筆者はコンサルテーションを通じて、クライアント企業から次のような質問をよく投げかけられます。
【1】サービスロボットは、どのように社会に普及していくと思いますか?
【2】サービスロボットの市場創出について、グランドデザインとして、どのようなイメージを持っていますか?
【3】1つの推測として、コンピュータが普及した流れを、サービスロボットも踏襲するのではという考え方がありますが、どう思いますか?
サービスロボット市場では、お掃除ロボットや教育教材ロボットを除いて、普及につながったベストプラクティスがほとんどないので、このような質問されるのでしょう。【1】と【2】の質問は少々抽象的なうえに超難問ですので、そう簡単には答えられませんが、【3】については、コンピュータが普及した流れを踏まえると、「『集中化』→『分散化』→『ネットワーク化』という流れでサービスロボットも普及すると思いますか?」と言い換えられるでしょう。この質問のように、サービスロボットとコンピュータを比較しての検討は以前よりよくなされていることから、今回は、この切り口でサービスロボット普及のシナリオを検討してみます。以下では、断りがない限りはサービスロボットを単にロボットと表現します。
ロボットの『集中化』はオススメできない
まず、『集中化』→『分散化』→『ネットワーク化』という各ステップについて簡単に説明します。
図1にコンピュータの発展のフローを示します。まず初期段階では、メインフレームという巨大なコンピュータが『集中化』した形態で、オフィスユースをメインに存在していました。そこから、急速なマイクロプロセッサの性能向上とユーザーの需要拡大を背景に、個人ユースに『分散化』したパーソナルコンピュータ(PC)が登場。そして、インターネットの普及により世界中のPCがつながり、『ネットワーク化』されることで活用範囲が拡大しました。それに伴い、新たなサービスが次々と誕生し、PCはビジネスユースだけではなく一般生活にも爆発的に普及しました。
図1 コンピュータが社会へ普及したフロー
これを1つのストーリーとした場合、ロボットも同様のステップで普及していくのでしょうか? 筆者は、基本的には同調するのですが、『集中化』のステップについては疑問を抱いています。ロボットによる事業化では、多くの場合、『分散化』の状態でスタートするのがベターと考えているからです。
その理由を説明する前に、コンピュータにおける『分散化』とロボットにおけるそれは異質ですので、あらかじめ整理しておきます。
コンピュータにおける『分散化』は、メインフレームがダウンサイジングすることによる「処理の分散化」を指します。一方、サービスロボットの場合の分散化は、ロボットの3要素である「入力(センサ)」「制御(コントローラ)」「出力(アクチュエータ)」が機能ユニットとして『分散化』する、つまり「機能の分散化」という意味です。筆者がいうロボットはこれを念頭に説明します。
機能が『集中化』したスタンドアローンなロボットには、顧客との接点のないバックステージで活躍している、自動機のようなシステムはありますが、フロントステージで生活者と共存し、かつ社会に新たな価値を提供することで普及したロボットはいまだに登場していません(ただし厳密には、ロボットの多くはネットワークの利用を前提としているため、情報処理という意味では『分散化』しているといえるでしょう)。その理由は、機能を『集中化』させればさせるほど、一般消費者が思い描くようなロボットらしさは増大する反面、費用対効果が見合わなくからです。それ以前に、サービスを提供するうえで『集中化』する必然性がないロボットが多く見受けられ、ここにも普及しない理由があると思われます。
過去のロボット開発プロジェクトを振り返ると、ロボットの身体性という特徴を生かそうとするがあまり、一体型ハードウエアにまとめ上げる『集中化』にこだわり過ぎている気がします。また、介護福祉ロボットの開発でいえることですが、『集中化』したロボットが実証実験の段階で現場での運用が困難と判断されたら、そのまま開発が停滞していることにも問題があると感じています。理想的な開発プロジェクトとは言い難いですが、機能を『分散化』してみて、費用対効果を再検討してもよいはずです。
