fuRo先川原室長のロボヤマ話

2011.07.04
第50回 クインス貸与式、3D映画「トランスフォーマー/ダークサイド・ムーン」

 福島第一原子力発電所の「冷温停止」に向け、千葉工業大学ではレスキューロボット「Quince(クインス)」の改良を重ねてきました。そして6月24日、ついに2号機原子炉建屋内に投入され、活躍し始めています(ファーストミッションの模様はこちら)。今回のコラムでは、6月8日の記者発表会に前日に開催された「Quince貸与式」の話題を中心にまとめました。

東京電力にクインスを無償貸与

 千葉工大の役員会議室で行われた貸与式は、東京電力から原子力設備管理部の山下和彦部長ほか2名が、国際レスキューシステム研究機構(IRS)と東北大学を代表して田所諭教授・IRS会長が、そして千葉工大からは本岡誠一学長と瀬戸熊修常務理事、未来ロボット技術研究センター(fuRo)の古田貴之所長と小柳栄次副所長が出席しました。また、来賓として経済産業省 製造産業局産業機械課の北島明文技術係長と、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)機械システム部の金山恒二主査、製造科学技術センターの瀬戸屋英雄専務理事の3名が顔を揃えました。
 
 話は遡りますが3月中旬、小柳副所長は、いずれ原発事故調査のためQuinceに出動要請がなされることを確信していました。原発で水素爆発が起こり、現場は瓦礫だらけであるとの報道がなされていたからです。こうした不整地での走破はQuinceが最も得意とするところであり、世界的にもその優秀さは認められています。なお、Quinceの基幹部分はNEDOの「戦略的先端ロボット要素技術開発プロジェクト」(2006~2010年度)で開発されたものであり、貸与式に経済産業省やNEDOから出席者があったのは、こうした理由によるものと思われます。

 今回の原発災害対策に向けQuinceには大幅な改良がなされています。5月20日に東京電力から汚染水のサンプル採取や水位計の設置を要請され、アームやケーブル類、巻き取り装置などを取り付ける必要性が生じました。もともと26.4kgしかなかったQuinceの機体は、倍の50kgにもなってしまいました。また、重量が増えたうえに重心が高くなるため、急な階段を安定して走行するために足回りも大幅に改良しています(動画、詳細はこちら)。

動画 貸与式の前日(6月6日)に実施した水位計設置ミッションの訓練の様子

 NHKのニュース番組では、湿度100%の建屋内で働くQuinceのレンズ曇り対策について、千葉工大の学生寮にある風呂場を使っての実験シーンが放送され、fuRoには多くの対策意見が寄せられました。「松ヤニをフィルターに塗る」「ジャガイモをスライスして塗る」「セロハンが有効「海草を原料とする曇り防止剤」・・・などなどです。光触媒塗料の曇り防止剤の使用も勧められましたが、原発建屋内は光がないため使えません。一般の方々の意見を含め、ニュース番組でこれだけ反響があったのは初めてです。

 いろいろ試したところ、原発建屋投入後にレンズを濡らしたりぬぐったりすることができれば有効な曇り防止剤もあったのですが、投入前に塗っただけではレンズが曇るのを防ぐことはできないようです。結局、カメラを真空状態にしてレンズ内側(カメラ内部)の湿気をなくしてからカメラを密閉することと、原発建屋内に入る直前までレンズ表面を60℃ほどに暖めておくことによりクリアな映像を撮影できるようになりました。レンズを暖めるためにラジコンカーのタイヤウォーマーを改造したことはTV番組でも紹介されていました。

photo1-furo50.JPG写真1 カメラ内部の湿気を除去した後、密封しています。カメラ下部のタッパーには体温計サイズの放射線量計が入っています。線量計の目盛正面に設置された小型カメラで数値を読み取っています。ここではタッパーを密封するという単純な方法で曇りを防止しています

 ところで、Quinceが原発に投入されるまでに、なぜこんなに時間がかかったのでしょうか。1つには、東京電力がQuinceは何ができるのかを把握し、どのようなミッションを依頼すればよいかを決定するまでに時間がかかったということがあげられます。もう1つは、Quinceの操縦者は東京電力(または関連会社)の社員に限られており、初めてロボットを操縦する方に対し、わかりやすい操作インターフェイスを準備する時間も必要だったことです。
 バッテリーの交換方法や通信が途切れた場合の対処方法など、誰が読んでも理解できるようなマニュアルづくりにも工夫を凝らし、最終的にはロボット知識のない千葉工大の事務職員数名にロボットを操縦・メンテナンス体験をしてもらい、意見を反映させています。このように、マニュアルの完成度を上げるためにも相当の時間を費やしています。

 震災後、Quinceの研究開発・調査費などの資金について、小柳副所長は学校法人・千葉工業大学と早い段階から相談し、必要な経費負担を理事会で認めてもらっていました。国難ともいうべき大震災、原発事故に対し、工学系の学校法人としては「技術で社会に貢献するべきである」との理由から、開発費用を負担したというわけです。緊急対応が必要な今回のような場合、いかに早急に資金を調達できるかも大事だと痛感しました。

