自律移動ロボ一筋20年!伴旬作の温故知新

2011.04.11
最終回 実証実験を意義ある取り組みとするために

 東日本大震災にて被災された方々に心よりお見舞い申し上げますとともに、1日も早い復興がなされることをお祈り申し上げます。

 さて、本コラムの最終回を迎えました。筆者は人とロボットが共生する世界を夢見て、自律移動ロボットの研究を開始し、過去に紹介した気水さん(無菌室消毒ロボットの発案者)や清竹さん(バイオクリーンルームの研究者、第3回を参照)をはじめ多くの方々に助けられ、約20年にもわたり研究を続けられました。

 最終回では、筆者のロボット開発において、これを抜きには語れない、2006年以降にロボットラボラトリー(ロボラボ)の支援で取り組んだ実証実験を紹介します。実証実験は、上市に向けた機能およびビジネスモデルを検証するうえで必須の取り組みであり、筆者が開発した多目的清掃ロボットも、これを通じて上市に漕ぎ着けることができました。商品化に向けた活動を本格化されるみなさんの参考になれば幸いです。

大阪で心機一転、UCW大阪での実証実験

 2005年開催の「愛・地球博」の後、駅での実用化検討や介護施設などでの実証実験に取り組みました。前回紹介したように、介護福祉施設では人とロボットの協調作業の有効性や周囲に与える癒し効果などが見出され、意義深い取り組みとなりました。その一方で、作業領域の入力をはじめとする初期設定の効率化や、距離センサやジャイロセンサのさらなる高精度化など、実用化に向け解決すべき課題も山積しました。開発者にとっては厳しい結果でもありました。
 また、愛・地球博から1年が経過し、広報機会の少ない筆者のロボットは世間から忘れ去られてしまいました。実用化に向けて地道で孤独な戦いがまだまだ続くのかと思うと気が遠くなり、「この先どこまで頑張れるだろうか?」と弱気になることが多々ありました。

  これに対し、大阪では2004年に次世代ロボットビジネスの創出拠点「ロボットラボラトリー」が設立されたうえ、ひと足早く結成された次世代ロボット開発ネットワーク「RooBO(ローボ)」の会員企業がすでに200社(当時)を超えていました。2005年のロボカップ世界大会の開催後、大阪は次世代ロボットの実現に向けて燃え上がっていました。

 それまで関東を中心に市場調査や実証実験を行っていた筆者ですが、閉塞状況を打開すべくRooBOに入会しようと当時の事務局長さんに面会しました。事務局長さんは筆者のロボットの映像を見て高く評価してくださり、全面的にバックアップしてもらえることになりました。
 驚かされたのは、その後の展開の速さです。すぐにパートナー企業の紹介や共同プロジェクトの立ち上げ、補助金申請書の作成へと進展しました。そして、会員の企画・調査をサポートするRooBOブレインズの方々の支援を受け、物流倉庫業界に向け多目的ロボットの開発・事業化〔物流倉庫の清掃・警備機能に加え、商品収集作業(ピッキング)を手助けする案内誘導型ピッキングカート機能の追加などを想定したシステム〕を目的としたプロジェクトの補助金申請をしました。この間、わずか2週間というスピードです。

 審査結果は次点だったため採択とはなりませんでしたが、大阪のパッションと行動力、思考の柔軟さには驚かされるとともに元気づけられました。また、筆者と同様に人とロボットの共生を志すRooBO会員の方々との交流は大きな励みになりました。

 その後も機械警備を主とされるパートナー企業との関係性を維持しつつ、今度は、ロボラボが主催するユニバーサルシティーウォーク(UCW)大阪での実証実験に参加しました。補助金と実証実験への申請が、審査員全員一致で採択されての参加でした。持ち込んだのは継続的に開発している多目的清掃ロボットで、以前から構想していたレーザレンジファインダー(LRF)による障害物の種別識別(人検出)および移動方向認識機能を開発、検証しました。

 これらの機能を、想定していた期間の約1/3で開発する必要に迫られ、自宅に開発ツールを持ち込み、正月休み返上でプログラムの作成に没頭しました。これまでの人生の中でもっともタイトな仕事となりました。そのために、ある日突然、物が二重に見えるようになり、文章を読んだり階段を降りたりするのに大変苦労しました。医師の見立てによると、スケジュールに追い立てられると起きる症状のようで、開発終了後は正常に戻りました。今となっては良い思い出です。
  実証実験では多数の新聞社やテレビ局に取材してもらうことができ、また、その後のビジネスマッチング会を通じて多くの企業と関わりを持てたお陰で、多目的清掃ロボットの認知度は飛躍的に高まりました。

 その後、実施された2度目の実証実験では上述の機能に加え、インターネット経由での遠隔制御・遠隔コミュニケーションを検証し、多目的清掃ロボットの自律制御と遠隔制御とを融合した制御技術の有効性が確認できました。将来の遠隔ロボットサービスの可能性を切り拓くものであり、10年ほど前に参加したアールキューブ(Real-Time Remote Robotics:R3)構想の実現をイメージさせてくれました。ロボラボスタッフの方のお陰で、筆者にとって大変意義深い実証実験となりました。

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ユニバーサルシティウォーク大阪での実証実験のイメージ。インターネット経由での遠隔制御・遠隔コミュニケーションを検証しました。プロジェクターに映し出されているのは俯瞰カメラの映像(右)とロボットの搭載カメラの映像(左)です。多目的清掃ロボットに実装した制御技術の有効性を確認することができ、たいへん意義深い取り組みとなりました。

実証実験の場をどのように生かすか

 みなさんも意識されていると思いますが、実証実験には技術的な検証に加え、広報発表一般公開という意味合いもあります。UCW大阪での取り組みでは、認知度の向上で効果は覿(てき)面でした。