『分散化』を前提に検討するのがベター
これだけの説明でも『分散化』からスタートした方がベターであることを理解してもらえたと思いますが、筆者がロボット開発プロジェクトをプロデュースする際は、ロボットの3要素が『分散化』していることを前提にシステムをデザインしています。具体的には、ロボットを構成する「入力」「制御」「出力」それぞれの単機能ユニットを、使用空間内でどのように設置すべきかを検討し、かつ設置数の最適化を図っています。
もちろん、このようなアプローチで検討しながらもユーザビリティを考慮した結果、機能を『集中化』して一体型ハードウエアにまとめ上げた方がよいと判断されれば、そのようにデザインしています。『分散化』機能を後になって『集中化』するのは、さほど難しい作業ではありませんですし。
このアプローチでは「入力」と「出力」は別空間に存在することもあり、完成したシステムは、一般消費者が思い描くロボットからは、ほど遠いものになっているかもしれません。見た目や印象はどうであれ、『分散ユニット化された機能の集合体がロボットである』という概念が今後、ますます重要になると考えています。
また、ユーザーの視点に立つと、必要なときに必要な機能だけを容易に、かつ安価で使えれば理想です。『分散化』は、それぞれの単機能化を推し進める行為であり、ユーザーにとっては機能が『集中化』したロボットよりも理解しやすくなります。
前回、災害対策用ロボットにおける開発アプローチを図2で紹介しました。この図は、「BtoBビジネスにおけるロボットの『分散化』」の一例としてわかりやすいので、改めて掲載しておきます。なお、「BtoCビジネスにおける『分散化』」については現在、進めているプロジェクトがあるので、近いうちに本コラムで取り上げる予定です。
図2 駆動系と機能ユニットを分離し、それぞれ専門的にユニットを開発するイメージしたもので、ロボット『分散化』の一例として再度掲載
『ネットワーク化』で見込まれるロボットの価値
米Apple社の「iPhone(アイフォーン)」に代表されるスマートフォンは、購入時は基本機能を搭載しているのみで、ユーザーが使い続けていくことで、自分に必要なアプリケーションをダウンロードし、自分仕様にカスタマイズしていきます。これは「完成していない共通のハード/インターフェースに、自分に必要なアプリケーション(ソフトウエア)を追加購入し、モバイル機器をつくり上げていく」というスマートフォンならではのビジネスモデルといえるでしょう。サービスサイエンスでいえば、ユーザーとともに新しい価値を創造する「共創」であり、さらには、先進的なユーザーが自身の趣味やこだわりなどの希求からもたらされる価値が創出される「自律」といえるでしょう(北陸先端科学技術大学院大学の亀岡モデル)。
このモデルに習うと、ロボットも機能を『分散化』し、それらをユニット化することで「完成していない共通な基本RTユニット(基本「入力「制御」「出力」ユニット)に、自分が必要なハードウエア(機能ユニットと感性ユニットのこと。機能価値と感性価値の詳細はこちらを参照)を追加し、自分仕様のロボットへと組み上げ、自分だけのかけがえのない存在へと昇華させていく」というストーリーが描けます。
その際、必要なソフトウエアのダウンロードやロボットが収集したライフログなどの情報管理は、スマートフォン経由で処理するという選択肢があります。つまり、スマートフォンを「入力」ユニットや「制御」ユニットとして分散化したロボットの中に組み込み、活用するというイメージです。そうすれば、ロボットとスマートフォンとの役割分担が明確になりますし、ロボットとスマートフォンとの共存が実現できます。
また、ロボットはスマートフォントと違い、ユーザーがソフトウエアを追加する行為により安全性を担保できないという声を上げられる方もいますが、リスクが懸念されるようなロボットの場合は、スマートフォンにダウンロードするようにしておけば、「出力」ユニット(アクチュエータ)への影響を抑えられるはずです。この過程が『ネットワーク化』の初期段階といえるでしょう。