 再び、話題を貸与式に戻しましょう。IRSと千葉工大から東京電力に目録の贈呈が行われました。すでに三者間で「Quinceロボット使用貸借契約書」(無償貸与)の内容については合意が得られています。貸借資機材はQuince ロボット、操作卓、無線機(内/外用)、ノートPC(付属品含む)、ケーブル類(ケーブルリール含む)、バッテリー/充電器類、工具類/付属機器、これら一式です。貸与期間は1年間で、期間の延長については協議することとなっています。また、貸与式の最後に、東京電力の代表取締役社長名により、千葉工大、IRS、東北大に対して感謝状が読み上げられました。

photo2-furo50.JPG写真2 貸与式後、Quinceの解説をする小柳栄次副所長 

 マスコミからは「原発建屋内の詳細な状況(情報)について記者発表するのでしょうか?」とよく質問されます。これについては、テロ対策等の理由により公の場で詳細な発表がされることはないでしょう。ただし、新規に投入する原発対応ロボットに寄与できるデータは共有するということで、我々は東京電力と合意しています。
 
 小柳副所長のほか、同じくfuRoの吉田上席研究員、未来ロボティクス学科大学院生の西村君らQuinceの主要開発メンバーは、3月11日の大震災以来、土日を含め1日の休みもとらずに研究開発に取り組んでいます。その努力には頭が下がる思いです。西村君は「苦労して改良したQuince。できるものなら原発建屋内での操縦は自分がしたい。学生の身分では建屋近辺に行けないというなら退学してでも行きたいですよ!」と熱く語っていました。学生に限らず一般人は建屋に近づくことはできません。それにしても、最近の男子学生は一般に草食系が増えたと言われていますが、こうした気骨のある学生もいるというのは頼もしい限りです。

今度のトランスフォーム(変形)は未体験3D

 2007年夏、「トランスフォーマー」、2009年「トランスフォーマー/リベンジ」、そして今年、7月29日、「トランスフォーマー/ダークサイド・ムーン」が日本で劇場公開されます。私はひと足先に試写会に参加してきました。

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写真3 宇宙からの侵略者は圧倒的な破壊力を持ち、街は壊滅的な状態に (c) 2011 PARAMOUNT PICTURES. All Rights Reserved. HASBRO, TRANSFORMERS and all related characters are trademarks of Hasbro. c2011 Hasbro. All Rights Reserved

 マイケル・ベイ監督が「過去最高の3Dを私が保証します」と謳っていますが、私も同感です。「アバター」の3D映像も衝撃的だと感じていたのですが、それと比較しても没入感や迫力は桁違いです。特に広大な月面シーンでは、その場に立っているような錯覚を覚え、感動しました。

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写真4(左) 主演はシャイア・ラブーフで変わりませんが、ヒロインはロージー・ハンティントン=ホワイトリーが演じています
写真5(右) マイケル・ベイ監督の傍らにあるのが3Dカメラでしょうか。当初、マイケル・ベイは3Dで撮るつもりはなく、ジェームズ・キャメロンに強力にプッシュされ、3Dを1年ほど勉強して採用したのだそうです
Photo Credit: Jaimie Trueblood.

 全体の65%を3Dカメラで撮影し、複雑なシーンは35ミリで撮り、後で3Dに変換したとのことですが、その差異はまったく感じられませんでした。空中での撮影シーンでは、スカイダイバーのヘルメットに3Dカメラを取り付け、シカゴのビル群の間を240km/hで飛ばしたそうで、その迫力に圧倒されました。

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写真6 「渾身」という単語がピッタリの空中シーンです。身体に思わず力が入ってしまいます

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写真7 サムの親友「バンブルビー」も健在です。コミカルなシーンを期待したのですが、今回は全体にわたりシリアスな展開となっています

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写真8 世界各地でロケが行われ、特にアメリカではシカゴやデトロイトでの市街戦、ワシントンでのカーチェイス、ケープ・カナベラルのスペースシャトル基地にもカメラが入りました

 ところで、日本国内の3D映画では「XpanD」という上映システムを導入しているところが多いようです。この方式ではシャッター駆動装置や電池が必要なため、3Dメガネがどうしても重くなるという欠点があります。また、映画を見ている途中でバッテリー切れを起こしたら最悪です。今回の試写では「ドルビー3Dデジタルシネマ」方式の3Dメガネでした。これは分光方式を使うため電池は不要、軽くて2時間半の間、快適に見ることができました。個人的には、今後はこちらの3D方式に移行して欲しいと感じました。

 以前、画像処理の専門家であるfuRoの友納正裕副所長に「映画『アバター』を3D劇場で見たのですが、ディズニーランドの『キャプテンEO』のほうが、極端に眼前まで飛び出し立体感があるように思いませんか?」と尋ねたことがあります。「それは人工的に味付けした食べ物と同じで不自然なのでは? 映像への没入感を自然に感じられるような技術とは違うと思う。映画では、数分ではなく長時間疲れずに、しかも自然に見えるような技術が求められているのではないか」といわれた記憶があります。「トランスフォーマー/ダークサイド・ムーン」では、特に「奥行き感」のリアルさが驚異的で、まさに初めての映像表現だと感じました。

 今まで市販の3Dプロジェクターに関心はなかったのですが、この映画のBlu-ray Discを自宅で3D鑑賞したいがために、新たにプロジェクターを衝動買いしそうな自分が恐いです。

 

 ●執筆者紹介

先川原さん.jpg先川原 正浩さん(Sakigawara Masahiro)
千葉工業大学 未来ロボット技術研究センター 室長
1963年、東京都生まれ。1989年より理工書専門出版社にて、主に電気電子系の書籍企画・編集に従事。2000年1月~03年5月、ロボット専門誌の編集長。2003年6月より現職に就く。2足歩行ロボットによる格闘競技大会「ROBO-ONE」の委員会副代表をはじめ、多くのロボットコンテストにて委員・審査員を務める。また、新聞・雑誌・TV番組・イベントなどのロボット関連企画を多数手掛ける。
http://furo.cocolog-nifty.com/ (fuRoブログ)
http://www.furo.org/(fuRo)




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