fuRo先川原室長のロボヤマ話

2011.11.24
第52回 歯科患者ロボット「シムロイド」、映画「リアル・スティール」

シムロイドの改良版が登場

 11月9~12日、東京ビッグサイトで開催された「2011国際ロボット展」に足を運んだ方も多いことでしょう。私は仕事の打合せや、ステージで開催された「ROBO-ONE」の解説などで、残念ながら肝心のロボットを見て回る時間があまりとれませんでした。そんな私にとって、「ロボナブル」でロボット展関連のニュースが取り上げられているのは、本当にありがたい限りです。
 今回の国際ロボット展で、わずかな時間ですが歯科患者ロボット「シムロイド」(開発:日本歯科大学、ココロ、協力:モリタ製作所、ニッシン、東京センサ、動画1)について、担当者に話が聞けましたので、以下に紹介します。

動画1 シムロイドのデモの様子。使用されている治療機器はすべて本物ですが、会場では水が使用できなかったため、実際に歯は削っていません。

 4年前の「2007国際ロボット展」で発表されたものと比べ、今年展示・デモが行われたシムロイドは大きく3点の改良がなされました。
 1つは音声認識の精度が上がったことで、騒音が多い会場でもかなり正確に聞き取れていたようです(*)。2つ目は制御するコンピュータの使い勝手が向上したことで、キーボード入力からタッチパネル操作方式となりました。専門のオペレーターではなくても、自由に問題なく扱えるようになったのです。そして、3つ目は口の周りの素材を変更したことです。以前使われていたシリコンではあまり伸びないため、実際に歯を削れるほど引っ張ることができませんでした。そこで、素材をシリコンから熱可塑性エラストマーに変更することにより、強く引っ張っても切れることがなくなったそうです。

*:一般的な連続音声認識ではなく、事前に入力したフレーズを選択して音声入力を行うフレーズ方式を採用。単語単位で認識しているため、騒音環境下でも高い認識率の確保につなげている。

 治療する歯は上下全部で4個所、第一大臼歯と呼ばれる奥歯のいちばん虫歯になりやすいところに光センサが埋め込まれています(写真1)。歯を削るタービンにはもともと口の中を照らすためのライトが付いており、歯を削り過ぎて表面が薄くなると光がセンサに届くため、シムロイドに「痛い」と言わせるよう設定されています。

photo1_furo52.JPG

写真1 光センサは奥から2番目の歯(少々変色しています)に埋め込まれています。

 歯は表面がエナメル質、その下が象牙質でできています。本来、治療では、エナメル質部分を削る分には麻酔は使いません。象牙質まで削る場合には麻酔をしているのが前提ですから「痛い」とは反応しません。今回のデモでは麻酔があまり効いていないという状況設定になっていました。麻酔をしているどうかはコンピュータでバージョンを切り替えています。
 なお、歯がきちんと正確に削れたかどうかを判断するために、削った歯を3Dデータで取り込み、削る前の歯と比較・分析する装置があり、その方法もすでに確立されているとのことです。

 シムロイドの真骨頂は、学生が患者と接する態度を記録できることにあります。治療を行う際、患者の顔に寄りすぎたり話し方に特徴があったりするなど、指導医が学生に様々な癖を指摘しても「私はふだんそんな言い方はしませんから」などと否定されることが多いのだそうです。それを客観的に見せることによって、本人たちも納得し改善できるようになります。過去に自分が治療をしている動画と今の動画を同じ画面に配置して比較・検証できるソフトも入っていますから、患者への対応がだんだん良くなっていることを自分で実感できる利点もあります。

 今後は多くの大学に製品として出荷していく予定で、海外も含めて患者への対応についての評価を統一できると予想されます。また、現在は日本語と英語のバージョンがありますが、フランス語やドイツ語等、多くの言語に対応していくことも考えているとのことです。

等身大ROBO-ONE? 映画「リアル・スティール」

photo2_furo52.jpg

写真2 「リアル・スティール」 (c)DreamWorks II Distribution Co. LLC All Rights Reserved. 12月9日(金)全国ロードショー!http://disney-studio.jp/movies/realsteel/