上記の内容をまとめると、ハードウエアの追加・カスタマイズを担うロボットと、ソフトウエアの追加・カスタマイズを担うスマートフォンとに機能分離することで、それぞれの役割が明確になり、自然なカタチでロボットのネットワーク化が実現するはずです。さらに、ロボットの『分散化』→『ネットワーク化』は、構成する要素技術の進化と、提供されるサービスのさらなる広がりにより実現され、より個別ニーズに応えられるロボットが提供できるようになると私は考えています。勝手な想像かもしませんが、米Google社が提供するスマートフォン向けOS「Android(アンドロイド)」および、それに呼応するかのように米Willow Garage社が提唱する「Cloud Robotics(クラウド・ロボティクス)」は、その先鞭になるのかもしれません。
『分散化』は、社会トレンドにもマッチ
最後に、別の視点として環境への配慮について考えてみます。
現在の携帯電話や家電は新機能が追加されると、本体を丸ごと買い換えないといけません。大量生産・大量消費の時代は終焉を迎え、環境配慮への意識が格段に高まる中、従来の消費形態をロボットは踏襲すべきではありません。「必要な機能を必要なだけ追加する。買い足していく」という、上述の『分散化』のコンセプトは、社会トレンドにもマッチするのではないでしょうか。
また、最近のニュースでパナソニックが8社の賛同を得て、神奈川県藤沢市にスマートタウンを構想するという記事がありました。環境配慮型の街づくりに向けて「省エネ」だけでなく、建物で使うエネルギーを家でつくる「創エネ」や、つくったエネルギーを貯める「蓄エネ」にも取り組むとのことです。さらにはEVが「走る蓄電池」となり、新たなライフスタイルが提唱されようとしています。
このニュースを聞いて思ったことは、エネルギー分野も『集中化』→『分散化』→『ネットワーク化』という流れを歩むということです。一局集中型の大型発電所を建設するのではなく、戸建ごとに『分散化』した発電システムを構築し、それらを『ネットワーク化』することで、地域の電力を管理・コントロールできるようになります。『集中化』→『分散化』→『ネットワーク化』という流れは、現代のテクノロジービジネスにおける趨勢なのかもしれません。
このように、エネルギー政策が大きな方向転換を迎え、都市構造自体が変わろうとしています。このような変革期に、サービスロボットも存在意義を早期に示さなければなりません。筆者も、その一翼を担えるよう現在、進めているプロジェクトに邁進していくつもりです。
●執筆者紹介
小西 康晴さん(Konishi Yasuharu)
(株)ロボリューション 代表取締役。1977年、大阪府生まれ。2000年、慶應義塾大学 理工学部 システムデザイン工学科(1期生)卒。2002年、慶応義塾大学大学院 理工学研究科 修了。修論テーマは「自律走行自転車ロボットの開発」。同年、村田製作所に入社。産業用ロボットの研究・開発および電子部品PR用ロボット開発に関わる。2005年 ロボットテクノロジーに無限の可能性を感じ退社。同年4月、父が経営する生野金属に入社(現在、企画開発室 取締役室長)。06年6月 サービスロボットの開発・導入コンサルティング事業を行うロボリューションを設立し、代表取締役に就任する。
大和ハウス工業「住宅床下点検ロボット開発プロジェクト」(平成18年度経済産業省「サービスロボット市場創出支援事業」)や、平成20年度には村田製作所「ムラタセイコちゃん開発プロジェクト」において開発プロデュースを担当するなど、ロボット開発に関わるプロデュース・コンサルティング業務をおもに活動している。
2006年度から4期継続し、大阪市ロボットラボラトリー、次世代ロボット開発ネットワーク「RooBO」における技術アドバイザーを務めるほか、国際デザインコンペティション2006 テーマ「ROBOT」、同2007 テーマ「ROBOT2」にて技術専門委員も務める。
URL:http://www.robot-revolution.com/

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