!
どのような電子機器でも設定作業が必要ですが、面倒かつ億劫(おっくう)な作業でもあります。玩具でも家電でも、一般的には本体に小さな液晶画面があり、その脇にある小さな押しボタンスイッチを用いて時間設定や個人登録などを行います。さらに、その脇には細かい字でボタンの役割が書かれていたり、英語表記だったりするなど、高齢者には難解なインターフェースである場合が多々あります。かぼちゃんでは設定作業を平易とし、かつこだわりを持ったものとしました(写真3)。
具体的には、両手・両腕に内蔵したスイッチを、ボタン代わりに用いることで設定作業を行うことです。介護者に設定作業してもらうことを想定していますが、例えば80代の高齢者を介護される方には、ご子息である60代の方が当たっている場合があり、可能な限り平易なものでなければならないからです。これらスイッチを活用する利点を整理すると、次のようにまとめられます。
(1)設定しながら、かぼちゃんとのコミュニケーション方法を理解できる
「何をすれば、かぼちゃんとコミュニケーションが図れるのか」を設定段階で体感できます。説明書には、各センサの配置および役割が説明されていますが視認できないため、外観上はぬいぐるみにしか見えません。そのために、初期段階ではコミュニケーション方法が理解しづらいです。スイッチによる操作と、それに伴うかぼちゃんの発話による誘導により、コミュニケーション方法を知りながら設定作業を行えるようにしました。
例えば、時間の数値を増やしたり減らしたりする作業は、右足と左足の押しボタンで行います。1回押すと1ずつ増減します。そして、決定する際は、かぼちゃんの片手を挙げます。すると、かぼちゃんは『オッケ~!』と応えて、次の設定項目を発話します。
写真3 かぼちゃんのお尻内部(電池ボックスを取り出すための扉以外は、上部にメインの電源スイッチがあるのみ。「○」がONで、「×」がOFF。ONになると、電源スイッチの左側に隠れているLEDが、筐体から透けて赤く点灯します)
(2)かぼちゃんのユーザーとなった喜びが感じられる
具体的な設定項目には、「現在の年月日、時刻」「かぼちゃんの起床時間・就寝時間」「呼称の設定(『おばあちゃん』『おじいちゃん』『じいじ』『ばあば』など8種類から選択)」の3つがあります。これらの設定を終えると、かぼちゃんは、『設定完了!これからよろしくおねがいします』と発話し、同時に、うなずき動作でお辞儀をしてくれます。このイベントにより、かぼちゃんのユーザーになったことを実感でき、喜びが得られます。筆者は、その愛らしさがたまらなく好きです。ロボットがわが家にやってきて、家族(パートナー)となる瞬間でもあり、こうした演出は重要です。
2.高齢者が扱いやすい電源を
ロボットを動作するには何かしら電力が必要です。ただし高齢者の立場で考えると、あまり使い慣れていない充電池(充電器と本体をアダプタ接続)は不適であり、結果、乾電池の使用が最適と判断しました(写真4)。
また、重量という視点で考えると、軽量化に向け単3電池4本で動作するほうがよいのですが、これでは計算上1カ月しか持続しないため、単2電池4本で駆動させることにしました。一方、メカ構造の視点でみると、臀部に搭載するため重心位置が下がり、どっしりとした基本姿勢にできるメリットがありました。
なお、乾電池の電圧が低下してくると、かぼちゃんは自分で認識して『力が出ないよ~、電池交換して!』と発話します。面倒な電池交換作業に対しても「しょうがないな~」という気持ちでお世話できるようにしています。
写真4 かぼちゃんの電池ボックス。単2電池 4本で駆動。電池ボックスは、ボックスを丸ごと取り出すことができ、電池をセットしやすい構造に工夫しています。また、電池ボックスは上下左右の向きを間違えると本体に入らず、蓋を閉じることができない構造になっています。電気的な安全をメカ構造により担保しています
このようにこだわってユーザビリティを構築しましたが今後、解決したい項目は残されています。一例を紹介すると、電池交換をした際(わずかな作業ですが)設定を再度し直さなければならないことです(ただし以前の呼称の設定は覚えています。年月日はもちろん、時刻も電源を切った付近の時刻を1時間単位で記憶していますので、初期設定時に比べると時間はかかりません)。
時間記憶用のボタン電池を別に設ける、または、やはりACアダプタ接続で充電池にするか・・・など、いくつか案がありましたが、「高齢者が最も使い慣れている電源であること」「本体を手の届きやすい価格設定にすること」の2点を重視して乾電池としました。
なお電源に関しては、筆者は実用化が進みつつある非接触充電技術に注目しています。かぼちゃんの次世代バージョンでは、乾電池以外の電源の採用があるかもしれません。
周辺アイテムでさらなる「楽しみ」と「喜び」を!