 一方、第一の目的である技術検証でも、一般公開に先立って実施した実験を通じて、様々なことが確認できました。LRFによる障害物の種別識別機能はその1つで、機能の限界を把握することができました。また、パートナー企業(機械警備会社)の開発スタッフに遠隔制御・遠隔コミュニケーションシステムを評価してもらい、遠隔制御の操作性や応答性、遠隔通信での動画像の分解能などについて、遠隔警備向け監視カメラとして使えることも確認できました。
  ほかにも、その後の開発につながる様々な知見が得られましたが、事前の現地調査を通じて検証可能な項目を抽出し、パートナー企業とともに実施計画を立てたことによるものです。また、実証実験の機会を最大限に生かすポイントになったともいえ、重要な活動だったと思い返されます。

  冒頭で触れました通り、以前の介護施設での実証実験では初期設定の効率化が課題にあがりましたが、今回のLRFの搭載は、これに寄与することになりました。
 その概要を紹介しますと、多目的清掃ロボットに限らず、自律移動ロボットを運用する際は、事前に作業領域の形状や作業工程を教示しなければなりません。特に業務用清掃ロボットとなると、通路からホールへ、さらにはまた別の通路へ・・・と複雑な作業領域でも自律的に移動し、清掃できなければなりません。実証実験で開発したLRFによる地図生成機能をさらに高度化し、その地図情報をもとにパソコン上で作業領域や移動命令などを入力できるソフトウエアを用意することで、初期設定が大幅に効率化しました。
 また、その後は奈良先端科学技術大学院大学と共同で、LRFを2台搭載しての3次元計測および3次元環境地図生成機能の開発に至りました。初期設定に必要な環境地図の作成がより一層簡易になるはずです。今後、いずれかの段階で実装されるのではと想像しています。

人を救う利他のロボットを目指して

 これまで6回にわたり、開発者としての人生を振り返りつつ、多目的清掃ロボットの実現に向けた苦闘を紹介してきました。私見かも知れませんが、わが国では鉄腕アトムに始まり、極限作業ロボットヒューマンフレンドリーネットワークロボットなど、常に人を救うロボット、すなわち利他のロボットを目指した研究開発がなされてきたように思います。

 いまも余震が続く東日本大震災においては、消防隊員や医療・介護スタッフをはじめとする多くの人たちの献身的な努力により、救助や復旧への取り組みが続けられていますが、ここでロボットを活用できればどれほど良かったことでしょう。残念ながら、今回の震災には開発や運用体制が間に合いませんでしたが、今後に備え、たとえ数十年を要しても利他のロボットを実現しなければならないと考えます。

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将来の利他のロボットのイメージの1つ。今回の東日本大震災では、技術面に加え、制度面での問題から原発という危険地所のモニタリングや修復活動に投入できない状況が続いていますが、近い将来には間違いなく、このような国民の暮らしに根付く利他のロボットが活躍すると想像されます。現在、政府と東京電力の統合連絡本部内の「リモートコントロールプロジェクトチーム」で、福島第一原発に投入できる無人化システムが検討されているそうです。レスキューロボットも含まれるそうで、今後に向けて導入実績が創出されることを期待します。

 利他のロボット――。
 これは筆者が目指してきた人と共生するロボットのあるべき姿です。人との共生というと「友達ロボット」をイメージされる方が多いでしょうし、筆者も最初は、そんなイメージを抱いていました。しかし、長年にわたる研究開発を経て、利他であるからこそ人と共生でき、私たちの暮らしの中に根付き様々な分野で活躍し、人に愛されるロボットになると確信しています。友達ロボットばかりではありません。そして、これこそが次世代ロボットだと捉えています。

 次世代ロボットの研究開発は、要求される技術レベルが非常に高く、企業の開発者には乗り越えなければならない試練が「これでもかっ!」「これでもかっ!」と、やってきます。とてつもなくタイトな仕事になります。
 しかし、今回の原発事故に伴う危険地所での作業はもとより、超高齢化社会に起因する諸問題をクリアし、人類に幸福をもたらすためには次世代ロボットは必須です。このためには、大学など研究機関における基礎研究と、企業による実用化および事業化の両方が必要であり、そして、これらを結び付ける国プロや地域における産学連携は大きな力になるはずです。

 筆者が開発してきた多目的清掃ロボットは2009年の冬に実用化に至り、いまは本格的な事業化に向け邁進中です。事業化は筆者の得意とするところではないようですので昨年、20年近くにわたる自律移動ロボットの研究開発を若い世代に引き継ぎ、いまは新たなモノづくりに挑戦中です。リーマンショックの影響もあり、ここ数年のロボット開発は一時の活気を欠いていますが、読者のみなさんの努力により、再び盛り上がることを願っています。

 多くの方々の支援により、「次世代ロボット実用化の一助となりたい」との夢が実現できました。いまは達成感とともに感謝の思いでいっぱいです。願わくば私の経験を次代のロボット技術者に伝えたいと考えていたところ、本コラムの執筆という場をいただきました。こうした機会が得られたことに心から感謝し、コラムの結びとさせていただきます。
 読者のみなさま、約1年間にわたりありがとうございました。

 

●執筆者紹介

syunsakuイメージ伴 旬作さん(Ban Syunsaku)
 大手光学機器メーカーの計測機器開発部にて分光計測機器などの開発に従事した後、1991年より次世代ロボットの応用分野の探索、物体認識用ロボットビジョンの研究など、RT分野の研究開発を開始。以後、20年近くにわたり自律移動技術の応用として無菌病室床消毒ロボットや業務用清掃ロボットの実用化・製品化に取り組む。現在は、環境計測分野へのRTの応用に取り組むことを検討している。




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