<ストーリー>
西暦2020年、リングの中で死闘を繰り広げるのは、もはや生身の人間ではなく、高性能の格闘技ロボットたちだった。才能あふれるボクサーだったチャーリー・ケントンは、チャンピオンになるために全てを──妻と子供までも──捨てて、ただ夢だけを追い続けてきたが、ロボット格闘技の時代の到来によって生きる場所を失い、今や人生の敗残者も同然。辛うじてロボット格闘技のプロモーターとして生計を立てるものの、彼の乏しい資金力で手に入れられるロボットは、リングの上であっという間にスクラップ状態に…。人生のどん底で、さらにチャーリーに災難が舞い込んでくる。11歳の息子のマックスが、赤ん坊の頃に別れて以来、初めて彼の前に現れたのだ。最愛の母を亡くしたマックスはチャーリーに心を開くはずもなく、父子の関係は最悪の状態。そんなある日、2人はゴミ捨て場でスクラップ同然に捨てられた旧式ロボット“ATOM”を発見する。
それが、彼らの人生に奇跡を巻き起こす “運命の出会い”であることに、チャーリーもマックスもまだ気づいていなかった…。

 いやあ、感動しました。映画の試写会で涙ぐんでしまったのは久しぶりです。「父子の絆を描く感動のエンターテイメント巨編」というだけあります。ロボットに興味があって見ていたはずが、いつの間にかどっぷりと物語の中に入り込んでしまいました。

photo3_furo52.jpg

写真3 汚泥に埋もれていた「ATOM」を復活させます。これが最もたいへんな作業でしょうね。

photo4_furo52.jpg

写真4 ロボット・コントローラのデザインはどこかで見たような気がします。

 製作総指揮のスティーブン・スピルバーグが、この映画の脚本を買ってから映画化されるまで11年もの年月が流れたとあります。11年前といえば、ROBO-ONE代表の西村氏と私は酒の席で「人間型ロボットの格闘競技をやろう。いつの日か、東京ドームで等身大ロボットの格闘競技を見たいよねえ」などと話していたことを思い出します。その翌年に実現した「二足歩行によるロボット格闘技 ROBO-ONE」も、来年3月に10周年記念大会が開催されます。

photo5_furo52.jpg

photo6_furo52.jpg

写真56 操縦者のモーションをATOMが真似る「シャドウ」のシーンです。ロボットの動きは、あの伝説のボクサー、シュガー・レイ・レナードが技術指導したというから驚きです。ミドル級らしい軽快で素早い動きに興奮させられます。

 主人公の少年マックスが拾ったロボット「ATOM」は、スパーリング・ロボット特有の摸倣機能を持っています。映画の中では「シャドウ」と呼ばれていました。ロボットが人間を見て摸倣するというのは無理でしょうが、マスター・スレーブ方式を発展させていけばこんな感じになるのかとワクワクしてしまいます。なお、映画に登場するロボットたちの身長は2.3~2.6mとのことです。ATOMは2014年に製作されたという設定ですが、あと3年でここまでのロボットが出現するかと問われれば、難しいでしょうと答えるほかありません。

 試写会では「リアル・スティール ロボット格闘技の歴史」という資料が配布されました。映画は2020年の時代設定となっており、この資料は1960~2020年までの人間のボクシングとロボット格闘技についての年表でした。この年表に「2011年:東京開催のロボット対戦映像がインターネット上に溢れこのカルトシーンが拡大」との表記がありました。実は、今年2011年10月9日、このカルトシーンになりそうな試合が「第19回ROBO-ONE」決勝リーグで実現したのです。公式戦ではおそらく初めて成功した「投げの大技(おおわざ)」なのです。以下の動画はCGではないことを断っておきます。

動画2 「G・サアガ」が「クロムキッド」を見事に投げ飛ばしています。

動画3 スローモーションで再生したところです。 

 

 ●執筆者紹介

先川原さん.jpg先川原 正浩さん(Sakigawara Masahiro)
千葉工業大学 未来ロボット技術研究センター 室長
1963年、東京都生まれ。1989年より理工書専門出版社にて、主に電気電子系の書籍企画・編集に従事。2000年1月~03年5月、ロボット専門誌の編集長。2003年6月より現職に就く。2足歩行ロボットによる格闘競技大会「ROBO-ONE」の委員会副代表をはじめ、多くのロボットコンテストにて委員・審査員を務める。また、新聞・雑誌・TV番組・イベントなどのロボット関連企画を多数手掛ける。
http://furo.cocolog-nifty.com/ (fuRoブログ)
http://www.furo.org/(fuRo)




好評連載がついに書籍化!


―東大研究者が描く未来―


国内外の事業例を解説


消費者が描く未来生活を紹介