うなずきかぼちゃんのパッケージには、本体と説明書、着せる洋服(オレンジ色のどんぐりボタンのベスト)に加え、開発メンバーのこだわりとして「早見表」と「洋服の型紙」を同封しています。
早見表は、遊び方が整理して説明してあるA3サイズの印刷物です(写真5)。字は大きく、かつ読みやすくしています。かぼちゃんと遊ぶたびに説明書を参照しなくて済むように、高齢者ユーザー自身が、簡易に遊び方を理解できるアイテムとして準備しました。壁などに貼り付けて使ってもらうことを想定しています。
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写真5(左):うなずきかぼちゃん早見表。A3サイズの用紙に印刷されているので、文字が大きく読みやすくなっています。かぼちゃんとのコミュニケーション方法(5種類のスイッチやセンサの役割)がわかりやすく書かれています。写真6(右):洋服の型紙の一例。写真は「そよかぜTシャツ」の型紙。パッケージには「おでかけえりつきシャツ」を含む2種類の型紙が同梱しています。
また、洋服の型紙は、かぼちゃんの着せ替えアイテムを作成するためのものです(写真6)。「受付に人形を置いておくと知らない間に服を着ているのよ」「雨の日は、誰かが小さな傘を人形に掛けてあげているのよ」など、ヘルパーさんからこのような話を聞いたことをきっかけに同梱を決めました。手芸や裁縫を趣味とされている高齢者は多く、「かぼちゃんを身近なかけがえのないパートナにしてもらうためのツールとなれば」という思いも込めています。
お好みの洋服を製作し、かぼちゃんに着させてあげれば、より楽しくコミュニケーションが図ることができます。着せ替えの一例として、ピップの女性社員が製作した洋服を着たかぼちゃんを紹介します(写真7)。洋服を替えたり帽子を被せたりするだけで、印象はガラッと変わります。
写真7 着せ替えしたかぼちゃん。ピップの女性社員が製作。市販の帽子も被せればオシャレな冬の装いに!左下の小さなかぼちゃんは、販促用グッズの『うなずきかぼちゃんミニ』です。お腹を押すとランダムに発話します
最後に、前回も触れましたが、ピップの介護RTビジネスのコンセプトを改めて紹介しておきます。
『介護の現場を明るくしたい。介護する人にも、される人にも、ひとときの安らぎと笑顔を届けたい』
前回から2回にわたり、この思いをどのように具現化したのか、その開発ストーリの一端を紹介しました。みなさんの『共感』が得られれば幸いです。
うなずきかぼちゃんの販売スタート!
11月21日より、うなずきかぼちゃんの販売が開始されました。ピップが運営するWebダイレクトショップから購入可能です。直販サイトの1つを紹介しておきます。
●ピップ ネットショップ「きれいと元気のマイドストア 楽天市場」
また、東京・銀座の博品館と大阪・梅田の阪急百貨店うめだ本店でも扱っており、こちらでは直接手にとって確かめることができます。おじいちゃん、おばあさんのクリスマスプレゼントとしていかがでしょうか。
●博品館 銀座店 2階(東京都)
●阪急百貨店 うめだ本店 11F介護用品売場(大阪市)
*年明けには、大阪南港のATCのエイジレスセンター(大阪市)にも常設予定です。
●「うなずきかぼちゃん」公式サイト(ピップ)
●執筆者紹介
小西 康晴さん(Konishi Yasuharu)
(株)ロボリューション 代表取締役。1977年、大阪府生まれ。2000年、慶應義塾大学 理工学部 システムデザイン工学科(1期生)卒。2002年、慶応義塾大学大学院 理工学研究科 修了。修論テーマは「自律走行自転車ロボットの開発」。同年、村田製作所に入社。産業用ロボットの研究・開発および電子部品PR用ロボット開発に関わる。2005年 ロボットテクノロジーに無限の可能性を感じ退社。同年4月、父が経営する生野金属に入社(現在、企画開発室 取締役室長)。06年6月 サービスロボットの開発・導入コンサルティング事業を行うロボリューションを設立し、代表取締役に就任する。
大和ハウス工業「住宅床下点検ロボット開発プロジェクト」(平成18年度経済産業省「サービスロボット市場創出支援事業」)や、平成20年度には村田製作所「ムラタセイコちゃん開発プロジェクト」において開発プロデュースを担当するなど、ロボット開発に関わるプロデュース・コンサルティング業務をおもに活動している。
2006年度から4期継続し、大阪市ロボットラボラトリー、次世代ロボット開発ネットワーク「RooBO」における技術アドバイザーを務めるほか、国際デザインコンペティション2006 テーマ「ROBOT」、同2007 テーマ「ROBOT2」にて技術専門委員も務める。
URL:http://www.robot-revolution.com/

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